ここでやれ

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28増員
ピンポーン。
チャイムが鳴る。
ピポピポピポーン。
…はぁ、すぐに誰だか分かる。
どうしよっかな…。出たら、また面倒なコトになりそうだ。
でも石川さんに会えるんだ。出ないわけがない。
「はいはーい、ちょっと待ってください。」
そう言って立ち上がったときだった。
ガチャガチャガチャ…。ガチャン!
ドアは勝手に開いてしまった。
…そうだった。合い鍵を持ってかれたんだった。

「なんだ。いるじゃないですか。…えへっ。来ちゃった。」
やっぱ、か、可愛い。当たり前だ。天下の石川梨華だもんな。
僕はかなりの間、石川さんに見とれていた。
気がしたのだが、ほんの一瞬だったらしい。
すぐ次の言葉で我に返ったからだ。
「どーもー。こんにちわー。」
そう、玄関にはもう一人立っていた。
「よっす…、吉澤さん!?」
石川さんに続き入ってきたのは、誰あろう吉澤ひとみだった。
「あ、よっすぃーでいいっすよ。」
ともすると、僕は馬鹿みたいな顔をしていたかもしれない。
29真っ赤な:02/01/15 02:20 ID:njAxW0ZF
「石川さん、これって…。」
「なに、梨華ちゃん、石川さんて呼ばれてんだ?」
「う、うん。」
「梨華ちゃんは、梨華ちゃんの方が自然だよ。」
テレビで見ていたように、よっすぃーは
なんと言うか…、積極的な感じだ。
「…じゃあ、梨華って呼んでください。」
なんか、どんどんヘンな関係になってく気がする。

「あの、で。梨華ちゃん…。なんで、よっすぃーがうちに?」
「いやぁ。私がピヨ助見たいって言ったんですよ。」
「よっすぃーにこないだのコト言ったら、
 どうしてもって…。」
こないだのコトって。…あんなことよっすぃーに言ったのか?
「おおっ。かっけー!ホントにベランダに住んでるぅ。」
よっすぃーは窓際で歓声を上げている。

「でも、優しいんですね。」
「え?」
「逃げ出した縁日のひよこに囲まれて困ってる
 梨華ちゃんを助けてあげて、その上
 その中で怪我してたピヨ助も拾ってあげるなんて。」
「ええ?」
梨華ちゃんはニッコリこちらに微笑んだ。
「この間は、ありがとうございました。」
梨華ちゃんって、やっぱりとんでもない娘。だ…。
30散歩:02/01/17 01:26 ID:+PFM9YJb
「ほらほら、見てよ梨華ちゃん。
 ピヨ助、私の手の上歩くんだよー!」
「うん。かわいいね。」
多少顔は引きつってはいるものの、
梨華ちゃんはよっすぃーに笑顔を見せた。
…なんかいいなぁ。こういうの。
僕はふと思いつき、よっすぃーの横にかがむと
人差し指にピヨ助を乗せた。
「見ててよ、いい?」
クイと手首を返すと、ピヨ助はクルンと宙返りをした。
「すーげー。ピヨ助ぇー!」
「ホント。すごーい。」
よかった。二人とも喜んでくれたようだ。
よっすぃーなんて、かっけーを連発している。

「そうだ、よっすぃー。ピヨ助とお散歩行ったら?」
いきなり梨華ちゃんがそう提案した。
「ええっ。いいんですか?」
僕の顔を覗き込むように見るよっすぃー。僕は即答した。
「うん。もちろん。」
「まぁじでー!?やったー!行くぞっ、ピヨ助。」
よっすぃーは嬉々として玄関へ走った。
「行ってきまーす!ピヨ助、ミミズ食べるかなぁ。」
31二人:02/01/17 01:27 ID:+PFM9YJb
ガチャン。
ドアが閉まると、徐ろに梨華ちゃんが口を開いた。
「やっと、…二人きりになれたね。」
「え?ええ?」
梨華ちゃんはコタツの横に正座してうつむいている。
僕が呆然と立っていると、梨華ちゃんは黙りこくったまま
綺麗にラッピングされた包みをコタツの上に置いた。
…何かを伺うように、梨華ちゃんは顔を上げる。
その場の空気にたまらなくなって、ついに僕が話しかけた。
「あのっ。コーヒーでもいれるよ。」
「待って!」
梨華ちゃんは遮った。包みを解くと中からは重そうなビンが出てきた。
茶褐色のビンには、コルクのような栓がしてある。

キュポン。
快い音と共に栓が開いた。
梨華ちゃんはニコリと笑って…そして
思いっきりビンを振った。
バシャァ。
中の液体が僕の服を濡らした。
「ま、まさか…梨華ちゃん?」
「そう。…強酸。」
うれしそうに梨華ちゃんは微笑んでいた。
「何か…、前より惨忍じゃない?」
「だって、なかなか近づかせてくれないし。だからまずは弱らせて…。」
ハハッ…僕も笑うしかなかった。
32液体プレイ:02/01/17 01:28 ID:+PFM9YJb
とはいえ、まずいよな。
酸で体がすぐに融けるわけではないが、
このままだと服が体に張り付いて大火傷か…。
僕はすぐに上着を脱ぎ捨てた。
「きゃっ。」
梨華ちゃんは少し顔を赤らめたが、
目はしっかりこちらに向いていた。
まぁ、彼女の話が本当なら、前世の自分の裸だからな。
「梨華ちゃんやる気満々だね。」
僕は、梨華ちゃんがビンを取り出した鞄の中に
もう一つ別の包みを見つけていたのだ。
形からしてナイフっぽい。
「うん。梨華がんばる。」
いたずらっぽく微笑んで、ビンをチャポチャポ揺らした。
絶体絶命だった。とっさに服を脱いだけど
よく考えれば、酸を直に浴びるわけにはいかない。

「おおさぶー。梨華ちゃんマフラー貸してー。」
張り詰めた空気を破ったのは、玄関からの素っ頓狂な声だった。
33勝負の行方:02/01/17 01:29 ID:+PFM9YJb
よっすぃーは、しばらく状況がつかめていないようだった。
が、はっとして叫んだ。
「ちょっとぉー!梨華ちゃんに何してんのよー!」
「え?」
「よ、よっすぃー?」
梨華ちゃんもぼくもキョトンとしていると
よっすぃーは、真っ直ぐ僕のほうに歩いてきた。
「こーの、変態!!」
よっすぃーはピヨ助を床に置き
しっかりグーを握ると、僕の顔を遠慮なく殴った。
グシャァ。
その場に崩れ落ちる僕。ていうか、よっすぃー…強い。
「帰ろ。梨華ちゃん」
「ちょ、ちょっと待って、よ…よっすぃー。」
梨華ちゃんを半ば引きずるように、よっすぃーは部屋を出て行った。

これって、助かったんだろうか…。
頬をさすりながら僕は、本気で鍵を変えることを考えていた。
                                   つづくかも