39 :
名無し娘。:
しばらくは大人しく説明を聞いていたののちゃんだったが、急に鳴りだしたお腹の音によって、
自分がパン屋に行く途中だった事を思い出した。
「てへへ。のの、お腹が空いてしまったのれす」
頬を赤らめながらお腹をさするののちゃん。
気持ち良く話していたのを遮られ、少々不機嫌な面持ちをしたいいらさんではあったが、
何か良い事を思いついたかの様に、ののちゃんをキッチンへと誘った。
いいらさんに即されて寝室を出ると、そこはすぐキッチンとダイニングになっていた。
言われるがままにののちゃんが席に着くと、脇のオーブンらしきものから、
とても良い匂いが漂ってきた。
「丁度パン焼いてるとこだから、それでも食べる? さっき買った生地で作ってるんだけど」
「本当れすか! はいはいっ! 食べるのれす!」
「へへ。カオリ料理好きだからさ、特注しちゃって、この船に合うキッチンを作ってもらったんだよね」
少し音のずれた鼻歌を歌いつつ、小躍りしながらオーブンの前に立ついいらさん。聞いた
ことも無い曲ではあったが、なんだかののちゃんも楽しくなってきた。
「うん。カンペキだ。マジやばいかもしんない。カオリね、いつも良いお嫁さんになるねって
言われるんだよね」
ワクワクしながら待つののちゃんの前に、大きな皿に盛られたパンが並ぶ。が、
それを目にした途端、ののちゃんは何かいけないものを感じた。
40 :
名無し娘。:02/01/28 10:12 ID:klA1DgkO
確かに、そこから漂う匂いは、焼きたてのパンだった。思わず食欲を誘われる、そんな香りだった。
しかし、色が、ヤバイ。青と緑とオレンジだ。
ののちゃんは思い出していた。小学校の頃、半分だけ残した食パン。帰宅途中に食べよう、
そう思っていた。でも、掃除当番だったののちゃんは、すっかりそれを忘れていた。翌日学校へ来た時、
今日は持って帰らなきゃ、そう思った。学校で捨ててしまうと、先生に怒られるから。
そう考えつづけて2週間が経ったある日、かつて食パンだった物は、食パンではなくなっていた。
その時と同じ色。
「いいらさん……」
重い口を開くののちゃん。いいらさんはまだオーブンの前に居まし
た。
「これは、なんれすか?」
「ん? パンだけど。美味しそうでしょ?」
「パンれすか……」
「パンだよ。どうしたの? 美味しくなかったの?」
「いえ、そういう訳ではないというかなんと言うか……」
残りのパンを運び合い向かいに座ったいいらさんは、不思議そうな顔でののちゃんを見た。
「食べてないじゃん。お腹空いてないの?」
「……」
「変なの。言ってくれなきゃカオリわかんないよ」
そう言い捨てると、さっさと自分はパンを食べ始めた。モグ、モグ。
「何だよー、超美味しいじゃんよ。やっぱポポンタ菌を付けて正解だったね。こんな美味しくなったよ」
「! ポポンタ菌ってなんれすか!?」
「うっそ、知らないの? 調味料じゃん。旅先の食品にはコレって、こんなの常識だよ」
「食べれるんれすか?」
「はあ? カオリ食べてるでしょ? 失敬だよキミ。これだからハロー星の人間は島星根性丸出しって言われるんだ。
カオリがここに来た理由も知らないで!」
とうとういいらさんは怒り出してしまいました。