ふむ…。
外観から見た限りでは侵入者が入ったような形跡はない。
それに…近隣を見渡しても、民家らしきものも見当たらない。
その上、昨日から降り続く雪がまた次第に強くなっている。
どうやら…あたしたちは本当にここに孤立してしまったようだ。
そのことを確認すると、再び旅館の玄関に戻っていった。
「ひっく…ひっく…」
「……」
あたしが食堂に入った時には、メンバーは全員朝と全く同じ席順についていた。
時々、小川や高橋、紺野たちの泣き声が聞こえるが他の者は静寂を保ったまま…。
「ねえ、ごっちん…」
あたしが静かに席につくと、沈黙を破った者がいた。
…やぐっつぁんだ。
こういう時に、一番に口を開くのは必ずと言っていいほどやぐっつぁんだ。
「何?」
あたしは静かに問いに応えた。
「どうして、あれが……」
「……」
続きを待った。
「どうしてね、あれが殺人だって…」
「…心臓を刺した後があった…」
あたしが躊躇いながらその事実を淡々と伝えると、やぐっつぁんは顔を背けた。
なっちは耳を塞いでいたし、圭ちゃんはうつむいたままキッと下を睨みつけていたし、紺野たちの泣き声は一層強まった。
「それと…」
あたしは続けた。この事実から逃げるわけには行かない…。みんなにも解ってもらうために。
「あたしたちは今、この雪山の中に閉じ込められてるのよ。…殺人犯と一緒にね」
「!!!!」
全員の視線があたしに向かって注がれる。うつむいていた梨華ちゃんやよっすぃー、顔を伏せていた加護もあたしを見た。
「ね、ねえごっちん」
今度は梨華ちゃんが口を開く。その声が震えているのがよくわかった。
「その、殺人犯って誰なの!?」
またもや、視線があたしに注がれた。
あたしは瞼を閉じゆっくりと首を横に振る。
「それは、まだわからない…。でも少なくとも外部からの侵入者である確率は低そうだね。つまり…」
「つまり???」
「つまり…この中に犯人がいるかも知れないってコト」
「!!!!!」
あたしの口から放たれた言葉に、全員が驚愕の表情を見せた。そしてまた視線が注がれる。
あたしが口を開こうとした時、意外な人物が口を開いた。
「あの〜…」
あたしは誰が声をあげたのかわからずにキョロキョロすると、あたしのすぐ後ろに旅館の女将さんが立っていた。
「あの〜…後藤様。お話の途中に済みませんが、あの部屋には先ほどまでカギがかかっていたんです」
「カギがかかってた…?でもあたしが上がった時はドアは…」
「ハイ。そちらの高橋様からカギを貸してくれ、とのご要望がありましてカギを持って2階に上がったんです。
そうしてカギを開けたところ…。その…」
そう言って女将さんは顔をうつむかせる。なるほどね…。
「でも、カギって自分たちで持って行きましたよ」
そう、自分たちの部屋のカギは自分たちで管理していたのである。…普通は預けて行ったりするんだけどここはそういうのないみたい。
「ねえ、カギを持ってったのって誰?」
あたしがみんなに聞くと、やぐっつぁん、圭ちゃん、紺野、高橋、なっちが手を挙げた。
え〜っと…ちょっとまとめてみると。
部屋割りは矢口-吉澤、保田-石川、紺野-小川、加護-高橋、安倍-後藤…そして飯田-辻-新垣か…。
よく考えてみるとちょっと意外な組み合わせもあるみたいだけど…。
そうすると、もう一つの部屋のカギを持ってる可能性が高いのはかおり…。
つまり、かおりの部屋は密室だったというわけか…。
そして、女将さんの手元にあるスペアのカギ束。犯人はこのカギ束を使った…???
「女将さん、そのカギ束って昨晩はどこに?」
「え、ええ。いつも私の部屋に保管してありますが…」
…んん〜〜〜〜…。となると犯人が使ったのはかおりたちの持ってるカギ?
…駄目だ、もう頭ん中いっぱいだぁ〜〜〜〜!!!!
