第4章【真実の糸】
もう、あたしは疲れた…。
どうしてこんなことになったのだろう。
あたしたち…ただ旅行に来ただけだったじゃない…。
もう、疲れた…。
「ダメよ」
…誰?もう寝かせてよ。
「諦めるの??」
…うるさいな。ほっといてよ。
「私、そんな後藤なんか見たくないよ」
…誰なの?どこかで聞いた声。
「後藤、『自分の信じた道を歩け』、だよ」
…わかってる。でも、もう疲れたよ…。
「じゃあ、逃げるの?」
…逃げない。
「あんたしか、みんなを救えるヤツはいないんだよ」
…わかってる。
「頑張れ、後藤」
…頑張…る。
あたしは、目を覚ました。
夢に出てきた『あの人』はあたしを励ましていた。
…ふふっ、変なの。市井ちゃんは東京にいるのにね。ちゃんとあたしの前に戻ってきたのに。
でも、大切なコトを教えてくれた人だ。
あたしは逃げない。
疲れても、立ち上がろう…何度だって。
これ以上、誰も犠牲になんか…しない。
あたしは、布団から起き上がった。
…そっか、あれから戻ってきてまたすぐに寝たんだっけな。
かおりと辻は…。頭の中にさっきの風景が蘇ってくる。
あの時…紺野が来なかったら、あたしと加護はあそこで凍死してたかも知れない。
その加護は、ショックで意識を失ったままだし、怪我を負ったやぐっつぁんとよっすぃーも心配だ。
どうやら、あの火事は爆発によるものらしかった。
…我を忘れたよっすぃーが、「爆発、爆発」とずーっと言い続けていたらしい。
その衝撃に巻き込まれて、辻とかおりは死んだ…。
やぐっつぁんとよっすぃーは無事とはいかずとも、命だけは無事だったようだ。
そして、旅館に戻ってからとりあえず、今夜は疲れをとる為に早めの就寝となったということだ。
それぞれの部屋で眠るのは危険なので、あたしの部屋に全員が集まって眠った。
あたしは暗闇の中、目を覚ました…というわけだ。
ケータイを開くと「AM4:44」…ゲゲェッ!!
嫌な時間に起きちゃったなぁ…。と、あたしは周りを見回す。
どうやら異常はないようだ。
あたしは再び布団に潜り込み…瞬間的に眠りに落ちていった…。
124 :
:02/02/03 23:55 ID:DUVPu7HN
いやーののちゃん死んじゃイヤー!!
と、叫んでみました。
あの、加護ちゃんとのライバルの話があってこの展開だとマジ泣けてきます...
それとも何か裏があるのか...気になります。
作者さん、ファイト!
「ごっちん!起きて〜!起きてよ〜!!」
「…んあ?」
あたしが目を覚ますと、梨華ちゃんがあたしの体を揺さぶっていた。
…朝からシェイクは辛い…とか自分でもワケのわからないことを考えていたのだが、すぐに現実に引き戻された。
「矢口さんとよっすぃーが連れ去られちゃったのよぉ〜!!」
「…ハァ!?」
梨華ちゃんの突然の衝撃の発言に、あたしは脳みそが起きるまでに少しだけ時間がかかった。
「どういうこと、それ!?」
あたしが梨華ちゃんに食ってかかるが、梨華ちゃんは小さな紙切れをあたしに渡した。
『吉澤と矢口は預かった』
そこには、どこで用意したのか新聞紙の切り取りで作られた文字が貼られ、そう書かれていた。
「ね、どういうことなの?」
あたしが梨華ちゃんに聞くが、梨華ちゃんも首をブンブン振って「わかんないよ!」と言った。
「他のみんなは?」
「うん、下の食堂にいる」
「そう、じゃあ行こう」
あたしはすぐに着替えて梨華ちゃんを引っ張って食堂に降りていった。
食堂に入ると、高橋と圭ちゃん、なっち、加護、紺野が椅子に座って言葉も発さずボーッとしていた。
「ゴメン、お待たせ」
あたしがそう言いながら席につき、誰かの説明を待った。
「遅い」
と、圭ちゃんに怒られあたしは「ヘイヘイ」と適当に促す。
「で、どうなの?紺野」
あたしは、とりあえず紺野に話を振った。紺野は待ってましたといわんばかりに説明を始める。
「ハイ。朝起きたら、吉澤さんと矢口さんがいなかったんです」
「ふんふん」
「で、目が覚めてどっかに行ったかと思ったらどこにもいないんです」
「ふんふん」
あたしは適当に相槌を打ち、紺野の話に耳を傾ける。
「探しまわったら、どこにも居なくて…」
「私がそれを見つけたの」
…と、紺野の話に割り込んで圭ちゃんが喋り出す。視線の先には、あたしの手の中の紙切れがあった。
「どこにあったの?」
「…吉澤たちの部屋で」
圭ちゃんの話が終わると、すぐに紺野が続けた。
「カギはかかっていませんでした」
「ほう」
あたしはそれを納得しながら、頷く。
「以上です」
紺野の報告が終わると、あたしはしばらく考えにふけった。
…どうやら、犯人の次のターゲットはよっすぃーかやぐっつぁんのどっちかのようだ。
考えてみればわかる。
昨日の爆発の時にも、二人がいたこと。それにかおりと辻が巻き込まれたこと。
そして、連れ去られた二人か。
…でも、そうにもおかしいことがある。
犯人の目的は何か、ということだ。
二人をさらう現場を目撃もせずに、そんなことする理由があるのかどうか…。
あたしの考えはさらに深い方へ沈んでいった。
おかしい。
絶対おかしい。
…おかしいと言えば、紺野だ。何故こうにも事件に絡んでくるのか。
考えてみたら、あたしたちが遭難して戻ってきた時に…紺野はいなかったのではないか?
