ここでやれ

このエントリーをはてなブックマークに追加
45カトケン
「もう。二人ともしょうがないんだから。」
梨華ちゃんは二人に眼鏡を渡す。
「なんじゃあ?こりゃあ。」
「これってもしかして、鼻メガネー!?」
そう、眼鏡には鼻と、ご丁寧にチョビヒゲまでついていたのだ。
とりあえず、二人は鼻メガネをかけてみる。
「ヒゲだね…。」
「うん。ヒゲだぁ…。」
辻ちゃんとあいぼんは、お互いの顔を見合わせる。
「こんなんかけれるかー!」
一瞬の間の後、辻ちゃんはメガネを投げ返した。
ウド顔やってる辻ちゃんにも羞恥心はあるようで。

「困ったなぁ…。あとはアフロぐらいしかないよぅ。」
梨華ちゃんは、本当に困り顔で鞄を探っている。
僕はそんなに天然じゃないんだけど。
本当に僕の来世なのかな、僕はプと吹きだしてしまった。
46レンタル:02/01/21 01:56 ID:K7Lw9oVT
「ところで梨華ちゃん。このお兄さんて
 イトコさんなんれすよね。」
唐突に辻ちゃんが切り出した。
「デートじゃないんなら、ちょっとお借りしていいれすか?」
「え?」
その言葉に、その場のみんなが驚いた。
「らって、いっつもモーニングの中でしか遊ばないし…。」
梨華ちゃんの顔からは、明らかに困惑の色が見てとれた。
「え。…でも…。」
「ハイ!うちも!!」
梨華ちゃんの言葉を遮るように、あいぼんが手を挙げた。
梨華ちゃんはますます困った顔をしたが、
ふうっ、とため息をつくと答えた。
「しょうがないわねぇ。じゃあ30分ずつよ。」
「わーい。やったのれす。」「えへへ…。」

「じゃあどっちが先か、じゃんけんしよか?」
「じゃーんけーん、ぴょん!」
結果はあいぼんがチョキで辻ちゃんがパーだった。
「あ、あの…。」
「じゃあ、私とののは向こうで遊んでるから。」
結局、僕の意見が聞かれることはなかった。
47方言:02/01/21 01:56 ID:K7Lw9oVT
「よろしくお願いします。」
あいぼんは僕に向かってペコリとおじぎした。
「あ、こちらこそ。じゃあ…。どこ行こっか?」
「えっとぉ。…ココでいいです。」
「え?ココ?」「はいぃ。」
いつの間にか、あいぼんは標準語になっていた。
「ココって…何もないよ?」
「いいんです。30分経つのを待ちます。」
どうもわけが分からない。すると僕の顔を察して
あいぼんは聞いてきた。
「お兄さんは梨華ちゃんのイトコじゃないですよね?」
「うん。……って、え?」
「ののがお兄さんを借りたいって言った時ぃ、
 梨華ちゃんの顔見てました。彼氏をとられたくないって顔。」
違うんだけどなぁ。多分、僕を殺す機会が減るからだと。
「ののはきっとお兄さんのコト、一目惚れしたんです。」
「ええっ!?」
「でぇ、梨華ちゃんはお兄さんをののに渡したくなさそうだしぃ
 私が手挙げたら、子供の気まぐれって思ってくれるかなって。」
「えええっ!?」
「だから、30分待ちます。」
4830分:02/01/21 02:41 ID:K7Lw9oVT
なんだって。辻ちゃんが僕を好きで、
それを助けるためにあいぼんが手を挙げたってコト?
「でも…。」
「えぇぇ。気にしないでください。」
あいぼんは笑って、顔の前で手を振った。
「そうだとしても、もったないよ。時間。
 ね、あいぼん。…でいいかな?」
「あ、はいぃ。あいぼんで。」
「30分あるからには楽しも。どこがいい?」
あいぼんはうつむいたあと、照れ臭そうに答えた。
「…じゃあ。…コーヒーカップ。」
僕らはコーヒーカップに向かって歩き出した。

「手ぇ、つなぐ?」「あ、はい。」
ハハハッ。
「え、何がおかしいんですか?」
「だってあいぼん、鼻メガネかけるの?」
あいぼんはいそいそとさっきの眼鏡をかけている。
「いやぁ、梨華ちゃんの言うことも一理あるかなぁっ…て。」
「でも鼻メガネぇ?」
「えへへへへ。」
周りから見るとカップルっぽく見えてるのかな。
49選手交代:02/01/21 02:42 ID:K7Lw9oVT
「楽しかったね。」
「そうですね。…あ、もうこんな時間。」
あいぼんはトテトテと前に駆けてくと
クルッと振り返った。
「お兄さんって優しいんですね。歩くときも
 ずっと、人ごみから加護を守る位置に立ってくれてたし。」
微笑んで、首をコクッと傾けると
「うちまで、お兄さんのコト好きになってしまいそうや。」
そう言って、跳ねるようにまた向こうを向き走り出した。

