シアター

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91ごっつぁむ@作者
「圭ちゃんと、何話したの?」
圭ちゃんが出てからすぐに入れ替わりでよっすぃーが入ってきた。
「別にぃ〜…ちょっとした話だよ」
あたしは、外の雪を眺めながら気のないフリをして返事を返す。
「…あのさ、ごっちん。昨日の夜のことなんだけど…」
姿の見えないよっすぃーの声はとてもか細く、弱々しい声に聞こえた。
「何?」
あたしが少し気になって後ろを振り返ると、よっすぃーは下をうつむいたままで黙っていた。
そして、そこまで言いかけると「いいや、何でもない!」と後ろを振り返り出ていってしまった。
「なんなのよ、よっすぃー…」
口ではそう呟いたが、頭の中では一つの考えが浮かんだ。
よっすぃーは何か、知っているのではないか。
そういえば、昨晩よっすぃーはずーっと階段に座っていた。
何かを見たとしても変ではないはず。
…もしや、よっすぃーが犯人ということも有り得るのだろうか。
……止めろ、真希。そんなこと考えるなんてホントにどうにかしてる。
あたしは自分自身に言い聞かせ、再び雪の降る外の景色の鑑賞した。

……。
アレ?
人影が二人。
あたしの視界のちょっと下(つまり1階層ね)に人影が二人見えた。
従業員の二人かも、と思ったがその姿には見覚えがある…いや、もう見飽きたとでも言おうか。
「アレは……!!」
あたしは気づいた瞬間に、スリッパを履くのも部屋にカギをかけるのも忘れて隣の加護と高橋の部屋の前に立った。
「加護、高橋、なっち!!」
ドアをノックもせずに乱暴に開け、中にいた三人に声をかける。
「何だよ〜、ごっちんはそんなに慌てたりして〜」
「い、今…下に、かおりとつ…」
「ののっ!!?」
あたしの言葉を言い終わるより先に、加護が辻の名前を叫んで部屋から飛び出した。…スリッパも履かず。
加護に続くようにして、なっちと高橋も部屋から飛び出した。
高橋は「私がみんなを呼んでくるので、後藤さんは下に下りていってあげてください」と言って、隣の部屋のドアを叩いていた。
あたしは「わかった」と返事を返した瞬間、階段を駆け下りた。

階段を駆け下りた玄関のその先には…
開かれたドアと、さらにその先に見える抱き合う加護と辻、なっちとかおりの姿があった。
92アルマーニ濱口 ◆2ggkL5EU :02/01/28 02:01 ID:lfzVbSGB
合流したな
これからの展開が楽しみだ
93ななし:02/01/28 04:46 ID:mrL8qeYS
最近夜この小説読むのが楽しみ。
更新期待してるぞ
94ごっつぁむ@作者:02/01/28 22:21 ID:vZr3ofv8
「新垣が…死んだ?」
かおりが怪訝そうな顔をして、あたしたちを見回していた。
「…嘘だよ〜!そんなの!みんな、かおりを騙そうったってそうは行かないんだから!!」
かおりは、食堂のテーブルに肘をつきお茶を啜りながら、苦笑いでけらけら笑っていた。
あたしはかおりの隣の辻に目がいき、いつもより大人しい辻が気になった。
「辻、どうした?」
「…………」
あたしの問いに辻は、答えずに黙ったままだ。
お腹がすいて機嫌でも悪いのかな?…と思ったが、どうやらそうでもないみたいである。
目が虚ろで、ボーっとしたままうつむいている。
「…死体」
「は?」
辻がぽつりと呟いた、縁起でもない言葉をあたしは聞き漏らさなかった。
「死体???」
「……」
あたしが確認しようとしても、辻は黙ったままうつむいている。
「のの、どうしたの?」
辻の手を握って加護が聞くが、辻はブルブル首を横に振って黙ったままだった。
「辻、答えて」
あたしが最初は優しく聞くが、辻は相変わらず黙ったまま。
「辻。答えて!」
もう一度、今度は強く聞くが、それでも首を横に振って何も話そうとしない。
沈黙が続くが、またもや辻が断片的にぽつりと呟いた。
「……雪ダルマ、駐車場……」
死体に、雪ダルマに駐車場?
あたしはその三つの単語でなんとなく想像ができてしまった。
「……かおり」
今度は辻ではなく、かおりに問う。かおりはビクッとして目を逸らしたまま「何?」と聞いた。
「見たんでしょ?何か」
「……」
辻もかおりも、他のみんなも黙ったままで、相変わらず重々しい空気が流れていた。
……。
あたしは、沈黙の中静かに立ち上がった。
そして、食堂を出ようと足を運ぶ。
「後藤、どこ行くの!」
だが、圭ちゃんに止められた。
「あのスキー場の駐車場。そこで…多分あたしの予想だとスタッフの人の遺体があると思う」
圭ちゃんをはじめ、かおりと辻以外のみんなは驚いていた。
「一人で行くなんて危険過ぎる!!」
圭ちゃんがあたしを心配してか、そう言うがあたしはできれば自分の目で確かめたい。
「…カオリが、案内するよ」
かおりが静かに立ち上がりあたしに申し出る。
あたしは、初めからそうして貰いたかったのだが、敢えて「いいの?」と聞いた。
「…一人じゃ、危ないでしょ。カオリ、リーダーだもん。行かなきゃ」
かおりがそう言うと、やぐっつぁんが今度は立ち上がった。
「なら、矢口も行く」
…あたしは、正直言って今度ばかりは少し戸惑ったのだが、やぐっつぁんは「運転手が必要でしょv」と
ちゃっかり左手に握ったカギを見せウインクした。
「わかった。…後は?」
あたしが他の黙ったままのメンバーに質問するが、他に名乗り出る者はいなかった。
「じゃあ…」
あたしが二人に移動を促そうとした時、紺野がおどおどと立ち上がった。
「あの、後藤さん…私も行っていいですか?」
「…ハイハイ、そう言うと思ってたよ。じゃあ、きちんと寒くない格好しておいでね」
あたしの言葉に、紺野は急いで2階の部屋に上がって行った。
95ごっつぁむ@作者:02/01/28 22:53 ID:vZr3ofv8
「じゃあ、気をつけてね」
圭ちゃんがあたしたちにそう言って見送る。
あたしも「そっちこそ、殺人犯に気をつけて」と言い残し、バスに乗り込んだ。

