小説を書くスペース

このエントリーをはてなブックマークに追加
85モーブタ
 其の2 動揺

 ―ガタンゴトン、ガタンゴトン―

 規則正しいリズムを刻みながら、電車は走り続ける。辺りはもう
真っ黒い夜空に包まれている。冬の夜の訪れは早い。
 疲れた俺は座席に座ることもできず、ただ必死に立ち続けていた。
窓ガラスに疲れきった顔が映る。
(こんな顔してたら、なつみ心配させちゃうかな)
そんなことを考えていたら、降りる駅へと到着した。

 改札を抜けると、鮮やかなクリスマス・イルミネーションが目に映る。
イルミネーションに照らされる人ごみの中に、よく知っている顔を見つ
けた・・・ような気がした。
(あれ、なつみ?)
一瞬、声をかけようかととまどっている間に、駅へと向う人ごみに
消えていった。
(なつみ・・・違うのか?)
立ち止まっている俺に、だれかが声をかけてきた。
86モーブタ:02/01/17 02:54 ID:DoJpxPrr
「こんばんは」
「はい!あ、矢口さん、それに石川さんも」
「しぃ〜、声が大きいですよ。ねぇ、矢口さん」
「キャハハ、そうだよ〜」
「ご、ごめん(その笑い声のほうが・・)」
 2人は仕事帰りらしく、今日は早く終わったので、これから2人でゴハン
ということらしい。

 ちなみにこの2人を含め、メンバーと一部の関係者は俺となつみの関係
を知っている。
 まあ、メンバーに内緒にしておける訳ないんだけど。

「2人でゴハンか、いいなあ」
「キャハハ何言ってるの、そっちだって今から2人で、ねえ?」
「そうですよ〜、いいな〜。チャーミーだってそのうち・・」
「なにお〜、オイラだって・・」
 お〜い、2人で遠くを見つめないでくれ〜、・・・はぁ。このまま放って
帰ろうかな、と思っていたら突然ちょっと不安そうな顔をして、矢口さんが
話しかけてきた。
87モーブタ:02/01/17 02:55 ID:DoJpxPrr
「そういえば、なっちと何かあった?」
「え、なつみと俺が?何かって?」
「う〜ん、特に何って訳じゃないんだけど、チャーミー?」
「・・・いつか・・は、はい!何ですか矢口さん」
「おいおい、聞いてないのかよ〜」
「ごめんなさい・・」
 そんな2人のやり取りを聞きながら、俺の不安はどんどん膨れていった。

「なつみ何か変でしたか?」
「安倍さん?あー、何か思い詰めてたようですね」
「ちょ、ちょっとチャーミー」
「ご、ごめんなさい。ちょっと、ちょっとだけですよ」
「思い、詰めていた?」
 なにが、どうして、なにを・・・。必死で考える、が、あたまの中が
こんがらがって何も思いつかない。
 そんな俺を見て、2人が慌てて言葉をかけるが何も聞こえてこない。
我に返るまでしばらくかかった。
88モーブタ:02/01/17 02:56 ID:DoJpxPrr
「はは、ちょっと動揺・・でも、もう大丈夫」
「ご、ごめん。オイラの言った事は忘れて、ね」
「チャーミーの言った事もですよ」
「だ、大丈夫だよ、気にしてないから。帰ったらなつみに、それとなく
 話してみるよ」
「矢口たちから聞いたって・・」
「分かってる、言わないよ」
「よかった〜、ねえ矢口さん」
「う、うん。じゃ、オイラたちはここで」
「じゃ、また」
「チャオ〜」
 2人は足早に夜の闇へと消えていった。俺は1人になりもう一度考えてみる。

 (何があったんだろう)

 深呼吸を1回して、ゆっくりと今朝の出来事を思い出した。

 (変わったところ・・・、あ!)

 俺は家へと走った。12月の冷たい、少しだけさみしい風が不安な心を
家へと急がせた。


    其の3へ続く     かも?