紺野のスポ根(紺)小説

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今日は久しぶりのオフ。目覚ましも今日は鳴らない。(保田さんの怒鳴り声もない)
ゆっくりと目を覚まし、布団から上体を起こし、うーん、と背伸びをした。
部屋のカーテンを開けると、パァーっと朝日が差し込んできた。
外は本当にいい天気で、家にいるのがもったいない気がしてきた。
時計を見ると、8時半。たまには朝食を外で取ろうかな。
私はシャワーを浴び着替え、外に出た。
日の光で私は一瞬目がくらんだ。いい天気というのもおったいないくらいの晴天だ。
私は暖かな光を浴びながら、のんびりと近くの喫茶店へ向かった。
本当に気持ちのいい朝だ。外では朝から子供達が汗だくで何かをして遊んでいる。
のんびりとした休日というに相応しい日だ。私はますます歩く速度を緩めた。
目一杯時間をかけ、私は喫茶店に入った。チリンチリンとドアのベルが鳴る。
「いらっしゃいませー」

私はモーニングセットを食べ終え、窓際の席でサービスのコーヒーを飲んでいた。
店内は朝だけあって、客もサラリーマン風の人と学生らしき男の人の二人だけ。
窓際から光が差し込んでいてとても暖かい。
外を見ると、店の前をのんびりと犬を散歩させているおじいさんが通りかかった。
とてものんびりとした休日だ。雰囲気と日差しで、眠気が襲ってきた。
目がトローンとしてくるのが自分でもわかる。だんだんとうとうととしてきた・・・。
「すいません、紺野あさ美さんですか?・・・サイン貰えませんか」
突然明瞭な言葉が聞こえ、私はハッと飛び起きた。客の一人の学生の人だ。
「は・・・はいっ!サインですね!?」
帽子を深くかぶっているため顔はよく見えないが、整った顔をしているようだ。
私はサインを書いて、その人に差し出した。しかしその人は受け取らない。
「あ・・・あの?」
私は聞き返してみるが返事がない。
こっちをじっと見ているように見える。帽子でよく見えないけど。
しばらくすると、その人は突然呆れたような声で、
「何だよ〜、あたしの事忘れちまったのか〜?」
と言い、深くかぶっていた帽子を取った。
「よ・・・吉澤さん!?」
「おーっす、紺野。元気?」

「いやあ〜、偶然だよね。まさかこんなとこで紺野と会えるなんてさ」
喫茶店で10時頃まで談笑した後、私は吉澤さんと街をブラブラしていた。
久しぶりに会った吉澤さんは、ますます大人っぽく、綺麗になっていた。
口調は相変わらず軽いけど、昔とは違う・・・どこか大人の雰囲気を漂わせていた。
「・・・どーした紺野〜、折角会ったのにボーっとして〜」
吉澤さんが私の目をじっと見つめる。
・・・綺麗。吸い込まれそうな目をしている。
吉澤さんを見ているとドキドキしてきて、私は何を言っていいかわからない。
「あ・・・あの・・・。・・・・・・綺麗です・・・」
私がそう言うと吉澤さんは「え?」とでも言いたそうな顔をしながら瞬きをし、
「はっはっはっはっは!相変わらず面白いな〜紺野は〜」
そう言って笑った。その後にちょっと「ありがとうな」を付け加えて。
「ところで紺野はこれからどうする?」
「・・・え?私は今日はオフだから、何もないですよ?」
そう言うと、吉澤さんは、ふーん。と言いたげな顔をして、私に顔を近づけてきた。
「ね、暇だったら私に付き合わない?」
「はい、いいですよ」
家に帰ってもどうせやることがないので、私は吉澤さんの誘いにのることにした。
「ふっふ〜ん。じゃあ決まり」
そう言うと吉澤さんは、私の手を引いて歩きだした。
「着いたよ」
歩くこと10分、目の前に多少古めかしい建物があった。
初めて見るはずなのに、それはどこかで見たことがある気がした。
「・・・あの・・・ここは?」
「ヨネクラボクシングジムだよ」
「・・・あ」
ボクシングジム。思い出した。どこかで見たことがあると思ったら・・・。
北海道、ランニングコースで見つけたジム、恵理と行った見学、サンドバック・・・。
色々なことが頭に思い浮かぶ。そして・・・。
「あたし、今ここでボクササイズやってるんだ」
吉澤さんはガラガラとドアを開け、「ッチワーッス!」と叫んだ。
その声はおちゃらけている吉澤さんとは違う、真剣な声だ。私は思わずその声に硬直した。
・・・私みたいな部外者が、こんなとこに来ていいのかな?やっぱり帰ろうかな。
しかし私が声をかける間もなく、吉澤さんはどんどん奥へと入っていく。
中からはリズムのいい音楽と、サンドバックを打つ音が聞こえる。
すでに何人かは練習しているようだ。私はジムの前で立ってそれを聞いていた。
「おーい、なにしてんの?早く来いよ〜」
吉澤さんに言われ私はハッとなり、「今行きます」と言った。
そういえば、恵理と初めて来た時も、入れないでこうしてジムの前に立ってたっけ。
私はそれを思い出し、自嘲気味に笑い、ジムの中に入った。