シアター

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69ごっつぁむ
「もうお腹いっぱいなのれすぅ〜…」
「御馳走様でした〜」
辻と飯田さんはもの凄い勢いであっという間に食事をたいらげてしまい、お婆さんの入れてくれた
レモンティーとチョコレートケーキを今、丁度食べ終わったところなのでした。
「おやおや、よっぽどお腹がすいてたのねぇ〜…」
お婆さんがニコニコしながら、空いたお皿を片付けていると飯田さんがレモンティーを啜りながらお婆さんに尋ねました。
「お婆さん、なんでこんなトコロに一人で住んでいるんですか?」
「ここはねぇ、とあるお金持ちの別荘なのさ」
カウンター越しのキッチンからお婆さんがお皿を洗いながら答えます。
「この辺は夏も涼しいから良い避暑地になるのでね。アタシはその金持ちに雇われて
 冬の間、お金を貰ってこの別荘を管理しているってワケさ」
飯田さんは「ふ〜ん」となにやら納得していたようですが、辻にはサッパリでした。
「あんたたちこそ、こんな真冬の雪山ん中、どうして遭難なんかしていたんだい?」
「えっ…」
お婆さんの質問にちょっと戸惑ったのか、飯田さんはレモンティーをちょっぴり服の上にこぼしてしまったようです。
「あの、私たち…モーニング娘。って言うんですけど…」
飯田さんはもじもじしながらお婆さんに言ったようなのですが、お婆さんは手を拭きながら「なんだい、それは」と不思議そうに言ったのです。
「あの、私たち、東京の方で歌手をやっているんです」
飯田さんがモーニング娘。についての説明をしてる間、お婆さんはソファの反対側に座り、飯田さんの話を「うん、うん」と頷きながら聞いていたのです。
「…というわけで、私たちはスキーの途中で遭難してここに辿りついたのでした」
「おやまぁ…大変なんだねぇ。東京の歌手っていうのは…」
お婆さんは飯田さんの話が終わってもニコニコしながら何度も何度も頷いていました。
そんな二人のやりとりを見てるうちに、段々辻は自分が眠くて仕方ないことに気づき始めました…。
瞼がとろ〜んとして、すぐにくっつこうとするのですが、力を入れて「えい!」と瞼を開けます。
でもまたすぐに瞼は閉じてしまい、意識も段々もうろうとしてきていました…。
「あっ、辻ったらもう寝てる!」
飯田さんのそんな声が聞こえたような気もしましたが、すでに辻は眠りの中なのでした…くぅ…zzz

真夜中。
飯田さんが部屋の戸を開ける音で辻は目覚めました。
どうやら、飯田さんはお婆さんとの話が弾んでいたようで今から眠るようです。
辻は飯田さんに気づかれないように、「うぅん…」と寝返りをうつフリをしてケータイを取り出しました。
まだ午前0時過ぎです。…まだ、そんなに眠ってなかったみたい。
飯田さんがベッドの中に入ってしばらくは、辻もすぐに眠ろうと思っていたのですが
目が冴えてしまって眠れなくなってしまったのです。
「いいらさん、起きてるれすか?」
辻が小さな声で隣のベッドの飯田さんに声をかけました。
…飯田さんは眠ってしまったと思ったので「なに?」という返事が返ってきた時はちょっと驚いてしまいました。
「どうしたの?眠れない?」
「はい…」
「そう、カオリもなんだ〜…疲れてるのに眠れないの」
飯田さんは寝返りをうって顔をこちらに向けました。
「いいらさん。お話しませんか?」
「…?別にいいけど…」
飯田さんの返事を聞くと、辻は…少し戸惑いながらも飯田さんに自分の思いを打ち明け始めました……。
70ごっつぁむ@作者:02/01/26 02:11 ID:VWoyc/sQ
しまった〜〜〜!!!
sage忘れた…
鬱だ、氏脳(w
71ごっつぁむ@作者:02/01/26 02:33 ID:VWoyc/sQ
いつからだったでしょう…?
私が『彼女』に対してライバル心を持ち始めたのは…。
それは、出逢ったあの日からだったのかも知れませんね。
だって二人は同じ夢への席を目指していたから。
「負けたくない。」
そんな気持ちはあったんでしょう…、きっと、初めから。
でも…私は『彼女』に惹かれていました。
だから、ライバル同士でも…お互い大親友になれたのでしょう。
だけど……。
これからもずっと二人は一緒に居られるのでしょうか?
これからも…ずっと……。

