シアター

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44ごっつぁむ@作者
「…てやる…」
…誰?
「みんな…みんなめちゃくちゃにしてやる…」
…誰なの?
あたしは暗闇の中を、独り駆け抜けていた。
どこからか聞こえる不思議な声に導かれて…。先に何があるかはわからない。
でも、あたしは走り続けるしかなかった。
次第に声が強くなる・・・。
「みんな、みんな、殺してやる!!!!」
「!!!」
あたしは振り返った。
…誰かがそこに立っていた。
…静かだった。何の音も、何も見えない。
…『彼女』を除いて…。
あたしと『彼女』の二人だけがこの世界に存在するかのように。
暗闇に隠れて、その姿は見えない。
けれど確かに『彼女』はそこに「在た」。
「…誰なの?」
あたしが恐怖に怯え、『彼女』に触れる。
「めちゃくちゃにしてやる…!!」
「!!」
『彼女』に触れたあたしの右手の指先が…溶けてゆく…。痛みはない。
「あなたは…誰?」
あたしは、それをものともせず今度は左手で『彼女』に触れる。

シュゥゥゥ…

気持ち悪い音をたてて今度はあたしの左手が溶け始めた…。
「私を助けて…」
『彼女』は泣いていた。漆黒の闇の中…。まるで子供のように。
「大丈夫よ…あたしが…ついてる」
あたしはそう言って『彼女』を抱きしめた。
「ありがとう…」
抱きしめた腕に『彼女』の冷たさが伝わる。
…それはまるで、この闇のように冷たかった…。
そして…あたしの体は闇に溶け込んでいった…。
45ごっつぁむ@作者:02/01/19 02:06 ID:gDApuAQ6
「んはっ!!!」

ガバッ!!!

「ゆ…夢…?」
あたしはその夢で目が覚めた。
なんだったんだろ…あの夢は…。
窓の外を見ると、まだ真夜中だということが確認できる。
あたしはケータイを取り出し時刻を確かめた。…「AM3:49」。
まだ眠り始めて2時間くらいか…。こんな時間に目が覚めるなんて珍しい。
ふぅ…。
あたしは深呼吸してもう一度布団にもぐりこんだ。

…あれからすぐに食事(きちんと残してあった)を取って温泉に入り
すぐに自室に戻って眠りについた。さすがにソッコーで寝れたわけなんだけど…。
なんとも寝覚めの悪い夢だったな…。ハァ〜〜〜…。
さて、もう一眠りするかなぁ〜…。



寝れないッッッ!!!!!!
いつも眠いのになんでかこういう時って皮肉にも眠れないもんである…。
しょーがない、暇だし温泉にでも入ってくるかぁ。
あたしはゆっくりと布団を抜け出し、横でスヤスヤと寝息を立てて眠っているなっちを起こさぬように
静かに部屋のドアを開いた。そして、きちんとカギをかけて廊下に出た。

