サウンドノベル4「ハッピーエンド」真実の章

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734辻っ子のお豆さん
なつみと夢を語り合った日のこと
高くそびえ立つ山脈のふもとに、たき火を囲む4人の姿がある。
その日の食事係だった紗耶香はたき火の上でシチューらしきものを掻き回していた。
その傍らではカオリが目をつぶり瞑想(交信?)をしている。
いつものことなので、もう皆慣れっこだ。
少し離れた所に朽ちた大木が横になって倒れている。
私はそこに腰を下ろし、夕飯ができるまで目の前の景色を眺めていることにした。
連なる山々の中でも一つだけ群を抜いて高く伸びた岩山がある。
そこが私達4人の最終目的地、暗黒竜の住み処。
明日には突入できる距離まで近づいていた。私は少し寒気を覚え、身を震わした。
「怖いの?」
後ろから声がしたのでハッとして振り向くと、そこになつみが立っていた。
「こ、怖くなんかないよ!」
精一杯の強がり、声が震えていた。
なつみはちょっと笑いながら、私の横に座ってきた。
「なっちは怖い・・」
驚いて見返ったなつみの横顔はどこか悲し気だった。
いつも笑って私達を引っ張って来た彼女の、そんな顔を見たのはその時が初めてだった。
735辻っ子のお豆さん:02/01/29 01:48 ID:aySjDZHT
「そうだよねぇ、これが最後の夜になるかもしれないし…」
たった4人であの化け物に挑むことが、どんなに無茶な事かというのはわかっていた。
3ヶ月前、私は暗黒竜討伐隊の一兵士として帝国から出陣した。
だが百近くいた討伐隊は私一人を除いて全滅した。
あの時なつみ達と出遭っていなければ、きっと暗黒竜の手によって私も…
「マリはどうして戦うの?」
なつみの問いかけに私の意識は再びこの場に戻された。
「そりゃあ決まってるじゃん、暗黒竜退治なんてしたら一気に英雄よー。
 ピョーンと出世して、もしかしたら将軍にまでなれるかもしれないし。」
「そうだね、なっちもピョーンって勇者だべさ。」
私が腕一杯に広げてジェスチャーしたら、なつみも笑いながら真似をしてきた。
それが妙におかしくって二人で爆笑しちゃった。
そしたら、こっそり聞いてたのか、向こうでカオリの奴がため息ついてた。
「なんだよー!なんか文句あんのかー!」
「アハハ、ノーテンキでうらやましいだって。」
私が怒鳴りつけると、瞑想中のカオリの代わりに紗耶香が笑いながら応えた。
「ブー、どうせうちらはノーテンキだべさ。」
「ちょっとなつみ、私まで一緒にしないでくれる。」
「あ〜ひどーいマリ、裏切り者〜!」
736辻っ子のお豆さん:02/01/29 01:49 ID:aySjDZHT
その夜、私はなんだか目が冴えて寝床を抜け出した。
するとさっきの大木の所になつみが座っているのが見えた。
「どうしたー?まだ寝ないの?」
近寄って声を掛けるとなつみはちいさく首を振った。
「なんかさ、明日の事考えると寝れなくて。」
「だよねー私も私も。てか普通そうじゃない。命懸けの戦いの前日にイビキかいて寝てる
 紗耶香がおかしいんだって。カオリは…まああいつはいつも寝てるみたいなもんか。」
「フフフ、こっちがうらやましいべ。」
そのまま笑いながら私はなつみの横に座って、満月の夜空を仰ぎ見た。
「そういえば、なつみはどうしてなの?」
「ん?何がだべさ。」
「ほら、さっき私に聞いたこと、どうして戦ってるのって。」
急に思い出して何気なく聞いたつもりだったけど、なつみはなぜか悲し気な顔をした。
「あ、ごめん、言いたくないならいいよ。」
「ううん、そんなことない。なっちはね…夢の為かな。」
「夢?」
なつみはしばらくうつむいて、そして顔をあげて語り始めた。
「なっちの夢はね、誰もが笑って暮らせる理想郷を造ること。」
月明かりに照らされて、誇らしく夢を語るなつみは私の眼に何より美しく見えた。
737辻っ子のお豆さん :02/01/29 01:50 ID:aySjDZHT
「あの夢は…あの頃のなつみは…どこへいったんだよ!」
回想から戻った矢口は、大粒の涙を眼にためて叫んだ。
魔界の門に手をかざし見下ろす魔王なっちは、何の感情もない声で答える。
「夢は目の前まで来ていた。複数の王がいれば争いが起こる。だから一度無に戻す。
 なっちがたった一人の王として世界を平和に導く。もうすぐそれが実現できたのに・・」
なっちは、後藤、辻、そして吉澤を睨み付ける。
「このガキどもが邪魔をしたせいで!ぜんぶ無駄になってしまった!
 紗耶香も明日香もいない世界なんてもういらない!全部なくなってしまえばいい!」
なっちの激情に合わせて、魔界の門から暗黒の流星が降り注ぐ。
「危ない!みんな避けろ!」
矢口の声に後藤、辻は柱の影に身を寄せる。
「梨華ちゃん!」
一旦は身を隠した吉澤だったが、身動きせず立ち尽くす梨華を見て飛び出した。
「早く!こっちへ!」
吉澤は抵抗する梨華の腕を強引に引っ張って、助け出そうとした。
しかし、流星の衝撃によって崩れ落ちてきた天井の瓦礫が二人の上へ・・!
「よっすぃー!!」
辻の悲鳴がホールをコダマした。
738辻っ子のお豆さん:02/01/29 01:51 ID:aySjDZHT
痛い…それに重い、体が引き千切れそうだ。
でも目の前に梨華ちゃんの顔があるだけで元気が湧いてくる。
へへっ、なんで?って顔してるよ梨華ちゃん。
「なんで?」
ほらやっぱりね。怪我してなくて良かった。
「言っただろ、助けに来たって。」
「私はあなたを知らない、どうしてここまでしてくれるのか知らない。」
「私は知ってる。たとえ梨華ちゃんが私を忘れても私は忘れない。」
「なんで・・?」
梨華の眼から静かに涙が零れ落ちてくる。
瓦礫の中で、吉澤は梨華の上に覆い被さり潰されない様に支えていた。
そのおかげで梨華にはたいした怪我はない、しかし吉澤は…
「あなたを知りたいよ…」
人形は涙を流さない、生きている梨華ちゃんは泣きながらそうつぶやいた。

1.「イェ〜イ、よっすぃーでーす。」ふざけてみせた。
2.「やだ、教えない。」冷たく横向いた。
3.ほっぺにチュッてした。