ごまよし高橋小川小説

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「まこ」
あたしたちは、ファミレスで遅い夕食をとっていた。コンサートの合間に軽く摘んではいるのだが、
育ち盛りのあたしたちは、やはりお腹がすいてしまう。
「ん?」
前でせっせと大盛りカレーを食べていたまこが顔を上げた。
あたしはカルボナーラをクルクルとフォークでとりながら、
「後藤さんってさ…どう思う?」
と、言って1口食べる。
「後藤さん?可愛い人だよね。人気もあるし、うちの目標みたいなひとかな」
「そう…だよね…うん。じゃあ吉澤先輩は?」
「そーだねー…やっぱ格好いいよね!うちセリフ言われるときマジで照れちゃったもん、最初」
まこが言ってるのは新曲のフリのことだ、間奏の時のセリフは、吉澤先輩がまこを口説くといった
もので、あたしはそれを後ろで見ている位置にいる、ちなみに。
「なんで?」
「え?」
「どしていきなり?」
「うん……ちょっと……なんだか、あの2人仲が良くてうらやましいなーって…」
「そうだよね!ほら!うちプッチモニに入りたいって言ったじゃん?ずっとプッチのラジオ聞いて
たんだけどさー。ちょー仲いいんだよね。後藤さんも全然クールじゃなくて、テンション高いの!
いつだったかなー?2人して素っ裸で寝ちゃったことあるんだってさー!笑っちゃったよ!しかも
その時娘関係のホームページ見てたんだけど、それ聞いた人たちがへ〜んな想像してんの!なんか
ね〜――愛?どしたの?」
――『素っ裸』
それを聞いたあたしは再びネガティブモード…。裸で寝るって……何してたんだろう…。
そりゃ、仲が良いのは分かってるけど、そこまでだったなんて…。あたしはなんだか後藤さんが
どんどん遠くへ行ってしまう様な気がした。馬鹿みたいだって言われるかもしれないけど、あた
しは、その時改めて実感した。「あたし、後藤さんのコトが好きなんだ…」そして少なからず、
吉澤先輩へのジェラシーも……。
「愛?愛!ア〜イアイ!…もしも〜し!」
「はえ?!」
我に返ったあたしは随分と素っ頓狂な声を出してしまったらしい。まこが大笑いしている。
「キャハハ――どーしたのー?まさか吉澤さんに惚れちゃった?」
「ち…ちがうよ」
幸い、まこはそれ以上突っ込んではこなかった。
「そ」
それだけ言うと、再びカレーにとりかかった。
(――ハァ。)
あたしはそっと、ため息をついた。――まこがうらやましい。まこがあたしのコトを好きなのは
知ってる。そんなあたしとこんな風に接っせられるなんて…。
「――あの」
気がつくと、近くで食事していた3人の男の子――高校生くらいかな――が話しかけてきていた。
「はい?」気がつくと、まこが対処していた。
「モームスだよね!?新メンバーの。え〜と小川…さんと高橋さんだよね?サインもらえない?」
「いいですよ」
最近こんな事がたびたびある。あたしたちも認知され始めったって事。喜ぶべきなんだろうけど、
ソレとは別にあたしの心は沈んでいた。
「ほら愛も!」
「う…うん」
あたしは渡された手帳にサインを書いた。
「がんばってね」
「ありがとー」
まこはこういう時対応がうまい。なんていうかクラスの男子とみたいな話し方が普通にできるのだ。
「そろそろ出る?なんか愛調子悪そうだし…」
「うん…ちょっとね。でよっか?」
「大丈夫?」
ごめんね、まこ。心の中でそっとそう言った。