紺野のスポ根(紺)小説

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今日の仕事が全部終わったのは午後8時だった。
私は帰りの車の中、保田さんに今朝のことを怒られていた。
「・・・全く、今度から気を付けなさい!あんたは昔からボーっとしてるんだから!」
「すいません・・・」
「うん、わかればいいんだけどね・・・」
ようやくお説教が終わった。と、とたんに訪れる沈黙。
ただ黙々と私と保田さんを乗せた車は走り続ける。

ピロリ〜ピロリロ〜♪
携帯の着信音だ。携帯を取り出してみる。私じゃない。
「あ、私だ。紺野、悪いけど私のバックから携帯取ってくれない?」
そう言われ、私は保田さんのバックから携帯を取り出した。
メールが来ている。差出人は・・・・・・飯田さんだ。
「誰から?」
「飯田さんからメールです」
「カオリか〜。ちょっと手が離せないから読んでくれない?」
「・・・いいんですか?」
「別にいいよ。それに、あんただって気になるんでしょ?」
保田さんにそう言われ、私はメールを開いて読んだ。
「ケイちゃん元気?カオリだよ。今ね〜撮影でパリにいるんだ。
パリと言えば芸術の都よね。なんだか私にピッタリの街だと思わない?」
そこまで読むと保田さんは、ちょっと肩を震わせながら「カオリらしいや」と笑った。
(その後のメールの内容はプライバシーに関わるので省略)

「・・・そうか〜、カオリは今パリか〜」
運転しながらも、保田さんの目はどこか遠くを見ている。
「モー娘。が解散して、もう一年か・・・」
思い出したように保田さんがつぶやく。
そう、あのファイナルコンサートからもう一年になろうとしている。
解散後、メンバーはバラバラになり、それぞれの道に進んだ。
飯田さんは、その長身とスタイルを生かしてモデルとなって活躍している。
「ナッチのドラマとゴッチンのドラマの時間、またかぶるんだってね〜。
潰しあう必要もないのに、お偉いさんも何を考えてんだか」
そう言って笑った。
「そういや矢口を新宿で見たよ。デザイナーになるんだ!って張り切ってたな〜」
「よっすぃ〜と高橋は東京の大学合格したんだってね。よっすぃ〜は高橋と同級生か」
「加護も大検合格したらしいよ。あの子はテレビとは違ってしっかりしてたからね」
「石川、ちゃんと高校行ってるのかな〜。あの子繊細だから心配だな〜。
小川、同じ学校なんだから、石川いじめれてたら助けてあげないと」
「新垣は地元に帰ってお父さんの会社を継ぐらしいじゃない。あの歳ですごいよね」
「そういえば辻、NHKで子供たちにからかわれてまた泣いてたよ〜」
次から次へと出てくる懐かしい名前。一年前までは当たり前に感じた名前だった。
「・・・あんたも頑張らないとだめよ。大河ヒットしたからって浮かれてたら、
あっという間に落ちてっちゃうんだからね」
保田さんの小言がまた始まりそうになった。
しかし、丁度よく私のマンションの前に着き、何とか小言は逃れられた。
「それじゃあね。明日はオフだからゆっくり体休めるのよ」
保田さんが車から顔を出して言う。
「あの・・・保田さん」
「ん?なに?」
「・・・どうして私のマネージャーになってくれたのですか?」
私は、モー娘。解散後も、保田さんの歌唱力を見込んだつんくさんが、
他の人のプロデュースで保田さんを売り込ませようとしていたのを知っていた。
自分の型にはめた歌よりも、保田は保田のやり方でやった方が実力を出せる。
そうつんくさんは言っていた(らしい)。
そのソロデビューの離しは当然保田さんの耳にも入っていたはずだし、
保田さんも昔からソロ歌手には憧れ、そのために高校を中退したのも知っていた。
しかし保田さんはそれらの話を全て断り、私のマネージャーになった。
今まで聞いたことなどなかったが、昔の話を聞いたからだろうか。
何故か今日は聞いてみたい気持ちになった。
保田さんは、しばらく沈黙していたが、ちょっと歯を見せて微笑み、
「あんたが一番心配だったからよ」
そう言って笑った。