……できれば、2度とこの人の運転する車には乗りたくないのだが。
歩いて行って帰ってくるのに、下手したら1時間近くはかかってしまうだろうし。
ここは素直にやぐっつぁんに頼るしかないと言うわけだ。
正面から最前列の左側の通路寄りの席にかおり、
右側の通路寄りにあたしで、窓寄りの方に紺野が座った。
「じゃ、行きますよ〜」
やぐっつぁんが、威勢よく声を上げるが、
あたしは心の中で「頼むから、安全運転してくれよ…」と神様に祈りたい気分だった。

ブルルルル…

エンジンがかかり、車が雪道を走り始める。
上手くいけば、5分ちょっとで駐車場まで着くはずだ。
「順調順調♪ど〜お〜後藤!矢口の運転も、サマになって来たでしょ〜!!」
「キャ〜!!矢口、前見て。前!!!」
振り向いたやぐっつぁんを見て、かおりが悲鳴をあげた。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ!矢口にオ・マ・カ…」
「辞めて!!マジで、前だけ見てて!!お願いしますから!!」
…あたしもかおりと一緒に悲鳴をあげていた…。

「もう〜だらしないよ、二人とも」
バスが到着するなり、やぐっつぁんはあたしたちのところまで近づいてきて言った。
「あんな…あんな運転で…」
かおりはほとんど泣き顔で何事かをポツリポツリと呟いていた…。
「ホラ、行くよっ!」
……。
やっぱり、歩けばよかったという後悔は捨てられなかった。

「後藤さん、後藤さん…」
バスを降り、外に出てから紺野がバスの裏側に回り小さな声であたしを手招きした。
「何?」
あたしはやぐっつぁんとかおりに気づかれないように静かにそれに近づく。
大体の予測はついた。
「で?まだかおりを疑ってるんでしょ?」
「はい」
あたしの予測通り、紺野は小さく返事を返す。
「あのねぇ…あの様子でかおりが犯人なワケないわよ。現に辻だって…」
「辻ちゃんを脅したのかも知れません」
…。あたしの否定をあっさりぶち壊す紺野。
「…じゃあ、なんで辻を真っ先に殺さないワケよ?」
「自分が疑われるからです」
…。またもやあっさり答える。…ったく可愛げがないんだから。
「私は飯田さんをマークしてますので」
…。どうやら紺野の中では、かおりが犯人に決定されてしまったらしい。
あたしの推理ではかおりが犯人になるのはありえないんだけどなぁ…。
「さて、早く行かないと怪しまれますよ」
…。ホンッッットに可愛いげがないのね、紺野って…。
あたしたちは二人の所に時間差で戻った。
「ちょ〜っと!何してたのよ、二人とも」
「…あの、トイレに…。ビビって失禁でもしたらいやなので」
巧い!
「あ、じゃぁ〜矢口もちょっと…」
ふぅ…どうやら巧くごまかせたようだ。
やぐっつぁんはそう言うとあたしたちの向かって来た方向に向かい、木の陰に隠れた。

「さてと…」
あたしは心の準備を始めていた…。
96ごっつぁむ@作者:02/01/28 23:13 ID:vZr3ofv8
やぐっつぁんがあたしの横に立った。
あたしの左に紺野、その隣にはかおりが無言で立ち並んでいる。
目の前にあるのは変哲もない巨大雪ダルマ。
その頭が少しズレているが、かおりたちが動かして直した跡であろう。
あたしが一歩一歩近づき、雪ダルマの頭に手をかける。
・・・。
ドクン、ドクン…。
心臓がバクバクしてくる。
手も震え始めた。
…心の準備はできてるというのに。
「行くよ…」
あたしは後ろの三人に、振り返らずに声をかけ、両手に力を込めた。
そして、それを上に思いっきり持ち上げる。
・・・。
少し重いが、更に徐々に力を入れ引っ張り上げた時、雪ダルマの首の部分から人間の首が2つ覗いた。
あたしはそれにビビってしまい、足が滑って後ろにひっくり返ったのだが…。
勢い余って雪ダルマの頭の部分を思いっきり引っ張って持ち上げてしまった。
「ひっ!!!」
「キャッ!!」
紺野とやぐっつぁんの悲鳴が後ろで聞こえる。

顔見知った人間の死体なんて、あたしとて見たくはない。
その雪ダルマの体から、2つの頭が突き出ていた。
それは間違いなく…あたしの知っている顔だった。
あたしたちの旅行に、事務所の命令でついてきたスタッフの二人。
あたしには、その二人の冥福を祈ることしかできなかった……。

「なんかさ、ああいうの見ちゃうと…何もかもヤル気なくすよね…」
運転席に座ったやぐっつぁんが、後ろも振り返らずにポツリと呟いた。
…それが独り言だとわかっていたので、誰も返事を返すことはなかった。
・・・・・・。
旅館への帰りのバスは、静かに、そして順調に帰路を進んでいた。