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159しま☆はな
亜弥達は軽い食事を取っていた。
そこで瞳は亜弥に話し掛けた。
「あの・・・」
「ん〜?なあに?」
「ここを出たら次何処行きたい?」
「そうだね・・・」
「何処でもいいよ、亜弥ちゃんが行きたい所ならね」
「じゃあ、花やしきに行こうか」
「うん、いいね・・・あたし達も行った事がないから」
「よし、決まり」
亜弥は言った。
そして亜弥達は食事を済ませて、ファーストフードショップから出た。
160160:02/02/06 00:46 ID:Lu92PASG
132の神戸のFM局てKiss-FMのこと?
http://kiss-fm.co.jp/
161しま☆はな:02/02/06 11:44 ID:evlKBTFA
>>160
これはあくまでフィクションなのです。
実在するFM局とは一切関係はない、との事です。
162しま☆はな:02/02/06 12:01 ID:evlKBTFA
亜弥達は花やしきに到着した。
すると見覚えのある女の子2人組が立っているのが見えた。
なつみ達と同じモーニング娘。の加護亜依と辻希美である。
雅恵は希美に話し掛けた。
「あれ?辻ちゃん・・・」
「よっ」
「辻ちゃんも休みなんですか?」
「そうなんれすよ」
「そっか」
雅恵は言った。すると・・・
「ここで立ち話もなんだからそろそろ中に入ろうよ。」
亜弥は雅恵達にこう言った。
163しま☆はな:02/02/06 13:06 ID:evlKBTFA
テーマソング 『そうだ!We're alive』 歌/モーニング娘。

※努力 未来 A BEAUTIFUL STAR
 努力 Ah Ha A BEAUTIFUL STAR
 努力 前進 A BEAUTIFUL STAR
 努力 平和 A BEAUTIFUL STAR※

ドッキドッキしてみたいな
DANCIN' THROUGH THE NIGHT

FUNKY FUNKY してみたいな
FUNKY! DISCOTHEQUE

We're ALIVE SO 生きている
THE 人間 そう そう 人間

BOOM BOOM BOOM BOOM ×2
BOOM BOOM PUMP IT UP

YEAH YEAH YEAH YEAH ×2
YEAH YEAH PUMP IT UP

We're ALIVE だって 考える
THE 人間 YES YES 人間

アイドル リーマン ギャル子 ギャル男君
父ちゃんも母ちゃんもみんなみんな
オギャーっとこの世に生まれた時は
丸裸さ GO! GO! GO! GO!

(※くり返し×2)

幸せになりたい あなたを守ってあげたい
本当の気持ちはきっと伝わるはず
GO! GO! GO! GO! We're ALIVE

やった〜!やった〜!してみたいな
HAPPY! THROUGH THE NIGHT

DISCO DISCO してみたいな
FUNKY! DISCOTHEQUE

We're ALIVE SO 恋をする
THE 人間 HEY HEY 人間

BOOM BOOM BOOM BOOM ×6
BOOM BOOM PUMP IT UP

YEAH YEAH YEAH YEAH ×6
YEAH YEAH PUMP IT UP
We're ALIVE だって 悩んでる
THE 人間 YEAH YEAH 人間

大事にしていた留守電の声
ボタン間違って 消しちまった
ガク〜っていつまで悔やんでるより
こぶし上げて GO! GO! GO! GO!

(※くり返し)

幸せになりたい あなたを守ってあげたい
平凡な私にだって出来るはず
GO! GO! GO! GO!

幸せになりたい 愛情で包んであげたい
いくつになっても WOW 青春だよ
GO! GO! GO! GO!
We're ALIVE

(※くり返し)

164しま☆はな:02/02/06 13:18 ID:evlKBTFA
 〜エピローグ〜

その夜。
雅恵達は新宿のとあるバーに来ていた。
「・・・みんな、今日は本当に楽しかったよ」
あゆみはこう言った。すると・・・
「ううん、あゆみ達が元気を取り戻したらそれでいいのよ」
亜弥は多少謙遜しながらあゆみにこう言った。
「さあ、今日は飲みましょう」
「でもあゆみ達はジュースでも飲んでね」
なつみはあゆみ達に言った。
これからもメロン記念日という4人組はさらに活躍を重ねることであろう。

    ―――――終劇―――――
165しま☆はな:02/02/06 13:25 ID:evlKBTFA
完結いたしました。
短い間ではありましたが読んで頂きました皆様に感謝申し上げます。
続編は今のところ未定でありますが近い内に作成すると思います。
そのときはよろしくございます。
166 :02/02/06 17:28 ID:gQiUtZYt
ああ!?
167  :02/02/06 17:30 ID:gQiUtZYt
君は何が言いたいの ねえ
168名無し募集中。。。  :02/02/06 17:48 ID:1Ze1J1Ux
うわ..(w
>作者
とりあえず一冊本読むことをおすすめする
169 :02/02/07 00:44 ID:sF9C2Ro5
勢いがあって面白かったです。ごちそうさん。
170名無し募集中。。。 :02/02/08 00:17 ID:RUIVQiZB
このスレでは小説の作者を募集しております。
年齢・性別不問
未経験者歓迎

とりあえず挑戦してみたい方も、どうぞ!
171名無し募集中。。。 :02/02/08 13:40 ID:RUIVQiZB
期待age
172名無し募集中。。。:02/02/10 03:04 ID:mLZfQglK
保全しとこう
173名無し募集中。。。:02/02/11 00:28 ID:OQ7LId4W
引き続き作家募集中……
174名無し募集中。。。:02/02/13 05:17 ID:nMV7YJst
引き続き作家募集中……
175名無し募集中。。。:02/02/16 04:47 ID:AAzFtTCP
作家募集中……
176女の子だよ!:02/02/16 12:41 ID:nCFkZB4L
こんな小説を書いてみました
宜しかったら、読んでみて下さい
177女の子だよ!:02/02/16 13:03 ID:PvQkJTeC
思ったよりいい人殺人事件〜なっち探偵の事件簿より


NO.1 出会い

 今年も夏が終わり、青山通りの歩道には、初秋の寂しげな日差しが、ビルの間から差し込んでいた。
私、安倍なつみは北海道室蘭の高校卒業後、単身上京して表参道にある女性向けの不動産会社に就職している。
平凡なOLの仕事と思っていたのだが、実際は窓口担当兼外務営業だった。
二年目の私は後輩の矢口真里と組み、今日もマンションオーナー宅を廻る。
残り三件となった時、すでに太陽は西の地平線付近にあった。
私達は青山一丁目駅の真上付近の歩道を歩いている。
「安倍さん、疲れちゃったよー。少し休憩しましょうよ」
後輩の矢口は百四十五センチという小柄な娘で、元気だけで入社したそうだ。
しかし、何をやらせても卒なくこなし、将来的には出世しそうなタイプである。
そんな矢口が珍しくサボろうと言うのだ。
「どうしたべさ。矢口らしくないんでないかい?」
「アハハハハー!安倍さん、訛ってますよー。安倍さんだって疲れてるんじゃないのー?」
矢口は私の北海道弁を気に入っており、つい出てしまう方言を真似したりしている。
矢口は横浜出身であるため、方言自体が珍しいのだろう。
「しょうがないねえ、それじゃ、三十分だけだよ」
私は適当な喫茶店に入って行く。
中は空いていて、ウエイトレスが気を利かせ、窓際の席を確保してくれた。
私が座ると矢口は時間をかけて座る。十センチくらいの厚底靴であるため、素早く座る事が困難なのだ。
178女の子だよ!:02/02/16 13:04 ID:PvQkJTeC
私も百五十二センチなので小柄なのだが、こうして座って向き合うと、矢口は子供のように小さい。
「あたし、アイスコーヒー!」
矢口は少し寄った眼で、ウエイトレスと私を見た。
私もアイスコーヒーを頼み、タバコを出して火を点ける。
「安倍さん、いつからタバコを吸ってるの?」
矢口は何事にも興味深々である。
彼女は高校時代、クラブ活動もしていないのに、
一度もアルバイトをした事が無いという国宝級であり、
世間知らずなせいもあって、とにかくうるさいくらいに聞きたがりだ。
「高校三年からかな。ダイエットにいいって聞いたんだ」
「へえー、そうなんだー。タバコ吸うとダイエットになるんですかー?矢口も吸おうかなー」
「吸わないに越した事はないべさ。部屋は汚れるし、お金もかかる。第一、身体に悪いっしょ?」
「アハハハハハ・・・・・・訛ってるー」
矢口は屈託なく笑う。明るい性格で元気なため、私は矢口を気に入っている。
矢口も私とコンビを組んで、慕ってくれていた。
先輩後輩というより、友達同士みたいな関係である。
「うー、また方言が出た」
私が顔を顰めると、矢口は更に嬉しそうに笑った。
「方言で話した方がいいよ。なっちさんらしいもん」
仕事では『安倍さん』と呼ぶ矢口も、プライベートになると『なっちさん』と言う。
こうした使い分けが出来るので、矢口の頭の回転は凄いと思えた。
事実、彼女が入社した直後、客からのクレームの電話が入ったのだが、
矢口はのらりくらりとかわし、最終的には相手を納得させてしまったのである。
高校卒業直後の娘に出来る芸当ではない。
「方言、抜けないなー。やっぱり、お上りさんだよね」
そんな会話をしていると、二人の女性が私達の横に立っていた。
179女の子だよ!:02/02/16 13:05 ID:PvQkJTeC
見上げると、一人は女性警官である。
「あんた、未成年やろ?タバコなんか吸って!」
私服の警官らしい女性が私を睨む。
「違うべさ、もう二十歳になった」
「そんじゃ、何か年齢が確認出来るものを出してや」
「年齢が確認出来るもの?そんなものは無いべさ。ああ、これでいいっしょ?」
私はハンドバッグの中から住民票のコピーを出した。
「そんなに若く見えたんだー」
矢口は動揺もせず、楽しそうにしている。
「安倍なつみさん?」
制服の警官が訊ねた。
「そうだべさ」
すると、住民票を見ていた私服の警官は、眼を細めて首を振った。
「これじゃ駄目やな。免許証はあらへんか?」
私服の警官は制服の警官に住民票を渡した。
「免許は持ってないべさ。健康保険証はアパートだし」
私が困っていると、制服の警官が言った。
「室蘭の安倍なつみさんですよね?あたし!圭織!」
全員が不思議そうに彼女を見る。その中で、私だけが思い出した。
彼女は飯田圭織。小学三年生の時に札幌へ引っ越したクラスメートである。
私と彼女は同じ病院で生まれた。
誕生日も二日しか違わないので、母親同士も仲良くなり、同じ幼稚園と小学校へ通った記憶がある。
「本当だ。うわあ、圭織ちゃんだべさ!どうしたの?」
「警視庁の警察官採用試験だけが受かったの。それで上京したってワケ」
「背が高くなったねー。三年生の時は、なっちと同じくらいだったっしょ」
二人のやりとりを聞いていた私服の警官は、飯田の肩を叩いた。
180女の子だよ!:02/02/16 13:05 ID:PvQkJTeC
「なんや、知り合い?そんならそうと、早く言ってえな。すまんな、可愛いから高校生思たで」
「こちらは中澤巡査部長。渋谷署の捜査課主任よ。
あたしは少年課なんだけど、少年犯罪の捜査で協力してるの」
「暑!歩き回って疲れたわ。なあ飯田、休憩しよ」
中澤は矢口の隣に座り込んで来た。飯田は安倍の隣に座る。
「いいんですか?」
矢口は中澤に訊いた。
「かまへんかまへん、捜査言うても人間がするんやで。疲れたら休む。
これが基本や。おーい、お姉ちゃん、うちにもアイスコーヒーくれへんか?」
中澤は、かなりくだけた刑事のようだ。
「中澤さんは関西だべか?」
私が訊くと、中澤は笑顔で言った。
「そうや。京都府福知山市出身。・・・・・・この可愛いのは?」
中澤は矢口の肩に手をかけた。
「矢口真里でーす。なっちさんの後輩なのー」
「ほんまー?可愛いなー」
中澤は矢口を気に入ったようだ。
「それじゃー、今度、飲みに行こうよー」
飯田が中澤と私に言った。
「いいねえ!」
私が言うと中澤も賛成する。
話によると、中澤は二十八歳の独身であり、偶然にも私の会社が世話したマンションに住んでいた。
私の住むアパートから見えるマンションである。
「いけない!もう六時だべさァァァァァァー!」
私が立ち上がると、話に夢中になっていた矢口も慌てた。
「忙しいの?」
飯田が私を見上げた。
「後、三件廻るんだべさ。七時までに帰らないと、社長が嫌な顔をするの」
私と矢口は慌てて喫茶店を飛び出した。すると、中澤が走って来る。
「これ、うちの名刺や。捜査に協力してた言えば、叱られずに済むやろ」
「ありがとうございます」
私は中澤に頭を下げて、短気なマンションオーナーの家に急いだ。
181女の子だよ!:02/02/16 13:07 ID:PvQkJTeC
NO.2 事件発生

 私と矢口が最後の家である信田家に到着したのは、午後七時を少し過ぎた頃であった。
信田家は青山通りから少し入った高級住宅地にあり、五百坪はある大邸宅である。
信田家は青山付近に九棟のマンションを持ち、その内の六棟を私の会社に委託していた。
全て賃貸であるため、居住者の出入りが激しい。
「遅くなっちゃったね。もう夕食の時間だよ」
私が言うと矢口は呑気に言った。
「社長には電話したから大丈夫ですよ」
「違うよ。信田さんが夕食だと困るっしょ?」
「あ、そうか。」
矢口は舌を出した。私はインターホンのボタンを押す。
「はい、どちら様でしょう」
インターホンからは、若い女性の声がする。恐らく、信田家で雇っている家政婦であろう。
「レディス不動産の安倍です。遅くなりました」
「どうぞ」
私は毎月のように来ているため、慣れた手付きで門を開け、二十メートルは離れた玄関に向かった。
私と矢口が玄関に到着すると、玄関が開けられる。
「お食事中ですか?」
私は家政婦の木村麻美に訊いた。
「いえ、まだです。どうぞ、お入り下さい」
私と矢口は、麻美の案内で応接間に通された。ほどなく、信田家女主人の美帆がやって来る。
美帆は信田新三郎の後妻であり、三人の娘の継母であった。
「安倍さん、また部屋が空いちゃったでしょう?」
「そうですね。でも、結婚で出て行かれたんですから、問題はありませんよ」
私は本気でそう思っていた。
182女の子だよ!:02/02/16 13:08 ID:PvQkJTeC
「家賃が高いのかしらね」
美帆は悩んでいるようだった。
長女の紗耶香が大学受験であるため、少しでも多くの現金が必要なのである。
現在のところ、全部で百二十室のうち、五十二室が空家になっていた。
「いえ、信田さんの物件は、かえって安いくらいです。問題は敷金と礼金なんですよ。
そこで、私が作ったプランを見て頂けますか?」
私が目配せすると、矢口は書類袋から企画書を取り出した。美帆は企画書に顔を近づける。
美帆は近視だったが、家ではほとんど眼鏡をしない。
「例えば、『ロフティ青山』の場合なんですが、一ヶ月の家賃は七万円ですよね。
でも、借り手には、敷金三ヶ月、礼金一ヶ月が負担なんですよ。
合計四ヶ月分プラス三ヶ月の家賃前納ですから、四十九万円も必要なわけです。
学生さんや上京して働く女性にとって、この金額は大きいんですね。
そこで提案したいのが、敷金・礼金無しのシステムなんです」
私は首を傾げる美帆に、出来るだけ解り易く説明した。
「これまでに退室された方は、ほぼ全員に敷金二ヶ月分を、お返しなさってます。
平均居住期間が五十六ヶ月ですから、売上で行くと敷金一ヶ月分と礼金を足して五十八ヶ月分。
『ロフティ青山』の場合は四百六万円になります。
これを、敷金・礼金無しで一万円上乗せすると、四百六十四万円になりますよね。
つまり、売上で行くと五十八万円も増えるんです」
美帆は食い入るように企画書を見ていたが、矢口と眼が合うと微笑んだ。
「眼鏡を忘れたわ。何とか見えるから大丈夫だけど・・・・・・ところで、八万円で借り手が付くんですか?」
美帆は心配そうに言った。
「その点は、私共で市場調査を致しました。女性の多くは・・・・・・」
183女の子だよ!:02/02/16 13:08 ID:PvQkJTeC
その時、誰かが部屋に飛び込んで来た。
「紗耶香ちゃん、どうしたんです?お客様がいらっしゃるのに」
部屋に飛び込んで来たのは、長女の紗耶香であった。美帆は叱るような口調で言う。
「た、大変なの・・・・・・叔母さんが・・・・・・」
「みちよがどうかしたの?」
「部屋に入ったっきり、返事が無いの」
みちよは美帆の実妹であり、短大卒業後、美帆のマンション経営を手伝っていた。
美帆に私を紹介したのも彼女であり、言うなれば恩人なのである。
「どこかに出掛けたんじゃないの?」
「鈴音さんや麻美ちゃんも、みちよ姉さんが外出するところを見てないの」
紗耶香は心配そうに言った。
「心配ですね。行ってみましょう」
私達はみちよの部屋へ急行した。
部屋の前には家政婦の鈴音と麻美、次女の梨華、そして子犬を抱いた三女の美喜がいる。
「みちよ姉さん、開けて」
梨華がドアを叩く。
「何も物音がしないんです」
家政婦の保田圭が言った。
「麻美ちゃん、合鍵を持って来てちょうだい」
「は・・・・・・はい。」
麻美は急いで美帆の寝室へ向かう。
「平家さん、レディス不動産の安倍です。どうしました?具合が悪いんですか?」
私は大声で言った。すると、三女の美喜が泣きそうな顔をしている。
「みちよ姉さん、倒れてるのー?」
「みちよ、どうしたの?具合が悪くても歩いて来なさい」
みんなが声を出していると、麻美が鍵を持って来た。急いで鍵を開けるが中は真っ暗である。
しかし、美帆が真っ先に中へ入った。
「どうしたの?みちよ、具合が悪いの?」
麻美はドアの脇にあるスイッチを押した。蛍光灯が点き、みちよの部屋は明るく照らされる。
すると、みちよはベッドに入り、布団を掛けていた。
184女の子だよ!:02/02/16 13:09 ID:PvQkJTeC
「みちよ?」
美帆はみちよに声を掛ける。鈴音はみちよの身体を揺さぶる。
しかし、何も反応しないので、鈴音は布団を捲った。
「キャァァァァァァー!」
希美の絶叫に、その場が凍りつく。
「鈴音さん!救急車を!」
梨華が指示する。しかし、私には判った。
みちよの見開いた目の瞳孔は開いており、すでに死後硬直が始まっている。
首には絞められたような跡もあった。
「奥さん、救急車は無駄みたいです。警察に電話して下さい」
私は自分のケイタイを出して、中澤に電話した。
飯田は制服であるため、ケイタイを持っていないからだ。
恐らく彼女達が最も近くにいる警官だろう。
「おう、安倍か、どないしたん?」
「殺人事件みたい」
「殺人事件やて?」
「うん、場所は・・・・・・」
私が説明すると、彼女達は三分で駆け付けた。
「飯田は玄関!安倍ェェェェー!どうしたァァァァァァー!」
中澤は息を切らせて現れた。
「こっちこっち!」
私は中澤を二階へ誘導した。
「渋谷署の中澤や!現場は保存せえよ!」
中澤は事件現場の部屋に入った。真っ先に被害者の様子を確認する。
「中澤さん、誰も荒らしてないよ」
矢口が言った。
「よっしゃー!それじゃ、全員部屋から出てや」
中澤は全員を食堂へ誘導した。
信田家の母娘と家政婦、そして私と矢口を収容出来るのは、食堂だけだったからである。
中澤はそこから電話した。
「ああ、課長?事件現場におるんやけど・・・・・・ほれ、例の事件で少年課の飯田と一緒だったんや。
ここの家政婦さんが通報しとる。それで、鑑識が必要やな。ああ、少し経ってるみたいや。
誰が来んの?・・・・・・本多おらんの?帰った?ほんま?・・・・・・ああ、ほな待っとるで」
185女の子だよ!:02/02/16 13:12 ID:jjwwy1b6
「飯田!現場はここか?」
「そうです!」
玄関で男の声がする。中澤は食堂から顔を出した。
「遅いな。現場は二階や。一人は門の前、もう一人は部屋の前で警戒せえ」
「これは中澤主任!」
中澤は急行した派出所の警官に指示を出し、食堂の椅子に座った。
「中澤さん、初動捜査はいいんだべか?」
私が質問すると、中澤は困ったような顔で言った。
「それは本庁の仕事やしな」
「事情聴取はしないのー?」
矢口が質問すると、中澤は軽く微笑んで言う。
「それも本庁の仕事なんよ。
中には刑事ヅラこいて余計な尋問するんがおるねんけど、
何度も話さなあかん人の身にもなれっちゅーんじゃ」
中澤は本当に刑事らしくない。
「あたし達は帰れないよね」
私が言うと中澤は頷いた。
「すまんな。今の内に会社へ電話しとき。
本庁の連中が来ると、関係者が外部と接触すんの嫌うんよ」
中澤に言われ、私は会社に電話した。
「安倍です。社長います?・・・・・・ああ、社長?
今、信田さんのところにお邪魔してるんですけど、平家さんが亡くなったんです。
はい・・・・・・いえ、警察の方が・・・・・・帰って来いって・・・・・・それは無理っしょ」
すると中澤が私の電話を取り上げた。
「もしもし、渋谷署の中澤です。
あと一時間は帰れんで。すまんけど、もう少し付き合って貰うわ。
えっ?ちゃうちゃう、安倍と矢口は関係ない。
でも、事件現場におったし、事情聴取ってのがあんのや。
へいへい、すんまへんな」
中澤は私にケイタイを返した。
「もしもし?・・・・・・そうですか。それじゃ、今日は直帰します。はい」
私は電話を切ると矢口に説明した。
「今日、社長はデートみたいよ。それで、あたし達は直で帰っていいってさ」
「良かった。遅くなると、バスが無くなっちゃうもん」
そんな話をしていると、渋谷署の捜査課がやって来た。
「裕ちゃん」
「おう、今日は石黒が夜勤やったか。家のもんは食堂に集めとるわ」
渋谷署では家族が全員女性という事で、夜勤だった石黒を急行させたのである。
「本庁は夏さんと稲葉が来るね。きっと」
石黒は吐き捨てるように言った。
「あのおばはん、まだ現役やったんか」
「誰がおばはんじゃァァァァァー!」
その声に中澤は仰天して振り返った。そこには、噂の夏がいる。
元警察学校の教官であり、中澤や石黒といった劣等生を鍛えた。
その後、警視庁に戻った夏は、キャリアだった事もあり、どんどん出世する。
今や警視庁捜査第一課の警部であり、課長代理に抜擢されていた。
「中澤、状況を報告せえ」
夏の後からは、中澤と同期である稲葉警部補が現れた。
彼女は中澤と対抗意識を燃やし、すぐにからんで来る。中澤は全く相手にしていない。
「別に状況もクソもあるかい。あんたが来るまで、現場保存だけしとったで」
中澤が挑発すると、稲葉の顔色が変わる。
「そうですよ。事情聴取は稲葉さんの仕事でしょう?」
キャリアでもないのに、上司に取り入って出世した稲葉を、石黒は毛嫌いしている。
「あんたら憶えとき!」
稲葉は二人を睨むと、食堂へやって来た。
186女の子だよ!:02/02/16 13:13 ID:jjwwy1b6
NO.3 事情聴取

(矢口、MDレコーダー持ってたよね。)
(あれで録るの?)
(スクープだべさ)
(それじゃ、モーニング娘。のアルバム買ってくれます?)
(しょうがないねー、買ってやるべさ)
(それじゃ、操作して来ます)
矢口はトイレに行き、MDの中身を消去する。そして録音ボタンを押して、食堂に戻った。
「それじゃ、全員が揃ったところで、事情聴取を始めます。
死亡したのは、こちらに住む平家みちよさんに間違いありませんね?
では最初に、110番通報したのは?」
稲葉が訊くと戸田が手を挙げた。
「私です」
「あなたは家政婦さん?お名前は?」
「そうです。戸田鈴音って言います。実家は北海道なんですけど、こちらへは住み込みで」
「そうですか、それで、貴方の意思で電話したんですか?それとも、誰かに指示された?」
「指示されました。最初、梨華お嬢様が救急車って仰ったのですが、
安倍さんが無駄だから警察にって・・・・・・」
稲葉は保田の言う事をメモすると、全員を見回した。
「安倍は私です」
私は手を挙げた。
「あなたは?」
「はい、レディス不動産の安倍なつみです。これは同僚の矢口真里です。
私共は信田さんがお持ちのマンションを、管理運営させて頂いております。
平家さんに信田さんを紹介して頂きまして・・・・・・」
「どうして救急車が無駄だと言ったんですか?」
稲葉は私の言葉を遮るように言った。
187女の子だよ!:02/02/16 13:14 ID:jjwwy1b6
「死亡していたからです」
「どうして死亡していると判ったんですか?」
「瞳孔が開いていましたし、死後硬直も始まってしました」
「あなたは医師でもないのに、どうして判断出来たんですか?」
私は稲葉の言い方に反感を覚え、露骨に嫌な顔をした。
「稲葉、彼女は室蘭の牧場の娘や。生物の生死に関しては、うちらより数倍詳しいで」
中澤が稲葉に言った。
「人間と動物は違う!」
稲葉は中澤と私を睨んだ。
「同じですよ。哺乳類ですからね。ブタや牛だって、人間と同じに死ぬと瞳孔が開くんですよ。
死後硬直だって人間と同じでした。あたし、おじいちゃんを看取ったから憶えてるの。
あの感じだと、死んでから一時間は経ってるって感じ」
私が言うと稲葉が睨んだ。
「それじゃ、死体に安倍さん以外の方で、触られたのは?」
「誰も触っていません。圭さんは布団を捲っただけだし、あたしは触らずに見ただけです」
私が言うと稲葉は益々機嫌が悪くなって行った。
「話を戻しますよ。平家さんの異常に気付いたのは誰ですか?」
「私です」
紗耶香が言った。
「どういった状況だったんですか?」
「みちよ姉さんに訊きたい事があって、部屋をノックしたんです」
「それは何時ですか?」
「七時過ぎだったと思います。安倍さん達が来られた直後でしたから」
「紗耶香姉さんが、大きな声でみちよ姉さんを呼んでいたの。私はその声で廊下に出ました」
「それで、第一発見者は?」
「部屋の鍵は、私が開けました。ああ、私は木村麻美です。戸田と同じ住み込みの家政婦です。
奥様に言われて寝室から合鍵を持って来たんです。それで、私が開けました」
「では、木村さんが最初に死体を?」
「いえ、全員ですね」
美帆が憔悴した顔で言った。
「では、死体を発見した時、一番近くにいた人は誰ですか?」
「お継母さんね。だって、お継母さんが布団の上から揺すったんだもん」
梨華が言った。
「いや、でも布団を捲ったのは鈴音ちゃんだよね」
吉澤が言うと戸田が頷く。
「そうです」
「でも、ベッドの枕もとには美喜がいました」
そう言ったのは紗耶香である。
「うーん・・・・・・全員が第一発見者やな。
・・・・・・それじゃ、次に、みちよさんは誰かに恨まれていませんでしたか?」
「恨まれてるも何も、あんないい人はいなかったわ。
もし、恨んでるとすれば、お継母さんくらいのものでしょうね」
梨華は美帆を睨んだ。
188女の子だよ!:02/02/16 13:14 ID:jjwwy1b6
「梨華!何て事を言うの!」
紗耶香が梨華を叱る。
「だってそうでしょ?お継母さんには、あたし達の養育義務が無いもんね。
だから早いところ、マンションを売って、いなくなるつもりだったんでしょう?
それでみちよ姉さんと口論してた。今朝だって・・・・・・」
「梨華姉ちゃんの馬鹿ー!お継母さんは優しい人なのに!」
美喜は子犬を抱き締めて怒鳴った。そんな美喜を鈴音が抱き締める。
「奥さん、口論したんですか?」
稲葉は真帆に言った。
「口論って言うか、姉妹喧嘩ですよ。実の姉妹なもので」
真帆は少し動揺しているように見えた。
「口論したのは事実なんですね?」
稲葉が執拗に迫った。その場を救ったのが紗耶香である。
「二人は普段、仲がいいんですよ。喧嘩って言っても、本当の兄弟喧嘩なんです。
私達と同じですよ。そうだよね、梨華」
「そうです。お継母さんとみちよ姉さんとは、とっても仲がいいの」
そう言うと、美喜は鈴音に抱きつく。鈴音は美喜を可愛がっているようだ。
「可愛さ余って憎さ百倍って事もありますが」
「稲葉!言葉に気いつけや」
中澤が誘導尋問にクレームをつける。これには稲葉もキレた。
「何じゃコラァァァァァー!テメエは弁護士か?アアン!」
「何だその言い方は!」
石黒が稲葉に噛み付いた。
「テメエはすっこんでろ!」
稲葉も負けていない。すると、普段は冷静な石黒が激昂する。
「誰に口利いとんじゃァァァァァー!表に出ろ!」
「上等やないか!相手したるわァァァァァァァー!」
稲葉は石黒の胸倉を掴んだ。
「こら、やめや!事情聴取中やろ!」
中澤が仲裁に入る。しかし、激昂する二人は中澤を突き飛ばした。
「全く・・・・・・すいませんねえ」
中澤は信田家の全員に頭を下げると、玄関にいる飯田を呼んだ。
「飯田、二人を静かにさせたれや」
「いいんですか?」
飯田は困惑しながら言った。
「おう、いいから二人を眠らせてやんな!責任はあたしが持つ」
気がつくと、夏が飯田の後にいた。
「警部の命令や」
中澤が言うと、飯田は深く頷いた。
その直後、飯田は稲葉に延髄斬りを決め、仰天する石黒の腹にキックを入れる。
二人は仲良く昏倒した。夏は素早く稲葉からメモを取る。
「怖い」
美喜は鈴音の胸に顔を埋めた。この二人は本当に仲が良い。梨華と麻美も仲が良いみたいだ。
同い年のせいだろうか。
「さすが飯田やな。もうええで」
中澤が言うと飯田は敬礼して持ち場に戻った。
「中澤、お互いに馬鹿な部下を持つと苦労するね」
夏は苦笑しながら言った。
「ああ、紹介します。こちらは警視庁捜査一課の夏まゆみ警部や」
中澤が皆に紹介すると、夏は頭を下げた。
「部下達が暴れましてすみませんねえ。では、私が事情聴取の続きをします」
こうして事情聴取は十時過ぎまで行われ、矢口はバスが無くなったので、私の家に泊まる事になった。
189女の子だよ!:02/02/16 13:16 ID:mUZCxDPR
NO.4 疑惑

 生まれて初めて他殺体を目撃した私は、かなり興奮していた。
それは矢口も同じであり、私達は帰りにビールと酎ハイを買って帰宅する。
矢口は私の家に来るのが初めてなので、ワクワクしているようだった。
「へえ、アパートって言っても、お洒落じゃないですかー」
矢口は私の住む白亜のアパートを気に入ったようだ。
私は自分が褒められたように嬉しくなって、自分の部屋のある二階へ階段を登る。
二階には五部屋あり、私の部屋は中央だ。
女性ばかりのアパートであるため、最初は怖かったが、大家さんの家の敷地内なので事件とは無縁である。大家さんは信田さんと同じ未亡人なのだが、面倒見のいいおばさんで、夕方にもなると仕送りの少ない女子大生を呼んで食事させていた。
私もこのおばさんは大好きで、休みの日には料理を教えて貰っている。
勿論、我レディス不動産の顧客だ。
「どうぞ、散らかってるけど」
私は矢口を部屋に入れた。私の部屋は1DKであり、ほとんどをダイニングで過ごす。
奥の部屋は寝室であり、ベッドと洋服箪笥以外は何も無い。
「いいなー、あたしもアパート借りようかなー」
矢口は羨ましそうに見回した。私は冷蔵庫にビールを入れながら、矢口に指示を出す。
「先に布団を敷いちゃうべさ。矢口はシャワーでも浴びて」
「はーい」
私は寝室のベッドの脇に、矢口が寝るための布団を敷いた。
家具がほとんど無いので、六畳間でも広く感じる。
布団を敷き終わると、私は矢口のパジャマを用意した。
私は締め付けられるのが嫌いなので、スウェットの上下を着て寝ている。
最近はまだ暑いので、ティーシャツとジョギングパンツなのだが。
「矢口、替えの下着は持ってる?」
私はバスルームの矢口に声をかけた。
「ありますよ。でも、バスタオルとパジャマを貸して下さい」
「パジャマは綿でいい?スウェットやティーシャツもあるよ」
「綿がいいなー」
「それじゃ、ここに置いておくからね」
こうして私は簡単な食事を作る。とは言っても、酒のつまみばかりなのだ。
「お先でしたー」
矢口がバスルームから出て来ると、今度は私が入った。
「なっちさん、ドライヤー借りますね」
「どうぞどうぞ、何でも使って」
私はシャワーを浴びてバスルームから出ると、バスローブを着たまま椅子に座った。
190女の子だよ!:02/02/16 13:16 ID:mUZCxDPR
「さあ、飲もうか」
髪の短い私は、ドライヤーを使わなくても平気だ。
矢口とビールで乾杯し、事件の話をする。そのうち、矢口がMDの事に気付いた。
「再生してみましょうか」
「そうだね、貸して」
私は矢口からMDディスクを受け取ると、ポータブルMD/CDプレイヤーに挿入した。
録音状態は良くなかったが、何を言っているのかは聞き取れる。
私は平家の死体発見状況を思い出しながら聞いていた。
そして、ある矛盾に気付いたのである。
「ねえ矢口、あの時、部屋は真っ暗だったよね」
「平家さんの部屋?うん、廊下も暗かったし、中は真っ暗でしたよ」
「確か、麻美ちゃんが電気をつけるまで、何も見えなかったよね」
「うん、そうでしたね。それがどうかしたんですか?」
矢口は美味しそうにコンビーフサラダを食べている。
「妙だと思わない?矢口も近視でしょう?
眼が悪い人が、暗い中でベッドに誰か寝てるって判るのかなあ」
私が言うと矢口も思い出した。
「奥さんでしょう?そう言えば、まだ部屋の鍵が開かない時に
『具合が悪くても、起きて歩いて来なさい』って言ってましたね」
「何か引っ掛かるよね。最初から平家さんがベッドにいるって知ってたみたい」
「そうですよね、あれだけ広い部屋なのに。
奥さんは机や椅子には行かずに、真っ直ぐベッドに向かいました」
「事件現場は密室、しかも合鍵は奥さんが持ってる。だとすると、奥さんが犯人?」
私は矢口を見た。
「まさかー、あんないい人に人殺しなんて出来ないよー」
矢口はビールで頬を染めながら言った。
「そうだよねー」
私は美帆が犯人であるかもしれないという事を払拭した。
しかし、状況証拠から行くと、美帆が犯人である可能性が高い。
何しろ、人の出入りが無い以上、平家を殺した犯人は信田家の人間だからだ。
未亡人の美帆・長女の紗耶香・次女の梨華・三女の美喜・家政婦の鈴音と麻美、
この六人の中に犯人がいる。
 私達は十二時過ぎまで飲んで、それから床についた。
矢口は飲むと更に陽気になるのだが、少々うるさいので、静かにさせるのが大変である。
放っておけば、破壊活動を始める恐れすらあった。
191女の子だよ!:02/02/16 13:17 ID:mUZCxDPR
「矢口、起きてる?」
「ふえ?もう駄目れすー」
矢口は酔い潰れていた。
それほど飲んでいないのだが、身体が小さいので、少しの量でも酔ってしまうのだろう。
身体が小さいと食べる量も少ないので、意外と経済的なのである。
 私は考えていた。美帆が殺人を犯すとは考えられない。平家も姉の美帆とは仲が良いと言っていた。
しかし、証拠は美帆に不利なものばかりである。
首を絞めた跡から見ると、犯人は紐のようなものを使ったようだ。
いくら紐を使ったとしても、まだ子供の美喜には殺害が不可能だろう。
そうなると、犯人は五人のうちの誰かとなる。
「ラブマシーン・・・・・・」
矢口は寝言を言った。私は現実に引き戻され、明日の事を考えて眠る事にした。

 翌朝、私は心地よい感触で眼が覚めた。誰かが私の胸を揉んでいるのだ。不思議と身の危険は感じない。というより、その揉み方は性的な行為の一環では無く、子供が母親にするそれに近かった。
しかし、私には子供がいないので、それが他人である事は理解出来る。
私には嫌悪感が無かったので、暫くその行為を是認した。小さな手は子供のようである。
そのうち、私の意識は薄れて行き、再び睡眠状態となった。
 しかし、次の感触には驚いた。誰かが私の乳首を吸っている。
びっくりして布団を捲ると、矢口が寝ぼけた顔をして起き上がった。
矢口は薄目を開けて私を見ると、驚いてベッドから転げ落ちて行く。
「や・・・・・・矢口!何するべさァァァァァー!」
私は飛び起きた。すると矢口は驚いたように私を見つめている。
「なっちさん?どうしてここに?・・・・・・あれ?」
矢口はあたりを見回すと、ようやく事態が呑み込めたようだ。
「触るだけならいいけど、吸われたら驚くっしょ?」
私が言うと、矢口は照れ臭そうに頭を掻いた。
「ごめんなさい・・・・・・矢口、寝ぼけてましたー。仔豚になってたのー」
「仔豚?」
私はカチンと来た。昨年まで私はストレスから太っており、ようやく痩せ始めたからである。
「矢口、ケンカ売ってんだべか?」
「げげー!もう七時じゃん!遅刻しちゃうー!」
矢口は飛び起きた。私は矢口を押さえつける。
「ここは青山っしょ!会社まではバスで十分だべさ」
「ああ、そうだった」
矢口は私の顔を見て笑った。
「こんなに朝早くに起きたのは、本当に久し振りだべさ。時間もあるし、朝食でも作ろうかなー」
私は矢口に寝室の片付けを任せ、スパゲティを茹で始める。
今日のメニューはスープスパゲティだ。
私はスパゲティを茹でながらハムエッグを作り、昨夜の残ったコンビーフサラダも食卓に並べる。
そうしてコーヒーを煎れた頃、矢口が寝室から現れた。
「なっちさん、洋服貸してよー」
「矢口じゃ大きいべさ」
「短めのスカートない?」
「洋服箪笥の中のものは、テキトーに着ていいよ」
「ありがとー」
こうして二人で朝食を摂り、洗面を終えて着替えたのだが、矢口は割と上手く着こなしている。
秋らしいブラウンのスカートに、白い半袖ブラウス。
これにベージュのベストを着れば、大人っぽく仕上がった。
「へえ、割といいねえ」
私が言うと矢口は嬉しそうに笑った。
「なっちさんは趣味はいいのに、着こなしが駄目なんだよー。あたしがスタイリングしてあげるー」
矢口は紺色のパンツを差し出した。そしてカラーの大きなブルーのブラウス。上着も紺だ。
白いスカーフをすると、一気に大人の雰囲気となる。私は服に合わせて、少しきつめのメイクをしてみた。シルバーのイヤリングをすると、キャリアウーマンそのものである。
メイクだけには自信があったので、私は矢口にメイクしてみた。すると、矢口も雰囲気が変わる。
私達は何だか嬉しくて、ウキウキしながら出勤した。
192女の子だよ!:02/02/16 13:17 ID:mUZCxDPR
NO.5 呼び出し

 会社に着いた私達は、社長の藤原から嫌味を言われた。
恐らく、昨夜のデートは上手く行かなかったらしい。
一通り事情聴取された後、通常業務に戻った。
今日は火曜日であり、明日・明後日は休みである。
更に月始めという事もあり、忙殺されるような仕事は無い。
だから安倍と矢口は、書類整理等の仕事を始める。
そこへ一本の電話がかかって来た。
「毎度ありがとうございます。レディス不動産でございます」
矢口が電話を取ると、相手は中澤だった。
「渋谷警察署の中澤いいますけど、安倍さんいらっしゃいます?」
「中澤さんですか?矢口でーす」
「おおう、あの時のチビちゃんやな?今日は忙しい?」
「いえ、昨日ほどじゃありませんね」
「ほならええか、渋谷署まで来て欲しいねん。安倍と二人で」
「社長に許可を得ないと」
「ほな、社長さんに換わってや。うちから話するしな」
矢口は社長の藤原へ電話をまわした。
「安倍さん、中澤さんから電話が入ってるんですよ。渋谷署に来てくれって言うんですけど」
「まあ、仕方ないべさ。事件現場にいたんだから。それで、社長は?」
「今、電話をまわしたところなんです」
「今日は忙しくないから、そのくらいの時間はあるっしょ」
私と矢口が話していると、社長の藤原がやって来た。
「なっちと矢口、渋谷署に行ってくれる?ついでに、この書類を少年課の飯田さんに渡してくれる?」
「これは?」
「女性用アパートの間取りよ。あなたの隣も空いてたわよね。そこも入れてあるから」
「はい、必ず届けます」
「じゃあ、宜しくね。中に契約書も入ってるんだけど、今日中に契約出来たら、直帰してもいいわよ」
「はい、それじゃ行って来ます。矢口、行くべさ!」
私は慌てる矢口を急かせると、秋晴れの外へ飛び出した。
193( ´D`):02/02/16 13:19 ID:lyNHcYWz
http://m-seek.on.arena.ne.jp/cgi-bin/read.cgi?dir=sea&thp=1013785874
加護たん…(;´Д`)ハァハァ…。


194女の子だよ!:02/02/16 13:19 ID:Xzldr2uX
「おう、よう来たな。ほんじゃ茶店でも行こか」
中澤はポケットに手を突っ込んだまま、私達を外に連れ出そうとする。
「事情聴取の続きじゃないんですか?」
私は中澤に訊いた。
「そんな大袈裟なもんやない。参考程度のもんや。あんたらは容疑者から外されたしな。
何か気付いた点があるかどうかの確認だけなんや」
「げげー!それまで容疑者だったんですかー?」
矢口は私を見つめる。
「まあ、会社行ってもええんやけど、面倒臭いしな。さ、行こか?」
「それじゃ、ちょっと待って下さい。圭織に書類を届けますから」
「それやったら、うちが来い言うてたって伝えてや。飯田もつまらん仕事、押し付けられとるやろうしな」
「はい」
私は少年課のドアをノックすると、恐る恐るドアを開けた。
「はい、何か御用ですか?」
中年の口うるさそうな婦人警官が睨んだ。
「あの、飯田さんに書類を届けに来たんですが」
すると、奥から飯田が出て来た。
「なっち〜、どうしたの?」
「社長に言われて書類を届に来たの」
「ああ、そうそう、あたし、今、寮に住んでるんだけどさー、門限とかうるさいのよー。
それでね、寮に入ってたチラシを見て電話したんだー」
「それと、中澤さんが呼んでるよ。つまらない仕事を押し付けられているだろうってさ」
「ラッキー!ちょっと待っててねー。課長ー!捜査課の中澤主任のご指名でーす」
「中澤じゃ仕方ないな。早目に帰って来るんだぞ」
「はーい」
飯田は薄手のジャンバーを持って、笑顔で走って来た。
「外は暑いべさ」
「これを着てないと、喫茶店の方で嫌がるの」
「ふーん」
195女の子だよ!:02/02/16 13:21 ID:toCP83Sh
こうして私達四人は、近所の喫茶店へ入った。テーブルに着くと、全員がアイスコーヒーを注文する。
「中澤さん、忙しいんじゃないんですか?」
私は心配して訊いた。
「所轄なんてのは暇なもんや。主導権は本庁やしな。うちらは小間使いみたいなもんやで」
中澤はある意味、達観していた。
「それでさー、何か判った事はあったんですかー?」
矢口は遠慮無く訊いた。これには中澤も苦笑する。
「何が聞きたいんや?」
「死亡推定時刻・死因・容疑者のアリバイ」
私が言うと中澤は困ったように飯田の顔を見た。
「まあええか、今日の夕刊に載るやろうしな。
死亡推定時刻は午後五時から六時の間、死因は頚部圧迫による窒息死。
凶器は発見されてへんが、ベルトのようなもんや。
言えるのはここまでなんやけど・・・・・・まあ、第一発見者やしな。
これは絶対に内緒やで。本庁の捜査方針が通達されたんやけど、犯人は信田家の誰かと見てるそうや」
中澤は極秘事項を喋ってしまった。私と矢口は顔を見合わせる。
「それで、容疑者のアリバイは?」
私は続きを訊いた。
「最後に平家が目撃されたのは、自室に入るところやな。
午後五時十分頃、三女の美喜が見とる。
美喜の供述が本当やったら、みちよが死亡したんは、午後五時十分から午後六時までの五十分間や。
その後、美喜は自分の部屋でパソコンを弄っとるわ。チャットの記録があったし、間違い無いやろな。
それに、あのチビじゃ人は殺せんわ。そうなると、残るは美帆・紗耶香・梨華・鈴音・麻美の五人やな。
えーと、梨華はクラブ活動で、帰宅したのは午後六時過ぎ頃。これは麻美が確認しとるわ。
高校を出たんが五時頃やし、真っ直ぐ帰って来たんちゃうかな」
中澤はメモを見ながら言った。矢口は飯田に書類の説明をしている。
時折、私と中澤の話に入って来るが、契約出来れば帰れるので、熱心に部屋の説明をしていた。
196女の子だよ!:02/02/16 13:21 ID:toCP83Sh
「次女の梨華ちゃんは、美帆さんと上手く行ってないみたいでしたね」
私が言うと中澤が頷いた。
「梨華は死んだ父親が再婚するのに反対だったそうや。
再婚したんが七年前やから、梨華が九歳ん時やな。紗耶香が十一歳、美喜が七歳ん時や」
「平家さんとの仲は?」
「母親を認めんのや。その妹とも口を利いた事は無いらしいで」
「うーん、動機的には怪しいべさ」
「なっちさん、急いで帰って来て、気付かれないように犯行に及んだとは考えられない?」
矢口は意外な発想をした。
「それは今、本庁で証言の裏付けしとるし、明日んなったら判るやろ」
「そうなると、在宅していた人の行動ですよね」
私は一般的な考え方で言った。
「そうなんや。実を言うと、妙な動きをしとるんが二人おんのや。
まずは美帆なんやけど、午後六時頃、慌てた感じで寝室に入って行くんを、麻美に目撃されとる。
この麻美も行動がおかしいんや。午後五時十分から六時十分までの間、誰にも目撃されていない」
「一時間は長いべさ」
「美帆が実妹を殺すとは考えにくいんやけど、口論してた事実もあるしな。最重要参考人や。
麻美は動機こそ無いが、一番力が強いよってな。アリバイも無いし対抗だわ」
「美帆さんのアリバイは?」
「美帆は五時二十分頃まで、鈴音とキッチンにおったそうや。これは二人の証言で合っとるな。
それから美帆は友人に電話しとる。
通話記録によると、時間は五時二十二分から四十四分までの二十二分間。
それから本人は寝室で横になっていたっちゅう話や。そやから、麻美との供述が食い違うな」
「それで本命・対抗なのか・・・・・・」
「他のもんのアリバイは、長女の紗耶香が帰宅したんが午後五時半頃。これは美帆が確認しとる。
それからリビングでテレビを観ていたそうや。
自室に戻ったんが五時五十五分頃。着替えて梨華の部屋へ行った時に、美帆を目撃したらしいわ。
鈴音は五時二十分から五十分まで、浴室にいたと言っとる。
浴室を掃除してから湯を張ったそうやから、このくらいは時間がかかるやろな」
「そうなると、怪しいのは美帆さんと、麻美さんだけだべさ」
「ところが人間関係では、みちよを嫌っとんのは梨華だけなんや。
特に麻美はみちよを慕っておって、仲が良かったらしいわ。動機が無いんやな」
中澤は首を傾げた。
「それじゃさー、外部の人間が侵入したのかなー」
矢口は怖そうに言った。
「それは考えにくいで。殺人現場は密室や。
外部犯の仕業やったら、わざわざ鍵なんかせえへんやろ?
それに、部屋の鍵は死んだ本人が持っとったしな」
「中澤さん、ちょっと気付いた事があったべさ。
実は、平家さんの部屋に入った時、美帆さんは真っ暗なのに、ベッドに平家さんがいるのを知ってたみたいなの」
「ほんまか!それは興味ある話やな」
「美帆さんは普段、眼鏡をかけないんだけど、あの時も眼鏡はかけてなかったの。
美帆さんは近眼だから、暗いところじゃ、本当に見えないはずなんだけどねー」
矢口が言うと、中澤はメモを始めた。
「なっちぃ〜、あんたのアパートが気に入ったんだけど、敷金・礼金で四ヶ月は厳しいなー」
飯田が緊張感の無い声で言った。
「家賃が五万円だから二十万円っしょ?そのくらい貸してやるべさ」
「でも、家賃は半年分前納だって」
「それは直接、大家さんと交渉すればいいんでないかい?話が分かるおばさんだよ」
「なっち、一緒に行ってくれる?」
「勿論だべさ」
「ほんなら、うちも付き合うで。どうせ暇やしな」
こうして私たちは署に戻った。そこで中澤は警邏課の担当に言う。
「なあ鈴木、パトカーのキイを貸し」
「あきまへんて、姐さん」
「ちょっとだけや、貸してえな」
「バレたら叱られますやん。堪忍して下さい」
「ええから貸さんかい!言う事きかんと、しばいたるぞ、ほんま」
「わ・・・・・・分かりましたわ。そのかわり、絶対にぶつけないで下さいよ。
捜査課に貸した事バレたら、今度は始末書や済まん言うてましたで」
「ぶつけんわ。今度奢っちゃるしな」
中澤は配車係の鈴木からキイを受け取ると、私達をパトカーに乗せた。
「いいんですか?私用に使って」
私は心配になって訊いた。
「本当はあかんけど、規則なんちゅうもんは、破るためにあるんや」
「なっちぃ〜、裕ちゃんは門限破りの常習犯で、二十世紀最後の退寮処分者なんだって」
「こらこら、バラしたらあかんやろ」
こういった和やかな雰囲気の中、私達は大家の家に行った。
197女の子だよ!:02/02/16 13:25 ID:XVflv35k
NO.6 探偵誕生

「びっくりしたよ。いきなりパトカーで来るんだからさ」
大家のおばさんは、お茶を運びながら言った。
「それで、どうだべか?圭織の敷金・礼金の事」
「婦人警官がいれば、他の子も安心するだろうし、願ってもない事だよ。でも、内緒にしておくれよ」
「ありがとう、おばさん」
私は頭を下げた。
「いいんだよ。公務員だったら、いきなりリストラなんて事はないからね。
そのかわり、礼金だけは入れてくれる?これは不動産屋さんに支払うものなの」
「はい、ありがとうございます」
飯田は嬉しそうに言った。
「ほんま飯田は強いよってな、ええ用心棒になるで」
中澤が言うと失笑が漏れた。
「それで、引越しはいつにするんだい?」
おばさんはカレンダーを見た。
「早い方がいいんですけど」
「それなら、明後日が大安だねえ」
「明後日は非番ですから、引越し出来ます」
飯田が手帳で確認した。
「なっちも休みだべさ。手伝うよ」
「ええな!引越しが済んだら、パーッとやろうやないか」
「裕ちゃんも来るの?」
飯田が言うと、中澤は頷いた。
「どうせ暇やしな。捜査のふりして来るわ」
「困った刑事さんだねえ」
全員が失笑する。
「荷物は少ないから、午後からで平気だね」
飯田は午前中に梱包するらしい。
「そういえば、信田さんのところで事件があったんだってねえ。怖い」
おばさんは中澤を見た。安倍と矢口は顔を見合わせて苦笑する。
「うちらも捜査しとるんやけど、美味しいところは本庁で捜査しとるんですわ。
所轄なんて暇なもんでっせ」
こうして飯田は契約書を書き、私は社長に連絡して直帰した。
198女の子だよ!:02/02/16 13:26 ID:XVflv35k
 翌日、おばさんと私で飯田が入る部屋を掃除していると、中澤から連絡が入った。
昼食を奢ってくれるというので、私は自転車で待ち合わせ場所のレストランに向かう。
すでにレストランの中では中澤が待っていた。
「ちょっとした展開があってな。意見を訊きたいんや。実は昨日の夜に信田美帆が逮捕された。
けどな、供述が曖昧なんや。
凶器はタオルや言い張るんやけど、鑑識ではベルトみたいに硬くて細いもんや言うてんねん。
動機は口論で逆上したらしい。確かに状況証拠だけ行くと、美帆が一番怪しいんやけどな」
「美帆さんね・・・・・・彼女は逆上するような人じゃないべさ。本当に犯人なのかな」
「あんたは犯人やないと思うんか?」
「うーん・・・・・・誰かを庇ってるとか・・・・・・」
私が言うと中澤は嬉しそうな顔をしてパスタを食べた。
「これは極秘の情報やけどな。梨華が下校したんは四時過ぎやった。嘘の証言をしたんや」
「そうなると、麻美さんも嘘の証言を?」
「そいつは判らん。麻美は玄関で目撃しとるんや。
もしかしたら、梨華が裏口から侵入して、平家を殺してから玄関へ廻ったかもしれんしな。
どや?興味あるか?」
「そりゃそうだべさ」
「だったら、二人で調べてみよ」
中澤は私に言った。
「あたしは警察じゃないっしょ」
「ええんや、探偵なったつもりで頑張り」
私は半ば強引に捜査に協力させられる事になってしまった。
「まずは、事件を整理するべさ」
「一昨日の午後五時から六時の間に、平家みちよが絞殺された。
容疑者は美帆・紗耶香・梨華・鈴音・麻美の五人で、美帆と麻美が特に怪しかった。
本庁は美帆を逮捕した」
「でも、どうして矛盾する証言をするべか?
奥さんは知らないから、矛盾する証言しか出来ないんでないかい?」
「そやな!動転やないわ。知らない言うんが正解やろ」
「奥さんは誰かを庇ってるべさ。そうなると・・・・・・」
「怪しいのは、麻美やな。参考人で引っ張ったろうか」
「家政婦を庇うかなー。妹をころしたんだべさ」
「そうなると、梨華?」
「何で麻美さんは梨華ちゃんを・・・・・・中澤さん、梨華ちゃんと麻美さんの関係を洗うべさ」
私は中澤に捜査方針を示した。
「どういう事やの?」
中澤は理解出来ず、私に訊いた。
「恐らく、奥さんが庇ってるのは梨華ちゃんだべさ。
もしかすると、麻美さんも梨華ちゃんを庇っているのかも」
「そやな。まずはそこらから行かんと、梨華を追い込めないしな」
こうして私達は、梨華と麻美の関係から調べ出したのである。
199女の子だよ!:02/02/16 13:27 ID:u3omvXNs
NO.7 犯人判明?