「ほら、ののー。あんたの番やでー。」
「おおっ。そうだった。」
振り返った辻ちゃんは
あいぼんと入れ替わりにこっちに走ってきた。
「お兄さーん。」
鼻にソフトクリームをつけて満面の笑みだ。
「じゃ、行きましょー。」
50鼻先:02/01/21 23:34 ID:K7Lw9oVT
「じゃあ、どうする?…辻ちゃん。」
「希美って呼んでくらさい。」
「の…のちゃん。どこ行こうか?」
「えーー。」
ののちゃんは少し膨れると答えた。
「しょうがないれすね…。じゃあ、観覧車ー!」
ののちゃんは僕の手を掴むと歩き出した。
何かプニュプニュしてるな。ののちゃんの手って。
それで、とっても温かい。
「行こ。梨華ちゃん。コーヒーカップ乗ろ。」
「う…うん。」
後ろから梨華ちゃんとあいぼんの声が聞こえてきた。

「ところで、ののちゃん。鼻についてるよ。」
僕は、鼻を指差した。
ののちゃんは鼻を触ると、手についたソフトクリームを見る。
そして少し考えた後、ののちゃんは笑顔で顔を突き出した。
「なめてくらさい。」
ええっ。僕は答えに詰まった。
「のののこと嫌いれすか?」
ののちゃんは少し目を潤ませている。
き、嫌いっていうか。無理でしょ。
51観覧車:02/01/21 23:35 ID:K7Lw9oVT
「じゃあ。目つぶって。」
「は、はい。」
ののちゃんはきゅっと目を閉じた。
「はいはい。観覧車行くよ。」
僕はののちゃんの鼻をつまむとそのまま引っ張っていった。
「あー。ずるいー。」
「知らない。知らない。」
ふー。いくら年が離れているとはいえ
あいぼんもののちゃんも抜群に可愛い。
お兄さんぶっても、気を抜くとすぐに振り回されてしまいそうだ。

「わーい。観覧車ぁ。」
ののちゃんは、よっぽど観覧車が好きらしい。
「ほら、あいぼんと梨華ちゃんがあんなに小さいよ。」
「うん。そうだね。」
降りるまでの5分ほどずっとはしゃぎっぱなしだった。

「じゃあ、次何乗ろっか?」
「観覧車ー!」
「え、またぁ?」
「うん。ずっと観覧車ね。」
52密室:02/01/21 23:36 ID:K7Lw9oVT
もうだいぶ時間もなくなってきたけど、
まだ僕たちは観覧車に乗っていた。
「ねぇ。お兄さん、そっち座ってもいいれすか?」
ののちゃんは照れながらそう言った。
「傾くから駄目ぇ。」
「もういいのれすっ!」
ののちゃんはぷくうっと頬を膨らませると、
そっぽを向いてしまった。
僕は、頬づえをついてそんなののちゃんをじっと見ていた。
すると、ののちゃんはゆっくり顔をこちらに向け
上目使いに言った。
「き、キスしていいれすか?」
「ほげ!?」
「いいれすか?」
ののちゃんはうっとりとした顔をしている。
さっきからずっと見ていて分かったんだが、
どうやらののちゃんは『恋』をしてみたいようだった。
「…。じゃあ、…ほっぺたにね。」
僕は、受け入れることにした。まんざらでもないし。
53石川と加護:02/01/21 23:37 ID:K7Lw9oVT
「なぁ、梨華ちゃん。もうそろそろちゃう?」
「うん。そうね。行こっか、あいぼん。」
二人はコーヒーカップを後にした。

「そっれにしても、ええ天気やなー。…あ!」
「あ?」
梨華ちゃんはあいぼんの目線の先を見た。
「いやいや、ちゃうねん。ええ天気と違って…
 そ、そうや。ほら可愛いやん、モナーちゃん。」
必死に取り繕ったが、遅かった。
「あ。」
梨華ちゃんはしっかり見てしまっていた。
僕にののちゃんがキスしているところを…。

ガシューン。
観覧車が地上についた。すかさずののちゃんが言う。
「ねぇ。も1回乗ろ。」
僕が答えようとしたときだった。
「ののぉ。もう時間じゃないのぉ。」
梨華ちゃんがこっちへやって来た。
「違うもん。まだあと二分あるもん。」
「でも、二分じゃココまで戻って来れないでしょお。」
なんか梨華ちゃん、いつも迫力が違う。
「のの。素直に聞いといたほうがええと思うで。」
「いーだ。」
あいぼんの忠告も聞かずに、ののちゃんは僕を観覧車に引っ張った。