「あれ…よっすぃー…?」
部屋を出ると、階段の一番上によっすぃーが座ってうつむいていた。
こんなところで寝てるのか、と思ったけど…ちょっと違うみたい。
「よっすぃー、どしたの?」
「…あ、ごっちん…。ごっちんも眠れないの?」
よっすぃーはちょっと驚いた様子であたしを見上げて応えた。
「あ、うん。ちょっとヤな夢見ちゃって〜…」
「…そう…」
…?どっか様子が変だな、よっすぃーってば。
「どしたの?」
「…疲れてるのはわかるんだけど…よくみんな眠ってられるなって」
よっすぃーがうつろな目で答える。
「それって、辻とかおりのコト?」
あたしが尋ねるとよっすぃーは黙ってうなずいた。
「ねぇ、ごっちん。…どうしてこんなことになったんだろうね…」
「よっすぃー…」
「ア、アタシたち…ただ遊びにきただけじゃない…。なんで…なんで…」
「……」
それは、あたしの普段見ないよっすぃーだ。よっすぃーは普段、絶対に人前で泣いたりなんてしない。
きっと、誰よりも二人の無事を祈っているんだろう。…だからこんな真夜中にも眠らないで二人を待っている。
あたしはよっすぃーにかける声がわからず、ただ戸惑っていた。
「よ、よっすぃー…」
それでもなんとか慰めようと声をかけるが、頭の中でこんがらがって巧く言葉にできない。
「あのさ、巧く言えないけど…、きっとみんなだって心配してると思うのね。
 で、でもさ…今日は色々あったし…みんな疲れてると思うんだ。
 きっと二人は無事だよ。そう信じよう、ねっ!!!」
「……うん」
よっすぃーはあたしの言葉にうなずき、そして立ち上がった。
「そうね。アタシ、ちょっと変だったみたい。ごめんねごっちん…」
「ううん、大丈夫。それよりよっすぃー、ここは冷えるしもう寝たらどう?」
「…うん。そうするよ。実はアタシももう限界なんだよね〜。で、ごっちんはどこ行くの?」
「あ、あたしはちょっと温泉にね。なかなか寝付けなくて…」
「そう。じゃあ、アタシはもう部屋に戻るね。ごっちんも長湯しないで早く寝るんだよ。じゃあ…おやすみ」
よっすぃーはそう言って、部屋に戻ろうとした。
「おやすみ」
あたしもそれに応え、階段を下りようとすると…。
「ごっちん」
突然上からよっすぃーに呼び止められ、あたしは立ち止まって上を見上げた。
「ごっちん、ありがと…」
声だけが聞こえて顔は見えなかったけど、よっすぃーってばきっと凄く照れくさかったんだろうな…。
「うん、おやすみ」
あたしはなんだか胸が温まって、よっすぃーにおやすみを言ってまた階段を下りていった。
…この後に起こる悲劇を…あたしも、よっすぃーも…この時はまだしる由もなかった。
46ごっつぁむ@作者:02/01/19 02:54 ID:gDApuAQ6
「ごっちん、ごっちん、もう朝だよ〜。起きて〜」
…う〜ん…もうちょっと寝かせてよ…。
頭の中でつぶやくが、目も口も動かない。
「ごっちん〜!!」
ぺちぺちと、あたしの頬を叩く感触がする。
「…ん…」
「コラッ!後藤、起きろっ!」
布団をひっくり返されて、あたしはようやく目を開く。
「おはよっ!」
すぐにくっつこうとする瞼と瞼を抑えて、あたしが目を見開くと…。
「んあ〜…おはよう、なっち」
すっかり顔色も良くなったなっちがあたしの目の前でニコニコしていた。
「なっち、もう起きて平気なの?」
あたしが体を起こしてなっちに聞くと、なっちはニコニコした顔で「うん!」とうなづく。
「それよりごっちん、もう八時だよ〜。ご飯できてるって」
「まだ八時〜!?…あたし、ご飯いらないっ!寝るっ…」
そう言って、もう一度ガバッと布団を頭からかぶり毛布の中に潜り込む。
「ダメだよ〜。かおりたちを探しに行くんだからぁ〜」
「そうだった!!」
あたしが布団からガバッと起き上がると…
「ひゃぁ」
「…なっち…何してんの…?」
あたしの毛布を引っぺがそうとしていたなっちが毛布に包まってもごもごしていた。
「ふええ〜ん…」
なっちの上に被さっていた毛布を取ってあげ、あたしは窓の外を眺める。
…大雪…。
どうやらまた雪が降り出したようだ。これじゃ…二人を探しにいけない…。
「なっち、雪降ってるけど…皆は?」
「皆はもう下の食堂に降りてったよ〜。ホラ、ごっちん早く!」
「ハイハイ…」
あたしはカバンをごそごそと漁り、持ってきた着替えの中から、一番上にあったジャージに着替える。
「さ、行こっv」
あたしはなっちに手を引かれ、カギをかけて廊下に出る。
そして、昨日よっすぃーと会った階段を降り、玄関の横の食堂に入る。
あたしたち以外には客はいないので、そこにいるのはあたしたちモー娘のメンバーと、旅館の女将さん、従業員がたったの二人。
すでに長テーブルには食事が用意されている。
ご飯に味噌汁、焼き魚に卵焼き…といったような、まさに朝ご飯という感じの食卓だった。
「ごっちぃ〜んvvv」
「加護ぉvvv」
あたしが食堂に入ってすぐに、あたしを見つけた加護が抱きついてきた。
「加護、もう大丈夫?あたし心配したんだからね〜」
「もう大丈夫!でも〜…飯田さんとののが…」
加護が暗い表情でうつむく。そりゃ、心配だろうな…。いつも一緒にいる辻もいないんだし。
「それより、まずはご飯を食べてから予定を立てなきゃネv」
…と、食卓であたしが席につくのを待っていたやぐっつぁんがおっきい声でこちらに声をかけた。
正面から、右側にやぐっつぁん、圭ちゃん、梨華ちゃん、紺野。
正面から左側に高橋、眠そうなよっすぃー、小川…ん?
「ねえ、新垣は?」
あたしがみんなに聞くと、誰も知らない…という感じで首をかかげた。
「あの…」
一番端っこに座ってた紺野が遠慮深く声をあげる。
「あの〜…里沙ちゃんたちの部屋、カギがかかってて…もう下にいるんだと思って…」
「も〜…紺野、今度からそういうことは先に言いなさいよ」
圭ちゃんが紺野に向かってちょっと怒ったような言い方をする。…どうやらおなかがすいてるみたい…。
「じゃあ、新垣起こしに行こうよ」
やぐっつぁんが席から立ち上がる。どうやらやぐっつぁんもご飯が待ち遠しいみたい…。
「じゃ、起こしに行ってくるから。小川、高橋、着いて来て」
「あ、はい」
やぐっつぁんが小川と高橋をつれて食堂を出て行く。
その間にあたしは紺野の隣に、なっちは小川の座ってた席の隣に座る。
…5分くらいはたっただろうか。
未だに3人と新垣は食堂には戻ってこない。
「もう!!ご飯冷めちゃうじゃない!!」
圭ちゃんが怒って立ち上がり、食堂から出て行く。
…それからさらに5分。
高橋が一人で降りてきて、旅館の女将さんに何かを告げていた。
そして女将さんと高橋が慌てた感じでまたどたばたと食堂を駆けて出て行く。
「…どうしたんだろうね」
あたしが横の紺野に尋ねると、斜め前のなっちが応えた。
「何かあったのかな??」
あたしが4杯目のお茶を注ぎ始めたとき…。

