サウンドノベル4「ハッピーエンド」真実の章

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926辻っ子のお豆さん
番外編「もうひとつのハッピーエンド」

小さな頃から、その娘はひとりだった。
少女が右腕を上げるとどこからともなく魔物が現れる。
魔物は全てを破壊する。家を近所を街を。そしてまた闇の中へと戻っていく。
被害を被った人々の、怒りの矛先は少女へと向けられる。
『そいつは悪魔だ!悪魔の子だ!殺せ殺せ殺せ!』
その少女は殺された。しかし少女は死なない。時を駆けてまた戻る。
殺しても生きている少女を見て、また人々は恐怖にかられる。
物心がついた頃には、少女に近づくような者は誰もいなかった。
ひとりだった。

どこまでも続く雪の平原を歩き続けた。
寒さで体の感覚はなくなっていた。力尽きた少女は雪の中に崩れ落ちた。
このまま眠りについたら、死ねるかなぁ・・
雪といっしょに溶けて消えてしまえばいいと少女は思った。
やがて意識はなくなっていった。
927辻っ子のお豆さん:02/02/04 23:27 ID:ftRsKQwb
「あー!気が付いたみたいだよー。いちーちゃん!」
目を覚ますと、少女は暖かいベットの中にいた。
脇から騒がしい声が聞こえる。見ると小さな女の子が二人喚き合っていた。
どうやら少女は、彼女達に助けられたみたいだった。
そこはとある街の、身寄りのない子供たちが集まる施設の中の一室だった。
「私はさやか、それでこの子は・・」
「まきー!」
「あなたのお名前は、なんていうの?」
さやかと名乗ったショートカットの方の女の子が、少女の顔を覗き込んで話し掛けた。
少女は掠れるほど小さな声で答えた。
「なつみ・・」

なつみにとって、3年あまり続くそこでの暮らしはささやかながらも幸せな日々だった。
友達もできた。いつも明るく笑顔を振りまく市井紗耶香。
『今日から私がなつみの相棒ね、よろしく。』
物心ついた時から、恐怖と怒りの対象としか人に見られなかったなつみにとって
分け隔てなく接してくれる紗耶香の存在は本当に支えになった。
だからなつみは自分の力を隠し通した。この幸せをいつまでも壊さない為に…
928辻っ子のお豆さん:02/02/04 23:28 ID:ftRsKQwb
紗耶香の後ろにいつもぴったりくっついている女の子がいた。
後藤真希。いつまでたってもなつみには心を開かず、紗耶香の背中に隠れていた。
彼女には小さな弟がいたが、いつもほったらかしで紗耶香にくっついていた。
ある日、真希を尋ねて男の人がこの施設を訪れた。
面会室でその人が真希に何かを話している。
なつみと紗耶香は気になって、ドアの隙間からその様子を覗いてみた。
『君こそは捜し求めた光の末裔、ぜひ私と共に天空城へ・・』
難しくて男の人が何を言っているのか、よく分からなかった。
ふいになつみはその男の人と目が合う。すると彼は突然大声で喚き始めた。
『何たる運命!魔王の血筋がこの様な場所に!すぐに始末せねば!』
どうやらその人物には、なつみが隠していた力を悟られた様だ。
なつみは怖くなって逃げ出した。隣にいた紗耶香も訳が分からず一緒に逃げ出した。
しかしその男は凄い早さで二人を追いかけてくる。
忘れていた恐怖、なつみの心に幼き日の悲劇が蘇る。
『そいつは悪魔だ!悪魔の子だ!殺せ殺せ殺せ!』
(やだーーーーーーー!!)

気が付くと、街は燃えていた。
暴走したなつみの魔力が全てを灰へと返していた。
目の前に燃えカスとなった男の死体が転がっていた。
929辻っ子のお豆さん:02/02/04 23:29 ID:ftRsKQwb
炎の中で一人の少女がこちらを睨み付けていた。
「お前が…お前がみんなを殺した。」
不思議な光が真希を炎から守っていた。なつみの中で血がざわめく。
この娘はいずれ自分の敵になる。ここで殺しておくべきだ。血がそう語り掛けてくる。
そんなのできない、なつみは体を抱え込んでその場から逃げ出した。
紗耶香はなつみの後を追った。彼女を一人にしてはおけないと…

「また壊しちゃった。また一人になっちゃったよ。」
走り疲れ、崩れ落ちた木陰でなつみは泣き伏せた。
そんななつみの背中を優しく包んだのは紗耶香だった。
「君はひとりじゃないよ、ここに私がいるでしょーが。」
そのぬくもりが何より暖かかったのを覚えている。

二人が明日香と出遭ったのは、そのすぐ後だ。
彼女もまた、なつみと同じ様に魔族の血により虐げられていた。
なつみはその姿に過去の自分を重ね、当然のように彼女を助け出した。
明日香にとって、そんな彼女がどんなに眩しく見えたか。
「この身をあなたの夢に捧げます。なっち様。」
なつみには夢があった。
930辻っ子のお豆さん:02/02/04 23:30 ID:ftRsKQwb
「なっちの夢はね、誰もが笑って暮らせる理想郷を造ること。」
魔族も人間も、みんなが笑って暮らせる世界を作りたい。
でもその夢を叶えるには、世界はあまりに汚れきっていた。
だから3人は考えた。それなら自分達の手で新しい世界を作ろう。
なつみが誰からも尊敬される英雄となり、皆を導く王となる。
紗耶香は常になつみの傍にいて、彼女を助ける。
明日香は表には出ず、影武者に徹してなつみをサポートする。
こうして3人の夢への道程は定まった。

英雄への第一歩として暗黒竜討伐作戦を開始した。
そこでなつみは二人の人間と出遭う。飯田圭織と矢口真里。
最初は、自分の噂を広めるのに利用する為だけに近づいたのだが、
共に行動するにつれ、徐々にその魅力に惹かれていった。
「カオリはねー、普通にしゃべるとねー、変だからねー、片言にしてんの。」
「好きな子といるとすぐ立っちゃうモノってなぁ〜んだ?キャハハ何考えてるの〜?」
人間は悪い奴ばかりじゃない。こういうおもしろい人もいるんだね。
紗耶香、圭織、真里、彼女達との旅の中でなつみに再び笑顔が戻った。
そしてなつみは暗黒竜を退治して勇者となった。