安倍の右手

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167銀杏猫
目を開けていたら泣いてしまいそう・・・だからそっと瞳を閉じてみる。
どっ、どっ、どっ、
あたりの静寂とは裏腹に、自分の鼓動がやけにうるさい。
とくん、とくん、とくん、
それにシンクロするように、もうひとつの鼓動を感じる・・・。
明日香・・・も緊張してる?
そう思うとなんだかほっとした。
コチコチになってた明日香も、
「はぁっ」
と、息をひとつ吐き出すと、
「とん」
と、私の肩に額を乗せた。

「あったかいね・・・」
ひそひそばなしのように明日香がつぶやく。
はっきりしゃべる必要なんて無い。
だって、今私たちは吐息がかかるほどに顔を寄せ合っている状態だから。
「うん、あったかいよ・・・」
返事をするのもやっとで、歓喜のあまり体に力が入らない。
指先がかすかに震えているのがわかる。明日香はそんな様子を
「寒いんだ」と感じ取って腕を緩める気配がしない。
だから・・・
『時間よ・・・止まって・・・』
永遠を願った・・・。
168銀杏猫:02/02/21 23:39 ID:FbX5ISEc
瞳に映るものは物として認識できる。
同じように、瞳に映る人はそこに存在しているのだと認識できる。
けれども、自分の手で、腕で、映る人を抱きしめたなら、それ以上の感覚を得られる。
明日香の体に回した私の手は、「明日香というカタチ」と「明日香の温度」を。
私の思考には、「瞳に映った明日香」が本当にここにいるという確証を。
そして私の心には「もう、どうしようもなく明日香が好き」という揺るがない気持ちを。

「あ、すか・・・」
「うん?」
『好き・・・』
今にも言ってしまいそう・・・。
「痩せたね・・・」
「なんだよぉ〜、どうせ昔は太ってたよ・・・」
「そういうことを言いたいんじゃないよ」
「ほかにどんな意味があるわけ?」
ささやき合いの会話が・・・、・・・恥ずかしくて表現できないや。
169銀杏猫:02/02/21 23:40 ID:FbX5ISEc
「綺麗になった、ってこと。」
「喜んでいいのかな・・・?フクザツ・・・」
体全体で明日香を感じ取ると、昔よりなんだかほっそりとしているのがわかる。
痩せたからキレイ?いや、そういうことじゃなくて・・・。
会わなかった間に、見た目が変わって、顔つきも大人になって、髪型も、雰囲気も・・・。
子供の風貌だった明日香が少しずつ大人になってる。
昔と違う容姿は歳月を感じさせて、なんだか寂しいけど・・・
ほんの少し大人になった明日香はキレイ・・・だ。
「なっちも・・・」
言いかけて言葉をとめてしまった。
「?」
何を言おうとしたのか、気になったけど、私の思考はもう働くことをしない。
ただ、明日香を感じるだけだった。

・・・もう、いいよ。

これ以上は何もいらないよ・・・。