 中澤と私は信田家へ行き、個別に尋問を行った。
最初、私が同伴している事に驚いていたが、『不正な尋問が行われないようにするため』と説明する。
すると、全く疑い無く尋問に応じたのだから驚きだ。私達は最初に紗耶香から尋問を始める。
「あれから何か気付いた事はありますか?」
中澤が言うと、紗耶香は泣きそうな顔で言う。
「お継母さんは人を殺すような人じゃありません。これは何かの間違いです」
「実はうちらもそう思うてんのや。そやから、美帆さんが無実やいう証拠が欲しいねん」
私は我慢出来ずに質問した。
「美帆さんと平家さんの口論の理由なんですが、ご存知ありませんか?」
すると、紗耶香は俯いて話し出した。
「あたしの大学入試の事だと思います。あたし、救命救急医になりたくて、医科大を志望しています。
国立も受験するつもりですが、今の状況だと・・・・・・そこで継母がマンションを売ると言い出しました。
それを叔母が止めたんです。
そうしたら、口論になっちゃって・・・・・・継母はあたし達姉妹を最優先に考えてくれています。
叔母は、家族全員の事を考えてくれていました。その違いが対立しただけなんです。
継母と叔母は、双方の気持ちを知っていました。
・・・・・・本当の姉妹だから我儘を言い合えたんじゃないでしょうか」
紗耶香は涙を浮かべて言った。
「そうですか・・・・・・次に、梨華さんの事なんですが、家族との関係はどうですか?」
「梨華ですか?オテンバなところはありますが、妹を可愛がる普通の子ですよ。
ただ、継母を認めたくないみたいで、あまり口を利きません。死んだ母が大好きでしたからね」
紗耶香は梨華や美喜が可愛いらしい。妹の話になると、幾分明るい表情になった。
「家政婦の人とは、仲がええんですか?」
中澤が訊くと、紗耶香は動揺して赤面して行く。
「は・・・・・・はい、仲良くしています。特に美喜は、戸田さんを慕ってまして・・・・・・その・・・・・・」
「紗耶香さん、秘密は守ります。梨華さんと麻美さんの関係は?」
私は核心に触れた。中澤は不思議な顔をして私を見ている。紗耶香は真っ赤になって俯いていた。
「つきあってるんですよね」
私が言うと紗耶香は小さく頷いた。これには中澤が仰天する。
「いい加減にして!」
そう言って部屋に入って来たのは、俯く麻美の手を握った梨華であった。
「梨華さん」
私は梨華に睨まれ、思わず視線を逸らした。
「ここからは、あたしが話します」
梨華は中澤に言った。
「はい、ほんじゃ、紗耶香ちゃんは、もうええで。何か思い出した事があったら、遠慮のう電話してや」
紗耶香が退室すると、予定外の結果となった梨華の尋問となった。
「ほんまは今日、あんたのために来たんやで。嘘の証言しよってからに。
午後四時頃には下校しとるやないか。麻美ちゃん、ほんとうにこの子の帰宅を見たんか?
警察なめたらあかんで」
「・・・・・・すいません」
麻美は俯いて謝った。
「麻美さんは梨華さんが怪しまれないように、嘘の証言を言ったんでしょう?」
麻美は俯いたまま頷いた。
「問題は、あんたのアリバイなんや。何で一時間も誰とも顔を合わさへんかったんか」
中澤は麻美に刺すような視線を送る。すると、梨華は動揺し、何かを言うのに躊躇しているようだった。
「一緒だったんだべさ。だから、誰とも会わなかったんじゃない?」
「へ?」
中澤は私を見て口を開けた。
「そうです。・・・・・・麻美ちゃんと愛し合っていました」
梨華は泣きそうな顔で言った。
「それで判ったべさ。後は警察署で調べればいいっしょ」
私はこの時点で犯人を特定していたが、動機が掴めていなかった。
200女の子だよ!:02/02/16 13:32 ID:XezZy5TK
NO.8 真犯人逮捕

 私は矢口に電話し、ある事を調べてもらった。
矢口のパソコン技術は、会社でもトップクラスだからである。
そして首を傾げる中澤に、美帆の現場検証をさせるよう迫った。
「なあ、これまで判った事を、うちに教えてんか?」
中澤は言うが、私は首を振った。
「中澤さん、まだ確証が無いべさ。中澤さんに先入観を持たれたくない。
それより、明日の午前中に現場検証を頼んだよ」
「それは大丈夫や。最初からその予定やったらしいわ」
私は渋谷署の窓から、丹沢の山に沈む夕日を眺めていた。
201女の子だよ!:02/02/16 13:33 ID:XezZy5TK
 翌日、私は約束の午前十時に信田家へ行った。
本庁からは夏警部と稲葉警部補が来ており、渋谷署からは中澤と石黒、
そして仲裁役(?)の飯田が来ている。
非番だった飯田は機嫌が悪いので、稲葉と石黒も掴み合いにならないようにしていた。
事件当夜と同じに、全員が食堂に集まっている。
「圭織、梱包は大丈夫だべか?」
その時、慌しく矢口がやって来た。
「遅くなりましたー。なっちさん、プリントアウトして来ましたよー」
矢口は私に書類袋を渡した。
「ありがとう、矢口」
私は早速袋を開く。
「裕子、いくらなんでも、部外者を入れるっちゅうんは、どういうつもりや!」
稲葉が中澤に言った。
「稲葉、あたしが許可したんだよ。死体発見時の再現も必要だろ?」
夏は稲葉を宥めた。その間に私は書類に眼を通す。
「ほんじゃ、始めるで」
稲葉は美帆を連れて行こうとした。
「ちょっと、待つべさ。美帆さんは犯人じゃないっしょ」
私は急いで書類を読み終えた。
「アホ!何言っとんのや!自供しとるんやで」
稲葉は私を睨んで言った。
「違う、美帆さんは犯人が梨華ちゃんだと思って、嘘の供述をしたんだべさ」
「そんな・・・・・・」
梨華が立ち上がって美帆を見つめる。
「夏警部、彼女の話を聞いてやってんか?」
中澤が言うと夏は頷いた。
「美帆さんは平家さんを殺していません。いや、殺せないんです。
なぜなら、殺人が行われた時間には、美帆さんには立派なアリバイがあります。
友達と電話で話をしていた」
「それのどこがアリバイやねん!電話が終わってからだって殺せるやろ!」
稲葉は私に怒鳴った。
「殺人が行われた時、二階にいたのは梨華ちゃんと麻美ちゃん、被害者の平家さんと犯人だけなんです」
「そんな馬鹿な。美喜も二階にいたんじゃないのか?」
夏が言った。
「夏警部はロボットチャットというのを知っていますか?言葉を憶え込ませた擬似人格なんです。
美喜ちゃんは、これを使ってチャットをしていたんだよね」
私が美喜に言うと、彼女は眼に涙を溜めた。
「それなら、あんたはどこにおったん?」
中澤が美喜に訊いた。
「二階にいられない事情があったんですよ。何も知らない平家さん以外はね」
私がそう言うと、信田家全員が下を向いて赤くなった。
「被害者が知らない事情?何だそれは?」
夏は言いながら真希とひとみを見て悟った。
「何や?」
稲葉が皆の顔を見回した。
「稲葉」
夏に言われて稲葉は黙った。
「美帆さんは、平家さんが梨華ちゃんと麻美ちゃんの関係を知ってしまったと思ったんですよね。
それで逆上した梨華ちゃんが平家さんを殺してしまったと。でも、安心して下さい。
梨華ちゃんは犯人ではありません」
「あたしを庇うために?」
梨華は涙を零した。
「美帆さんは梨華ちゃんの部屋の様子を伺いに来ましたね。
紗耶香ちゃんと美喜ちゃんを、二階に上げるタイミングをみるのと同時に、平家さんと仲直りしようとしたんじゃありませんか?
それで平家さんの部屋をノックした。返答が無かったので、開けてみましたよね。
ドアを。そこで平家さんの変わり果てた姿を発見したんです。違いますか?」
美帆は俯いたままだ。
「そこをあたしが見たんですか?」
麻美が言った。
「ええ、そうでなければ、寝室の合鍵でドアをロックした時のどちらかでしょう。
美帆さん、あなたは平家さんがベッドで死んでいるのを知っていたんです。
だから不自然な事ばかりを言ったんですよ。
あなたは平家さんの部屋のドアをノックしながら、『具合が悪いの?』とか『起きて歩いて来なさい』と言いましたね。
喧嘩した後だったら、『何怒ってんのよ』とか『もう怒らないで』と言うのが普通です。
それにあなたは、麻美さんがドアを開けた時も、真っ直ぐにベッドへ向かいましたね。
普通は見えないんですよ。あの暗さでは、眼鏡をかけていない近視の人にはね。
でも、美帆さんには見えなくても良かったんです。
ベッドの上には平家さんの死体があると知っていたんですから。違いますか?」
私が言うと美帆は小さく頷く。
「それじゃ、美帆は犯人じゃないのか!」
夏は驚愕する。
202女の子だよ!:02/02/16 13:33 ID:XezZy5TK
「そうです。犯人は別にいます」
「美帆が犯人やないんなら、誰が犯人いうんや!」
稲葉は私を睨みつける。
「二階にいられなくなって一階に降りて来た時、美喜ちゃんは捜していたんだよね」
私が美喜に言うと、彼女は涙を零しながら首を振る。
「でも、どこにもいなかったんです。浴室を掃除しているはずの鈴音さんが」
鈴音の顔色が蒼くなって行く。
「ち・・・・・・違います!美喜は鈴音ちゃんと・・・・・・」
美喜は鈴音に抱きついた。
「梨華ちゃんとひ麻美ちゃんには、何も聞こえなかったでしょう。それを逆手に利用したんですよね?
鈴音さん」
「まさか!鈴音ちゃんが?」
紗耶香は口を押さえた。鈴音は蒼い顔で震えている。
「ここに、矢口に調べてもらった資料があります。
二年前、地下鉄の日比谷線で、ちょっとした事件がありました。
北海道に住む会社員が、出張で東京に来た時、短大に通う女性に痴漢をしたというのです。
女性に突き出された男性は、逮捕されてしまいました。
でも、それが冤罪であると確定したのは、半年後の事だったんです。
男性は会社をクビになり、失意のなかで自殺しました。
その時の女性が平家みちよさん、自殺した男性の名前は有賀正雄さんです」
「それがどうしたんや!関係ないやろ!」
稲葉が怒鳴った。
「ここからが重要なんです。有賀さんには高校を卒業したばかりの娘がいました。
彼女は深く傷付いたでしょうね。でも、冤罪で全てを失った父が自殺した時、彼女は復讐を決意したんです。彼女の母は娘の将来を思って籍を抜きました。
そして母親の旧姓を名乗ったんです。
そして憎い父の仇である平家さんを発見し、家政婦として潜入した。
そうですよね、鈴音さん」
私がそう言うと、鈴音は泣きながら崩れ落ちた。
「憎かったんです・・・・・・父を殺した平家さんが」
「鈴音ちゃん!」
美喜が抱きついた。
「鈴音さん、悩んだんでしょうね。鬼のようだと思っていた平家さんが、予想に反して好人物だった。
それに、美喜ちゃんが慕ってくれる。・・・・・・どうして強行してしまったんです?」
「私は平家さんに謝って貰えたら、全てを忘れるつもりでした。それで平家さんの部屋へ行ったんです」

以下回想シーン
「みちよさん、私、本当は有賀鈴音といいます。有賀って憶えてますよね」
「有賀?まさか、あの痴漢・・・・・・」
「そうです。私、有賀正雄の娘なんです」
「冗談でしょう。あたしは忙しいんだから、出て行ってよ」
みちよはパソコンの画面を見ながら言った。
「父は・・・・・・自殺しました。あの事件以来、全てを失ってしまったんです」
「あたしにどうしろって言うの?冤罪だったんでしょう?それなら訴訟でも起こせばいいじゃない」
美帆と口論になったみちよは、感情的になっていた。
「みちよさん、私は賠償金なんていりません。ただ、謝って下さい。そうすれば、水に流します」
「ふざけないでよ!出て行けー!」
みちよは鈴音を突き飛ばした。床に倒れた鈴音は一気に復讐心が燃え上がり、みちよをベッドに組み伏せる。
みちよは鈴音より華奢であるため、簡単に押さえつけられた。
「何するのよ!気は確かなの」
鈴音は自分のエプロンを外し、みちよの首に巻きつけた。
「どんな思いをしたか・・・・・・分からないでしょうね。・・・・・・死んだ方がマシだったわ」
鈴音はエプロンを引いた。目を剥いてもがくみちよ。
「謝ってくれれば良かったのに・・・・・・」
鈴音は泣きながら言った。しかし、みちよはすでに痙攣している。
怖くなった鈴音は、自分のエプロンを回収すると、みちよの部屋を飛び出した。
以上回想シーン

「そうだったんですか鈴音平家さん、感情的になっていなかっら、きっと謝罪しましたよ。
タイミングが悪かったんです」
私はそう言うしかなかった。
「私が悪いんです。みちよを怒らせてしまったから」
美帆が泣き崩れる。
(け・・・・・・警部、誤認逮捕やないですか。えらいこっちゃー)
(馬鹿、こういう時は真犯人を連れて退散するんだよ)
夏は鈴音を立たせた。
「さあ、行こうか」
稲葉は目立たないように美帆の手錠を外す。そして鈴音をクルマに乗せると、大急ぎで発車した。
「はー!びびりましたわ!」
平家はクルマを運転しながら言った。
「まあ、美帆も偽証したから逮捕されたんだし、責任はとられないんじゃないかな」
夏は少しだけ不安そうに言った。
203女の子だよ!:02/02/16 13:34 ID:wCxsW2ra
NO.9 その後

 私達は午後になると、飯田の引越しを始めた。大した荷物は無いため、レンタカーのトラックに積むだけである。
三人で運ぶと三十分で積み終えてしまった。飯田が運転し私は助手席、矢口は荷台に乗る。
「なっちさん、やけに揺れない?それに、クラクション、鳴らしっ放しだよ。怒鳴り声も聞こえるし」
矢口が荷台から言った。
「アハハハハ・・・・・・、気のせいだべさ」
私は気分が悪くなっていた。しかし、すぐに停車する。
「新大久保から青山まで十三分か、新記録だぜ!」
私が蒼い顔をして転げ落ちて吐いた。
「あんな運転、初めてだべさ」
私は恐怖に引き攣っている。
「圭織さん、電車より速かったみたいだけど・・・・・・」
矢口は不思議そうに言った。
「そーなのー、この時間だと、タクシーでも三十分でしょー?
ちょっと工夫すれば、半分以下の時間で来れるよ」
私達は休憩してから荷物を運んだ。非力な矢口に箱を開けさせ、私と飯田で運ぶ。
こうして午後四時には片付いてしまった。
「今日は圭織ちゃんの歓迎会だよ。なっち、手伝ってちょうだい」
大家のおばさんが私を呼んだ。

「飯田、その肉、くれへんか?」
中澤は隣に座る飯田に言った。
「遅れて来たくせに!冗談じゃねえぞコラァァァァー!」
飯田の歓迎会は、午後六時半から大家の家で始まった。
中澤がやって来たのは六時過ぎであり、何も手伝いをしていない。
仕事だったのだから仕方ないのだが、飯田は気に入らないようだ。
「いいなー、矢口も引っ越して来ようかなー」
矢口は私と飯田が羨ましいようだ。
「おいでよ。来月に一部屋が空くからね。ほら、一階のあゆちゃん、結婚するから」
おばさんは笑顔で言った。
「そうだべさ。矢口は寝ぼけるから、困るんだよ」
「へえ、どうなるんや?」
中澤が訊いた。
「仔豚になった夢を見たらしくて、なっちのおっぱいを吸ったんだべさ」
「あー!ばらしたー!」
矢口は口を尖らせた。
「ほんま、可愛いなー」
中澤は隣の矢口にキスをする。
「始まった!裕ちゃん、酔うと女の子にキスするの」
笑い声の中、初秋の夜は更けて行った。

 翌日、矢口と一緒に出勤すると、私達は社長に呼ばれる。
別に嫌味を言われるような事はしていないので、何事かと身構えていた。
すると、社長は嬉しそうに立ち上がると、私達に辞令を渡す。
「本日付けで、レディスコーポレーション不動産部、安倍なつみを探偵部主任に命ずる。
不動産部、矢口真里を探偵部に命ずる」
社長は嬉しそうに辞令を読み上げた。
「レディスコーポレーション?探偵部?何ですか?それは」
私は首を傾げた。
「今日から探偵部を発足したの。だからレディス不動産は社名変更よ。
マーケティングでは、女性だけの探偵会社が欲しいらしい。
だから、ニーズに合わせて作ってみたんだ」
「社長、思いつきでしょう?」
「アハハハハ・・・・・・バレバレね。もうじき探偵部長が来るわ。
二人は倉庫を整理してくれる?あそこが探偵部になるんだから。
午後には電話工事が入るから、午前中にやってね」
「ふぇーい」
私達が黙々と掃除していると、背後から社長の声がする。
「彼女が探偵部長よ」
私達は振り返って仰天した。
「部長の中澤や。宜しくな」
「まだ今月中は警察官なの。だから赴任は来月の一日。それじゃあね」
そう言うと社長は去って行った。
「中澤さん、どういうつもりなんですか?」
私は中澤に訊いた。
「実を言うとな、前から誘われていたんや。なんせ給料がええしな。
今回、たまたま安倍と矢口が事件に巻き込まれたけど、社長はあんたら二人に決めていたそうやで。
来月から宜しくな。ビシビシ行くで!」
私と矢口は呆気にとられた。
「ほな諸君、頑張ってくれたまえ。ごきげんよう」
中澤が立ち去ろうとしたので、私が腕を掴んだ。
「何か?」
「昨日はサボったべさ。今日はやるの」
私は中澤に雑巾を渡した。
「いや・・・・・・公務中やし・・・・・・」
「駄目!矢口にキスしたくせにー」
矢口も雑巾を渡した。
「ダッシュ!」
中澤は逃げ出した。
「逃げたべさ!」
「待てー!」
こうして不安な仕事がスタートしたのである。

終わり

読んで頂きまして、ありがとうございました。
「ののたんいじめ」にも私の小説を載せてあります。
宜しかったら、のぞいてみてください。
そっちは喜劇系ですが

204女の子だよ!:02/02/16 22:49 ID:ZwFM7w5b
誤字・脱字の嵐でしたね。
反省します。
205ランボー:02/02/17 13:55 ID:WLWRdM8g
怒りの銃弾


プロローグ

「飯田さーん、変わったペンダントですねぇ」
石川は飯田のペンダントを見て言った。飯田が首からぶら下げているのは、
どう見てもライフル弾である。
「ああこれ?これは死んだ彼から貰ったものなの」
「ええっ、付き合ってた人、死んじゃったんですかぁ」
「うん、湾岸戦争でね」
「そうだったんですかぁ、それはお気の毒に」
石川は俯いて言ったが、加護に引っ張られる。
「アホやな。湾岸戦争は一九九〇年やろ?リーダーはまだ小学生や」
「小学生で彼氏がいたなんて凄いじゃない」
「梨華ちゃん、今日はボケに輪がかかっとるで。
湾岸戦争で死んだんやったら、立派な大人やろ?
大人が小学生と付き合うてたら、これは犯罪やで」
「ああ、そうだねぇ」
石川は頭を掻いた。
 今日はテレビの収録で、某テレビ局に来ている。
ほとんどのメンバーは集まっていたのだが、保田と矢口がいない。
他の仕事で遅れているのだろうと思っていたメンバー達は、
それほど気にせずに出番を待っていた。
そんな中、保田が血相を変えて控室に飛び込んで来る。
「た・・・・・・たいへんな事になった。矢口が反乱を起こしたよ!」
「反乱?どうしたべか?」
安倍がポテチを食べながら訊いた。
「落ち着いて聞いてよ。アップフロントを占拠したの。
社長以下、二十数名を人質にとって立て篭もってる」
「何か、物凄くヤバそうな気がするんだけど」
後藤は無表情のまま言った。そこへマネージャーが入って来る。
「収録はキャンセルだ。みんなで矢口を説得してくれ」
「みんな、行こう」
飯田の一声で、メンバー達はアップフロントに向かった。

 アップフロントでは大変な事になっていた。
暇なカントリー娘。やココナッツ娘。メロン記念日、藤本美喜などが矢口に加勢し、上を下への大騒ぎである。
矢口は社長や重役を処刑し、自ら新社長を宣言していた。
 スキャンダルを恐れたアップフロントの株主達は、事件を公表せず、内々に処理する方向で動き出す。
手をまわして警察とマスコミを押さえ、関係者だけで対処しようとしたのである。
この騒ぎに、株主達は映画のロケだと偽の情報を流した。
 モー娘のメンバーが駆けつけると、すでに中澤と稲葉、平家が来ていた。
アップフロントの入るビルを取り巻き、矢口に投降を促す。
「矢口ー、アホな事せんと、出て来やー」
中澤の呼びかけにも、立て篭もった矢口は応じない。
「裕ちゃん、乗り込んじゃおうよ」
飯田が言うと、中澤は泣きそうな顔で首を振る。
「あかんのや。矢口は武装しとる」
「ええっ!それじゃ、矢口は覚悟の行動だべさ」
安倍は眉を顰めた。
「矢口がブチキレるのも判るけど、こういった事をしちゃね」
保田は心配そうに言った。
「駄目だ。埒が開かない。今日はこれで解散にしよう」
マネージャーがメンバーを家に帰す。
暫く自宅待機を言い渡されたメンバー達だったが、その間、思いもよらない事態に突入して行ったのである。
206ランボー:02/02/17 13:56 ID:WLWRdM8g
襲撃

 久し振りに自宅で洗濯をしていた飯田のもとに、保田から慌てた調子で電話がかかって来た。
飯田は事態の深刻さに、思わず洗濯機を壊してしまう。
「本当なのそれー!」
[間違い無い。本人が言ってたんだから]
「ミニモニ。の結束力は、モー娘より上だっていうの?」
[口惜しいけどね]
あれだけ可愛がっていた辻が、事もあろうか矢口のもとに走ったのである。
当然ながら、加護も矢口側に参入していた。
[それだけじゃないの。裕ちゃんや稲葉さん、平家さんや松浦まで姿を消してる]
「矢口についたの?」
[信じたくないけどね]
「他のメンバーを確認して!明日の午後七時、サンシャインの展望レストランを予約しとく。
なっちと三人で緊急対策会議をしよう」
[うん、分かった]
飯田が電話を切ってすぐに、何と矢口から電話がかかって来た。
[もしもし、圭織さん?ねえ、あたしと一緒にやらない?給料は倍出すけど]
「矢口、気持ちは判るけど、これは駄目なことだよ」
[圭織さん、お説教は聞きたくない。あたしと一緒にやるかどうか。
タンポポを一緒にやって来たじゃない。一緒にやろうよ]
「矢口、間違ってるよ。こんな事」
[ふーん、あたしとは一緒に出来ないの?]
「悪いけどね」
[そう、それじゃ、今日からアンタは敵だ]
矢口は電話を切った。
「もしもし?矢口ー!もー!どうなってんのよー」
飯田はイライラしながら安倍に電話する。
「なっち!出るのが遅いよ!」
[圭織、何怒ってるんだべか?]
「矢口から電話があったの」
[さっき、なっちにも電話があったべさ]
「一緒にやろうって言われなかった?」
[言われたけど、お説教したら、勝手に切りくさって・・・・・・]
「良かった。なっち、明日の午後七時、サンシャインの展望レストランで緊急会議だからね」
[午後七時だべね。あそこは中華が美味しいっしょ]
「何を石川みたいな事言ってんのよ!」
[いや、冗談だべさ]
飯田はイライラしながら保田からの連絡を待った。

 翌日の午後七時、サンシャインの展望レストランに三人が集まった。
保田はあたりを警戒するが、他の客はセーラー服姿の女子高生と、中年のカップルだけである。
「ふう、何とか五期メンは押えたよ。でも、後藤が警戒してて、疑心暗鬼になってる。
吉澤は・・・・・・駄目かもしれない」
保田は悲しそうに言った。
「石川は?」
飯田が訊くと保田に笑みが戻る。
「大丈夫。石川は押えてある」
「こっちは八人か・・・・・・向こうはメロン・ココナッツ・カントリー・藤本が確実でしょう?倍近い人数だね」
飯田に苦悩の色が走る。
「アハハハハ・・・・・・このチンジャオロース、美味しいねえ!」
安倍は食べるのに夢中である。
「なっち、いい加減にしなよ」
保田がそう言った時、真正面にセーラー服姿の女子高生が立った。
「何?サインは悪いけど・・・・・・藤本!」
保田は蒼くなった。セーラー服姿の藤本は、コルトパイソンを握っていたからである。
「ごめんなさい」
藤本は泣きそうな声で言うと、飯田の胸に一発、安倍の腹に一発、そして保田を撃ったが、肩を掠めただけだった。
保田が倒れ際にテーブルを倒すと、藤本は残り三発を撃って逃走する。
「ううっ、大丈夫?」
保田は肩を押えて立ち上がる。
椅子ごとひっくり返った飯田は、胸を押えて起き上がった。
「痛かったー、防弾チョッキを着ていなかったら、完全に死んでたね」
飯田と同じ、椅子ごとひっくり返った安倍は、なかなか起き上がらない。
「なっち?」
保田が声をかけると、安倍は血にそまった手を挙げた。
「何じゃこりゃァァァァァァー!」
「なっち!しっかりして!」
保田が駆け寄る。
「なっち、今、救急車を呼ぶからね!」
飯田が安倍の手を握る。
「藤本・・・・・・矢口に命令されたべね」
「なっち、喋るな。どうして防弾チョッキを着てなかったの」
保田が言った。
「これで・・・・・・全面戦争・・・・・・だべ・・・・・・さ・・・・・・がくっ!」
「なっちー!」
飯田が叫んだ。
「なっち、死ぬんじゃない!」
保田は安倍に跨り、心臓マッサージを始めた。
207ランボー:02/02/17 13:57 ID:WLWRdM8g
見せしめ

「痛いべさァァァァァァァァァァー!」
安倍は保田を突き飛ばした。
「へっ?」
保田は狐につままれたような顔をする。
「なっち、生きてたの?」
飯田が訊く。
「死んでないべさ。圭ちゃんがテーブルをひっくり返した時、食器の破片で指を切っただけ」
「おどかさないでよー!」
保田が膨れる。
「それじゃ、さっきの『がくっ!』って何?」
飯田が訊くと、安倍は頭を掻いた。
「アハハハハ・・・・・・なっちが死んだらどうするかなーと思って」
安倍は服を捲った。飯田同様、立派な防弾チョッキを着ている。
「何よー、あたしが一番重傷じゃないのー」
保田が拗ねる。重傷といっても、肩を火傷しただけだ。
「あーっ!おっぱいに痣ができちゃった」
飯田は自分の胸を見て言った。
「圭ちゃんが言った通り、用心してて良かったべね」
安倍が嬉しそうに言う。
「圭織、藤本を追わなくていいの?」
保田は傷にカットバンを貼りながら訊いた。
「今から追いかけたところで、捕まりはしないんじゃない?」
「そうか・・・・・・矢口め」
保田は口惜しそうに歯軋りした。

 セーラー服を脱いで黒いレオタード姿になった藤本は、屋上に近付くヘリに向かって手を振った。
藤本は保田こそ仕損じたものの、敵対する飯田と安倍を抹殺したと思い込み、
これで矢口の側近になれると信じている。
しかし、ヘリに乗る矢口には判っていた。
たった今、飯田のケイタイに電話したからだ。
飯田に怒鳴られ、まだ耳鳴りがする。
「本当にやるのれすか?」
辻が言った。
「しくじったんだ。見せしめにしろ」
「でも・・・・・・」
「嫌ならいいんだぞ」
「わかりました・・・・・・」
辻はM―40A1狙撃銃を構えた。
「美喜ちゃん、ごめんね」
辻が引鉄を引くと、銃弾が藤本の胸を貫通し、
屋上の床に当たって跳弾になると、どこかに消えて行った。
「そんな・・・・・・」
藤本は胸を押えながら倒れこみ、二度と起き上がる事は無かった。
「引き揚げるぞ」
矢口がパイロットに言うと、ヘリはサンシャインの屋上から飛び去って行く。屋上には血溜りの中で息絶えた藤本だけが残された。
208ランボー:02/02/17 13:58 ID:ItS9jHoP
命令

 アップフロントに戻った矢口は、次の作戦に着手した。
今度は飯田・安倍・保田といった反対勢力の重鎮を、個別に斃して行くのである。
矢口は社長室に向かいながら、側近中の側近である辻に言った。
「吉澤を呼べ」
「よっすぃーれすね?承知しました」
矢口が社長室に着いて暫くすると、辻が吉澤を連れて来た。
「よっすぃー、辻の他に、もう一人秘書を置こうと思ってるの」
矢口は笑顔で言った。
「それをあたしに?」
吉澤は驚いて訊いた。
「そう。よっすぃーは矢口の弟子じゃん。適任だと思うんだけどなー」
「ありがとうございます!」
吉澤は嬉しそうに頭を下げた。
「でもさー、条件があるんだー」
矢口は冷たい眼で吉澤を見る。
「条件・・・・・・ですか?」
「これは青酸ソーダ、通称・青酸カリ入りのパケ。こいつで保田を殺せ」
矢口は吉澤にパケを手渡した。
「や・・・・・・保田さんですか?」
吉澤は震え出す。
「そいつは直接触るなよ。
独特のアーモンド臭がするが、コーヒーか何かに入れれば判らないだろう。
一口飲めば、いくら頑丈な狛犬(保田)だろうが即死する。
お前なら狛犬に近づけるからな」
「や・・・・・・保田さんを殺せば・・・・・・社長秘書ですよね」
「約束する。期待してるぞ」
「はい、失礼します」
吉澤は震えながら社長室を出て行った。
「今度は平家を呼べ」
「矢口さん、圭織さんとなっちさんは・・・・・・」
辻が泣きそうな顔で言った。
「判ってる。狛犬がくたばれば、二人も考え直すかもしれない」
「はい」
辻は安心して出て行った。
しかし、矢口は行く行く飯田と安倍も殺すつもりだったのである。
間も無く平家がやって来た。
「仕事の方はどうだ?」
「・・・・・・最悪ですわ」
平家は吐き捨てるように言った。
「実は、カントリー、ココナッツ、メロンを解体して、スーパーユニットを作ろうと思ってる。
ココナッツのアヤカとメロンの柴田、中澤、稲葉そしてお前を考えているんだ」
「それは凄いですね」
平家の眼が輝いた。
「メインは誰にするか思案中だが、条件さえクリアしてくれたら、お前で行こうと思ってる」
「ありがとうございます!・・・・・・それで条件って?」
「これが何だか判るか?」
矢口は平家に筒状の金属を手渡した。
「これは?」
「スペツナヅナイフといって、刃先が飛ぶ仕組みになっている。
ちょっと練習すれば、十メートル先の人間に命中させられるぞ。
・・・・・・これで保田を殺せ」
「けけけけ・・・・・・圭坊を!」
「お前と保田は仲がいいらしいな。辛いだろうが頑張れ。
お前がしくじると、次は中澤に頼まなくてはならなくなる」
「姐さん・・・・・・」
平家は泣き出した。
「頼むぞ」
平家は号泣しながら退室して行く。
「矢口さん、鬼れすよ」
辻が泣きそうな顔で言った。
「今更何を言うんだ?何ならお前に飯田を射殺させてもいいんだぞ」
「それだけは・・・・・・」
辻はしゃがみ込んで頭を抱えた。
「意見するなんて十年早いんだよ!」
矢口は辻を蹴った。
 矢口にとって、アップフロントのトップを不動のものにした後は、
中澤と稲葉を三役に迎えようと考えている。
中澤には営業とタレント面を任せ、稲葉を秘書にしようと思っていた。
辻・加護・吉澤を引き入れている以上、敵対する三人を抹殺しても、
『モーニング娘。』を名乗る権利がある。
それに後藤は中立を宣言していたし、市井をモー娘に復帰させてみても面白い。
矢口の野望は留まるところを知らなかった。
209ランボー:02/02/17 13:58 ID:ItS9jHoP
逃亡

 飯田・安倍・保田の主流派は、絶対的な人数不足に悩んでいた。
そこで市井を動かし、後藤の抱き込みにかかる一方で、石川が吉澤を引き抜こうと頑張っている
。保田は敵の情報を集めていた。
「現在は矢口の独裁だね。側近には辻とミカ、どういうわけか、加護が見えて来ないの」
保田は首を傾げた。
「新しい情報が入ったべさ。
矢口は辻・ミカ・レファ・アヤカ・あさみ・りんね・
斎藤・大谷・柴田・村田・里田の継続雇用を発表したよ」
安倍が書類を見ながら言った。
「裕ちゃんや稲葉さん、平家さん、吉澤・加護・松浦・石井の名前が無いね」
飯田が不思議そうに言った。
「七人は拉致された?」
安倍がポツリと言った。
「可能性はあるね」
保田は考え込んだ。そこへ石川が吉澤を連れて現れる。
「よっすぃーを連れて来ましたぁ」
「吉澤、矢口派じゃなかったの?」
飯田が言うと吉澤は首を振った。
「逃げて来たんです。矢口さんは以前の矢口さんじゃありません」
「そうだべねえ。矢口って、こんな卑怯な子じゃなかったっしょ」
「あたしも信じられないよ」
保田が泣きながら言った。
「吉澤、加護や裕ちゃん達の事は?」
飯田が訊くと吉澤は顔色を変える。
「いえ、知りません。お茶でも煎れますね」
吉澤はお茶を煎れる。
「あっ、そうだ。廊下でごっつぁんを見かけたんですぅ。連れて来ますね」
石川は後藤を呼びに行った。
吉澤は一個の湯呑みに青酸ソーダを入れ、お茶を注ぐ。他は全部普通のお茶だ。
「はい圭織さん、なっちさん・・・・・・保田さん、どうぞ・・・・・・」
吉澤は蒼い顔をしながらお茶を飲む。
飯田と安倍はすぐに口にするが、保田は中々口にせず、ようやく湯呑みを手にした。
そこへ後藤を連れて石川がやって来る。
「ごっつぁんを連れて来ましたぁ」
「吉澤、お茶を煎れてあげて」
飯田が言う。すると、保田が自分のお茶を差し出した。
「あたしいらないから」
後藤は保田からお茶を受け取り、椅子に腰掛けた。吉澤に戦慄が走る。
「もう誰も信じられない」
後藤は三人を見て言った。
(そう。だから飲まないで)
吉澤は天に祈る。
「後藤の気持ちは判るべさ。でもね、吉澤だって逃げ出して来たんだよ」
「矢口はしくじった藤本まで殺したの」
保田は真剣な顔で言った。
「三人が殺したんじゃないって証拠は?」
後藤は三人を睨む。
「それは信じて貰うしか無いね」
飯田が無表情のまま言った。
「だから信じられないのよ」
そう言うと後藤は湯呑みを口に持って行く。
「駄目ェェェェェェー!」
吉澤は後藤の湯呑みを叩き落した。
「よっすぃー?」
後藤は吉澤を見上げた。
「来て!」
吉澤は後藤を廊下に連れ出す。
「どうしたの?」
「・・・・・・あのお茶は毒入りなの」
「毒?」
「矢口さんに保田さんを殺すように命令された。最低だよね、あたしって」
吉澤は泣きながら後藤に打ち明ける。
「このお茶、変だべさ。アーモンドみたいな匂いがする」
部屋の中では安倍が異変に気付いた。
「よっすぃー、逃げるのよ!」
後藤は吉澤の手を引いて逃げ出した。
テレビ局の玄関でタクシーに乗ると、後藤は東京駅を告げる。
「ハンカチ持ってる?」
後藤は吉澤のハンカチで髪を包む。そして化粧道具を使って変装を始めた。
ホクロを書き足して眼鏡をかけると、全く別人のようになってしまう。
反対に吉澤は目尻を釣り上げ、マスクをすると、誰も本人だとは気付かない。
 東京駅に着くと、後藤はATMで現金を引き出し、仙台行きの切符を二枚買った。
怯える吉澤に、後藤は丁寧に説明して行く。
「いい?よっすぃーは、主流派からも矢口派からも狙われるんだよ」
「何で?」
「圭ちゃんを殺そうとしたんだもん、主流派が黙ってるワケが無いわ。
それに、しくじったんだから、矢口さんは見せしめにする。藤本と同じ運命よ」
「そんな・・・・・・」
「とにかく、東京にいたら危ないわ。今日は仙台まで行って考えよう」
「あたし・・・・・・どうしたらいいの?」
吉澤は後藤に抱きついて泣き出した。
210ランボー:02/02/17 13:59 ID:ItS9jHoP
刺客

 二人が東北新幹線の改札に近付くと、後藤のケイタイが鳴った。
表示を見ると加護である。二人は顔を見合わせた。
「はい」
[後藤さん?・・・・・・助けて欲しいんや]
「どうしたの?」
[なっちさんを殺さなあかん。矢口さんに命令されたんや]
「あんたに殺せるの?」
[出来るわけ無いやろ。もう、どうしたらええんか・・・・・・]
「かけ直す」
後藤は電話を切った。
「加護ちゃんはミニモニ。よ。矢口さんの手先だわ」
吉澤は恐怖に怯えた。
「本当に困ってるかもしれないでしょう?放ってはおけない」
「まさか・・・・・・連れて来るの?」
「よっすぃーは先に仙台に行ってて」
「怖いよ・・・・・・」
「大丈夫だから」
後藤は吉澤を送り出すと、加護に電話を入れた。
「今、どこにいるの?」
[浜松町やけど]
「東京駅で待ってる」
[おおきに!]
「改札内のミルクスタンドの前。いいね?」
[すぐ行きますよって]
加護は電話を切った。
(どうして浜松町に?)
後藤は加護の不自然な行動に首を傾げる。
安倍は現在麹町だし、アップフロントからは反対方向だ。
(まさか)
後藤は最悪の結果を考えた。そして十五分が過ぎる。
後藤は再び加護のケイタイに電話した。
「まだ着かないの?」
[もう東京駅ですわ]
「どこ?」
[後藤さんの後ですやん。動かないでくれます?]
後藤は背中に何かを感じた。雰囲気からして銃だろう。
「一人ですか?」
「そ・・・・・・そうだよ」
「ふーん、バン!なんちゃってー」
加護は後藤に指を突きつけていたのだ。
「テメー!」
後藤は加護の頭を拳で殴った。
「かー、厳しいでんな。冗談ですやん」
「お前こそ一人なの?」
「そうです。・・・・・・聞きましたで。
よっすぃー、保田さんを殺そうとしたらしいやないですか。怖い」
「あんたも命令されたんでしょうが」
「もう逃げるしか無いわ。」
「加護、一緒に逃げる?」
「はいな」
こうして後藤と加護は仙台行きの新幹線に乗った。
「よっすぃーは仙台ですか?」
「何で?」
「いや、人数は多い方が安心やし」
「ふーん、よっすぃーは新潟だよ」
「新潟?何でですか?」
「ロシア経由で北欧に逃げるらしいの」
「船ですか!」
「うん」
「ちょっとトイレに行って来ますわ」
加護が席を立つと、後藤は吉澤にメールを打った。
加護を信用していなかったのである。
トイレから帰って来ると、加護に落ち着きが無くなった。
「なあ後藤さん、うちらも新潟に行かへんか?北欧ってのがええやないですか」
「いずれ合流するよ」
「そうですか・・・・・・」
後藤はこの時の加護の表情を見逃さなかった。
それはまるで、獲物のゲットを確信した猛獣のようだった。
仙台駅に到着すると、後藤はトイレに入り、待っていた吉澤と合流する。
「特殊警棒とスタンガン。これでいいの?」
吉澤は後藤に手渡した。
「うん、あたしが加護と合流したら、後から声をかけてね」
「分かった」
こうして後藤は加護のところへ戻って、一緒に歩き出した。
「ごっつぁん」
加護が振り返る。吉澤を確認した加護は、バッグの中から小型拳銃を引っ張り出す。
拳銃を吉澤に向けようとした瞬間、後藤が特殊警棒で叩き落す。
「痛」
手首を押える加護の首筋に、後藤はスタンガンを押し付けた。
後藤は素早く拳銃を拾ってポケットにしまう。吉澤が走り寄って言った。
「転んだの?」
吉澤は加護を抱き上げると、後藤と二人で担ぐようにタクシーに乗った。
211ランボー:02/02/17 13:59 ID:ItS9jHoP
保田負傷

 平家はフジテレビの衣裳部屋で清掃員の服を着た。
眼鏡にマスクをし、帽子を被ると誰も平家だとは思わないであろう。
そして厳重に警戒されている保田の控室の様子を伺う。
(警戒が厳重や。こうなったらトイレで・・・・・・)
平家はトイレの中で保田を待った。
 暫くすると保田がやって来た。勿論、一人である。
保田が個室に入ると、平家は洗面所の蛇口を捻り、水音をたててカモフラージュした。
雑巾を巻いたスペツナヅナイフを取り出し、保田が入った個室に向ける。
(圭坊・・・・・・すまんな。うちもすぐ逝くよってな)
平家は溢れる涙を拭った。その時、ドアが開いて保田が出て来る。
距離は僅か三メートルだ。
「ごめん!」
平家はスペツナヅナイフのボタンを押した。
「はっ!」
保田はとっさに右手を出した。
しかし、スペツナヅナイフの刃先は、保田の手の平を貫通し、喉に突き刺さったのである。
「圭坊、ごめんな!」
平家は保田を突き倒す。
保田は助けを呼んだが声にはならず、喉に開いた穴から空気が洩れただけだった。
「圭坊、こうせんと、姐さんが・・・・・・うちもすぐ逝くよってな」
平家は保田を押さえ込み、サバイバルナイフを取り出した。
「動くな!」
トイレのドアが開き、飯田がスミス&ウェッソンM29を構える。
「圭織、圭坊と一緒に・・・・・・死なせてや」
平家がナイフを振り上げた。その瞬間、飯田のM29が火を噴く。
平家の顔面を捉えた四十四口径マグナム弾は、彼女の後頭部を吹き飛ばしてトイレの壁に突き刺さった。
「圭ちゃん!」
飯田は保田を抱き起こす。
「ヒュー」
保田は何かを言おうとしたが、喉の穴から空気が洩れただけだった。
「今、救急車を呼ぶからね」
「ヒュー」
「喋らないで!大丈夫。大丈夫だからね」
飯田はケイタイで救急車を呼ぶと、保田を抱き上げて玄関に向かった。
212ランボー:02/02/17 14:01 ID:oTfNzbac
加護、助かる

 矢口が放った刺客だった加護を拉致した後藤と吉澤は、場末のビジネスホテルにチェックインしていた。
加護の教育係だった後藤は、とても責任を感じている。
「加護は殺す。あたしが責任を持って処刑するわ」
後藤は泣きながら言った。
「やめて。まだ子供じゃない」
「駄目よ!」
後藤は加護の首にバスローブのヒモを巻きつける。
「バカ!」
吉澤は後藤に平手打ちをする。
「痛い!」
後藤は頬を押える。
「それじゃ矢口と同じじゃない」
「でも、加護はよっすぃーを殺そうとしたんだよ」
「矢口に脅かされて、仕方なくやったのよ!」
吉澤は加護を抱きしめる。すると、加護が眼を醒ました。
「何すんじゃコラァァァァァァー!」
加護は暴れ回るが、吉澤に押さえつけられる。
「お前、自分の置かれてる立場を理解しろよ」
後藤に言われ、加護は周囲を見回す。
「しくじった?」
加護は後藤と吉澤に訊いた。頷く二人。
「あかん、もう終わりや。美喜ちゃんみたいに殺されるわ」
加護は泣き出した。
「あたしと同じ」
吉澤は加護を抱きしめた。
「とにかく、抗争が落ち着くまで、隠れるしかないよ」
後藤は溜息をついた。
「仙台は危険や。うちが報告したしな」
「ここも駄目か・・・・・・仕方ない。市井ちゃんを頼ろう」
後藤は市井に電話をかけた。
213ランボー:02/02/17 14:01 ID:oTfNzbac
倉庫

 三人は翌日、船橋の市井を頼った。市井は三人を海岸にある倉庫へ隠す。
ここは矢口には発見出来ない場所である。
「市井ちゃん、ごめんね。もう、頼る人がいなくて」
「何言ってんのよ。あたしと真希の仲じゃない」
市井はコンビニ弁当を差し出した。
「お腹すいてるでしょう?食べようよ」
「いっただっきまーす!」
加護は自分の立場も弁えず、弁当に飛びついた。
間髪入れずに後藤のキックが飛ぶ。
「あがっ!・・・・・・今のは物凄く痛かったで」
脇腹を押えながらも、弁当だけは離さない加護。
「吉澤も食べなよ」
市井は弁当を差し出した。
「ありがとうございます」
こうして弁当を食べ終えると、四人は横になって話し始めた。
「ねえ、圭織さんに話してあげようか」
市井は三人に言った。
「そんなの無理だよ。よっすぃーは圭ちゃんを殺そうとしたんだよ」
後藤は眼を剥いた。
「吉澤の意思じゃないでしょう?」
市井は吉澤を見る。俯く吉澤。
「加護だって吉澤を殺さなかったら、自分が殺される。
だから狙ったんでしょう?」
加護は鼾をかいて眠っている。
「圭織さん、分かってくれるかな」
後藤は心配している。
「大丈夫だよ。圭ちゃんはどう思うか知らないけど、入院しちゃったからね」
「え?保田さん、入院したんですか?」
吉澤は驚いて市井に訊いた。
「平家さんに喉をやられたの。命に別状は無いんだけど、暫く声は出ないね」
「平家さんっていえば、圭ちゃんと仲良しだったじゃない」
後藤は泣きそうな顔で言った。
「矢口に・・・・・・命令されたらしいわ。
圭ちゃんを殺して、自分も死ぬつもりだったみたい」
「許せない・・・・・・許せないよ!」
後藤は涙を溢す。
「一緒に矢口を倒そう」
こうして四人は、主力メンバーの集まるテレビ東京に向かった。
214ランボー:02/02/17 14:02 ID:oTfNzbac
集結

 後藤の予想に反し、飯田と安倍は四人を快く迎えてくれた。
そして矢口攻撃とアップフロント開放作戦がスタートしたのである。
総司令官に夏まゆみが就き、強襲部隊と支援部隊に分かれた。
強襲部隊の指揮官は飯田、支援部隊指揮官は安倍である。
「飯田さん、今日もそのペンダントなんですねぇ」
石川は飯田の首に掛かるペンダントを見て言った。
「うん、これはお守りなの。
ブリット(弾頭)が全真鍮製で、厚さ二十ミリの鉄板でも貫通するんだってさ」
「そうなんですかぁ、凄いですねぇ」
「これはベトナム戦争で死んだ彼から貰ったものなの」
「そうなんですかぁ・・・・・・」
ペンダントを見つめる石川を加護が引っ張った。
「本気にするんやない。ええか?ベトナム戦争は一九七五年に終結しとるんや。
飯田さんは一九八一年生まれやろ?生まれる六年も前の話や」
「言われてみれば・・・・・・」
石川は首を傾げた。
「それじゃ、強襲部隊メンバーは集まってくれるかな?
市井と後藤、吉澤と加護、それから助っ人」
「助っ人って誰やの?」
加護が首を傾げた。
「あたしだよ」
そこへ現れたのは、鼻ピアスをした女だった。
「彩さん!」
後藤が抱き付いた。
「石黒、お前には家庭があるんだからね。無理しちゃだめだよ」
夏は釘を刺した。
「はい」
「それと石川に高橋が強襲部隊。作戦を説明するよ。
二手に分かれて、正面と裏口から行くの。
正面からは、圭織とあやっぺ、石川と高橋で行くよ。
裏からは市井と後藤、吉澤、加護。圭織チームは一階を掃討するから、
市井チームは二階へ向かって。
二階の掃討が終わったら、一緒に三階へ乗り込む。以上だけど」
飯田が七人を見渡す。
「あの、武器は何を使うんじゃろう」
高橋が質問する。
「いい質問だね。武器はこれだよ」
飯田はテーブルの上にバッグを置いた。石黒が開けると、中から銃が姿を現す。
「あやっぺと吉澤は、このライアットショットガンを使って。
ポンプ式五連で、二十番を使うからね。
この弾帯は三十発だけど、二個持つようね。
それと、これがベレッタの93R。
3連バースト機能がついてるから、92Fより重いの。
これは高橋と加護に持って貰う。
マガジンは十五連が六個。その他の四人は、ベレッタ92Fだよ。
マガジンは四個で足りるから、他にコカッション手榴弾を二個持ってね」
飯田が説明すると、メンバー達は次々と取り出してチェックする。
「これが対トカレフ用防弾ボディアーマー。
九ミリパラベラム弾は勿論、44マグナムでも貫通しないの。
ただ、NATO弾みたいな高速ライフル弾は無理だからね」
飯田の説明を聞きながら、メンバー達は黙々と装着して行く。
「用意ができたら行くよ!」
夏の号令で、十二人の娘+主婦が動き出した。
215ランボー:02/02/17 14:02 ID:oTfNzbac
激戦

 アップフロントに到着したメンバー達は、作戦通り二手に分かれて突入を開始した。
飯田チームは一階でメロン記念日の四人と、激しい銃撃戦を行う。
膠着状態が続く中、石黒が突破口を開く。
ショットガンを5連続発射し、斎藤を蜂の巣にしたのである。
動揺したメロンは大谷が逃げ出し、柴田も重傷を負う。
村田は最後までトカレフで頑張っていたが、飯田の放った一発が額を貫き、
彼女の人生の幕を閉じた。
「石黒さん、傷が・・・・・・」
石川は石黒の腕の傷を手当てしようとする。しかし、石黒は首を振った。
「二階は苦戦してるらしい。行くよ!」
「柴田が生きてるべさ。紺野、新垣、回収!」
安倍がやって来て柴田を回収して行った。
 その頃、二階では石井・アヤカ・カントリーの五人が、凄まじい反撃を展開していた。
普段は農場で肉体労働に従事するカントリーの三人は、AKMを繰り出していたのである。
ショットガンと拳銃くらいでは、AKMの敵では無い。
「これじゃ、ラチがアカンわ」
加護はマガジンを交換しながら言った。
「真希、手榴弾を滑らそう」
「同時に二発?」
「それで五秒間は動きは止まるはずよ」
「うん、それじゃ行くよ。1、2の、3!」
吉澤が援護射撃をする中、市井と後藤が手榴弾を滑らせた。
轟音と閃光が収まると、四人は一気に突っ込んで行く。
後藤がアヤカを撃ち殺すと、市井は石井の腹に三発ぶちこんだ。
吉澤が銃床で戸田を昏倒させ、加護が木村と里田を射殺する。
「二階クリア!戸田が重傷。回収を頼む」
市井が報告すると、飯田チームと安倍・小川が一緒にやって来た。
「残りは三階だね」
市井が言うと飯田が頷く。
その時、おもむろにドアが開き、中から中澤が顔を出した。
216ランボー:02/02/17 14:04 ID:Avvbl13L
いよいよ

「じゃかましいんじゃヴォケ!酒が足らんで」
「裕ちゃん?」
飯田は首を傾げた。
「飲んでるの?」
後藤は中澤を見る。
「そうや。稲葉と飲んでたら、矢口が好きなだけ飲ませてくれるって言うやないか。
一昨日までみっちゃんも一緒だったんやで。あれ?石黒やないか。山田は元気か?」
「行こう」
吉澤は他の娘に促した。
「アハハハハー、彩ちゃん。久し振りやなあ」
稲葉はグデングデンである。
「死ぬまで飲んでろ!」
飯田は中澤と稲葉を部屋に蹴り込み、勢い良くドアを閉めた。
「三階の敵は?」
後藤がマガジンを変えながら言った。
「残ってるのは、大谷とミカ、辻、そして矢口よ」
石黒は真剣な顔で言った。
「みんな聞いて。辻は狙撃銃を持ってるの。
あれで撃たれたら、こんな防弾チョッキは平気で貫通するからね」
飯田は思いつめたような顔で言う。それぞれが緊張した顔になった。
「行くよ!」
飯田はベレッタを握り締めながら階段に向かった。
 メンバー達は警戒しながら三階への階段を昇る。
死角からコンパクトの鏡で廊下を確認するが、人の気配は無かった。
「正面のトイレが気になるね」
後藤は市井に言った。
「市井と後藤、圭織と石川で左右の部屋をチェックする。
他の四人は、ここで援護して」
飯田が指示を出し、他のメンバーが従う。
「クリア!」
飯田と石川が右の部屋をクリアする。
「動くな!」
市井と後藤は左の部屋にいた大谷を拘束する。
「大谷確保!」
「あやっぺ、吉澤、市井のところへ!」
こうして六人が大谷を取り囲む。
217ランボー:02/02/17 14:05 ID:Avvbl13L
後藤死す

「他の三人はどこだ」
飯田が大谷を尋問する。
「矢口さんは社長室だと思います。他の二人は知りません」
「仕方ない。ひとつひとつチェックして行こう」
市井は銃を持ち直す。
「市井ちゃん、あたしに何かあったら、よっすぃーと加護を頼むよ」
後藤は妙に弱気な事を言う。
「何言ってんのよ。真希が面倒をみるんでしょう?さあ、行こう」
市井が廊下に出た。後藤が続いて廊下に出た時、いきなりトイレのドアが開く。
中にはバリケードが築いてある。
「危ない!」
後藤が市井を部屋に引き戻した瞬間、M―40A1狙撃銃の銃声が轟く。
後藤の背中に衝撃があり、ほぼ同時に胸が吹き飛んだ。
(市井ちゃん、大事な胸が吹き飛んじゃった)
後藤は市井に手を伸ばしながら、ゆっくりと倒れて行く。
後藤の最後の意識には、絶叫する市井の顔が見えた。
「真希ー!」
血まみれの後藤を抱き締め、絶望的な悲鳴を上げる市井。
「嫌ァァァァァァー!」
後藤の吹き飛んだ心臓の破片を握り締め、絶叫する吉澤。
「そんな・・・・・・アホな」
茫然と立ち尽くす加護。
「許さない!」
飯田は石黒と吉澤からショットガンを奪うと、大谷を廊下に放り出す。
大谷は狙撃者に肩を撃ちぬかれ、倒れこんで悶絶した。
飯田は廊下に踊り出ると、トイレに向かってショットガンを撃ちながら進んで行く。
一挺のショットガンが弾切れになると、もう片方のショットガンを撃ちながら前進した。
トイレに飛び込むと、中では辻が頭を抱えて蹲っている。
「よくも後藤を!」
飯田は辻にショットガンを向ける。
「後藤さんは・・・・・・撃ちたくなかったのれす。圭織さん、殺してくらさい」
「撃てない・・・・・・どうしてこんな事になっちゃったのよォォォォォォー!」
飯田は号泣する。
「もう手遅れなのれす。圭織さん、撃たなければ撃ちますよ」
辻が飯田に狙撃銃を向けた瞬間、ショットガンが火を吹いた。
辻は腹を吹き飛ばされる。
「駄目・・・・・・嫌・・・・・・嫌ァァァァァァァァァー!」
飯田は辻を抱き起こす。
「これで・・・・・・楽になれる・・・・・・んれす・・・・・・ね・・・・・・圭織さん・・・・・・に逢えて・・・・・・良かった・・・・・・がくっ!」
「のの・・・・・・ウワァァァァァァァァァァー!」
飯田は辻を抱きしめて絶叫した。
218ランボー:02/02/17 14:05 ID:Avvbl13L
矢口現る

「どうしたべさァァァァァァァァー!」
安倍と紺野、小川、新垣の四人が三階に駆けつける。
「誰か撃たれたべか?」
安倍が手前の部屋を覗くと、血まみれの後藤を抱き締め、号泣する市井を見つけた。
「後藤!・・・・・・しっかりするべさァァァァァー!・・・・・・うっ!」
「なっち、後藤は即死だよ・・・・・・苦しまなかったのが・・・・・・せめてもの」
石黒が俯いたまま言った。
「そんな・・・・・・」
安倍は立っている事が出来ず、ガックリと膝を落とした。
「なっちさん、飯田さんがトイレに!」
高橋が安倍を引き摺るようにトイレへ連れて行く。
トイレの中では、飯田がこときれた辻を抱き締めている。
飯田は安倍を見ると、狂ったように泣き叫んだ。
「撃っちゃったの・・・・・・圭織が・・・・・・ののを・・・・・・殺しちゃった」
「圭織・・・・・・うっ!この腕は!」
安倍は辻の肘の内側に、複数の注射痕を見つける。
「クスリ浸けにしたんだべさ!・・・・・・許せない」
その時、廊下で誰かの声がする。驚いて廊下に飛び出るメンバー達。
そこには身体中に爆弾をつけた矢口の姿があった。
「矢口、何て事をしてくれたんだべさァァァァァァー!」
安倍は矢口に怒鳴った。
「アハハハハ・・・・・・もう少し頑張ってくれると思ったのに、頼り甲斐の無い奴等だ」
「矢口!お前だけは許さないで」
加護が銃を向ける。
「撃てるもんなら撃ってみいや」
矢口は加護に言った。
「関西弁?」
安倍が首を傾げる。
「なっち、こいつ矢口じゃない!」
石黒は身構える。
「ようやく気付いたのか。あたしは矢口じゃない。矢口は真っ先に殺しておいた」
「誰やアンタ!」
加護が睨む。
219ランボー:02/02/17 14:05 ID:Avvbl13L
矢口の正体


「加護ちゃん、本当に判らないの?」
矢口は変装を脱いだ。そこには何と、松浦亜弥がいたのである。
「松浦!どうりで矢口にしては大柄だと・・・・・・矢口はどこだべさ」
「矢口はレインボーブリッジから捨てた。あんな口うるさい奴はいらないからね」
「自分が何をしたのか判ってるのか?」
石黒は松浦に言った。
「あ〜ぁ、ようやくアップフロントを手に入れられると思ったのに。それじゃあね」
松浦は屋上に上がって行く。
「待て!」
みんなは松浦に銃を向ける。
「撃ちたければどうぞ。ちなみにこれは十キロのC4プラスチック爆薬。
雷管つきのね」
「撃つんじないべさ!このビルごと吹っ飛ぶっしょ」
「松浦ァァァァァァー!ミカちゃんはどこや!」
加護が怒鳴る。
「ミカ?ああ、そういえば、そんなのいたっけねえ。地下室にでも隠れてるんじゃない?」
松浦はそのまま屋上に出て行った。
「追うべさ!」
みんなが屋上に飛び出すと、松浦はヘリに乗り込むところだった。
「どどどどど・・・・・・どーしてハインドが?」
安倍は我が眼を疑う。
松浦が乗り込もうとしていたのは、ロシア製のミル・ハインド攻撃ヘリだったからだ。
ハインドに乗り込んだ松浦は笑顔で手を振ると、出入口を閉めた。
ハインドが上昇して行く。
「クソォォォォォォー!」
加護はハインドに銃撃を加えるが、防弾加工されているらしく、銃弾は跳ね返された。
「無理だよ。拳銃じゃ」
石黒は口惜しそうにハインドを見上げる。
「スティンガーかRPGでもあれば・・・・・・」
石川は加護を抱き締める。
220ランボー:02/02/17 14:07 ID:Avvbl13L
空しい帰還

「待てー!」
そこに現れたのは、辻を小脇に抱えた飯田だった。
飯田は辻を石黒に渡すと、M―40A1狙撃銃のボルトを開ける。
「圭織さん、無駄や。あのヘリは防弾加工を・・・・・・」
加護は首を振ったが、飯田は押しのけると、首から下げていたNATO弾をセットする。
「その銃弾は」
石川が飯田を見る。
飯田はボルトを閉めて銃弾をチャンバーに送り込むと、狙撃銃を構えた。
すでにハインドは、屋上から二百メートルほど離れていた。
「みんなの・・・・・・仇だ」
飯田はゆっくりとトリガーを引く。
発射された全真鍮製のブリットは、防弾加工されたハインドの機体を貫通した。
飯田は銃を投げ捨てると、石黒から辻を受け取る。
そして辻を抱いて階段に向かった。
「ハ・・・・・・ハインドが」
安倍がハインドを指差した。
みんながハインドを見る中、飯田は振り返りもせず、階段に向かって行く。
その背後で炎に包まれたハインドが、ついに大爆発を起こす。松浦の最期だった。
「終わったべさ」
安倍が呟くように言った。
「こんなに犠牲を・・・・・・畜生!」
石黒は飯田が投げ捨てたM―40A1狙撃銃を叩き壊す。
「ウワァァァァァァー!ののー!矢口さーん!」
加護はしゃがみ込んで泣き叫ぶ。
「行くべさ。もう終わったっしょ」
安倍は加護を抱き上げる。
そしてみんなは後藤の死体を回収し、半狂乱になった市井と吉澤を連れて引き揚げた。
「ご苦労様」
夏が笑顔で迎えるものの、深刻な顔をした安倍を見て悟った。
「誰?」
「・・・・・・後藤です」
「そう・・・・・・残念だわ」
夏はそう言うのが精一杯だった。
221ランボー:02/02/17 14:08 ID:Nb7ZBBAA
夢じゃない?

