◆モー乳総合スレッド◆

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53名無し娘。
「また明日ー」
「うん、またねー」
 下校中の少女二人が互いに別れを告げる。なんて事のない日常。
 このお話しの主人公「辻 希美」は、そんな普通の中学生。2年生と言うふわふわした
学年に沿うように、些細な悩みの他に大した苦労もなく、今日まで過ごしてきのです。

 今日までは……。

第一話『遭遇』

「お腹空いたれすねぇ、パン屋さんにちょっと寄ってみるのれす」
 辻希美、通称ののちゃんは、いたって普通の女の子。少しだけ空想癖があって、
舌足らずな喋り方をしてしまう以外は。
 そんなののちゃんは、今日も今日とて、買い食いを画策していました。

 この角を曲がれば、いつものパン屋がすぐそこに。テストの点も悪くなかったし、
自分へのご褒美のつもりで大好きなあげぱんを買おう。とても楽しい一時です。
 駆け足気味で角を曲がるののちゃん。
 しかし、その目に飛び込んできたのは、のどかな街の風景でもなく、
いつものパン屋『ベーカーあべ』でもなく、銀色にキラキラ輝く壁。
 ドシーン。

「いったーい!」

 ぶつかった勢いで転んでしまったののちゃんの耳に、少し怒ったような声が聞こえました。
「ごめんなさいれす、申し訳ないのれす」
 おっちょこちょいのののちゃんには、咄嗟に謝ってしまう癖がありました。転んだのは
自分の方でしたが、この時もとりあえず謝罪の意を示すののちゃん。

「ん、いいよ。壊れてないみたいだし。そっちこそ大丈夫?」
 返ってきた優しい声色に惹かれ、ののちゃんが顔を起こします。見ると、綺麗なお姉さんが
立っていました。自分の姉より年上かな、そんな風に思えました。
「平気れ……」
 途中まで言いかけたののちゃんは、思わず自分の目を疑いました。目の前にいる人の、
首より下、そう、服装。何かが間違ってる。何かどころか、全て間違ってる。いや、
これはこれでいいのかな?

 銀色に輝くスーツ。身体のラインがくっきり浮き出て、まるで全身タイツの様な格好。
この異様な自体にののちゃんは幼い脳をフルに回転させ、結論を導きました。
 きっとこの人はタレントさん。テレビの撮影なんだ。そうに違いない。
「邪魔してしまって、すまないのれす。どうお詫びすればいいか」
 再び謝るののちゃんに対し、そのお姉さんは少し声を荒げました。
「ってかさ、あんた謝り過ぎ。そういうのカオリ良くないと思う。大体さ、
すぐに謝る人に限って、全然反省してないんだよね。
 カオリ思うに――」
54名無し娘。:02/02/08 09:32 ID:TLWUa0zl
(な、長いのれす)
 最初の方は理解出来たののちゃんでしたが、いつまでも経っても終わる事のない説教に、
正直逃げたくなっていました。
 あげぱんを買って、家でゆっくりマンガでも読みつつ、幸せに浸る。
 そんなささやかな願いなのに。

「あ……」
 勇気を振り絞ったののちゃん、声を発してお姉さんの演説を遮ります。
「なに? カオリ終わってないんですけど」
「あ、あの、これ、テレビの撮影かなにかれすか?」
「はあ? テレビ? なにそれ。ちょっと待ってね」
 怪訝な表情から一転、腕に巻いている、ブレスレットの様な物をいじるお姉さん。

「んーっと。あ、なるほどね、箱型受像投影機の事かあ。いきなり英国語言われたからカオリ混乱したよ。
翻訳機間違えて持ってきたのかと思った。でもあんたの方も間違ってるよ。正しくはテレビジョンだし」
「はぁ……。じゃあお姉さんは、誰なんれすか?」
「ごめーん! すっかり言うの忘れてた。カオリはね、カオリ星から来たの。よろしくね」
 もはや事態は、ののちゃんの理解を超えていました。……バタン。
「うわ! いきなりどうしたの??」
 ののちゃんは、深い、眠りの中に。
55名無し娘。:02/02/08 09:32 ID:TLWUa0zl
第2話『カオリ星人』

