シアター

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142ごっつぁむ@作者
「…矢口、起きないね」
なっちがやぐっつぁんの顔を覗きこんだ。
やぐっつぁんは睡眠薬でも飲まされたかのようにグッスリと眠っていた。
よっすぃーは…さっき目覚めたのだが、目を見開いて虚ろな瞳で天井を見上げている。
…まるで、気でも狂ったかのように…。
時々、「爆発がする!!」と、ワケのわからないことを叫んで苦しんでいるようだった。
…痛々しい、叫びだ…。
紺野の予想では、あの爆発に巻き込まれたためにそうなってしまったのだろうとの事だった。
あたしは…紺野のことは信用できずにいたが、その件についてはあたしも同感だった。
そして…もう一人…。
「加護も元気出しなって…ね」
なっちが優しく声をかけても加護は体育座りで黙って、顔もあげようとしない。
…多分、辻を失ったショックがよほど大きかったのだろう。
まるで自分の一部を失ったかのように……。
あたしたちも相当なショックを受けていたのだが、加護にとっての辻とはまさに
自分の一部だったのだろう。
放っておきたい気持ちはあるが、それこそ何をしでかすかわからない。
それでも…誰か一人に任せっきりにもできない。
あたしたちは、もう自分以外を信じられないようになっていた。
もう、これ以上の犠牲者は出せない。
できれば、争いも…避けたい。
あたしは、早くこの事件を解決させなければならないという使命を感じていた。
「嫌だ!!熱い、熱いぃぃぃぃ!!!」
…またよっすぃーが叫び声をあげた。
だが…あたしにはどうすることもできなかった。

「あ…?」
それからほどなくして、やぐっつぁんは目覚めた。
まだ、意識がもうろうとしているようでそれに気づくのにしばらくかかった。
「アタシ…ここ…旅館?」
「旅館の部屋だよ」
あたしがやぐっつぁんに答えると、やぐっつぁんは…何かわけのわからないという顔でポカンとしていた。
「そう!かおりは!?辻は!!??…そっか」
やぐっつぁんは、あたしたちの顔ぶれを見回して、二人の姿がないことに気づいてしまったようだ。
「…やぐっつぁん、あの時…何があったか教えてくれる?」
「ちょっと待ってよ後藤」
あたしがやぐっつぁんに事情を聞こうとしたのを止めたのはなっちだった。
143ごっつぁむ@作者:02/02/05 22:06 ID:xsH2TWiu
「…何?」
あたしはあくまで冷静にその制御の理由を尋ねる。
「矢口は今、目が覚めたばっかでしょ!?」
…実は、あたしは誰かがそんなことを言い出すことくらい承知だった。
「待ってよなっち」
あたしが反論を返そうとする前に、あたしのフォローに圭ちゃんが入った。
「後藤だって、そんなこと望んでるワケじゃないことくらい、わかるでしょ?」
「で…でも!!」
「一刻も早く、犯人見つけなきゃ私たちだって死ぬかも知れないじゃない!!」
圭ちゃんは泣いていた。
その涙には、怒り…不安…。あたしだって、同じ気持ちが心の中で渦巻いている。
だからすぐにわかった。
「だいたいねぇ、こんな旅行なんか…」
なっちが怒りに任せてそこまで言った時に、やぐっつぁんがその口を塞いだ。
「なっち…解ってるから…言いたいこと。矢口が悪いんだから…」
「あ…」
その言葉になっちも決まりの悪そうな顔をする。だが、怒りの表情はまだ消えていなかった。
「…嫌ですよ」
今度は梨華ちゃんが泣き叫びながら、口を開いた。
「なんで私たちが命狙われなくちゃいけないんですか!?
 私、殺されたら一生犯人を呪ってやるんだから!!!」
「ちょっと、石川落ち着いて!!」
圭ちゃんが梨華ちゃんを止めるが、梨華ちゃんの火はついたまま消えるどころか燃え上がっていった。
「この中にいるんでしょっ!?私、私…死にたくない!!」
「そうよ…誰なのよ!?こんなことして、ただで済むと思ってるの!?」
「矢口もまだ死にたくない…生きたい!!」
「私だって!!せっかくモーニング娘。になれたのに!!」
…もう、どうしようもなかった…。
今まで、それでもお互いを信じようと思いつづけてきたその想いまで、壊れて崩れてしまったのだ。
「あたしが何とかするから…みんな、落ち着いてよ!」
あたしもとうとう冷静を保てずに叫び喚いたが、それも無駄だった。
「…ごっちんだって犯人かも知れないでしょ…」
誰の言葉かはわからなかった。そうポツリと聞こえたが…。
あたしは…ついにブチ切れた。
144ごっつぁむ@作者:02/02/05 22:26 ID:xsH2TWiu
「……いい加減にしてよ!!」
あたしの一際でかい大声に、一同が静まり返った。
「…聞いてりゃねぇ、死にたくない死にたくないって…
 あんたらはそれでいいかも知れないわよ!あたしだって死にたくないわよ!
 だからあたしがこうやって、怖い思いしたって、無謀だって思われたって、犯人を見つけようと
 してるんじゃない!!!!
 あたしだって…、犯人が誰かわかったら…すぐにだって捕まえてやりたいのに…」
……最後は涙声になっていた。
今まで、冷静になろうと抑えていた気持ちが全部溢れ出していく気がしていた。
涙に霞んでなにも見えなくなっていた。
あたしの肩を、圭ちゃんとなっち、やぐっつぁん、高橋が抱いていた。
加護は無言であたしの手を握っていたし、梨華ちゃんはあたしの背中にもたれていた。
ただ、その涙に映る中で…ただ一人不敵な笑いを浮かべている者がいたことなど、あたしには解らなかった。

