◆モー乳総合スレッド◆

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169名無し娘。
第八話『ご挨拶』

「おはよ、春休みどうしてた?」
 そんな会話があちこちで湧き上がる朝。ののちゃんの学校は、今日が始業式の日でした。
 短くもあり、それでいて一番心の変化を求められる春休みを終えた生徒たち。
 今まで一年生だった子供は、新一年生を迎えるお姉さんとお兄さんになり、
二年生だった子供達は、最上級生へと変ります。
 ののちゃんも今年は三年生。中学校生活最後の1年が始まるのです。

「あ、のの!」
 昨日新調した真新しい靴を履き、期待と緊張に包まれながら登校してきたののちゃんに、
自分を呼ぶ声が聞こえました。
 声のする方、ちょうど生徒玄関の正面辺りに目を凝らすののちゃん。
 するとそこには、春休み中にも塾の春季講習で一緒だった、友達のあいちゃんがいました。
「あいぼーん! おはよー!」

 背も同じくらいならば、髪型も似たようにしている事が多い二人。
 後姿だけなら、どちらがどちらか担任も間違えるありさまです。
 前方にいるあいちゃんは今日もまた、自分と同じような髪の結い方をしていて、
それが何だか、嬉しいののちゃんでした。
170名無し娘。:02/05/19 21:19 ID:yOBQhQAK
 ニコニコ顔で近寄るののちゃんに向かって、少し引きつった顔で話しかけるあいちゃん。
「今来たんか?」
「そうれすよ。あいぼんも?」
 そう言ったののちゃんを見ながら、あいちゃんは大袈裟に肩を落としてみせました。
「違うねん、もう5分も前に来てん」
 なら何で教室に行かないの? そうののちゃんは一瞬考えましたが、
もしかしたら、自分を待っていたのかも知れないと思い、感謝の言葉を口にしました。
「ののを待っててくれたんれすね、ありがとうなのれす」

 あいちゃんは、ハッとした様にののちゃんを見つめました。
「ん? あ、ああ、ののも待ってるつもりもあんねん」
 返事に含みを残した言い方をみると、どうやらののちゃんの考えとは違っているようです。
「どうしたんれすか?」
 いつも元気なあいちゃんのその様子に、ののちゃんは心配になってきました。
「あんな、さっきから何度も、そこにあるクラス割りの表を見ようとしてん。
でもなんか妙に緊張して、ちっとも見れへんねん」
 照れた様にモジモジするあいちゃんを見て、ののちゃんは拍子抜けしました。
 まさかそんな事だったなんて。
171名無し娘。:02/05/19 21:19 ID:yOBQhQAK
「あいぼんも案外いくじがないのれすね」
 からかうつもりで、そう声をかけるののちゃん。
 あからさまにバカにした様な顔をした所為でしょうか、あいちゃんは必死に否定しました。
「違うでのの、別にビビってる訳やないよ。ただちょっとその、な?」
「ふーん」
 元気だけが取り柄で、臆病なそぶりを見せた事がないあいちゃんにも、
こんな弱点があったのかと、ののちゃんはおかしくなってきました。

「じゃあののが見てきますよ。あいぼんのも」
「へ!? も、もう行くんか? もう少しトークを弾ませようよ」
「早くしないと、もうすぐ朝の学級会の時間れすよ?」
「でもぉ」
「ココにいつまで居ても、何がどうなる訳でもないのれす。さ、ののが見てきますからね」
「ああぁぁ…」
172名無し娘。:02/05/19 21:20 ID:yOBQhQAK
 情けない声を上げるあいちゃんを尻目に、玄関前に立つ掲示板へ向かうののちゃん。
 ざわつく人混みを器用に抜けて、掲示板に貼ってある表に視線を移します。
 まずののちゃんは、自分の名前を確認しました。昨年度のクラス表にある「辻希望」の文字を横に辿ると、
そこには今年度のクラスが書いてありました。
 それを確認したのちに、今度は今年度のクラス表の、自分の教室を見ます。
 まず驚いたのは、「中澤裕子」と書かれた担任の欄でした。
「また中澤先生れすか」
 実はののちゃん、これで3年連続して中澤先生の教室という事になるのです。

 ハデ目のパンツスーツに、太陽光を照り返すド金髪。年のわりに可愛い顔をして、
それでいて関西特有の荒っぽい口調のこの人は、どこからどう見ても教師に見えませんでした。
 ところがそんな中澤先生ですが、表裏がなくさっぱりとした性格が功を奏してか、
意外と生徒にもその親御さんにも、評判が良かったのでした。
 ののちゃんも、中澤先生が好きでした。