「はっ!」
石川は飛び起きた。
「嫌な夢観ちゃったなぁ。
矢口さんとごっつぁん、ののちゃんに亜弥ちゃんまで・・・・・・」
「梨華ちゃん、おはよう」
同室の吉澤は支度を終えていた。
「よっすぃー、怖い夢を観たの」
石川は吉澤に抱き付いた。
「早く支度しなよ。保田さんに怒られるよ」
そこへ保田が入って来る。
「ようやく起きたの?中々起きないなんて、石川にしては珍しいじゃん」
保田は掠れた声で言った。
「保田さん?その声はどうしたんですかぁ?」
「声?変かな?」
保田は吉澤を見る。
「別に変じゃありませんよ。でも、ずいぶん良くなりましたね」
「えっ?」
石川は不安になる。
「早く支度するんだよ。もう一周忌か・・・・・・早いもんだね」
保田は窓から外を眺めながら言った。
「ごっつぁんも辻ちゃんも東京ですからね。近くで良かったですよ」
吉澤が言った。
「そんな・・・・・・夢じゃなかったの!」
石川は保田に飛びつき、首を見た。そこには痛々しい傷がある。
「どうしたの?まだ時々痛むけどね」
「嫌ァァァァァァァー!」
石川は頭を抱えて蹲る。
「甘えるな!」
保田は石川の頬を殴った。
222ランボー:02/02/17 14:10 ID:X9szVFKc
めざめ

「紅葉ー!」
「起きなよ!いつまでも甘えるんじゃないの。もう先輩なんだよ!」
石川は太腿の痛みと、聞き慣れた保田の声で眼を醒ました。
「痛ぁい」
「ヴォケチャーミー!」
加護は自分の尻を叩いて逃げて行った。
「こ・・・・・・今度こそ夢よね」
石川は保田に抱きつく。
「甘えるなって」
押しのけようとするが、石川は保田をベッドに押し倒した。
「ちょちょちょ・・・・・・何すんのよ!あたし、そういった趣味は・・・・・・」
石川は保田のブラウスを引き裂く。
「傷が無い・・・・・・良かったァァァァァァァー!」
「何て事すんのよ!これ高かったんだからね!」
保田はブラウスを抱き締めて泣き出した。
「あれ?おばちゃん、どうしたんれすか?」
辻が顔を覗かせた。
「ののちゃん!」
石川は辻を抱き締めた。
「く・・・・・・苦しい!コラァァァァァァー!
ちょっと胸がでかいからって、いい気になるなァァァァァー!」
辻は石川を突き飛ばす。
「辻、何怒鳴ってんのよー」
「その声は・・・・・・矢口さん?」
石川はパジャマ姿のままホテルの廊下に飛び出ると、矢口に抱き付いた。
勢い余って二人は転がってしまう。
「痛い痛い痛いキャァー!」
矢口は『抱き分かれ』の格好になり、尻を打って顔を顰める。
「痛いよ!何すんのよ」
「生きてて良かった。矢口さーん」
石川は矢口を抱き締めた。
223ランボー:02/02/17 14:10 ID:X9szVFKc
エピローグ

「あたしが死ぬわけないだろー!」
矢口は尻を擦りながら起き上がる。
「矢口さん、アップフロントを乗っ取るなんて、考えてないですよね」
石川が言うと矢口の表情が変わった。
「な・・・・・・何言ってんのよ。そ・・・・・・そんなこと、あるわけないじゃん」
(どうして?誰にも喋ってないのに)
矢口は自分の野望を指摘され、かなりうろたえた。
「そうですよね!」
石川は嬉しそうに言った。
「石川ー、まだパジャマなの?もう置いてくよ」
飯田があきれたように言った。
「あ・・・・・・すいません!すぐに着替えて来ますぅ」
石川は部屋に戻って行った。
「矢口、どうしたべさ」
安倍が立ち尽くす矢口に訊いた。
「え?アハハハハ・・・・・・何でもない」
「もう、あんな週刊誌の事は忘れるべさ」
安倍は矢口の肩を叩く。
「ああ、アハハハハ・・・・・・」
矢口は笑って誤魔化す。
(石川・・・・・・単なる夢?それともエスパー?あたしの野望が・・・・・・どうして?)
矢口は石川の後姿を見つめていた。
224ランボー:02/02/17 14:12 ID:X9szVFKc
こんなものだが・・・・・・
ちなみに俺は「女の子だよ!」の弟だ。姉貴のパソコンを使わせて貰ってる
俺が書いた小説を載せやがって・・・・・・
225名無し保全中。。。:02/02/20 09:37 ID:y9Vcujhh
姉弟というと後藤家を彷彿とさせられるw
226ねぇ、名乗って:02/02/22 11:22 ID:3Py0fAgv
作家募集中……
227作家募集中:02/02/25 06:07 ID:T8jDhZwK
当スレでは小説作家を募集しております。
年齢・性別・経験不問。
執筆ジャンル不問。
未経験者歓迎。
228ランボー:02/02/25 22:45 ID:zaBNNKEq
 俺がこの計画を思い立ったのは昨年の秋だった。調べれば調べるほど、彼女
が苦しんでいるのが判る。俺は何とかして彼女を助けたかった。そのためにこ
の計画を思い立ったのである。
「全て計画通りだ。明日、郵便を投函するぞ」
俺は三人の部下の前で言った。
「もう一度、役割分担を確認しましょう」
そう言ったのは『クルマ屋』である。奴は自分の自動車修理工場を潰してしま
い、おまけに末期の肝臓ガンだった。ホスピスに入ろうにもカネが無く、死に
場所を探していたのである。『モーニング娘。』のファンでは無かったが、俺
が娘達の拉致計画を話すと、喜んで志願して来た。
「クルマ屋、運転は大丈夫なんだろうな」
クルマ屋を心配しているのが『仕立屋』である。こいつも代々続く仕立屋を潰
してしまい、自暴自棄になっていた。保田圭の大ファンであり、俺が計画を話
すと真っ先に協力を申し出る。
「長距離は疲れるからな」
そう言ったのが『電話屋』だ。奴は電話工事会社をリストラでクビになり、妻
と子供は家を出て行ったのである。全てを失った『電話屋』は酒に溺れ、もう
まともな身体ではないらしい。
「無理するなよ。俺と交代しながら行こう」
「ありがとうございます」
クルマ屋は俺に頭を下げる。実際に、このクルマ屋だけが俺より年下で、他の
二人は俺より五歳年上であった。なのに俺がリーダーであり、絶対的な権限を
持てるのは、やはりスポンサーだからである。
 
229ランボー:02/02/25 22:46 ID:zaBNNKEq
 お袋が死んだのは二年前だった。母子二人で生きてきただけに、そのショッ
クは大きかったが、お袋は俺に五千万円もの生命保険を遺している。俺はフリ
ーのライターであり、別に食うには困らなかった。独り者だし纏ったカネの使
い方を考えているうち、彼女の事を知ったのである。
 俺は名ばかりの清掃会社を名乗り、従業員の募集をした。そこに現れたのが、
部下の三人だったのである。この不景気の折、応募は五十人を超えた。俺は全
員と面談し、その中から技術を持った三人を選んだのである。
 ある日、俺は部下達に計画を打ち明けた。三人の反応はそれぞれ違ったが、
「何か面白い事をする」といった部分での意識統一が出来たのである。当初は現
実性に疑問を持っていた三人も、俺の計画を理解して行くと、成功を信じるよ
うになって行った。
「それで、目的は何ですか?」
クルマ屋が訊いた。
「身代金目的の営利誘拐では無い。また、レイプ目的の誘拐でもない。ただ、拉
致するのが目的だ」
俺が言うと仕立屋は反応が早かった。
「保田と話をしてもいいんですよね」
「ああ、ただし、間違っても襲ったりするなよ」
「はい!」
保田の大ファンである仕立屋は、嬉しそうに頷いた。
「きっと大騒ぎになりますよ」
クルマ屋は面白そうに手を叩く。クルマ屋は死ぬ前に、何か面白い事をしたか
ったようだ。
230ランボー:02/02/25 22:47 ID:zaBNNKEq
 俺の作戦はこうだ。まず、電話屋が電話工事を行い、アップフロントの事務
所に盗聴器を仕掛け、電話の中継システムを作る。それが成功すると、仕立屋
を中心に警官の服を偽造するのだ。そして最後に、小麦粉入りの封筒をアップ
フロントに郵送する。
 配達された封筒を開ければ、大騒ぎになるのは必至だ。盗聴器で様子をみな
がら、一一〇番通報を中継してしまう。警察になりすまして通報を受け、アッ
プフロントに急行。封筒の中身は小麦粉だと宣言し、悪質なイタズラだから証
拠を押収してしまう。引き揚げて数時間後に、モー娘達の指紋が検出されたと
虚偽の報告をし、事情聴取のために同行させるとして用意したバスに乗せてし
まうのだ。
 バスに乗せてしまえば、計画は成功したも同じである。後は山梨県の潰れた
ペンションに、娘達を一週間拉致するのだ。俺は何度も計画書を読み返し、計
画に無理や見落としが無いかをチェックする。試しにシュミレーションを行っ
てみるが、いつも成功に終わっていた。
 拉致する場所がネックになったものの、某TV局のMスタジオだと完璧だっ
た。そこで娘達のスケジュールを調べ、実行に移ったのである。
231村上龍:02/02/25 22:48 ID:M3BS7L2V
俺が書いてやろうか。
232ランボー:02/02/25 22:49 ID:Pak39tMX
 本当にバカな連中だ。世間知らずな娘達はともかく、大の大人までも、俺達
を全く疑わない。事情聴取だけであるのに、バスへの同乗はマネージャー一名
だけだと言うと、本気にして女性マネージャー一人だけがついて来た。他の連
中は乗用車でバスを追尾して来るのだが、クルマ屋のドライブテクニックは一
流である。信号などを利用して、いとも簡単に引き離してしまう。途端にマネ
ージャーのケイタイが鳴る。
「ケイタイは困ります」
俺はマネージャーに言った。
「なぜですか?」
「運転に支障が出ます。これだけ多くのタレントさんを乗せているんですよ。運
転にも気を遣うんです」
俺が説明すると、マネージャーはケイタイの電源を切った。
「それじゃあね、みんなのケイタイを預けてくれるかな?」
俺が言うと、仕立屋と電話屋が袋を出し、片っ端から娘達のケイタイを回収し
て行った。
「ちょっと強引じゃありませんか?」
マネージャーは俺を睨む。
「強引ってのは、こうやるんだよ」
俺はマネージャーに手錠をかけた。椅子のグリップを通してあるため、これで
彼女はバスから降りれなくなってしまう。
「何するの?」
マネージャーは驚いて俺を見た。
233ランボー:02/02/25 22:50 ID:Pak39tMX
「ちょっと聞いて下さい。えー、みなさんは我々に拉致されました」
俺が話し始めると、娘達は笑いながら俺を見る。
「勘のいい人は判ってると思いますが、我々は警察ではありません」
「えっ?ほら、ドッキリじゃないの?」
後藤が隣の安倍に言った。
「後藤君、話がある場合は手を挙げて下さい。そうしないと命の保障は出来ませ
んよ。みなさんも判りましたね?」
すると、笑いながら飯田が手を挙げる。
「はい、飯田君」
「どういうリアクションをすればいいんですか?」
「自然で構いませんよ。ただ、暴れたり逃げようとすると、彼女のように手錠を
かけますよ」
「カメラはどこだべさ?」
安倍があたりを見回す。
「安倍君、手を挙げてくれるように言いましたよね。次は撃ちますよ」
俺が拳銃を出すと、娘達の表情が変わった。
「いいですか?」
保田が手を挙げる。
「はい、保田君」
「これって、撮影ですよね」
「違います。ほら、彼女の表情を見て下さい」
俺はマネージャーを指差す。彼女は恐怖に震えていた。
234ランボー:02/02/25 22:50 ID:Pak39tMX
安倍が手を挙げる。
「はい、安倍君」
「本当に拉致されたんだべか?」
「そうです。我々は言うならばテロリストです」
飯田が手を挙げた。
「これって誘拐?」
「簡単に言えばそうなります」
娘達の顔から笑みが消えた。中澤が手を挙げる。
「はい、中澤・・・・・・あれ?あなたはメンバーではありませんね。どうしてここに
いるんですか?」
「よう判らんうちに、そこの人に乗せられたんや」
中澤はクルマ屋を指差した。モー娘のファンではないクルマ屋にしてみれば、
誰が卒業したかまでは判らなかっただろう。
「まあいいでしょう。それで質問は何ですか?」
「どうやらホンマの誘拐らしいな。うちらをどうする気や?」
「はい、どうするかと訊かれたら、お答え致しましょう。えー、これからみなさ
んに、ちょっと殺し合いをやって貰います」
「バ・・・・・・バトルロワイヤル」
矢口が蒼くなりながら言った。
235ランボー:02/02/25 22:51 ID:Pak39tMX
「矢口君、勝手に喋ってしまいましたね?残念です」
俺は矢口に銃を向けた。全員が緊張に包まれる。特に矢口は生きた心地がしな
い。
「ああ、矢口君は未成年でしたね。今回だけは特別に許しましょう。でも、もう
次はありませんよ」
俺が銃を降ろすと、矢口は安堵の表情を浮かべる。すると保田が手を挙げた。
「保田君」
「本当に殺し合いをさせるの?」
「冗談に決まってるじゃないですか。これから温泉付きのペンションで、一週間
過ごして貰います。逃げようとしたり暴れたりしなければ、安全は保障します」
その時、クルマ屋が俺に言った。
「そろそろA地点です」
「はい、質問が無ければ少し休憩にしましょう」
A地点に到着すると、仕立屋と電話屋が降りて行き、バスの塗装を消す。水性
ペイントで書かれているため、水で洗えば落ちてしまう。そしてナンバーを付
け替え、俺達は出発した。
「電話屋、うまくやれよ」
「はい」
「えー、中澤君、ちょっと来て下さい」
俺は中澤を呼んだ。中澤は恐怖に震えながらやって来る。
236ランボー:02/02/25 22:52 ID:Pak39tMX
「アップフロントに電話して貰います」
「今ならまだ間に合うで。早くうちらを開放せえ」
中澤は震えながら言った。
「そうは行かないんだよ。怖がらなくてもいい。何もしないから」
俺は中澤を座らせ、ケイタイを渡した。そしてヘッドホンをして、盗聴器の音
声と電話の内容をモニターする。
「もしもし、中澤ですけど、社長おる?」
[社長、中澤からです]
[おう、どうした?]
「社長、実は拉致されて」
[拉致?警察はモー娘だけだと言ってたぞ]
「連中は警察やないんですわ。テロリストやそうです」
[はあ?お前飲んでるのか?]
「ちゃいますわ。ほんまなんです」
俺が合図すると、電話屋がケイタイを取り上げる。
「中澤が言ってるのは本当だ。娘達は拉致した。警察に通報するのは勝手だが、
そうした場合、三大紙の一面を飾る事になるぞ。暴力団を使っても同じだ。安
心しろ。身代金目的じゃない。一週間程度で娘達は戻してやる」
[バカな事を言うな!これは犯罪だぞ]
「そうだよ。それがどうした?」
[目的は何だ?]
「フフフ・・・・・・大人しくしていれば、また誰かの声を聞かせてやるよ」
そう言って、電話屋はケイタイを切った。
237ランボー:02/02/25 22:53 ID:Pak39tMX
 俺は盗聴器をモニターしていたが、警察に通報する様子は無かった。それど
ころか、スケジュールの調整を始めたのである。第一段階はクリアした。俺が
電話屋にヘッドホンを渡すと、中澤が話しかけて来る。
「あんたがリーダーやろ?目的は何や?」
「言ったじゃないですか。温泉付きのペンションでリラックス・・・・・・」
「本音を言わんかい。襲う気やろ」
「そんな気はありませんよ。信用して下さい・・・・・・ってのは無理ですね」
「中学生もおるんや。乱暴だけはせんといて」
中澤は真剣な顔で哀願する。
「約束します。あなた達には何もしません」
「本当?」
中澤は俺を見つめた。
「求められれば別ですよ。女性に恥をかかせるわけには行きませんから」
「一応、信用するで」
「それは光栄ですね」
俺は中澤を席に戻すと、隣の矢口に言った。
「矢口君、少し話しませんか?」
「嫌です」
矢口は俺を睨んだ。
238ランボー:02/02/25 22:55 ID:m9l5pyNo
「話だけですよ」
「嫌なものは嫌なの」
「矢口君、君に選択する権利はありませんよ」
俺が言うと中澤が促した。
「変な事しないでよ」
矢口は渋々立ち上がった。矢口を前方に連れて行き、席の窓がわに座らせる。
「いや、小さくて可愛いですねえ」
俺が横に座ると、矢口は警戒しながら言った。
「お礼を言うべき?」
「アハハハハ・・・・・・さすが矢口君ですね。頭の回転が速い」
「意見を言っていいですか?」
「どうぞ」
「こんな事は間違ってる。早く開放してよ」
「それは出来ませんね。残念ですが」
「サイテー」
矢口は俯いた。
「噂通り、気が強いみたいですね。気を張ってるのも疲れるでしょう?」
「別に」
「そう毛嫌いしないで下さい。これでも私は矢口君のファンなんですよ」
「そうですか」
矢口は無愛想に言った。
239ランボー:02/02/25 22:55 ID:m9l5pyNo
「矢口君、もし私が危険人物だったら、殺されていますよ」
「脅しのつもり?あんただって危険人物じゃない。あたしに銃を向けた」
矢口は俺を睨む。
「ああ、これですね?矢口君にあげましょう。エアガンです」
俺は矢口にエアガンを渡した。
「あきれた・・・・・・おもちゃだったの?」
「誰も傷つけたくないもんで」
「狡猾と言うか何と言うか・・・・・・」
矢口は文句を言い出した。
「あたし達はね、忙しいの。早く開放してよ」
「武器が無いと判ると、途端に要求ですか?恐れ入りました」
「何、その言い方」
「褒めてるんですよ。矢口君は頭がいい」
「バカにしてるの?」
「とんでもない。頭のいい矢口君が、どうしてあんな事に?」
「え?な・・・・・・何の事?」
矢口に動揺が走った。
「いえいえ、矢口君にお願いがありまして」
「なあに?」
「色々と訊きたいんですよ。ああ、安心して下さい。私はマスコミの人間ではあ
りません」
矢口は疑いの視線で俺を見た。
240ランボー:02/02/25 22:56 ID:m9l5pyNo
「ノーコメントって言ったら?」
「悲しいですね」
「それじゃノーコメント」
「アハハハハ・・・・・・可愛らしいですね。いつもそうなんですか?」
「何がおかしいのよ」
「いえ、本当にそう思ったんで」
「あんたなんか大嫌い」
矢口は吐き捨てるように言った。
「それは悲しいですね。私は矢口君の味方なんですが」
「ふざけないでよ。どうして味方が拉致なんかするの?」
「理由を訊いているんですか?」
俺が訊くと矢口は頷いた。
「今は言えません。申し訳ありませんが」
「そう、何も言い訳出来ないのね。こんな事をして、ただですむと思ってる?」
「思ってませんよ」
「何よ、何なのよ!凄く気持ち悪い。あんたと話してると、凄く気持ちが悪くな
る」
「バスに酔いましたか?」
「ふざけんじゃねえよ!」
矢口は俺にエアガンを投げつけた。
「気に入りませんか?私が」
「当たり前じゃない。こんな事をして・・・・・・席に戻りたい」
「どうぞ」
俺が立ち上がると、矢口は俺を睨みつける。
「また話をしましょう」
「ふん」
矢口は自分の席に帰って行った。
241ランボー:02/02/25 22:56 ID:m9l5pyNo
「後藤君、話をしませんか?」
俺は後藤に言った。すると後藤は無言で立ち上がり、矢口が座っていた前方の
席に座る。
「吉澤君とは仲がいいみたいですね」
「うん」
「色々とたいへんみたいですね」
「うん」
「噂通りに無口なんですね」
「そうかもしれない」
後藤との会話は、全く盛り上がらない。
「私が怖いですか?」
「うーん・・・・・・ちょっと」
「それは済みませんね。でも安心して下さい。危険な事はありませんから」
「そうですか」
「いつもそうなんですか?何か寂しくなりますよ」
「仕方ないよ。こういった性格なんだもん」
後藤は無表情のまま言った。
「そうですよね。性格は一朝一夕には改善出来ませんから」
「眠い」
「後藤君と話していると、凄く寒くなるのは気のせいでしょうか」
「いや、みんなも言ってる。寒くなるって」
後藤は相変わらず無表情だった。
242村上春樹:02/02/25 22:57 ID:M3BS7L2V
一つアドバイス。会話と行動が大半のものは小説とは言わない。それは脚本。
まあガンガレ。
243ランボー:02/02/25 23:09 ID:EXBZN6BW
つまんねー、やめた
姉貴の小説でも勝手に出してみようかな
244ランボー:02/02/25 23:35 ID:IVxIOBjL
今度は脚本(戯曲?)だ
あえて「」の末尾に。を入れてある
なんせ脚本だからな

245ランボー:02/02/25 23:36 ID:IVxIOBjL

飯田がキレた日

(ト、某年某月某日の昼下がり、某所のコンサートが始まる前)

飯田「新人が入って来るんだけど、古いメンバーは慣れてるよね。」

安倍「ワクワクするね!」

矢口「うわー、自分が入った時の事を思い出しちゃうー!」

飯田「特に、辻と加護・・・・・・」

辻 「くかー・・・・・・ZZZZZZZ・・・・・・」

保田「寝てんじゃネー!(ボコッ!)」

辻 「きー!痛いれしゅー(泣)」

飯田「辻と加護は、もう先輩なんだよ。ちょっと厳しく行こうか。」

加護「う…うちは寝とらんで。」

保田「いや、連帯責任ってやつだよ。」

加護「それは変やろ。辻ちゃんの教育係はリーダーやで。同い年やからって連帯
  責任かい!」

安倍「確かに加護の意見は、的を得てるべさ。」

飯田「分かった。それじゃ、圭織が辻に厳しくするね。」
246ランボー:02/02/25 23:37 ID:AufxPi/i
辻 「怖いれしゅー・・・」

吉澤「教育係は決めるんですか?」

飯田「それはまだ。今日はね、みんなの心構えを確認したくって。」

石川「色々な漢字がありますね。難しいのじゃ『閂』『閃』『閨』なんて字があ
  りますぅ。」

加護「アホ!門構えやのうて心構えや!」

保田「お前、ボケていい時と、そうじゃない時の区別くらいつけろよな。」

吉澤「今のはマジだったみたいですよ。」

安倍「石川に期待する方が間違ってるべさ。」

飯田「それじゃ、圭ちゃんから、自分の心構えを言ってみて。」

保田「うーん・・・頑張ってるところを見せたいな。やっぱり、努力をしなきゃ
  ね。」

矢口「圭ちゃんらしいねー。」

辻 「ののは、みんなと仲良くしたいれしゅ。」

安倍「仲良くするのは基本だべさ。辻にしては、いい意見でないかい?」

辻 「アハハハハ・・・なっちしゃんに褒められたのれしゅ。」

飯田「加護は?」

加護「メンバー言うてもライバルやしな。プロの厳しさを教えたるわ。」

保田「お前は意外とキツイからな。あんまり苛めるんじゃないよ。」

加護「うちは苛めんで。あくまで『教育』や。」
247ランボー:02/02/25 23:38 ID:AufxPi/i
飯田「程々にね。それじゃ、吉澤は?」

吉澤「えーと・・・見本になれるように頑張ります。」

安倍「吉澤だったら、具体的な目標にはなるべさ。」

吉澤「具体的って?」

保田「お前みたいな劣等生なら、当面の目標になるって事だよ。」

加護「さすがは、なっちさんやな。よっしーは新人のコヤシになるんや。」

吉澤「加護、テメー・・・」

飯田「はい、次は石川。」

石川「株価の低迷が続いている以上、経済効果のあるグループになる必要がある
  と思います。」

吉澤「?」

加護「??」

安倍「???」

飯田「????」

辻 「????????????????????????????????」
248ランボー:02/02/25 23:38 ID:AufxPi/i
保田「これって、石川のボケなんだよね。」

辻 「チャーミーはボケとマジをボケてましゅ。」

飯田「はいはい、次は?」

安倍「なっちは仲良くするのは勿論だけどチームワークを大切にしたいべさ。」

保田「なっちらしいね。」

辻 「さすがにオリジナルメンバーは、言う事が違いましゅ。」

飯田「矢口は?」

矢口「あたしはさー、楽しんで仕事が出来るようにしたいなー。」

安倍「それが一番っしょ。」

保田「そうだね、つまらない仕事は嫌だからね。」

飯田「次は後藤だよ。」

吉澤「ごっちん?」

矢口「あれ?ヤダー!この子、眼を開けたまま寝てるよー。」

安倍「へえー、魚みたいだべさ。」

保田「アハハハハハ・・・やっぱり真希は魚系なんだね。」

辻 「色々な人がいましゅねー。魚や(狛)犬、ブタしゃんまれいるのれすー。」

保田「黙ってろ!このガキがァァァァァァァー!」

辻 「きー!しゅいましぇん・・・・・・」

吉澤「ごっちんは・・・・・・えーと・・・・・・どこでも寝るという事を・・・・・・睡眠不足は
  アイドルの宿命だから。」

保田「こういうところじゃ寝ないだろー、普通。」
249ランボー:02/02/25 23:39 ID:a3fsko/A
加護「よっしーはフォローになってへんな。パンツ見せんのが関の山や。」

吉澤「加護、テメー憶えてろよ。」

安倍「まあ、みんなの心構えは分かったべさ。その調子で行けばいいんでないか
  い?」

飯田「なっちィ、圭織の事忘れてない?」

保田「さあ、それじゃ衣裳に着替えようか。」

矢口「ごっちん、終わったよ。」

後藤「ムニャムニャ・・・・・・鼻血が出ても許してね。」

辻 「矢口さーん。ミニモニのスタンバイなんれしゅけどー。」

安倍「痩せたから衣裳がブカブカだべさ。衣裳さんに直して貰わないと・・・・・」

石川「圭織さん、タンポポの衣裳なんですけど・・・・・・」

飯田「タンポポの衣裳だァー?(バキッ!)」
250ランボー:02/02/25 23:40 ID:a3fsko/A
石川「い・・・・・・痛いですぅ!」

飯田「何がタンポポだァァァァー!ヤイ!モー娘のリーダーは誰だ?アアン!」

石川「そ・・・・・・それは・・・・・・長島監督ですぅ。」

飯田「ボケを売り物にするんじゃネエ!長島監督はなァァー!誰よりもコメント
  が多いんじゃァァァァー!」

石川「す・・・・・・すみません。」

飯田「テメエに、この気持ちが解るか?あたしは最もコメントが少ないリーダー
  なんだよ!」

石川「そんな事を言われても・・・・・・」

飯田「テメエもテニス部の部長だったら、少しは解るだろうがァァァァー!」

石川「あたしは、お飾りでしたから・・・」

飯田「何がお飾りだ?雛人形になれると思ってんのか?テメエなんざ、三人官女
  にもなれねえよ!」

石川「ああっ!足を取って何を?」

飯田「この恨みを噛み締めろ!掟破りの逆サソリだァァァァァー!」

石川「あううう・・・・・・そんな・・・・・・(みしっ!)・・・・・・がくっ!」

飯田「一丁上がりだァァァァァー!テメエなんざ、カントリーにくれてやる!
  ・・・・・・辻ィィィィィー!」
251ランボー:02/02/25 23:41 ID:a3fsko/A
辻 「ろうしましたー?」

飯田「テメエも世の中舐めきってんだよ!(胸倉を掴む)」

辻 「きー!こ・・・・・・怖いのれしゅー!」

飯田「いつまでもロリ路線で通すんじゃねェェェェェェー!(パンパンパン!)」

辻 「えーんえんえんえん・・・・・・痛いー・・・・・・」

飯田「泣けば済む問題じゃネーだろう!」

辻 「ううっ・・・・・・何でののに・・・・・・痛い事・・・・・・するんれしゅか?」

飯田「涙は女の武器なんだよ!ガキのくせに、今から使ってどうするんだァァァ
  ァァー!」

辻 「?????????????????????????????????
  ???????????」

飯田「無知を悔いて地獄に落ちろー!(スリーパーホールド)」

辻 「く・・・・・・苦しい・・・・・・れ・・・・・・しゅ・・・・・・がくっ!」

安倍「か・・・・・・圭織!どどどどどうしたべさ。」

保田「圭織がキレたよ!」

矢口(これはヤバイじゃん。)

飯田「どいつもこいつも舐めやがって!どうしてあたしのコメントを妨害しやが
  んだァァァァァー!」

吉澤「リーダー!落ち着いて下さい!」

飯田「何がリーダーじゃァァァァー!調子のいい時だけリーダーにしやがって!
  (ガスッ!)」

吉澤「あううううう・・・・・・がくっ!」

後藤「いきなりお腹を殴るなんて・・・・・・」
252ランボー:02/02/25 23:42 ID:a3fsko/A
飯田「当然だろうがァァァァァァー!(パンパン!)テメエの顔の肉は、なっちの
  次にスゲエんだよ!」

後藤「いきなり殴る事はないでしょー!もう!鼻血が出ちゃったじゃない!」

飯田「その程度の出血で騒ぐんじゃねェェェェェー!テメエには生理がネエのか
  ァァァァァー!(卍固め)」

後藤「あぎぎぎぎ・・・・・・」

安倍「や・・・・・・やめるべさ!真希が壊れる・・・・・・」

飯田「テメエは、まだ懲りねえんだなァァァァァー!このブタァァァァァー!」

安倍「誰がブタだべさ!」

後藤「あぐっ!・・・・・・(みしっ!)・・・・・・がくっ!」

飯田「今度はテメエだ!祭壇の生贄になれェェェェェェー!」

安倍「ヒィィィィィー!圭織を忘れた、あたしが悪かったべさァァァァァー!」

保田「やめろー!なっちが怪我したら、今日は仕事になんねえだろー!」

飯田「テメエ!誰に口きいてんじゃァァァァァー!この狛犬がァァァァァァァァ
  ー!(パイルドライバー)」

保田「あがっ!・・・・・・がくっ!」

加護「つ・・・・・・次・・・・・・来るで。」

安倍「や・・・・・・矢口は?」

加護「とっくに逃げ出したわ。」

飯田「アゲゾコブラのガキィィィィィー!観念しろ。」

加護「あ・・・・・・あかん・・・・・・完全に眼が据わっとる。」

飯田「テメエの胸は居酒屋の徳利か?シークレットブーツか?ダイエット用パス
  タか?」

加護「い・・・・・・いや・・・・・・ちょっとした・・・・・・御洒落で」

飯田「ガキが小細工すんじゃねェェェェェェー!(ローリングソバット)」

加護「ひでぶっ!・・・・・・がくっ!」
253ランボー:02/02/25 23:42 ID:a3fsko/A
飯田「残りはテメエだけみてーだな!いつもいつもクダラネーコメントばっかり
  しやがって!」

安倍「し・・・・・・仕方ないべさ・・・・・・なっちはモー娘の顔だから。」

飯田「顔がどうした?アアン!テメーの顔は河童か蜂だけにしろってんだァァァァァァー!」

安倍「お・・・・・・落ち着くべさ・・・・・・圭織は悪くない・・・・・・なっちも悪くないから・・・・・・」

飯田「さあ、テメエは祭壇に祭られる山羊の首になるんだ。観念しな!」

安倍「どどどどどーしてなっちが生贄になるべさ!」

飯田「モー娘に山羊がいねえからだよ!」

安倍「ちょっと待つべさ!何の祭壇なの?」

飯田「この飯田圭織様の祭壇に決まってるだろうがァァァァァァー!」

安倍「そんなの理不尽だべさ!」

飯田「理不尽も職業婦人もネエ!祭壇が生贄を待ってるんだよ!」

安倍「だから、どうしてなっちが生贄なんだべさァァァァァー!」

飯田「うるせえ!山羊がいねえんだから、同じ奇蹄目のブタなら文句ネエだろう
  !」

安倍「誰がブタだべさァァァァァー!なっちは痩せたべさ!」

飯田「テメエがいくら痩せてもなァァァァァー!この圭織様には勝てねえんだァ
  ァァァァー!」

安倍「圭織、凄くくだらないかもしれないけど、聞いてくれるべか?」

飯田「何?」

安倍「山羊やブタは奇蹄目じゃなくて偶蹄目だべさ。」
飯田「なっち、本当にくだらなかったよ。楽にしてあげるね。(延髄斬り)」

安倍「ホゲー!・・・・・・がくっ!」

飯田「全員、片付いたか?・・・・・・全く、人の話を聞かないんだから。」

矢口「(廊下で)あー怖かった。みんなに恨まれちゃうかなー?」

飯田「矢口がいないィィィィィィー!」

矢口「ダッシュ!」


      幕


254ランボー:02/02/26 13:05 ID:24jeOOrr
ののたんの冒険

「圭織さん」
ののたんはいいださんに抱きつきました。そして胸をさわったのです。
「大きいれすねー」
「ののちゃんも大人になれば大きくなるよ」
「サイズを教えてくらさい」
「82のB」
「そうれすか、ののは・・・・・・げげー!『ジュニア』ってかいてあります」

ののたんはショックを受けました。それでも仲間をさがそうと、
今度はなっちさんに飛びつきました。
「なっちさーん」
「どうしたべさ」
「大きいれすねー」
ののたんはなっちさんの胸にさわります
「ののちゃんも、大人になったら大きくなるべさ」
「サイズを教えてくらさい」
「83のB」
「ふーん、太ってたころは、Dくらいあったのれすか?」
「コラァァァァァァー!」
「きー!」
ののたんは驚いて逃げ出しました。
255ランボー:02/02/26 13:05 ID:24jeOOrr
ののたんはりかちゃんのところに来ました。
「りかちゃん、何でそんなにほそいんだー!」
ののたんはりかちゃんを蹴っ飛ばします。りかちゃんは泣きながら
ののたんに蹴らないようにお願いしました。
「だったら、ブラのサイズを教えな」
ののたんの態度は、ほかの人とはちがいます。
「80のC」
「げげー!」
これまでの最高記録に、ののたんはがくぜんとしました。

ののたんのショックはすごかったようです。廊下をあるいていると
むこうから狛犬のような人が来ます。
「おばちゃーん」
ののたんは狛犬さんに抱きつきました。
「どーしたのー?」
狛犬だと思ったのは、怖い怖いやすださんでした。
「これだと・・・・・・80のBれすね?」
「そうだけど」
(ちょっとブカブカれしたねー)
ののたんはニヤニヤ笑いながらトイレに入ります。

ののたんがトイレに入ると、そこにはごとーさんがいました。
「ごとーさん」
ののたんは後からごとーさんの胸をさわります。
「なにやってんの?」
ごとーさんは無表情のまま言いました。
「やせて小さくなったのれすか?」
その途端、ののたんの顔に、ローリングソバットが飛んできました。
「これでも85のCなんだよ!」
ごとーさんは珍しく感情的になると
鼻血をだしてたおれているののたんを見捨ててトイレを出て行きました。
「今のは・・・・・・効いたのれす」
ののたんはごとーさんの怖さを実感しました。
256ランボー:02/02/26 13:06 ID:24jeOOrr
ののたんがトイレに倒れていると、よっCがやってきました。
よっCはののたんを起こしてくれました。
「どうしたの?」
「こうしたら、おこられたのれす」
ののたんはよっCの胸をさわりました。
「あはっ、あたしも小さいでしょう?」
よっCは笑顔でいいました。でも、ののたんは悲しそうです。
「みんな大きいのれす。ののだけ小さい」
「加護ちゃんがいるじゃない」
「かごちゃんは大きいのれす」
「ああ、あれはね」
よっCは加護ちゃんのひみつを教えてくれました。

ののたんは勇気を出して、着替えている加護ちゃんのところに来ました。
「のの、どうしたの?」
「えいっ!」
ののたんは加護ちゃんのブラジャーを引っ張りました。
「ああっ!」
すると、加護ちゃんのブラジャーの中から、大きなパットが転げ落ちます。
「何すんじゃ、このヴォケ!」
加護ちゃんは激怒しましたが、ののたんはうれしそうです。
ののたんは加護ちゃんの肩を叩いて思いました。
(勝った)

                  完
257ランボー:02/02/26 13:07 ID:24jeOOrr
姉貴の小説を無断で出してやった。
・・・・・・確かにうまいよな。
258ランボー:02/02/26 19:43 ID:mK6VuzV8
ミニモニ。モノマネ物語

 ある日、ミニモニ。の四人は、収録のためにTV局に来ていました。
お決まりの待ち時間に、ののたんは衣裳部屋から白いつけヒゲをみつけてきま
す。
「矢口さん、こんなものがあったのれす」
ののたんはみつけてきたヒゲを、リーダーの矢口さんにわたしました。
「へえー、これってアレじゃない?」
矢口さんはヒゲをつけて言いました。
「助さんもききなさい。格さんもききなさい」
「アハハハー、水戸黄門やな!」
あいぼんは嬉しそうにわらいましたが、ミカちゃんは首をかしげています。や
っぱり、アメリカ人にはわからないのでしょう。
「ミカに貸して」
ミカちゃんはやはりヒゲをつけると、立ち上がって演説をはじめます。
「to the people by the people for the people」
「ああっ!リンカーン大統領!」
矢口さんは大喜びでしたが、ののたんとあいぼんは口をあいてみています。
「ミカちゃん、この二人にはむずかしいんじゃない?」
矢口さんは物知らずの二人を見て、溜息をつきます。この矢口さんの一言で、
火がついてしまったのがののたんでした。
「ののもやる!」
ののたんはヒゲをつけると、得意のモノマネを披露します。
「メェェェェェェェェー」
ののたんのヤギのモノマネは、三人の爆笑をさそいました。
259ランボー:02/02/26 19:44 ID:mK6VuzV8
 収録が終わると、四人は楽屋でおしゃべりをしていました。しばらくしてあ
いぼんがトイレに行くと、廊下に赤いものが落ちています。
「何やろ」
あいぼんが拾い上げてみると、それは赤いよだれかけでした。
あいぼんはそれを楽屋にもちかえります。
「矢口さん、こんなものが落ちてたで」
矢口さんはよだれかけを手にとりました。
「こ・・・・・・これは」
他の三人は息をのみながら、矢口さんをみつめています。矢口さんは、よだれ
かけを自分のくびにかけました。
「お地蔵様ー!」
ののたんとあいぼんは大爆笑でしたが、ミカちゃんは何のことだかわかりませ
ん。
「やっぱり、外国人にはむずかしいかなー」
矢口さんは苦笑しました。すると、ののたんは何をおもったのか、よだれかけ
を頭に立てます。
「コケーココッコケーココッコケコココケー!」
そうです。ののたんはニワトリのマネをしたのでした。これにはミカちゃんも
大喜びです。
 ののたんにおいしいところを持っていかれ、あいぼんはくやしそうです。次
は絶対に勝つという闘志をみなぎらせるあいぼんでした。
260ランボー:02/02/26 19:45 ID:mK6VuzV8
 数日後、またミニモニ。のメンバーが集まりました。今日はラジオ番組の収
録です。スタジオが空く時間まで、四人は廊下の椅子に座っていました。
「今日は何のモノマネかな?」
矢口さんが三人を見ていいました。矢口さんがこういった時は、必ずモノマネ
をしないといけません。そうでないと、矢口さんのお説教が始まるからです。
「ほな、うちから行くで」
あいぼんは起死回生のモノマネを披露します。
「人間って、悲しいね」
そうです。あいぼんは梨華ちゃんのモノマネをしたのです。これには全員が爆
笑しました。
「まだあるで」
あいぼんが自信満々でいうと、他の三人は固唾をのんで見守ります。
「ハッハッハッハー、辻と加護ーハッハッハッハッハー」
「矢口さん!」
ミカちゃんは、矢口さんのモノマネだと言いました。ののたんも笑顔で頷きま
す。
「えー、似てないよー」
矢口さんは少しだけ不服のようです。
「それじゃ、これは?」
ミカちゃんは頬を膨らませます。
「ちょっと暑いべさァァァァァァー!」
「アハハハハ・・・・・・なっちさんじゃん」
矢口さんは爆笑です。今度はののたんが立ち上がりました。
「どすーん!ポジティブッシュとみこでーす」
「よっC!」
矢口さんとミカちゃんにはウケましたが、あいぼんは歯ぎしりをして口惜しが
ります。
(よっCを持ってくるとは・・・・・・)
261ランボー:02/02/26 19:45 ID:mK6VuzV8
 その様子をみていたのは、番組のプロデューサーでした。プロデューサーは
とってもえらい人で、番組の責任者です。プロデューサーは何を思ったのか、
矢口さんに話しかけました。
「矢口は誰かできるの?」
「あたしですか?裕ちゃんなら少し」
矢口さんは恥ずかしそうに言いました。するとプロデューサーは、笑顔になっ
て手をたたきます。
「それじゃ、今日はミニモニ。のメンバーが、モー娘の誰かを連れてきたってい
うコーナーにしよう。台本を書き換えるからね」
プロデューサーの提案に、四人は仰天しました。まさか、モノマネで番組を構
成するとは思わなかったからです。
「ど・・・・・・どうしよう」
さすがの矢口さんも困ってしまいました。ミカちゃんやののたん、あいぼんも
同じです。四人は不安に震えながら台本を待ちました。
 しばらくすると、放送作家さんが台本を持って現れました。放送作家という
のは、わがままなプロデューサーのいうことをきく、とてもがまん強い人達のことです。
「はい、これでOKが出たよ」
放送作家から渡された台本を見て、四人は絶句してしまいました。
262ランボー:02/02/26 19:46 ID:LNVXB5w5
「はい、本番行きます。どうぞ」
ディレクターの指示で収録がスタートします。ミニモニ。の四人は、緊張で声
が震えてしまいました。
「こ・・・・・・こんばんわ。ミ・・・・・・ミニモニです」
「はい、テイク2行きます」
もう一度、録音のやり直しです。四人は開き直りました。
「こんばんわー!ミニモニ。でーす」

矢口本人「今日はですね。モー娘のメンバーにゲスト出演してもらいます」
ミカ本人「誰が来てるんですかー?」
矢口本人「それじゃ、一人目の人、どうぞー」
辻の吉澤「どすーん!よっCでーす」
矢口本人「よっC、新曲のセンターは気持ちいい?」
辻の吉澤「もちろんれすよ」
加護本人「あれ?よっC、今日は舌足らずだねー」
辻の吉澤「そう?変らなー」
矢口本人「次のゲストは?」
ミカ安倍「はいはいほいさ、安倍だべさ」
辻 本人「なっちさんれすねー」
加護本人「ずいぶんと痩せたんちゃう?」
ミカ安倍「ダイエットしたっしょ?もうスルェンダルだべさ」
辻 本人「あれ?妙に英語の発音がうまくないれすか?」
矢口本人「何となくバレバレじゃない?」
加護本人「次は、この人でーす」
矢口中澤「加護、何言っとんの。うちは福知山いうてるやろ?」
ミカ本人「中澤さん、今度いっしょに遊んでください」
矢口中澤「バレてるやろ?」
加護矢口「そんなことない」
矢口中澤「バレてるって」
加護矢口「そんなことないっていうてるやろ!」
辻 吉澤「どすーん!」
ミカ安倍「べさァァァァァァー!」
加護石川「どぉーもー!チャーミー石川でぇす」
ミカ安倍「なっちがセンターだべさァァァァァー!」
 プツッ!

 なっちさんはラジオのスイッチを切りました。ここはなっちさんの自宅マン
ションです。
「またなっちのイメージが悪くなったべさァァァァァァァァァー!」
なっちさんはポッキーを箱ごと握り潰したのでした。


             完
263ランボー:02/02/26 21:16 ID:JvrIVUVp
やはり現役大学生の姉貴には勝てないな。
264ランボー:02/02/26 21:16 ID:JvrIVUVp
真泥麗羅物語
 圭織の場合

登場人物
 意地悪な継母・・・・・・裕子
 意地悪な姉A・・・・・・彩
 意地悪な姉B・・・・・・圭
 王子様・・・・・・・・・・・・ひとみ
 危ない亡父・・・・・・・・つんく♂
 不幸少女圭織・・・・・・圭織

 
 父親のつんく♂が死亡し、圭織と一緒に暮らすのは、継母と義姉達であった
。元々、圭織の家の財産を目的で再婚した継母は、予想よりつんく♂が早くし
んでしまったので、唯一法定相続人の権利がある圭織に対して、悪逆非道の限
りを尽くす。配偶者が法定相続人になりえる年数=五年の間、圭織を殺しては
まずい。出来れば殺さずに、酷使する方が良かった。なぜなら、警察の目は誤
魔化せても、世間が黙っていないだろうからである。
 つんく♂が桜上水で芸者と心中した時(太宰かよ!)、圭織は十六歳だった。
父親のつんく♂は圭織を溺愛し、冬であろうとノースリーブを着せる。(虐待じ
ゃねえか!)
「圭織、本当に・・・・・・いい二の腕をしとる・・・・・・」
つんく♂は、そう言って圭織の二の腕を撫でた。つんく♂は圭織の瞬きが止ま
らない事と、二の腕以外を褒める事は無い。そして、溺愛する愛娘へのプレゼ
ントは、必ずと言っていいほど、伸びすぎたタンポポの花束だった(そんなもん
、あるんかい!)。そんな優しい(危ない)父の(屈折した)愛情を一身に受け、圭
織はスクスクと成長して行く(ちょっと成長し過ぎた)。

 義姉の二人は、圭織を奴隷のように酷使した。継母の裕子も、完全に圭織を
差別している。しかし、当の本人には、あまり自覚が無かったようだ。なぜな
ら、圭織は仕事をパターン化して憶えてしまい、継母や義姉が言う事の半分も
理解していなかったからである。特に三人は怖い顔をしていた。そのため、圭
織は三人が本気で怒っていたとしても、(ちょっと怒ってるかな?)くらいの感
覚でしか無かったのである(ずれてるぞ!)。
 ある日、三人がクラブに遊びに行くという。勿論、圭織も連れて行ってくれ
るよう懇願したが、三人は冷ややか顔で首を振った。
「生憎、完全前売チケット制で、三枚しか無いの。残念だったわねえ」
彩が金色に装飾されたチケットを見せて言った。要するに見せびらかしている
のだ。
「ジャニーズ来てるかなあ。またゲットして連れ込んじゃおうかしら!」
圭は狛犬顔を紅潮させて言った。この顔も怖い。
「ちゃんと洗濯を終わらせんかい!このヴォケ!」
継母の裕子は圭織を怒鳴った。その途端、圭織は不気味な薄笑いを浮かべる。
「な・・・・・・何がおかしいのよ!」
「変な顔!(狛犬顔に言われたくねえな)」
「何や・・・・・・文句でもあるんかい?」
裕子は圭織を睨んだ。
「ざけんなよ・・・・・・誰に口きいとんじゃァァァァァァァー!」
圭織は完全に戦闘モードに入り、手前にいた圭に凄まじいキックをぶち込む。
圭は五メートル後方のマントルピースまで飛ばされ、背中を強打して落下、そ
のまま動かなくなった。(故アンディ=フグ並の破壊力)続いて彩の腹にストレ
ートを入れると、蹲る反動を利用して自分の膝の間に頭を挟んで抱え上げる。
「馬鹿にすんじゃないよー!」
圭織はそのまま膝をついた。いわゆるツームストンパイルドライバーである。
「ぐげっ!・・・・・・がくっ!」
白目を剥いて昏倒する彩を見た裕子は、恐怖に固まってしまった。
「下手に出てりゃ好き勝手しやがって・・・・・・」
「おち・・・・・・おち・・・・・・落ち着き!か・・・・・・圭織!・・・・・・じょ・・・・・・冗談や
・・・・・・ほ・・・・・・ほら、チ・・・・・・チケット、うちの・・・・・・あげるしな・・・・・・」
「遅いんだよ!おばさん・・・・・・」
初秋の夕暮れに、裕子の絶叫がこだました。

 数年後、父つんく♂の遺産を全て相続した圭織は、ヨーロッパの某公国の王
子と結婚した。式の参列者の中には、極度の栄養失調と過労で失明寸前の彩と
、人間サンドバッグにされてパンチドランカーとなった圭がいる。勿論、呼ば
れたわけではないが、出席しないと何をされるか分からない。二人は、それほ
ど圭織を恐れていたのである。
「圭織、君のお姉さんじゃないのかい?」
王子は金箔の馬車の中で言った。
「似てるけど、違うみたーい(家に帰ったらブッ殺す!)」
「いつか見つかるよ。お継母さんとお義姉さん達」
「そうだねー」
その頃、東京湾に沈んだ乗用車の中から、身元不明の中年女性の白骨死体が発
見された。

教訓:幸せは力で奪うもの
265ランボー:02/02/26 21:17 ID:JvrIVUVp
真泥麗羅物語
 なつみの場合

登場人物
極悪非道な継母・・・・・・裕子
意地悪な義姉A・・・・・・彩
意地悪な義姉B・・・・・・圭
王子様?・・・・・・・・・・・・ひとみ
不幸の少女なつみ・・・・なつみ


「彩、あのブタにも困ったもんやで」
裕子は処置なしといった仕草で言った。すると優柔不断の長女である彩が、裕
子に賛同する。
「そうだよー、自分が人間だと思ってるんだもん。圭、どうすんのよ」
彩はこうやって人生を送ってきた。それが良い生き方、正しい生き方だと信じ
ている。
「そりゃ、貰ってきたのは、あたしだけどさー、お姉ちゃん達が甘やかしたんじ
ゃない」
圭は雑誌を読みながら、興味なしといった表情を見せる。気の強い母と妹に挟
まれ、彩は困惑の表情を浮かべた。
「もう!どこかに捨てて来!」
裕子は青筋をたてて言った。
「捨てる?なっちを?」
彩は首を振った。彩と圭は仔豚に『なっち』と名前をつけ、テキトーに可愛が
っていたのである。裕子の意見に賛同出来るはずもない。
「そうだよ、なっちは最近、洗濯物を畳む事を覚えたじゃない。今度、料理を教
えてみようかな」
圭は裕子を見て言う。料理は無謀だったが、割と利口な『なっち』は、有難迷
惑な手伝いをしていた。しかし、裕子の思いは別にある。
「アホ!あの家畜は、うちら三人より食うんやで!昨日なんか朝食でパンを一斤
食いおったわ!」
「仕方ないよ、ブタなんだもん」
彩は諦めたように言った。確かにブタである『なっち』の食欲は旺盛である。
『なっち』の食欲が家計を圧迫しているという事は、鈍感な彩と圭にも判って
いる。かといって捨ててしまうのには忍びない。重苦しい空気が流れる中、圭
が解決策を提案する。
「あたし、いい人知ってるの」
その提案が最適かどうかは、もはや二義的な問題であり、圭は一刻も早く、こ
の重苦しい雰囲気から抜け出したかった。

 今日もお姉ちゃんやお母さんは、どこかへ遊びに行くべさ。でも、なっちは
悲しくない!きっと、今に魔法使いのお婆さんが現れて、ネズミを馬にしてカ
ボチャを・・・・・・あぐっ!食べちゃったべさァァァァァァー!馬車が出来ないべ
さァァァァァー!仕方ないから、キャベツで我慢しよう・・・・・・でも・・・・・・キャ
ベツを見ると、また食べちゃうっしょ。・・・・・・我慢するべさ!・・・・・・我慢!
・・・・・・我慢出来ないべさァァァァァー!