 少し離れた所から聞こえてくる物音。鼻をくすぐる甘い香り。体を覆う柔らかい感触。
ぼんやりとした視線を天井に向ける。穏やかなクリーム色の世界。
「おかあさん?」
「んー? あー目が覚めたみたいだね。急に倒れるからさ、カオリ超焦ったよ」
 まどろんでいたののちゃんの意識が、突然現実世界にひっぱられます。
 ガバッ。
 背を起こしたののちゃんの前には、先ほど出会ったお姉さんの顔が迫っていました。
銀色のスーツから伸びた手が、額に触れる。そして、えんぴつの様なものを再び額に。

「熱は下がったみたいね」
「ココはどこなのれすか?」
「今説明するから。もう少し横になってな、ね」
 ののちゃんをもう一度横にさせると、部屋の隅にあった椅子を引っ張ってくるお姉さん。
優しい笑顔をしていました。
 不思議な感覚に包まれるののちゃんでしたが、恐怖は感じませんでした。

「どこから話そうかなぁ。んとさ、私はこのお星の人間じゃないの。名前は地球風に発音するとィーダ・カオリ。
カオリ年下の人に下の名で呼ばれるの好きじゃないから、ィーダさんとかそんな感じで呼んで」
「いいらさんれすか」
「ィーダ」
「いいらさん」
「ィーダだよ。んもう、まあいいか。発音が難しいのかなあ」
 ののちゃんは舌足らずなので仕様がないのです。

「でね、ののちゃんが居るのは私の宇宙船の中。高次元ドライブ機能搭載の最新型だよ。
宇宙の端から端まで90年で移動出来るの。そんで、この部屋はカオリの寝室」
 どうして自分の名を知ってるのか、こういへんろあいぶって何? 
 たくさんの疑問が浮かんでは消えて行くののちゃん。しかし、
何をどう聞けば良いのかもわからないので、とりあえず「わかった」という顔をします。

「カオリはね、ののちゃん達が地球って呼んでるこの星に、あ、本当はこの星はハロー星って言うんだよ、
知ってた?」
 首を振るののちゃん。
「そうだよね、ウチらが勝手に呼んでるだけだから。この星の人は知らなくて当然だよね」

 少し考えた顔をし、それから思い立った様子で、手に持った箱をいじるお姉さん。
 カチリ。
 スイッチを入れたような音すると同時に、部屋の中が急に暗くなり、ののちゃんの前に、
薄く光る青い板が現れました。

「これは空間モニタ。まーテレビジョン見たいなもん」
 ののちゃんがポカンとしている内に、青い板には、幾つかの円と記号、
そして数字が浮んでいます。
「このね、小さい点があるでしょ。これが、この星の人が言うところの太陽系」
 いいらさんの指し示した点が、大きくなりました。
「ね? 見た事あるでしょ?」
 大きくなった点は、科学の教科書で見たことのあった、太陽とその惑星の形になりました。
56名無し娘。:02/02/08 09:33 ID:TLWUa0zl
 拡大された太陽系と、その横に映し出された青い地球の映像を見ながら、
思わずののちゃんはつぶやきました。
「キレイれすねえ」
「うん……、すっごい綺麗だよね。この青と白と茶色の絶妙なバランス。こんな素敵な星、
カオリの住んでた星系にも無かったよ」
 いつの間にか、ののちゃんの横に寝転がっていたいいらさんが言います。
「じゃ次はもっと大きなお話しね」
 大きくなっていた太陽が再び小さくなり、また点に。そして今度は点すら判別出来なくなり、
大きな渦が現れました。

「これが太陽系のある銀河。ウチらはテレート銀河って呼んでるの。ぶっちゃけ、かなり田舎だよ」
 ののちゃんの顔を覗きこみながら、少しだけイジワルそうな顔をするいいらさん。
「そうだ、スゴイの見せたげるよ」
 そう言って立ちあがると、部屋の出入り口に向かいました。
「こっち来て」
 言われるままいいらさんの横に立つののちゃん。
 先ほどまであった青い板が一瞬にして消え、次の一瞬で、部屋全体が、
溢れんばかりの光に包まれました。
「わぁ……」

 ちりばめられた宝石か、夜空に舞い落ちる白雪のごとく、室内に満ちる小さな光の粒。
 そのあまりの美しさに、言葉を失うののちゃん。
「これは……」
「このね、粒が見える?」
 しゃがみ込みながら、いいらさんは床から数センチにある光を指差します。
「これがテレート銀河」
 細い指先に注意を向けるとそこには、本当に小さな小さな光の粒がありました。
顔を近づけてよく見ると、確かに渦を巻いているのが判ります。

