安倍の右手

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131銀杏猫
あー、ダメダメ。雰囲気変えよう。
「そういえばさー」
「なに?」
「さっきなんで、『ドロボー』って叫んだの?」
「ああ、前にTVでやってたんだ。
痴漢とかに会ったとき『痴漢!』って叫ぶとみんな関わりたくないらしくて
助けてくれないんだって。だけど、『ドロボー』って叫ぶとみんな助けてくれるって」
「・・・あのー、それって、『ドロボー』じゃなくて、『火事だー!』じゃ、ないかい?」
確かそうだったような・・・。みんな好奇心から、火事現場を見るために出てくるって
言ってたきがする。
明日香は、あり?という顔をして
「ま、いーじゃん。みんな助けてくれたから!」
勝ち誇ったようににっこりと笑った。
私はその表情がまるっきり子供のように見えてなんだかかわいくって、おかしくって
思わず笑ってしまった。
「わらうなよぉー」
明日香は口をへの字にまげてぷいっとそっぽを向く。
それがまた・・・おかしかった。
「あはは・・明日香・・・」
「なんだよぉ」
「かわいい」
その言葉に、明日香の顔は一瞬で真っ赤になった。
そのギャップ・・・しっかりしてて・・・だけどかわいくって・・・
ああーもぉー
わかったよ、降参、降参だよ。
好きだよ明日香、大好きだよ!
いえないけれど、心の中をもう、書き換えたりはしないよ!
132銀杏猫:02/02/14 00:05 ID:G4LQYFYJ
なんだか急に晴れやかな気分になって、空を見上げる。
「ほぅ・・・」
白い吐息が黒い空へと吸い込まれていく・・・。
冷たい空気を吸い込むと、肺がなんだか締め付けられるような感覚がする。
だけど、それだけじゃないってことわかる・・・。
想いが胸に宿ってる。それが胸を締め付ける。
ほんのちょっぴり苦しいけど・・・
なんだろう、この高揚感。嫌じゃないよ・・・。
133銀杏猫:02/02/14 00:07 ID:G4LQYFYJ
「明日香、今日はありがとう」
自分の声がほんのちょっぴり熱を帯びているのがわかる。
「ん?」
「二人で会えて、いっぱい話できて、歌も聞かせてもらえて、楽しかったよ。おもしろかったよ」
「いやいや、こちらこそ・・・」
「ほんとはね、ちょっと不安だったんだ。」
「不安?」
「うん。二人で会おうって言って、断られたらどうしようって・・・」
明日香は意外という表情をした。
「そんなわけないよ。私もなっちと話したかったから」
「ほんと?」
「ほんとだよ」
よかった・・・。じゃあ、私の気持ち、ちょっぴり知ってもらおうかな?
「あのね」
「うん」
134銀杏猫:02/02/14 00:10 ID:G4LQYFYJ
「なんかね、昔はいろいろ話したり、毎日のように顔をあわせてたから、当たり前のように
おもってたんだけど、明日香が娘から脱退して、ずいぶん会わなくなってから
『あ、私たちって仕事だけの間柄だったのかなぁ?』とかおもっちゃって・・・。
いや、あの、なっちは明日香のこと大事な友達だとおもってるからね。」
明日香は黙って私の言うことを聞いている。
ごめん、私、うそついてる。本当は大事な友達なんかじゃない。
それ以上に思っているの・・・。
「大切におもってるのは私だけで、実は明日香は私のこと「もう関係ない人」
とかっておもってたらどうしようって、不安だったんだ」
「・・・・・」
「だけど、『OK』してくれたとき、明日香も私のことを大切かどうかはわかんないけど
「友達」くらいにはおもってくれてるんだって思えて、うれしかったんだ」
135銀杏猫:02/02/14 00:12 ID:G4LQYFYJ
私は芸能界という、とにかく「自信」を要求される世界に生きているけど
いつも見失わないように、なくさないように努力しているけど、
明日香・・・明日香にだけは絶対的な自信、もてないんだ。
私は明日香が好き。
だけど、明日香は私のこと友達くらいにしかおもってないだろう。
それでもいい。
だけど、大勢の知人の中の一人とか、もう関係の無い人とかおもわれてたら
どうしよう、なんて、明日香がどうおもってるか知りもしないで不安にばっかりおもってしまうんだ。
好きだから、そう思ってしまうんだろうね?
本当は心のどこかで期待してるのかもしれない。
明日香が私のことを・・・。
・・・・・。