「こんちわー、えーと、この子でいいんですか?」
「そうや。ほんじゃ、宜しく頼んだでえ」
「はい!毎度ー!」
なつみを担ぎ上げたのは、ひとみであった。

 ああん、強引だべさ・・・・・・でも、男前の王子様だべさ・・・・・・ストーリーはシ
ョートカットされちゃうけど、ガラスの靴っしょ!ワクワクするべさ!ああな
って・・・・・・こうなって・・・・・・恥ずかしいべさ・・・・・・

「毎度ー!昨日のブタちゃん、割といい値段で売れましたよ。手数料と消費税を
引かせてもらいますから、一万二千八百四十七円です」
「ほんま?良かったなー。そんじゃ、今日はなっちを供養する意味でトンカツに
するし、ひとみちゃんも一緒に食べようやないの」
「いいんですか?」
「当たり前やないの。圭の後輩やろ?遠慮せんでええね。さあ、上がり上がり」
「はーい」

屠殺ってか?
266ランボー:02/02/26 21:17 ID:JvrIVUVp
真泥麗羅物語
 真里の場合

登場人物
極悪非道な継母・・・・・・裕子
意地悪な義姉A・・・・・・彩
意地悪な義姉B・・・・・・圭
王子様?・・・・・・・・・・・・ひとみ
薄幸な少女真里・・・・・・真里
魔法使いババア・・・・・・梨華


 真里は本家の実娘であるのにもかかわらず、当主であるつんく♂の死後、継
母の裕子に虐待されていた。裕子の連れ子である二人の義姉も、母を見習って
真里を苛めている。そんな中でも、真里は懸命に働いていた。持ち前の元気と
明るさで、何とか乗り切っていたのである。
 しかし、朝組で超人気の男役=吉澤ひとみの出演するミュージカルを観に行
く事になった時、自分だけが置いて行かれて号泣してしまう。そこへ現れたの
は、魔法使いババアのチャーミー石川だった。
「もしもし、矢口さん。私がチャーミー石川です」
チャーミー石川は、腰に手を当ててポーズをとった。しかし、せっかく掃除を
したところに土足であがられた真里は、頬を膨らませて怒っている。
「ちょっと、あんた何なのよー、人の家に勝手に上がりこんで」
「真里さんが可哀想なんで、このチャーミー石川が魔法をかけてあげます」
チャーミー石川は引き攣った笑顔で言うが、真里は全く信じていない。
「魔法?今時魔法なんて、非現実的なんだよ!」
「ふーん・・・・・・信用してないんですねえ。それじゃ、これでどうですか?えいっ
!」
チャーミー石川は、真里の服をドレスに変えた。これには真里も驚嘆する。
「おわっ!スゲー・・・・・・ジャージがドレスになっちゃったよ・・・・・・」
「どうですか?これでチャーミー石川の実力を認めて貰えますか?」
「す・・・・・・凄いよ!」
真里は嬉しそうにドレスに見とれた。そんな真里を見たチャーミー石川は、張
り切って次の魔法へ取り掛かる。
「ドレスの次は、劇場までの足。クルマですね?では、このリムジンのミニカー
を置いてっと・・・・・・」
「ちょっと待ったー!運転手はどうすんのよー」
「あちゃー、これはうっかりしてましたー。七十二分の一のプラモデル人形を置
いて・・・・・・ああ、これはバンダイの戦車兵ですけど、ちゃんと運転手スタイル
に変えますからご心配なく・・・・・・それじゃ、行きますよ!えいっ!」
「ギャァァァァァァァァー!」
チャーミー石川は、事もあろうか室内でリムジンを実物化させたため、前方に
いた真里は壁とボンネットに挟まれ、すでに圧死していた。
「あちゃー!またやっちゃいました・・・・・・どうしよう・・・・・・逃げよ!」
チャーミー石川は、証拠を残さないようにして逃亡する。
真里・・・・・・本当に薄幸な少女だった。
267ランボー:02/02/26 21:18 ID:JvrIVUVp
真泥麗羅物語
 真希の場合

登場人物
極悪非道な継母・・・・・・裕子
意地悪な義姉A・・・・・・彩
意地悪な義姉B・・・・・・圭
王子様?・・・・・・・・・・・・ひとみ
不幸な少女・・・・・・・・・・真希
鏡・・・・・・・・・・・・・・・・・・梨華


 真希は夢をみていた。一人で安眠を貪る事は、何にも替え難い快楽である。
とにかく、真希は眠る事に執念を燃やす少女だった。性格も思いっきりマイペ
ースであり、裏で努力するより、人前で派手にする方が好きらしい。こんな真
希のみる夢は、努力しないで玉の輿である。

「鏡よ鏡よ鏡さん、ちょっと教えて下さいな。そーっと教えて下さいな。この世
で一番美しいのは、誰でしょう?」(違う物語じゃねえのか?)
「それは・・・・・・これからトップモデルになる、ベルリン在住のマリア=ミュラー
という十六歳の少女ですぅ」
「何やと?・・・・・・まあええわ。ほんじゃ次は?」
「シカゴ在住のスーザン=ロビンソン(十七)ですぅ」
「コラァァァァァァァァァー!ほんじゃ、うちは何番目やァァァァァァァー!」
「裕子さんは・・・・・・九億二千七百六十五万九千九百五十一番目ですぅ」
「思いっきり普通の奴やないか!口惜しいな・・・・・・あんた、叩き割られるの覚悟
で、よう言うたね。」
「は・・・・・・はい、嘘はつけませんので・・・・・・」
「正直なやっちゃな。気に入ったで・・・・・・ほんじゃ、これでどうや?半径百メー
トル以内で、一番美しいんは誰や?」
「それは、裕子さんだったんですが、先月から変わりましたぁ」
「オリコンのヒットチャートとちゃうねんで!誰や?そいつは!」
「真希ちゃんですぅ」
「何ィ!あんな魚顔のどこが美人やねん!」
「皺が気になる三十路間近のオバサンよりは美人ですよぉ」
「くぉうるァァァァァァー!うちを誰や思うてんね!馬鹿にしくさって!」
裕子は鏡にヤキを入れると、真希暗殺のため、毒入りリンゴを作った。そして
真希のところへ向かう。
「真希!リンゴや。早う食えや」
裕子は不味そうな富士を手渡した。
(これを食べれば、小人が来て・・・・・・王子様に・・・・・・きゃー!)
真希は躊躇する事無くリンゴを食べた。
「ど・・・・・・毒を盛った・・・・・・わ・・・・・・ね・・・・・・がくっ!」
「さすがに純度九十九パーセントのダイオキシンは強力やな!即死状態やった。
これでアホな男がキスしたくらいでは生き返らんで・・・・・・・ふふふふふふふ
・・・・・・」
こうして近くの森に遺棄された真希は、数人の旅人に屍姦され、誰にも気付か
れないまま、骨になってしまった。
「冗談じゃないわよ!」
真希が飛び起きる。
「いつまで寝とんじゃァァァァァー!」
真希の腹に裕子のエルボーが決まった。のたうちまわる真希。
「朝飯を作りや!それが終わったら洗濯、その後は掃除や!今日は庭の草むしり
をせえよ」
「アホらし!もう辞めた!」
真希はふてくされて荷物をまとめた。
「ようやく出て行く気になったみたいね。」
彩が嬉しそうに言った。そう、継母と姉達は、真希が家を出て行くのを心待ち
にしていたのである。
「我慢してれば玉の輿に乗れると思ったからやってんのに、いつまで経ってもい
い人は来ないし」
「っていうか、物凄く打算的な考え方じゃない?」
圭は唖然として言った。いくらなんでも、それほど世の中は甘くない。
「もう戻って来ないから!」
真希は出て行った。狂喜乱舞する三人。

 家を飛び出た真希だったが、十六歳の少女が一人でやって行けるほど、世の
中は甘くない。途方にくれた真希が街角にたたずんでいると、男前の女?が声
をかけてきた。
「家出しちゃったのかい?それじゃ、今晩は僕の家においでよ。踊ろう!」
(ああっ!タ・・・・・・タイプ!)
真希はその夜、女になった。

「ひとみ、最近、金回りがいいやないの」
ショットバーで声をかけて来たのは、このあたりの顔役の情婦であるみちよだ
った。
「あ、みちよさん。最近ヒモやってんすよ」
「へえ、上玉でも見つけたんか?」
みちよは少し酔っているようだ。
「はい、稼いでくれてます」
「ええな、うちも誰かおらんかな」
家出した十六歳の真希が生きて行くには、自分の身体を売る以外に無かった。
ひとみに言葉巧みに騙され、毎晩三人の客をとらされている。やがて真希は身
体を壊してひとみに捨てられ、失意のどん底で病死した。自業自得とはいえ、
真希はやはり不幸な少女だった。
268ランボー:02/02/26 21:19 ID:JvrIVUVp
真泥麗羅物語
 亜衣の場合

登場人物
極悪非道な継母・・・・・・裕子
意地悪な義姉A・・・・・・彩
意地悪な義姉B・・・・・・圭
不幸な少女亜衣・・・・・・亜衣
魔法使いババア・・・・・・梨華


 亜衣は、やはりイジメられていた。(のかな?)こういった貧困と反発心が無
ければ、このテのストーリーは面白くないのである。しかし、三十路間近の関
西女と、鼻ピアス・狛犬のイジメは凄まじい事だろう。面白くない事があると
、必ず亜衣でウサを晴らした。

「歌番組が呼んでくれへ〜ん!(蹴り)」by裕子
「真矢の稼ぎが悪ーい!(パンチ)」by彩
「裕ちゃんは何でキスしてくれないんだァァァァァー!(噛み付き)」by圭

「ううう・・・・・・今の狛犬の噛み付きは効いたで・・・・・・」
亜衣は顔面から出血していた。
「どぅわるぇが狛犬だァァァァァァァァー!」
圭のジャンピングニーパットが亜衣の顔面に炸裂する。
「ひでぶっ!・・・・・・がくっ!」
亜衣は気を失った。しかし、裕子は許さない。
「くぉうるぁ!寝てるやつがあるか!内職の時間やで!」
亜衣は裕子に叩き起こされる。軽い脳震盪を起こした亜衣は、状況が掴めず、
意味不明な事を口走った。
「あんな・・・・・・うちな・・・・・・奈良県出身やねん・・・・・・」
「寝ぼけんじゃねえェェェェェェェェー!」
圭のエルボーが亜衣の腹に決まった。
「痛いやないかァァァァァァァー!この狛犬ー!」
亜衣は圭にヘッドバットを入れると、すかさず卍固めを決めた。
「ぎぎぎぎぎ・・・・・・(みしっ!)・・・・・・がくっ!」
圭は白目を剥いて気を失った。勝利に酔いしれる亜衣。
「アホ!圭は稼ぎ頭やで!どうすんのや!」
「じゃかましいわい!なんぼ稼ぎ頭言うたかて、時給七百円やないか!」
「何じゃコラァァァァァァァァァー!」
裕子は亜衣に掴みかかる。亜衣は裕子をかわすと、延髄斬りを決める。
「す・・・・・・杉本・・・・・・さん・・・・・・がくっ!」
「さあ、今日もスキンシップが終わったね。御飯にしよう」
彩は何事も無かったように言った。どうやら、これがこの一家の日常であるら
しい。
「そやな」
亜衣は気絶している二人を引き摺って居間に向かう。
269rannbo- :02/02/26 21:20 ID:ycBxHmel
「ああ、また奥歯がぐらついとるわ。狛犬、本気で決めおったしな」
亜衣は銭湯で腫れた頬を撫でながら言った。家に帰ると居間で雑魚寝する。
(もう、貧乏なんて嫌や・・・・・・)
亜衣の頬を涙が伝った。その時、いきなり魔法使いババアが現れる。
「こんばんわー!チャーミー石川でーす。亜衣ちゃんですかー?」
「何や!家宅侵入で訴えるで!」
亜衣はババアを睨んだ。
「そんな・・・・・・チャーミーは魔法使いなんですよ。亜衣ちゃんに幸せになって貰
いたくて・・・・・・」
「魔法だあ?ふざけんやないで!この落とし前、どうやってつけてくれんねんな
。アアン!」
亜衣はババアの胸倉を掴んだ。亜衣の迫力にびびりまくるババア。
「ぼぼぼぼ・・・・・・暴力はいけませんよ・・・・・・」
本気でびびりまくるババア。
「何や、よう見たら、ババアやないな。何で変装してんねん」
「少しでもベテランに見て貰いたくて・・・・・・」
チャーミーは自信が無かったのである。チャーミーに必要なのは、自信と歌唱
力だった。
「まだ若いやんか!おうし!明日から働いて貰うで。ええな!」
「は・・・・・・はい」
「裏切んなや。裏切ったら、不法侵入で手が後にまわるで!」
「は・・・・・・はい!」

 翌朝、亜衣は三人にいきさつを話した。稼ぎ手が増え、狂喜乱舞する三人。
「どこで働かせんのや?」
裕子が訊いた。亜衣は腕を組んで考え、最終的にはカネになる仕事を選ぶ。
「雄琴のソープランドがええんちゃうか?」
「そやな。それで行こ」
こうして三人は、チャーミーをソープランドで働かせる。魔法を駆使して働く
チャーミーは、瞬く間に売れっ子となり、毎日十万円を稼ぐようになった。
「これは当たりやったな。あの子はホンマに福の神やな」
裕子は嬉しそうに言った。あれから一家の家計は潤い、裕子は念願の別荘を購
入し、彩はクルマ、圭はライカの一眼レフを手に入れている。中でも一番贅沢
なのは亜衣であり、200トンクラスのクルーザーを購入していた。
「あ・・・おかえり」
今日もチャーミーが疲れて帰って来た。稼ぎ頭だけあって、一家全員が迎えに
出て来る。
「今日は忙しくて、十人も相手にしたんです・・・・・・もう、アソコが痛くて・・・・・・」
チャーミーは泣きそうな顔で言った。
「ホンマ、ご苦労さんやな。今日はゆっくり寝てくれてええで」
亜衣が言うとチャーミーは心配そうに言った。
「亜衣ちゃん、幸せになれた?」
「このくらいで満足せなあかんのかな・・・・・・寂しいけど・・・・・・」
「何言ってんの!チャーミー、もっと頑張るから、亜衣ちゃんはもっと幸せにな
ってよ!」
「う・・・・・・うん・・・・・・」
チャーミーは別室で横になると、すぐに寝息をたて始める。
「ホンマ、アホな奴やな。この調子やったら、三年くらいは働かせられるで」
亜衣は嬉しそうに言った。骨の髄までしゃぶり尽くす。これが一家のポリシー
である。
「月に五百万近く稼いでくれるから、年間六千万だよ。三年で一億八千万!」
彩が電卓で計算する。
「五年くらいまで引っ張ったら?サラリーマンの生涯賃金は行っちゃうよ」
「そやな。そうしよ」
三人は笑いが止まらなかった。
270ランボー:02/02/26 21:21 ID:ycBxHmel
真泥麗羅物語
 希美の場合

登場人物
極悪非道な継母・・・・・・裕子
意地悪な義姉A・・・・・・彩
意地悪な義姉B・・・・・・圭
厚生労働省職員・・・・・・つんく♂
厚生労働省職員・・・・・・みちよ
薄幸なボケ少女・・・・・・希美


「ののは、家事が得意なのれしゅ」
希美は掃除・洗濯・料理が得意だった。頭が悪く、とんでもないボケ娘だった
が、家事が得意であり、将来的には可愛い妻になるだろうと思われる。しかし
、ここでも多聞に漏れず、継母と義姉によるイジメがあった。なぜなら、これ
が無いと話にならないからである。
「希美、もう家事はええしな、今日から店に出てもらうで」
「しょういえば、何のお店なのれしゅかー?」
希美は無垢な表情で質問する。
「簡単に言えば、お風呂屋さんやな。」
「お風呂屋しゃんれしゅか、番台は・・・・・・恥ずかしいれしゅー」
希美は赤面しながら俯いた。思わず溜息をつく裕子。
「ふう、このガキには疲れてまうわ。誰かこのガキの世話したれやー」
裕子が呼ぶと、義姉の彩と圭がやって来た。彼女達もアルバイト代わりに時折
店に出ている。彩はオプションのSMプレイが大人気で、馴染客からは『女王
様』と呼ばれていた。反対に圭にはマニアックな客がついており、やはりオプ
ションの着ぐるみプレイが人気である。彼女の顧客は危ない感じの人が多く、
彼等は圭を『狛犬ちゃん』とか『ガメラちゃん』と呼んでいた。
271ランボー:02/02/26 21:21 ID:ycBxHmel
「さあ、個室で特訓するよ!」
彩と圭は希美を連れて個室へ行く。個室に入るとベッドがあり、その奥に浴室
がある。
「まずは、服の脱ぎ方からだ!脱いでみな」
彩に言われると、希美は服を脱ぎだした。その脱ぎ方は不器用で、子供そのも
のといった感じである。
「姉さん、ちょっと雑だけど、かえって新鮮でいいんじゃない?」
圭が言うと彩は頷いた。遊び慣れしている客にとっては、斬新であるかもしれ
ない。こういったアイデアがないと、生き残れない時代なのである。
「これでいいれしゅかー?お風呂お風呂ー!」
希美は嬉しそうに浴室に入って行った。彩と圭も裸になって浴室へ入る。
「いいかい?ここからが大切なんだ。まず、蛇口を捻って湯船にお湯を貯める。
シャワーを出して温度調節が出来たら、お客さんを呼ぶんだ。やってみな」
希美は言われた通りにして、客を呼ぶ。
「はーい、お客しゃーん、ろうじょ〜」
「まあ、いいだろう。それで、お客さんを椅子に座らせて・・・・・・圭、お客さんを
やれ」
彩に言われ、圭が椅子に腰掛ける。希美は中央が抉れた椅子に興味を持った。
「変わった椅子れしゅねー、ろうして金色なんれしゅかー?」
「いちいち突っ込むな!」
「きー!しゅいましぇん!」
彩に怒鳴られ、希美は頭を抱えて蹲った。
「まず、お客さんの肩からシャワーをかける。全身にお湯がかかったら、ボディ
シャンプーを泡立てて、肩から洗って行くんだ。やってみな!」
「は・・・・・・はい、こうれしゅかー?」
希美は力任せに圭を洗った。希美は小柄だが、腕力は凄まじい。
「ギャァァァァァー!痛いー!」
「バカ!力任せに擦る奴があるか!優しく擦るんだよ!」
「しゅ・・・・・・しゅいましぇん・・・・・・」
希美は赤くなった圭の皮膚を撫でる。
「それで・・・・・・圭、これを使いな」
彩は圭に張型を渡す。見上げた希美は首を傾げた。
「何れしゅかー?変わった飴れしゅねー」
「アハハ・・・・・・まあ、舐めるものだから、飴かもねー」
圭は狛犬顔を崩して笑った。そして希美に丁重に教え込む。
「こいつはきれいに洗うんだ。特にここの部分は念入りに洗うんだぞ」
圭はエラの部分を指摘する。
「洗うんれしゅか?」
「口に入れるものだからね」
「・・・・・・はい」
希美は言われた通りに洗う。不器用な手付きではあったが、希美は慣れてくれ
ば男を喜ばしそうな手をしていた。
272ランボー:02/02/26 21:22 ID:ycBxHmel
「そうしたら、このうがい薬を口に含んで舐める。やってみな」
「こ・・・・・・こうれしゅか?」
希美はうがい薬を含むと、張型を口に持って行く。
「引っ張るな。自分の顔を持って行くんだよ」
「こ・・・・・・こうれしゅか?」
希美は言われた通り、張型を咥えた。大きな張型は、希美の口がいっぱいにな
る。
「そうそう!この時大切なのは、絶対に歯をたてない事だ」
「ふがっ!ふがっ!・・・・・・美味しくないれしゅよ」
「舌で逸物を上顎に押し付けて、吸い込みながら上下させるんだ」
「ふぁい・・・・・・ふがっ!ふがっ!ふがっ!ああん・・・・・・お口が痛いれしゅー」
「おう!勉強してんじゃねーか!その調子だ」
圭は嬉しそうに言った。彩も満足そうに希美を見下ろす。しかし、この時点で
気付くべきだった。
「よし!次はマットだぞ。まず、このローションをお湯で薄めるんだ。やってみ
な」
「こうれしゅか?」
「そうそう、だいたい十倍くらいに薄めるんだ。ケチると滑らないし、景気よく
やると中々おちないぞ。そしてマットを出して、少しだけマットにかける。あ
まり派手にかけると、お客さんが滑ってしまうから、そこは気をつけろよ」
「はい!こうれしゅかー?」
希美は丁寧に薄めたローションを振り掛ける。
「よし、いい感じだ。そうしたら、お客さんを案内する。この時、お客さんの手
を持ってろよ。特に若いお客さんは、興奮して勢いがいいから、マットから飛
び出る事がある。後頭部を打って救急車を呼んだ事もあったんだ」
「へえ、危険なんれしゅねー」
希美は眉を寄せた。思いがけない危険が潜んでいるものだと、希美は自分に言
い聞かせる。
「それで、お客さんを案内したら、お客さんの身体に薄めたローションを振り掛
ける。やってみな」
希美は圭を案内し、ローションを振り掛ける。危険があるだけに、希美は真剣
だった。
「よし、いいだろう。ココからは模範演技だ」
彩はローションプレイをやってみせる。ヌルヌル滑る模範演技に、希美は嬉し
そうだ。
「面白いれしゅー」
希美は嬉しそうに見物する。かなり興味がそそられたようだ。
273ランボー:02/02/26 21:23 ID:ycBxHmel
「九十分の場合は、ここで最初の本番に入る。七十分の場合は、ベッドだけでい
いんだ」
彩が説明する。すると希美の表情が変わった。
「本番?本番れしゅねー?ののは本番に強いれしゅ!」
しかし、圭はある事に気付き、彩に訊いた。
「姉さん、希美は避妊ってどうすんのかな」
「あの子は大丈夫だよ。まだだから」
「そうか、それじゃ安心だね」
圭は安心したが、今度は彩が別の問題を指摘する。
「でも、ひょっとしてバージンかな」
「訊いてみようよ。希美、あんた女になったの?」
「何を言ってんれしゅかー、ののは女れしゅよ」
希美は胸を張って言った。
「そうか、それなら安心した」
彩は笑顔で頷いたが、ここでも訊き方が悪かった。
「じゃ、ベッドプレイ行くよ」
彩と圭はローションを洗い流し、ベッドに向かう。希美は圭の腰にバスタオル
を巻きつけた。
「ここで飲み物タイムだ。お客さんに好きな飲み物を訊くんだよ」
「はーい、お客しゃん、何のみましゅか?」
「何があるの?」
「ビールとコーラ、ウーロン茶、アイスコーヒーもありましゅよ」
「それじゃ、コーラ」
「はーい、ちょっと待っててね」
希美は外へ出て行こうとした。その手を圭が引き戻す。
「こらこら、素っ裸で行くんじゃない。バスローブがあるだろー」
希美がコーラを用意していると、見知らぬ男女がやって来た。
「ここで働いてるんか?」
「お手伝いれしゅ。今日はお手伝いの練習なんれしゅ」
「ふーん、客はとらされてるんか?」
男は疑うような眼で希美を見る。希美は怪訝そうに男を見上げた。
「お客しゃん?今はお姉ちゃん達といるんれしゅ」
「従業員じゃないんかな」
「だって、まだ子供やないですか」
女が言うと、男は首を振って質問を続ける。
「お金を貰ってるんか?」
「お継母しゃんから、お小遣いは貰ってましゅよ」
「なんぼや?」
「月に三千円れしゅ」
「やっぱり従業員じゃないみたいやな。でも、どうして営業時間中なのに、ここ
にいるんや?」
「お手伝いの練習れしゅ」
「・・・・・・違法性は無いってか」
二人は首を傾げながら帰って行った。すると個室のドアが開く。
「希美、何やってんのよー」
圭が顔を出した。我に戻って振り返る希美。
「しゅいましぇん」
希美はコーラを持って個室に戻る。
「もう時間がないから、体位の復習だけで終わりにしよう。これが必殺の裏ワザ
なんだけど、マットが終わった時に、あそこだけは洗わないようにするの。そ
うすると、二十分は乾かないから、入れる時に楽だよ。さあ、まずは騎上位か
らだね」
彩は不安顔の希美を張型の上に跨らせた。
274ランボー:02/02/26 21:23 ID:ycBxHmel
 その頃、監査に来た厚生労働省職員は、オーナーの裕子と話をしていた。警
視庁の風俗取締係との合同で手入れをしている。
「未成年はおらんな。けど・・・・・・さっき、小学生くらいの女の子がおったやろ」
「ああ、希美やね。あの子には雑用のお手伝いをさせてますわ。経営難やし、少
しでも人件費を減らさんと」
「接客やなければ問題ないやろ。ほんじゃ、お邪魔さん」
厚生労働省職員と警官が引き揚げようとした時、凄まじい悲鳴が轟いた。
「何や!」
「二階からや!急げ!」
全員が二階に急行すると、血に染まった張型を放り出して走り出す希美と出く
わした。
「ふえーん、痛いれしゅー」
「これは何じゃァァァァァァー!」
結局、裕子は児童福祉法違反・風俗営業法違反未遂容疑で検挙され、彩と圭も
児童福祉法違反・暴行致傷・青少年育成条例違反容疑で逮捕された。希美は施
設に保護されたが、ここで院長の狒々オヤジに性的虐待を受け、現在は精神病
院に入院中である。裕子が経営していたソープランドは人手に渡り、裕子・彩
・圭は実刑判決を受け、府中刑務所に服役した。
「おじいちゃんが作った・・・・・・ソープランド・・・・・・」
圭は独居房の中で小さく呟いた。 
(どこが真泥麗羅だよ〜)
275ランボー:02/02/26 21:25 ID:Y3crGssP
こんなネタになってしまい、陳謝!
どうやら俺は作家むきではないようだ。
276夢をあなたに:02/02/28 05:08 ID:SVuLwAwZ
どこかに新しい小説書くスペースないかなー
ここはいいのかなー

277名無しさん:02/02/28 17:37 ID:KsAoEF49
私から先に書かせて下さい。 
278名無しさん:02/02/28 17:58 ID:KsAoEF49
 ―――――〜愛のブロードバンド〜―――――

2002年4月。
モーニング娘。は飯田が脱退して12人となった。
そんなある日、安倍なつみの住んでいるマンションに吉澤ひとみが来た。
ひとみは早速なつみに話し掛けた。

「大変よ…」
「どうしたの?よっすぃー…そんなに慌てて」
「矢口さんが…いなくなっちゃったの!」
「えっ?今言った事嘘じゃないよね?」
「嘘じゃないよ…」
「どこか心当たりは探した?」
「うん…色々探したけどいなかったの…」
「わかった…心配しないで?あたしも一緒に探すから」
「うん、ありがとう…」

ひとみは言った。
279名無しさん:02/03/01 13:20 ID:hyrRC6mw
その頃、矢口真里は仕事で東京に来ていたカントリー娘。の3人と一緒にいた。
早速あさみは真里に話し掛けた。

「矢口さん。」
「なに?」
「みんなの所に戻らなくてもいいんですか?」
「大丈夫だよ、ここには石川もいるし」
「そうなんですか」

あさみは言った。
すると石川梨華が真里達の前にやってきた。

「矢口さん」
「どうした?」
「今大変なことになってる」
「何で?」
「矢口さんがいなくなったって・・・」
「またよっすぃーが早とちりしたんじゃないの?」
「そうなんですか?」
「カオリがいなくなったからってどこかに逃げるのはよくないのよ・・・」
「そりゃそうだけど・・・」
「いいわ、あたしがよっすぃーに話してみる」

真里はこう言うと立ち上がって、公衆電話へと向かった。
280名無しさん:02/03/01 13:39 ID:hyrRC6mw
「ちょっとよっすぃー?また何をしたの!?」

真里は叫び声で受話器に向かって言った。

「いや、矢口さんがいなくなったから・・・その・・・」
「早とちりしないでもらいたいね!」
「でも・・・」
「いい?あたしは夜中に石川に呼ばれて仕事に向かったのよ!」
「そうだったんですか?」
「そうよ・・・それをよっすぃーが早とちりしていなくなったとか言って騒ぐんだもん、絶対どうかしてる!」
「・・・すいませんでした」
「もういいから、あとはみんなに伝えておいてよ・・・」
「はい・・・」
「じゃあ、あたしは時間がないから切るよ」

真里はこう言うと受話器を置いた。
そして梨華の所に戻っていった。
すると、梨華は真里に話し掛けた。

「どうだった?」
「やっぱりよっすぃーの早とちりだったよ・・・」
「またですか・・・」
「でもどうしてこんな事になったのかな?」
「さぁ・・・」

梨華は言った。
このあと、真里はカントリー娘。に移籍されたのは言うまでもない。

 (完)
281名無しさん:02/03/01 13:43 ID:hyrRC6mw
このようなネタになってしまった事をお詫びします。
私はどうやら作家の才能は無い様です。
282女の子だよ!:02/03/01 22:14 ID:2hBg5Rwk
ともだちとスキーに行ってました!
帰ってきてみると、弟のメモがありました
「俺は旅に出る。もう筆は置いた。どうか探さないでくれ」
だって。
どうせ彼女のところにでも行ってるんだろうけど・・・・・・
283女の子だよ!:02/03/01 22:15 ID:2hBg5Rwk
『なっち探偵の事件簿』
の第二弾を書こうかと思ってます。
載せていいでしょうか?
284名無し募集中。。。 :02/03/01 23:10 ID:etQsQ6X7
どうぞ
285ななっしー:02/03/03 02:54 ID:rXcYGsg2
オナニーすれ
286ねぇ、名乗って:02/03/05 06:20 ID:qegNevD4
283を待ちつつ保全
287夢をあなたに:02/03/06 12:56 ID:KkVWFIlG
前に小説を書いていたスレが誤って沈んちゃったのでここに移転してもよろしい
でしょうか?後藤ものなんですが
288女の子だよ:02/03/06 13:14 ID:GNGmm8Wu
もうちょっと時間がかかりそうなんで、お先にどうぞ
289名無し募集中。。。 :02/03/06 13:17 ID:GXF8Oxfz
>>287
期待してます
290夢をあなたに:02/03/06 13:27 ID:KkVWFIlG
ありがとうございます
では前に書いたやつから
291夢をあなたに:02/03/06 13:28 ID:KkVWFIlG
後藤真希小説
「後藤真希体験」
292夢をあなたに:02/03/06 13:29 ID:KkVWFIlG
その日、僕、如月勇は某歌番組の生放送を終え、楽屋を出て帰ろうとしていた。
すると少し離れたところからモーニング娘。の後藤真希と吉澤ひとみが
声をかけてきた
「ねえ、ねえ勇くんでしょ?」と後藤真希が少し顔に笑みを浮かべて聞いてきた
「あ、はい、そうですけど、」僕はあまりのことに内心かなり驚いていた、
すると後藤真希が続けて
「かっこよかったねー、ダンス上手いんだね〜」といった
僕は少し照れて
「あ、はい、ありがとうございます」と返した
後藤は続けて
「勇くんは事務所の中でもダンス上手い方なんじゃない?」
「いや、そんなことないです。事務所の中には僕なんかより上手い人いっぱいいます」
「へえ、でも上手かったよね、よっすぃー?」
「うん、上手かった、でもすごいね、まだ入って半年ぐらいでしょ?
半年であんなに踊れるなんて」
「あ、はい、ありがとうございます」僕は相変わらずあがりっぱなしで
こう答えるのがやっとだった
「ねえ、ねえ、ところでさ勇くんはつきあっている人とかいるの?」
と後藤真希が唐突に聞いてきた。
「えっ!?いや、いませんけど、その、僕まだ15歳だし」僕は内心すごく驚
きながらもそう答えた
「えーー、でも15でも付き合っている子はいっぱいいるでしょ?」
「あ、はい、でもいっぱいってことはないと思いますけど・・」
「へえ、そうなんだー」
そういうと吉澤ひとみが後藤真希の腕を肘でつついて何か合図した
「あ、そうだ、ねえ、よかったら勇くんの携帯番号教えてくれない?」
「え?僕のですか?」
「だめ?」
「いやいいですけど・・・」
「よかった」
そう言うと僕は携帯番号を後藤真希に教えた
すると2人は用を終えたというように少しさぐるような表情を消し、明るく
「またねーーー」と言って去っっていった
僕は終始うつむき加減でまともに彼女達の顔を見ることはできなかったが
どこかからかう表情をしていたんだろうなといことぐらいは容易に察しがついた
その後僕の心には疑問という二文字が残った
293夢をあなたに:02/03/06 13:30 ID:KkVWFIlG
その日は休日で僕は家にいた
仕事もなく昼頃までぐーたら過ごしていると
突然携帯が鳴った
「(ん?知らない番号だ)」
僕は恐る恐る電話に出てみた
「もしもしー」女の子の声だ
「あ、はい、あの、どちら様ですか?」
「あー、ひどい、忘れてるー」そう女の子は笑いながら言った
「あっ!後藤さんですか?」
「うん、そうだよー」
「あ、どうも、こんにちは」僕は少し改まってしまった
「あはは、そんなに堅くならなくていいよー」彼女には受けたみたいだ
「ところでさー、今ヒマ」
「あ、えっと・・・、はい、ヒマですけど」
「そっか、よかった、じゃあ今から出てこられる?」
「え?」
「だから今から池袋駅まで来れる?」
「あ、はい、行こうと思えば」僕はあんまり状況を把握できてない
「うん、じゃあ、2時ね。池袋の東口だよ。遅刻しないでよ」
そう彼女はなぜか笑い混じりで言った
「あ、はい、わかりました」
そういって電話は切れた

僕はあまりに急な出来事だったので状況が上手く掴めていない
「(えっと、池袋駅に2時に後藤さんに来いと言われた
それだけだ。ん?後藤さんにプライベートで池袋駅に来いといわれた?
これってデート?)」
「・・・・・・・・・・」
「ええーーーーーーーーーーーーーー!!!」
僕は自室で驚いて大声を上げてしまった
(デート?僕が?あの今をトキメクスーパーアイドルと僕が?)
僕はその事実に少し震えがきた
「(一体どうして?どうして僕なんかが?)」
そういう考えが頭の中を駆け巡った。

しかしここでまた重大なことに気づく
「ところで今何時だろう?・・・・ん?1時50分?
たしか約束は2時で今1時50分ってことは・・・・あと10分?」
僕は頭の中で大体池袋までどれだけかかるかシミューレートしていた
「最低でも30分はかかる、うわーどうしようー」
294夢をあなたに:02/03/06 13:31 ID:KkVWFIlG

そんなこんなで僕は目的の場所へ15分後れでついた
しかしまわりを見渡しても後藤さんらしき人は見当たらない
というかこんな休日の人のいっぱいいる中で一人の人間を
見つけようという方が無謀だ
僕は仕方なく後藤さんの携帯に電話をすることにした

「あ、もしもし後藤さんですか?あの駅には着いたんですけど
・・・あ、はいわかりました、そっちへすぐ行きます」
僕は電話で後藤さんに指示されたようにキップ販売所の近くに行った

するとあきらかに後藤さんらしき人が立っている
頭は芸能人おきまりのように深く帽子をかぶっている
夏だからだろう、上は白いチビTシャツで彼女の大きな胸がいっそう強調されている
下は短いジーパンのスカートで、そこからすらりと伸びる長く健康そうな足は
芸能人ではなくとも世の男性の注目を引くだろう
またそれが今はやりのミュールというやつで更に強調されている
・・・まあ、サンダルみたいなモノだ

そう彼女の姿にうっとりしていると彼女が僕を見つけたみたいで
「おーーい、勇くーーん」と割と大きな声で言った
僕はその声で周りに気づかれないだろうかと内心不安に思いながらも
彼女に駆け寄った
「すいません、遅れてしまって」僕は少し頭を下げて言った
「ひどいよね、遅れないでって言ったのに」彼女は少し怒っているようだ
「あ、でも、その・・・」僕は言葉に詰まった
「結構ひどいよねー、勇くんて」彼女はそう言いながらプイっと横を向いてしまった
「あ、その、スイマセン」僕は頭を下げた
理由がどうであれ女の子を待たせたことに対して僕なり罪悪感を感じていた
それに彼女が結構本気で怒っていると思ったからだ
彼女はそんな僕の顔を覗き込んで
「悪いと思ってる?」と聞いてきた
僕は覗きこまれたのであまり大きな声はだせなかったが
彼女の目を見て
「思ってます」といった
そうすると彼女は体勢を立て直しニッコリ笑って
「じゃあ、今日は私にとことん付き合ってくれるよね?」
「あ、はい」僕はそう言うしかなかった

今思えば僕はまんまと彼女の策略にはまっていたのである
295夢をあなたに:02/03/06 13:33 ID:KkVWFIlG
つづく
296名無し募集中。。。:02/03/06 13:56 ID:GXF8Oxfz
痴女系よしごま(・∀・)イイ!!
297 :02/03/08 12:21 ID:56+fq+M7
保全
298名無し:02/03/09 17:39 ID:e+e+rOE2
hozem
299名無し募集中。。。:02/03/10 01:15 ID:LDrJwc3u
期待ホゼン
300名無しさん:02/03/10 11:45 ID:dTWKWSKP
期待保全&300get
301女の子だよ!:02/03/10 13:44 ID:O2+/URf5
そろそろ載せていいですか?
今回は弟(ランボーの弟)にも手伝ってもらっちゃいました!
302ねぇ、名乗って:02/03/11 11:23 ID:c33cnWeF
>>301
載せてみよう
303女の子だよ!:02/03/11 13:11 ID:skM+3m1w
なっち探偵の事件簿2 〜妹〜

ファイル 1 プロローグ

 レディスコーポレーション探偵部の仕事は、若い女性の依頼が圧倒的に多か
った。要するに、ストーカー被害に遭った女性が、何とかしてくれというパタ
ーンである。
「依頼番号020123―2、決着」
矢口は会社のコンピューターにあるファイルをCD―RWに記録した。そして
そのディスクを取り出すと、ケースに入れて保管庫にしまう。そこへ安倍が帰
って来た。
「寒くなってきたよー」
「あ、なっちさん、お帰りー」
矢口は安倍のためにコーヒーを用意する。バレンタインデーが終わり、いよい
よ春の気配が訪れようとしていたが、まだ夕方になると冷え込んで来た。
「さっき、裕ちゃんから連絡があって、もう少しかかるってさ」
部長の中澤は、部下の二人に「裕ちゃん」と呼ばせていた。気心が知れた三人だ
し、何よりもチームワークを大切にしていたからである。主に中澤と安倍が外
に出て、矢口は会社に残って補助していた。安倍は調査専門だったが、中澤は
ストーカーと直接接し、場合によっては格闘にもなる危険な仕事を担当してい
る。今日も安倍がつきとめたストーカーと会い、説得をしていた。
「遅くなるの?それなら、二人で先に出前をとっちゃおうよ」
「そうだねー」
探偵の仕事は時間が不規則なので、食べられる時に食べておく必要があった。
一応の出勤時間は午前十時だったが、この時間に出勤するのは矢口だけであり
、中澤と安倍は外を忙しく飛び回っている。安倍は今朝七時過ぎに軽い朝食を
摂ったきりであり、激しい空腹感を感じていた。
 矢口も安倍や飯田と同じアパートに引っ越してからは、朝はコーヒーだけで
あり、正午に朝食を摂る。昼食は午後五時過ぎに出前をとるのが日課で、夕食
は帰宅する午後十時過ぎだった。
「ずいぶん陽が長くなったね」
安倍は窓のブラインドの隙間から、大都会の雑踏を眺めていた。故郷の室蘭と
は違い、東京の夕方には無機質な匂いがある。寂しがり屋の安倍は、この匂い
が嫌いだった。しかし、これが都会なのだと割り切り、自身で受け入れていた
のである。
「はい、コーヒー」
矢口がコーヒーを差し出すと、安倍は外の風景から眼を離し、笑顔になって受
け取る。
「ありがとう」
安倍は矢口からコーヒーを受け取ると、自分のデスクに着き、報告書の作成を
始めた。矢口は近くの出前ソバ屋のメニューを持って来る。
「なっちさん、今日は何にする?」
「うーんと・・・・・・親子丼定食!」
「また?よく飽きないねー」
親子丼定食は、少し小さめの親子丼に、たぬきソバがついて八百円だった。ど
ういうわけか、安倍は出前には必ずこの親子丼定食を注文している。
「あたしは何にしようかなー」

 それから二時間が経過し、安倍と矢口はお喋りに夢中になっていた。そこへ
電話がかかって来る。矢口はいつもの調子で電話に出た。
「レディスコーポレーション探偵部でございます」
電話してきたのは中澤だった。一人のストーカーとの話が終わったので、これ
から戻るという。すでに午後九時を過ぎていたが、安倍と矢口は中澤の帰りを
待っていた。
304女の子だよ!:02/03/11 13:12 ID:skM+3m1w
ファイル 2 中澤刺される

「おう、あんちゃん、たこ焼きくれや」
中澤は会社近くの屋台に寄った。レディスコーポレーションは、この路地の三
本先にある。
「毎度!」
たこ焼き売りは中澤から五百円を受け取ると、焼きあがったばかりのやつをビ
ニール袋に入れた。この時間になると人通りも少なくなり、朝夕の雑踏が嘘の
ようである。
「今日は冷えるな」
中澤はコートの襟を立て、買ったばかりのたこ焼きを持って歩き出した。
 最初の路地を曲がって暫く歩いた時、中澤は背後から小走りにやって来る足
音に気付く。道のほぼ中央を歩いていた中澤は少し右側に寄った。その時、黒
尽くめの何者かが、背後から中澤に体当たりする。
「うっ!」
中澤は脇腹から体内に侵入して来る金属を感じた。直感的に刺された事を悟っ
た中澤は、ナイフを握っている奴を突き飛ばす。噴水のように血が噴出した。
「誰や!」
中澤はそいつを睨むが、脇腹の痛みに眼を閉じたと同時に、闇に消えて行って
しまった。
「あかん・・・・・・救急車」
中澤は右手で傷口を押さえ、左手でケイタイから電話をかける。
「救急車を頼む・・・・・・場所は渋谷区青山三丁目、東芝第三ビルの真裏や・・・・・・誰
かに刺された・・・・・・急いでくれへんか?」
中澤は傷口を押えていたが、指の間から血が流れ出ており、アスファルトに血
溜まりを作って行く。
「あかん・・・・・・力が抜けて来た」
中澤はアスファルトに座り込んでしまう。電話の向こうからは、消防隊員が励
ます声が聞こえていたが、中澤は急速に意識が遠くなって行った。
「安倍、矢口・・・・・・たこ焼きやで」
中澤は座っているのも辛くなり、ついにアスファルトに倒れこんでしまう。氷
のように冷たいアスファルトが頬に当たり、思わず震え出す中澤。
「おい、どうした!」
近くを通りかかった中年の男が駆け寄って来る。中澤は薄れ行く意識の中で、
夥しい出血に驚いた男が、血糊で滑って転んだ様子を見ていた。
(刺されるとホンマに痛いな)
中澤の意識は十分の一くらいにまで低下している。ようやく赤い回転灯が見え
始めると、とうとう中澤の意識が無くなってしまった。
305女の子だよ!:02/03/11 13:20 ID:+7OhOrNk
ファイル 3 希美

 希美は何度も振り返った。そこに誰もいないとは判っていても、思わず振り
返ってしまう。それほど希美は恐れていた。見つかれば、またあのアウシュビ
ッツのような施設に連れ戻されてしまう。そればかりか、『ペナルティ』とい
う虐待が待っているのは確実だ。
 希美は昨年の秋に脱走した里田の悲惨な状況を目撃している。連れ戻された
里田は、園長をはじめ三人の職員に輪姦され、完全に壊れてしまった。今では
何を話し掛けても、ただ虚空を見つめているだけである。
「一人かい?」
希美に声をかけたのは、茶髪の若い男だった。希美は反射的に身を竦める。
「中学生かな?腹減ってないか?マックでも行こうよ」
道玄坂の雑踏の中で、希美には男の声だけが妙に耳についた。男は施設の人間
ではない。希美は安堵感から溜息を漏らした。
「泊まるところはあるの?家出して来たんだろう?」
男はしつこく希美に付き纏う。
「構わないでくらさい」
希美は男を避けるように東急ハンズの方へ歩き出した。すると、向こうから警
官が歩いて来る。希美は狼狽し、泣きそうな顔で車道を横断しようとした。
「危ないよ!」
希美はさっきの男に引き戻された。
「安心しろ。職質されたら妹だって言ってやるから」
男はそう言うと、希美の持っていた大きなスポーツバッグを持った。そして希
美を連れ、近くのハンバーガーショップに入る。
 男はコーヒーとハンバーガーを二個づつ買い、空いている席に座った。希美
も仕方なく、男と向き合って座る。
「俺、タツヤ。君は?」
「希美れす」
希美は十歳頃から『アウシュビッツ』で育ったので、ナンパされた経験が無い
。まして男といえば暴力的な職員しか知らず、タツヤの対等な話し方に困惑し
ていた。
「希美ちゃんか、それで今晩はどうするつもりだったの?」
タツヤは気さくに話し掛ける。希美が一人でいたら、先ほどの警官に捕まって
しまったに違いない。そこを助けてくれたタツヤは、それほど悪い人間には見
えなかった。
「何も考えてませんれした」
「そう、でもこの寒さだからね。朝まで外にいたら、身体を壊してしまうよ。俺
にアテがある。一緒に来いよ」
306女の子だよ!:02/03/11 13:21 ID:zYx5/fcH
タツヤは言葉巧みに希美を誘った。そういった免疫が皆無である希美は、ハン
バーガーを食べ終えると、タツヤに連れられてホテル街にやって来る。煌びや
かなイルミネーションに眼を輝かせる希美は、全くの世間知らずだった。こう
いったホテルの中で何が行われるのかなどは考えも及ばない。やがてタツヤは
『空室』のサインが出ているホテルに入って行こうとした。
「こんな凄いところに?お金が無いのれす」
「いいからいいから」
タツヤは希美の手を引いてホテルに入って行った。
「ちょっとー」
その時、背後から若い女の声がした。二人が振り返ると、そこには長身の女が
腕を組んで立っている。
「何だよ」
タツヤが女に言うと、彼女は指を振りながら希美を引き離した。希美は不思議
そうに女を見上げる。希美はどういった状況であるのか、全く理解出来ないで
いた。
「この子は中学生でしょう?あんたがしようとしてる事は、犯罪なんだよ」
女が言うとタツヤは本性を剥き出しにする。
「ふざけんじゃねえよ!」
タツヤは女の服の肩を掴む。希美はタツヤが怒っているのが怖かった。思わず
女の後ろに隠れる。
「離してよ。あんた、淫行未遂の現行犯だからね。ちなみにあたし、渋谷署の飯
田でーす」
「舐めやがって!ここまで来て邪魔すんじゃねえ」
タツヤは飯田に殴りかかった。しかし、飯田はタツヤのパンチを平気で受け止
めてしまう。飯田は困ったように首を傾げ、タツヤの腹を蹴り上げた。
「あがっ!」
息が詰まって七転八倒するタツヤ。飯田は希美の頭を撫でる。
「怖くないからね。ちょっと待っててくれる?」
飯田はタツヤを立たせると、状況を説明した。タツヤは何も理解していないと
思ったからである。
「淫行未遂に青少年育成条例違反、それと公務執行妨害もついちゃったよ。大人
しくしてれば許してあげたけど、あんたにはお説教しなきゃ駄目みたいね。本
当は圭織、暴力が嫌いなんだよ」
そう言うと飯田はタツヤのこめかみに踵をいれた。
「ひでぶっ!」
タツヤは白目を剥いて昏倒した。すると飯田は軽々とタツヤを担ぎ上げ、口を
開いたまま仰天している希美に微笑みかける。
「近くの交番でお話しようね」
飯田が希美を促すと、何を思ったのか逃げ出して行く。これには飯田も黙って
後を追う。七十キロ近いタツヤを担ぎ上げるパワーは凄まじいが、その状態で
走り回る飯田には絶句してしまう。
「捕まえたー。あたしからは逃げられないよ」
飯田は希美の着ていたフードを掴んだ。
「きー!離してくらさい」
希美は蹲る。飯田はタツヤと彼の持っていたスポーツバッグを軽々と担ぎ、希
美の手を引いて派出所に向かった。
307女の子だよ!:02/03/11 13:22 ID:zYx5/fcH
ファイル 4 中澤危篤!

