【小説】 ★★ 『ハロプロ』バトルロワイヤル★★

このエントリーをはてなブックマークに追加
685デッドオアアライブ
【 BATTLE AFTER 】第十五話 

 海岸線の通学路を紺野と高橋のジンジャーが2台並んで走る。
朝の眩しい空気の中で高橋と顔を見合わせてニコリとする紺野は
飯田に渋川と一緒に北海道に帰るように命じた事を
(本当は私は良い事をしたんだ)と、自分自身に言い聞かせていた。

渋川が帰ると言い出してから急にショボーンとしだした
飯田に対してキツク言い過ぎたかと、内心反省していたのだ。

その飯田から、渋川の家で思いがけず吉澤達と会ってしまい
一緒に修行すると連絡が入って紺野はホッとした。
電話の向こうから聞こえる飯田の声は本当に嬉しそうだったからだ。 

「これで、良かったんですよ、ねえ、愛ちゃん?」
「・・・何が?・・・」
不意に紺野から同意を求められても何の事だか分からぬ高橋は小首をかしげる。
「あっ、いや、なんでもないよ・・・」
ハハハと照れ笑いする紺野の目の片隅に寂しげな女性が映った。
遠目にしか見えないが、防波堤に腰を下ろし海を見詰めて物思いにふける、
何故かその女の人が気になった。

「どうしたのボンヤリして?・・・今度はよそ見?」
高橋の声にハッと我に返る紺野。
「ははぁ、分かったよ、あさ美ちゃん、飯田さんが帰って来ないから寂しいんだ?」
「えっ、ち、違います、居なくなって、かえって清々してるんだから」
「え〜、本当?」
「本当です、さっ、急ぎましょう、遅刻しますよ」
アクセルをふかしキャハハハと高橋との距離を離す紺野は
制服のスカートをはためかせ、
「早く、早く〜」と高橋に大きく手を振った。



686デッドオアアライブ :02/06/14 02:42 ID:/Jcby8lu
【 BATTLE AFTER 】第十五話 

 同じ女子高、同じクラスの紺野と高橋はいつも一緒に行動する。
いつかの、すれ違った2人の心の距離を埋めるように・・・

高橋は時々、寂しそうな顔を見せる。
多分・・・いや、きっと松田の事を思い出しているんだろう。

でも紺野はそれは仕方の無い事だと思う。
男の人を好きになったことは有るが、愛したことは無い。
高橋の寂しげな顔を見るたびに自分では埋められない愛という言葉。
紺野は焦っている訳ではなかった・・・・
ただ・・・少し・・・切なかった・・・


今日のお昼の弁当は高橋が作ってきた。
オカズは高橋特製のハンバーグだった。
昨夜一人で一生懸命ひき肉をこねる高橋は横から覗き見する
紺野と辻に見ちゃ駄目と必死に両手で材料を隠した。

高橋のハンバーグは美味しかった。
「安倍さんのハンバーグと同じくらい美味しいですよ」
「本当?」
「ええ、愛ちゃん昨日一生懸命作ってたもんね」
牛乳瓶を口に運びコクコクと飲む紺野を頬杖をついてニコニコと見る高橋。

「どうしたんですニヤニヤして?」
「へへへ〜」
「もう、言ってください」
「そのハンバーグね、あさ美ちゃんが嫌いな人参とピーマンがたっぷり入ってるんだよ」
「えっ」
目をパチパチとまばたく紺野。
それを見た高橋は「やったー」と手を叩いて喜んだ。
「もう!」
ほっぺたを膨らませながら唇を尖らせる紺野は
昨夜の高橋の慌てぶりを思い出して涙が込み上げてくるのを必死に我慢した。
687デッドオアアライブ :02/06/14 02:43 ID:/Jcby8lu
【 BATTLE AFTER 】第十五話 

 「愛ちゃん、いい物見せてあげる」
お昼休み、高橋の手を取って校舎の裏庭に案内する紺野。
「へへへ〜、花が咲いてからと思ったんだけど・・・・」
小さな花壇の端にアザミが小さなつぼみを付けていた。
「この花はアザミって言って9月14日の誕生花なんだよ」
「・・・私の誕生日・・・・」
「そう、私の名前にもちょっと掛けてるんだけどね」
高橋は屈み込み、小さな赤いつぼみをそっと撫でる。

暫らくの間、高橋はつぼみを見詰めていた。
しゃがむ高橋の小さな背中は少し震えている。
「ねえ、あさ美ちゃん・・・これあさ美ちゃんが育てたの?」
「う、うん・・・」
紺野も屈んでひっそりと佇むつぼみを見る。


