シアター

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79ごっつぁむ@作者
「アレ、辻!見て見て!」
辻の空腹が最大限に達したと思った時、飯田さんが遠くを眺めて指さしていました。
…それにしても飯田さんってば、雪の中でも目がよいのですねぇ…。
辻には全くもって何も見えません。
「なにがあるのれすか?」
「小屋よ。小屋!ロッジって奴よね、アレ」
飯田さんはそのロッジというものを見つけると雪で足が巧く運べないというのにダッシュで前方に向かいました。
…取り残されて辻は、あまりにもの空腹で走ることはできずに、今までと同じスピードでとぼとぼと歩きます。
痺れを切らしたかのように、飯田さんが辻の方へまたダッシュで逆戻りして辻の手を引っ張りました。
「いいらさん…辻、走れないのれす〜〜〜」
「じゃあ、辻。あのロッジで休憩!ご飯にしましょう」
ご、ご、ご飯!!!
人間とは(いや、辻に限ったことなのでしょうが)なんてゲンキンな生き物なのでしょう。
辻はご飯の言葉に惑わされてしまったのです。
「いいらさん!!何をとぼとぼ歩いてるのれすか!?ご飯、ご飯が待っているのれす!!」
……呆れる飯田さんを余所に、辻は一人元気になってロッジまでダッシュで向かうのでした。

「だ〜れ〜か〜い〜ま〜す〜かぁ〜〜〜〜〜」
辻は、ロッジのドアをガンガン叩いて、中に人がいるかどうか確認しました。
ロッジは昨日のお婆さんの家と同じログハウスですが、それよりもずっとずっとちっちゃいまさに小屋という感じなのでした。
灯りが点いていないので、確認するまでもなくここには人はいないと思います。
「つ〜じ〜…ど…どうしてご飯になるとそんなに…元気…なのよ…?」
辻よりずっと遅く飯田さんが、息を切らしてロッジに辿りつきました。
辻は心の中で「若さが違うのです」と思ったのですが、飯田さんは最近、歳の話をするとうるさいのでやめておきました。
「いいらさん。誰もいないみたいれすよ」
「そうね。遭難者用のロッジってトコね…」
「辻が開けてもいいれすか?」
「いいわよ」
…飯田さんの言葉を待ち、辻はロッジのドアを開きました。
ロッジのドアは軽く、いとも簡単に開いてしまいます。
開いた先は、外の光が射し込まずにとても薄暗く、そして冷たい空気でひんやりしていました。
辻と飯田さんは手をつないでロッジの中に入り、部屋の中央にある垂れ下がったランプの火を点けました。
薄暗い部屋の中に、オレンジ色の光が照らされました。
飯田さんが、部屋の右隅にあった暖炉に、「どーやってやるの〜!?」と苦戦しながら火を点けようとしていました。
辻は…左隅にある木製の机に気がつきました。
いえ、正確にはその机の上の紙切れに目がいったのです。
辻が近づいて、その紙を見ると、小さな茶色いメモ帳のような紙に、黒いボールペンで文字が書かれていました。
「かおり、辻へ。私たちは助けを求めに行きます。ここで大人しく待っててください」
この字には辻は覚えがあります。
「いいらさん!コレ、コレ!矢口さんの字れすよ!!」
辻は飯田さんのところまで、紙をひらひらさせて駆け寄りました。
「ちょっと見せて!」
飯田さんが辻の手からメモをぶん取り無言でそのメモを見つめていました。
「……辻、ご飯を食べたらすぐに出発するよ」
「えっ??なんでれすか??」
突然の飯田さんの言葉に、辻は袋からお弁当を取り出すのをやめてしまいました。
「カオリの予想だと、矢口たちはもう旅館に戻っていると思うの。
 ほら、お婆さんに貰った地図見てごらん」
飯田さんはそう言って、ジャンパーのポケットから地図を取り出しました。
「ココがホラ、ココでしょ…?」
そう言って説明すると、ここがスキー場のすぐそばで、そこから20分程度で旅館に着くことがわかりました。
辻、もうすぐあいぼんに会えるんだ…と思うと、胸がちょっぴり嬉しくなるのです。
「じゃ、辻!もう少しだから頑張ろうね!」
「ハイ!!でもご飯を食べないと頑張れません!!」
「………………」
80ごっつぁむ@作者:02/01/27 02:40 ID:M8Jv4OQR
「さて、お腹もいっぱいになったところだし、しゅっぱぁ〜つ!」
「辻、おなかいっぱいになったら眠くなったのれす」
…辻の冗談を、飯田さんはギロッという目で見ていました。
「じょ、冗談なのれすぅ〜…」
「ま。いいでしょ。急ぐわよ」
そう言って、暖炉の火を飯田さんが消し、辻がランプの火を消しました。
そして二人でロッジのドアをしめて、また歩き出し始めました。
ケータイで時間を確認すると、すでに午後12時半になっていたのです。
果たして、辻たちは今日中に東京に帰れるのでしょうか!?

