【小説】 ★★ 『ハロプロ』バトルロワイヤル★★

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699デッドオアアライブ
【 BATTLE AFTER 】第十六話 

 どこか寂しげな街路地を所在無げに歩く3人・・・
市井は小さな公園を見つけて紺野と高橋を促がす。

噴水を見ながら市井が高橋に聞く。
「なあ、高橋・・・お前の大切な物ってなんだよ・・・?」
「・・・・・・」
うつむいて答えようとしない高橋。
「・・・松田とか言う男か・・・?」
「何故それを?」
フッと笑う市井。
「歩きながら、切なそうに話したじゃないか・・・」
「・・・?・・・」

高橋は今しがた何を話したのか記憶が無い、それは紺野も同じだった。
市井の念能力『パンサーアイ』で木偶と化した事も分からない。
2人は記憶が所々飛んでいた。

「松田と言う男・・・私が殺したよ・・・」
「えっ!」
「黒ずくめの男だろ・・・」
「嘘です!あの人は念法を使えるんです!」
「私も使える・・・・」
「そんな・・・・」
ワッと泣き出す高橋。


高橋から松田の名前と姿形を聞いて市井は少し驚いた。
松田優作を瀕死の状態に追い込んだのは市井だったのだ。
だが、松田は生きている。
明らかな嘘を言い放つ市井沙耶香。
しかし、高橋と紺野は市井の嘘が分からない・・・
自分が市井の言うなりになってることさえ解からないのだから・・・


「ここだよ・・・高橋、今日からお前はこの部屋で一人で暮らすんだ・・・」
市井は高橋にマンションを用意した。
高橋の手には百万程の札束が握られていた、生活費として市井が用意したのだ。
「ここで、一人で・・・?」
「そうだよ、私が迎えに来るまで一人で暮らしな・・・」
「何故・・・・」
「・・・自分を探しな・・・」
そう言うと市井は一瞥もくれず部屋を出る。

一人ポツンと残されて、所在無げな高橋・・・
「・・・自分・・・?」
不安は膨らむばかりだった。

暫らくするとチャイムが鳴った。
「・・・はい、どちら様です?」
「・・・俺だ・・・」
その声に凍りつく高橋。
聞き憶えがあるその声・・・・
信じられない面持ちでフラフラと玄関の鍵を外す・・・・

市井の言った『自分を探す』という言葉・・・・
言葉の意味さえ今の高橋には解からなかった・・・・


700デッドオアアライブ :02/06/16 02:59 ID:qA9i8QqS
【 BATTLE AFTER 】第十六話 

 飯田は気が気ではなかった。
辻から連絡を受けて直ぐに帰京した。
何故か悪い予感がする、紺野と高橋は勝手に行方を眩ます人間ではなかった。
『ツョッカー』の残党の仕業かもしれない。
渋川、吉澤、後藤にも、来てくれと頼んだが
相手が念能力者だったら、吉澤と後藤では手の打ちようが無かった。
彼女達は修行中の身なのだ。
渋川はそれを指導する立場の人間だ、彼が居なければ修行は出来なかった。
(冷たい連中だ、来てくれたっていいじゃない!)
飯田は解かっている、もしも相手が念能力者だったら、死ぬのは吉澤達だって事は・・・
でも・・・そう思わずにはいられなかった。

紺野達のジンジャーが見つかり、飯田は七曲署の刑事達に
事情を聞いたが、逆に飯田が事情聴取される羽目になった。
刑事達は当てにならないと思った飯田は愛車『サイクロソ』に乗り込み
当ても無く道路に飛び出す。

「かおり、何処に行くの?」
安倍に咎められても、ただ黙って家に居る訳にはいかなかった。
「何か有ったら携帯に電話して!私は探しに行く!」
当ても無くバイクを走らす飯田。
紺野の反応を示す携帯レーダーは持ってる。
しかし、機械音痴の飯田には使いこなす事は出来なかった。

飯田は本当に当ての無い捜索を開始した。
泣きたくなる気持ちをグッと堪える飯田は
自分さえ居たらこんな事にはならなかったと自分を責める。
それ程、自分を追い込んでいた。

701デッドオアアライブ :02/06/16 03:00 ID:qA9i8QqS
【 BATTLE AFTER 】第十六話 

 市井さん・・・教えて下さい・・・これは貴女の望んだ事なんですか・・・?