「キャァァァァァァァァ!!!!!」
複数の悲鳴が…旅館内にこだました。
そして…悲劇の幕が切って落とされた…。
47ごっつぁむ@作者:02/01/19 02:58 ID:gDApuAQ6
とりあえず今日はここまでッス。
もう眠くてこれ以上書くのは…。

>>43
スレ立てたのは俺じゃないッスよ(w
矢口は動かし易いので物語の司会進行役になり易いです。
48 :02/01/19 20:06 ID:Z5Wq11Ee
いいですね、こういう次々と事件が起こる展開。
自分は大好きっすよ。
続き期待期待
49ごっつぁむ@作者:02/01/19 23:04 ID:gDApuAQ6
悲鳴を聞き駆けつけたあたしたちが新垣の部屋の前にたどり着くと
やぐっつぁん、小川、高橋、圭ちゃん、そして女将さんがただ腰を抜かし床に座りこんでいた。
見ると…誰のかはわからないけど嘔吐の後が見られる。
…その表情を見ると、ただではないモノを見たような…恐怖と驚愕の表情が浮かべられている。
ドタドタとやってきたあたしたちにも気づかず、5人はただただ震えあがっているだけだった。
…これは…。
あたしが部屋の中を確かめようと、恐る恐る部屋の入り口に近づく。
「ご…後藤…、来ちゃ…来ちゃ駄目!!!」
圭ちゃんがあたしに向かって、出せる限りの声で叫んでいたが…遅かった。
「……!!!!!」
恐怖。
体の全身を吐き気が襲う。
「ごっちん??」
あたしは口を抑えて…誰かの不思議そうな声に耳も向けず、猛スピードでトイレに駆け込んだ。
「ゲホッ…うっ…ゲホゲホッ…」
嘔吐が止まらず、あたしは壁に手をつきうずくまっていた。
衝撃的な光景が脳裏に焼き付いて…あたしはまた吐き気を催した。
「ハァ…ハァ…」
心臓が苦しい。そして激しい頭痛が襲う。
どうして…こんなことが…?
「ギャァァァァ!!!!」
…誰の悲鳴かは解らなかった。
だが、どうやらあの光景を目にしてしまったんだろう…。
あたしは立ちくらみを抑えて立ち上がり、洗面台の蛇口をひねる。
あたしは顔をすすぎ、ジャージの裾で顔をごしごしと拭くともう一度新垣の部屋へ向かった。
…もう誰もその場に立っているものはいない。
あの加護さえも顔を真っ青にしてブルブル震えているのが…ちらっと目に見えた。
その光景をもう一度、目にしたいとは決して思わなかったがもう一度確かめたいことがあった。

