安倍の右手

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59銀杏猫
程なく、頼んだ料理が運ばれてきて、私たちはちょっと遅めの晩御飯をいただく。
「ん、おいしい・・・」
明日香は落ち着いてそういったけど、心からほめているっていうのがわかる。
昔からそうだったよね・・・。
「そうでしょ?ここのはね〜なんでもおいしいんだ」
今日はいつもより、さらにおいしく感じるなぁ・・・。
「んー、そういえばさ」
「ん?」
鍋をつつきながら明日香が返事する。
「さっき楽屋で、明日香が『私に会いに来た』っていったとき・・・」
「うん」
「みんながぶーたれたじゃない?」
「うん。おもいっきりむくれてた」
「そのとき明日香『じゃあ、みんなで遊びにいこう』とか言わなかったよね?」
「・・・・・」
「どうして・・・かな?」
明日香は私の目を見て少し黙ったけど、やがて、「にっ」とわらうと
「なっちとふたりっきりになりたかったから」
さらりといった。
60銀杏猫:02/02/01 23:49 ID:VbVXt/1r
「え・・・?」
かぁ!
顔が赤くなったのが自分でもわかった。
「・・・とかいったりして」
してやったり、っていう顔。
は、はらたつぅ〜。
冗談に引っかかった自分にも腹立つぅ・・・。

「約束したからね」
顔は笑ってたけど、まじめな口調だった。
「え?」
「メールで約束したじゃない、二人で遊ぼうって・・・」
あ・・・
律儀だなぁ。メールの文面は「お誘い」にはなってても、「約束」って形にはなってなかったよ。
でも、明日香はちゃんと守ってくれたんだ。
なんだかうれしい・・・。
61銀杏猫:02/02/01 23:50 ID:VbVXt/1r
「明日香とね」
「うん?」
「二人だけでいろいろ話ししたかったの」
「うん」
「というわけで、今までどうしてたの?」
「唐突だなぁ・・・。ま、いいや、んーと」

そうして、いろんな話をした。明日香の近況、私の近況、「娘。」のこと。
週刊誌のこと(これについては触れてほしくなかったけど)
新聞のこと(これは明日香が触れてほしくなかったらしい)
いろいろ、いろいろ・・・。
でも、あえて聞かないようにしたことがある。
それは、明日香はこれからどうするつもりなのか、ということ。
戻ってくるのか、それとも違う道を歩むのか・・・。
知りたかったけど、聞いたりしちゃいけないと思った。
もちろん、私の願いは決まっているのだけど。
62銀杏猫:02/02/01 23:55 ID:VbVXt/1r
話はいろいろともりあがり、腕時計を見ると1時間30分ほど経過していた。
「もうこんな時間たっちゃった・・・、明日香出ようか?」
「ん、そだね。あ、私ちょっとトイレ・・・」

明日香がトイレに行ってしまった間に、お会計を済ませて、おかみさんに挨拶すると
「ありがとうね。また二人でいらっしゃい」
そういっていつものようににっこりと微笑んでくれた。
「あ、おかみさん」
「なんだい?」
「あのー、なんで大切な友達ってわかったんですか?」
「企業秘密だよ」
「なんですかそれー、教えてくださいよぉー」
私をからかうとおかみさんはからからと楽しそうに笑った。
63銀杏猫:02/02/01 23:59 ID:VbVXt/1r
「そうだね、なっちゃんの目が違う」
「目?」
「そう。いつもは『モーむす』の皆の事とか、落ち着いた目でみてるけど
あの子に対しては・・・」
おかみさんは言葉を止めて少し考えると
「違うんだよ。うん、たとえていうなら『恋してる』みたいな目をするんだよ」
「え!?」
いわれて、どきん、とした。だから矢口も後藤も気がついたのかな・・?
「ま、想い人と親友への想いってのは似てるじゃあないか?どっちもさ、自分以外の
人と仲良くしてるのを見ると、嫉妬しちゃうだろ?」
いつに無く饒舌なおかみさん。
誰が見ても私が明日香のこと想ってるってわかっちゃうのかな・・・?
・・・なんか不安がこみ上げてきた・・・。
64銀杏猫:02/02/02 00:01 ID:GuhLpPRc
「あの、おかみさん。誰が見てもそういう風に見えます?私の視線って・・・」
おかみさんは一瞬『きょとん』とした顔をしたけど、次に含みのある笑みを浮かべた。
「おやおや、わかいねぇ。誰にでもわかるってもんじゃあないんだよ。
そういうのがわかっちゃうのはなっちゃんのことを大事に思ってる人か
実際に恋をしてる人くらいだよ。
おばちゃんはなっちゃんのことを娘のように大事に思ってるからわかるのさ」
うんうん、とうなずいて私の肩に手を置いた。
実際に恋をしてる人?
じゃあ矢口は・・・。
あと、後藤も・・・?
65銀杏猫:02/02/02 00:01 ID:GuhLpPRc
考え込んでいると、明日香が奥のほうからでてきた。
「おまたせー、あれ?なっちどうしたの?」
「・・・・・」
明日香はどうなんだろう?私の気持ちに気づいているのかな・・・?
明日香は黙る私を不思議そうにみたけど、ぱっとおかみさんに向き直って挨拶した。
「おかみさん、おいしかったです。ごちそうさまでした。」
「いえいえ、こちらこそありがとうね。また、なっちゃんといらっしゃい。
何でも好きなもの食べさせてあげるからさ」
礼儀正しい明日香をおかみさんも気に入ったようだ。