「ここにののは住んでるんれすか?」
「そうだよ」
「小さいれすねえ」
「うん。とっても小さいし、近くに他の銀河が少ないの。星系間連合にも所属してない。
滅多に人がこない田舎の銀河」
 田舎という言葉に反応したののちゃんは、少しムッとしました。
57名無し娘。:02/02/08 09:34 ID:TLWUa0zl
「じゃあいいらさんはどこの人なんれすか」
「カオリ? カオリはカオリ星って言ったじゃん」
「田舎生まれのののには、カオリ星なんてわからないのれす」
「怒ったの?」
「別に怒ってないれすよ」
 笑いを噛み殺すがごとく、ひとしきり顔を伏せるいいらさん。上下するのは肩のみ。

「そいじゃあね、こっち来て」
 出入り口から真反対、部屋の奥まった所まで歩いたいいらさんは、今度は
そこを見ろという仕草をします。その指先にも、小さな光の粒がありました。
「これが?」
「これはサポロ銀河。結構大きな銀河だよ。ホカイ星系にあるの。お隣さんは星系間連合の本拠地、
ホンシュウ星系って言って、超都会」
「へー」
 と言ってはみたものの、実際は、何の事やらのののちゃんでした。

「このサポロ銀河の端っこに、箱庭惑星があるの。そこがカオリ星。本当は違う名称だけどね。
でもカオリしか住んでないから、カオリ星って呼んでるんだよ」
 説明しつつ、手に持った箱をいじるいいらさん。小さかった粒が、次第に球体に。
「この星はね、カオリが自分で作ったんだよ。超面倒だったけど、30年ローンで場所買って立てたの。
面倒つっても、ほとんどはロボットが作ってんだけどさ」
 野球ボールほどの大きさだった球体が、今や部屋を埋めるほどの大きさになっていました。

「これがカオリ星れすかあ。自分の星なんてすごいれすねー」
 素直に感動するののちゃん。いいらさんは照れたように頭を掻きます。
「まーねー。なんつーかカオリって優秀だからさ。学校であったコンテストで優勝しちゃって。
人工惑星キット貰ったんだよねー。こう見えても、科学者目指してんだよねー」
「このお星は、どのくらいの大きさなんれすか?」
「ぶッ。お、大きさ? 大きさは……」
 何やらごにょごにょとつぶやくいいらさん。聞き取れなかったので、
ののちゃんはもう一度聞いてみました。

「んもう。6畳と10畳がある二間。キッチンと小さな可愛いテラス。
しかもバスとトイレは別なんだから」
「だったらのののおウチの方が3部屋も多いのれす」
 自分ちの方が勝っていたと、無邪気な笑顔をするののちゃん。
「……。だってさ。応募書類よく見なかったんだもん。細かい文字で書いてあったんだもん。
こんな小さいなんて知らなかったんだよ」
 肩を落としうなだれる姿は、とてもじゃないけど、優秀な宇宙人には見えませんでした。
58名無し娘。:02/02/08 09:35 ID:TLWUa0zl
 そうやって、しばらくは大人しく説明を聞いていたののちゃん。
 けれども、突然に鳴りだしたお腹の音が、非情にも自分の本来の目的、
パン屋に行く最中だったという事を、思い出させてしまいました。
「てへへ。のの、お腹が空いてしまったのれす」
 頬を赤らめながらお腹をさするののちゃん。
 またも自分の話しを遮られ、少々不機嫌な面持ちをするいいらさんでしたが、
今度は何か良い事を思いついたのか、ののちゃんをキッチンへと誘いました。

 寝室を出るとすぐそこは、キッチンとダイニング。
 言われるがままにののちゃんが席に着くと、脇のオーブンらしきものから、とても良い匂いが
漂ってきました。
「丁度パン焼いてるとこだからさ、それ食べる? さっき買った生地で作ってるんだけど」
「本当れすかあ! はいはいっ! 食べます! いただくのれす!」
「へへ、カオリ料理好きだからさ。特注でね、この船に合うキッチンを作ってもらったんだ」

