ここでやれ

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36お誘い
昨日はいつもと少し違ったアプローチがあった。
「明日、デートしましょ。
 …じゃあ場所はモナーランドでいいですか?」

その電話に僕は完全に舞い上がっていた。
梨華ちゃんとデート…。
今までに何回か会ったけれど、デートといえば意味が違う。
すっかり、命を狙われていることも忘れてしまっていた。
そして、もう一つ忘れていたこと…
待ち合わせ時間の変更だ。
早すぎると思うんだけどな。梨華ちゃん。
モナーランドのゲートの前にいる僕。僕の周りには人っ子一人いない。
大きなからくり時計は6時を指していた。…朝の。

「ゴメンなさ―い。準備に手間取っちゃって。」
小走りにかけながら、梨華ちゃんが現れた。
変装のためか、帽子を深めにかぶり黒ぶちの眼鏡をかけている。
淡いピンクのパーカーに、オレンジのボックスプリーツのスカート。
抜群にかわいい。
それにしてもまだ6時半か…。
「これからどうしよっか?どっか行く?」
「いやっ。」
「でも開園は8時だよ。」
「待ってるの。」
…まぁ、いいか。ずっと梨華ちゃんと話していられるし。
37待ち:02/01/18 18:36 ID:Aq5Lq+qp
「何かほっぺた汚れてるよ。」
梨華ちゃんの顔には、油汚れがスジになっていた。
「あ。ありがとう。」
梨華ちゃんは、僕が差し出したハンカチで無邪気に顔を拭く。
でも、ホントにこの娘。の前世が僕なんだろうか。
やっぱりそんなこと簡単に受け入れられるわけない。

「ねえ、僕の記憶、どれくらいあるのかな?」
梨華ちゃんはしばらく黙っていたが、口を開いた。
「最近は、けっこう飛んじゃったかな。
 生まれてから徐々にこの体にも慣れて、いろんな経験もして
 けど、記憶は丸々あって、癖とか筆跡、歌い方、
 とにかくやっぱり『僕』だった。」
歌い方っても…。まぁ、カラオケは嫌いじゃないけど。
「でも、あなたが死ぬはずだった日から
 『僕』の記憶はどんどん薄れて『私』になっていって…。」
「……。」
「分かる?自分の記憶が消えてくの。すごく、…怖いの。」
梨華ちゃんは一瞬切なそうな顔を見せた。
そして、そのあと不敵に笑った。
「行こ。ホラ、門が開いたよ。」
38モナーコースター:02/01/18 18:37 ID:Aq5Lq+qp
平日でしかもまだ朝早い。
少しさびれた遊園地は、貸し切りと言ってよかった。
だけど、梨華ちゃんは一直線にコースターを目指した。
「ホラァ。早く。一番に乗るんだから。」
梨華ちゃんは僕の手を取ると、グイグイ引っ張っていった。
よっぽど好きなんだなぁ。ジェットコースター。
僕は梨華ちゃんの手の感触をかみしめていた。

「よしっ。一番乗り!
 後ろが一番、無重力感じるんだよ。」
そう言うと僕を一番後ろの席に押し込み、
梨華ちゃんは僕の隣に座った。
やたらはしゃいでいる梨華ちゃんは、子供っぽくって可愛い。
数人が僕たちの前に乗る。そして発車のベル。
プルルルルルル…。
そこで初めて、僕は異変に気づいた。

僕の安全バー、グラグラだっ!!
「準備に手間取っちゃって。」
隣を見ると梨華ちゃんが小さくピースをしていた。
ガタンッ。小さなゆれも大きく感じる。
無情にも、コースターは動き始めた。