 中澤が搬送されたのは、都立広尾病院だった。ここには救急救命センターが
あり、生死の境を彷徨う重症患者の最後の砦である。中澤の状態は深刻だった
。全身の四十パーセントもの血が失われ、出血性ショックが始まっていたから
だ。
「すいません、中澤裕子の身内なんですが、安倍と申します」
知らせを受けて病院に駆けつけた安倍と矢口は、救急救命センターの受付で名
乗った。すると奥へ通され、談話室で待たされる。間も無く医師がやって来て
状況を説明した。
「かなり危険な状態です。最善の努力はしますが、最悪の場合もあり得るので、
覚悟しておいて下さい」
安倍は気が遠くなりかける。しかし、中澤になついている矢口の事を思うと、
自分が取り乱すわけにはいかない。
「裕ちゃん・・・・・・」
矢口はとうとう泣き出してしまった。安倍は矢口を抱き締めながら、医師の話
を聞く。
「脇腹を刺されてまして、急所は外れているんですが、出血が多いんです。状況
からして、身体の中の四十パーセントの血が失われているでしょう。男性なら
間違いなく死んでいます。中澤さんは女性なので死には至っていませんが、シ
ョック症状ですので危険な状態なんです」
「た・・・・・・助かるんだべか?」
安倍は気丈を演じて訊いた。医師はカルテの内容を再確認しながら、総合的な
判断をする。
「五分五分でしょうね。後は中澤さんの体力と気力です。今、緊急手術をしてい
ますんで、詳しい事はそれからでないと。それから、手術に時間がかかる場合
は、良い傾向ですので心配しないで下さい。駄目な場合は意外と早く終わって
しまいますから」
医師は状況を説明すると、立ち上がって二人を見る。安倍は頭を下げた。
「宜しくお願いします」
すると医師は腕を組みながら深刻な顔で時計を見上げた。すでに十時を過ぎて
いる。
「御家族に連絡した方がいいでしょう」
それを聞いて矢口は取り乱した。
「嫌ァァァァァァァー!先生!裕ちゃんを助けて!お願い!裕ちゃんを!」
安倍は慌てて矢口を押さえつける。
「矢口・・・・・・落ち着くべさ!」
「嫌だ・・・・・・嫌だよう・・・・・・裕ちゃーん!」
矢口は突っ伏して号泣する。安倍は矢口の気持ちを思うと涙が出てきた。中澤
は矢口を可愛がり、矢口も中澤を実姉のように慕っている。そんな矢口にとっ
て、中澤の危篤は残酷すぎた。
「先生、何か出来る事はないべか?」
安倍は医師を見上げて訊いた。すると医師は少し考えてから、優しい顔で安倍
に言う。
「そうですね、祈りましょう」
安倍は号泣する矢口を抱き締めながら、大きく頷いた。
308女の子だよ!:02/03/11 13:23 ID:zYx5/fcH
ファイル 5 圭織と希美

 希美とタツヤは渋谷駅前交番に連れて行かれ、奥の部屋で飯田に取り調べを
受けた。まずはタツヤである。
「あんたさー、ロリコンなのー?あの子がいくつか知らないけどさー、もし十三
歳未満だったら、相手が承諾しても強姦になっちゃうよ。強姦の罪は重いの。
最高、懲役十五年だよー。そんな事で人生を棒に振っちゃっていいのー?それ
と、公務執行妨害は判るよね?あたしが警官だって言ったのに、殴りかかって
来たでしょう?まあこれは、あたしも反撃したからいいけどさー、東京都には
昨年から青少年育成条例が施行されてんだー、これにもひっかかっちゃうね。
それと、未成年者略取、つまり誘拐の容疑も加わっちゃうかな?今のところは
未遂だけど、逮捕して送検すれば、間違いなく実刑になっちゃうよ。そうなる
と、検察側は懲役八年くらいは求刑するんじゃない?判決は五年くらいかなー」
飯田の無責任な話に、タツヤは項垂れて泣き出した。飯田は溜息をつきながら
タツヤを見つめる。
「泣かないでよ。圭織が虐めてるみたいじゃん。こういう時には開き直るか、笑
って誤魔化すのが一般的なんだよ。あんたは若いんだからさー、笑って誤魔化
そうよ。ほら、泣かないで笑ってよ。ねえ、笑って」
飯田の一方的な話では、タツヤが笑えるはずもなく、俯くばかりだった。
「しょうがないなー、それじゃ、名前と住所を教えてくれる?あ、ちなみにこれ
、逆ナンパじゃないからね。そういえばさー、この間、原宿の喫茶店でナンパ
されちゃったの。ちょっとイケ面だったから嬉しかったんだけど、席を立った
ら、圭織よりずっと小さいんだもん。ガクッて来ちゃった。ねえ、聞いてる?」
飯田はタツヤを見る。結局、タツヤは飯田の話に二時間もつき合わされ、憔悴
しきった顔で帰って行った。
「遅くなってごめんねー」
飯田は希美のところへやって来たが、すでに彼女は熟睡していた。
「・・・・・・寝ちゃった。起こすのは可哀想だし、圭織は明日非番だし・・・・・・今日は
ここに泊まっちゃおう」
309女の子だよ!:02/03/11 13:25 ID:pjSk+xvI
飯田は交番の警官に宿泊を申し出た。しかし、そんな事が許可されるわけがな
い。
「それじゃどうすんのよー、この寒さに女の子二人を放り出すの?」
飯田は三人の警官を睨む。飯田の強さを知る三人は、びびりながら相談を始め
た。結局、希美の体調が悪いという事にし、回復するまで休憩するという事に
なる。飯田は事実上の宿泊を勝ち取った。
 飯田は交番の二階にある和室に布団を敷く。そして希美を抱き上げて二階に
上がり、上着を脱がせて布団に寝かせた。
「可愛い」
飯田は嬉しそうに微笑んだ。
 飯田は故郷の札幌に妹を残して上京して来た。妹を可愛がっていた飯田は、
希美を自分の妹とダブらせているのだろうか。暫く希美の無垢な寝顔を見てい
た飯田は、午前一時になったので自分も布団に潜り込んだ。

「ああ・・・・・・ああ・・・・・・はっ!」
悪夢を観ていた希美は思わず起き上がった。恐ろしい夢だった。『アウシュビ
ッツ』に連れ戻され、職員達に輪姦される夢だったのである。夢だったと判る
と、希美は声を上げて泣き出した。
「どうしたの?怖い夢でも観たのかな?」
飯田が横の布団の中で訊いた。希美は驚いてあたりを見回す。見覚えの無い部
屋なので、希美は怯え出した。
「ここはどこれすか?」
「ああ、そうか。寝ちゃったから知らないんだね。ここは交番の二階だよ」
飯田が説明すると希美は震え出す。夜が明ければ身元が判って『アウシュビッ
ツ』に連絡されてしまうと思ったのである。
「辻希美ちゃんっていうんだね。悪いとは思ったけど、バッグの中を見せて貰っ
たわ。・・・・・・逃げて来たんだね。童夢園から」
飯田が言うと希美は薄暗い灯りの中、泣きながら哀願した。
「施設には連絡しないれくらさい。連れ戻されたら、物凄い事をされるのれす」
希美はアウシュビッツのような童夢園に戻るくらいなら自殺する気でいた。そ
の覚悟が出来ている顔で飯田を見つめる。
「警察で噂になってんのよ。童夢園の虐待」
「それじゃあ・・・・・・」
希美は嬉しそうに飯田を見る。飯田は優しく微笑んで起き上がった。そして希
美を抱き締める。
「何があったのか、詳しく聞かせてくれる?今日はもういいから、ゆっくり寝よ
うね。助けてあげる。約束するよ」
飯田は辻の頭を優しく撫でた。辻は何度も頷き、飯田に抱きつく。
「あの・・・・・・一緒の布団に寝ていいれすか?」
希美は飯田に抱き付いたまま言った。ちょっぴり太めだが、希美は美少女であ
る。飯田は希美を強く抱き締めて布団に潜り込んだ。
「もう大丈夫だからね。安心して寝よう」
希美は飯田の胸に抱かれて、心が癒えて来る。暫くすると、再び眠りに落ちて
行った。
310女の子だよ!:02/03/11 13:26 ID:pjSk+xvI
ファイル 6 ICU

 中澤は翌日の午前八時過ぎに意識を回復した。ICU(集中治療室)の中で、
中澤はナースコールをする。すぐに看護婦が駆けつけた。
「中澤さん?判りますよね。もう大丈夫ですよ」
看護婦は中澤の手を握った。中澤はコンタクトレンズを外されてしまい、看護
婦の顔が識別出来ない。
「すまんけど・・・・・・安倍と矢口を呼んでくれへんか?」
中澤が頼むと、看護婦はあたりを探し始める。中澤は意味が判らず、看護婦の
動きを追っていた。
「ああ、いたいた。この子?」
看護婦は白衣とマスクをし、ベッドの下で寝ていた少女を持ち上げた。
「矢口・・・・・・」
「この子はね、どうしても中澤さんの近くにいたかったらしくて、大暴れしたの
よ。本当はいけないんだけど、こっちの部屋には患者さんがいなかったから、
先生が特別に許可したの」
「・・・・・・裕ちゃん・・・・・・」
矢口は朝方までは寝ないで中澤の手を握っていたが、二時間ほど前、睡魔に負
けて眠り込んでしまったのだ。
「この甘ったれが・・・・・・」
中澤は涙目となる。中澤がかまうと逃げ出す矢口だったが、ちゃんと気持ちは
伝わっていたのだ。
「先生を呼びますね。輸血の副作用が出なかったら、午後にでも一般病棟に移れ
ますよ」
看護婦は矢口を椅子に座らせて、ナースステーションに戻った。
「うーん・・・・・・裕ちゃん」
矢口は寝言を言っている。中澤は思わず矢口の頭を撫でた。すると、矢口は突然眼を醒ます。いつもの中澤の手の感触を感じたせいだろう。
「ゆ・・・・・・裕ちゃん?」
矢口は中澤を見つめる。中澤は何度も頷き、矢口の手を握った。
「良かった・・・・・・裕ちゃーん!」
矢口は中澤に抱き付いた。思わず腹筋に力が入り、激痛に顔を顰める中澤。
「ごめん、大丈夫だった?」
矢口は泣きながら中澤を心配する。大好きな中澤が復活したのだ。矢口の喜び
様は普通ではない。笑顔を通り越し、号泣してしまったのである。
「すまんな矢口、心配かけて」
「もう・・・・・・死んじゃうと思ったじゃん・・・・・・バカ」
矢口は中澤に抱きついて離れない。矢口が離れたのは、少しして医師がやって
来た時だった。
「熱もないし、輸血の副作用もないみたいですね。幸運でしたよ。太い血管がや
られて大出血したんですが、不思議と内臓は無傷です。午後からエコーを撮り
ましょう。大丈夫なようでしたら、夕飯から食べられますよ」
医師の説明に頷く中澤だったが、一番嬉しかったのは矢口だった。
「裕ちゃん、電話して来るね。なっちさん、心配してるだろうから」
矢口は元気にICUを飛び出して行った。
311名無し募集中。。。:02/03/11 13:30 ID:sBXaEERN
この小説(・∀・)イイ!! がんばれ!
312女の子だよ!:02/03/11 22:26 ID:eaQCbZK9
ファイル 7 飯田の愛情

 飯田は心地よい感触で眼が醒めた。何かと思って眼を開けると、希美が飯田
の胸を触っている。しかも、ブラウスを捲り上げ、直接触っているではないか
。飯田の胸を触っている希美は、まだ夢の中のようだ。
 飯田に嫌悪感は無かった。それは希美の行為に、性的な感覚を感じられなか
ったからである。その触り方は、むしろ母親の乳を弄る子供の手付きであり、
飯田には容認出来る範囲であった。飯田が顔を覗き込むと、希美は自分の親指
をしゃぶっている。
(可愛い!)
飯田は希美が可愛くて仕方なくなった。そこで試しに自分でブラウスを捲り、
胸を希美の頬にくっつけてみる。すると希美は指しゃぶりをやめ、無意識に飯
田の乳首を探した。そして乳首をみつけると、希美は嬉しそうにしゃぶり始め
る。
(ちょっと痛いけど、どうしてだろう?何か優しい気持ちになる)
希美は母乳が出ないので、本能的に飯田の胸を押す。母乳が出るわけもない飯
田は、仔猫のような希美の行動に笑ってしまう。
「おかあさん・・・・・・」
希美は涙を溢しながら眼を開けた。希美が顔を上げると、そこにいたのは母親
ではなく、髪の長い女である。
「ヒャァァァァァァァァァー!」
仰天して眼を剥く希美。飯田は笑顔で希美を抱き締めた。
「ごめんなさい・・・・・・寝ぼけて圭織さんの胸を・・・・・・」
希美は恥ずかしくて真っ赤になってしまう。飯田にとっては、そういった希美
の反応が可愛くて仕方ない。
「いいの。希美ちゃんは可愛いからね」
「何か、凄く恥ずかしいれす」
希美は飯田に抱きつく。そんなスキンシップをとると、希美は心が癒えて行く
のを感じた。
「もう八時だね。さてと、帰る支度をしなきゃ」
飯田は希美の頭を撫でると、布団から出て身支度を始めた。希美は茫然として
飯田を見上げる。
「さあ、希美ちゃんも支度しよう」
飯田が声をかけると、希美は眼に涙を溜めて行く。飯田はしゃがみ込んで希美
の頭を撫でた。
「どうしたの?」
「ののは、行くところが無いのれす」
『アウシュビッツ』を飛び出した希美には、もはや帰る場所が無かった。また
繁華街を徘徊し、拾ってくれる人を探さなくてはならない。相手が男なら、代
償として肉体を要求するだろう。それでも生きて行くには、仕方がないのだ。
「何を言ってんのよ。あたしは一人暮らしだからさー、気にすることは無いの。
さあ、一緒に帰ろう」
「本当れすか?」
希美は飯田を見た。その瞳には恐ろしいくらいの無垢で素直な力がある。世俗
に塗れた者にとっては、心の中を覗かれるような恐怖感があるに違いない。
「圭織はお巡りさんだよ。嘘はつかないってば」
飯田がそう言うと、希美は満面の笑みを浮かべて頷いた。その笑みを得るため
に、飯田は頑張って行けるような気がする。
313女の子だよ!:02/03/11 22:27 ID:eaQCbZK9
 放ってはおけない。そこから始まった飯田の希美に対する感情は、すでに愛
情へと変化をしているといっても過言ではなかった。飯田は布団を片付けると
、希美と手をつないで自分のアパートへ向う。
「さあ、遠慮しないで上がって。狭いけど家具が少ないから、希美ちゃんが増え
ても大丈夫でしょう?」
飯田の部屋には本当に家具が少ない。希美は生まれて初めて他人の部屋に入っ
た。見るもの触るもの全てが新鮮である。
「この赤く点滅してるのは何れすか?」
「ああ、留守電ね?昨日はケイタイを持って出なかったから、誰かが入れたんじ
ゃないかな」
飯田がメッセージを再生する。
「新しいメッセージは五件です。メッセージを再生します」
「圭織?なっちだよ。裕ちゃんが・・・・・・裕ちゃんが刺されたべさァァァァァァァー!また電話するね」
「圭織、彩だけど。もう!どこ行ってんのよ!バカ!」
「圭織か?お父さんだけどな、たまには帰って来い。それじゃあな」
「なっちだべさ。裕ちゃん危篤だよ。どこに行ってるの?・・・・・・圭織」
「彩だけど、これ聞いたら電話して!絶対だよ!」
「以上でメッセージの再生は終わりました」
飯田は真っ青になりながら、慌てて彩に電話した。飯田の受話器を持つ手が震
える。希美は泣きそうな顔の飯田を心配して抱き付いた。
「彩さん!圭織!ごめんなさい。昨夜は駅前交番に泊まっちゃったの」
<裕ちゃん、刺されて危篤だよ。あんた今日は非番だったよね。都立広尾病院、
行ってくれないかな>
「分かった、何かあったら連絡するからね!」
飯田は電話を切ると希美に言った。
「大切なお友達が大怪我して死にそうなの。圭織は病院に行かなくちゃいけない
の。どうする?お留守番してる?それとも、一緒に来る?」
「一緒に行きたいのれす」
「よし!行こう!」
飯田はケイタイを握り締めると、希美の手を引いて再び外に出て行った。
314女の子だよ!:02/03/11 22:27 ID:eaQCbZK9
ファイル 8 夏と石黒

 中澤が襲われたのを知り、怒り狂ったのが渋谷署刑事課の石黒と、警視庁捜
査一課管理官の夏だった。夏は渋谷署を訪れ、石黒を会議室に呼び出す。
「石黒、担当してるヤマはあるの?」
夏は渋谷署の会議室の窓から、眼の前の国道を流れるクルマを見ながら訊いた
。片側二車線もある広い道路である。歩道には多くの人間が行き交っていた。
中澤を襲った犯人が、どこかでこのように、素知らぬふりをして歩いていると
思うと、夏は許せない気持ちでいっぱいになる。
「ありません」
「なら、一緒にホシを探そう」
夏は振り向きざま言った。その声は確信に満ち、同時に提案でもあり、命令で
もあるように感じられる。
「勿論です」
石黒は怒りに燃えた眼をしている。夏はこういった眼の持主が好きだった。夏
が中澤や稲葉を可愛がったのも、こういった眼の持主だったからである。
「誰を参加させられる?」
夏は事件が事件だけに、信頼出来る部下が欲しかった。
「飯田と保田なら大丈夫でしょう」
飯田は今更説明する事もないが、ここで保田について触れておこう。
 保田は防犯課の警官だったが、刑事を希望しており、中澤と仲良くなってい
た。思いつきよりも熟考して動く性格で、そのためか同僚の評判も良い。どう
してこんな優秀な警官が防犯課にいるのかと、中澤や石黒は不思議に思ったく
らいだった。
「石黒、今回は動きながら指揮するよ」
夏は珍しく自分から捜査を行うという。警部であり管理官の夏は、初動捜査以
外には本部で鎮座するのが常であった。しかし、今回は可愛がっていた中澤が
被害者である。居ても立ってもいられないのだろう。その気持ちが痛いほど判
る石黒は、夏に全面協力を約束した。
「絶対に捕まえましょうね」
石黒が力強く言うと、夏は笑顔で頷いた。その時、石黒のケイタイが鳴る。
「もしもし。なっち?裕ちゃんの具合は・・・・・・ええっ!意識が戻った?・・・・・・は
ー、良かった。うん、じゃあね」
石黒が電話を切ると、夏は涙を溜めて喜んだ。強引で厳しい夏だったが、こう
いった部分があるので、石黒や飯田も言う事をきくのである。
「警部」
「うん、まずは事情聴取。一緒に行こう!」
「はい!」
二人は部屋を飛び出して行った。
315女の子だよ!:02/03/11 22:28 ID:eaQCbZK9
ファイル 9 安堵の瞬間

 飯田が病院に駆けつけたのは、午前九時前である。凄まじい表情で救急救命
センターの受付に来ると、大声で怒鳴った。
「渋谷署の飯田だけど、中澤裕子の容態は!」
「なななななな・・・・・・中澤さんですね?」
びびりまくる受付の女子職員を、飯田は睨みつけるような眼で見る。
「圭織さんじゃん」
聞き慣れた声に飯田が振り向くと、そこには矢口が立っていた。矢口は眠そう
な眼を擦りながら、ペットボトル入りのウーロン茶を飲んでいる。
「裕ちゃんが危篤だって聞いて飛んで来たんだけど」
飯田の表情は物凄かった。しかし、矢口は笑顔で答える。
「裕ちゃんなら、今朝の八時過ぎに・・・・・・」
「八時過ぎに?どうしたのよォォォォォォォォー!」
飯田は矢口の胸倉を掴んで持ち上げた。これには矢口も仰天する。飯田が警視
庁の試験に合格したのも、面接官が彼女の二の腕を評価したからであった。ス
タイルの良い飯田だったが、その秘められた力は、誰にも予測がつかない。
「いしいしいしいし・・・・・・」
矢口はびびりまくって言葉にならない。そこへ安倍がアイスクリームを食べな
がら現れた。
「ヤッホー、圭織ー。何?怒ってるんだべか?」
「裕ちゃん、八時過ぎに何があったの?まさか!」
飯田の眼から涙が零れる。普通に考えれば、矢口や安倍のリラックスした雰囲
気から、峠を越したくらいの状況は悟れるのだが、飯田にはそんな余裕が無か
った。
「うん、意識が戻ったべさ。一時はどうなる事かと思ったけどね」
「あ・・・・・・ああああ・・・・・・ふー、良かった・・・・・・」
飯田は矢口を持ち上げたまま、その場に座り込んでしまう。昨夜は仕事の帰り
に希美を助け、結果的に駅前交番に泊まってしまった。その後ろめたさがあっ
たのは事実である。それでここまで興奮してしまったのだ。
「あの・・・・・・圭織さん、この人、白目剥いてるのれす」
希美に指摘され、飯田は自分が矢口を持ち上げている事に気付いた。
「キャー!矢口、しっかりしてー」
飯田は矢口を抱き締めた。酸欠状態から開放された矢口は、すぐに意識を回復
する。
「苦しかった・・・・・・・もう!圭織さん、最後まで話を聞いてよ!」
怒る矢口に平謝りの飯田。そこへやって来たのが、夏と石黒だった。
「あ、夏警部に彩さん」
安倍はペコリと頭を下げた。二人は安倍の表情を見て、中澤の状態が良い事を
悟る。安堵感から椅子に座り込む夏。
「ごめんね彩っぺ。遊んでたわけじゃないんだけど」
飯田が立ち上がると、希美が後に隠れる。鼻ピアスの石黒が怖かったのだ。
「圭織、さっきから気になってたんだけど、その子は誰だべさ」
安倍が言うと全員が希美に注目する。
「可愛いねー。矢口と同じくらいの背だよー」
矢口が微笑むと、つられて希美も微笑んだ。飯田は深刻な表情で話し出す。
「夏警部、童夢園って知ってますか?」
「ドウムエン?・・・・・・童夢園!あの虐待疑惑の?」
夏は表情が変わった。東京地検の知り合いが必死に捜査しているものの、狡猾
な園長は全く尻尾を見せなかったのである。
「圭織、まさかこの子」
石黒は希美をみつめる。石黒の顔に怯えて希美は飯田に抱き付いた。
「うん、この子は童夢園からの脱走者なの」
「本当か!それは凄い。これであの園も終わりだね」
夏が笑顔で言うと飯田は首を振った。夏は意味が判らず首を傾げる。
「この子は圭織が守る。誰にも渡しません」
飯田は希美を抱き締めた。希美は嬉しそうに眼を輝かせて、飯田の胸に顔を埋
める。それを見た安倍は、本当の姉妹のようだと思った。
316女の子だよ!:02/03/11 22:30 ID:eaQCbZK9
ファイル10 中澤の妹

 午後になって中澤が一般病棟に移されると、夏と石黒が事情聴取を行った。
中澤は疲れていたが、気丈にも事情聴取に応じたのである。
「そうか、刺された時の状況は判った。それで、心当たりはあるの?」
夏は椅子に座り、大学ノートにメモしている。この事件は奥が深いと思い、病
院に来る途中で買って来たものだった。
「心当たり言われてもな。刑事やった頃は、夏さんもよう知っとるやろ?」
中澤は気丈に振舞っていたが、その眼には疲れが現れている。このところのハ
ードスケジュールに加え、この大怪我では身体が悲鳴を上げるのも無理はない
だろう。
「そうだね。中澤は無茶したから」
夏が言うと石黒が苦笑する。石黒が警官になった頃には、中澤も落ち着いてい
たものの、先輩達から武勇談を聞かされていた。
「裕ちゃん、ストーカー事件で動いているんでしょう?何か他に調べてたの?」
石黒は中澤の性格を知り尽くしている。絶えず何かを捜査していないと、気が
済まないのが中澤だった。体制に反発するといった警官らしくない一面もあっ
たが、常に緊張感を持っていたのである。
「石黒には敵わんな。そや、うちはある施設を調べてたんや」
石黒と夏は顔を見合わせた。そんな偶然は無いと思いながらも、夏は中澤に訊
いてみる。
「童夢園?」
「何でそれを・・・・・・」
中澤の表情が一変する。ワケ有りの雰囲気がするので、夏と石黒は詳細には触
れなかった。
「中澤、もしかして童夢園の連中が?」
夏は中澤を襲った犯人と童夢園の職員を結びつける。少し乱暴な発想だが、こ
れが夏のやり方だった。こうやって仮定をたててみて、それに沿って捜査員を
投入して行く。人海戦術的要素が強いものの、かなりの好成績をあげていた。
「夏さん、何で童夢園を?」
中澤は不思議に思って夏に訊ねた。警視庁の捜査一課といえば、凶悪事件専門
の部署である。どう考えても結びつかない。
「実は、飯田が昨夜、童夢園から脱走した子を保護したの」
「な・・・・・・名前は!」
中澤の形相が変わった。余程のワケ有りなのだろう。
「辻希美って子だよ」
「会わせて!会わせてくれへんか?」
中澤は眼を剥いて叫ぶ。傷口の痛みも感じないほど、中澤は興奮していた。
「聞いてみるね」
石黒が席を外すと、夏は中澤に訊いた。夏はどうしても訊きたかった。どうし
て中澤がここまで童夢園にこだわるのかを。
「裕子、どうして童夢園を?」
夏は中澤と二人の時は「裕子」と呼んだ。プライドの高い夏が唯一認めた刑事が
中澤であり、親愛の情を込めてそう呼んでいたのである。
「実は、うちには妹がおんのや。おとうちゃんが死ぬ前に、他の女性に生ませた
子。つまり異母妹やな。その母親は若すぎたんや。妹を産んだ時、まだ十六や
ったしな。彼女は育児を放棄して、妹は施設に引き取られた」
「それが童夢園?」
夏は表情が強張った。虐待の巣窟であると噂される童夢園であれば、中澤の妹
も無事ではないかもしれない。
「東京に出て来て十年、これだけ探しても見つからないんや。考えられるんは、
もうあそこしか無い」
317女の子だよ!:02/03/11 22:31 ID:wdkcj0S8
その時、ドアがノックされ、飯田と希美が入って来た。飯田は中澤を見ると安
心したように笑顔になる。
「今朝アパートに帰ったらさー、裕ちゃんが刺されたっていうじゃない。しかも
危篤だっていうから、慌ててここに来たの。そうしたら意識が戻ってたなんて
、圭織はただの間抜けだよ」
「それは心配かけたな。でも、もう大丈夫や。その子が希美ちゃんか?」
希美は小さく頷いた。不安なのか、飯田に抱きついて離れようとしない。
「飯田、ちょっといい?」
夏は気を利かせて飯田を病室から連れ出した。中澤と二人になり、不安そうな
顔で俯く希美。
「怖がらんでもええ。ちょっとあんたに訊きたい事があんのや。そこに座り」
希美は泣きそうな顔をしながら、夏が座っていた椅子に腰を降ろした。
「なあ、加護亜衣って子、知らんか?」
「亜衣ちゃん?怪我をして休んれます」
希美は怯えながら答えた。中澤は興奮する気持ちを抑えながら、続けて希美に
訊く。
「どんな怪我したんや?」
「せ・・・・・・先生に殴られて・・・・・・片耳が聴こえなくなったのれす」
「何!」
中澤の形相が変わると、ついに希美が泣き出した。すぐに飯田が入って来て、
希美を抱き締める。
「裕ちゃん、怖い顔しないでよ。怯えてるじゃん」
「おおう、そりゃすまんのう。怖かったか?すまんかったな」
中澤は微笑みながら希美の頭を撫でる。
「特に裕ちゃん、今はすっぴんなんだからさー」
飯田は言ってはいけない一言を言ってしまった。一瞬の沈黙に、飯田はタブー
とされている事を口走った自分に気付く。
「飯田ァァァァァァァー!コラァァァァァァァァァァー!」
凄まじい怒鳴り声に、廊下にいた夏・安倍・矢口の三人が仰天する。すると中
澤の病室から、白目を剥いて失神した希美を抱えて、頭から血を流した飯田が
飛び出して来た。
「アハハハハ・・・・・・裕ちゃんに、すっぴんは怖いって言っちゃった」
「飯田。お前、命知らずだね」
夏は溜息をつきながら言った。
318女の子だよ!:02/03/11 22:32 ID:wdkcj0S8
ファイル11 保田

 保田は夏と石黒の指示で、童夢園の調査を始めた。その能力とは裏腹に、彼
女は全く目立たない。狛犬のような顔は特徴があったものの、決して派手な感
じではなく、一般大衆に埋もれてしまう。これは捜査員にとっては、他の何に
も替え難い財産であった。
 保田は多方面から資料を取り寄せ、パソコンを使って整理して行く。膨大な
量の資料を保田は手際良く整理して行き、たった二日でまとめ上げてしまった
。これには夏と石黒も驚いた。夏は早速、保田を呼んで捜査会議を始める。
「辻希美に関しては、狙われる可能性があるね。飯田を張り付けておけば大丈夫
かな?」
夏は石黒の意見を訊いた。しかし、石黒は曇天の空が見える窓を凝視し、何や
ら考え事をしている。
「石黒?」
夏に呼ばれて我に返る石黒。
「どうした?何を考えていたの?」
「いや、これは仮定なんですが、もし童夢園が潰れてしまったら、収容されてい
る子たちは、どうなってしまうんだろうと思って」
いかにも人情派らしい石黒の考えである。夏もそれは考えていた。文部厚生省
の監視下に置かれ、数人の職員とボランティアで持続して行くとは思うが、場
合によっては、切り捨てられる可能性も否めない。
「石黒さん、そんな事を考えてどうするんですか?私達は警察です。法を破る者
を検挙するのが仕事なんです。余計な情は持ち込まない方がいんじゃありませ
んか?」
保田は無表情のまま言った。確かに保田の言う事は正論である。しかし、警官
だって人間なのだ。機械のように仕事をこなす事など出来ない。
「そうだけど、何か気になってね」
石黒は夏と視線が合って苦笑した。保田を推薦したのは石黒だったが、どうも
保田とは合わないようだ。
「辻希美には飯田をつけてるけど、問題は無いよね」
夏は話を戻した。石黒は何気なく頷いたが、保田は首を捻る。
「警察で保護すべきでは?何かあってからじゃ遅いですよ」
「それもそうだけど、希美ちゃんが不安になっちゃうだろうしね」
石黒は飯田に任せた方が良いと思っている。飯田の強さを知る石黒や夏は、男
性の多い警察署よりも、飯田のアパートの方が希美に相応しいと思っていたか
らだ。
「辻希美は重要な証言者です。口封じされてからでは遅いんですよ」
保田も引かなかった。場の空気が険悪になりかけた時、ドアをノックして入っ
て来たのは、安倍と稲葉だった。
「保田は初めてだったね。私の部下の稲葉と、中澤の部下の安倍なつみさんだ」
保田は立ち上がり、二人に頭を下げた。
「安倍です。宜しくお願いするべさ」
「稲葉や。よろしゅうな」
二人が席に着くと、保田は夏に言った。
「警部、民間人を捜査に加えるんですか?」
これには石黒は勿論、稲葉がキレた。
「安倍は優秀な探偵やで!何じゃその言い方は!」
しかし保田は冷静だった。表情ひとつ変えない。それは冷たいくらいに感じら
れ、安倍は苦手なタイプだと思った。
「生意気でしたか?言い方が悪かったのなら謝ります。でも、これは警察権によ
る捜査です。安倍さんは警官ではありません」
「保田、忘れたの?捜査には民間人の協力も必要だよ。警察法を拡大解釈すれば
、民間人と一緒に捜査出来るじゃない」
石黒は保田を宥めた。
「警部も同じ考えでしょうか?」
保田は夏に訊いた。夏は考えて言葉を選びながら保田に話す。
「保田が言うのは正論だよ。でも、安倍は関係者なの。人手も足りない事だし、
ここは捜査の邪魔にならない範囲で、協力してもらおうじゃない。ね」
「判りました」
保田は無表情のまま頷いた。
(彩さん、保田さんって、いつも無表情なんだべか?)
(うん、保田が笑った顔や怒った顔は、一度も見た事がないの)
(なあ安倍、あの狛犬女は生意気やな)
(一生懸命なんっしょ?)
(へえ、今回はあんたと意見が合いそうだね)
(何や?お前まだおったんか?)
(何その言い方)
「何じゃコラァァァァァァー!」
「テメエ、表に出ろ!」
掴み合う二人の間に安倍が入る。
「二人共やめるべさ!今は会議中っしょ?」
安倍は二人を席に戻す。夏はそんな二人を見て頭を抱えた。
319女の子だよ!:02/03/11 22:34 ID:NMI3CfAb
ファイル11 保田

 保田は夏と石黒の指示で、童夢園の調査を始めた。その能力とは裏腹に、彼
女は全く目立たない。狛犬のような顔は特徴があったものの、決して派手な感
じではなく、一般大衆に埋もれてしまう。これは捜査員にとっては、他の何に
も替え難い財産であった。
 保田は多方面から資料を取り寄せ、パソコンを使って整理して行く。膨大な
量の資料を保田は手際良く整理して行き、たった二日でまとめ上げてしまった
。これには夏と石黒も驚いた。夏は早速、保田を呼んで捜査会議を始める。
「辻希美に関しては、狙われる可能性があるね。飯田を張り付けておけば大丈夫
かな?」
夏は石黒の意見を訊いた。しかし、石黒は曇天の空が見える窓を凝視し、何や
ら考え事をしている。
「石黒?」
夏に呼ばれて我に返る石黒。
「どうした?何を考えていたの?」
「いや、これは仮定なんですが、もし童夢園が潰れてしまったら、収容されてい
る子たちは、どうなってしまうんだろうと思って」
いかにも人情派らしい石黒の考えである。夏もそれは考えていた。文部厚生省
の監視下に置かれ、数人の職員とボランティアで持続して行くとは思うが、場
合によっては、切り捨てられる可能性も否めない。
「石黒さん、そんな事を考えてどうするんですか?私達は警察です。法を破る者
を検挙するのが仕事なんです。余計な情は持ち込まない方がいんじゃありませ
んか?」
保田は無表情のまま言った。確かに保田の言う事は正論である。しかし、警官
だって人間なのだ。機械のように仕事をこなす事など出来ない。
「そうだけど、何か気になってね」
石黒は夏と視線が合って苦笑した。保田を推薦したのは石黒だったが、どうも
保田とは合わないようだ。
「辻希美には飯田をつけてるけど、問題は無いよね」
夏は話を戻した。石黒は何気なく頷いたが、保田は首を捻る。
「警察で保護すべきでは?何かあってからじゃ遅いですよ」
「それもそうだけど、希美ちゃんが不安になっちゃうだろうしね」
石黒は飯田に任せた方が良いと思っている。飯田の強さを知る石黒や夏は、男
性の多い警察署よりも、飯田のアパートの方が希美に相応しいと思っていたか
らだ。
「辻希美は重要な証言者です。口封じされてからでは遅いんですよ」
保田も引かなかった。場の空気が険悪になりかけた時、ドアをノックして入っ
て来たのは、安倍と稲葉だった。
「保田は初めてだったね。私の部下の稲葉と、中澤の部下の安倍なつみさんだ」
保田は立ち上がり、二人に頭を下げた。
「安倍です。宜しくお願いするべさ」
「稲葉や。よろしゅうな」
二人が席に着くと、保田は夏に言った。
「警部、民間人を捜査に加えるんですか?」
これには石黒は勿論、稲葉がキレた。
「安倍は優秀な探偵やで!何じゃその言い方は!」
しかし保田は冷静だった。表情ひとつ変えない。それは冷たいくらいに感じら
れ、安倍は苦手なタイプだと思った。
「生意気でしたか?言い方が悪かったのなら謝ります。でも、これは警察権によ
る捜査です。安倍さんは警官ではありません」
「保田、忘れたの?捜査には民間人の協力も必要だよ。警察法を拡大解釈すれば
、民間人と一緒に捜査出来るじゃない」
石黒は保田を宥めた。
「警部も同じ考えでしょうか?」
保田は夏に訊いた。夏は考えて言葉を選びながら保田に話す。
「保田が言うのは正論だよ。でも、安倍は関係者なの。人手も足りない事だし、
ここは捜査の邪魔にならない範囲で、協力してもらおうじゃない。ね」
「判りました」
保田は無表情のまま頷いた。
(彩さん、保田さんって、いつも無表情なんだべか?)
(うん、保田が笑った顔や怒った顔は、一度も見た事がないの)
(なあ安倍、あの狛犬女は生意気やな)
(一生懸命なんっしょ?)
(へえ、今回はあんたと意見が合いそうだね)
(何や?お前まだおったんか?)
(何その言い方)
「何じゃコラァァァァァァー!」
「テメエ、表に出ろ!」
掴み合う二人の間に安倍が入る。
「二人共やめるべさ!今は会議中っしょ?」
安倍は二人を席に戻す。夏はそんな二人を見て頭を抱えた。
320女の子だよ!:02/03/11 22:36 ID:NMI3CfAb
二重にしてしまったのれす
ごめんなさい
321女の子だよ!:02/03/11 22:37 ID:RyhIrbH+
ファイル12 希美と三人の姉?

 夏達の捜査会議が佳境を迎えた頃、安倍は矢口と一緒にアパートへ戻ってい
た。希美が狙われているかもしれないので、対応策を練るためである。
「ののちゃん、なっちと矢口は怖くないっしょ?」
安倍と矢口にも妹がおり、年下の女の子の扱いには慣れている。特に矢口は希
美と相性が良いのか、一緒にミニモニ。の曲を踊ったりしていた。
「ハアハアハア・・・・・・けっこう疲れるんだよねー」
矢口は希美に踊りを教えている。息を切らせる矢口とは裏腹に、希美は元気に
踊っていた。
「なっちさん、一緒にやるのれす」
希美は一度に三人の姉が出来たように嬉しそうだ。
「よーし、なっちも負けないべさァァァァァー!」
安倍は希美に『恋ダン』を教える。呑み込みの早い希美は、瞬く間に覚えてし
まい、今度は安倍が音を上げた。
「凄い体力だべさ・・・・・・」
安倍は息も絶え絶えである。代わって矢口が細かい指導をした。
「『セクシービーム』はこう。この時に重要なのは、右足の膝だよ」
「こうれすか?」
「違う、もっと腰を落としてから、胸を反らしながら、そうそう。いい感じ」
「こうれすね!」
「そうそう、グーよグー!」
安倍と矢口が希美と遊んだのには理由があった。飯田がどうしても一人で外出
しなければならない場合、安倍か矢口のどちらかが辻を守らなければならない
からだ。そんな時に希美が不安にならないよう、今の内から慣らしておく必要
があったのである。
「なっちさん、お料理が得意なんれしょう?ののに教えてくらさい」
希美は安倍と矢口にすっかり打ち解けた。
「それじゃ、一緒に作ってみようか」
面倒見のいい安倍は、希美と一緒に夕食を作り出す。希美は笑顔で安倍の言う
事をきいている。その様子を見ていた飯田は、嬉しそうな希美に、思わず笑顔
が出てしまう。
「圭織さん、これからどうするの?」
矢口は希美と飯田の事を訊いた。順当に行けば、希美はどこかの施設に引き取
られて行くだろう。
「どうするって言われてもねえ・・・・・・引き取っちゃおうかな」
「ええっ!」
矢口は仰天した。いくら希美が可愛いからといって、保護者になるには、それ
なりの責任がある。果たして飯田に、その覚悟があるのだろうか。
「圭織さん、引き取る場合、選択肢が幾つかあるんだけど、どういった事を考え
てるの?まず、そのまま養育権を得る方法。これは一番難しいらしいよ。次に
圭織さんとの養子縁組。つまり、ののを圭織さんの娘にしちゃう方法だよね。
そして一番簡単なのが、圭織さんの親とののを養子縁組させる方法」
「何で矢口がそんな事知ってるの?」
飯田は不思議そうに矢口を見た。確かに普通の十九歳は、こういった事を知ら
ない。むしろ、矢口が異常だといえる。
「アハハハハー!雑学の矢口だからね」
「それって雑学っていうより、専門的な事じゃないの?」
「アハハハハ・・・・・・・」
矢口は笑って誤魔化す。飯田の力も謎なら、矢口の知識も謎である。
「ろくな材料がないべさ。矢口、なっちの冷蔵庫から、タマネギとジャガイモを
持って来て。それから冷凍庫に牛肉のブロックがあるから、それもお願い」
「はーい」
矢口は安倍の部屋に食材を取りに行く。安倍は料理が上手なので、矢口は楽し
みにしていた。
322女の子だよ!:02/03/11 22:39 ID:RyhIrbH+
今日はこのへんで
またあした続けさせてください
323名無し募集中。。。:02/03/11 22:59 ID:DgivHGt2
おおっ!更新されてる。(・∀・)明日も期待。
324名無し。:02/03/12 03:08 ID:NgJ0AMVz
前作の作品も見てましたがおもしろいですね。
飯田×辻の話は好きなので楽しみにしてます^^
がんばってください。。
325名無し募集中。。。 :02/03/12 04:25 ID:lCDAmE6E
夢をあなたにはどこに行った、続き待ってんだぞ
326女の子だよ!:02/03/12 13:08 ID:hdYVrGr2
ファイル13 園の実態

 保田の捜査資料は完璧だった。安倍と矢口と飯田は、希美を交えて資料を読
み砕く。勿論、食後のデザートを食べながらである。
「創設が平成元年。当時の厚生省・文部省・自治体の三者による全面投資で始ま
った。園長は和田薫。在園するのは一歳から十八歳までの女子で現在十七名。
職員は園長の他男性三名。他はアルバイトの女性が五名」
飯田が読み上げて希美を見る。希美は指を折って数えると、大きく頷いた。
「十七名の在園女子の内、他施設からの受け入れが七名。生え抜きが十名。リス
トがあるよ。野口萌美・里田まい・鶴本直・高橋麻里奈・辻希美・前田愛・加
護亜衣の七名。へえ、ののちゃんは他所の施設から来たんだー」
矢口が訊くと希美は話し出した。矢口が息を切らせて踊りを教えたので、希美
はずいぶんと打ち解けている。
「そうなんれす。ののとあいぼんは四年生の時に、池袋の施設から移されたのれ
す。のの達より一年前が愛ちゃんとまいちゃん。一年後が萌美ちゃんと麻里奈
ちゃん。直ちゃんは去年れした」
希美は記憶を辿るように、思い出しながら話をする。飯田の部屋には荷物が少
ないため、四人でも広く感じた。
「どうして他所から移って来たの?」
飯田が訊くと、安倍がその項目を見つけた。
「ああ、池袋の施設は閉鎖されたんだべね。他もそうみたい」
「不景気だからねー」
矢口は真っ先に、こういった弱者救済の予算が削られる事を知っていた。
「次は疑惑について書かれてあるべさ。まず、『食費流用疑惑』。童夢園では、
毎月五十一万円の食費が計上されている。しかし、実際には、その半額も使わ
れていない。少女達は残飯のようなものを食べさせられている。これは本当?」
安倍が訊くと希美は悲しそうに頷いた。希美が言うには、朝食には黄色くなっ
た御飯と塩味の野菜屑スープ、納豆一個とナマタマゴをミックスしたものが、
一人スプーン一杯だけ配られていた。昼食は縮緬雑魚入りの雑炊。夕食には屑
肉を入れたホワイトシチューが多く、希美の大好物だという。
「これだと、米は古古米か古古古米だべね。十キロで五百円もしないべさ。野菜
は自給自足だから、どう見積もっても月に十万円もあればお釣りがくるっしょ」
安倍は自炊するので、こういった知識はあるようだ。矢口は次の疑惑を読み上
げる。
「次が『強制労働疑惑』だよ。菜園は小さいものであり、当番制になっている。
菜園担当になると楽なので、この日だけは息抜きが出来る。他の子供達は、一
日八時間の労働に従事。基本的に休日は無い。酷いね。本当なの?」
「そうれす。十七人のうち、菜園に一人・園内清掃に二人が行きます。残った十
四人れ、ダイレクトメールの宛名書きや折込挿入、糊付けをするのれす」
これを聞いて矢口はピンと来た。童夢園は裏金作りに懸命なのである。DM関
係は裏金を作りやすい。DMなどの大口差出の場合、正規の料金からの割引と
いうタテマエはあるものの、ほとんどが「商談」で値段が決まってしまうからだ
。仮に一万通の郵便物を持ち込んだとして、葉書ならば正規の料金は五十万円
であり、三十パーセントの割引を受けたとしても、三十五万円の料金が必要で
ある。しかし、ノルマに追われる局員数名の特定郵便局では、局長が勝手に「商
談」をしてしまい、十万円になってしまう事も珍しくないのだ。更に、売りさば
き票(実質的な領収書)に五十万円と表記しても、簡単な操作で証拠を隠滅でき
るらしい。
「なっちさん、園長はDM会社を経営してるはずだよ。人件費はゼロだし、帳簿
を操作して収支トントンにすれば、億単位の裏金が作れる」
「矢口、調べてみるべさ」
安倍は裏金を何に使うのかが知りたかった。恐らくは暴力団か政治家に流れて
いるのだろう。
「酷い話だね。学校とかはどうしてたの?」
飯田が訊くと、希美は悲しそうに俯きながら涙声で話した。
「学校には行かせてくれませんれした。園長先生が教員の資格があるそうれす。
でも、何も教えてくれないのれ、のの達はまいちゃんに勉強を教えて貰ったの
れす。だけど・・・・・・まいちゃんは・・・・・・逃げて・・・・・・連れ戻されて」
希美はついに泣き出す。飯田は思わず抱き締めた。希美は飯田の胸に顔を埋
めると、号泣してしまう。安倍は次の疑惑である『婦女暴行疑惑』だと確信し
た。
327女の子だよ!:02/03/12 13:09 ID:hdYVrGr2
ファイル14 平家殉職!

 夏は陽動部隊を編成していた。そのリーダーが稲葉であり、メンバーは警視
庁の中から特別に集まった女性ばかりである。石井里佳は夏達隠密部隊とのパ
イプ役であり、稲葉の補佐を担当していた。他にも小湊美和・村田めぐみ・平
家みちよ・斎藤瞳といった若手が揃っている。彼女達は派手に動き回り、中澤
を襲った実行犯を追い詰めるのが役目だ。
「主任、平家が何か情報を掴んだみたいですよ」
小湊は警視庁の小会議室に設置された捜査本部に戻って来て、上司である稲葉
に報告した。すでに外は暗くなっており、続々と捜査員が戻って来ている。
「そか、そいつは楽しみやな」
稲葉は部下の誰にも童夢園の話をしていない。唯一知ってるのは、補佐役の石
井だけだった。
「しかし、中澤裕子は、どんな事件を調べていたんでしょうね」
「さあな。何でも守秘義務で言えんそうや」
稲葉は平家の情報を楽しみにして待っていた。

 平家は中澤を襲った犯人の重要な証拠を掴んでいた。平家は血まみれの黒装
束を見つけ、押収していたのである。その血液が中澤のものであると判明すれ
ば、童夢園の捜査令状が取れるのだ。そう、平家はその黒装束を、童夢園が出
したゴミの中から発見したのである。
「やっぱり、こういったものは朝に出さないとね」
平家は上機嫌で黒装束の入ったビニール袋を持って、童夢園から警視庁の間に
ある中央線の高架下に来た。凄まじい轟音と共に列車が通過し、平家の耳には
忍び寄る足音が聞こえていない。誰かが後方からぶつかって来たと思った瞬間
、平家は激痛に唸った。自分の腹から銀色に光るものが突き出している。平家
は叫んだつもりだったが、それは声にならず、口から血を吐き出しただけだっ
た。腹から突き出たものが背中から引き抜かれると、噴水のように血が噴出し
て行く。平家は誰かに刺された事を悟った。
「あうううう・・・・・・誰・・・・・・だ?」
平家は激痛に耐えられず、その場に座り込んでしまう。平家を刺した犯人は、
前方に回りこみ、血まみれのナイフを構える。フルフェイスのヘルメットと黒
いツナギを着ているので、顔や身体の特徴は判らない。しかし、かなり小柄で
あることから、女性か子供のどちらかである事は確実だ。平家は最後の力を振
り絞って、犯人の胸倉を掴む。
「ううう・・・・・・お前は・・・・・・まだ」
犯人は平家を蹴り倒し、胸の中央から少しだけ左に、ナイフを突き刺した。
「そこは・・・・・・」
平家の最期だった。平家は心臓を刺し貫かれ、眼を剥いて痙攣する。路肩の砂
利を握り締め、電気に打たれたように身体を硬直させた。何度か硬直と弛緩を
繰り返し、そのうち弛緩したままで動かなくなってしまう。
「よくやったな。乗れ」
中年の男は平家が持っていた黒装束を回収すると、犯人をバイクの後部座席に
乗せ、どこかに走り去って行った。
328女の子だよ!:02/03/12 13:09 ID:hdYVrGr2
ファイル15 裕子と貴子

 稲葉は平家の帰りが遅いので、ケイタイに電話してみた。どういうわけか話
中であり、全く連絡がとれない。
「小湊、ちょっと出て来るわ。平家が戻ったら、ケイタイの留守電に入れておい
てや」
「はい」
稲葉は遅くならないうちに花屋へ行って、五千円分の花を買う。そしてタクシ
ーに乗って広尾病院にやって来た。
「どうぞ」
ドアがノックされたので、中澤は観ていたテレビを消しながら言った。中澤は
入院した理由が理由なので、二人部屋に移されている。同室には患者がおらず
、事実上、中澤の個室であった。
「このくたばりぞこないが!」
そう言いながら稲葉が入って来た。中澤は稲葉を見て苦笑する。
「見舞いに来てくれたんか?」
稲葉は中澤を見ると、眼に涙を溜める。それでも強情に憎まれ口を叩いた。
「花輪より安いよってな。大助かりや」
稲葉は中澤の枕元の花瓶を持つ。中澤の白い腕は、普段よりも白く感じられ、
規則正しく落ちる点滴が、稲葉にとっては痛々しく映った。
「花を活けてくるで、感謝せえよ」
稲葉の憎まれ口に、中澤は笑顔で応える。
 稲葉は中澤をライバル視し、事件で顔を合わすたびに、からんでいた。それ
というのも、稲葉の上司である夏は、稲葉よりも中澤を認めていたからである
。稲葉はそれが悲しかった。だからいつの間にか、中澤にからむ事で自分を慰
めていたのである。
 夏が中澤を認めた理由は簡単である。夏自身には無い柔軟さと、型に捉われ
ない自由な発想力を持っていたからだ。捜査管理能力から行けば、稲葉の方が
圧倒的に優れている。状況判断も稲葉の方が早いし、法律の知識にしても、中
澤の方が劣っていた。それでも夏は、自分に無い部分を持った中澤を評価した
のである。
 夏は中澤を一人の警官として、また一人の女性として認めていた。一方の稲
葉に関しては、夏は眼の中に入れても痛くないほど可愛がっている。稲葉が失
敗して夏の顔に泥を塗っても、決して彼女は稲葉を見捨てなかった。あのプラ
イドの高い夏が、稲葉のために頭を下げる事も珍しくない。実をいうと、中澤
はそんな稲葉が羨ましかったのである。
「ほら、きれいやろ。こう見えても、高校時代は華道部だったんやで」
稲葉は中澤の枕元に、花を活けた花瓶を置いた。稲葉は中澤の肩を掴んで、小
さな声で話し出す。
「ほんまに助かって良かったな。裕子」
稲葉と中澤は警察学校の同期である。お互いに負けず嫌いなので、逮捕術演習
では本気になって周囲を驚かせたし、朝夕のランニングでは先頭を競って走り
続け、気が付けばグランドに誰もいなくなっていたりした。
「裕子には負けへん」
「貴子には勝つ」
これがそれぞれの、警察学校時代におけるモットーだった。いつの間にか、互
いに名前を呼び合うようになる。
「貴子、心配かけてすまんかったな」
中澤は稲葉の手を握る。互いに判っているのだ。憎まれ口を叩こうと、それを
聞き流そうと、二人はライバルであり仲間である。
 「中澤が刺されて危篤だ」と夏に聞かされた時、稲葉は一瞬だけ気が遠くなっ
た。夏の前では「ほんまですか」と無関心を装ったが、トイレに駆け込んで泣い
た。稲葉はそういう女である。
「ええか?裕子、よう聞けよ。あんたとはこれからもライバルや。勝手に死んだ
ら承知せえへんからな」
「貴子、うちはもう警官ちゃうで」
「アホ、生涯かけてライバルや」
二人は笑顔で見詰め合った。
329女の子だよ!:02/03/12 13:10 ID:hdYVrGr2
ファイル16 何で?

