たとえば君が帰宅したらベッドの中に...

このエントリーをはてなブックマークに追加
524そら。 ◆HiPYagUc

「あ、あの・・・」
矢口は何か言いたげにもじもじしている。

「なんですか?」
「仕事・・・とか時間・・・大丈夫なんですか?」

矢口に仕事と言われ携帯に目を落とす。

―――8時45分
俺の中で一瞬時間が止まった。

「やっべー」
俺は慌てて仕事の準備に取り掛かる。

「わ、わたし何か作ります」
そういって矢口は台所へと入っていった。

俺は矢口の入っていった台所をしばらく見つめていた。
525そら。 ◆HiPYagUc :02/03/28 01:10 ID:SGviHvOw

彼女の作ってくれた朝食もそこそこに俺は
玄関にと向かう。

この時点でもう遅刻は確実なのだがこれ以上
遅れるわけにも行かなかった。

「もし何かあったら連絡してください。」
そう言って自分の名刺を差し出す。

矢口はそれを受け取ると笑顔で笑った。
「いってらっしゃい」

――いってらっしゃい
長年一人身の俺はこの言葉にちょっと照れくさく

「いってきます」

とはにかむように答えた。
526そら。 ◆HiPYagUc :02/03/28 01:16 ID:SGviHvOw

アパートを降りたところにある大きい桜の木では
満開の花びらがゆれていた。

季節はもう春を告げている。
別れの季節は終わってこれからは出会いの季節。

全てはここで終わるわけじゃない。
全てがここから始まるのだ。

俺は走り出した。
今までの自分を捨ててこれからの自分へと

捨てたからと言って忘れるわけではない。

これからの全てが始まりだしたのだ。
   
                       ―― 完 ――