辻と飯田さんはまたしばらく歩きましたが、段々下り坂になっているのがわかったので
気持ちとしてはさっきのただ歩くだけよりも気持ちが楽でした。



「おっかしいなぁ〜。ココが駐車場のハズなんだけど…」
飯田さんが、周りの景色と地図とを何度も何度も眺め比べながら言います。
「辻にも見せて欲しいのれす〜〜」
辻が飯田さんの手元の地図を覗き見ますが、飯田さんがイジワルして地図を辻の頭の上まで上げてしまい見れないのです。
「ココが駐車場なんだから、車があるハズなんだけど〜…」
「車なんかないのれす」
…ホントにここが駐車場なんでしょうか?でも、看板に「駐車場」と書いてあるので間違いないとは思います。
ただ、地面が雪に隠れてしまって何も見えないのですが。
それに、辻たちがスキーに来た時確かにここで降りたような気がしました。
…辻がぼけーっとしながら飯田さんの顔を眺めていると、飯田さんもぼけーっとしていました。
「いいらさん、何をぼけーっと…」
と、辻が言いかけた時、飯田さんは怪訝そうな顔をして辻に呼びかけました。
「……ねぇ、辻」
「なんれしょう??」
「あそこ、見て」
辻は、また例の「雪の中でもしっかりモノが見える」技かと思ったのですが、どうやらそうでもないみたいです。
飯田さんの指差す先には、雪を被った数本の木とその下にある巨大な雪ダルマでした。
……???
「何もないれすよ?」
「本ッッッ当に何もない?」
……????
辻は訳がわからず、またその方向を目を凝らして見ますが木と雪ダルマしか目に入りません。
「ないれすよ。どうかしたのれすか?」
「………」
飯田さんは、何か考え事をしたまま黙っています。そして、再び口を開くと
「辻、こんな家もなんもないとこに、雪ダルマがあるの変じゃない?」と言いました。
……??????
辻はそれでもよくわからず、飯田さんの目をきょとんと見ていました。
「あいぼんたちが造ったのかもしれませんよ?」
「そっかなぁ〜…でもカオリたちが昨日、ここに来た時はなかったよね?」
……????????????
辻の頭の中は「?」が踊りながらいっぱいになるほど混乱していました。
「絶対、何かある。…これ、カオリの野生のカン…」
飯田さんは、ゆっくりゆっくり雪ダルマに近づこうとします。ですがそれを辻が「怖いのれす」と言って止めました。
「いいから。辻はそこで待ってて」
・・・。
飯田さんはゆっくりゆっくり…雪ダルマに近づいていきます。
一歩…一歩…。
雪ダルマへの距離は後、3歩。
もう一歩進んだところで振り返り、「辻、何かあるといけないから目、閉じてて」と言いました。
辻はしぶしぶ目を閉じながら、「何があるんだろう」と思っていました。
・・・・・・。
・・・・・・。
「キャァァァ〜〜!!!!!」
突然、飯田さんの悲鳴が上がり、辻はそれにビックリして目を開けてしまいました。
「つ、つ、辻!!見るな!!!」
飯田さんはブルブルしたままこちらに後ずさりしてきますが、もう遅かったのです。
辻の目に入ったのは……雪ダルマの頭を崩した部分から覗いた目を開いたままの……。
凍りついて死んでいる…事務所のスタッフが二人…。
雪ダルマの中に包まれていたのでした。
辻はその瞬間…地面に座りこんで、気を失っていました……。