「それで、矢口と吉澤はちょっと遅れてロッジについたのよね」
やぐっつぁんはちらりとよっすぃーを横目で見たが、よっすぃーは相変わらず虚ろな目で天井を見つめている。
そして時々、また叫んでいた。
「で、矢口がロッジのドアを開こうとした時に突然、小さな爆発音がしてね。
 矢口もなんだろ〜?くらいにしか思わなかったんだけど、瞬間的に火が燃え上がって…」
やぐっつぁんがその時のことを思い出すようにしながら、淡々と話を続けていく。
あたしたちはそれを黙って聞いていた。
「そう、火事になって、アタシと吉澤はまだロッジに入ってなかったから助かったんだけど
 かおりと辻は…火事に巻き込まれて…」
「……で、よっすぃーに背負われてきたのね」
「う〜ん…多分、そうだと思う」
やぐっつぁんは曖昧にそう答えた。
「わかった」
やぐっつぁんの話に頷きながらも、あたしは「紺野。」と紺野に声をかけた。
「…なんでしょう?」
紺野はさもやとぼけたようにそう聞くが、まるで初めから解っているようかのようだった。
「ちょっと…」
と、紺野を誘いあたしは部屋の外へと出る。
紺野もそれに従い、あたしたちは部屋の前の廊下で二人きりになった…。

あたしは、紺野の意見を聞くことにした。
145ごっつぁむ@作者:02/02/05 22:48 ID:xsH2TWiu
「私は、矢口さんが怪しいと思いますよ」
と、あたしの問いかけに紺野は答える。
さらに、続けた。
「吉澤さんのあの様子を見てください」
「…?よっすぃー?」
突然出た、意外な名前にあたしは戸惑ったが、紺野の推理の続きを待った。
「……あの様子は…もはや、異常だと思います」
「……あたしも、それは思った」
よっすぃーの叫び声を上げるその姿は…。もはや、正常には見えない。
それはあたしが一番よく知っているよっすぃーの姿はない…。
あれは…そう、まるで獣のようだった。
「吉澤さんがもし犯人だとしましょう」
紺野はさらに話を続ける。
「ロッジの火事は、おそらく爆発によるものだと思いますよね」
「…そうね」
「きっと、リモコン式の爆弾が使われたんではないかと思います」
「…それもそうね」
「じゃあ、後藤さん。例えば、後藤さんが犯人だったとしてですよ」
「…うん?」
「後藤さんは爆発することがわかってますよね。
 それって…それなりに怪我をする事は解ってても、覚悟はできてますよね」
「…何が言いたいの?」
「つまり、です。私が言いたいのは、吉澤さんが犯人だった場合。
 爆発することがあらかじめ解っている吉澤さんは、あんな状態になるはずがありませんよね」
「……」
あたしは、紺野の言葉を聞きそれには納得していた。
確かにやぐっつぁんが犯人だとしても、色々と合点のいくところがある…。
「それに、です」
紺野は言葉を続けた。
「その後に二人だけがさらわれたという事件」
「……?」
「姿も目撃されずに、犯人の目的は何でしょうか」
「……それは、あたしも思ったわよ」
あたしは言葉を返すが、さらにも紺野は続けた。
「それは…わかります?」
「『自分は狙われてる』と思わせるため…?」
「上出来です」
…いちいちムカつく言い方をされたが、今は気にしている場合じゃない。
「それに…」
紺野の話は途切れることなくまだ続いた。
「麻琴ちゃんが殺害された時、矢口さんはどうしていました?」
「…部屋で…寝てた」
「そうです」
……あたしはそれを思い出した時、ひとつだけひっかかったことがあった。
だが、紺野には言わずにいた。
「それだけではありません」
「……」
「里沙ちゃんの事件は置いておくとして。
 ロッジの時です」
「…ロッジ?」
「はい。矢口さんは、吉澤さんと一緒に…ロッジを出た」
「そうだったわね」
「ええ。…おそらく、その時に矢口さんはスタッフの方を殺害したんです」
「……それで急いでロッジに戻ったってこと?」
「その通りです。そして…バスの中にあったカギ。
 そして、自分が運転して旅館に帰る…」
「……」
「…矢口さんが、犯人です」
紺野は決定的な言葉を、あたしに向かって放った。
146ごっつぁむ@作者:02/02/05 23:06 ID:xsH2TWiu
紺野の推理とも裏腹に、あたしにはどうにも納得できない事があった。
それは『何故、紺野がロッジでの出来事まで知っているのか』。
あの時、紺野はいなかったハズだし、あたしは紺野に一言もそれを告げてはいない。
…この時、初めてこの事件の糸口を発見した気がした。
そう、犯人は……。
『一人ではないのかも知れない。』
そう考えると、紺野が犯人であることが確定するのだが…。
一見、その場にいないと犯行ができなさそうなロッジの爆発も、リモコン式であれば
外す確立は多くとも、当たれば4人とも死に葬ることができる。
…つまり、これは誰にでもできる犯行ということだ。
そうなると実際には誰が実行犯で紺野が共犯でも、犯行が成り立ってしまうのだ。
例えば、今まで全くもって犯人である可能性のなかった加護。
加護は部屋で辻や高橋といても、小川を殺したのが紺野だとすれば…。
どうにも証拠が少なすぎる。
それに、犯人が特別な手口を使っていないところ。
例え、あたしの中で考えが決まっても決定的な証拠がないのでは…。
…そこまで考えたが、あたしはそれを紺野に告げるのはやめておいた。
とりあえず今は、「矢口さんに自白してもらいます」とはりきっている紺野をなだめ、
「今はマズイ」と促すことしかできなかった…。

だが、真実の糸は…
確実に解かれ始めていた…。