85 :
告白:
パラソルの下で向き合う僕と圭ちゃん。
梨華ちゃんはベンチで寝ている。
「実は…。」
僕は、喉元まで出かかっている言葉を抑えた。
僕自身が信じきれないような話を、一体誰が信じる。
「どうしたの?実は…何?」
いや、問題はそこじゃない。もし僕が話したら
圭ちゃんはあらゆる手を使って、
梨華ちゃんが僕の所へ来るのを阻止するだろう。
「じ、実は…。」
僕だって死にたかないけど、梨華ちゃんがヘンに思われて
娘。内でギクシャクするのも…。
「何?」
「実は…、実は、僕の前を蜂が飛んでて
それを追い払おうと、たまたまそこにあった刀で…」
「全くつじつまが合わないわね。私にも切りかかったのよ。」
ええい。こうなったらヤケだ。
「蜂が圭ちゃんの方にまで飛んでって…。
あれ、見えなかった?でっかいスズメバチ。」
「死ぬとか、自殺とかなんか言ってたじゃない。」
「…蜂を放置するのは、自殺行為だから止めないでって。」
あー、もうムチャクチャだ。
86 :
説得:02/01/28 01:14 ID:cHwTmkVF
「あくまで、言わないわけね。
私と石川の仲でも、秘密にしなければならないわけ?」
「だから、…は、蜂が…。」
ふぅぅっ。っと圭ちゃんはため息をついた。
「いいわ。今のところは信じてあげる。」
「け、圭ちゃん。……ゴメンなさい。」
「謝っちゃダメよ。あなたは蜂が飛んできた
って決めたんでしょう。貫かなきゃ。」
圭ちゃんは顔の緊張を緩めた。
「なんかホントに大変な事情がありそうね。
まぁ、時が来たら焼肉を食べに行ったついでにでも
石川の方から話してくれるでしょ。
それより、あなたの身は大丈夫なの?」
「あ、うん。今度からは蜂には気をつけるし、
ハエ叩きに叩かれるコトもないように努力する。」
圭ちゃんは、フフッと笑った。
「それにしても、石川にそっくりね…。」「え?」
「前に、吉澤と石川が遊んでたとき、
石川に裸で飛びついたってのはあなたでしょ。」
「いやっ、あれは」
「石川が吉澤に説明してたわよ。あなたの服に蜂が入って
追い払ってたんだって…。ホントは何があったのかねぇ。」
圭ちゃんは楽しそうに笑った。
87 :
お目覚め:02/01/28 01:15 ID:cHwTmkVF
「圭ちゃん。これだけは言えると思うけど、
梨華ちゃん、圭ちゃんを切る気は…。」
「分かってる。覇気に満ちてたけど、
顔はなんだか迷ってたみたいだったもんね。」
僕らはベンチで寝ている梨華ちゃんを見る。
「う、ううん…。」
どうやら気がついたようだった。
「ごめんね、石川ぁ。痛かったぁ?
私ってそそっかしいから、あんたが蜂を
追い払ってたなんて気づかなかったのよ。」
「や、保田さん…。痛っ。」
起き上がろうとして、梨華ちゃんはお腹を押さえた。
「ホンッとごめん。ちょっと大丈夫?」
保田さんにもたれかかりながら、梨華ちゃんは僕を見た。
僕はただうなずいて見せた。
「これじゃあ、今日はもう遊べないわね。ホラッ。」
圭ちゃんは背中を差し出した。梨華ちゃんがおぶさる。
「じゃあ、今度また遊びましょっか。またね。」
そう言うと圭ちゃんは歩き出した。
「ああっ、オバちゃんだ。」
「あれ?梨華ちゃんどうしたん?」
「あ、辻ぃ、加護ぉ。あんたら学校はぁ。」
僕は帰っていく皆を遠くから見送った。