第2章【SIDE-N.T】完
81 :02/01/27 02:54 ID:C7er77yr
おお、更新されてる・・・
この小説の最初のほうから感想書いているものです。
なんか勢いのある(ずんずん読める)内容のこの作品に期待してます。
作者さん、ガンバって下さい。
82アルマーニ濱口 ◆2ggkL5EU :02/01/27 02:55 ID:jCcqAk79
盛り上がってきたな、おい
そろそろ旅館組とLINKするかな?
83名無し募集中。。。:02/01/27 03:16 ID:SW0fFnM9
更新早くて良いな
84ななし:02/01/27 03:23 ID:veW27RJT
作者マジで下手な小説家よりずっといいセンスしてるぞ。
更新期待してるぞ
85ごっつぁむ@作者:02/01/27 03:26 ID:M8Jv4OQR
>>81
いえいえ(w
こんな稚拙な文章を読んでもらえて幸いですとも。これからも応援よろしくお願いします

>>82
そうです。次の更新からは再び後藤編に戻ります。乞うご期待を!

>>83
作者、工房なので割りと授業中とかに話考えてます(w
話、ポンポン浮かんでくるので書くのは楽ッス
86ごっつぁむ@作者:02/01/27 03:27 ID:M8Jv4OQR
>>84
マジですか?すげー感動しましたよ!!
作者、将来作家なんぞ目指してますのでこれからもよろしくお願いします
87ごっつぁん@作者:02/01/27 04:17 ID:M8Jv4OQR
第3章【再会と罠】

「嘘だよ!かおりや辻が犯人なワケがないでしょ!」
やぐっつぁんは、あたしとなっちの部屋で、うるさいくらいの大きな声を張り上げて、立ち上がっていた。
「で、でも…私、思うんです。飯田さんか辻ちゃん以外に里沙ちゃんを…その…」
おどおどした口調で、紺野はやぐっつぁんに食ってかかったが後半は口にすることができなかったらしくもごもごしていた。
「そんなの、アタシたちの中にいるなんて決まってないでしょ!?」
やぐっつぁんはとうとう半分キレかかったような感じで、床に立て膝をついていた紺野を見下ろした。
その剣幕はもの凄いものがあるが、小川と高橋がそんなやぐっつぁんを制していた。
「…ごっちん、どしたの?」
あたしの隣に体育座りしていた加護が、あたしの顔を覗きこんだ。
「…ん、いや…」
あたしが口を開くと、やぐっつぁんと紺野がギロッとこっちを睨みつけ近寄ってきた。
「後藤!後藤はどう思ってるのよ。今日のアンタはちょっと鋭いから、もしかしたら謎が解けるんじゃないの!?」
「あの、後藤さん。後藤さんも私と同じ考えですよね!?」
「……」
あたしは二人に詰め寄られても黙ったままでいた。
さっきから頭の中で何かが引っかかっているが、かおりと辻の行方が知れない今…。
全てを決め付けるワケにもいかないだろう。
「後藤!」
「後藤さん!!」
…それでも二人はあたしに詰め寄るが、結局あたしは何も答えないままだった。
それを見た圭ちゃんが助け舟を出した。
「もういいでしょ、矢口も紺野も…
 仲間を疑いたくないのもわかる。でも新垣はもうこの世にはいないんだ」
圭ちゃんの口から告げられた残酷な事実に、やぐっつぁんも紺野もバツの悪そうな顔をしてうつむいてしまった。
それでも圭ちゃんは続けた。
「…私は新垣を殺したヤツを許さない…」
……重い沈黙の空気が流れる。
圭ちゃんも、なっちも、よっすぃーも、梨華ちゃんも、加護も…みんな黙ったままだった。
「あたしが、きっと…犯人を見つけて見せるから」
あたしは戸惑いながらも立ち上がった。
みんなの視線があたしに注がれる…。だが、あたしは迷わなかった。
「…あたし、新垣の遺体を見て思ったよ。
 きっと、新垣…辛かったと思う。だってまだ13歳だよ!?あたし、人の命を奪う権利って誰にもないと思うんだ。
 だから…もしも、この中に犯人がいるのなら…。あたしは絶対この中から見つけてみせる。
 それがあたしにできることだと…思って…るから……」
あたしは言うだけ言うと、またしゃがみこんで黙りこくっていた。
誰も応えることなく沈黙が続く…。
「とにかく!各自…単独行動は控えることよ。部屋に戻って大人しくしていなさい」
そう圭ちゃんが促すと、梨華ちゃんとよっすぃー、紺野、高橋、小川はあたしたちの部屋から出て行ってしまった。
そして圭ちゃんはさらに残ったなっちと加護の方を向き
「ちょっとゴメン。後藤と二人で話がしたいの」
…と、なっちと加護も部屋の外に追い出してしまった。