あれから何日たったのかも分からない・・・
何週間か・・・何ヶ月か・・・自分は何者なのか・・・

コツコツコツ・・・・・
今日も自分を求めてこの部屋にやって来る、
廊下を歩くあの男の足音が聞こえてきた・・・

プルルルル・・・・・
耳に押し当てる冷たい受話器から聞こえる「・・・今から行く・・・」あの男の声・・・
鍵を外し、暗い部屋で息を詰めて待つ自分が居る・・・

その男は松田に似ていた・・・
声も、顔も、話し方も、そして・・・優しさも・・・
でも・・・別人だった・・・

彼は自分を松田と名乗った・・・
でも解かる・・・偽名だと・・・

話していく内に松田に似ているその男に惹かれ始めた・・・
肌を合わせるのに時間は掛からなかった・・・
高橋は松田に似ているその男を突き放す事が出来なかった・・・
いや、寂しかったのかもしれない・・・

逢瀬を重ねる程、会いたいと思う気持ちが強くなる・・・
これが愛なのか自分でも解からない・・・
でも、会いたいと思うほど、自分の気持ちが見透かされているのが解かった・・・

いつか尋ねた事があった。
「泊まっていかないの・・・?」
ベットで腕を回す男は静かに首を振った・・・
恥ずかしかった・・・
心を読まれているような気がして・・・

高橋は解かっている・・・
その男が松田では無い事は・・・

しかし、その男の瞳は優しさに満ちていた・・・
その優しさを離したくなかった・・・
痛い程に心が引き寄せられる・・・

もう、忘れたい・・・全てを・・・
胸も、髪も、指も・・・全て燃え尽きたい・・・




私、どうかしてるのかな・・・?
もう、自分が解からなくなったよ・・・


市井さん・・・教えて下さい・・・これが貴女の望んだ事なんですか・・・?

702デッドオアアライブ :02/06/16 03:02 ID:qA9i8QqS
【 BATTLE AFTER 】第十六話 

 当て所ない捜索の旅をする飯田の携帯に辻から連絡の入ったのは
数週間が過ぎる頃だった。
『あさ美ちゃんから電話が来たのです!飯田さんが帰ったらまた電話するって!』
「なに!本当か?よし、今から帰るよ!5時間ぐらい掛かるから待ってて!」
今、飯田は広島に居た。
変身して『サイクロソ』を飛ばせば、そのぐらいの時間で帰れる筈だ。
「変身!!」
高速道を飛ばす銀のバイクは眩しい閃光になった。



紺野からの電話は、あの港で待ってるとの事だった。
「あの港・・・?」
辻がキョトンと聞く。
「ああ、高橋と松田さん、そして小川と会った港だよ・・・」
そんな場所に呼び出すなんて・・・
飯田は嫌な胸騒ぎがした。
「ののも行くのです!」
「うちも行くでぇ!」
辻と加護は付いて行くつもりだ。
「お前達は駄目だよ!嫌な予感がするんだ・・・」
「なら、なおさら行くのです!ののは強いのです!」
「うちだって、めっちゃ強いでぇ!」
飯田は困った。
「絶対、駄目!聞き分けなさい!」
「絶対、行くのです!」
「絶対、行くでぇ!」
飯田は呆れる。
「じゃあ、勝手にしな!」
「じゃあ、勝手にするのです!」
「じゃあ、勝手にするでぇ!」
飯田は天を仰いだ・・・・
成り行きを見ていた安倍と矢口は下を向いて左右に首を振った。


