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76モーブタ
―2人の約束―

〜エピローグ〜

 「暑いな…」俺は一人つぶやきながら、早足で歩いていた。思って
いたよりもきつい北海道の日差しを浴びながら。
 2001年夏、俺は古い約束をはたす。幼い頃にかわした、たわいもない
約束―

  《おとなになったらー、ケッコンしよーね・・・》

 ―そう言いながら笑った彼女の顔を今でもハッキリと憶えている。
彼女が二十歳になった今日が、約束の日なのだ。

「あ、なつみ!」
「遅いー、もう待ちくたびれたべ!」
「ごめん、飛行機遅れちゃって…、ほんとゴメン」
「ま、なっちはやさしいから許してあげるべさ」
「はいはい、やば!急がなきゃ…」
「遅れるべ!」
教会へと向かって俺たちは走り始めた。自然と二人の手はつながれていた。


 〜それから半年後〜
77モーブタ:02/01/16 00:13 ID:hg1EcUcU
其の1 変化

「…ぁだよー、ぉ…」
う、うーんだれだ?
「朝だよ、起きてよ!」
「…うーん、あと五分…だけ」
「もー、起きないとこうだべ、えい!」
(ドスン≡3)
「ぐはっ、分かった起きる、起きるから〜、お、おりてくれ〜」
「さ、いっしょにごはんにしよ」
「お、おう」
 方言と標準語の入り交じった、毎朝恒例のセリフを聞きながら、
いつもと同じようにふと思う。
(しあわせだなぁ)
その時は、いつまでもこの幸せが続くと信じていた。変わらず、いつまでも。

寝ぼけ眼をこすりながら顔を洗おうとしていたら、いい匂いがしてきた。
(あ、味噌汁の匂い・・・)
ここでまたぶちきれ・・じゃなくて、幸せをかみしめる。一緒に暮らし
始めた頃はまだまだだった料理の腕も、最近はすっかりうまくなり、
俺が言うのもなんだが『いい奥さん』している。
78モーブタ:02/01/16 00:15 ID:hg1EcUcU
「いただきまーす」
「はい、どうぞめしあがれ」
 (ムグムグ)
「どう?おいしいっしょ?」
「・・・うっ!」
「えっ、どうしたの?おいしくなかった?」
「・・う、うまい!」
「も〜、まただましたべ」
「おいしいよ、ほんと」
「うん。ありがと」
な、なんて古典的な会話。けど、これもほぼ毎日交わされる儀式みたいな
もの。毎回驚いてくれるなつみに、毎回「かわいいな〜」と惚れ直す俺。
これが二人の毎朝の風景だ。
79モーブタ:02/01/16 00:16 ID:hg1EcUcU
「じゃあ俺、そろそろ行くよ」
「うん、ハンカチもった?ティッシュは?」
「・・おう、持った」
「あ、頭に糸くず。取ってあげるね、しゃがんで」
「お、おう」
  (チュッ!)
「はっはー、引っかかったべさ」
「!」
「チュウ、・・しちゃった」
そう言いながら、なつみの顔は見る見る赤くなってる。はずかしいなら
やらなきゃいいのに。そんなこと思ってた俺の顔も赤くなってた。
「・・じゃ、行ってきます」
「うん、あ、あのね・・・」
「な、に?」
うわ、声がうわずっちまった、かっこわり〜俺。
「ううん、いい。行ってらっしゃい!」
 外に出ると12月の冷たい、少しだけさみしい風が、熱くなった
頬を冷ましてくれた。

(でも、何を言いかけたんだろなつみ?)

 少し引っかかったが、その思いを消すように頭を振り俺は
会社へと向った。


    其の2へ続く     のか?