安倍の右手

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103銀杏猫
明日香は私に気づくと
「ほらほらー、時間なくなっちゃうよー」
と、なんだかうれしそうにしている。
さっきはあんなに歌うの嫌がってたくせに・・・。
大人なんだか子供なんだか、よくわかんないなぁー。ま、そういうところも・・・。
『好き・・・。』
一度認識してしまった気持ちは、もう誤魔化すことも、消すこともできなくなっていた。

「後、一曲くらい歌えるけど」
明日香は時計を見ながら言った。
んー、だったら最後に明日香の歌を聞きたいよ、そう言おうとしたんだけど
「ね、さっき『お願い聞いてあげる』っていったよね?」
先を越されてしまった。
お願い・・・?
「うん、言ったけど・・・」
「じゃあ、さ」
そういって明日香はちょこっと頭をかしげて上目使いで私を見た。
ひゃー、なんだよー、その危険な目は・・・。
「NEVER FORGET、歌って」
104銀杏猫:02/02/09 00:56 ID:ailuWMsf
・・・はい?
えーっと、晴天の霹靂っていう言葉は、こういうときに使うんだったっけ?
まったく関係の無いことが頭に浮かんだけど、何とか意識をつなぎとめる。
「あの、私が?」
「うん」
頷いてリモコンに手を伸ばす。
「なんで?」
「歌ってほしいから」
すばやい手つきで番号を打ち込んでいく。
「いや、あの、なっちとしてはこの歌、明日香に歌って欲しいんですけど・・・」
「だーめ。さっき約束したでしょ?」
う・・・そうだよね・・・。
今日、ふたりっきりの約束を守ってくれた明日香。
さっきお願いを聞くと約束した私。
・・・じゃあ、逆らえないじゃない。

私の決心と同じタイミングでイントロが流れ出す-----。
それをぼんやりと聞きながら想いを募らせる・・・
105銀杏猫:02/02/09 00:58 ID:ailuWMsf
明日香が娘からいなくなったころ、この曲を聞くだけで涙がでたなぁ・・・。
すぐに顔が浮かんでね、それからいろんなことを思い出すの。
オーディションのときのこと
TVで始めて歌ったときのこと
レッスンのこと
初めて一緒に遊びに行ったときのこと
いっぱい話したこと
笑ったこと、泣いたこと
いっぱいいっぱいね。
でも、いつのころからかな・・・
この歌を聴いても泣いてしまうことは無くなった
だから私は、明日香への気持ちが薄れていってるって思ってた・・・・・。
だけどね、それは違ってたみたい。
今日、わかっちゃったんだ・・・。
明日香をじっと見つめると、視線がまっすぐに帰ってくる。
うん。
そういえばね、この歌、私の気持ちも沢山詰まってるんだよ。
言いたいことが沢山あるんだ。
聴いてほしい思いが沢山あるんだ。
でもね、いえないの。だからこの歌に私の想いを託すね。
行き場の無い、こみ上げる思いを歌に乗せて・・・
106銀杏猫:02/02/09 00:59 ID:ailuWMsf

I NEVER FORGET YOU
忘れないわ あなたの事
ずっとそばにいたいけど ねぇ仕方ないのね 
ああ 泣き出しそう・・・


今までいっぱい歌を歌ったけど、今日のこのときの感覚は初めてだった。
歌詞を歌ってるんじゃない。
自分の言葉で歌ってる、自分の気持ちを曲にのせてる、そんな感覚がした。
あ、まただ・・・。
自然と目から涙がこぼれる。
明日香は私を相変わらず、真剣な表情で見ている。
だけど、私の目には・・・明日香が泣いているように見えた。
・・・・・なんでだろう?