「わかった。じゃあ、みんなもう部屋に戻った方がいいね。
けど、絶対一人で行動しないで。いいわね!!」
あたしは勝手にその場を仕切って、自室にあれこれ考えながら戻って行った。
52 :
ごっつぁむ@作者:02/01/20 02:12 ID:WzIk8Gln
ちょっとageときます。
続きはまた明日
「ごっちん、なんか今日いつもと違うみたい…」
「んあ?そ、そうかな…」
自室に戻って、あれこれ一人で考え唸っていたところ、不思議そうにあたしの顔を眺めていたなっちが言った。
「んと…自分でもわかんないんだよね。でも頭が冴えまくってて…」
いつものあたしだったら…きっと、こんなことになっても決して自分から謎を解くような行動には出ない。
何故あたしがそんなことを始めたのか…きっとみんな不思議に思っているんだろうな。
あたしを突き動かしたのは何だったか…。
『私は自分の正しいと思った道を選ぶの。だから後藤、あんたも自分を信じて歩くのよ』
…遠いあの日、あたしにそう言ったのは誰だっただろうか。
その瞳は力強く前を向いていた。少しの曇りもなく、意志の強いその瞳。
あの瞳の持ち主は誰だったたろうか。
通り過ぎてきた日々で埋もれてしまったけど、とても大切なことだった気がする。
「ねえ、ごっちん。ごっちんってばぁ〜〜」
「…ん?んあ〜???」
なっちに右腕をガクガクされて気づく。
「ごっちんってば〜、考え事しながら寝てたよ。今…」
「ん…。疲れ溜まってるかも…」
そういえば今日はよく眠れなかったからなぁ〜…。…ん?
あたしの中で何かが閃く。
事件が起こった時刻っていつ頃だっけ。
あたしたちが旅館に戻って来たのが12時半頃。
眠りについたのが1時過ぎ。
あたしが目を覚まして、廊下でよっすぃーに会ったのが午前4時頃。
その30分後にあたしが廊下を通った時は誰にも会ってない。
つまり犯行が行われたのは午前1時から4時くらいの間か、午前4時半から6時くらい…か。
犯行は刺し痕があったことから刃物による刺殺。
新垣が怯えた表情で死亡していたことから、殺害される時に新垣が起きていた(または起きた)のは間違いない。
そして犯人はカギをかけて立ち去っている。
単純に考えるとスペアのカギ束を持っている女将が犯人になるのだが…。
昨日会ったばかりの彼女に新垣を殺害する動機があるだろうか?それは旅館の従業員二人にも言えることだ。
…となると。やっぱり犯人がメンバー内にいる確率が高い???
……そんなバカな。
あたしってばなんてことを考えてるんだろう。
どうかしてる。メンバーを殺人犯と疑うなんて。
でも新垣は殺された。……紛れもない事実。
「あの〜…後藤さん、いますか?」
あたしが考えを張り巡らせていると、紺野があたしたちの部屋に入ってきた。
「どうした?」
あたしが立ち上がりもせず、布団によりかかったまま尋ねると紺野がオドオドしながら応えた。
「あの。私も、私なりに色々推理してみたんです」
「ふんふん」
最初の方は適当に流していたが不意に、あたしは考えるのを止め、紺野の考えに耳を向けた。
「待った。今なんて言った?」
紺野は、突然あたしに言葉を遮られ少しビックリしたような感じでもう一度同じ部分を繰り返した。
「え?だから、私は飯田さんが犯人なんじゃないかと…」
「……」
確かめるまでもなく、あたしはまた考えの中にふけっていた。
かおりが犯人…。そう仮定して考えを進める。
まず、犯行が起こったのはかおりの部屋だ。そのカギを持っているのであの密室という状況を作り出すことが可能。
そして、いなくなったスタッフ。カギの開いていたバス。
あれはあたしたちが旅館に戻ることを促していたのではないか。もちろんやぐっつぁんが運転するのも計算に入れて。
…いや、でもそれが真犯人の狙いなのかも知れないぞ…?
行方不明のかおりを犯人に仕立てることで罪を被せるという策なのかも知れないし。
それに、意表をついてかおりではなく辻が犯人である可能性も考えられる。
その場合…どちらか片方はすでにこの世にはいないかも知れない。
考えれば考えるほど、色々な仮説が頭に巡る。まるで張り巡らされた蜘蛛の糸のように。
だが、あたしの考えを余所にすぐにその推理が無駄であったことが証明されることになる。