シアター

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66ごっつぁむ@作者
それから色々なことがありました。
「青色7」に初めてのユニット参加に、新曲がリリースされたこと。
矢口さん、あいぼん、ミカちゃんとの「ミニモニ。」が結成されたこと。
中澤さんの卒業の時には今までにないくらい泣いたこともありました。

だけど、辻も大人になっていくに連れて、徐々に自分とあいぼんには差があることに気付き始めました。
新曲の、辻のソロパートがあいぼんより少ないこと…。
「I WISH」ではあいぼんは後藤さんと二人で「メイン」と言われる大役を果たしたのです。
…でも、辻にはそんな役割は回って来ませんでした。
それでも辻はあいぼんのことが大好きだったし、みんなの前で歌うあいぼんも大好きだったので
自分のソロパートが少なくてもあまり気にしないようにしていました。
それに、「ミニモニ。」ができたことによりあいぼんと一緒にいつも居られるようになったのが嬉しかったのもありました。

でも、辻があいぼんに対して「嫌な気持ち」を持っていることを知ることになるのです。

2001年夏。
2度目のシャッフルユニット企画で、辻は「10人祭」に所属することになりました。
それに対してあいぼんは、梨華ちゃんや松浦亜弥と一緒に「三人祭」をやることになったのです。
本当は辻も三人祭が良かったのに…。でも辻は三人祭には選ばれませんでした。
そんな辻の気持ちを知らずに、あいぼんはピンクのカツラを被って、可愛い格好で辻に新曲のフリを教えてくれました。
辻も一生懸命覚えた10人祭の振り付けを教えてあげました。
「三人祭ってズルイよね」
……?
ハローモーニングの収録前に、二人でフリ付けの練習を廊下でしていたときに、どこからかそんな声が聞こえてきました。
あいぼんと辻は顔を見合わせ、キョロキョロとしていました。
見ると向こうから、スタッフの女性のような人たちが三人ほどこちらに向かって歩いてきていました。
とっさにあいぼんと辻は、すぐ近くの部屋に隠れてスタッフさんたちの話を盗み聞きしました。
「三人祭なんて、売れないハズがないじゃん」
「事務所の推しって言うのがバレバレなんだよね」
……辻はこっそりとあいぼんの方を見ました。
あいぼんはうつむいたまま、辻の視線に気づかないように…唇を噛んで黙っていました…。
何か言葉をかけようと思いましたが、何も言うことができませんでした…。
でも、あいぼんはキッと顔を上げて辻の頭をポン、と叩くと辻と目を合わさずに言いました。
「…のの。本番、始まるよ…」
あいぼんは辻の返事を待たずにスタジオに向かいました。辻もあいぼんの後を追いかけます。
「……」
「……」
……。二人ともスタジオまでは黙ったままで歩いています。
スタジオの目前に辿りついた時、あいぼんが振り返って言いました。
「のの。去年私が言ったこと覚えてる?ののと私は大親友だよ、って」
「え?…う、うん」
少し戸惑いながらも、辻はあの時のことを心の支えにしていたので首を縦に振って、あいぼんに素直に答えました。
「…ののと私、大親友だけどライバル同士なんだよね…」
あいぼんは辻から目を背け、うつむいて言いました。とても悲しそうに…。
「でも、私…。ののが大好きだから!」
あいぼんはそう言い終わる前にクルッと振り返り、辻の言葉を待たずにスタジオの中に入ってしまいました。

あいぼんはとても悲しそうな眼をしていました。
それは辻も同じだったのかも知れません。
…本番が始まってもどこかあいぼんのことが気になってしまっていたのです。
あの時…。焼きそばが食べられなくて泣いた時。
辻は焼きそばが食べられなかったのはもちろん悲しかったのですが、あいぼんへの思いが溢れてしまってそれが涙に変わって溢れていました。
あいぼんへの、ダイキライな気持ちとダイスキな気持ちが入り混じって溶け込んで…。
大親友だけどライバルのあいぼんへの気持ち…。
あの時の辻にはそれを抑えることができなかったのです。
67ごっつぁむ@作者:02/01/25 15:54 ID:7fl1XeTn
『しっかりしなきゃ、私。』
そう何度も心に言い聞かせてきました。
それは矢口さんに言われたのもあったけれど、いつまでもあいぼんが着いていてくれるわけではないことを
その時、初めて知ったからです。
…だって、二人はライバルなんだもん…。
でも、辻は……。

「辻、辻!!」
「うぅん…???」
辻が目をあけると、体と髪をバスタオルを巻いた飯田さんが心配そうな顔で辻の頬をペチペチと叩いていました。
「…あいぼん?」
「ハァ??」
飯田さんが不思議そうな顔をして辻を見下ろしていました。
それで一瞬にして目が覚めました。
辻ってば、お風呂の中で眠ってしまっていたのです…。まるで後藤さんのようです。
「も〜!遅いから心配してたら、湯船の中で眠ってるんだもん」
飯田さんはちょっと怒ったような感じで言うと、風呂桶を掴んでお湯を体に流し、湯船の中に入りました。
お湯がユラユラと揺れ、少しだけ溢れましたが辻と飯田さん二人で入っても湯船はゆったりとしていました。
「辻、どーしたの?ボーっとして…。まさか…のぼせてるんでしょ」
「そうなのれす。もう出るのれす〜…」
辻がボケーっとしたまま、湯船から上がろうとした時…。

カコン!!!

「あう〜〜〜〜…」
お約束というかなんというか…辻は石鹸を踏んづけて転んでしまいました。
膝を思いっきりぶつけてしまい、また泣きそうになってしまったのですが
さっき『しっかりしなきゃ!』と思ったばかりだったのでなんとか泣かずに頑張りました。
「も〜…ホントに辻は〜!気をつけなさいよ」
「ごめんなさ〜い」
辻は笑顔で立ち上がると飯田さんを後に、お風呂場から出て行ったのでした。

「あ、お嬢ちゃん。もう少しでご飯できるからね。そこのソファに腰かけて待っててね」
辻がお風呂から出て、さっき通ってきたリビングに入るとお婆さんがお料理の途中でした。
「あっ、は〜いv」
辻はご飯が待ち遠しくて待ち遠しくて、もうこれでもかってくらいお腹がすいていました。
……。
ソファに座った辻は、それから何をしていいのかわからずただぼんやりとしていました。
ログハウスの家の造りや、家具に目をやっても、立派そうな壷や観葉植物などが置いてあるだけで
テレビなんかは置いてないみたいです…。残念。
そうやってキョロキョロしていると、大きな古い壁時計が目に入りました。
今の時間は午後9時半くらいです。
飯田さんが、奥のドアを開け「あ〜いいお湯だった〜。お婆さん、お風呂ありがとーございました!」
と言いながら出てきてすぐに、
「さあ、ご飯ができましたよ」
そう言ってお婆さんはリビングの木製のテーブルの上に次々と料理を運んできました。
「ごめんね、急なお客さんだったものだから…こんなものしか用意できなくて」
お婆さんはそういいますが、辻は料理に目が向いたままだったのですが飯田さんが「お構いなく」と言っていました。
今日のメニューは、ちょっとしたサラダに、お魚の…煮物?でしょうか。それにハムを焼いたもの。
それからあいぼんの大好きなオムライスゥーでした(もちろん辻も好きですよ)
「さ、召し上がれ」
辻はお婆さんの言葉が終わるか終わらないかぐらいにはもうすでにお箸を握って
凄い勢いでご飯を食べ初めていました。
…やっぱりご飯を食べてる時が一番幸せなのです!