38 :
ごっつぁむ:
「よぉ〜し、矢口が運転する!!」
「ええっ!???」
やぐっつぁんの突然の提案に、あたしたちは全員声を上げた。
その手にはいつの間にか、しっかりとバスのカギが握られている。
「だ〜いじょうぶ、大丈夫!!矢口こう見えてもちゃんと免許持ってるんだからv」
「でも、車の運転はできてもバスの運転はできないんでしょ…?」
「この際しょうがないでしょ」
「で、でも歩いたっていいじゃないですか!!20分くらい!!」
よっすぃーも必死にやぐっつぁんを納得させようと立ち上がる。
「そんなことしててまた雪が降ったらどうすんのよ。
事故になったらそん時はそん時よ。大丈夫よ〜、アンタたち矢口を信用しなさいよね!
ホラ、吉澤どいてどいて!!」
そういうと、よっすぃーをどかし運転席に乗り込んだ。
「さぁ〜、エンジン回すわよっ!」
ブルルルル…。
誰の言葉も待たず、バスのエンジンがかかる。
「ほらっ!エンジンかかったよ〜v旅館までは一本道だったわよね」
こういう時のやぐっつぁんって、何でこんなに楽しそうなんだか…。事故が起こってからじゃ遅いんだからね〜!!
「あの〜…矢口さん、失敗しないで下さいね?」
「アタシまだ死にたくないです〜〜〜」
不安になったのか、高橋と小川がやぐっつぁんに念を押す。
「大丈夫大丈夫!矢口にオ・マ・カ・セv」
もう誰も何も言わなかった。
…いや、もう止めても無駄なことがわかったというべきか。
「うぅ〜…緊張する〜…」
やぐっつぁんがハンドルを握りしめ、そして…力強くアクセルを踏んだ。
ブゥゥゥゥン…。
目の前が揺らいだ。車はどうやら無事に走り出したらしい。…のだが。
ガタッ!!
「ひゃっ!!!」
「ぬおっ!!」
「アハハ〜、やっぱりバスの運転は難しいわ〜…」
走り出した途端、急ブレーキがかかりあたしたちはつんのめり返った。
どうやら雪山で遭難するより、早く人生の終わりを迎えそうな予感である(笑)
「さっ、気を取り直していくわよ〜〜〜」
も〜〜〜!!しっかりしてよね、やぐっつぁん!!!
そういえばまだ、正式タイトル発表してなかった(w
第1話の最初には「かまいたちの夜〜娘篇〜」とかてきとーに書いちゃったけど…
これでは何なので、タイトルは「娘。サスペンス劇場〜雪の女豹〜」とかにしようかな…(w
やぐっつぁんの危なげな運転で、あたしたちは無事(?)旅館に辿りつくことができた。
コートのポケットから取り出したケータイは「12時38分」の時刻を映し出していた。
バスのドアを開き、加護を担いだよっすぃー、新垣、小川、高橋…と続いて外へと降りる。
あたしは未だに眠ったままのなっちを背中に背負い、入り口の階段をゆっくり慎重に降りる。
寒い…。
真冬の山奥の風が、頬に冷たい。
「ふぅ〜…雪の中、山道を運転するのはさすがに大変だったわ…」
不意に声のした後ろを振り返るとやぐっつぁんがドアにカギをしめているところだった。
旅館の方に目をやると、玄関口の明かりはまだ灯ったままだ。
その奥の方や上の方はよく見えない。
あたしより先にバスを降りたよっすぃーたちは、すでに玄関の前までたどり着いていた。
あたしとやぐっつぁんが玄関に辿りつくと、小川と高橋が「せーの」でドアを開いた。
……。
玄関先から見えた旅館の中は、いくつかの部屋から灯りが漏れているだけで暗闇にほぼ等しかった。
そして、怖くなるくらいにしーんと静まりかえっている。
「女将さ〜ん…只今帰りましたよ〜…」
よっすぃーが小さく叫ぶが、もちろん返事はない。声は暗闇に響き、奥の方にこだましていった。
「圭ちゃんたち、寝ちゃったのかな」
「白状だねぇ、圭ちゃんも梨華ちゃんも」
よっすぃーがあたしの問いにヤレヤレ、という表情で応え靴を脱いだ。
…と、その時奥の暗闇の方からドタドタ…という足音が聞こえてきた。
足音に混じって話し声も聞こえる。
あたしは、直感的に圭ちゃんたちだと悟り靴を脱いで玄関に上がった。
「みんなっ…」
「よかったぁ〜…無事だったんだね〜…」
暗闇から姿を現したのは案の定、圭ちゃんと梨華ちゃんだ。何故か紺野はいない。
「も〜〜〜。いつまでも…、帰って来ないから…、遭難したと思って心配したんだからぁ〜〜」
圭ちゃんの声が途切れ途切れに言葉を紡ぐ。その瞳からは安堵の涙が流れていた。
「心配したんだよぉ〜…」
圭ちゃんの隣の梨華ちゃんも顔を涙でぐしゃぐしゃにして、のどをつまらせながら言った。
安堵する二人をよそに、あたしたちは未だ暗い表情でうつむいていた。
「実はね、圭ちゃん…」
やぐっつぁんが口を開く。
「?」
圭ちゃんと梨華ちゃんは泣くことを忘れポカンとした表情でやぐっつぁんを見つめている。
「かおりと…辻が……」
二人…いや、全員がやぐっつぁんの言葉の続きを待った。重たい空気が流れる…。
「かおりと辻は…雪山ではぐれて…行方不明に…」
「!!!」
やぐっつぁんの言葉が終わるよりも早く、二人は驚愕の表情をあげていた。
梨華ちゃんに至っては、先ほど流したばかりの涙がまた溢れ出している。
「それで…どうして二人を置いて…」
それでも圭ちゃんは冷静にやぐっつぁんを見つめた。その目は鋭く、まるで…睨んでいるかのようだ。
「矢口さん、雪の中二人を探しに行ったんです!!!」
「私たちも、長い間待ったんです!」
「でも、でも…二人は見つからなくて…」
やぐっつぁんを庇うようにして、小川と新垣、そして高橋が泣きそうになりながら圭ちゃんに事情を説明した。
「……」
無言であたしたちを見回す圭ちゃん。鋭い瞳はそのままだ。
「圭ちゃん、アタシたちだって決して二人を見捨てたわけじゃないんだよ。
でもそうするしかなかったのよ。まだ意識がない加護やなっちもいる。
アタシがしっかりしなきゃいけなかったの。そうしなきゃみんな助からなかったかも知れないの。
だから…二人が無事に戻ってきたら矢口を思いっきり気の済むまで殴っていいから…」
やぐっつぁんは、3人を押しのけて圭ちゃんの前に立ってキッパリと言い放った。
その姿は凛として、いつもはおちゃらけてるやぐっつぁんとは全く別人のようだった…。
「…わかってる。私だって、きっとそうしたよ…」
圭ちゃんがやぐっつぁんの頭をくしゃっとなでて抱きしめた。
「とにかく…無事で良かった…」
圭ちゃんの瞳に鋭さはなく、代わりに大粒の涙が流れていた…。