アザミの花言葉は『独立』だった。

花と同じように小さな高橋は何から独立するのか、紺野は判らない。

色も形も違う2人の小さな翼は、いつ羽ばたくのか、それも判らない。

でも、今日ちょっとだけ翼を広げて羽ばたいてみようと思う。

お互いの間に流れる小さな溝ぐらいは飛び越える事が出来そうな気がする。

それが出来なくても、支え合い求め合える掛替えの無い友達になりたい・・・・


「ねえ、あさ美ちゃん・・・私もお花に水をあげてもいい?」
「うん・・・いいよ」
立ち上がり如雨露を取りに水飲場に駆け出す高橋を見詰める紺野。


小さな翼を広げたのは高橋も一緒だった。

お互いの翼が重なり合って今までより鮮やかな色彩の翼が出来上がる。

紺野は今日出来たばかりの『おとぎ話』をいつか高橋に話せる日が来る・・・
そんな事をぼんやりと考えながら如雨露から水をこぼしながら
駆け寄ってくる高橋を笑顔で迎えた。
近い日に花咲くであろう高橋の誕生花を2人で見る事を楽しみにして・・・・

688デッドオアアライブ :02/06/14 02:46 ID:/Jcby8lu
【 BATTLE AFTER 】第十五話 

 いつもの海岸線をジンジャーで下校する紺野と高橋。
紺野がジンジャーを止めて防波堤を訝しげに見る。
「どうしたの?」
「うん、あの人・・・・朝も居ましたよ・・・・」

防波堤に腰を下ろし、海を見詰める女性が居た。
「朝から・・・?」
「ええ、確かにあの女の人です」
目を凝らして見る・・・・・

ドクンと紺野の心臓が鳴った。

気付いたのは紺野だけではなかった。
「あ、あの人は・・・・」
高橋の声は震えていた。
「とにかく行ってみましょう、私達を憶えているんなら危害は加えないでしょう」

ボンヤリと海を眺めている女性は紺野達が後ろに近付いても気付かないようだった。
「あ、あのう・・・」
声を掛ける紺野に虚ろな瞳で振り向いたのは市井沙耶香だった。
「やっぱり、市井さん・・・」
「どうして私の名前を・・・・?・・・・・」
市井の瞳の焦点が合ってくる。
「あ、あんた達・・・紺野と高橋・・・・?」
「はい、お久しぶりです」
紺野と高橋はペコリと頭を下げた。

防波堤に並んで腰を下ろす3人の影。
「あの・・・朝からここに居たんですか?」
「なんだ知ってたのか・・・だったら朝に声を掛ければ良かったじゃん
って、そっかぁ、学校に行ってるのか?」
制服を見る市井に高橋は頷く。
「いや、懐かしいなあ・・・あの時、丁度この3人でチーム組んでたもんな・・・」
「はい、あの時はお世話になりました」
もう一度頭を下げる紺野に手を振って遮る市井。
「そんな大層なもんでないよ・・・恥ずかしいよ」
市井はポリポリと頭を掻いて照れてみせた。
何時しか3人は忌まわしくも懐かしい思い出話に花を咲かせた。
689デッドオアアライブ :02/06/14 02:47 ID:/Jcby8lu
【 BATTLE AFTER 】第十五話 

 思い出話もポツリポツリと途切れがちになる頃、市井はフッとこぼした。
「実はな・・・死に場所を探してたんだ・・・」
「えっ?」
「あ、いや、何となくだよ・・・・」
ハハハと笑う市井の顔を2人は凝視する。
2人の視線に気付いた市井は観念したように呟いた。
「・・・いや、実はな・・・自分でもよく分からないんだ・・・」
うつむく市井に高橋が立ち上がり声を掛ける。
「だ、だったら、私達と一緒に暮らしましょうよ」
市井はその姿勢のまま左右に首を振る。
「どうして?」
「あんた達とは棲む世界が全然違うよ・・・・」
「違う?何が?・・・・市井さん改造人間でしょ?」
高橋のその言葉にビクリとする市井。
「私だって、改造人間です・・・・でも・・・でも・・・・」
ヒックヒックとしゃくり上げ始めた高橋はそれ以上言葉が出なかった。
紺野がなだめて高橋を座らせる。
沈黙の時間が続き、辺りは夕暮れの朱色に染まる・・・・

不意に口を開いたのは市井だった。
「なあ、高橋・・・やっぱり私はあんた達の世界に飛び込めないよ・・・・
でも、その逆だったら・・・・」
何かを決意した市井に紺野が聞く。
「その逆ってなんです?」
「なあ、もう一度トリオを組むか?」
「トリオ・・・?」
「そう、そしたら私にも失った何かを取り戻せるかもしれない・・・・」
市井の瞳が静かに光りだす・・・・・
その日を境に高橋と紺野は行方が分からなくなる・・・・・
 

花壇にひっそりと佇む、2人で育てようと約束した高橋の誕生花・・・

紺野がいつの日か高橋に聞かせたいと思った、形も色も違う2人の翼のおとぎ話・・・

紺野と高橋のささやかな夢は叶わぬ願いに変わるのか・・・

3人が消えた海岸沿いの道には2台のジンジャーがきちんと並べられていた・・・

持ち主の帰りを何時までも待つかのように・・・