「背中から突き刺されて貫通しています。トドメは心臓を一突きですね」
稲葉は広尾病院から出たところで留守電を聞き、警察病院の死体安置所に駆け
つけた。小湊は口惜しそうに状況を説明する。稲葉は茫然として平家の死体を
見つめていた。
「こいつは子供好きで・・・・・・年寄りには親切やった。・・・・・・いつも一生懸命でな
・・・・・・何でや・・・・・・何でなんや・・・・・・・何でこんないい奴が死ななあかんのや」
稲葉には涙も出なかった。痩身だが元気で明るく、今回の捜査に抜擢されて喜
んでいた平家。警官としては、少し優しすぎるのが欠点だった。
「状況としては、中澤裕子の時と酷似しています」
小湊は殺人現場の状況を説明した。中澤が襲われた時と、全く同じだと思われ
る。
「平家、お前の仇は、必ずとったるで」
稲葉は手の平に爪が突き刺さるほど、強く握り締めた手を振り上げた。

 平家の死を夏に報告し、稲葉は部下を集めた。緊急の捜査会議を開いたので
ある。まずは、憎むべき犯人を絶対に検挙するという意思統一がなされた。
「それから、平家はどんな情報を得たんやろうな」
稲葉はそれが殺害された原因だと思った。中澤と平家の接点は童夢園以外に考えられない。手口が同じであるため、犯人は童夢園の関係者である可能性が濃
厚になって来た。この時点で稲葉は、童夢園の件を捜査員に公表する。
「実は、中澤は童夢園を調べていたんや。みんな噂では聞いとるやろ?童夢園に
は様々な疑惑があって、地検も動いとる。けど、園長の和田は、なかなか尻尾
を出さんね」
稲葉が話を始めると、村田や斎藤は驚きを隠せなかった。童夢園が関係あると
薄々感づいていたのは、小湊だけである。
「平家からの電話を受けたのは、小湊さんでしたよね」
石井が小湊を指摘した。小湊は大きく頷いて当時の状況を報告する。それは平
家に「早く戻って来い」と言わなかった自分に対する罪の意識が表れていた。
「そう言えば、童夢園のゴミ捨て場で、何かを見つけたと言っていました」
「そうか、そうなると、凶器か返り血を浴びた黒装束やないか?」
勘の良い稲葉は物証である事に気付いた。すると捜査員達に平家殺害の背景が
見えて来る。
「童夢園では平家さんが物証を得たのを知り、奪還を目的に殺害したんでしょう
ね」
村田は平家の一年後輩で、仲が良かっただけに、残念でならない様子だ。特に
平家に可愛がられていた斎藤は、先ほどからハンカチで涙を拭っている。この
席で冷静に状況を分析しているのは、稲葉と石井だけのようだ。
「けど、童夢園側は、どうやって平家が物証を得た事を知ったんやろ?」
稲葉は頬杖をつきながら考え込んだ。
330女の子だよ!:02/03/12 13:12 ID:3dJlb0bH
ファイル17 保田の実力

 夏達隠密部隊は、童夢園の職員や関連会社、在園する少女達について調べて
いた。毎日、午後五時に互いの情報交換をする事になっている。石黒と保田は
例によって渋谷署の会議室にやって来た。
「少女達の出自は様々だね。驚いたのは、この水戸恵美(8)・佐藤奈津美(10)
・新垣理沙(13)の三人は、一歳になる前から童夢園に預けられている。つま
り、この三人は他の世界を知らないのよ」
夏は少女達について調べており、各家庭の事情やその子の性格などを把握して
いた。しかし、この三人については、どの子も非嫡子つまり不倫の果てに生ま
れ、しかも私生児である。驚いたことに、どの母親も子供を置き去りにして姿
を消しているのだ。
「関連会社では、園長の和田がDM関係の会社を経営しています。他に職員の一
人が、スナックを経営しているんですが、面白いものが出て来ましたよ」
石黒は他の二人に書類を渡した。それは古い雑誌記事のコピーである。夏と保
田はその内容に驚愕した。
「これは・・・・・・売春?」
「ええ、この雑誌は三年前のものですが、記者の体験談では、どう見ても中学生
だと書いてあります。最近では摘発を警戒して会員制になったようですが、そ
れでも三人程度の少女を置いているみたいですよ」
思いがけない部分から捜査のきっかけを掴めるものである。この証拠を握れば
、童夢園に強制捜査を行えた。更に、売春で得た利益は、ほぼ間違いなく暴力
団に流れている。証拠が揃いさえすれば、近年稀にみる大漁となるだろう。
「まず、園長の和田ですが、やはり政治家との接点がありました。与党の某議員
とは大学時代からの付き合いです。昨年の資金集めのパーティでは、一千万円
も集めていましたが、これは全て和田が取り仕切っていますね」
保田はさすがに調べる内容も的確だ。一番危険で難しい事を調べたのに、短時
間で濃い内容を集めている。
「それから他の三人の職員ですが、どれもこれも前科者ですね。石黒さんが調べ
たスナック経営の浜田(38)は元暴力団員です。松本(38)は詐欺で服役して
いますし、石橋(40)に至っては強盗殺人で昨年出所したばかりでした。浜田
の金回りは良くありませんが、松本と石橋はいいようです。園内での役割なん
ですが、法律に詳しい松本はデスクワークで、凶暴な浜田が少女達を酷使して
います。石橋は少女達の監視専門らしいですね」
夏と石黒は、保田の詳しい調査内容に驚いた。これだけ短時間に、ここまで調
べられるとは、並大抵の能力ではない。
「そうなると、厄介なのは和田と松本だね。どうにかして二人のうち、片方でも
引っ張れないかな。容疑は何でもいい」
夏はこうやって末端から崩して行く作戦を提案した。
331女の子だよ!:02/03/12 13:13 ID:1//HxT7H
ファイル18 なっち探偵の疑問

 平家の死を知った安倍達は、捜査報告書を読みながら、稲葉と同じ疑問にぶ
ち当たった。どうやって童夢園の人間が、平家を限定して殺せたのかという事
である。
「罠だったのかなー」
矢口は童夢園の方で仕掛けたと思った。しかし、警察官を殺したともなれば、
警察は躍起になって調べて来るはずだ。したがって、これは計画的なものでは
なく、平家が物証を発見してしまったので、偶発的に発生したと考えた方が自
然である。
「それにしても、よく殺される人だべねえ。まあ、それは置いといて、他に考え
られるのは、偶然にも平家さんがゴミを漁っているのを目撃したのか、それと
も・・・・・・」
「それとも?」
飯田は安倍の続きを聞きたがった。しかし、安倍は言いにくそうだ。
「どうしたの?まさか警察内部に!」
飯田は警察内部に通報者がいるのではないかと思ったのだ。安倍は飯田を見な
がら頷く。
「そんな事は信じたくないよ」
矢口は安倍と飯田を見ながら言った。もしそうならば、夏や稲葉、石黒を含め
た、ごく身近に通報者がいる事になる。
「なっちだって信じたくないべさ」
「もし、そういう奴がいたら、圭織は絶対に許さない」
飯田は拳を握り締めた。飯田が許さないと言ったら、本当に許さないだろう。
飯田の事である。そういった内通者がいたら、血祭りにあげる事は確実だ。
安倍と矢口は思わず鳥肌がたってしまう。
「ちょっと気付いたんだけど、裕ちゃんを襲った時と、凶器が違うみたいだべね
え」
安倍は捜査報告書を読みながら言った。中澤を刺した刃物は、たった三センチ
しか入っていないのに対し、平家を刺したものは、腹を貫通するほど奥まで入
っている。
「なるほどー、裕ちゃんを殺せなかったから、次から大型のナイフにした?」
矢口は状況を踏まえて自分なりに推理してみた。最近は矢口も推理が出来るよ
うになって来て、中澤は嬉しそうだったのが印象的である。
「それか犯人が違うかだべさ」
安倍の考えで行くと、ヒットマンは一人だけでは無かった。万が一を考え、必
ず予備を隠し持っているにきまっている。しかし、そのヒットマンが何者なの
か、安倍に知る由も無かった。
「うわっ!この人、凄く苦しかったんだろうなー。左手で砂利を握り締めてたん
だってさー」
矢口は検案書を見ながら言った。すると安倍が死体の状況を確認する。安倍は
引っ掛かる事があった。
「心臓を刺されたんっしょ?凄く苦しい時に、砂利なんて握るべか?」
「でもさー、溺れる者藁をも掴むっていうじゃん」
安倍は首を傾げながら自分の胸に手を当てる。そして中澤が刺された時の状況
を思い出した。
「ねえ矢口、胸が痛かったらどうする?」
「そりゃ手で押えるでしょうね」
「平家さんもそうしたかったんじゃないかな。裕ちゃんが助かったのも、傷口を
手で押えたからっしょ?激しく出血すれば、嫌でも傷口を押えるんじゃないべ
か?」
「そうか」
矢口も自分の胸に手を当ててみる。心臓を刺されたとなったら、凄まじい出血
が起こるに違いない。そんな出血を見たら、誰だって傷を塞ごうとする。
「それじゃ、この人は何で砂利なんかを?」
「ダイイングメッセージかもしれないべさ」
安倍は調べる価値があると思った。
332女の子だよ!:02/03/12 17:52 ID:YJUO08Gh
ファイル19 内通者

 かなり回復した中澤のところへ、安倍と矢口がやって来た。事件の推理をす
るため、意見を聞きたかったからである。
「へえ、ダイイングメッセージやて?」
中澤は安倍の考えに眉を顰めた。安倍が説明すると、中澤は自分を刺した犯人
の特徴を思い出す。
「そういえば、うちを刺した奴は、小柄な奴やったな。矢口より少し大きいくら
いやったしな」
「裕ちゃん!それだべさ!犯人は子供なんじゃない?平家さんは犯人の特徴をダ
イイングメッセージに残したんだべさ!」
安倍は確信した。犯人はまだ子供である。そうなると、脅された童夢園の在園
者だろうか。
「けど、うちの時は、何でトドメを刺さなかったんやろな」
「これはなっちの勘なんだけど、ヒットマンは一人じゃないべさ」
安倍はこう考えた。最初のヒットマンが中澤殺害を失敗し、凄まじい虐待を受
けた。二人目のヒットマンは、その光景を見て恐ろしくなり、平家には確実に
トドメを刺したのである。
「平家か・・・・・・稲葉はショックやろな」
中澤は稲葉を心配した。負けず嫌いな稲葉も、可愛がっていたネコが死んだ時
は、三日も仕事を休んで泣き明かしたからである。最近では成長したので、そ
んな事はないと、中澤は自分に言い聞かせた。
「裕ちゃん、これは言いにくい事なんだけど」
矢口が中澤を上目遣いで見ながら話し始める。中澤は良い話ではないと直感し
、眉を顰めながら話を聞いた。
「どうして平家さんを限定出来たと思う?平家さんは童夢園のゴミから何かを発
見したらしいの。それを奪還するために殺された。見張ってたのかな?変でし
ょう?童夢園側としては、偶発的な事故だったと考えた方が自然じゃない。そ
うなると、誰かが警察での情報を・・・・・・」
「内通者がおるっちゅうんかい!」
中澤は珍しく語気を荒げた。矢口は「ごめん」と言うと俯いてしまう。中澤が怒
るのも当然だ。
「でもね、裕ちゃん。どう考えても、平家さんの行動を知ってるのは、警察だけ
なんだよ」
安倍が言うと中澤は眼を剥いた。しかし安倍は続ける。
「なっちや矢口だって信じたくないべさ。でも、警察の中。しかも重要な位置に
いる人が内通しない限り、平家さんを襲う事なんて不可能なの」
安倍の言う事は正しかった。中澤も信じたくない。その思いが優先し、矢口を
睨んでしまったのだ。
「そやな。そう考えんと、平家を襲う事は不可能や。けど、夏さんと稲葉は外れ
やで。夏さんがそんな事したら、稲葉が許さんやろしな。ああ見えて、稲葉は
夏さん以上に信用出来るで」
中澤は冷静になって言った。矢口は中澤を見て少し安心する。中澤が矢口を見
て微笑むと、矢口もつられて笑顔になった。
「怪しいのは保田さんだべさ。妙に無表情だし、ののを警察に連れて行きたがっ
てる」
安倍は保田を疑っていた。確かに保田には未知の部分が多い。仕事は出来るの
だが、あまりコミュニケーションをとりたがらないのだ。一匹狼的な感じもす
るのだが、それが自分の正体を知られないようにするためだと考えると、合点
が行く。
「保田?そんな奴、渋谷署におったかな」
中澤は首を傾げて考え込む。
「ほら、防犯課の」
「ああ、あの狛犬の圭坊か。あいつは目立たへんしな。けど、何で防犯課の圭坊
が捜査に?」
「彩さんが推薦したんだべさ」
石黒が保田を推薦したのは、その仕事の正確さである。実際のところ、石黒よ
りも中澤がよく話をしていた。手がすいている時は、中澤が資料をまとめてく
れるように頼むと、二つ返事でやってくれたのである。
「そやし、圭坊に限って・・・・・・」
中澤はふと、保田の事を思い出した。暫く早退ばかりしていたので、何事かと
思って訊いてみると、保田の弟が難病に罹り、治療には莫大な費用がかかると聞いたのである。
「まさか・・・・・・圭坊が」
中澤は不安そうに窓の外を見た。
333女の子だよ!:02/03/12 17:53 ID:YJUO08Gh
ファイル20 用心

 安倍は電話で夏を捕まえた。そして最新の情報を仕入れ、代わりに推理を提
供した。やはり内通者の話になると、夏も不機嫌になる。身内に内通者がいる
とは考えたくないのだろう。それでも中澤同様、冷静になると、そういった可
能性を認めた。
「保田?確かに普通の感覚とは、少し違うようだね。でも、これまで保田が調べ
た事は、全部裏が取れてるんだ。他に平家の事を知っていたのは、石黒と稲葉
に、石井くらいだよ・・・・・・保田には内通する動機があったのか」
夏はかなり困惑しているようだ。内通者を摘発しない限り、捜査の進展は期待
できないからである。
「何かいい手はないの?」
「思いつかないべさ」
安倍は疑心暗鬼になっていた。夏にしても百パーセント信用出来るのかという
と、安倍には自信が無かったからである。まして石黒には、内通者がいるとい
う事すら話す気がしなかった。なぜなら、保田を推薦したのは石黒である。
「とにかく、辻希美だけは宜しく頼んだよ」
そう言うと夏は電話を切った。
 安倍は自室のテーブルに肘をついて考えた。中澤が襲われたのは、童夢園に
ついて調べていたからである。童夢園には様々な疑惑が噂されている。童夢園
が中澤を襲った理由は、その噂を調べていると思い込んだからではないのか。
平家が殺されたのは、童夢園のゴミから何らかの物証を得たからである。
(そんなに秘密を守ろうとするのなら、脱走者は連れ戻すか、抹殺・・・・・・)
安倍は立ち上がった。希美が狙われているのは確実である。平家の件等の偶発
的な事があり、童夢園は動くに動けなかったが、今夜あたり刺客を送り込んで
来る可能性が高い。安倍は隣室の飯田に相談する事にした。
「今夜が危ないっしょ」
安倍が状況を説明すると飯田も納得する。矢口は心配そうに希美を見つめてい
た。
「そこで提案なんだけど、今晩ののはなっちと寝るべさ」
「えー、圭織は一人で寝るのォ?寂しいなー」
飯田は全く緊張感の無い声で言った。これには矢口も苦笑するしかない。
「圭織!緊急事態だべさァァァァァァァァー!」
結局、希美が賛成したため、安倍の部屋で寝る事になった。矢口は飯田の部屋
で、何やらゴソゴソやっている。気になった飯田は、矢口に何をしているのか
訊いてみた。
「あんた何やってんの?」
「これこれ。寝室の引き戸を開けると、一気に照明が点くのだぴょ〜ん」
矢口は得意気に胸を張る。しかし、飯田には詳しい事が判らない。
「何で矢口に電気工事士みたいな知識があるわけ?」
「アハハハハー!雑学だってばー」
センサーを利用した本格的なセキュリティシステムを、安い部品だけで組上げ
てしまう矢口の知識は凄い。普通、ここまで出来る十九歳の女の子は、まずい
ないだろう。こういったマニアックな事を雑学で片付けてしまう矢口に、飯田
はただならぬ不気味さを感じていた。
334女の子だよ!:02/03/12 17:53 ID:YJUO08Gh
ファイル21 ヒットマン

 その夜、飯田の部屋のドアが音も無く開いた。特殊な工具を使って鍵を開け
たらしい。時刻は深夜二時であり、勿論、飯田も熟睡中だ。暗闇の中、スター
ライトビジョンを装着した小柄な影が、ダイニングから寝室に向かって行く。
そして寝室の戸を開けた時、突然電気が照らされ、スターライトビジョンはハ
レーションを起こして何も見えなくなってしまう。侵入者はスターライトビジ
ョンを脱ぎ捨てた。
「意外と遅かったね」
侵入者は眼の前に立っている飯田を見て仰天する。侵入者はすかさずサバイバ
ルナイフを振りかざした。
「バカだね。そんなもので勝てると思ってんの?」
侵入者がナイフで襲い掛かった時、飯田の破壊的な蹴りが飛んだ。侵入者はダ
イニングテーブルをひっくり返し、電子レンジに激突して動かなくなる。凄ま
じい物音に、隣室の安倍がパジャマ姿のまま飛び込んで来た。
「どうしたべさァァァァァァァァー!」
安倍がキッチンを見ると、若い女というより、まだ少女が倒れていた。飯田は
侵入者の少女の腹に蹴りを入れる。息が詰まる苦しさに、少女は眼を醒ました。
「テメエ、何者だ?」
飯田は少女の胸倉を掴む。しかし、少女は横を向いて、何も喋ろうとはしなか
った。
「ふーん、まあいいさ。家宅侵入・傷害未遂容疑の現行犯だね」
その時、ドアから飛び込んで来たのは保田だった。保田は希美が無事かどうか
を訊く。
「ののならなっちの部屋だべさ。こういう事もあろうかと、予め備えておいた」
「良かった・・・・・・」
保田は無表情のまま、侵入者の少女を見る。その時、保田は少女が誰だか判ら
なかった。キッチンが暗く、少女が俯いていたせいもある。
「保田さん、どうしてここに?」
安倍は保田が近くにいた事を不思議に思った。
「辻希美が狙われるんじゃないかと思ってね」
「ふーん・・・・・・」
安倍は首を傾げた。安倍は保田が近くにいた事に違和感を感じる。童夢園の連
中が動くなら夜に決まっている。それならば、ここで見張るよりも童夢園を見
張った方が良い。
「なっちさん、大型バイクが走り去って行ったよ。あの音は水平対向エンジンだ
から、BMWに間違い無い」
矢口が希美を連れてやって来た。矢口の部屋は一階なので、慌てて階段を昇っ
た時にバイクを目撃したのである。
「どうでもいいけど、何で矢口がバイクに詳しいの?」
飯田が首を傾げながら訊いた。矢口は思わず希美を抱き締めながら、笑って誤
魔化す。
「アハハハハー!雑学雑学」
BMWのバイクが水平対向エンジンであるという事など、かなりマニアックな
人間しか知らないはずだ。まして十九歳の女の子で知っているのは稀だろう。
「に・・・・・・新垣ちゃん?」
希美は侵入者の少女を見て言った。少女は希美を見ると再び俯く。
「何?童夢園の新垣理沙?」
保田は少女の顔を覗き込む。確かに保田が手に入れた集合写真に写っている新
垣と同一人物である。
「新垣ちゃん、ののを殺しに来たの?」
希美は泣きながら訊いた。新垣は隙を覗って、落ちているサバイバルナイフに
飛びつく。しかし、一瞬早く、飯田がナイフを踏みつけた。
「ちくしょう!」
新垣はナイフを掴むが、飯田に踏まれているため、びくともしない。
「新垣っていったっけ?少し寝てなよ」
飯田の踵が新垣のこめかみに決まった。無言で白目を剥く新垣。
 間も無く石黒が駆けつけ、新垣を連行して行った。少し遅れて稲葉と石井も
到着する。稲葉は新垣が連行された事に、地団駄を踏んで口惜しがった。
「稲葉さん、ちょっと気になる事があるべさ」
安倍は稲葉と二人で話をする。その間、石井が保田と飯田から状況を訊いた。
335女の子だよ!:02/03/12 17:54 ID:YJUO08Gh
ファイル22 怪しい警察官

「何?保田が?」
稲葉は安倍の言う事が信じられなかった。確かに保田は妙にマニュアル主義的
なところがあるし、冷たい感じがする。
「いや、うちも平家が証拠を見つけたのを、何で童夢園が知ったか、不思議やっ
た。けど、内通者とは・・・・・・」
稲葉は眉間に皺を寄せて考え込んだ。保田なら童夢園を調べているので、平家
がゴミ箱を漁ったのも知っているだろうし、行動を監視する事も出来る。
「それに、童夢園を監視していた方が効率的なのに、圭織の部屋にヒットマンが
入った時、すぐに駆けつけたべさ。様子を覗ってたのかもしれないっしょ?」
「信じたくないけどな」
稲葉は困惑していた。保田が内通者である証拠が無いからだ。
「保田さんを調べてみた方がいいんでないかい?」
「そやな。ヒットマンが逮捕された事やし、うちらも暇んなるわ」
「稲葉さん、この事は誰にも・・・・・・」
「OK、知っとんのは誰や?」
「警察関係では夏警部だけ」
稲葉は驚いた。石黒や飯田よりも信用されているとは思わなかったからだ。
「石黒と飯田には話しとらんのか?」
「話せないっしょ?」
保田を捜査に推薦した石黒には話せない。飯田に話せば激昂して保田を血祭り
にしてしまうだろう。
「うちは信用出来るんか?」
「裕ちゃんに聞いた。稲葉さんは夏警部以上に信用出来るって」
「裕子・・・・・・」
稲葉は眼が潤んで来た。鼻水をすすり「さむ!」と言って誤魔化す。
「それじゃ、稲葉さん、宜しく頼むべさ」
安倍は真剣な顔で頭を下げた。稲葉も真剣な顔で受け止める。
 安倍が飯田の部屋に戻ると、石井と保田が矢口から話を訊いていた。矢口は
持ち前の明るさで陽気に応じている。
「あのバイクはBMWに間違いないよ。水平対向エンジンの音だったしね」
「水平対向エンジン?」
保田が首を傾げた。バイクに関しては無知であるため、保田は矢口の言う意味
が判らない。保田にしてみれば、ジェットエンジンとレシプロエンジンくらい
しか区別出来ないのだ。
「BMWが特許を持ってるエンジンだよ。V型エンジンより重力のロスが無いの
。いかにもドイツ人らしい発想だよね」
保田は矢口の知識に舌を巻いた。余程のバイクマニアでないと、ここまでの知
識は無いだろう。
「国産の大型バイクと見間違えたって事は?」
今度は石井が質問した。安倍は石井が妙にムキになっているのを感じる。
「それは無いよ。国産で四気筒以上のバイクは、あんな音じゃないもん」
「言い切れますか?」
石井はムキになって訊いた。保田は思わず石井を見る。飯田を尋問した時には
、こんなにムキになっていなかったからだ。
「そう言われると、ちょっとね。九十九パーセント間違いないんだけど」
「そうですか。それでは、BMWのようなオートバイでいいですか?」
石井はバイクにこだわった。安倍はなぜ石井がバイクにこだわるのか疑問に思
う。石井はその質問が終わると、事情聴取を終えてしまった。
「矢口さん、バイクは詳しいようですが、飛行機は何で飛べるか知ってます?」
保田は矢口に質問する。矢口は保田の質問の意図が判らず、とりあえず「知って
る」とだけ言った。
「なぜですか?答えて下さい」
「それは航空機の主翼の形状が影響してるの。主翼の断面図は極端に言うとカマ
ボコ型をしてる。主翼は前方から風が当たると、上を流れる空気の方が、長距
離を移動するでしょう?つまり、上の部分の気圧が下がるから、主翼が上に引
っ張られるの。だから飛行機は浮くんだよ。でも、それがどうしたの?」
保田は矢口の説明を聞きながら、真剣に頷いていた。安倍も息を呑んで保田の
表情を観察する。
「いや、何であんな鉄の塊が空を飛ぶのかと思って」
「それだけ?」
矢口は保田を見つめる。保田も矢口を見つめながら、無表情のまま言った。
「いけませんか?でも、矢口さんは、どうしてそんな事を知ってるんですか?」
「アハハハハー、雑学だよー」
基礎とはいえ、航空力学を知っている矢口は凄い。普通の十九歳の女の子なら
、「エンジンがあるから」とか「羽根がついてるから」くらいの回答しかしないだ
ろう。雑学で片付けるには、ちょっとマニアックすぎる。
「保田さん、あの人は?」
安倍は石井の事を訊いた。バイクにこだわったのが気になっていたのである。
「石井さんですか?彼女は渋谷署の人間ではありません。本庁の人です。稲葉さ
んの補佐をしていますよ」
「ふーん、そうなんだべか」
安倍は稲葉と話す石井を見ていた。
336女の子だよ!:02/03/12 18:04 ID:FeLfkhEO
ファイル23 突入

 新垣は黙秘を守っていたが、夏と石黒の厳しい追及に、ついに自白をした。
自分に命じたのは園長の和田だったが、犯行したのは平家殺害だけで、他は何
も知らないようである。
 一歳前から童夢園で育てられた新垣は、和田からヒットマンになるべく教育
を受けていた。つまり、マインドコントロールされていたのである。新垣は完
全な殺人マシーンだった。
 夏は新垣の供述を受け、稲葉と石黒に捜査員を集めさせる。そして夏は間髪
入れずに童夢園の強制捜査に踏み切った。
「少女は保護しろ。職員は全員逮捕だ!」
夏は抵抗する浜田を投げ飛ばし、胸倉を掴む。
「公務執行妨害の現行犯だァァァァァァー!この外道がァァァァァー!」
夏の迫力にびびりまくる浜田。『鬼の夏』と異名を持つだけあり、彼女の迫力
は物凄い。
「俺は抵抗せえへんで」
松本は蒼くなって言った。しかし、稲葉は興奮している。可愛がっていた平家
を殺された憎しみは、他の誰よりも激しいものだった。
「テメエも虐待の一味だろうがァァァァァー!平家をかえせェェェェェー!」
松本の首にラリアットを炸裂させる。松本は白目を剥いて昏倒し、数人の警官
が手錠をかけた。
「冗談じゃねえぞ!オラァァァァァァァー!」
最も激しく抵抗したのが石橋だった。身長百八十六センチの巨漢である。数人
の警官が飛び掛るものの、ことごとく投げ飛ばされ、蹴り飛ばされ、そして殴
りとばされた。
「飯田!」
石黒は渋谷署の秘密兵器である飯田を呼んだ。飯田は腕を組んで石橋と対峙す
る。長身の飯田でさえ、巨漢の石橋の前では小柄に見えてしまう。
「ねえ、大人しく逮捕されてよ。圭織、暴力は嫌いなの」
しかし、興奮した石橋は、飯田に向かって来た。
「ふざけんなァァァァァァァァー!」
顔面に向かって来る石橋の蹴りをかわした飯田は、ガラ空きの股間に膝を入れ
た。
「あうっ!」
石橋は内股になって前屈みになった。すかさず飯田は石橋の頭を膝で挟んで抱
え上げる。これだけの巨漢を軽々と持ち上げる飯田に、周囲の警官達は恐怖す
ら感じた。
「抵抗するからだよ。圭織、悲しいな」
そして、そのままパイルドライバーを決めると、石橋はあえなく撃沈する。飯
田の強さに唖然とする警官達。
「さあ、確保しちゃってくれるかな?」
飯田が言うと、警官達は震えながら石橋に手錠をかけた。
「亜衣!亜衣はどこやァァァァァァー!」
聞き覚えのある声に夏が振り向く。そこには中澤の姿があった。
「アホ!お前はまだ動ける身体ないやろう!」
稲葉が中澤を抱き止めた。中澤は必死の形相で暴れる。しかし、その力は弱々
しく、稲葉は悲しくなって来る。
「稲葉、中澤を連れて来い!」
「でも・・・・・・」
「いいから連れて来るんだ!」
そう言うと夏は二階の園長室の前に来た。しかし、中から鍵がかかっている。
「こんなもの!」
夏は思い切り体当たりするが、弾かれてしまう。痩身の夏では無理な話だ。
「警部、圭織に任せて!」
夏が振り返ると、百キロ以上はあるエレクトーンを担いだ飯田が立っていた。
「みんな、一時避難しよう」
飯田はエレクトーンをドアに叩きつけた。凄まじい音がしてエレクトーンとド
アが破壊される。部屋の中には亜衣を抱き締めた和田がいた。しかも、亜衣の
首にナイフを突きつけている。
「亜衣・・・・・・」
中澤は初めて見る妹に溢れる涙を隠せなかった。
「その子を離せ!」
夏は拳銃を構える。しかし、和田を撃とうにも亜衣を盾にしているので、どう
しようもない。
337女の子だよ!:02/03/12 18:05 ID:FeLfkhEO
ファイル24 中澤と亜衣

「くそう!順調だったのに、もっと早く希美を殺しておくべきだったな」
和田は亜衣の首に当てたナイフを握り直す。警官達が続々と階段を昇って来る
が、夏は身振りで止めた。張り詰めた空気が流れる。
「うううう・・・・・・どうすれば・・・・・・」
夏は拳銃を構えたまま、頭をフル回転させた。飯田を使って何とか出来ないか
。交渉の上手い石黒を使えないか。素早い稲葉に何とかさせるか。夏の頭は各
場合の成功率を弾き出す。どれも効果的ではないという結論に達した。
「そこをどけ!逃走用のクルマと飛行機を用意しろ!」
和田が要求を突きつけて来た時、中澤が稲葉を振り払って飛び出した。力の出
ない中澤が、渾身の力を込めて稲葉を振り払ったのである。脇腹の傷口から、
微量ながら再び出血した。
「裕子!」
稲葉が止めるのもきかず、中澤は和田の前に立ちはだかる。その眼は、自分の
命を賭しても、亜衣を救うという覚悟に満ちていた。
「うちを・・・・・・うちを人質にせえ!だから、その子は放してやり!」
「あなたは・・・・・・」
亜衣は泣きそうな顔で中澤を見る。中澤はその眼を見て優しく微笑む。
「テメエ、生きてたのか!このガキがしくじりやがって」
和田は亜衣の首を締める。何と、中澤を刺したのは亜衣だったのだ。和田に命
令され、虐待が怖くて仕方なく従ったものの、その晩から悪夢に悩まされ続け
、不眠症になってしまっていた。
「やめんかコラァァァァァァァー!」
中澤は和田が持つナイフの刃を素手で握った。これには和田も仰天する。その
隙に亜衣は逃げ出し、和田の身体が曝された。夏の拳銃が火を吹き、和田は肩
を撃ちぬかれ、ナイフを放して倒れこむ。
「裕子!」
稲葉が中澤に駆け寄る。しかし、中澤は手の怪我をものともせず、稲葉を突き
飛ばして亜衣を抱き締めた。
「亜衣・・・・・・判らへんやろ?・・・・・・お姉ちゃんやで」
「裕子・・・・・・」
稲葉は二人を見つめた。夏は和田の悲鳴で我に戻る。すると、飯田が凄まじい
表情で和田を殴っていた。
「テメエだけは許さねえ!」
飯田の蹴りが入ると、和田の腕は音をたてて変形する。夏は慌てて飯田を羽交
い絞めにした。
「離して!こいつだけは、こいつだけは許せない!」
「圭織!」
石黒も飯田に抱き付いた。このままでは和田を殴り殺してしまう。
「飯田!あたしがやるよ!」
夏は再び拳銃を取り出すと、和田の頭に拳銃を向けた。これを見た飯田は固ま
ってしまう。
「け・・・・・・警部、あかん・・・・・・・撃ったらあかん」
稲葉はそう声をかけるのが限界だった。夏は怒りに燃えた眼で和田を睨む。和
田は恐怖に眼を剥いた。
「この場で死刑宣告だ」
夏が拳銃を握りなおすと、我慢出来なくなった飯田が飛びついた。拳銃は発射
されたが、その銃弾は和田の足元の床に突き刺さる。
「ごめんなさい!圭織が悪かったの。だから、撃たないで!」
「バカ!本当に撃つところだったでしょう!」
夏は飯田を突き飛ばして怒った。
「へっ?撃つ気じゃなかったの?」
「あたりまえだろうがァァァァァァー!」
夏は危うく和田を撃つところだったので、冷や汗をかいた。石黒と稲葉が和田
に手錠をかける。普段は仲の悪い二人だが、今は互いに笑顔だ。
「さすが夏警部だね」
「そやな」
二人が和田を連れて行くと、飯田と夏は中澤と亜衣を見る。中澤の手からは血
が流れていたが、本人は全く感じていないようだ。
「うち、あんたを刺したんやで」
亜衣は泣きそうな顔で言った。中澤は涙を溢しながら亜衣の頬を触る。不義の
果てに生まれた妹を嫌悪した頃もあった。もう死んだと諦めかけた事もあった
。しかし、中澤にとっては亜衣が唯一の肉親なのである。
「こんな怪我・・・・・・亜衣が受けた心の傷に比べたら・・・・・・ほんの掠り傷や」
「この匂い・・・・・・・あの時も、この匂いがした・・・・・・だから・・・・・・だから、思い
切り刺せんかったんや・・・・・・お姉ちゃん」
亜衣は中澤に抱き付いた。そして堰を切ったように泣き出す。
「亜衣、すまんかったな・・・・・・こんなに待たせて・・・・・・ごめんな」
思わず貰い泣きする飯田。夏はハンカチで自分の眼を拭ってから、飯田に優し
く声をかけた。
「飯田、加護亜衣は渋谷署に任せたよ」
「え?」
意味が判らず、首を傾げる飯田。
「傷害事件だろ?あたしの部署の仕事じゃない。好きなようにしな」
夏は飯田の肩を叩くと、一階に降りて行った。これが夏の精一杯の気持ちだっ
たのである。
「そうか、そういう事か。さすが夏警部」
飯田は涙を拭いて、嬉しそうに微笑んだ。
338女の子だよ!:02/03/12 19:19 ID:AWV9ZfuR
ファイル25 妹

 全員が渋谷警察署に引き揚げると、そこには安倍と矢口が希美を連れて待っ
ていた。飯田を見つけた希美が走り寄って抱きつく。厳しい顔をしていた飯田
も、希美に抱きつかれては笑顔になるしかない。
「夏警部。恐らく今夜だべさ」
「うん」
安倍と夏は小声で会話した。その時、最後尾にいる中澤を見て、安倍は仰天す
る。入院してるはずの中澤がいるからだ。
「裕ちゃん!何やってんだべさァァァァァァァァァー!安静にしてなきゃ駄目っ
しょー!」
安倍の声に気付いた矢口は、中澤を見つけて歩み寄る。
「よっ、矢口」
中澤はバツが悪そうに頭を掻いた。矢口は中澤を睨みながら涙を溜める。
「バカァァァァァァァー!」
矢口の平手が飛んだ。すると頬を押える中澤を抱き締め、矢口に謝る少女がい
る。亜衣であった。
「堪忍したって!お姉ちゃんはうちを救うために・・・・・・・どつくんやったら、う
ちをどついてんか」
亜衣は必死に中澤を庇った。矢口は怒るのを忘れて二人を見る。
「次から次へと、みんな中学生の女の子を連れて来るんだべねえ」
安倍は溜息をつきながら矢口を見た。矢口は首を傾げながら、亜衣の顔を覗き
込む。
「今さー、お姉ちゃんって言わなかった?」
「矢口、安倍、紹介します。妹の亜衣、背はまあ低い方だけど・・・・・・」
中澤が亜衣を二人の方に向けると、ペコリと頭を下げた。
「いもいもいもいも・・・・・・妹?」
矢口は仰天した。福知山の母が死んでからは、天涯孤独だと言っていた中澤。
それなのに、急に妹と言われても、二人は動揺するだけだった。
「亜衣はうちの異母妹なんや。探したで、十年かかったしな」
中澤は亜衣を抱き締めた。
「あいぼーん!」
聞き慣れた甲高い声に亜衣が振り向くと、希美が走って来た。
「ののちゃん!」
二人は嬉しそうに抱き合った。それを見ていた矢口は、思わず微笑んで安倍に
言う。
「妹か・・・・・・何だか矢口も妹に逢いたくなっちゃったなー」
「アハハハハ・・・・・・事件が解決すれば、裕ちゃんが復帰するまで休暇がとれるべさ」
「えっ?事件は解決したんじゃ・・・・・・・そうか」
矢口は石黒と話をしている飯田を見つめた。飯田は困ったように首を振ってい
る。
「駄目だよ。夏警部の命令だもん」
「どうして圭織だけなの?夏警部だって拳銃を向けたじゃん」
「あたしはサラリーマンだからさ、上司には逆らえないでしょう?」
「サイテー」
石黒は飯田に手錠をかけると、留置場に放り込んだ。これを見ていた希美は、
泣いて石黒に殴りかかる。安倍と矢口は希美を引き離し、ロビーの片隅に連れ
て行く。矢口は自販機でココアを買い、希美に飲ませた。そして具体的な話を
する。
「そうなんれすか?」
希美は二人の顔を見た。希美は納得さえすれば、とても素直である。
「これでカタがつくべさ」
安倍は信念を持って言った。
339女の子だよ!:02/03/12 19:20 ID:AWV9ZfuR
ファイル26 鬼の涙

 夏は内通の容疑がかかった者を、今回の摘発から外していた。当然ながら保
田も外された一人である。夏は保田に摘発の日時も何も告げていない。そのた
め、保田が摘発の事実を知ったのは、テレビで報道されてからであった。納得
の行かない保田は、会議室に設けられた捜査本部の夏に噛み付く。
「どうして連れて行ってくれなかったんですか?」
保田はこんな時でも無表情だった。それは自分の心を覗かれる事への、抵抗の
ようでもある。夏は書類を置くと、保田の眼を見据えた。
「平家が殺されたのは、誰かが内通したからだ。そう思わない?」
「ええ、まあそうですね・・・・・・まさか、私に容疑が?」
保田は無表情のまま夏を見た。こんなに無表情では、何の反応も感じる事が出
来ない。怪しいといえば怪しいが、内通した証拠は無いのだ。
「そうだ。だから外した」
「凄く口惜しいし、残念です。警部には信じて貰ってると思ってたのに」
保田は冷たいくらいに無表情だった。言葉では自分の感情を言っているのに、
表情は全く変わらない。
「あたしだって信じたいよ。でも、お前が一番内通しやすい位置にいたのは事実
なんだ。お前が潔白だという証拠と時間が無かった」
夏は口惜しそうに言った。保田が潔白であるのは、ほぼ間違いないだろう。し
かし、確証が無ければ摘発に参加させるわけには行かない。それは捜査の責任
者として当然の事である。
「私の他に容疑者は?」
保田が訊ねると、夏は眼を閉じながら腕を組み、考えをまとめてから言った。
「もうじき和田も供述を始めるだろう。そうなれば、誰が内通者なのか判明する
よ。だから話してもいいね。うん、容疑者は保田圭・石井里佳・小湊美和の三
人だ」
夏は冷静に言った。しかし、彼女の眼は、内通者は絶対に許さないという信念
に満ち溢れている。
「私は内通者ではありません」
「そんな事は判ってるんだ!でも証拠が無いんだよ!証拠さえあれば、みんなを
納得させられた・・・・・・保田!恨むなら私を恨め!・・・・・・いいな?」
「そんな・・・・・・」
保田は見た。あの夏が涙を溜めている。凶悪犯でさえ怯える夏が、今にも泣き
そうな顔をしているのだ。「鬼の夏」と仇名される猛者が、自分のために涙を溜
めている。そう考えると、保田は何も言えなくなってしまった。
「判りました。失礼します」
保田は無表情のまま、捜査本部を出て行った。夏は他に誰もいない部屋で、声
を上げて泣き始める。
「保田・・・・・・すまない・・・・・・でも、あたしは間違ってないよね・・・・・・裕子」
夏は机に突っ伏し、暫く号泣していた。
340女の子だよ!:02/03/12 19:21 ID:AWV9ZfuR
ファイル27 内通者を誘き出せ

 和田への取調べは熾烈を極めた。それは法に触れるギリギリの範囲で行われ
、事実上の拷問と変わりは無い。それでも和田は黙秘を守った。下手に供述し
ようものなら、今度は暴力団のヒットマンに狙われる羽目になるからだ。しか
し、和田の供述は時間の問題だろう。夏と稲葉の尋問で、口を割らなかった者
はいないからである。
 和田が留置場に戻されたのは、深夜一時を過ぎた頃だった。留置場に戻った
和田のところへ、石井が現れる。石井は和田の入っている房の前に来ると、小
声で声をかけた。しかし、和田は眠っているらしく、全く動かない。
「和田さん、首が痛むでしょう?これで冷やしてあげますよ」
石井は熱ピタクールを差し出した。それでも動かない和田に苛立ち、石井は持
っていた合鍵で開錠して房の中に入って来る。石井はベルトを取り出し、ゆっ
くりと和田に近付いた。薄暗い廊下の蛍光灯に加え、顔まで毛布をかけている
せいで、和田の表情は判らない。石井は素早く和田の首にベルトを通すと、一
気に締め上げた。片手が使えない和田であれば、石井でも簡単に絞め殺す事が
可能である。石井は渾身の力で締め上げるが、和田は妙な声で非難した。
「なにすんのよー、苦しいじゃないよ」
仰天した石井が見ると、そこにいたのは和田ではなく飯田だった。
「あなあなあな・・・・・・あなたは、飯田圭織・・・・・・どどどどどうしてここに?」
「ああ、和田の腕を折っちゃったからねー。それより何?人が気持ちよく寝てる
のに首なんか絞めてさー」
いくら女性とはいえ、渾身の力で締め上げたのに、飯田は顔にタオルが乗った
くらいの感覚でしかない。普通の女性なら確実に失神しているはずだ。
「み・・・・・・見られた!・・・・・・いつの間にか警戒されていたのね?仕方ない!飯田
、死んで貰うわよ!」
石井はナイフを出して身構えた。しかし、飯田は眠くてたまらない。石井の話
など、ほとんど聞いていなかった。
「何?リンゴ剥いてくれるの?圭織いらなーい」
「恨まないでね」
石井は飯田に突進して来た。飯田は迷惑そうに手で追い払う。
「くっ!今度こそ!」
石井は何度も飯田に突きかかる。いい加減頭に来た飯田は、石井に怒鳴った。
「うっせえんだよ!テメエも寝ろ!」
飯田は石井の首を掴むと、コンクリートの壁に顔面を叩きつけた。
「あがっ!」
石井は顔面を強打し、鼻血を噴出しながら昏倒する。動かなくなった石井を見
て、飯田は嬉しそうに笑った。
「これで眠れるわね。圭織、シ・ア・ワ・セ。うふっ」
飯田が毛布に潜り込んだ時、夏と石黒がやって来た。床に昏倒する石井を見た
夏は、内通者が彼女である事を再認識する。
「安倍の言った通りだったね。房を入れ替えておいて正解だった」
夏は石黒に言った。安倍はバイクにこだわる石井に不審を抱き、夏に電話した
のである。半信半疑でBMW製オートバイのオーナーを稲葉に探させると、和
田の名前があった。更に稲葉に石井を調べさせると、童夢園の疑惑が報道され
た頃から、急に金回りがよくなっている。石井は保田を飛び越え、最も怪しい
人間になっていた。
 そこで夏は飯田を留置場に入れ、和田と入れ替えたのである。保田の疑いは
完全に晴れたわけでは無かったが、石井にしろ保田にしろ、拳銃を使わない限
り、飯田には勝てるわけが無かった。全ては安倍の提案である。
 夏は石井の回収を留置所の係員に指示すると、毛布を被った飯田に歩み寄っ
た。
「飯田、もういいよ」
毛布を捲った夏は、凄まじい形相の飯田と眼が合ってしまう。これにはベテラ
ンの夏も仰天した。
「ねえ、どうしてみんなで圭織の安眠を妨害するの?昨夜は二時に起こされて、
思いっきり睡眠不足なんだよ。これってさー、一種の虐待じゃない?虐待する
人は圭織が許さないんだから」
「い・・・・・・飯田、落ち着け・・・・・・話せば・・・・・・判るよね」
あの夏がびびっている。飯田の実力を知る人間ならば、誰でもそうだろう。
「圭織!駄目だよ」
石黒が飯田に抱き付いた。その瞬間、飯田の裏拳が顎に決まり、石黒は白目を
剥いて昏倒してしまう。
「警部、寝かせてくれる?」
飯田は部屋の隅に蹲る夏に言った。あの夏が震えている。暴力団員でもびびる
鬼の夏が怯えていた。
「うん・・・・・・約束する」
「警部も疲れたでしょう?一緒に寝よ」
「ひっ!」
あまりの恐怖に夏は気を失った。飯田は夏と石黒を見て考え込む。そして溜息
をつくと、二人を小脇に抱えて房から出て行った。
341女の子だよ!:02/03/12 19:21 ID:AWV9ZfuR
ファイル28 夏

 翌日、和田は全てを自供した。裏金は全て政治献金と暴力団に流れており、
警視庁では近々、大掛かりな暴力団壊滅作戦を展開する事になっている。
 石井は和田に買収され、童夢園に捜査情報を流していた。摘発後、公安警察
がやって来て、石井の身柄を引き取って行く。公安警察に身柄を渡された背任
行為の警官は、なぜか行方不明になってしまっていた。
「警部、石井はどうなったんやろ」
稲葉は夏に訊く。すると夏は窓から外を眺めながら言った。
「お前は知らない方がいい」
夏は大都会の雑踏に眼をやる。そこには希望や絶望、愛情や憎しみ、喜びや悲
しみ、喜びや怒りが同居していた。それが大都会なのだという事を知るまで、
夏は十年かかっている。
 警察学校の教官時代、「警察は犯罪に立ち向かって行く」と言ったところ、真
っ向から否定する奴がいた。
「犯罪は人間が起こすものです!警察は罪を犯した人間に立ち向かう!」
そう言って睨みつけたのが中澤だった。確かに中澤の言う事は正論だった。犯
罪といった漠然としたものよりも、よっぽど判り易いし説得力がある。「罪を憎
んで人を憎まず」なんてのは、単なる妄想にすぎない。自分では理解していても
、夏は中澤を殴った。それが仕事だと思ったからである。その直後、背の低い
奴も言った。
「犯罪って何やの。犯罪が一人歩きするんかい!犯罪は人間が起こすんやろ!」
それが稲葉だった。夏は稲葉の胸倉を掴んだ。
「教官、犯罪があるから人間がおるんやない。人間がおるから犯罪があるんや」
稲葉の胸倉を掴んだ手にしがみつく中澤。
「犯罪は誰でも起こす可能性があるんや。だから警察が必要ちゃうの?」
夏は自分でも可笑しくなるくらい興奮していた。中澤を殴り稲葉を殴った。し
かし、その時、夏は自分には他人を教えるだけの経験が無いとこに気付いたの
である。
 中澤と稲葉がいなければ、今日の夏は存在しなかった。そんな事を思い出し
ながら、夏は思わず笑ってしまう。
「警部、何が可笑しいんです?」
稲葉が夏の横に来て外を眺める。全く普段の風景と変わらない。稲葉が首を傾
げていると、夏は肩を叩いた。
「お互い、歳をとったもんだって言ったの」
「へっ?」
意味が判らず考え込む稲葉。
(うちはまだ三十前やけど・・・・・・そろそろ結婚せえってか?)
真剣に意味を考える稲葉を見て、夏は眼を細めた。
(飯田には希美、中澤には亜衣、安倍には矢口、あたしには?・・・・・・稲葉だな)
夏は自分の妹を考えていた。やはり稲葉である。夏は稲葉の頭を撫でた。
「さあ、書類を仕上げなきゃね」
夏に頭を撫でられ、稲葉は不安になって考え込んでいた。
342女の子だよ!:02/03/12 19:23 ID:km4x1wFE
ファイル29 その後

 事件解決と中澤の快気祝いを兼ねて、中澤のマンションで飲み会が行われる
事になった。妹の亜衣は中澤が作った料理をテーブルに運ぶ。亜衣は一応逮捕
されたが、石黒と飯田の努力で送検は見送られた。亜衣も被害者なのだから、
考えてみれば当然である。浜田に殴られて破けた鼓膜は順調に回復し、もう生
活に支障は無い。
 結局、童夢園は閉鎖され、在園者達は他の施設に分散された。里田まいをは
じめ、性的虐待を受けた少女達は、一時的な入院治療が施され、カウンセリン
グを受けながら社会復帰に向けて頑張っている。
 逮捕された和田以下四名の職員は、身柄を東京検察庁に移され、殺人・婦女
暴行・不法監禁・脱税等の容疑で連日、厳しい取調べをうけている。まだ十三
歳の新垣理沙については家裁送致が決定し、審判の日を待っていた。
「亜衣、リンゴ剥いてくれへん?」
「えー!お姉ちゃんが剥けばええやん」
「アホ!うちは手を十二針も縫ったんやど」
「何や!その言い方は!」
中澤と亜衣は思い切り性格が似ている。二人が睨みあってると、安倍と矢口が
やって来た。
「ヤッホー、何?また姉妹喧嘩だべか?」
「全く、本当に似た者姉妹だよー」
四人で談笑していると、夏と稲葉がやって来る。稲葉は部屋の中を見回して憎
まれ口を叩いた。
「趣味の悪い部屋やなー」
「何じゃコラァァァァー!」
亜衣が稲葉に眼を剥く。さすがに子供相手にはケンカできない稲葉は、笑って
誤魔化した。
「あれ?圭織は一緒じゃなかったんだべか?」
安倍は飯田がいないので、夏に訊いてみた。考えてみれば石黒もいない。
「あの二人は保田を連れて来るのよ」
「圭坊か、あいつとは飲んだ事ないな」
中澤がキッチンから顔を出して話に加わった。すでに料理は出来上がっており
、後は乾杯を待つだけである。
「遅いべね」
「やっぱり、恨んでるだろうね」
夏は悲しそうな顔で言った。保田は自分が疑われ、夏に着手から外された事を
恨んでいると思ったのである。
「なっちが悪いんだべさ。根拠も無いのに保田さんを疑って」
「二人共アホやな。安倍は探偵として、自分の推理を話したまでやろ?夏さんか
て、捜査の責任者やったら、当然の事をしたまでや。圭坊も判ってるはずやで」
中澤は安倍と夏を慰める。確かに時間が無かった。それに、まさか石井が内通
者だったとは、誰も思っていなかったのだから仕方がない。
「もう始めちゃおうか」
矢口が言った時、石黒・保田・飯田・希美がやって来た。
「遅くなってごめんねー」
「うわー、凄いご馳走なのれすー!」
「よーし、事件解決と中澤の完治を祝って乾杯!」
「あーん、待ってよー」
343女の子だよ!:02/03/12 19:23 ID:km4x1wFE
ファイル30 エピローグ

 二時間後、夏・中澤・石黒・稲葉の四人は、完全に酔い潰れている。残った
保田・飯田・安倍・矢口・希美・亜衣の六人は、愉快に談笑していた。それと
いうのも、保田は酒が入ると別人のようになってしまうからである。
「アハハハハ・・・・・・そんなに変わる?」
保田は大声で笑った。この写真を撮って署内報に載せれば、署員全員が仰天間
違いない。
「いや、なっちは保田さんの事を疑ったべさ。本当にごめんなさい」
「それでさー、弟さんは大丈夫なの?」
矢口が訊くと保田は俯いてしまった。そして小さな声で言う。
「死んだの・・・・・・」
「そんな!」
安倍は悲しげに顔を顰めた。矢口も悪い事を訊いてしまったと反省する。
「・・・・・・かなと思ったら元気になっちゃって!」
「へっ?」
安倍は貰い泣きモードに入ろうとしていたのに、突然裏切られて固まった。
「もー!悪い事訊いちゃったって思ったんだからねー!」
矢口は興奮しながら、近くにあったグレープジュースを一気に呷る。
「あ、それ圭織のワインだよ」
「もう遅いべさ」
「うげっ!ワインだよこれ」
矢口が顔を顰めると、保田が指差して言い出した。
「未成年がワイン飲んでる。いけないんだー、アハハハハー!」
「ほんまやほんまやー」
「いけない人なのれす」
しかし、矢口は次第に無口になって行った。それは矢口が酔って来た証拠であ
り、安倍は警戒を始める。
「圭織、ちょっと危ないかも」
安倍は飯田に耳打ちする。飯田は苦笑しながら頷いた。安倍は矢口の様子を見る。
「矢口ー、酔って来たんじゃないべか?」
その瞬間、矢口のヘッドバットが安倍の顔面に炸裂した。
「キャァァァァァァァァー!痛いべさァァァァァァー!」
顔面を押さえてのたうち回る安倍。
「誰に口きいとんじゃァァァァァァァァー!呼び捨てか?アアン!」
飯田が背後から抱えようとした瞬間、矢口は安倍の腹にエルボーを決めていた
。矢口は酔うと凶暴になる。要するに酒乱なのだ。
「やっぱ・・・・・・トウモロコシが・・・・・・・お似合・・・・・・い・・・・・・がくっ!」
仰天する保田と希美、亜衣の三人。
「狛犬!何見とんじゃァァァァァァー!」
矢口は逃げ出す保田を捕まえ、一気に卍固めを決める。
「あぎぎぎぎぎ・・・・・・・(みしっ!)・・・・・・おじいちゃんが・・・・・・作った・・・・・・遊
園地・・・・・・がくっ!」
「矢口ー、それ以上は犯罪になっちゃうよ」
飯田が宥めるものの、酒乱矢口には馬の耳に念仏である。
「も・・・・・・もう立派な犯罪なのれす」
「コラァァァァァァー!テメエ等もちょっとは成長しろォォォォォォー!」
矢口が希美と亜衣の胸倉を掴んだ時、とうとう飯田がやって来た。さすがに希
美が襲われては黙っていられない。
「矢口、ちょっと寝てなよ」
「何だと?」
矢口が飛び掛った瞬間、飯田は矢口を抱え上げ、床に叩きつけた。凄まじい地
響きが発生し、夏と中澤が飛び起きる。
「何や?」
「どうした?爆発事故?」
二人が見たものは、白目を剥いて痙攣する矢口だった。
「本領発揮・・・・・・見せて・・・・・・・あげる・・・・・・わ・・・・・・がくっ!」
矢口が動かなくなると、飯田は二人の頭を撫でる。
「怖かったね。でも、もう大丈夫だからね」
恐怖で震えている希美と亜衣。当然ながら、二人は矢口よりも飯田に怯えてい
た。
「騒ぐ奴は逮捕するぞ」
「矢口はまだ十九やろ?酔うまで飲ませたらあかんて」
それだけ言うと、夏と中澤は熟睡モードに入って行った。

辻希美・・・・・・・・飯田希美となり、圭織の妹となる。現在圭織と同居中
加護亜衣・・・・・・中澤裕子の扶養家族となる。現在、希美と同じ中学に通う


                ―終―
344女の子だよ!:02/03/12 19:26 ID:km4x1wFE
今回は、なっちがセンターじゃありませんでしたね。
ちょっと反省してます。
なっち探偵の事件簿・外伝という事で。
最後まで読んで頂いて、ありがとうございました。
345名無し。:02/03/13 02:15 ID:5NQXNhzJ
更新おつかれです。。
なっち探偵かなりおもしろいです。
続編には残りの娘。も出るんですかね??
期待してます^^
346女の子だよ!:02/03/13 15:37 ID:nc0QPeEd
ありがとうございます。
次は学園ものにしたいんですが、
まだ思案中です。
ごっつぁんやよっC、五期メンも出さないといけませんね。
347名無し。:02/03/14 01:55 ID:6szc5rYi
学園ものですか〜おもしろそうですね^^
まあ、まったり思案してください。。
いつも更新の量がけっこう多いのでうれしいですが
作者さんが大変でないか心配ですよ^^;
348女の子だよ!:02/03/14 23:57 ID:gByCitD1
ちょっとネタ詰りです。
ああでもない、こうでもないと考えているうちに
朝になっちゃいます。
〜妹〜で夏警部や稲葉を細かく書き過ぎたので
呪縛に遭っています。2〜3日中には何かしらの報告をします。
それまで待ってて頂けるとありがたいのですが
349キョウジ:02/03/15 00:04 ID:CWVABwrI
君が何を書いてるのか僕には理解らないよ!!
つーかツマらん。
350名無し。:02/03/15 02:49 ID:62AtGyjf
そんな急がなくてもだいじょうぶですよ。。
こちらは書いてもらってるだけでうれしいですから^^
351:02/03/15 22:43 ID:qdjKv6P8
あの、僕のは小説というより
小咄なんですが……
載せてもよろしいでしょうか?
352:02/03/15 22:44 ID:qdjKv6P8
紺野あさ美「リーダー、リーダー」
飯田圭織「何? 紺野ちゃん」
紺野「つんくさん、あたしの顔を見るたび『努力しろ、努力しろ』って言うんですよ」
飯田「当たり前でしょ。オーディションじゃ赤点だったんだから」
紺野「だから教えてください。努力しないで出世する方法を」
飯田「そう言われてもねえ……あ、いい手があった!」
紺野「どうするんですか?」
飯田「ここは圭織に任せて」
(と安倍なつみを携帯で呼び出す)
飯田「もしもし……あ、なっち?」
安倍「圭織、どうしちゃったのよ? 突然なっちを呼び出したりなんかして」
飯田「実はねえ、紺野ちゃんが『努力しないで出世する方法を安倍さんに教えてもらいたい』って」
紺野「あの、あたしはリーダーに教えてもらいたいんですけど……」
安倍「うん、わかったわ。じゃ、今すぐ紺野ちゃんを連れてきてね」
飯田「了解!」(と回線を切る)
紺野「リーダー、何を了解したんですか?」
飯田「つべこべ言わないの。さあ、早くな……もとい、安倍さんとこへ行きましょ」
紺野「あ、あの、ちょっと……」
(飯田、紺野を連れて安倍邸に到着)
飯田「連れてきたよ」
紺野「こ、こんにちは……」
飯田「紺野ちゃん、引っ込んでるんじゃない!」(と紺野を前に押し出す)
紺野「安倍さん、教えてください。努力しないで出世する方法を」
安倍「努力しないで出世する方法、それはね……」
(とPS2ソフト「桃太郎電鉄X」を取り出す)
安倍「じゃじゃーん! このゲームで遊ぶの」
紺野「ももたろうでんてつえっくす……聞いたことないですね」
飯田「紺野ちゃん、それは『えっくす』じゃなくて『がってん』って読むの!」
安倍「じゃ、早速ゲーム開始よ」(と「桃鉄X」を立ち上げる)
紺野「あの、ほんとにこれで出世できるんですか?」
安倍「やればわかるんだっちゅーの!」
(と飯田ともども初期設定にかかる)
安倍「さあ、紺野ちゃんもこれ持って!」(とパッドを手渡す)
紺野「えーと『あなたの名前を教えてください』か……安倍さん、ここは名字と名前のどちらを入れるんですか?」
安倍「適当にしなさい!」
紺野「じゃ、こ・ん・の……と」
安倍「おいおい、なっちと圭織はそれぞれ『なっち』『かおり』だよ」
飯田「紺野、間違って……ないぞ」
安倍「ほら、抽選の結果紺野ちゃんが1番になったよ」
紺野「あの、これからどうすれば出世できるんですか?」
安倍「やればわかるんだっちゅーの! さあ、ゲーム開始よ」
(ゲーム開始。最初の目的地が決まる)
安倍「紺野ちゃん、あんたの番だよ」
紺野「えーと『こんの社長さん、スタートです』……って、あたしいつの間に社長になったんですか?」
安倍・飯田「ほーら、努力しないで社長に出世したでしょ?」
紺野「…」(絶句)
353女の子だよ!:02/03/16 00:08 ID:9JeioKzo
うまく纏っているんじゃないでしょうか。
起承転結も決まってるし、
私は面白いと思いました。
ちなみに「」の最後へ「。」を入れる入れないは
どちらでも構わないそうです。
パソコンやワープロを使う場合、
文字数の節約程度の感覚らしいですよ。
某大学のS助教授が言ってました。
354名無し:02/03/16 00:18 ID:X3IV0oTO
>>352
読んでないけどおもしろかったぞ
355名無し募集中。。。:02/03/16 00:21 ID:fGdm/61R
(゚Д゚)ハァ?
356名無し募集中。。。:02/03/16 00:21 ID:fGdm/61R
          /ミミミミミミミ川\
        /ミミミミ/\ミ川川|/\
       /ミミミ/     \|/   ヽ
       /三三三|            |
      /三三三>      \ / <|
      |三三三/  〈____  )) __)
       |三(⌒||    \_0>  <__0/
       |ミ(6 |_|       / |\  〉     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
        | し       /   |   |      |          |
        丶|   |       〈  」〉 |    < あえて言おう      |
        |   |      __  /      |     カスであると   |
        |    \      ー  /       \________/
        |     \      |  |   
        | ̄ ̄ ̄ ̄  \___/ 
        | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| | | ̄|
        |   二二二\_| | |_/二
            二二二__| | |_二|
357名無し募集中。。。:02/03/16 18:58 ID:nW8kFR2T
スレ保存保全
358女の子だよ!:02/03/16 22:32 ID:K3/RCm2z
303 こうするのかな?
359女の子だよ!:02/03/16 22:36 ID:K3/RCm2z
360名無し:02/03/17 03:36 ID:+J0HGNW1
>>359
本当に女の子なの?
361名無しさん:02/03/17 05:21 ID:zZsDA20/
冒険ものですが、かいてもよろしいですか?
362スペース:02/03/17 05:23 ID:UTmsNXND
さて、スレタイトル通り、そろそろおいらが小説を書くか。
363名無し:02/03/17 11:52 ID:01cp5o83
>>362
本当に書くんだろうな(w
364女の子だよ!:02/03/17 14:29 ID:zTOC0fVp
女の子と言うより
女かもしれない
もう10代じゃないし
成人式は終わっちゃったし
ちゃんと振袖着ました
多少、男っぽいかもしれない
365女の子だよ!:02/03/17 14:32 ID:zTOC0fVp
ちなみにランボーは二十歳
その弟は十七歳
姉は二十五歳
母は五十二歳
父は・・・・・・?いくつだったかな
366名無し:02/03/17 20:14 ID:HyDjba0E
>女の子だよ!
あんたのずごいところは一気にのせて一気に終わらせるところだな
どうやったらそんなことができるのか気になる
367女の子だよ!:02/03/17 23:54 ID:DFEANToB
マジで言ってる?
私はメモ帳に書いておきます。
それを載せて行くんですけど、反則ですか?
小出しにやった方がいいのでしょうか
途中まで書いて、気に入らない場合もあるじゃないですか
だから、ある程度完成に近付いたものを載せたいんです
368名無し:02/03/18 00:04 ID:VkAXDUnV
>>367
いや、嫌味ではなくマジに言ってるよ
物語をまとめるってのは思ってる以上に難しいことなんだなって
俺も書いててわかるから
369女の子だよ!:02/03/18 00:13 ID:2h/5Jcs5
ほんとうですよね
頭ではまとめたつもりでも
書いてると違う方向に行っちゃったりしません?
むりやり修正すると、面白なくなっちゃたりして
370女の子だよ!:02/03/18 00:16 ID:2h/5Jcs5
次の構想はかたまったのですが、まだ少ししか書いていません。
こんなものでお茶を濁させてください
他のスレにも載せたものですが・・・・・・

ののたんの一日

 8:25 おかあさんにてれびきょくまでおくってもらったのれす
      りかちゃんにあいさつがわりにきっくをいれたのれす
      まこっちゃんはびびっていたのれす
      まこっちゃんはかわいいなー

 8:33 ひかえしつできがえるのれす
      あいぼんのあげぞこぶらじゃーをしてみたのれす
      あいぼんはやせてるなー

 8:51 おなかがすいたので、おべんとうをたべたのれす
      いっこじゃたりなかったので、よっCのべーぐるをたべたのれす
      そうしたら、よっCのかわりにごとーさんがおこったのれす
      ごとーさんはこわいなー

 9:18 しゅうろくがはじまったのれす
      えぬじーをだしたら、やぐちさんにしかられたのれす
      やぐちさんはうるさいなー

11:58 おひるになったので、おべんとうをたべたのれす
      3こたべたらおなかがふくれたのれす
      なっちさんは5こもたべていたのれす
      なっちさんはすごいなー

13:10 ごごのしゅうろくがはじまったのれす
      みそじっていったら、なかざわさんがおこったのれす
      なかざわさんはこわいなー

15:00 しゅうろくがおわったのれす
      のこってるおべんとうをたべたのれす
      りかちゃんをなぐったら、あいすをかってくれたのれす
      りかちゃんはやさしいなー

15:40 べつのてれびきょくでしゅうろくなのれす
      あいちゃん(高橋)に、こーらをかいにいかせると
      おかねはいらないっていったのれす
      あいちゃんはやさしいなー

17:25 しゅうろくがおわったのれす
      おなかがすいたので、おべんとうを2こたべたのれす
      よっCにまんじがためをしたら、おかしをくれたのれす
      よっCはやさしいなー

17:55 れこーでぃんぐがはじまったのれす
      うまくうたえなかったら、にいがきちゃんがわらったのれす
      まいくすたんどでなぐったら、ないてしまったのれす
      にいがきちゃんはなきむしらなー

20:15 れこーでぃんぐがおわったのれす
      りかちゃんのくびをしめたら、おかねをかしてくれたのれす
      やすださんにみつかっておこられたのれす
      やすださんはこわいなー

21:00 つあーのれんしゅうがはじまるのれす
      そのまえにおべんとうをたべたのれす
      3こたべたらきもちわるくなったのれす
      いーださんは、とってもしんぱいしてくれたのれす
      いーださんはやさしいなー

 1:15 やっとしごとがおわったのれす
      こんのちゃんにみつめられたのれす
      にらめっこはまけたのれす
      こんのちゃんはつよいなー

 3:00 ようやくねられるのれす
      きょうもいちにちがんばったのれす
      ののはえらいなー
371名無し募集中。。。:02/03/18 00:28 ID:1Wiu5ehm
武闘派ののたん....。(・∀・)イイ!! 
つーか弁当一日で八個も食べてるし(w
372名無し:02/03/18 00:49 ID:VkAXDUnV
>>369
ああ、あるある
頭で考えたことをそのまま即座に文章化できたらって何度も思ったよ
>>370
おもしろいかも
「のの一人暮らしをする」ってのにちょっと似てるかもね
373名無し:02/03/19 01:26 ID:nouLUBgV
ほじぇん
374女の子だよ!:02/03/19 13:21 ID:wIZjHLyI
 なっち探偵の事件簿3 タイトル未定 予告編

     「桜・・・・・・ですか?」
    「うん。大好きなの」
        「きれいだなー」
      桜吹雪に魅せられる安倍!