車道を飯田のバイクを先頭にライオンと虎に乗った辻と加護が追いかける。
改造獣の獅子丸と虎太郎はバイクをも凌駕するスピードを誇った。


夕暮れが迫る港の倉庫群に紺野は一人でポツンと立っていた。
703デッドオアアライブ :02/06/16 03:05 ID:qA9i8QqS
【 BATTLE AFTER 】第十六話 

 「紺野!」
バイクを降りる飯田が近寄る。
どうやら、心配する事もなさそうだ、紺野はニコニコしていた。
辻と加護も顔を見合わせて喜んでいる。
ホッとした顔からも分かるように、どうやら子供心にも一応の不安はあったらしい。
「お前・・・何処で何してたんだよ!心配かけさせやがって!」
「ごめんなさい」
ペコリと頭を下げる紺野。
「うん?高橋はどうした?一緒じゃないのか?」
その質問を無視して紺野は話し出した。
「飯田さん・・・この場所憶えてますか・・・?」
「おお、まあな・・・お前と高橋が喧嘩した場所だろ・・・
あの時はお前のお蔭で助かったよ・・・」
「私、あの時、ここで決めたんです・・・」
「・・・?・・・」
「私の使命はあなた達を守る事だって・・・」

紺野はうつむき肩が上下に揺れだした。
「どうした紺野・・・泣いているのか・・・?」
紺野はすすり泣いている。
「どうした?・・・なんで泣く?」
飯田は近付いて肩に手を掛ける。
「わ・・・私、あの時、決めたんです!・・・掛替えの無い人達を守るって!!」
顔を上げた紺野の顔は涙でグシャグシャになっていた。
「それが、私の使命だって!!!」
「・・・紺野・・・」
紺野は声を出して泣いた。
今までに見た事もないくらい顔を崩して・・・
今までに聞いた事がないくらいに大きな声を出して・・・
704デッドオアアライブ :02/06/16 03:07 ID:qA9i8QqS
【 BATTLE AFTER 】第十六話 

 「紺野・・・・」
飯田は泣きじゃくる紺野を抱きしめた。
「どうしたんだよ・・・さっき怒ったのは謝るから・・・」
尚も泣き続ける紺野の声は叫びに近くなる・・・
「私はここで・・・飯田さんを守るって誓ったんだ!!!!」

「分かったよ・・・もう、心配ないから・・・ねっ・・・」
紺野の頭を撫でながら抱きしめる飯田の顔も涙で濡れていた。

「・・・!!!・・・」
泣き叫ぶ紺野と抱きしめる飯田の間から赤い鮮血が滴り落ちた。

「・・・紺野・・・あんた・・・」
ガクリと跪き、前のめりに倒れる飯田・・・・

発狂したかと思える程に泣き叫ぶ紺野の右手には飯田の血に濡れた
小ぶりのナイフが握られていた。

「飯田さん!」
辻が駆け寄り飯田を支える。
「あさ美ちゃん、何すんのや!!」
加護が紺野に駆け寄り肩を揺する。

「わぁぁああああぁあぁぁああぁぁぁあああああぁぁぁぁぁああああ!!!!!」
頭を振る紺野の叫びは絶叫に変わっていた。

「こ・・・紺野・・・どうして・・・・」
辻に支えられる飯田の口からは鮮血が滴る。

そこに、倉庫の影からユラリと出てくる人影・・・
市井沙耶香だった。
705デッドオアアライブ :02/06/16 03:08 ID:qA9i8QqS
【 BATTLE AFTER 】第十六話 

 「さ・・・沙耶香・・・」
飯田も、辻、加護も驚きを隠せないでいる。

「・・・紺野、黙りな・・・」
市井の命令で紺野の絶叫はピタリと止んだ。
しかし、止め処もなく流れる涙は止まらなかった。

「かおり・・・この娘は私が貰うよ・・・その為にはアンタが邪魔なんだ・・・」
無表情の市井には再会の情も無いようだった。
「沙耶香・・・お前か・・・キサマが紺野を!!!!」
飯田がゴフッと大量の鮮血を吐いた。
「あんたに刺さったナイフには私の念が込めてある・・・助からないよ」

