シアター

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111ごっつぁむ@作者
結局、なんの音沙汰もなく夜になった。
事務所からの連絡は当然なく、あたしたちはすでにもう東京に帰るのを諦めた頃だった。

ドクン。

突然、胸の鼓動が変わった。
何故、そんなことが解ったのかは解らない。けれど、「何か」を予感していた。
「あ、ごっちんどこ行くの!」
なっちの叫ぶ声が後ろから聞こえたが、あたしは本能的に察知した予感を胸に
すぐに部屋から飛び出していた。
そして、まずは隣の加護、高橋、辻の部屋のドアをノックする。
「は〜い!」
と、加護と辻が手をつないで仲良くドアのカギを開けた。
「みんな、いる!?」
「いるよ〜。加護と、ののと愛ちゃん」
「わかった、じっとしてなさいよ。絶対部屋から出ちゃダメだからね!?」
あたしは、部屋に三人いることを確かめ、念を押してから隣の部屋のドアをノックする。
紺野と小川の部屋だ。
「はい」
と、紺野の声が返ってきてドアが開くのをイライラと待った。
「後藤さ…」
「紺野っ!小川は!?」
「え?麻琴ちゃんなら、さっきトイレに行きましたけど…」
「わかった、紺野。カギかけて小川が帰ってくるまでここから動かないで」
「あ・・・はい」
あたしは、紺野の部屋のドアを閉め、更に隣の部屋のドアをノックした。
圭ちゃんと梨華ちゃん、かおりの部屋だ。
「……」
だが、最初のノックには誰も応じなかった。
あたしはさらに何度も何度もドアを叩くが、中から返事はない。
まさか…三人ともやられた!?
あたしは、先に隣のやぐっつぁんとよっすぃーの部屋の前に立ち激しくドアを叩き続けた。
…出ない…と諦め始めた時、
「なぁに〜?」
寝ぼけたやぐっつぁんの声が返ってきて、ドアがゆっくり開いた。
「よっすぃーは!?」
「え?吉澤〜?…ん〜知らない〜…それより、なんか眠くて…」
まずい…今、いないのは5人。圭ちゃんと梨華ちゃん、よっすぃー、かおり、小川…か。
と、あたしが廊下を行ったり来たりしていると…
「あれ〜ごっちん、どうしたの??」
と、一度聞いたら忘れられない強烈な梨華ちゃんの声から響いてきた。
「あ、あれっ?梨華ちゃん…どこにいたの!?」
「えっ?えっ???私と保田さんと飯田さんで温泉に…」
「二人だけ!?小川とよっすぃーは!?」
あたしの緊迫した様子に、梨華ちゃんもビクビクしながら答える。
「えっと、実はさっき浴場に着いたんだけど〜…私、着替え忘れて戻ってきたの。
 その途中でよっすぃーに会ったけど、小川は見てないよ」
梨華ちゃんの話が終わると、あたしは温泉の方向へ足を向けた。
「ありがと。梨華ちゃん、気をつけてね」
「あ、う…うん??」
あたしがそう言って走り去ると、梨華ちゃんは戸惑ったまま部屋に入っていった。
112ごっつぁむ@作者:02/02/01 23:43 ID:UAaXMBfP
しまった…。迂闊だった。
犯人の狙いは「一人になった時」だろう。
どうやら、その辺は計画性のない犯人のようだ。
あたしは頭の中でそんなことを考えながら温泉へと走った。
…だが、よく考えたら…。
この旅館には階段が二つあって、一つ目の階段は玄関から入り、食堂の前を通ってその左にある。
もう一つの階段は、その廊下をもっと奥に進み、温泉のまん前の階段である。
あたしは、その温泉側の階段に向かって走っていたのだがその途中に、トイレがあることに気づいた。
…まさか、とは思ったが一応覗いてみることにした。
ゴクッ…と息を呑みこみ、スリッパを履き替えそこでまず立ち止まり「小川…?」と名前を呼んでみる。
・・・・・・。
返事はない。
あたしは、もう一歩進み、また「小川…?」と名前を呼んでみた。
・・・・・・。
また返事はない。
嫌な予感がプンプンしていたのだが…あたしはトイレの個室4つのうち、一番右側から順にドアをノックする。
1つ目のドアを開けたが、何もなかった。
2つ目のドアにも何もなく、3つ目も同様だった。
そして…最後の左端のドア。
ドアノブに手をかけるが、その手がガクガク震えてることが自分でもよくわかる。
・・・・・・。
もしかしたら、それはわかっていたのかも知れない。
ゆっくりゆっくりドアノブを引くと…
便器に顔をうずめて、頭から血を流して死んでいる…小川の姿があった。
「うっ…」
昨日見た新垣の変わり果てた姿や、スタッフの凍り漬けの死体よりも…もっとグロテスクで強烈な衝撃が頭を襲った。
おそらく、何か重い鈍器で殴られたのだろう。
頭がかち割られている。そしてそこから赤い血がドクドクと流れて、便器の中へと流れてもうそろそろ溢れそうなところだ。
あたしは、ハッとそんな観察を冷静にしてる自分を嫌悪した。
あたしはすぐに部屋に戻り、「どうしたの?」と尋ねるなっちを余所に毛布を取り出し…トイレに再び入った。
そして、小川の遺体を毛布で包むとそのまま、どうすることもできずに…。
それから、トイレの床に座りこんで、汚いという感覚もなしにただ、ただ…泣き崩れるばかりだった……。