「…というわけで、つぃとあいぼんはライバル同士だということに気づいてしまったのれす…
 つぃは、あいぼんがダイスキなのれす…。でもそれとおんなじくらいに…ダイキライなのかもしれないのれす…」
辻は飯田さんに自分の思いの全てをぶつけたのでした。誰かに聞いて欲しかったのです…。
辻の、正直な気持ち。あいぼんに対する…。
飯田さんは黙ったままでした。
辻は涙を流したまま、黙っていました。
長い長い時間、二人は黙ったままでした…。
「カオリもさー…」
5分くらい沈黙が続いた頃、ようやく飯田さんが口を開きました。
「カオリもさ、色々あったよ。そんなこと」
「…えっ?いいらさんもれすか???」
「うん。まぁ、カオリも大人になったってことかな…」
辻は、涙を流すのも忘れて飯田さんの話に耳を傾けていました。
「カオリもね、なっちや矢口に…後藤や…辻にだってライバル心持ってるの。
 でも、それってお互いが向上していくためのいい刺激だと思うんだよねー…
 だからさ、辻の中にもジレンマがあると思うんだけど、カオリはそれを背けることなく加護にぶつけて欲しいと思うワケ」
辻は黙ったままでした。
飯田さんの言ってることが100%理解できた訳ではないけど、80%くらいは理解できたました。
飯田さんも辻の答えを待つように、辻の顔を見つめたまま黙っていました。
その表情は、自信に満ち溢れた大人のオンナの顔でした。
「…つぃ、まだちょっとよくわからないけど、わかった気がするのれす」
辻はうつむいていた顔を上げました。
なんだか、こんな簡単なことが今、まさに解けたような感じなのでした。
「うん、辻も自信ついてきたんだと思うの、カオリ。だから…頑張れよ、辻!」
飯田さんは拳を握って辻の前に差し出しました。
…辻は、ためらいもなく自分も拳を握ってそれを飯田さんの拳に思いっきりぶつけたのです。
「さてと…マジメな話もしたことですし、そろそろ寝なさいよ。明日朝早いんだから」
「ハ〜イ!」
飯田さんはそう言って、すぐにベッドの中に潜り込んでしまいました。
辻も…同じようにベッドの中に潜り込みましたが心はドキドキワクワクしているのです!

そうだ。何を恐れることがあったんだろう。
ライバルだから仲良くしちゃいけないなんてコト、ないんだ…。
辻、ちょっと自信なくしてたのかも知れない。
これからは頑張れる…これからは…。
東京に戻ったら…今までの辻とは変わるんだから!
72ごっつぁむ@作者:02/01/26 02:56 ID:VWoyc/sQ
「お婆さん、一晩だけでしたがお世話になりました!」
「なりましたのれす!!」
飯田さんと辻がお婆さんに深々とお辞儀をすると、お婆さんは「また、おいでね。東京の歌手、頑張るんだよ」と言ってお見送りしてくれたのです。
辻たちの泊まっている旅館「かまいたち荘」まではここから約10kmほどだそうで、でもこの辺には道路がないから歩いて帰るしかないそうです。
お婆さんは、「こんな雪の中帰ることないのに…」と言ってくれましたが、
今日中には東京に帰らなければいけないし、ということで雪の中頑張って歩くことにしたのです。
お婆さんは、出発する時に辻たちに、今日のお昼の分のおべんとう、夜のおべんとうにちょっとした地図を書いてくれました。
それから、昨日乾燥機に入れてくれた辻のスキーウェアをたたんで返してくれました。
辻と飯田さんは、お婆さんに何度も何度もお礼をいい、元来た道を帰ることになったのです。

「遠いけど、頑張れるよね…辻?」
「はい!」
辻は、雪の山道を歩きながら元気よく返事をしました。
朝だというのに、昨日ほどではないけど雪が降り続いていて視界もあんまりよくありません。
でも、辻は「早くあいぼんに会いたいよ…」と心の中でずっと思いながら歩き続けました。



出発してから、1時間。
ケータイの時刻は午前10時を示していました。
「いいらさん、何キロくらい歩きましたか??」
辻が飯田さんに聞きますが、飯田さんは「わかんない」と機嫌悪く答え、すぐに黙ってしまいました。
……。
「いいらさん、おなかすいたのれす」
辻がまた飯田さんに言いますが、飯田さんは「まだお昼じゃないからダメ!」とまた機嫌悪く答え、黙ってしまいます。
……。
「いいらさん、10キロってどのくらいなんれすか?」
辻がまた飯田さんに聞きますが、飯田さんはとうとう答えもせず黙ったままです。
……。
「いい…」
「あーもう、うるさい!!静かにしてっ!!!」
飯田さんは辻の方を振り返ると、大きな声で叫んですぐにまた踵を返して歩きはじめました。
……くすん。
辻と飯田さんはそれからしばらく黙ったまま歩いていました。
……辻、おなかすいたのです……。
でも…言ったら怒られちゃうカナ…。
もう2時間くらい歩いてるし、そろそろ着くカナ…。
でも、言ったら怒られちゃうカナ…。
…おなかすいた…。
もう辻の頭の中はパニックに陥っていました。
歩いても歩いても雪、雪、雪、雪!!!
こんな雪ばっかり見てたら、いらいらするに決まってるのです。イライラ…。
「ねぇ、辻…」
「うるさいのれす!!静かにしてほしいのれす!!!」
…辻が我に返ると、とっても寂しそうな目でウルウルとこっちを見ている飯田さんがいるのでした…。