部屋に入ろうとするあたしを…誰も止めなかった。
「うっ…」
…また吐き気が起こる…。けれどあたしはもう逃げない。
薄暗い部屋、閉じたカーテン、乱れた布団…、それに置きっぱなしの三人の荷物…。
そこまでは何の変哲もない部屋の様子だ。
一つ、普通ではない状況といえば…。
何かに怯えた表情で布団に横たわる息絶えた新垣…。赤く飛び散った液体…。
これは…誰がどう見ても「殺人」というものだ。
あたしがこんな光景を目にしたのは始めてだったが…恐怖はあったが気持ち悪い、というような感情は湧かなかった。
「…新垣…かわいそう、かわいそう…」
あたしは…自分が涙を流しているのに気づかずに、もう動かない新垣の手の平を握ってうずくまっていた…。
50ごっつぁむ@作者:02/01/19 23:41 ID:gDApuAQ6
あたしの脳裏に、新垣の記憶が蘇る。
『後藤さん、ヨロシクおねがいします!!』
そうやって、13歳ながらにしっかりした目で、前を見据えて娘に入った新垣。
「新垣…もっと、もっと生きたかったよね…」
あたしはもう新垣の顔を見ることもままならず、毛布をかぶせて部屋から立ち去った…。

「ご、ごっちん…、新垣は…?」
やぐっつぁんがしどろもどろになりながら、怯えてあたしに聞いた。
「……」
あたしは無言で首を横に振る。
それを見た小川と高橋と紺野が声を上げて泣き出した。
……昨日、あんなことがあったばかりなのに……。
「ど、どうして新垣があんな目に…」
怯えていた加護を抱きしめ、一緒に泣いていたなっちがあたしに向かって聞いた。
「…わからない」
あたしにはそれ以外に、返す答えがなかった。
だが、わかっていることがある。
あれは「殺人」だ。
あたしは怒りに近い感情を自分の中に覚え、いつもより冷静に…そして頭の中が冴えきっていた。
「…とにかく、警察に連絡するわ」
今、こうして動いていられるのはあたししかいない。警察に連絡して、早く新垣を楽にしてあげたい・・・ただそれだけ。
この時のあたしには、犯人を暴こうとか、誰が犯人かなんて全く興味のないものだった。
そうして、階段を駆け下り玄関口の電話を目指した。

「予想通りというかなんと言うか…」
そう。予想通りの展開だった。
電話線がプッツリ真っ二つに切られている。殺人事件にはつきものってことか…。
あたしは再び階段を上がり、未だに床に座り込んだままのみんなの横をすり抜け、廊下を掃除していた女将さんに報告した。
「女将さん。電話線…やられてました」
「あ、あ・・・そうですか…」
どうやらこの人にもショックは大きかったようで(そりゃ、自分の経営する旅館で殺人が起こったんだから)
どうにも呆然とした様子であたしの問いかけに答える。
「あの〜…この辺に電話が使えるところってないですか?ケータイも圏外だし」
「いえ…この辺にはこの旅館と、スキー場以外はなくて…」
…ん〜…。スキー場には普通はあるはずの喫茶店や休憩所もなかったよなぁ…。
そう考えるとどうにもおかしいんじゃないか。
だって、スキー場だよ…?今時電話もないなんて…。
「あの〜…失礼ですけど、今時あんなスキー場に休憩所なんかがないのも珍しいですよね〜…?」
あたしがぶしつけな質問をすると、女将さんも困ったような表情で答えた。
「…ええ、この辺は元々観光地ではないんです…。
 この辺は、冬以外は農作業を営んで生活しているんですが、冬の間はこの旅館もお客が来ますけど…
 それに、あのスキー場はつい先月できたばっかりなんですが…どうにもまだ利用する方は少なくて…」
なるほどね…。こんな時期に、あんなに急に旅館を貸しきりにできたわけがなんとなくわかる。
あたしが困惑の表情で考えにふけっていると女将さんはさらに続けた。
「隣村まではあの山を越えて、20kmほど歩かないと…」
「……」
そこまで言われてあたしは黙りこくっていた。
つまり、あたしたちは閉じ込められたわけだ。この自然の監獄に、殺人犯と一緒に。
バスがあるにしても、なんにせよこの大雪じゃあの崖道を車で運転するのは危険すぎる。
…さて、どうしたもんか…。
あたしは、未だ床に座り込んでいるメンバーの横をもう一度すりぬけ、階段を降り立った。
どうにかして、ここを脱出しないと…。
知らず知らずのうちに、靴を履き傘をさして外へ出て行った。