シアター

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64ごっつぁむ@作者
「ふぅ〜…いい気持ちなのれす…」
温かいお湯の中で、辻はまるで天国にいるような気分になりました。

大きなログハウスに住んでいたお婆さんは、辻たちを家の中に入れるなりすぐに
「お風呂に入るといいわ」と、お風呂を貸してくれたのです。
飯田さんが「辻が先に入りなさい」と言ったので、辻は「いいらさんも一緒に入るのれす」と誘ったのですが
飯田さんは辻に「一人で入りなさい」と言いました。
辻はお婆さんの案内でお風呂場に連れて行かれました。
そして、辻のびしょ濡れのスキーウェアをお婆さんが乾燥機に突っ込んでくれました。
辻はお風呂場に入ってとてもビックリしました。
木製のお風呂で、辻の家のお風呂よりもずっとずっと大きかったからです。飯田さんと二人でも広いくらいです。
辻は浴槽のお湯を、風呂桶で体にかけ湯船に浸かり始めました。

今日は色々あったのです。
辻が帽子を飛ばしてしまって迷子になって、飯田さんが助けに来てくれました。
でも…辻がおバカさんだから飯田さんまで巻き込んでしまったのです。
辻は自分のしたことがとても飯田さんやあいぼん、安倍さんに申し訳なくなりました。
そんなことを考えてたら、突然悲しくなって涙が流れてきます。
「あいぼん…会いたいのれす…」
いつだったか、矢口さんにこんなことを言われたことがあります。

『アホか辻は!お前14歳だろ〜!』

辻はあの時のことを思い出し始めました。
65ごっつぁむ@作者:02/01/24 19:09 ID:N+KFGcvC
それは去年の夏のことでした。
辻は「ハローモーニング」の収録の時、10人祭で焼きそばが食べられなくて泣いてしまったのです。
焼きそばが食べたかったのはもちろんあるのですが、それ以上にもっと悔しい思いをしました。
それは……あいぼんだったのです。

あいぼんと辻は同じ日にモーニング娘。になりました。
初めて逢った日から、あいぼんとは双子のように仲良しになったのです。
毎日がとても楽しくて、中澤さんに怒られたりした時も二人一緒なら怖くありませんでした。
辻は、こうして毎日が続いて行くんだ…と思っていたのです。
でも、あいぼんと辻が初めて離れる時が来ました。
それは辻にとって、繋いだ手が離れるだけでなく…心まで離れたように思えました。

2000年6月。
「タンポポ」の追加メンバーが発表されました。
タンポポはどちらかというと大人な雰囲気のユニットだったので、辻は梨華ちゃんとよっすぃーが入るのではと思っていました。
でも、辻の考えとは違くてタンポポの追加メンバーは梨華ちゃんとあいぼんでした。
辻は、あいぼんと離れてしまうことがとても悲しかったのですが、その後さらにショックなことが起こったのです。
次に発表された「プッチモニ」の追加メンバーは……よっすぃーだけでした。
つんくさんの「以上」という言葉を聞いた瞬間、辻は何が何だか解らなくなってつんくさんに聞きました。
「つんくさん、辻はどのユニットに入るのれすか?」
辻の質問につんくさんはちょっと困りながら「辻はユニットには参加させないんだよ」と言ったのです。

辻はその日の仕事が終わってからずーっとずーっと泣き続けました。
帰りのタクシーの中でも、家に帰って部屋のベットの中でも泣きました。
「もう、モーニング娘。をやめる」とまで思っていたくらい泣きました。
目が赤くなるまで泣いた時、あいぼんから電話がかかってきました。
「あんな…のの」
あいぼんはこの時はまだ関西弁が少し残っていて聞くたびに辻は面白いと思っていたのですが、その時は違いました。
あいぼんの声なんか聞きたくない…そう思っていたのです。
「あんな、のの。うち、ののとは親友だと思ってんねん」
……辻は黙ったままでした。「あいぼんの声なんか聞きたくない…」まだそう思っていたのです。
「だからな、うちとののが離れてしまっても友達だと思ってんねん」
……辻はまだ黙ったままでした。でも、あいぼんの声を聞くのが辛くなくなってきたのです。
「のの…。うち、つんくさんは何か考えがあったんだと思う。だから…泣かないでよ…」
「……うん・……」
電話の向こうであいぼんは泣いていました。辻も泣いていました。
二人で電話越しのワンワン泣きました。でも、辻はそれで少し吹っ切れた気がしたのです。

次の日から、あいぼんはタンポポの新曲のレッスンがありなかなか顔を合わせることがなくなりました。
でも、辻はあいぼんのことを恨んだりはしません。
…だって、あいぼんは辻のことを「親友やで」って言ってくれたから。
辻とあいぼんはそれから、周りのみんなに「名コンビ」と言われるくらいになったのです。