 少し音のずれた鼻歌を歌いつつ、小躍りしながらオーブンの前に立ついいらさん。聞いた
ことのない曲でしたが、何だかののちゃんも楽しくなってきました。
「うん。カンペキだ。マジヤバイかもしんない。カオリね、いっつも良いお嫁さんになるねって
言われるんだよね」
 ワクワクしながら待つののちゃんの前に、大きな皿に盛られたパンが並びます。
 がしかし、それを目にした途端に、何かいけないものを感じました。

 確かに、そこから漂う匂いは、焼きたてのパンのものです。思わず食欲を誘われる、
そんな香りでした。だけども、色がおかしい。青いのです。
 ののちゃんは思い出していました。
 小学校の頃、半分だけ残した給食のパン。帰宅途中に食べようと思って。でも、
掃除当番だったののちゃんは、すっかりそれを忘れたのです。
 翌日学校へ来た時に、今日こそ持って帰らなきゃ、そう思いました。
 学校で捨ててしまうと、先生に怒られるから。
 
 そう考えつづけて2週間ほど経った日、かつて食パンだった物体は、
食パンではなくなっていました。あの時と、同じ色。
59名無し娘。:02/02/08 09:35 ID:TLWUa0zl
「いいらさん……」
 重い口を開くののちゃん。依然として、いいらさんはオーブンの前にいます。
「これは、なんれすか?」
「ん? パンだけど。美味しそうでしょ?」
「パンれすか……」
「パンだよ。どうしたの? 美味しくなかったの?」
「いえ、そういう訳ではないと言うかなんと言うか……」

 残りのパンを運び終わり向かいの席に着いたいいらさんは、不思議そうな顔をして、
ののちゃんを見つめました。
「食べてないじゃん。お腹空いてないの?」
「……」
「変なの。ちゃんと言ってくれなきゃカオリわかんないよ」
 そう言いうと、さっさと自分はパンを食べ始めます。
 モグ、モグ。
「何だよー、超美味しいじゃんよ。やっぱポポンタ菌を付けて正解だったね。こんなに美味しくなった」
「ポ、ポポンタ菌!?」
「な、なによ突然。ビックリするじゃんか」
「ポポンタ菌って何れすか?」
「うっそ、知らないの? 調味料じゃん。旅先の食品にはコレって、小学生でも知ってるよ」

 奇妙なパンを美味しそうに食べ続ける、そんないいらさんに対し、ののちゃんは質問を続けました。
「食べれるんれすか? だって変な色してますよ?」
「は? カオリが食べてるじゃん」
 そんな風に言れても、一度湧きあがった不信感はなかなか拭えません。なにより、
目の前に居るのは自分とは違う星の人間。
 何事も無かったように接していた今までの方が、むしろ変だったのではと、ののちゃんは思い始めました。

「何でそんな目で見てんの」
「いいらさんは地球の人じゃないんれすよね」
「さっき言ったじゃん」
「……」
「何が言いたいのよ」
「……」
「すぐそうやって黙る」
 二人の間を、次第に険悪なムードが漂います。
 いいらさんは既に食事をやめていました。
60名無し娘。:02/02/08 09:36 ID:TLWUa0zl
「食べたいって、ののちゃんが言ったから出したのに」
「……らって」
「言いたい事があるなら声に出しなさいよ」
 相手の目を見ながら、意を決するののちゃん。

「らって。らってそんなのは親切の押し売りれすよ!」
「押し売りって。別にそんなつもりじゃ」
 途惑いの表情を見せるいいらさん。
 それを見た途端、やり切れない想いがののちゃんを支配しました。
「宇宙人の作った料理なんて食べれないのれす!」
 退くに退けなくなったののちゃんは、思わず怒鳴り声をあげ、勢いで皿を押しのけます。と、
パンの盛られた皿が床に落ち、音を立てて割れてしまいました。
 
「なにすんのよ!」
 咄嗟に腕を伸ばすいいらさん。その手はののちゃんを掴もうとしましたが、
寸ででののちゃんは避けます。
 かわしながら、ののちゃんは吐き捨てる様に言いました。
「宇宙人のくせに」

 不意におとずれる一瞬の間。続くいいらさんの叫び。
「フザケンナよ! だから僻地の人間は嫌なんだっ!」
 とうとういいらさんは怒り出してしまいました。