◆モー乳総合スレッド◆

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69名無し娘。
『お友達』

「宇宙人宇宙人って。じゃあおめーらは何様だ。こっちから見ればそっちも宇宙人だっつの」
 声を荒げるいいらさん。本気で怒っているらしく、言葉使いがいきなり変わってしまいました。
 でも、言われっ放しになるわけにはいかないののちゃんです。何と言われても、
ここは間違いなく地球なのですから。
「ののが住んでる星に、勝手に来たのはいいらさんの方じゃないれすか。いくらいいらさんでも、
ののも怒るのれすよ」
「ハハッ、勝手ときたの。そう、勝手か。カオリが来た理由も知らないでよく言えるね」
「来た理由なんて知らないれすよ。いいらさん言ってないじゃないれすか」
「じゃあ教えたげるよ、ちゃんと聞けよな」
「聞きますよ。バカにしないでくらさい」

 紅茶の入ったカップを手に取り、口元へ運ぶいいらさん。「ふぅ」と息をつきながら、歩き始めます。
「カオリがこの星、ハロー星を知ったのは中学の時だよ。課外授業で宇宙の勉強してる時。
 一人一人が惑星を決めて、その星の事を調べて発表したの。みんな大きくて有名な惑星選んだけどね、
カオリだけは、自分たちの星からずっと離れたこの星が気になった。小さくてど田舎な星だったけど、
とっても綺麗だったんだよ。そこに妙に惹かれた。
 でもね、調べれば調べるほど、そこに住んでる人がいかに身勝手な人間達だってわかった。
 貴重な資源を好き放題使って『それがどうしたの?』って顔してる。
 確かに自分の星の資源だよ、連合決議で決められた条約にも、自星の権利としてそれは認められてるし、
準加入に過ぎないハロー星は口出しをされる義務はない。
 知らないだろうけど、いわゆる大国って呼ばれる国はもう、この星以外にも人間がいる事は知ってるの。
数十年前から一応の交流はあるんだよ」

 ののちゃんはビックリしました。
 学校の友達に、UFOとかそういう事が大好きな子が一人いましたが、
その子のお話しはいつも半信半疑で聞いていました。とてもじゃないけど、信じられなかったからです。
 しかし、まさか自分がそれを経験する事になるなんて。
70名無し娘。:02/02/16 11:39 ID:2M/mNPP8
「でもさ、カオリ思うの。それってやっぱ自分勝手じゃない?
 宇宙は有限なんだよ? 自分達だけが良ければって気持ちを持ってたら、いつか破綻する。
そんな風にして他星間の戦争に発展した例はいくつもある。本来ウチらは助け合うべきなんだよ。
 カオリはね、それをハロー星の人に伝えたくて、一生懸命勉強して、惑星間航空士の資格をとった。
惑星連合の研究所にも就職した。僻地環境対策のエキスパート目指した。
 ハロー星への出張が決まった時は、本当に嬉しかったよ。夢が叶ったって。
 何が出来るかわかんないけど、この目でハロー星を見れるってだけで、決まった日からろくに寝れなかった」

 身振り手振りを交え、あれこれと表情を変えながら喋るいいらさんは、
もう怒ってる感じではありませんでした。
 むしろ、疲れ果てたような、悲しい顔に変っていました。
 手にしたままのカップを再び口に運ぶと、ポカンとしてるののちゃんの隣に座りました。
 ののちゃんは、いいらさんの顔を覗き込もうとしましたが、うつむき加減のその横顔は、
長い髪によって隠されていました。

「カオリがここに来てから、もう半年も経った。その間あちこちの国に行ったよ。
 なのにさ、どこへ行ってもみんな適当にあしらうわけ。そりゃこっちはたった一人の使節団だよ。
 連合事務局に無理やり頼みこんで決めてもらったんだもん、諸々の費用だってほんのちょっと」
 いいらさんの声のトーンが、次第に小さくなりました。
 見れば、いじけた様にテーブルに伏しています。組んだ腕の間から、ボソボソと声がしました。

「まぁ確かに、カオリが変にこの星にこだわり過ぎてるだけだけどさ。
 所長にも友達にもお世話になった先生にもみんなに止められたけどさ。
 みんなハロー星のことちゃんと知らないんだ。田舎だから放っておけばって、そんな風に思ってる。
 期待されてないのはわかってる。余計なお世話なのもわかってる。
 きっと変な奴ってバカにされてんだ」
71名無し娘。:02/02/16 11:39 ID:2M/mNPP8
 感情の起伏が激しい人。ののちゃんは、いいらさんの事をそう思いました。
 何故なら、さっきまで怒っていたのに、今度は涙声になっているからです。
(そして、とても繊細な人)
 会ってからまだそれほど経っていないけど、何だかいいらさんがとても愛しく感じました。

 顔を真っ赤にして、時にはちょっと涙ぐみながら、懸命に説明してくれたいいらさん。
 とっても長い話しだったけど、ののちゃんにはみんなわかりました。

 語るだけ語り尽くしたいいらさんは、ののちゃんの方を向き、謝りました。
「いいらさん……」
「ホントごめんね。情緒不安定だよね。小さい頃から言われてた。自分でもわかってんだけど、
どうしても熱くなっちゃうんだ。ののちゃんが悪いわけじゃないのにね」
「ののは大丈夫れす。でも……」
 少し濡れたまつげ越しに見えるいいらさんの瞳。本当に寂しそうな瞳。

 ののちゃんは、傍らに座るいいらさんの背中を優しく撫でました。
 大人の人にこんな事をするのは初めてだったけど、これが今自分が表せる精一杯の気持ち。
 きっと伝わると信じて。

 ののちゃん自身、よくひとから子供っぽいって言われました。自分では充分に大人な気持ちでいるのに、
他人から見るとそうではないようです。
 いいらさんを見ていると、そんな自分を見ている気分になりました。
 よく笑って、よく泣いて、少しのことにも驚いて、腹を立てて、喜んで。
 夢を大切にして、純粋過ぎて、ちょっとバカにされて。それでもみんなが大好きで。

 年も外見も随分違ったけど、心はとても似てる。
 だから、今のいいらさんに必要なのはこれ。
 これでいい。

 温かいパンの香りに包まれながら、ののちゃんはいつまでも背中を撫で続けました。