たたんだ布団に寄りかかるあたし。
窓の縁に手をかけ、振り返る圭ちゃん。

そして…圭ちゃんとあたしは向き合っていた。
88ごっつぁむ@作者:02/01/27 04:33 ID:M8Jv4OQR
「後藤、今日のアンタってちょっと変よね」
圭ちゃんはクスッと笑いながら、あたしの顔をマジマジと見つめていた。
「…自分でもそう思ってる」
あたしはわざと無愛想な答え方をしたが、本当に自分でもなんだかちょっと変な気分だったのだ。
……。
二人の間に沈黙が流れる。
「後藤」
しかし、口を開くのは決まって圭ちゃんの方だ。
「なに?」
あたしはまた素っ気無い返事を返す。
「新垣、かわいそうだね」
「…うん」
あたしはそれでも素っ気無い返事をするが、沈黙の度に圭ちゃんは構わず質問し続けた。
「アンタのその姿、アイツにそっくりだよ」
「……ふ〜ん?」
あたしは初めて、圭ちゃんに興味を突く質問をされたがやっぱり素っ気無いままだった。
「解らなくてもいいんだよ」
「……」
何のコトだかホントは少し気づいていたが、やっぱり解らないフリで黙り込んでいた。

あたしの中に、あの日の出来事が鮮明にフラッシュバックしてくる。
そう、先ほど見た…あの夢の出来事。
あたしは幼かった。
だから…「あの人」の後ろ姿を見送るのが辛くて、何度も何度も泣いた。
「どうして去ってしまうの?」と聞いたあたしに、「あの人」は
『私は自分の正しいと思った道を選ぶの。だから後藤、あんたも自分を信じて歩くのよ』
…そう言った。
そんな背中をあたしは素直に見送ったし、その強く前を見た瞳を信じた。

「今のアンタの姿、『紗耶香』そっくりだよ」
今度は圭ちゃんが名前を出して…言った。
「……」
あたしはいつまでも黙ったままだ。
「あのコは帰ってきた。
 だけど、前を見たあの瞳は今も変わっていなかった…。
 自分の信じたものを、信じる瞳。今のアンタに、私はそれを感じたよ」
…圭ちゃんは、あたしの中に「あの人」の姿を見ていたのだろうか。
「後藤、私もアイツと同じ気持ちだよ。
 アンタはアンタの信じる道を選べばいい。それがもし、私たちの今を壊すことになっても……」
………。
あたしは、圭ちゃんの言葉に一つも答えることはなかったが、圭ちゃんはそれで満足して部屋を出ていった。
………。
「自分の、信じる道…か」
あたしはポツリとつぶやいて、遠くの雪の空を眺めていた……。