       謎の頭文字 T・F

  「さすが中澤だね。簡単に言うと潜入捜査だよ」
  「せせせせ・・・・・・生徒だべかァァァァァァァー?」
       「冗談じゃねえよ!」
   夏の言う潜入捜査・驚く安倍・怒りの矢口?

    「ヒイィィィィィィィィィー!」
         安倍絶叫!

「背は低いが、ちゃんと女の身体をしてるじゃねえか。
抵抗しなけりゃ、ショックも少ないっていう話だぜ」
「もう・・・・・・諦めたよ・・・・・・でも・・・・・・怖いよォォォォォォー!」
     矢口拉致される!迫る身の危険!
       まさか、三人の男に?

    「つ・・・・・・つわりです・・・・・・うえっ!」
       矢口妊娠?

  平家みちよ 三話連続死体で登場!ついにその秘密が
     あ  か  さ  れ  る  !
375名無し。:02/03/20 00:52 ID:pROE42gl
なっち探偵の新作ですか〜
もしかして潜入捜査ってこの間作者さんが
言ってた学園ものの小説と関係有りですかね?
とりあえず期待して待ってます〜^^
376ミスター・グラインド:02/03/21 17:22 ID:SLpyarOC
まじ?
377女の子だよ!:02/03/21 18:32 ID:T1Nsr7Km
ようやっとタイトルが決まりました。今回は苦戦しています。
どうしても描きたい人物があるので、標準ストーリーの他にも
外伝的なものを書いてみたいと思いました。


なっち探偵の事件簿3 〜桜と麻薬と殺人〜 標準編
378女の子だよ!:02/03/21 18:33 ID:T1Nsr7Km
ファイル 1 プロローグ

 四月も十日を過ぎると、桜の花は短い生涯を終え、潔く散って行く。安倍は
レディスコーポレーション探偵部の窓から、雑踏に降り注ぐ桜吹雪を眺めてい
た。髪についた桜の花びらを、慌てて払う人もいれば、視界を覆う桜吹雪を見
上げて微笑む人もいる。春の午後の柔らかな日差しが、桜の花を一層きれいに
輝かせていた。
「きれいだなー」
安倍は嬉しそうに、風に舞う薄いピンク色の花びらたちを見ている。安倍は桜
が大好きだった。先週の花見では、中澤が矢口に飲ませて大変な事になったが
、安倍は桜に囲まれて嬉かったようだ。あまり飲めない酒を飲みすぎ、翌日は
休日だったから良いものの、地獄の一日を過ごしたのである。
「ねえ、矢口ー、凄くきれいだよ」
安倍は振り返って、パソコンに向かう矢口を呼んだ。安倍はこの感動を、可愛
がっている矢口にも見せてやりたかった。その一心で呼んだのだが、矢口は凄
まじい表情で安倍を睨む。
「それどころじゃねえんだよ!」
矢口はイライラしていた。この重大な問題が発生している時期に、安倍は桜を
眺めている。その事も、矢口をイライラさせる原因になっていた。
「怒ってんだべか?矢口は短気だべさ。ああ、きれいだなー」
安倍は再び桜を眺めて、うっとりしていた。安倍が桜を好きな理由は、特にな
いらしい。ただ、薄ピンク色の花が好きなだけである。
「何や、また桜を見とったんかいな」
いつの間にか、部長の中澤が戻っていた。ストーカー事件の解決を、依頼者に
報告に行っていたのである。
「ああ、裕ちゃん、お帰り」
安倍は笑顔で中澤に声をかけた。中澤も笑顔で頷くと、パソコンとにらめっこ
の矢口に封筒を渡した。矢口はキーボードを叩く手を休め、封筒の中身を確認
する。
「約束の二十万や」
中澤は成功報酬として、二十万円を依頼者から回収してきたのだ。矢口は早速
この分も計上し、ようやく笑顔になって溜息をつく。
 何を隠そう、探偵部は深刻な赤字に陥り、存亡の危機に立たされていたので
ある。この二十万円が無ければ、二十日の締めで累計百万の赤字を計上し、廃
止宣告を受ける事が確実だった。
379名無し募集中。。。:02/03/21 18:33 ID:iKwwReJ/
うんこ投げまくり
380女の子だよ!:02/03/21 18:34 ID:T1Nsr7Km
「全く、なっちさんは呑気なんだから」
矢口は安倍の呑気な性格に苛ついていたのである。たった三人の部署だったが
、年間千二百万以上は稼がないと人件費も出ない。単純に計算して、毎月百万
の収入が必要だった。発足当初は多くの依頼が殺到し、休む間もない忙しさだ
ったものの、年が明けてからは、月に二件の依頼があればいい方である。
「安倍が呑気なのは、今始まった事やないで。まあ、何とか今月は乗り切れるけ
ど、ここらで大きな仕事が入って来んと、マジでヤバイしな」
中澤は自分の席に座って夕刊を開いた。矢口は中澤にコーヒーを煎れ、窓から
桜吹雪を眺めている安倍に近付く。
「なっちさん、言っていいかなー」
「何だべか?ほら、きれいだよ」
安倍は桜吹雪に見とれている。矢口は安倍の胸倉を掴むと、凄い勢いでどなっ
た。
「呑気に桜なんか見てんじゃねェェェェェェェー!カネになる仕事を探して来い
!このヴォケ!」
矢口の変貌振りに、びびりまくる安倍。
「ななななな・・・・・・なっちが悪かったべさ!」
「もう!なっちさんは、これくらい言わないと、動いてくれないんだもん」
矢口はそう言うと安倍に抱き付いた。胸を撫で下ろす安倍。
「うん?殺人事件やな。今朝五時十分頃、渋谷区・・・・・・若い女性の死体が発見さ
れた。女性は近所に住む、道玄坂中学校教諭の平家みちよさん(22)であると
確認され・・・・・・亜衣の中学やないか!」
中澤が言うと安倍と矢口も寄って来た。三人で新聞を覗き込みながら、詳しい
内容を読む。
「何かさー、この人、三回くらい殺されてない?」
矢口は信田家の義妹と警視庁捜査員の事を言った。確かに同姓同名、生年月日
血液型、DNA配列まで一緒である。要するに同一人物なのだが、何で毎回死
ぬのかは、作者以外には判らないはずだ。
「まあええわ。ところで、昨日の朝に日の出桟橋で発見された子も、この平家と
同じ、後頭部を強打されたんが死因や」
矢口はパソコンを弄り、昨日の夕刊の取り込み画像を表示した。矢口が声をか
けると、中澤と安倍が寄って来て画面を覗き込む。
「木村アヤカ(20)フリーターだべか」
「手口が同じやな。平家と繋がれば、連続殺人事件やで」
「やだー、怖いね」
矢口は思わず首を竦めた。すると中澤が矢口に襲い掛かる。
「安心せえ、うちが矢口を守ったるしな」
「きゃー、またキスするんでしょう。たすけてー」
「また始まったべさ・・・・・・」
その時、ドアを開けて入って来たのは、警視庁捜査一課の夏まゆみ警部と、そ
の部下の稲葉貴子警部補だった。
381名無し募集中。。。:02/03/21 18:35 ID:iKwwReJ/
たしかに新垣はいらんな
382女の子だよ!:02/03/21 18:34 ID:T1Nsr7Km
「何をやってんの?」
夏は矢口を押さえつけてキスをしている中澤に言った。
「アハハハハ・・・・・・人工呼吸の練習だべさ」
「そ・・・・・・そうや、練習ですわ」
「で、何の用ですか?」
矢口は二人をソファーへ案内する。中澤と安倍で話を聞くため、二人はメモを
片手に、夏達と対面して座った。
「実はね、捜査に協力して貰いたいんだよ。稲葉、これまでの経緯を説明しろ」
夏が言うと、稲葉は持って来た資料を中澤に渡す。それには木村アヤカの死体
写真や証拠品の写真が貼られていた。
「まずは昨日の話や。この女の死体が揚がった。見て判る思うけど、ヤク中やっ
たらしいわ。木村の遺留品で気になったんが、『T・F』のイニシャル入りの
ペンダントや。そこで調べたら、福田武雄いう名前が出て来た。『焼銀杏』て
スナックのオーナーなんやけど、木村が出入してたんが判った。けど、何も出
て来へん。そしたら、今度はNHK裏の公園で平家みちよが殺されたやろ?調
べてみると、共通する男が浮かんだんや。それが藤井隆ゆうてな、道玄坂中学
の教師や。こいつも調べてみると、三年前にコカインで事情聴取を受けとる。
証拠不充分で釈放されとるけど、うち等はこの藤井が売人やと思うとるわけや
。何でかちゅうと、藤井が赴任した一昨年の四月から、道玄坂中学の生徒が八
人も麻薬取締法違反で検挙されとる。道玄坂中学には何かあると思うてた矢先
に、今日の昼過ぎ、中学校のプールの裏から、卒業生の松浦亜弥が死体で発見
されたんや。道玄坂中学には何かある」
稲葉は詳しく説明した。木村・平家・松浦の死因は、全員が後頭部を強打され
ていた事である。松浦に関しては捜査中であるが、道玄坂中学に何かあるのは
確実のようだ。
「それで、うち等は何をすれはええんですか?」
「さすが中澤だね。簡単に言うと潜入捜査だよ」
「潜入捜査?」
中澤・安倍・矢口の三人は、思わず顔を見合わせてしまう。
「そんな事は認められんやろ?潜入捜査で得た証拠は、証拠能力が無い」
中澤は知り得る事を言う。しかし、夏は首を振った。
「それは警察の捜査だよ。探偵なら制限は無い」
「けど、うちは教師には無理やし、安倍も・・・・・・」
中澤は難色を示す。ところが、夏と稲葉の考えは、全く別のところにあったの
である。
383女の子だよ!:02/03/21 18:35 ID:T1Nsr7Km
「誰がお前達言うた。潜入して欲しいんは、あのチビちゃんやで」
「えェェェェェェェェェェェェー!」
中澤と安倍が驚く以上に、矢口本人が一番驚いた。矢口は仰天のあまり、コー
ヒーを注いだまま固まってしまう。安倍が走って行き、ポットとカップを取り
上げた。
「矢口は無理やろ。捜査した事が無いんやで」
中澤は夏と稲葉を交互に見た。だが、夏はポケットから札束を出す。それをテ
ーブルに置くと、真剣な顔で言った。
「前金で百万、成功報酬が百万。合わせて二百万。どう?」
「やります」
中澤は即答した。今の状況から脱出するには、この依頼を受けるしかない。矢
口には可哀想だが、この際、人身御供になって貰うのが、探偵部を救う近道だ
ったのである。
「それで?矢口は何の教師に?」
中澤が訊くと、稲葉は例によって憎まれ口を叩く。
「アホ!お前は適材適所いう言葉を知らんのか?あのチビちゃんに教師は無理や
。だから、生徒になって貰うわ」
稲葉はそう言うと、紙袋から中学校の制服を取り出した。茫然とする矢口。
「せせせせ・・・・・・生徒だべかァァァァァァァー?」
安倍は仰天して矢口を抱き締めた。いくら何でも、十九歳の女性である。高校
生ならまだしも、中学生になれと言うのは酷だろう。
「7号やけど、多少大きい分にはええやろ。ちょっと合わせてみいや」
稲葉が呼ぶと、安倍に促された矢口がやって来る。稲葉が制服を渡すと、矢口
は震えながら合わせてみた。小柄な矢口には確かに大きいが、違和感があるほ
どではない。
「稲葉、うちじゃあかんの?」
中澤は本気で言っていた。中澤は矢口が羨ましくて仕方ない。実は、中澤は、
妹の亜衣が寝てから、こっそり彼女の制服を着た事がある。どういうわけか、
中澤は制服に対する執着があった。
「裕子!お前、自分の歳を考えんか!」
稲葉は中澤の制服姿を想像し、全身に鳥肌が立って来た。確かにそれは要モザ
イク的要素が強い。
「矢口、安心していいからね。調べる内容は安倍に伝えておくから、あんたは中
学生になりきってくれればいいからさ」
夏もかなり無責任である。十九歳にもなった女性が、中学生になりきるなんて
事自体が無理な話だ。
「でも、夏警部。こんな大金、捜査費用で出るんだべか?」
安倍は二百万の出所が心配になって来た。夏と稲葉なら信用出来るが、捜査費
用にこれだけの大金がつぎ込まれるなど前代未聞である。
「刑事部長には自由裁量で使える予算があるんだよ。ほとんどが使われないか、
官官接待の費用になるの。無理矢理許可を貰っちゃった」
夏は悪戯っぽく笑うと、安倍も納得したように頷いた。夏も意外と可愛らしい
とこがるものだと思った安倍は、試しに、もう一つの疑問をぶつけてみる。
「夏警部、去年の秋から、三回も平家みちよさんが殺されてるっしょ?おかしい
と思わないべか?」
「うん、それに関しては保田が調べてる」
保田は夏に能力を評価され、出向という形だが、警視庁捜査一課に引っ張られ
ていた。今の夏には、有能な部下が一人でも多く必要だったのである。
「それじゃ、明日から中学校に行ってね。書類は全部揃ってるから。八時半まで
に行くんだよ。じゃあね」
夏は茫然と佇む矢口の頭を撫でながら、稲葉を連れて帰って行った。
「やったー!二百万やで!一気に黒字やー!」
「凄いべさ!これで黒字だべねー」
浮かれる二人の後方で、矢口はショックから立ち直りつつあった。それと同時
に腹がたって来る。いくら背が低いからといって、中学生は酷すぎた。
「冗談じゃねえよ!」
矢口は浮かれる二人に怒鳴った。しかし、二人は矢口よりも一枚上手である。
「矢口、何怒ってんだべさ。矢口は可愛いから、稲葉さんが中学生に指名したん
っしょ」
「そうやで。矢口は亜衣や希美と一緒におっても、ぜーんぜん違和感が無いしな
ー」
「ねえ矢口、あの二人は可愛いっしょ?」
「うん、それは・・・・・・まあね」
中澤と安倍は矢口を煽てまくる。本当に無垢で可愛らしい亜衣や希美と一緒に
された矢口は、かなり嬉しそうだった。更に二人の煽てが続く。
「矢口は頭もいいしー」
「ほんま、矢口がおらんかったら、探偵部は終わりやで」
「そんなー、照れるじゃんかよ」
矢口は二人のペースに呑まれてしまった。制服を抱き締めて、赤くなりながら
モジモジする矢口。
「明日は早いしな。今日は帰ってええで。あ、学校へはスッピンで行くんやで」
「はーい。それじゃ、これで失礼しまーす」
矢口は嬉しそうに帰って行った。
384名無し募集中。。。:02/03/21 18:35 ID:iKwwReJ/
もしかしてオレ誤爆?
385ミスター・グラインド:02/03/21 18:37 ID:x6Ng3nhI
ていうか、私の質問に答えて欲しい。

ま じ で す か ?
386名無し募集中。。。:02/03/21 18:40 ID:iKwwReJ/
つーか、こんなもんageんなよ
ウザくてかなわん。
荒らして欲しいのか?
それならこっちも考えがあるぞ。
387女の子だよ!:02/03/21 18:41 ID:rZCZClJN
何か?私に用でしょうか?
388ミスター・グラインド:02/03/21 18:48 ID:x6Ng3nhI
>>386
ホントそう。
このスレすげー不思議だった。
389ミスター・グラインド:02/03/21 18:50 ID:x6Ng3nhI
>>387
今度から書き込む時に
メール欄に半角でsageと打ち込んでくれ。
そうすればスレッドが一番上に行かない。
通信環境によっては長文が上の方に来ると
スクロールしづらくって迷惑がる人もいるから。
390名無し募集中。。。:02/03/21 18:51 ID:iKwwReJ/
んじゃ、荒らそっかなっ♪
391名無し募集中。。。:02/03/21 18:55 ID:iKwwReJ/
やっぱやめた。
やさしい>>389に感謝しる。
でも次やったら必ず荒らす。
392女の子だよ!:02/03/21 19:42 ID:H3PcYlCO
それは知りませんでした。
どうもすみません!!!!
バカな私を許して下さい!
393女の子だよ!:02/03/21 19:51 ID:uIZ8panw
これで大丈夫でしょうか?
394女の子だよ!:02/03/21 19:54 ID:3mG1m2c7
ファイル 2 潜入初日

 矢口には午後一時と午後三時に、定時連絡をとるように言ってある。今回は
安倍が会社に残り、中澤が学校近くで待機していた。定時連絡以外にも、何か
あったら必ず連絡するように言ってある。潜入が発覚したら、矢口にも危険が
及ぶ可能性があったからだ。
 安倍は相変わらず、会社の窓から桜を見ていた。特別な想い入れがあるわけ
ではないのに、桜を見てると心が洗われて行く気がする。それは決して武士道
精神とか愛国心といった観念的なものではなく、安倍のDNAに組み込まれた
原始の記憶なのかもしれない。
 安倍が桜吹雪を堪能していると、おもむろにケイタイが鳴り出した。恋レボ
のメロディとともにバイブレーションが起こり、安倍は小さな悲鳴を上げなが
ら電話に出る。
「もしもーし、矢口、どうしたべか?」
<ののとあいぼんのクラスになっちゃった。どうしよう>
「二人には捜査内容を秘密にするんだよ。これは守秘義務っていって・・・・・・」
<そんな事は判ってるよー!困ったなー>
矢口は不安なのだ。一度も捜査というものをした事がないのに、今回は潜入と
いうおまけまでついている。元気で明るく、気が強くて頭の回転が速い矢口だ
から良かった。もしこれが安倍だったら、ストレスに押し潰されてしまうだろ
う。
「矢口ー、二人と仲良くなっちゃうべさ。そうすれば、何か話をしてても自然っ
しょ?頭を使うべさ」
<そ・・・・・・そうだね。なっちさんにしては、いい事言うじゃん>
「ちょっとー、どういう意味だべさァァァァァァー!」
<アハハハハ・・・・・・ちょっと楽になった。ありがとう、なっちさん>
「いつでも電話して来ていいからね」
<うん、じゃあね>
安倍は電話を切ると再び桜を眺め出す。安倍にとって矢口は、絶対に必要な存
在だった。ある時は同僚であり、ある時は友達だった。ある時は家族であり、
ある時は妹だったのである。中澤が危篤になった時、安倍は何とか冷静でいら
れた。しかし、もし矢口が危篤になったとしたら、安倍は取り乱すどころでは
ないだろう。
「さくら さくら 弥生の空は♪・・・・・・もう四月だべさ」
安倍が呑気に歌っていると、今度は会社の電話が鳴った。安倍は近くに置いて
あった子機を取る。
「毎度ありがとうございます。レディスコーポレーション探偵部でございます」
<中澤や。矢口からの電話、傍受してたで>
中澤は道玄坂中学の裏門付近で、クルマの中に待機している。何かあったら、
すぐに駆けつけられるためだ。中澤は安倍以上に、矢口を心配していたのである。念のため、矢口のケイタイには、本人の承諾済みで、小型の盗聴器をつけ
てあった。そうでないと、ケイタイの傍受は難しいのである。
「裕ちゃん、矢口は大丈夫かなー」
<あんたがおるから平気やろ。この調子でフォローしたってや>
「裕ちゃんも何かあったら、矢口を頼むね」
<任しとき>
本当に中澤は頼れる存在だった。元刑事という事もあったが、上司として、そ
して何より人間としての、「強さ」があったからである。夏や石黒のような迫力
は無い。飯田のような腕力も無い。矢口のように機転も利かない。それでも安
倍にとって中澤は、無条件に命を預けられる存在だった。それはちょうど、稲
葉が夏に甘えているのと同じような感覚である。
「あ、裕ちゃん・・・・・・切れちゃったべさ」
安倍は子機を窓辺に置くと、薄ピンク色に染まった外を見る。安倍は何で桜が
好きなのかを考えた。考えれば考えるほど判らなくなって行く。しかし、それ
は決して苦痛ではなく、どちらかというと楽しい事だった。
「花吹雪 舞う道を 転げながら 転げながら♪・・・・・・この曲の歌詞って・・・・・・
ストーカー?・・・・・・怖いべさァァァァァァァァァー!」
395女の子だよ!:02/03/21 19:54 ID:3mG1m2c7
 安倍が出前の親子丼セットを食べ終わり、デザートの杏仁豆腐を楽しんでい
ると、矢口から午後一時の定時連絡が入った。
「ヤッホー、矢口ー、どうだべか?」
<給食がつらいよー。だって牛乳があるんだもん>
矢口は牛乳が苦手である。だから背が低いのかもしれない。戦後の学校給食で
牛乳が取り入れられたのは、カルシウムの供給源として最適だったからだけではなく、その他の成分が血液に似ていたからである。栄養失調の子供達を救済
するためには、牛乳が理想的だったのだ。
 矢口にしても焼肉は大好物なのだから、牛乳くらいは飲めてもいいのに、ど
ういうわけか嫌いだった。そのくせ、乳製品は嫌いではなく、特にヨーグルト
は矢口の好物である。
「飲んだんだべか?」
<全部飲んだら、気持ち悪くなって吐いちゃったよー>
「牛乳くらい残してもいいべさー」
<あの二人に嵌められたのよ!『矢口さーん、牛乳飲んだー?』なんて大声で言
うんだもん。あー口惜しい!>
「それで、藤井の動きに何かあったべか?」
<それどころじゃねーよ!まあ、授業中は無理だから、放課後に観察してみる>
「初日から無理しなくてもいいっしょ。今日は帰っておいで」
<うん、そうする>
安倍は矢口に無理をさせたくなかった。なにしろ素人である。下手に嗅ぎ回っ
て藤井に感づかれたら、捜査が台無しになるばかりではなく、矢口自身が危険
だからだ。それに今日は殺害された松浦の通夜が行われるため、原宿高校のバ
レー部員は道玄坂中学に現れない。情報を得るのに、焦る必要は無かったので
ある。
 矢口からの電話を切ると、すぐに中澤から電話がかかって来た。やはり矢口
が心配で、中澤は会話を傍受しているらしい。
<それでええ。さすが安倍やな>
中澤が褒めたのは、安倍の判断が正しかったからではない。中澤と同じ考えに
なったからである。安倍は常に「裕ちゃんならどうするか?」と、自分なりに考
えて行動していた。最初は全く的外れな事をやり、中澤に叱られた事も少なく
ない。しかし、最近になって、安倍は素晴らしい成長を遂げていたのである。
「矢口が帰って来たら、夏警部に報告だね」
<それはええ。稲葉が来るで、矢口から直接話を聞くやろ>
「なっちは警察の情報を知りたいべさ」
<なら、矢口が下校したら、会社を留守電にして合流せえ>
「諒解だべさ!」
396女の子だよ!:02/03/21 19:55 ID:3mG1m2c7
ファイル 3 真希

 午後三時の定時連絡は、矢口が単純に帰る旨を言っただけだった。安倍は会
社の電話を留守電にすると、ドアに鍵をかけて外に飛び出す。
 外は桜の花びらのシャワーだった。安倍は空を見上げて思わず笑顔になる。
いくつかの薄ピンク色の花びらが、安倍の柔らかそうな髪に貼り付いた。
「あはっ!明日も桜が見れるかな?」
安倍が上を向いていると、誰かとぶつかって歩道に転がってしまう。
「ヒャァ!」
安倍は自分でも恥ずかしくなるくらいの大声で叫んだ。全く予期していない事
が起こり、かなり驚いたからである。安倍を弾き飛ばしたのは、胸の大きな少
女だった。
「ごめんなさい、ボーッとしてて」
少女は安倍を引き起こす。少女は安倍よりも十センチ近く大柄で、少々魚類的
な顔をしているものの、かなりの美人だった。
「いや、あたしも上を見てたから」
安倍は風に乗る桜の花びらを見ながら言った。すると少女も空を見上げる。
「桜・・・・・・ですか?」
「うん。大好きなの」
安倍の笑顔に少女は安心した。かなり激しくぶつかったため、安倍が怪我して
いる事を心配したのである。
「服、汚れちゃいましたね。裸で申し訳ありませんが、クリーニング代にして下
さい」
少女は財布から一万円札を出した。それを見た安倍は慌てて首を振る。自分に
も過失があるのに、少女から受け取るわけには行かない。
「そんな、いいべさ!あたしが不注意だったんだし。ここはお互い様っていう事
でいいっしょ?」
「そんな・・・・・・うううう・・・・・・」
少女はいきなり泣き出した。安倍は驚いて少女の腕を掴む。どういった理由か
は知らないが、泣いている少女を放っておく事は出来ない。
「どうしたのよ!こんなところで泣いちゃ困るべさ。あたしが虐めてるみたいっ
しょ!」
「ごめんなさい・・・・・・うううう・・・・・・」
とうとう少女は、しゃがみ込んで泣き出した。困惑する安倍。少女の髪に桜の
花びらが付いて行く。それは彼女の着ている薄ピンク色のワンピースに、よく
似合うアクセサリーになって行った。
397女の子だよ!:02/03/21 19:55 ID:3mG1m2c7
「とりあえず、どこかの喫茶店にでも入るべさ」
安倍は少女を抱き上げ、近くにある雑居ビルの一階にある喫茶店へと入る。店
内は明るいが落ち着いた雰囲気で、外の雑踏が嘘のように静かだった。「柴田」
というネームプレートを付けたウエイトレスは、二人を窓側の奥の席へ案内す
る。安倍は席に着くなり、メニューを少女に見せた。
「ここはコーヒーより、紅茶が美味しいべさ。何にする?」
「・・・・・・オレンジぺコ」
少女は眼を赤く腫らしながら、小さな声で言った。安倍はウエイトレスの「柴田
」を呼び、オレンジペコとセイロンを注文する。ウエイトレスが戻って行くと、
安倍は少女を見つめながら、笑顔で自己紹介した。
「あたしは、安倍なつみ。こう見えても社会人だよ」
安倍は少女に名刺を渡した。少女は安倍の名刺を凝視すると、声を震わせなが
ら安倍に訊く。
「探偵なんですか?犯人を捕まえて下さい。・・・・・・私の大切な人を殺した犯人を
。お金はいくらでも出します。お願いします!」
少女は眼を剥いて安倍に迫った。安倍は少女を宥める事に集中する。こんな興
奮状態では、まともに話も出来ないからだ。
「まずは、あなたの名前から教えてくれない?あたしはあなたの事を、何も知ら
ないべさ」
「そうでした。ごめんなさい。あたしは後藤真希っていいます。今十六歳ですけ
ど、高校には行ってません」
真希は安倍に詳しい話をして行く。そのうち、真希は驚く事を口にしたのであ
る。安倍は仰天してコップの水を溢し、ウエイトレスの「柴田」に睨まれた。
「平家みちよの関係者だったんだべか!」
安倍は真希から詳しい話を聞き、片っ端からメモして行った。メモがなくなる
と、安倍はタバコの箱を分解してメモして行く。真希の話は二時間に及んだ。
「話は判ったべさ。これだけは言っておくけど、犯人を捕まえるのは警察の仕事
なの。あたし達探偵は、警察が入り込めないところを調べる。それで告発は出
来るけど、逮捕は出来ないべさ」
「そうですね。逮捕するには、裁判所の発行する書類が必要らしいですから」
実際に容疑者を逮捕する場合、警察官が目撃する「現行犯」か、地方裁判所に申
請して「逮捕状」を取らなければならない。しかも、名目上は逃亡及び証拠隠滅
の怖れのない場合、逮捕状は却下される事になっている。しかし、地方裁判所
など、行政の下請け的機関であるため、警察が申請すれば間違いなく逮捕状を
交付したし、受付は三百六十五日、二十四時間OKだ。
「真希ちゃんの依頼を受けるかどうかは、あたしでは判断出来ないべさ。上司と
相談してみるから、ケイタイの番号を教えてくれるべか?」
すると真希はパソコンで作ったらしい、自分の名刺を差し出した。それは可愛
らしい薄ピンク色の紙で、ケイタイの番号とеメールアドレスが印刷されてい
る。
「可愛い名刺だべね」
安倍は真希の名刺を手帳に挟むと、伝票を持って席を立つ。すると真希も慌て
て立ち上がった。その顔には先ほどの悲壮感は無く、少し落ち着いた雰囲気が
覗える。安倍に話をして、少しは楽になった証拠だろう。安倍は何より、それ
が嬉しかった。
「家に帰るなら、途中までタクシーでいくべさ」
「ああ、お金なら私が・・・・・・」
「そんないいべさ。喫茶店に誘ったのは、こっちなんだから」
安倍は支払いを済ませ、真希を連れて外に出た。すでに太陽は傾いていたが、
相変わらず桜の花が舞っている。
「安倍さん、出身は北海道ですか?」
「そうだよ。よく判ったべね」
すると真希は可笑しそうに笑い出した。黙っていると美人なのだが、笑い顔は
とても可愛らしい。童顔の安倍には羨ましい限りである。
「何が可笑しいんだべさ」
「安倍さん、そんなに訛ってて、自分で気が付かないんですか?」
「訛ってたべか?うー、意識してないと、方言がでるべ・・・・・・出ちゃうよ」
二人はタクシーに乗り、安倍は自宅近くで降りた。固辞する真希に三千円を渡
し、矢口の部屋へ飛び込んで行った。
398女の子だよ!:02/03/21 23:00 ID:PfSg1lHg
金八先生を観てたら眠くて限界です。
続きは明日・・・・・・
399女の子だよ!:02/03/22 12:37 ID:YB0V2Nvx
ファイル 3 真希

 午後三時の定時連絡は、矢口が単純に帰る旨を言っただけだった。安倍は会
社の電話を留守電にすると、ドアに鍵をかけて外に飛び出す。
 外は桜の花びらのシャワーだった。安倍は空を見上げて思わず笑顔になる。
いくつかの薄ピンク色の花びらが、安倍の柔らかそうな髪に貼り付いた。
「あはっ!明日も桜が見れるかな?」
安倍が上を向いていると、誰かとぶつかって歩道に転がってしまう。
「ヒャァ!」
安倍は自分でも恥ずかしくなるくらいの大声で叫んだ。全く予期していない事
が起こり、かなり驚いたからである。安倍を弾き飛ばしたのは、胸の大きな少
女だった。
「ごめんなさい、ボーッとしてて」
少女は安倍を引き起こす。少女は安倍よりも十センチ近く大柄で、少々魚類的
な顔をしているものの、かなりの美人だった。
「いや、あたしも上を見てたから」
安倍は風に乗る桜の花びらを見ながら言った。すると少女も空を見上げる。
「桜・・・・・・ですか?」
「うん。大好きなの」
安倍の笑顔に少女は安心した。かなり激しくぶつかったため、安倍が怪我して
いる事を心配したのである。
「服、汚れちゃいましたね。裸で申し訳ありませんが、クリーニング代にして下
さい」
少女は財布から一万円札を出した。それを見た安倍は慌てて首を振る。自分に
も過失があるのに、少女から受け取るわけには行かない。
「そんな、いいべさ!あたしが不注意だったんだし。ここはお互い様っていう事
でいいっしょ?」
「そんな・・・・・・うううう・・・・・・」
少女はいきなり泣き出した。安倍は驚いて少女の腕を掴む。どういった理由か
は知らないが、泣いている少女を放っておく事は出来ない。
「どうしたのよ!こんなところで泣いちゃ困るべさ。あたしが虐めてるみたいっ
しょ!」
「ごめんなさい・・・・・・うううう・・・・・・」
とうとう少女は、しゃがみ込んで泣き出した。困惑する安倍。少女の髪に桜の
花びらが付いて行く。それは彼女の着ている薄ピンク色のワンピースに、よく
似合うアクセサリーになって行った。
「とりあえず、どこかの喫茶店にでも入るべさ」
400女の子だよ!:02/03/22 12:37 ID:YB0V2Nvx
安倍は少女を抱き上げ、近くにある雑居ビルの一階にある喫茶店へと入る。店
内は明るいが落ち着いた雰囲気で、外の雑踏が嘘のように静かだった。「柴田」
というネームプレートを付けたウエイトレスは、二人を窓側の奥の席へ案内す
る。安倍は席に着くなり、メニューを少女に見せた。
「ここはコーヒーより、紅茶が美味しいべさ。何にする?」
「・・・・・・オレンジぺコ」
少女は眼を赤く腫らしながら、小さな声で言った。安倍はウエイトレスの「柴田
」を呼び、オレンジペコとセイロンを注文する。ウエイトレスが戻って行くと、
安倍は少女を見つめながら、笑顔で自己紹介した。
「あたしは、安倍なつみ。こう見えても社会人だよ」
安倍は少女に名刺を渡した。少女は安倍の名刺を凝視すると、声を震わせなが
ら安倍に訊く。
「探偵なんですか?犯人を捕まえて下さい。・・・・・・私の大切な人を殺した犯人を
。お金はいくらでも出します。お願いします!」
少女は眼を剥いて安倍に迫った。安倍は少女を宥める事に集中する。こんな興
奮状態では、まともに話も出来ないからだ。
「まずは、あなたの名前から教えてくれない?あたしはあなたの事を、何も知ら
ないべさ」
「そうでした。ごめんなさい。あたしは後藤真希っていいます。今十六歳ですけ
ど、高校には行ってません」
真希は安倍に詳しい話をして行く。そのうち、真希は驚く事を口にしたのであ
る。安倍は仰天してコップの水を溢し、ウエイトレスの「柴田」に睨まれた。
「平家みちよの関係者だったんだべか!」
安倍は真希から詳しい話を聞き、片っ端からメモして行った。メモがなくなる
と、安倍はタバコの箱を分解してメモして行く。真希の話は二時間に及んだ。
「話は判ったべさ。これだけは言っておくけど、犯人を捕まえるのは警察の仕事
なの。あたし達探偵は、警察が入り込めないところを調べる。それで告発は出
来るけど、逮捕は出来ないべさ」
「そうですね。逮捕するには、裁判所の発行する書類が必要らしいですから」
実際に容疑者を逮捕する場合、警察官が目撃する「現行犯」か、地方裁判所に申
請して「逮捕状」を取らなければならない。しかも、名目上は逃亡及び証拠隠滅
の怖れのない場合、逮捕状は却下される事になっている。しかし、地方裁判所
など、行政の下請け的機関であるため、警察が申請すれば間違いなく逮捕状を
交付したし、受付は三百六十五日、二十四時間OKだ。
「真希ちゃんの依頼を受けるかどうかは、あたしでは判断出来ないべさ。上司と
相談してみるから、ケイタイの番号を教えてくれるべか?」
すると真希はパソコンで作ったらしい、自分の名刺を差し出した。それは可愛
らしい薄ピンク色の紙で、ケイタイの番号とеメールアドレスが印刷されてい
る。
「可愛い名刺だべね」
安倍は真希の名刺を手帳に挟むと、伝票を持って席を立つ。すると真希も慌て
て立ち上がった。その顔には先ほどの悲壮感は無く、少し落ち着いた雰囲気が
覗える。安倍に話をして、少しは楽になった証拠だろう。安倍は何より、それ
が嬉しかった。
「家に帰るなら、途中までタクシーでいくべさ」
「ああ、お金なら私が・・・・・・」
「そんないいべさ。喫茶店に誘ったのは、こっちなんだから」
安倍は支払いを済ませ、真希を連れて外に出た。すでに太陽は傾いていたが、
相変わらず桜の花が舞っている。
「安倍さん、出身は北海道ですか?」
「そうだよ。よく判ったべね」
すると真希は可笑しそうに笑い出した。黙っていると美人なのだが、笑い顔は
とても可愛らしい。童顔の安倍には羨ましい限りである。
「何が可笑しいんだべさ」
「安倍さん、そんなに訛ってて、自分で気が付かないんですか?」
「訛ってたべか?うー、意識してないと、方言がでるべ・・・・・・出ちゃうよ」
二人はタクシーに乗り、安倍は自宅近くで降りた。固辞する真希に三千円を渡
し、矢口の部屋へ飛び込んで行った。
401女の子だよ!:02/03/22 12:38 ID:YB0V2Nvx
ファイル 4 報告と魔の夕食

「遅くなったべさァァァァァァァァー!」
安倍が矢口の部屋に飛び込むと、中澤と稲葉の他に石黒と飯田も来ていた。
「なっちさん、遅いよー。みんな待ってたんだからね」
矢口が頬を膨らませた。安倍はみんなに謝りながら、空いている席に座る。
「実は後藤真希と逢ったんだべさ」
「後藤真希?誰やそれ」
あの稲葉ですら真希については知らなかった。しかし、勘の鋭い矢口は、即座
に後藤ユウキの関係者だと気付く。矢口の勘の鋭さは、彼女が十九年かけて培
って来た成果である。身体に恵まれなかった矢口は、頭を使う事を学習したの
だ。
 背が低いという事は、かなりのハンデである。当然ながら力もないし、高い
ところには手がとどかない。こういった女性が向上心を捨てれば、残された道
は、男性に媚びを売って生きて行くしかないのだ。元来、勝気な矢口は、男性
に媚びを売るくらいなら、自分で出来る事を追求したのである。それが頭の回
転と、本人曰く「雑学」の専門知識であった。
「後藤っていえば、原宿高校バレー部の、後藤ユウキの関係でしょう?」
「そうそう、そうなんだべさ」
安倍は興奮しながら経緯を話し、長いメモに沿って話をした。平家と真希の関
係や、ユウキと松浦が付き合っていた事。そして何より、平家は麻薬と無縁で
あり、決して人に恨みをかうような性格では無かった事。
「安倍、大手柄やで!」
中澤は笑顔で安倍の頭を撫でた。そして今度は稲葉が捜査状況を話すが、矢口
は安倍を待っている時に聞いたので、入浴する事にする。中澤と石黒は夕食を
作り始めた。
「そうなんだべか・・・・・・後藤ユウキはモテモテね。まあ、お姉ちゃんも美人だし
、きっと男前なんだべね」
「まあ、それはそうと、今は事件の関係者のタイムコードを作っとんのや」
「タイムコードって何だべか?」
稲葉は安倍の質問に、折込広告の裏を使って説明する。特別なソフトを使い、
日時と事柄を入力すれば、一覧表になって確認でき、矛盾する項目が赤色で
表示されるため、捜査の能率化が図れるものだ。
「それは便利だべねえ。そんなソフトが欲しいべさ」
「ジャーン!このCDがそうやで」
「欲しいべさァァァァァァァァァー!」
「騒ぐな。そのつもりで持って来たんや。けど、これはインストール後、十五日
間のデモ版やしな。仕事で使うんやったら、パスワードを買わなあかんで」
稲葉は勿体ぶりながら、安倍にCDを渡した。
402女の子だよ!:02/03/22 12:40 ID:HtYw2H6B
 食事が出来る頃になると、稲葉と石黒は捜査に戻り、代わって飯田が妹の希
美を連れてやって来た。中澤も妹の亜衣を呼んでおり、六人での賑やかな夕食
となる。普段は一人か二人での夕飯なので、全員がとても嬉しそうであった。
「裕ちゃん、実は真希からも捜査依頼が来てるの。どうする?」
安倍は稲葉と石黒の前だったので、その事は言わないでいた。飯田も警官だが
、中澤や安倍の感覚では、同僚と同じだったのである。
「二重依頼はあかんで。そればっかりは、会社の信用問題やしな」
「そうだよねえ」
安倍は真希へ何と言ったらよいのか、考えると箸の動きが鈍くなった。見かね
た中澤が助け舟を出す。
「これは会社に来た正式な依頼やろ?今回はうちが話をするし、安倍は勉強せえ
よ」
「ありがとうー、さすが裕ちゃんだべさ」
安倍が抱きつくと、中澤は「なつくな」と言いながら嬉しそうな顔をする。とこ
ろで、中澤と飯田はビールを飲んでいた。安倍も缶酎ハイを飲んでいる。矢口
と中学生二人はウーロン茶だったが、亜衣はとんでもないイタズラをしていた
のだ。何と矢口のウーロン茶に、クセのないウォッカを入れていたのである。
普段なら肝臓がリアルタイムで分解してしまう量だったが、今日の矢口は慣れ
ない仕事のお陰で疲れていた。肝機能が平常時の半分程度に低下しており、そ
のため、分解しきれないアルコールが血液の中に浸透してしまう。当然ながら
アルコールは脳細胞にまで達し、俗に言う酔った状態になってしまった。
「ほんま矢口さんは凄いで。中学生でも違和感が無いんや」
亜衣が嬉しそうに言うと、矢口は俯いて箸が止まった。中澤や安倍、飯田達の
笑い声が、矢口の頭の中をグルグルと回りだす。
「冗談じゃねえよ!」
矢口はいきなり、中澤が開けたばかりの五百ミリの缶ビールを掴むと、一気に
飲み干してしまった。唖然とする五人を、矢口は獲物を見るような目付きで睨
む。
「酔ったんだべか?」
安倍は酔った時の矢口の凶暴性を熟知しているので、すでに避難体勢に入って
いた。酔った矢口を止められるのは、無敵の飯田以外に存在しない。
「まさか。五百くらいは矢口の許容範囲やろ」
「すすすすすすす・・・・・・すんまへん!ウーロン茶にウォッカを・・・・・・」
「アホ!矢口に何て・・・・・・」
立ち上がった矢口がトルネード投法で、中身の入った三百五十ミリの缶ビール
を投げたのと、顔面に迫って来る何かを感じて中澤が振り向くのとが同時だっ
た。
「危ない!」
反射的に左に避けた中澤だったが、シュート回転した缶ビールは、中澤のこめ
かみに激突した。
「あうっ!上海は、あの人が・・・・・・大好きな・・・・・・ま・・・・・・ち・・・・・・がくっ!」
中澤が昏倒すると、矢口はびびりまくる亜衣の胸倉を掴んだ。矢口の据わった
眼は、亜衣の恐怖心を更に増大させる。
「テメエがイタズラしやがったのか?アアン!」
「すすすすす・・・・・・すんませーん!」
「矢口ィー、裕ちゃん白目剥いてるよー」
飯田は呑気に中澤を覗き込んだ。こんな声が耳に入る矢口ではない。もう矢口
は完全にブチキレていた。亜衣に鋭角度のブレンバスターを決める。
「あがっ!・・・・・・どうして・・・・・・かみ・・・・・・さ・・・・・・ま・・・・・・がくっ!」
「ヒイィィィィィィィィィー!」
恐怖に眼を剥いて腰を抜かす安倍の腹に、矢口はタイガーマスクか信田美帆ば
りの空中回転をした後、ダイレクトに膝を決めていた。
「うがっ!・・・・・・ボクの名前が・・・・・・わくぁーる・・・・・・くゎい・・・・・・がくっ!」
安倍が白目を剥くと、矢口は満足そうに微笑んだ。そして唸り声を上げながら
、恐怖に震える希美を睨みつける。
403女の子だよ!:02/03/22 12:42 ID:46u5gSx6
「こ・・・・・・怖いのれす。か・・・・・・圭織姉ちゃん・・・・・・」
希美は泣きながら飯田に助けを乞う。飯田は仕方なく希美の前に立ちはだかっ
た。希美を泣かせる奴は、決して容赦をしない飯田だったが、矢口は仲間であ
る。飯田は無駄だと判っていても、説得を試みた。
「矢口ィー、ここでやめれば許してあげるからさー」
しかし、矢口は置いてあった、二本目の五百ミリ入り缶ビールを呷り、更に凶
暴化していた。矢口は飯田の警告も聞かず、牙を剥いてフライングボディアタ
ックを繰り出したのである。飯田は宙に浮いた矢口を、サッカーのボレーシュ
ートの要領で蹴った。矢口はそのまま三メートルほど飛んで行き、冷蔵庫に激
突して落下。痙攣を始めた。
「ショーを・・・・・・やりま・・・・・・しょ・・・・・・う・・・・・・がくっ!」
矢口が動かなくなると、飯田は優しく声をかけながら、後にいる希美を振り返
った。
「もう大丈夫だよ・・・・・・あ」
希美は恐怖のあまり、白目を剥いて痙攣していた。飯田は希美を抱き上げると
、動かなくなった矢口を睨みつける。
「もー、ののが怖がって失神しちゃったじゃん」
飯田は思い切り勘違いしていた。希美が失神したのは、矢口ではなく、飯田が
怖かったからである。

 真っ先に意識が戻ったのは、腹を蹴られて地獄の苦しみを味わった安倍であ
る。腹を攻撃されて失神するのは、物凄く苦しいという。内臓への衝撃に加え
、息が詰まって酸欠状態になるのだから、その苦しみは想像を絶する。
「あううううう・・・・・・何とか・・・・・・生きてるべさ・・・・・・」
安倍が腹を押えて起き上がると、飯田は緊張感の無い声で言った。
「ののが寝ちゃった。気絶したら、そのまま寝ちゃったの。ベッドに入れて来る
ね」
飯田は希美を抱いて自室に戻って行った。安倍は深呼吸して息を整えると、鼻
血を出して昏倒していた矢口を抱き上げる。矢口をベッドに寝かせると、今度
は中澤の身体を揺さぶってみた。
「ううううう・・・・・・悔し涙・・・・・・ぽろり・・・・・・落ちて行く・・・・・・ああん」
安倍には中澤が苦しそうに見えた。顔を顰めて、頭痛に耐えているような表情
だったからである。しかし、この表情とは裏腹に、中澤は桃源郷を彷徨ってい
た。脳震盪による失神は、このような快感を伴うことがままある。詳しくは判
っていないが、脳が直接影響を受けるため、モルヒネの数十倍という威力を持
った脳内物質が、誤作動によって分泌されるという説が有力だ。
「裕ちゃん、しっかりするべさァァァァァァァァー!」
べさァ・・・・・・べさァ・・・・・・べさァ・・・・・べさァ・・・・・・べさァ・・・・・・・・・・・・・・・・・
中澤は何ものにも代え難いトリップ感の中で、急速に覚醒させる聞き慣れた声
に、激しい嫌悪感を覚えた。
「お父さんと同じ・・・・・・釣りが趣味・・・・・・こんな台詞・・・・・・言わせくさって」
「裕ちゃん!裕ちゃん!大丈夫だべか!」
「親父と死別した娘に、こんな台詞言わせるんは鬼やろォォォォォォー!」
中澤はようやく覚醒し、安倍の胸倉を掴んだ。安倍は中澤を抱き締め、全身を
マッサージする。少しでも早く正気に戻らせるためだ。
「なっちのせいじゃないべさ。大丈夫だべか?」
「ああ・・・・・・ああ、大丈夫や・・・・・・ふー」
中澤はあのトリップ感を思い出し、残念な気持ちでいっぱいになる。しかし、
その表情は、誰が見ても不快感にしか思えなかった。
「あいぼん、大丈夫だべか?」
安倍は亜衣を抱き上げる。亜衣は脳震盪というより、その前に恐怖で失神して
おり、中澤のようなトリップ感を満喫する事は出来なかった。失神から睡眠と
いう一連の流れに従っている。まだ子供であるため、どうしてもそういった展
開になってしまうのだろう。
「あいぼんは寝てるべさ」
安倍は亜衣を静かに置くと、押入れから毛布を取り出して掛けてやった。安倍
は亜衣の寝顔を見て思わず微笑んだ。矢口のウーロン茶にウォッカを入れ、暴
れさせた張本人なのだが、そういったイタズラも、この無垢な寝顔を見ると許
せてしまう。
404女の子だよ!:02/03/22 12:43 ID:46u5gSx6
また二重にしてしまいました!
本当にドジな私です!
405女の子だよ!:02/03/22 12:44 ID:46u5gSx6
ファイル 5 がんばれ!矢口

 翌朝、安倍は七時に矢口を起こしに行った。昨夜は大暴れをした矢口だった
が、普通は翌朝になるとケロッとしている。しかし、今回は肝機能が低下して
いたことも手伝い、凄まじい二日酔いになっていた。
「ヤッホー、矢口ー、朝だべさ」
安倍は矢口の部屋に入り、キッチンで湯を沸かしだす。これまでの仕事とは、
生活サイクルが変わったので、朝食はこの時間に摂るしかない。安倍は冷蔵庫
からハムと玉子を取り出す。
「うっ!・・・・・・なっちさん・・・・・・天井が・・・・・・回ってるよ・・・・・・うえっ!」
「矢口、大丈夫だべ・・・・・・うっ・・・・・・ひゃー!お酒臭いべさ」
矢口は深刻な状態であり、早急な対応が必要だった。まさか転校(?)二日目か
ら休むわけには行かない。かといって、このまま登校させるのは、どう考えて
も無理である。困った安倍は、二日酔いとの付き合いの豊富な中澤に電話をし
てみた。
「裕ちゃん、矢口が二日酔いで大変だべさ」
<二日酔い?どんな症状なんや>
安倍が振り返ると、矢口はトイレで吐いていた。しかも、かなり苦しそうであ
る。安倍は矢口の小さな背中を擦りながら、中澤に症状を伝えた。
<胃がやられてると、何を食っても飲んでも戻してまうで>
「どうしよう・・・・・・」
<とりあえず風呂入れて、ソルマックでも飲まし>
「ソルマックだべね。買ってくるべさ」
安倍は急いで風呂を沸かすと、近くのコンビニにソルマックを買いに走った。
「ソルマックあるべかァァァァァァァァァー!」
安倍の形相にびびりまくるコンビニ店員。安倍は店員の胸倉を掴む。
「時間が無いべさァァァァァァァー!早く持って来るべさァァァァァァァー!」
「ははははは・・・・・・はいィィィィィィィー!ここここここ・・・・・・これです!」
「いくらだべさァァァァァァァァァァー!」
「えーと・・・・・・」
「お釣りはいらないべさァァァァァァァァァー!」
安倍は千円札を置くと、ソルマックを握り締めて、コンビニを飛び出して行った。
 安倍は熱い風呂に矢口を入れて汗をかかせると、ソルマックを一気に飲ませ
た。そしてフラフラの矢口に制服を着せると、鞄を持たせて外に放り出す。
「ののちゃん!矢口を頼んだべさ!」
安倍は飯田の部屋をノックし、出て来た希美に言った。希美は意外と力がある
ので、矢口を抱えて登校する事くらいは容易い。
「矢口さんは二日酔いなんれすか?てへてへてへ・・・・・・」
希美は「いってきまーす!」と元気良く安倍と飯田に言うと、矢口の腕を掴んで
学校に向かった。
406女の子だよ!:02/03/22 12:45 ID:46u5gSx6
 安倍は矢口の部屋で食事すると、とりあえず会社に向かった。あの調子だと
早退するかもしれないが、安倍は会社で矢口にアドバイスし、夏からの指示を
待たなくてはならない。
 安倍は少しでも体力をつけるため、会社には歩いて通う。片道三キロの道程
だが、忙しかった頃は一日に二十キロ近く歩いていたため、全く苦にならずに
歩ききってしまっていた。安倍が歩き始めてすぐに、学校についた矢口から電
話が入る。
「矢口、大丈夫だべか?」
<吐き気が止まらないよー・・・・・・うえっ!>
「給食までにはリバースするっしょ」
<だといいけど・・・・・・うえっ!>
「一時間目の授業は何?」
<音楽だよ・・・・・・うえっ!>
「・・・・・・最悪だべさ」
確かに最悪だった。二日酔いの吐き気がある状態で発声練習などやろうものな
ら、本当に吐いてしまうに違いない。矢口は最悪の状況に突入した。
407女の子だよ!:02/03/22 12:47 ID:5mNr0sQe
 音楽室でぐったりする矢口は、希美と亜衣に抱かかえられている。額に脂汗
を浮かべ、こみ上げる胃液を堪えていた。
「矢口さん、保健室で休んでた方がいいのれす」
「そ・・・・・・そうは行かないのよ・・・・・・うえっ!」
「昨夜の暴れ方は凄かったらしいやないけ。うちをブチ投げた後、なっちさんを
潰したそうやないか。調子ん乗るからじゃ!判ってんのか?アアン!」
亜衣は道玄坂中学で最高に人気があるものの、その性格のきつさを知る者は少
ない。特に、今は無抵抗の矢口に対し、昨夜の恨みをぶちまけたのである。
「あんた、ずいぶん態度が変わったじゃん・・・・・・うえっ!」
「いい気味じゃ。ウルァ!ウルァ!ウルァ!ウルァ!」
亜衣は矢口の背中を擦った。一見、優しく見えるが、吐き気のある者の背中を
擦れば、自然と吐いてしまうものである。
「や・・・・・・やめ・・・・・・うえっ!うえっ!うえっ!」
矢口は辛うじて胃液を飲み込み、戻すには至らなかったが、その苦しみは凄ま
じいものだった。
「あいぼん、もうやめるれす。矢口さんが可哀想れすよ」
「まだまだや。ええか?これからやで」
「こいつ・・・・・・元はといえば、あんたがウォッカを・・・・・・うえっ!」
矢口が脂汗を流して苦しんでいると、音楽教師がやって来た。彼女は荒井沙紀
といい、声楽が専門である。
「さあ、今日も発声練習から始めるで。ええか?」
荒井はピアノを鳴らす。生徒達はその音階に合わせて、大きな声で発生しなけ
ればならない。
「アーアーアーアーアー・・・・・・うえっ!」
「?」
「アーアーアーアーアー・・・・・・うえっ!」
「??」
「アーアーアーアーアー・・・・・・うえっ!」
「???」
「アーアーアーアーアー・・・・・・うえっ!」
「!」
荒井はピアノをやめて立ち上がった。そして生徒達を見回して首を傾げる。ど
うも妙な声がするからだ。
「誰やの?誰が変な声出してんね」
「すみません、私です・・・・・・うえっ!」
矢口は仕方なく手を挙げた。脂汗を流しながら肩で息をする矢口を見て、荒井
は心配そうに声をかける。
「顔色が悪いで。矢口さんやったな。どした?」
こんな時でも矢口は考えていた。普通に言うべきか、それともボケを入れてみ
るか。元気で明るいといった事でクラスに溶け込む努力をしていた矢口は、や
はりウケを狙ってみる。
「つ・・・・・・つわりです・・・・・・うえっ!」
矢口は爆笑を待った。しかし、爆笑はいくら待っても訪れない。高校二年の二
学期、食中毒で同じように吐き気がしていた時は、確かに「つわり」で大爆笑を
誘った。矢口は動揺する。まさか、思いっきり外してしまったのか?
「ほ・・・・・・ほんまかァァァァァァァァァァー!」
荒井は眼を剥いて顔色を変えた。他には物音一つしない。音楽室は防音工事を
しているので少々デッドになるが、ここまで音が聞こえないという事は、クラ
ス全員が固まっている証拠である。
「じょ・・・・・・冗談に決まってるじゃないですか・・・・・・うえっ!」
「お・・・・・・脅かすんやないわ・・・・・・はー、驚いた」
荒井が溜息をつくと、クラス全体に安堵の吐息が洩れた。矢口は完璧に外して
いたのである。
「胃を壊しただけですよ・・・・・・うえっ!」
「・・・・・・あんた、かなり吉本向きの性格やな。まあええわ。飯田さん、矢口さん
を保健室に連れてってや」
「はーい」
希美は矢口の手を引いて、音楽室を出て行った。
 廊下に出た矢口は、保健室で休める安堵感と同時に、自信があったボケにシ
ョックを受けていた。やはり横浜と東京は違うのだろうか。
「矢口さん、あの冗談はきつ過ぎますよ。中学生には強烈過ぎるのれす」
「そ・・・・・・そうか!しまった!・・・・・・ここは中学校だった・・・・・・うえっ!」
希美は矢口を抱えるように保健室へ向かった。
「うえっ!」
408女の子だよ!:02/03/22 12:48 ID:5mNr0sQe
ファイル 6 捜査会議