「飯田さん!!」
辻に支えられていた飯田がズルリと崩れる。
それを見た加護の瞳が怒りに燃えた。
「虎太郎!行け!!」
加護が虎を市井にけしかける。
猛獣の雄叫びと共に市井に飛び掛る虎は、市井の前で喉をゴロゴロと鳴らす猫になった。
虎の頭を撫でる市井は加護に向かって薄く笑った。
市井沙耶香の邪眼『パンサーアイ』は猛獣さえも愛玩動物に変わる。

「ののがやるのです!」
辻の顔も怒りで赤くなっていた。
「スカフィーアタック!!」
辻の操るスカイフィッシュは高速で人の肉を切り刻むカマイタチだ。
無言のまま腕を無造作に伸ばす市井。
その伸ばした腕の拳にはウネウネと蠢く透明な生物が握られていた。
グシャリとスカイフィッシュを握り潰す市井はそのまま踵を返す。
「行くよ・・・紺野・・・」
フラフラと市井に着いて行く紺野・・・・
その紺野の右手からポトリと血に染まるナイフが落ちた・・・・

呆然と見送る辻と加護はハッと我に返り飯田に駆け寄った。
「飯田さん!飯田さん!飯田さん!」
返事も無い飯田は虫の息だった・・・


706デッドオアアライブ :02/06/16 03:09 ID:qA9i8QqS
【 BATTLE AFTER 】第十六話 

 市井の貸し与えたマンションで肌を合わせる高橋と男・・・

高橋はこの松田と名乗る男を愛していた・・・

ギシギシと揺れるベットで男に乗られている高橋は
何時の間にかベットの横に立ち尽くしている市井と紺野に気付いた。
「市井さん!・・・あさ美ちゃん・・・いやっ!見ないでぇ!!!」
顔を両手で隠す高橋は指の間からチラリと紺野を見た。

「・・・!!・・・」
紺野の右手には日本刀が握られていた。
「な、何するの・・・?」
無言で振り下ろされた日本刀は男の首を刎ねた。
「・・・・!!!!!・・・・」
ボトリと落ちた首はゴロンとベットの下に転がる。
頭の無い首から真っ赤な鮮血が高橋に降り掛かる。
「きゃぁぁあああああぁぁぁぁあああああ!!!!!」

高橋は泡を吹いて失神した。

「・・・愛などと言うものは無い・・・」

薄れる意識の中で市井の声だけがやけにハッキリと聞こえた・・・・

男は市井が邪眼で何処からか拾ってきた木偶だった。

それは高橋から『愛』を奪う為の人形・・・

仕組まれた愛情は紺野の手で完結した・・・


707デッドオアアライブ :02/06/16 03:10 ID:qA9i8QqS
【 BATTLE AFTER 】第十六話 

 愛と仲間・・・

それぞれの一番大切な物を奪った市井沙耶香・・・

2人の少女から奪った物で何を得るのか・・・

何もある筈は無かった・・・

市井には彼女達が眩しすぎた・・・

ただ、これで命がけで守る物が出来たと思った・・・

奪った物の大きさは、これから生きる為に必要な枷になる・・・

命がけで守る物・・・

それは紺野と高橋の命だった・・・

この矛盾に満ちた、歪んだ市井の心の地獄は何処から来るのか・・・

その市井の心の闇は過去に遡る・・・

・・・後藤真希・・・

姉と慕う後藤を自分の手で殺めた瞬間・・・

その瞬間から市井の時間は止まったままだった・・・

その時の心模様全てを後藤に話したかった・・・

しかし、市井は知らない、後藤が生きている事を・・・

それは市井が紺野と高橋に聞く事をためらった為の悲劇・・・

聞いてさえいれば救われる筈だった心の歯車・・・

ずれた歯車から派生する、悲劇の連鎖を修復する事は可能なのか・・・ 

それは、誰にも解からない・・・

たとえ神様がこの世に存在したとしても・・・