ここでやれ

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66罠?
それにしても、すごい1日だよなぁ。
さっきまで、あのあいぼんとののちゃんと
一緒に遊んでたんだよな。
しかも僕のことを悪くは思ってないようだったし。
そして今、横にいるのは石川梨華ちゃん!
僕はブルブルッと身震いした。
…幸せ過ぎるー。
さっき僕を好きと勘違いしたって言ってたけど
『僕』の記憶ってそれ程薄れたんだろうか。

考えていると、梨華ちゃんは僕を見ながら言った。
「ホラホラ、こっちー。」
おどろおどろしいお化けの看板の下で、手招きしている。

「作り物だって分かってても…」
僕が口を開くと、梨華ちゃんが続けた。
「入るときはちょっと緊張しちゃうよねー。」
二人とも、顔を見合わせてにやりとした。
当たり前かもしれないが、僕と梨華ちゃんの意見は
かなりの部分で一致する。
「じゃあ、行こっか。」
ただ、今日はいつも以上に緊張している。
何せ中は真っ暗。罠に入っていくようなものだもんな。
67作り物の:02/01/24 18:22 ID:U0CmBnEe
すうぅと生暖かい風が頬の辺りを通り過ぎる。
次の角を曲がったら、今は背中に感じる入り口の光も
見えなくなってしまうんだろうな。

歩みを進めていくと向こうに、ほの赤い光が見える。
その中で、不気味に廃屋の模型が建っている。
「いよいよっぽいね。」
僕が言うと、梨華ちゃんはコクンと頷いた。
廃屋の前をそろりそろりと通る。瞬間!
ガタガタガタガタ!!
廃屋の中から、いかにもという着物の女が現れた。
「のわー。」「キャッ。」
僕は、つい出てしまった悲鳴を何とか誤魔化そうと
わざとそのあとのリアクションを大げさにとった。
「わー、わ、わー。びっくりしたっと。」
駄目なんだよなぁ、ホントに。こういうのだけは。
でも、それは梨華ちゃんも同じらしく
いつの間にか僕たちは腕を組んでいた。
68暗闇の中で:02/01/24 18:22 ID:U0CmBnEe
ラッキー!!
下手をすれば僕は小躍りしていただろう。
右腕にじんわりとと伝わる梨華ちゃんの体温。
服が当たっているだけだろうけど
考えてしまう梨華ちゃんの胸の…
いや、違う違う。断じて違う。
うれしいのは、こうして二人がぴったり
くっついているために、容易には梨華ちゃんが
攻撃してこられないということなのだ。
何か落下物にしろ、薬品にしろ
梨華ちゃんが巻き添えを食うことになるからな。

そんな僕の考えなどお構いなしに
梨華ちゃんははしゃいでいる。
「ホラホラ見てみて。やっぱここだぁ。
 ホラ、ね。センサー。」
ブシューーーーー。
梨華ちゃんが足を前後に動かすたびに、
床から白いガスが勢いよく噴射される。
「へぇー。そんなとこにあったんだ。」
「うん。すごいでしょ。」
僕らはさらに奥を目指していった。
そのときだった。
69本物の?:02/01/24 18:29 ID:U0CmBnEe
「きゃーーーーーーー。」
後ろからものすごい勢いで悲鳴があがった。
僕らはすぐさま後ろを振り返る。
さっきの床からガスが噴出している。
二人ともそこを凝視して動かなかった。
ガスが晴れる。そこにいたのは…

そこには…誰もいない!?
「確かに…ねぇ。」
「うん。聞こえたよぉ。」
「も、もしかして…。」
「本物の…オバ、オバ…」
「待って。ちゃんと確かめようよ。」
僕が隣を見るとすでに梨華ちゃんはいなかった。
通路の先を全速力で走ってる梨華ちゃんの後ろ姿。
「ちょ、ちょっと待ってよー!お、おーい!」

少し走って、わりと拓けたところに出た。
ぐるりを柵に囲まれた場所。
どうやら柵の向こうにいるのは落ち武者のようだ。
それにしても、梨華ちゃんどこまで行ったんだろ。
70足、速い:02/01/24 18:33 ID:U0CmBnEe
「はぁっ、はぁっ。よかった。ここにいたんだ。」
「梨華ちゃん!」
通路の先から、息を切らせながら梨華ちゃんが戻ってきた。
「危なく通り過ぎるところだったぁ。」
「え、何って?」
「ううん、何でもない。それより知ってる?」
梨華ちゃんは胸に手を当て息を整えた。
「ふー。あのね。昔、ここって戦場だったの。
 それで、多くの人が亡くなったんだって。」
「ちょ、ちょっと待ってよ。」
さっきの今で、そんな話ぃ!?
「男の人も。それに…女の人も。」
それって、さっきの幽霊のこと…?
「その人達の怨念のせいで、この中にある模造刀のうち…」
梨華ちゃんは柵の向こうに体を伸ばした。
「一本だけが、本物なんだってぇ。えへ。」
梨華ちゃんはいつもみたいに笑うと、
濡れたように光る刀をスラッと抜いた。
「へ?」
梨華ちゃんは中段に構えた。切っ先はもちろん僕を向いてる。