あの夜、あたしたちを迎えたのは圭ちゃんと梨華ちゃんだ。確かに紺野はいなかった。
…だが、そうするとスタッフを殺害した事件の時には紺野は旅館にいたはずだから殺せるはずがないし…。
そして、新垣の時。
この時は誰にもアリバイがないが、よっすぃーは誰も怪しい人物は見ていなかったはず。
その後、新垣が殺されたのかどうかはわからないけど…。
小川の時が一番怪しい。
何故なら、紺野の証言次第で犯人が変わってくるからだ。
その上、紺野にはアリバイがない。
そして昨日。いつの間にか、あたしたちの後をつけて来た紺野。
…どうにも、不可解な行動が多すぎる。
…というところまで考えて別のことを思いついた。
そういえば、かおりたちの最初の部屋のカギ!!アレは今、どこにあるのか。
死んだかおりが持っていたとしたら、あの中から捜すのは難しいのだが、幸いここにはスペアキーがある。
つまり、犯人がかおりたちの部屋のカギを持っていたとしたら…??
あたしは、丁度側を通りかかった女将さんに「スペアキーを貸してください」と頼んだ。
女将さんは二つ返事で「いいですよ」と言ってくれ、すぐにカギを持ってきてくれた。
「後藤さん、どこにそんなカギ使うんですか?」
紺野が聞くが、あたしは「ナイショ」と言って食堂を出て階段を上がる。
他のメンバーもそれに続く。
あたしは、新垣の殺害現場…つまり、かおりたちの部屋の前に立った。
「こんなとこに…何かあるっていうの?」
なっちが聞くが、あたしはドアにカギを挿し、「見たくない人は入らないようにね」と言ってカギを回した。
カチャ…という音を立ててカギが開き、あたしはドアをゆっくり開く。
その際に、なっちと加護、高橋、圭ちゃんは廊下に残ったままで、紺野だけがあたしについてきた。
…目の前に広がる、残酷な光景。
そのままで残って、酷い悪臭が漂った。
「うっ…」
あたしは口と鼻を抑え、部屋中の隅から隅までを調べ始めた。
「後藤さん…一体何を?」
紺野も鼻を抑えて聞くが、あたしは黙って部屋を調べていた。
そして、押入れの前に立ち、一気にその襖を開けた。
…覚悟は決めていた。
…あたしの予感は、見事に的中したのだ。
だが、幸いなことに押入れの中で目を閉じて眠っているやぐっつぁんとよっすぃーは無事でいたのだった。
すぐに二人を押し入れから出し、部屋にはカギを掛けた。
二人をすぐに部屋に運び、布団の中に安静に眠らせた。
そして…あたしは紺野だけを廊下に呼び出していた。
「…紺野、どう思う?」
あたしが冷静に紺野に問う。
「そうですね、犯人の狙い通りというところでしょうか」
紺野は、同じように冷静にあたしに返事を返した。その瞳には一瞬の隙もない。
「じゃあ、ちょっと聞きたいこと、あるんだけど。いい?」
「はい」
紺野は同じように隙を見せずに答える。
「単刀直入に聞くけど。あたし、あんたが犯人じゃないかと思ってんのよ」
…そうきっぱり言い放つが、紺野はそれでも隙を見せなかった。
それどころか…どこか冷酷な笑いを見せた。…それはあたしの初めて見た紺野の表情だった。
「嫌だな、後藤さん…私が犯人?ふふっ…」
紺野はそう言って微笑したが、あたしはその目が笑っていないのを逃さなかった。
「…それは、推理が甘いですよ。後藤さん」
「……?」
紺野はいつまでも不適な笑いを浮かべている。まるで、そう、『犯人を知っている』かのように。
「あんた…」
と、あたしの言葉を遮り、紺野が冷酷に笑った。
「いいですか、私はもう犯人がわかりました。…でも、教えません。何故なら…私の身に危険が迫りますからね」
……?言ってる意味がよくわからない。
「何を…」
「これ以上、余計なことに首を突っ込まない方が身のためですよ。探偵さん」
紺野は…そう不適な笑いを浮かべながら…みんなの待つ部屋へと戻って行った…。
おかしい。
絶対おかしい。
あたしの中で…すでに犯人は紺野だと確信していた。
…だが、スタッフの事件と、爆発の時には紺野はその現場にはいない。
どの現場にも共通しているのは、よっすぃーとやぐっつぁんしかいないのか…。
でも、やぐっつぁんは小川の事件の時にあたしと会ってるし、よっすぃーは梨華ちゃんの証言では犯行には厳しそうだし…。
段々よくわからなくなってきた。
アリバイがあると言っても、加護や高橋、なっちや圭ちゃんが犯人ではないとも言い切れない。
ただ、犯人ではないと確実に決定してるのは…あたしの中ではあたしだけなのだから。
…あたしは、今初めてこうして犯人を暴いていくことの辛さを感じた。
メンバーの誰かを疑い続けるなんて…辛すぎる。
あたしはその思いを胸に秘め、部屋のドアを開けていた…。