 その日の放課後、完全に二日酔いから脱却した矢口は、体育館の二階に忍び
込み、そこの窓から双眼鏡で職員室の藤井を監視した。ここからだと、職員室
がよく見える。
(おやっ?ケイタイに電話がかかってきたみたいだなー)
藤井は電話に出ると、深刻な顔をして話している。藤井は電話を切ると、ポケ
ットから財布を出し、一万円札を五枚ほど封筒に入れた。そして裏門に移動し
、あたりを警戒しながら、一台の黒いベンツに近付いて行く。ベンツは窓を開
けて藤井から封筒を受け取ると、そのまま行ってしまった。
(ナンバーナンバーっと)
矢口はベンツのナンバーをメモし、藤井の動きを追った。藤井は荒れているら
しい。裏口近くに置かれているゴミ箱を蹴っている。その後、藤井は職員室か
ら動かなかったので、矢口は帰る事にした。一応、安倍に電話を入れてみる。
「なっちさん、藤井が誰かに現金を渡してたよ」
<うん、裕ちゃんも確認してるべさ。今、ナンバーの照会をしてる>
「それじゃ、これから帰るねー」
<判った。なっちも矢口の部屋に行くべさ>
こうして矢口は体育館から渡り廊下を通り、昇降口にやって来た。
「男の子も願ってるーうっ!みんなで楽しくひなまちゅり♪」
矢口は歌を歌いながら下駄箱を開ける。すると、矢口の靴の間に何かが挟まっ
ていた。どうやら何かの紙らしい。
「何だ?」
矢口はその紙を引っ張り出した。手にとってみると、それは封筒に入った手紙
である。亜衣や希美は毎日のように、こういった手紙を受け取るらしい。
「何だよ。あたしにコクるのかよー」
矢口は嬉しそうに手紙を開いた。すると、そこにはワープロで妙な内容が書か
れている。矢口は首を傾げながら、その文章を読んだ。

   矢口君へ
    大切な話があります。午後四時に屋上で待っています。
    君が来るまで毎日待っています。
                          T・F
409女の子だよ!:02/03/22 12:49 ID:5mNr0sQe
「げげー!藤井?・・・・・・そんな事はないだろうなー。うーん、四時半か・・・・・・明
日だな。明日は土曜日か?来週だね」
矢口は手紙を鞄にしまうと、靴を履き替え、昇降口から正門に向かって歩き出
した。前方から太陽が照りつけ、眩しさに顔を顰める矢口。ふと校舎を見上げ
ると、三階の窓から一人の少女が矢口を見つめていた。
(あいつは同じクラスの紺野だったっけ。確か空手をやってるんだよなー)
矢口は紺野に手を振った。しかし、紺野は無表情のまま、矢口を見つめ続けて
ている。いつも同じ表情しかしない紺野は、どこか不気味であった。
(あいつだけは、何を考えてるのか判らないなー)
矢口は首を傾げながら、校門を出て行った。風に吹かれて舞った桜の花びらが
、一枚だけ矢口の髪に貼り付く。矢口はそれに気付かず、自分の城へ急いだ。
410女の子だよ!:02/03/22 12:51 ID:tvahQbc7
 矢口がアパートに帰って来ると、ドアの外で安倍と会った。安倍は矢口を呼
びとめ、大切そうにハンカチを開く。
「ヤッホー、矢口おかえりー。ほら、桜の花びらだよ」
「ただいまー・・・・・・なっちさん、また桜?本当に飽きないねー」
矢口が呆れていると、二階から稲葉と石黒が降りて来た。以前は犬猿の仲の二
人も、最近では少しは仲良くなったようで、一緒にいる事も多い。
「なっち、桜?」
石黒は嬉しそうに安倍のハンカチを覗き込んだ。石黒も桜が好きである。どち
らかというと桜餅の方が好きなのだが、安倍同様、薄ピンク色の花びらにウキ
ウキするのだ。同じ北海道出身だが、夏生まれの安倍と違い、春生まれの石黒
は、長く閉ざされた冬の終わりを告げる桜に、自分の誕生日を重ね合わせてい
たのである。幼心に、薄ピンク色の花吹雪の中で、桜餅を食べる事が最高の幸
せだった。
「石黒、あんた桜が好きなんか?ほな、希望出して警視庁へ来や。何せ桜田門や
しな」
稲葉は石黒の肩を叩いた。稲葉は桜に対して特別な想い入れは無かったが、桜
は花見が出来るから好きである。というより酒が好きなのだが。
「そんなにいいかねー」
矢口は少女のような顔で、桜の花びらを覗き込む二人に溜息をつきながら、自
室に入って行った。
 こうして中澤が戻って来ると、矢口の部屋で捜査会議が始まった。稲葉と石
黒は昨夜行われた松浦の通夜に行っており、原宿高校バレー部の面々から話を
聞いたのである。
「まず、部長は福田明日香って子で、三年生なんだ。背は低いけど、東京で1、
2を争うセッターらしいよ。選手としては勿論、精神的にも部員の支えになっ
てるみたい。いわばバレー部のカリスマだね」
石黒が説明すると安倍が頷いた。春の高校バレーで有名な選手だからである。
運動音痴の安倍だったが、バレーボールを観るのが好きで、オレンジアタッカ
ーズの吉原知子のファンだった。
「確か原宿高校のエースは、吉澤ひとみって子だったっしょ」
「そうや。他には高橋愛、松浦亜弥、留学生のミカがそうやな。全体に小粒なん
やけど、キューバの選手並のジャンプ力で、全国大会の常連校やで」
稲葉もバレー好きらしく、大人気の吉澤と握手した事を自慢していた。吉澤は
Cクイックが得意であるため、ファンからは『よっC』と呼ばれている。エー
スアタッカーとしては小柄だが、抜群のジャンプ力を活かしたバックアタック
も得意としていた。
411女の子だよ!:02/03/22 12:53 ID:MzDb+aGc
 間も無く稲葉のケイタイに電話が入り、ベンツの所有者が判明する。福田武
雄というスナックの経営者だった。
「福田武雄?『焼銀杏』のオーナーだべさ」
「やっぱりそうや。福田が元締めで、藤井が売人で決まりやな」
稲葉が確信を持って言うと、中澤が首を傾げる。中澤はベンツの近くで待機し
ていたが、運転していたのは若い男であり、後部座席は暗くてよく見えなかっ
た。しかし、かなり小柄な者が乗っていたようで、藤井の差し出した封筒を受
け取った奴は、手しか見えなかったのである。
「福田武雄は百七十センチ以上やろ?どうも引っ掛かるんや」
『焼銀杏』は夏の部下である小湊と大谷がマークしていた。二人に状況を確か
めると、ベンツは若い男が運転して行ったという。
「そうなると、若い男がどこかで誰かを乗せてから、藤井のところへ行ったんだ
べね?」
「そうなるわな」
中澤は腕を組んだ。安倍も謎が多いため、今回は苦戦している。木村・平家・
松浦といった若い女性の死は、普通なら色恋沙汰の果てに起こるものだ。しか
し今回は麻薬が絡んでいる。
「ねえ、話は変わるけどさー、こんな手紙が下駄箱に入ってたんだー」
矢口はテーブルに手紙を置いた。中澤が開くと、稲葉と石黒、そして安倍が覗
き込む。
「T・Fは藤井隆?いや、福田武雄?」
石黒は首を傾げた。藤井が矢口の動きに感づく事は無いだろうし、福田が矢口
の存在を知っているのもおかしい。
「道玄坂中学の教師で、T・Fちゅうのは、他におんのか?」
中澤が訊くと稲葉はメモを見ながら確認を始めた。犬井・酒本・喜多・国井・
渡辺は違う。
「藤田朋子がそうやな。それから不破哲治。藤田は美術教師で、不破は英語」
「『矢口君』やしな。女性やないで。そうなると不破がそうか?」
中澤は英語教師が怪しいと思ったのである。しかし、不破は定年間近の老教師
で、退職後はマレーシアで悠々自適な生活を送ろうとしていた。そんな人間が
犯罪に手を染めるとは考えられない。
「裕ちゃん、教師とは限らないべさ。同い年の男の子でも、女の子を『君』で呼
ぶっしょ?」
最近では女性を『君』と呼ぶ男性は少なくなったが、会社などでは上司が部下
の女性を『君』で呼ぶ事も珍しくない。筆者も中学時代、生徒会の仕事をして
いた時、先輩から『君』で呼ばれた記憶がある。
「三年生か」
稲葉はプリントされた名簿を見る。一応、稲葉は捜査資料として、全校生徒の
名簿をコピーしていた。
「A組の藤原竜也とC組の船井輝彦の二人やな」
412女の子だよ!:02/03/22 12:54 ID:owR0sqLP
「これってさー、コクるのかなー」
矢口は嬉しそうに微笑んだ。中澤と稲葉、石黒は苦笑するが、安倍は妙にムキ
になっている。
「矢口は五歳も年下がいいんだべか?」
「別にそうじゃないけどさー、コクられたら嬉しいじゃん。あたしだって女の子
なんだからさー」
「言っとくけどね、何かしたら犯罪だよ。相手は中学生だべさ!」
安倍の剣幕に中澤が吹き出した。稲葉と石黒も続く。安倍がムキになったのは
、矢口が羨ましかったのである。中学生のような子供と成就するとは思ってな
いが、可愛らしい恋の当事者になってみたかったのだ。
「何が可笑しいんだべさァァァァァァー!」
安倍は眼を剥いた。安倍と矢口は歳が近いので、こういった羨ましい感覚が生
まれるのだろう。三十を目前にした中澤と稲葉、そして主婦でもある石黒には
、単なる他人事でしかない。
「中学生の男の子を襲う矢口やで。想像してみいや。アハハハハ・・・・・・」
中澤は本当に可笑しそうに笑った。稲葉と石黒も失笑する。しかし、笑いもの
にされた矢口は面白くない。
「それって酷いだろー?どうしてあたしが襲わなきゃいけないんだよ!裕子!」
「矢口、相手は中学生だべさ。刺激的な事をしたら駄目だからね」
安倍は羨ましいのが半分、矢口が心配なのが半分だった。矢口に対する心配と
は、勿論、相手を挑発する事である。
「けど、気いつけーよ。もし、相手が藤井やったら、面倒な事になるかもしれん
しな。一人では行くんやない。ええな?」
中澤も矢口が心配である。すぐに駆けつけられる体勢は布いているが、実際に
校内で松浦が殺されている経緯があるからだ。
「裕ちゃん、圭織をつけようか?今度の少年課の課長は、刑事課に協力したがっ
てるの。ほら、捜査に協力すると、感謝状が貰えるじゃない。あれの数も課長
の評価に繋がるんだってさ」
「そやな。飯田がおれば怖いもん無しや。矢口、屋上に行く時は、ケイタイの電
源は入れとけ。それで少しでも早く対応出来るしな」
「はーい」
矢口は元気に手を上げた。手を上げてみて、矢口はふと思い出す。三階から見
つめていた紺野の事を。
「そういえば、クラスの紺野あさ美って子が気になるの。今日ね、帰りにね、校
門の手前で何気に振り返ったら、その子がじーっとあたしを見てた」
「紺野ね・・・・・・紺野紺野・・・・・・あった。ああ、平家が殺された時間のアリバイが
ないね。まあ、ちゃんとしたアリバイがある方が少ないんだけど」
石黒も稲葉同様、名簿を持っていた。渋谷署では十五人も捜査員を掻き集め、
道玄坂中学全員から話を聞いていたのである。紺野を尋問したのは石黒だった
ため、割と特徴を憶えていた。無表情でとろ臭い感じはしたものの、空手をや
っているということが印象的である。段こそないが、拳にできた胼胝が練習量
を物語っていた。
「紺野って空手をやってるじゃん。ちょっと怖いなー」
「空手やて?」
稲葉は驚きの表情を隠せなかった。平家の死体を解剖した結果、致命傷の他に
あちこちに殴られたと思われる打撲がみつかっからである。
「空手か・・・・・・あっちゃん、怪しいね」
石黒は稲葉を『あっちゃん』と呼んでいる。これは稲葉が希望したもので、中
澤の事を、みんなが『裕ちゃん』と呼ぶのが羨ましかったのだ。
「矢口、紺野をマークせえ。勿論、校内で構わんけどな」
稲葉は矢口に指示を出す。確かに瓦を十枚も割る腕を持っていれば、か弱い女
性を殴り殺す事が出来るだろう。後は動機だ。
「紺野と藤井か・・・・・・忙しいねー。裕ちゃん、ボーナスくれる?」
矢口は得意の甘えた声で言った。中澤はこの声に弱い。
「しゃあないな。考えておくわ」
「やったー!」
こうしてターゲットを絞り込み、矢口の潜入捜査は続くのだった。
413女の子だよ!:02/03/22 16:37 ID:h9wVk+Hm
ファイル 7 真希と亜衣

 捜査会議が終わると、中澤は安倍と亜衣を連れて後藤家に向かった。夕飯が
遅くなってしまうため、中澤は帰りに三人で外食にしようと思っていたのであ
る。
「住所から行くと、このあたりなんやけどな」
中澤は代官山の住宅街にクルマを停めた。安倍と亜衣は窓から首を出して、キ
ョロキョロとあたりを見回す。大きな家が建ち並び、チャイムを押すと執事が
出て来そうな家もあった。
「あっ、お姉ちゃん、この家やないの?」
亜衣が指差した家の表札には、明朝体で『後藤』と書かれていた。すると、安
倍も隣の家を指差す。その家はローマ字で『GOTOU』と書かれていた。
「どっちや?・・・・・・ああっ?この二つで一軒やな。後の邸宅と、この小さい家は
同じ敷地の中にあるで」
小さい家といっても、2DKくらいは確実にある。こっちの家の方に誰かいる
ようなので、三人はチャイムを押してみた。
「はーい」
出て来たのは真希であった。真希は安倍を見ると、笑顔で頭を下げる。その顔
は、昨日よりも確実に明るくなっていた。やはり、安倍に話をして、かなり気
持ちが楽になったのだろう。
「後藤先輩にそっくりや!」
亜衣が驚きの声を上げる。確かに真希とユウキはそっくりだった。恐らく、ほ
とんど同じDNAに違いない。他人から見ると、二人に違いがあるとすれば、
それは男女といった事以外には無いだろう。
「こら、亜衣」
中澤に睨まれ、亜衣は頭を掻いた。真希は亜衣の可愛らしい仕草に、優しそう
な笑顔を浮かべる。その顔を見た亜衣も、ニッコリと笑う。
「ここでは何ですから、どうぞ上がって下さい」
真希に勧められ、三人は真希の家に上がった。この家は真希の姉が結婚した時
、娘夫婦に住んで貰おうと、母親が建てたものである。しかし、姉が結婚する
までは、真希が使っていた。
 真希は他の姉弟と違い、幼稚園から大学までの一貫教育で知られた某学園に
入ったが、十三年目にしてそこを辞めた。それはピアスといった些細な事が発
端である。しかし、以前から真希は、井の中の蛙になってしまうのを怖れてい
た。真希の探究心がそうさせたのである。だから真希は、教師にピアスを注意
されると、躊躇することなく、高校を自主退学したのだった。
「実は、依頼された件なんやけど、結論から言うと、引き受けられないんや。実
は、すでに他の人から依頼されておって、真希ちゃんから引き受けると、二重
になってまうしな。結果的に、真希ちゃんの依頼通りになって行くんやけど」
中澤は警察の依頼による潜入捜査は伏せて、慎重に状況を説明した。真希は黙
って中澤の話を聞く。
 安倍は中澤の話し方を研究していたが、どうしても真希の家が気になる。若
い女性であれば、それは当然の事だろう。真希の家の中は、モノトーンで統一
されており、人間だけが浮き出て見える。この雰囲気は、安倍の美的感覚を大
いに刺激した。
「お話は判りました。そういった事情でしたら、私の依頼は取り下げましょう」
真希は素直である。同時に大人でもあった。そんな真希を、亜衣は憧れの眼差
しで見ている。普段は美人だが、その笑顔が可愛らしい。亜衣はそんな女性に
なりたかったのだ。その女性が今、亜衣の眼前にいる。
414女の子だよ!:02/03/22 16:38 ID:RUsTqC6H
「あ・・・・・・あの、訊いてもええやろか」
話が一段落したところで、亜衣は真希に訊いた。真希は優しそうな視線を亜衣
に送り、首を傾げながら「なあに?」と訊ねる。
「一人暮らしなんですか?」
希美ほどではないが、少々舌足らずな亜衣は、大人の雰囲気を持つ真希に対し
、恥ずかしそうに訊ねた。
「うーん、ここには一人で住んでるけど、そっちの母屋には、母と姉二人、それ
と弟が住んでるの」
「あの、お父さんは?」
「亜衣!」
中澤が亜衣を睨んだ。亜衣は素直なのだが、こういった事を訊いてしまうとこ
ろが、まだまだ子供だったのである。俯きながら中澤を上目遣いに見る亜衣を
見て、真希は眼を細めて微笑んだ。
「お父さんは、ずっと前に死んじゃったの」
「えっ?・・・・・・ごめんなさい」
亜衣は俯いたままになってしまった。真希は亜衣が可哀想になり、助け舟を出
してやる。真希は可愛らしい亜衣を気に入ったようだ。
「亜衣ちゃんは誰と住んでるの?」
「お姉ちゃんと二人や」
亜衣は笑顔で顔を上げる。この笑顔には中澤も嬉しそうだ。亜衣は真希に父親
の事を訊いてしまった罪悪感から、訊かれもしない自分の境遇を話し出す。
「そんでな、うちは異母妹なんやけど、お姉ちゃんがな」
「あんたねー、そんな事は普通話さないべさ」
「えっ?ほんま?」
亜衣は安倍と中澤を交互に見ながら、再び俯いてしまった。真希は声を上げて
笑うと、再び助け舟を出してやる。
「亜衣ちゃんは寂しくないの?」
「うん。みんながおるし、やっぱりお姉ちゃんと一緒だもん」
この一言で、中澤は思わず眼を潤ませた。中澤にとって、最高に幸せな一瞬だ
ったに違いない。恐らく今日の帰りに、亜衣が一食二万円のフルコースをねだ
っても、中澤は二つ返事でOKするだろう。
「そっか、亜衣ちゃんは幸せだね」
「うん!」
亜衣は満面の笑みで頷いた。真希には妹がいない。しかし、真希は妹が欲しか
った。同性でないと、ある時期を境に、スキンシップが出来なくなってしまう
。姉とのスキンシップはあっても、それは単なる甘えでしかなく、真希の母性
や慈しみの欲求を満たすには至らない。
「ねえ、亜衣ちゃん。良かったら遊びに来てよ。バレー部を辞めちゃったからユ
ウキもいるし」
「うん!」
亜衣は本当に嬉しそうだった。
 帰りのクルマの中で、安倍は中澤に訊いた。真希はバイセクシャルである。
亜衣に対して性的な好意を持っているかもしれない。
「いいの?彼女は・・・・・・」
「別にええやないか。相手が男やったら心配やけど、女同士やったら妊娠したり
せえへんしな」
「そういった問題だべか?」
安倍は首を傾げた。すると亜衣が会話に入って来る。亜衣には真希がバイセク
シャルである事は話していなかった。
「誰が妊娠するって?お姉ちゃんはそろそろ頑張らんと、高齢出産になるで」
「じゃかましいわァァァァァァァァァー!まだ稲葉もおるやろ!」
中澤の額に青筋が浮き出る。しかし、中澤は上機嫌だった。やはり、亜衣が自
分と一緒だから寂しくないと言ったのが効いている。結局、この日の晩は、上
機嫌な中澤が寿司をおごった。
415女の子だよ!:02/03/22 16:39 ID:RUsTqC6H
ファイル 8 バレー勝負

 今年度から学校も土曜日は完全に休みとなり、今日ばかりは、矢口も潜入す
る必要が無い。しかし、七時三十分になると、希美が迎えに来た。
「眠いー!もう!今日は休みでしょう?少しは寝坊させてよ!」
矢口は眠そうな顔で玄関から顔を覗かせる。希美は困った顔をしながら、矢口
に詳しく説明をした。バレー部の希美は、今日も練習があったのだ。
「矢口さん、バレー部の練習が見たいって、言ってたじゃないれすか」
「あー、そうだったね。それじゃ着替えて来るから、ちょっと待っててー」
「ちなみに、ダイナマイトを発明したのは誰れすか?」
「ノーベルに決まってんだろう!このヴォケ!」
矢口は希美を睨みつけると、ドアを閉めてしまった。希美が矢口を待っている
と、飯田も部屋から出て来る。実は飯田もバレーファンであり、ヨーコ=ゼッ
ターランドのファンであった。
「やっぱり圭織も行くー」
「体育館は土足厳禁れすよ。靴は持ちましたか?」
希美が訊くと、飯田はまだ履いていないスニーカーを見せる。こうして希美・
矢口・飯田の三人は、道玄坂中学校へ向かった。
416女の子だよ!:02/03/22 16:40 ID:RUsTqC6H
 中学校の体育館では、すでに高校生達が来て練習を始めていた。高校生達は
軽く練習をしてから中学生を指導し、中学生達が食事の間、また練習をする。
そしてまた指導し、中学生が帰ると午後八時まで練習をするのだ。
「もう桜も終わりだねー。なっちさんは寂しいんじゃないかなー」
矢口が言うと飯田が首を傾げる。飯田も安倍や石黒と同じ北海道出身だが、桜
に関しては何の感情も抱いていなかった。まあ、飯田にしても警察官である以
上、桜と接する機会は多い。しかし、桜や国旗に頭を下げるような事には抵抗
を感じていた。飯田は無神論者であるため、偶像崇拝的な行為は大嫌いだった
のである。中澤と気が合ったのも、こういった警官らしからぬ考えがあったか
らに違いない。
「ののはこの時期、桜餅がないと寂しいれす」
「また食い物かよ!」
矢口に突っ込まれ、思わず舌を出す希美。
「ねえねえ、何で指にテーピングしてるの?」
飯田はボール拾いをしている高校生の女子部員に訊いた。女子部員が「突き指す
るから」と説明すると、飯田は困ったように首を傾げる。飯田は矢口に近付くと
、それとなく訊いてみた。
「矢口、何で突き指なんてするんだろ」
「多いのはブロックする時だろうね。敵はタッチを狙って来るから、横とか上に
ぶつけるんだよ」
「何でそんな事知ってんの?」
「アハハハハ・・・・・・雑学雑学」
矢口の身長でバレーボールをやっていたとは信じにくい。しかし、どうして選
手のような事を知っているのだろう。雑学で片付けるには、少々抵抗がある。
「あれ?ひょっとして、飯田さんじゃないですか?」
飯田に声をかけたのは、何かプレーをする度に、黄色い歓声が聞こえる吉澤で
あった。飯田は吉澤が中学時代に、夜遊びしていたのを補導した事がある。ど
ういうわけか吉澤と飯田は相性が良く、話が盛り上がってしまい、一晩中お喋
りをしていた。そんな過去があったのである。
「ひとみちゃんだよね。凄い人気じゃん」
「飯田さんもバレーをやるんですか?」
「観るのは好きだけどねー」
「吉澤、どうしたの?」
そこへやって来たのは、バレー部のカリスマである福田だった。吉澤が福田に
飯田を紹介すると、バレー部のカリスマは露骨に嫌な顔をする。
「また警察?もう話す事は何もない!」
福田は飯田を睨みつけた。飯田は苦笑するが、それは引き攣っただけである。
福田は尚も飯田に言い放った。
「観てるだけなら邪魔しないでよね!」
417女の子だよ!:02/03/22 16:41 ID:RUsTqC6H
これには矢口がキレた。短気ではないが、矢口は気が強い。福田を睨みつける
と、大声で怒鳴った。
「そういう言い方はねえだろうがァァァァァァァァァー!」
「矢口さん、駄目なのれす。やめて下さい」
希美は矢口を引っ張る。また、高橋も福田を羽交い絞めにしていた。
「福田さん、怒ったらいかんの。判っとるじゃろ?」
体育館内に張り詰めた空気が漂う。誰もが固まっていた。この雰囲気の中では
、最初に動いた奴が悪者にされるだろう。だから誰も動けずにいたのである。
「れ・・・・・・練習しましょうよ」
そう言ったのは吉澤だった。バレー部のカリスマに、唯一意見出来るのは、ス
ーパーエースの吉澤だけである。
「そうは行かないよ!このチビは、あたしに対して怒鳴りやがった。どうしても
観たければ、勝負しな!」
「上等じゃねえか!いつでも勝負してやるぞ!さあ、かかってきな!」
矢口も興奮している。一応は中学生なのだが、十九歳という面子があった。年
下の高校生に舐められては、矢口の気持ちがおさまらない。
「バカ!勝負はバレーだよ。互いに十本勝負だ。まあ、素人さんだからね。一本
でも決められたら、あんた達の勝ちだ。まあ、無理だろうけど」
「ふざけんじゃねえ!勝負は蓋を開けてみるまで判んねえんだよ!」
「ちょっとー、何で圭織を前に押し出すわけ?」
矢口はいつの間にか後に回りこみ、飯田を押し出していた。考えてみれば、矢
口がいくら頑張ったところで、ネットの上に手を出す事は不可能である。そう
なると、頼りになるのは飯田しかいない。
「あたしがトスするから、吉澤!手を抜くんじゃないよ!」
福田は厳しい口調で言った。飯田は仕方なく、希美にレシーブの仕方を教わる
。そんな飯田を見て矢口はイライラして来た。
「圭織さんはとろそうだから、レシーブはあたしがやる!」
矢口は二人を押しのけ、一人でコートに立った。一人で立つコートは、物凄く
広く見える。特に小柄な矢口にとっては、倍以上に感じられた。
「それじゃ、行きますよ」
吉澤が声をかけ、最初のトスが上がる。吉澤はライトから軽くストレートを打
ってみた。矢口は一歩も動けない。
(す・・・・・・すげー!)
矢口は一発目でびびってしまう。あんなものが顔面に当たったら、鼻血どころ
の騒ぎでは済まないと思った。何が怖いって、空気を切り裂きながら飛んで来
るボールの音である。一メートルも左に落ちたのに、ボールによって生まれた
風で、矢口の髪が揺れた。
「次!」
二打目は吉澤が得意なCクイックである。クイックはクロスやストレートに比
べてスピードは無いが、タイミングを外されるので、想定していないと拾う事
は不可能だ。昭和三十九年の東京オリンピックでは、『東洋の魔女』と呼ばれ
た日本女子チームが、AクイックとBクイックだけで金メダルを取ったのであ
る。当時は必殺技だったが、それは力道山の空手チョップと同じで、今では決
してノックアウト出来る技ではない。
 中澤のCクイックは、三十センチ横に決まるが、矢口の手は出なかった。こ
うなると一方的であり、吉澤はクロスからバックアタックまで決め、矢口は一
球も拾う事が出来なかったのである。
「口惜しい・・・・・・」
矢口は高校生全国レベルの実力を見せつけられ、涙をのんでコートを後にした
。後は飯田のスパイクに懸けるしか無い。
「圭織さん、頼んだよ!」
矢口は悔し涙を溢しながら、飯田に抱き付いた。トスは希美が上げる。
「ミカ!全部拾えよ!」
福田はミカを激励する。ミカは百五十センチという小柄な選手だが、リベロと
しての実力は、津雲博子や往年の佐伯美香に迫るものだった。
「Oh、任せてネ」
「あまり気合を入れ過ぎるなよ。どうせ大した事はないんだから」
この福田の一言が、渋谷署の最終兵器である飯田に火を点けた。飯田が不気味
な薄笑いを浮かべると、その髪が逆立って行く。
「げげー!圭織姉ちゃんがスーパーサイヤ人になったのれす」
飯田は戦闘モードに入ると、髪が逆立ったのである。そうなったら、もう誰に
も止められない。
418女の子だよ!:02/03/22 16:42 ID:4swq4FXo
「行きますよ!」
吉澤のタイミングを見ながら付け焼き刃で学習した飯田だったが、希美のトス
が完璧に入る。飯田はそこを思い切りスパイクした。ボールはミカの肩を直撃
し、天井にぶつかって床に落ちる。唖然とする高校生達。
「す・・・・・・すげー!まるでバーバラ=イエリッチだよ!」
「肩が・・・・・・」
ミカの肩が腫れ上がり、後輩達がアイシングを始めた。仰天して声も出ない福
田。
「圭織姉ちゃん、やったのれすー」
抱きつこうとすると、飯田は据わった眼で希美を見る。髪が逆立ったままなの
で、飯田は戦闘モードを解除していない。希美は困惑しながら訊いてみた。
「おしまいじゃないんれすか?」
「次」
「へっ?」
希美が眼を剥くと、レシーブには自信のある高橋が踊り出た。ミカの陰で目立
たないが、高橋のレシーブにも定評がある。高橋はジャンプサーブも打てるの
で、『原宿高校の大貫』の異名を持つ。
「今度は私が拾うわ。ええじゃろ?」
「どうなっても知らないのれす」
希美は次のトスを上げた。今度は少し高かったものの、飯田は凄まじいジャン
プ力で飛び上がると、渾身の力でスパイクする。そのボールは、迫撃砲弾のような、空気を切り裂く音がした。吉澤の打ったボールも唸りを上げるが、これ
ほど金属的な音はしない。抜群の反射神経で手を出した高橋だったが、バーバ
ラ=イエリッチを彷彿とさせるボールは、その手を弾き飛ばしてしまった。
「手・・・・・・手が・・・・・・」
高橋の手の甲が、みるみる紫色に変わって行く。これ以上メンバーを潰されて
は困るので、吉澤が敗北を宣言した。そこで飯田はようやく戦闘モードを解除
したのである。
「飯田さん、スゲ―!」
吉澤は眼を丸くして走って来た。飯田は笑顔で吉澤の頭を撫でる。矢口と福田
は唖然として同じ事を思っていた。
(何でこいつが警察なんかやってるワケ?)
419女の子だよ!:02/03/22 16:43 ID:4swq4FXo
ファイル 9 石黒の家

 刑事というものは、基本的に事件の捜査中には休む事が出来ない。しかし、
事件が長期化しそうな場合は、捜査主任の判断で、交代に休みを取っていた。
今日は稲葉と石黒に休日が与えられ、束の間の休日を送る事になる。一人暮ら
しの稲葉や安倍は、午前中に洗濯や掃除を行い、午後になると代々木にある石
黒のマンションに集合した。石黒の提案で明治神宮の桜吹雪を眺めながら、桜
餅を食べようという事になったのである。
「もう、稲葉さん遅刻だべさ」
石黒の家に来た事がない稲葉は、原宿の駅で安倍と待ち合わせをしていた。し
かし、稲葉がやって来たのは、約束の二時三十分を十分ほど過ぎた頃だった。
「すまんすまん、ちょっと早いけど、水羊羹を買うて来たんや」
「酒飲みのくせに、甘いものが好きなの?」
「こう見えても女の子やしな」
「『女の子』はきついべさ」
二人は談笑しながら石黒のマンションへ向かう。石黒のマンションは、原宿の
駅から代々木方面に少し行ったところにある。南西向きの石黒の家からは、眼
下に明治神宮の森が良く見えた。
「おじゃましまーす」
安倍と稲葉がマンションの七階にある石黒の家に着いたのは、三時少し前だっ
た。甘いものを食べるのには丁度良い時間である。
「いらっしゃーい」
石黒が笑顔で二人を迎えた。その胸には一歳半の愛娘が抱かれている。子供好
きの安倍は、顔をほころばせて「可愛いー」と覗き込む。やっとヨチヨチ歩きを
始めており、人生の中で一番可愛い時期である。
「今日、主人は仕事なの。だから遠慮しないでね」
石黒は笑顔で二人をリビングに案内する。その石黒の顔は、仕事中には決して
見る事の出来ない表情をしていた。家では貞淑な妻であり、優しい母なのであ
る。今は『石黒彩』ではなく『山田彩』なのだ。
 それが刑事になると、凶悪犯でもびびりまくる鬼のような表情になるから驚
きである。希美にしても、最初から石黒のこういった顔を見ていれば、怖がら
ずに済んだだろう。
「うわー!凄いねー」
安倍は嬉しそうに、窓から明治神宮の桜吹雪を見た。安倍と同じくらいの身長
である稲葉も、安倍の横から覗き込む。
「こりゃええな。石黒、ちょっと早いけど水羊羹や。これなら娘も食えるやろ」
「うん、ありがとう、あっちゃん」
石黒は冷蔵庫から、麦茶と水だし玉露を取り出し、リビングのテーブルに置い
た。いよいよ桜餅パーティの始まりである。
420女の子だよ!:02/03/22 16:43 ID:4swq4FXo
「やっぱり、こうなったべね」
安倍は溜息をついた。稲葉と石黒は、桜餅を食べ終わると、飲み出したのであ
る。二人とも嫌いではないので、ガンガン飲み出し、ビールの次は日本酒、そ
してウイスキーに突入していた。
「ほんま、可愛いな。うちも子供が欲しくなるわ」
稲葉は石黒の娘を見ながら言った。今日は女性ばかりなので、人見知りする娘
も、それほど興奮していない。そればかりか、自分から安倍や稲葉のところへ
歩いて行くほどだった。
「あっちゃんも早いところ、結婚した方がいいよ」
「そうなんやけどな。こればかりは相手がおらんとあかん問題やし」
稲葉は寂しそうに言った。警視庁捜査一課の刑事をやっていては、結婚などは
夢のまた夢である。稲葉の部下で結婚しているのは小湊だけであり、彼女にし
ても、夫と姑の理解があって初めて刑事をやっていられた。
「よっしゃー!裕子より先に結婚したるで!」
稲葉が所信表明演説を始めると、そこへ山田が帰って来た。突然の帰宅に動揺
する石黒。
「お・・・・・・おじゃましてます」
安倍と稲葉は緊張して頭を下げた。山田は二人の顔を見て、空缶や一升瓶に視
線を移す。かなりまずい雰囲気のようだ。
「彩、飲んでたのか?」
「・・・・・・うん」
「あの・・・・・・」
稲葉が山田を宥めようと、言葉をかけた時、山田は信じられない事を言った。
「何で二人が来る事を黙ってたんだよ。さあさあ、座って座って。いやいやいや
、何飲んでるの?ウイスキー?彩、俺のコップもー、さあさあ、飲もう飲もう」
山田は大の酒好きで、しかも今日は二人の若い女性が来ている。嬉しくて仕方
がない様子だ。
「さっきの緊張した雰囲気は何だったんだべか?」
「アハハハハ・・・・・・何となく」
石黒は笑顔で頭を掻いた。
「何となくじゃないべさァァァァァァァー!」
「まあまあまあ、ああ、君がなっちだろ?そうか飲めないのか、残念だなあ」
この小太りの男は実に陽気で、稲葉と盛り上がっていた。それからファミリー
レストランのデリバリーサービスを頼み、夜十時まで盛り上がったのである。
安倍や稲葉には、この一家が理想の家族に見えた。楽しくて優しい夫に気の利
く妻、そして可愛い娘。稲葉は泥酔状態でタクシーに乗るが、「石黒はええな」
と連発している。稲葉をタクシーに乗せた安倍は、久し振りに温かな家庭の雰
囲気を満喫し、嬉しそうに帰路についたのだった。
421女の子だよ!:02/03/22 16:44 ID:4swq4FXo
ファイル10 傷心矢口

 月曜日になると、矢口も中学生振りが板につき、希美と亜衣を率いて登校す
る。やはり一番人気のある亜衣と二番目の希美が一緒であるため、嫌でも矢口
は目立ってしまう。
「なあ、A組の藤原ってどいつよ」
矢口は今日の四時に屋上へ行ってみるつもりだ。その前に、どんな男か知って
おきたかったのである。矢口達が校門に入ると、希美が矢口の肩を叩いた。
「ほら、あの青いジャージの人れすよ」
「アアン?」
矢口が振り向くと、サッカー部が朝練を終えてトンボをかけている。その中で
青いジャージを着た奴が、後輩らしい二人と話をしていた。
「ええっ!あの青いジャージの子?」
「ああ、ほんまやな」
亜衣が頷いた。途端に矢口は笑顔ではしゃぎ出す。
「かわいいー!タイプかもしれない」
「矢口さん、中学生に手を出したら犯罪れすよ!」
「ほんまやで。あんた十九やろ?」
矢口は本当に嬉しそうだった。不細工な男だったら、散々脅かしてやろうと思
っていたので、矢口は天にも舞い上がる気分である。
422女の子だよ!:02/03/22 16:45 ID:vRGyk2Ij
 授業が終わると、矢口は安倍に電話した。もう、これは完全な自慢である。
とにかく矢口は安倍に自慢したかったのだ。
「なっちさん!藤原って子、凄いイケ面なのー。コクられたらどうしようかなー
、きゃは!」
<何が『きゃは!』だべさ!仕事っていうのを忘れんじゃないよ!>
安倍は矢口がコクられると考えると、次第に腹が立って来た。何で矢口だけが
いい思いをするのか。安倍は無性にイライラして来る。
「でもさー、あっさり断っちゃうのもどうかなー」
<いい加減にするべさァァァァァァァァァァァー!>
「アハハハハ・・・・・・なっちさん、妬いてるの?ねえ、な・・・・・・切りやがった!」
矢口が一人で浮かれていると、中澤から電話がかかって来た。電話を傍受して
いるため、全て内容が筒抜けである。
<矢口ー!あんまり安倍をからかうんやない。ええか?どんなイケ面でも、絶対
に油断したらあかんで。ええな?>
「はーい、大丈夫でーす」
<おっと、またベンツや。矢口、しっかり仕事せえよ>
中澤が電話を切ると、矢口は体育館へ移動する。そして例の場所から、藤井を
監視するのだ。矢口が双眼鏡で職員室を見ると、そこに藤井の姿は無い。
(どこに行ってるんだ?)
矢口が校舎の窓を探していると、三年C組の教室にいる藤井を発見した。藤井
は誰かと話をしている様子である。その相手が誰なのかは、矢口の場所からは
見えなかった。
(まあいいや。もうじき四時になるし、教室を覗いてやるか)
矢口は体育館の中でバレーの練習をしている希美に声をかける。今日は希美と
一緒に屋上へ行く事にしていた。
「のの、そろそろ行くよ」
「はーい」
希美が練習から離脱すると、男子バレー部の部員から溜息が洩れる。希美の近
くにいられるという理由だけで、男子バレー部は大所帯になっていた。
「早くしろよ」
矢口は希美を急がせる。屋上も気になるが、どうしても藤井が話している相手
を知りたかったからだ。希美はジャージの上からスカートを穿き、上着を着た
だけで矢口の後を追う。
「矢口さーん、待ってくらさい」
423女の子だよ!:02/03/22 16:46 ID:vRGyk2Ij
矢口は渡り廊下を走りぬけ、階段を昇り始めた。すると、踊り場に三人の女子
生徒がタムロしている。彼女達はC組の不良達だった。
「おい転校生、そんなに急いでどこへ行く?」
「悪いんだけどさ、ちょっとカネ貸してくんない?」
矢口は行く手を遮られ、階段を昇る事が出来ない。イライラした矢口は、中の
一人の胸倉を掴んだ。
「テメエ!どかねえと痛い思いをするぞ。急いでんだよ!」
矢口が凄むと、やはり中学生である。矢口の迫力に負けて道を空けた。やはり
矢口は小柄ではあるが、中学生からすれば十九歳の大人である。
「あいつ・・・・・・本当はかなりのワルなのかも」
不良の一人が言うと、他の二人が首を傾げる。仲が良いのは希美と亜衣だし、
至って普通の中学生に見えるからだ。
「ど・・・・・・どんな風に?」
「大人からカネをまきあげてんじゃない?」
「それはスゲーな」
中澤と安倍にたかる矢口。まんざら外れではないようだ。そこへ地響きを立て
て希美がやって来る。
「ののちゃん、どうしたの?」
「あはっ!いつも可愛いねー」
「お姉さんに宜しくー」
希美は首を傾げながら通過して行った。この不良三人娘は、希美の姉が警官だ
と知っていたので、いつも媚を売っていたのである。
「ハァハァハァ・・・・・・三階まで一気に駆け上がると、やすがに苦しいや」
矢口が息を切らせていると、希美もやって来るが、彼女は全く息を乱していな
い。矢口は呼吸を整えると、C組の教室前へ移動し、壁に耳をつけてみた。
「ぼそぼそぼそぼそ」
「ぼそぼそぼそぼそぼそ」
「ぼそぼそ」
「ぼそぼそぼそぼそ」
「ぼそぼそぼそぼそぼそぼそぼそ」
(聞こえねえぞ)
(声が小さすぎるんれす)
(盗聴失敗かー、仕方ない。顔だけでも確認するか)
矢口はドアの隙間から中を覗きこむ。すると、そこには藤井と紺野がいた。
(すげえ怪しいぞ。こいつら)
(まさか、藤井先生、紺野ちゃんを口説いてるんれすかねー)
(知るか!そんなこと)
(あっ、矢口さん、もう四時を過ぎたのれす)
(是非もなしか・・・・・・)
424女の子だよ!:02/03/22 16:47 ID:vRGyk2Ij
矢口は屋上へと移動した。そこで待っていたのは、やはり藤沢である。矢口の
心臓は、自分でも恥ずかしくなるほどドキドキしていた。
「来てくれたんだね」
藤原は嬉しそうに矢口を見つめる。矢口はすっかり中学生になりきって、フェ
ンスに指を絡ませながらモジモジしていた。
「てへてへてへ・・・・・・見てられないのれす」
希美は二人から離れた場所で、フェンスにつかまって遠くの高層ビルを見てい
た。なるべく邪魔をしないようにとの配慮である。
「あたしに話って・・・・・・何?」
矢口は恥ずかしそうに訊いた。これから愛の告白を受けると思うと、矢口は嬉
しくて仕方が無い。自分で思いつく最高に可愛い顔を作ってみたりする。
「実は・・・・・・」
藤原は矢口の顔に自分の顔を寄せる。矢口は思わず眼を瞑ろうと思ったが、一
応、中学生なので、驚いた振りをした。
(おおう!積極的な奴だなー!気に入ったぜー!)
矢口は涎を垂らさないかと心配しながら、藤原の唇を待った。
(さあ!ブチュッと来い!ブチュッと!)
矢口は興奮して鼻血が出そうだった。最近では中澤にしかキスされないので、
こういった美少年にされたかったのである。矢口は頭の片隅で考えた。舌を入
れられたらどうするか。抱き締められたらどうするか。それ以上を望まれたら
どうするか。
 ここは十九歳の自信と責任において、この少年に感動的なキスを提供する義
務があると思った。そのためには、多少は官能的な演出も必要ではあるまいか
。溜息のポイントやタイミング。キスが終わった時の表情や行動。もし、藤原
が興奮して押し倒された時にはどうするか。矢口の頭は凄まじい速さで回転を
始めた。ところが、藤原は矢口の耳元へ唇を持って行く。
「人がいるから大きな声では話せないけど、藤井と紺野には近付かない方がいい
。いったい、何を調べてるの?」
「へっ?」
矢口は固まってしまう。あまりにも予想外の展開だったからだ。可愛らしい恋
のヒロインから、一気にマヌケへ急降下した矢口は、激しい自己嫌悪を感じて
いる。
「藤井は暴力団と繋がっているらしいよ。噂では女の人をクスリ漬けにして、風
俗で働かせているらしい。紺野は松浦先輩を殺した犯人だって言われてる」
矢口はようやく自分を取り戻し、藤原の話に耳を傾ける事が出来るようになっ
た。考えてみると、藤原が気付いたという事は、かなり不自然な行動があったのだろう。
「調べる?何の事?」
矢口はとぼけてみた。ここで肯定すれば、潜入捜査の中止を意味するからであ
る。そんな事になったら、中澤や安倍に顔向け出来なくなってしまう。
「僕はずっと君を見ていたんだ。だから判る。君が何かを調べているのが」
「えっ?」
それって、もしかして・・・・・・矢口は再び淡い期待をしてしまう。しかし、人生
そんなに甘いものではない。
「君は加護君と仲がいいだろう?僕の気持ちを伝えて欲しいんだ」
「・・・・・・ろよ」
「何だって?」
「テメエで伝えろって言ってんだよ!」
矢口は藤原の胸倉を掴んだ。びびりまくる藤原。これに気付いた希美が止めに
入った。
「矢口さん、暴力はいけないのれす」
「バカ野郎!」
矢口は藤原を突き飛ばすと、凄い形相で屋上を後にした。何が何だか判らない
藤原は、唖然とした顔で希美に訊いてみる。
「僕は何か悪い事をしたのかな?」
「あなたは乙女心を傷つけたのれす」
「誰の?」
「本当に判らないのれすか?そんな鈍感な人、あいぼんは好きになってくれない
れしょうね」
希美は矢口の後を追った。
 矢口は傷ついていた。確かに勝気な性格であるし、希美や亜衣に比べて老け
てはいるだろう。それでも、心のどこかで、自分も意外と可愛いのでは。と思
っていた。そういった意識の全てが、否定されたようなショックを受けてしま
ったのである。
425女の子だよ!:02/03/22 16:47 ID:vRGyk2Ij
「また来たよ」
先ほどの不良三人娘が矢口を睨む。よせばいいのに、中の一人が矢口の悪口を
言った。
「チビのくせに」
普段ならば睨み返す程度で済んだだろうが、矢口は傷ついている。その悲しみ
が怒りに変化して行くのは、ごく自然の成り行きだ。深く傷つけば傷つくほど
、その怒りに比例してしまう。
「テメエ等・・・・・・」
矢口は三人と向き合った。
 希美は矢口の後を追って階段を駆け降りる。あれだけ浮かれていたのだから
、そのショックは相当なものだろう。希美は矢口が心配でならない。
(この下に不良さんがいたのれす。ちょっと怖いのれす)
希美は不良三人娘と眼を合わさないよう、一気に階段を駆け降りようとした。
ところが、希美に何も声をかけて来る気配は無い。希美が恐る恐る眼をやると
、そこには白目を剥いて昏倒する不良三人娘がいた。
「あちゃー、矢口さんれすね」
矢口はケンカが強いわけではなかった。しかし、いくら小柄でも、矢口は十九
歳である。不良三人娘は矢口の怒りの表情に戦慄を覚え、足が竦んでしまった
のだ。後は一方的に矢口にやられてしまったのである。
426女の子だよ!:02/03/22 16:49 ID:WPC2wCx7
ファイル11 反省

 深く傷ついた矢口は、家に帰れなかった。帰ったらみんなの笑いものになる
と思うと、このままどこかに消えてしまいたくなる。
「どうや」
「駄目。ケイタイの電源を切ってるべさ」
安倍の部屋では、中澤と稲葉、石黒、飯田の五人が、矢口を心配していた。希
美から全て聞いた五人は、最初は大笑いとなったが、傷ついた矢口を思うと、
可哀想で仕方が無い。誰もが一度や二度は、過去にこういった経験をしている
からだ。
「裕ちゃん、もう十一時になるし、みんなで探そうよ」
石黒は矢口が心配で仕方が無い。しかし、この中で一番心配していたのは、中
澤と安倍だった。
「そうやで裕子。な、探しに行こう」
「ちょっと待ち。矢口かてもう子供やない。うちかて心配やけど、ここは矢口を
信じて待つべきちゃうか?」
中澤の本音は、今すぐにでも矢口を探しに飛び出したい。だが、それは矢口の
ためにならなかった。飯田の横で泣きそうな顔をしている安倍を思うと、石黒
や稲葉の意見に気持ちが動きそうになる。それを辛うじて払拭出来たのは、矢
口を信じていたからだ。
「そやかて裕子・・・・・・」
稲葉が言いかけた時、安倍のケイタイが鳴った。安倍が慌てて表示を見ると、
液晶画面に「矢口真里」と表示されている。
「もしもし!矢口だべか?今、どこだべさ!」
<・・・・・・アパートの前>
安倍は玄関に走って行き、ドアを開けた。すると、アパートの前に小柄な影が
ある。
「矢口!」
安倍はケイタイを放り投げると、裸足のまま階段を駆け降りた。他の四人も次
々と飛び出して来る。
「矢口!バカァァァァァァァー!」
安倍の平手が飛んだ。頬を押えて俯く矢口。
「どれほど心配したと思ってるんだべさァァァァァァー!」
安倍は泣きながら矢口を抱き締めた。
「ご・・・・・・ごめんなさい」
矢口も安倍に抱きつくと、声を上げて泣き出した。それを見た中澤は、階段の
手摺につかまってしゃがみ込む。中澤はそれほど心配していたのである。
「裕子、あんたらしいで」
稲葉は中澤を抱き上げる。中澤は涙を堪えながら、笑顔の稲葉の肩を借りた。
「全く世話の焼ける妹達やろ?」
「あんたもな」
中澤は稲葉を見て笑顔になる。
 安倍と矢口は抱き合ったまま号泣していた。石黒と飯田が二人の肩にてを掛
けると、安倍は泣きじゃくりながら、矢口の頭を撫でる。
「矢口が・・・・・・逃げたい気持ち・・・・・・は判るべさ。みんなそん・・・・・・な事は経験
し・・・・・・てるんだよ・・・・・・みんなは笑・・・・・・うかもしれ・・・・・・ないよ・・・・・・で
もそ・・・・・・れは自分の照・・・・・・れ隠しだべさ」
「さあ、中に入ろうよ」
石黒が二人に優しく声をかけた。
427女の子だよ!:02/03/22 16:50 ID:WPC2wCx7
 矢口の部屋に集まった五人の前で、矢口は土下座をして謝った。これだけ反
省されては、お説教する気でいた中澤も、何も言えなくなってしまう。
「もういいべさ。矢口の気持ちは、みんな判ってるんだから」
安倍は矢口を抱き上げる。矢口は再び涙を溢しながら安倍に抱き付いた。石黒
は全員にお茶を煎れ、気分が落ち着くようにする。
「けど、何かを探っているのが気付かれたとはな」
稲葉は残念そうに言った。まさか中学生に感づかれるとは思っていなかったの
である。いくら矢口が素人とはいえ、それなりに気付かれない努力はしていた
に違いない。
「矢口、残念だけど、これで終わりにするべさ」
「そやな。これ以上続けると、矢口が危険や」
稲葉も頃合だと踏んでいた。しかし、もう少し引っ張る事を主張したのが、石
黒と中澤である。『焼銀杏』と藤井が繋がっており、後は証拠を揃えるだけだ
ったので、何としてでも継続を力説した。
「あたしはやる!」
矢口が継続の意思表示をしたので、稲葉と安倍は折れる形となる。しかし、稲
葉は明日で打ち切りを宣言した。つまり、矢口は明日一日で証拠を掴まなくて
はならない。
「矢口、間違えても無理は駄目だよ」
安倍は矢口が心配だった。出来れば傍にいてやりたいのだが、安倍には留守番
という大役がある。安倍と矢口を繋ぐものは、小さなケイタイだけだった。
「よっしゃー、それじゃ、事件を整理するで。殺されたのは木村アヤカ・平家み
ちよ・松浦亜弥の三人やな。犯行の手口は一緒、後頭部を鈍器のようなもので
一撃や。木村・平家の線で出て来るのが藤井やな。木村と藤井は愛人関係。平
家は職場の同僚や。そうなると・・・・・・」
稲葉はここで詰まってしまう。しかし、それから先が問題なのだ。安倍はどう
なったら人を憎むようになるのか、そればかりを考えている。
「うーん・・・・・・もしかすると。あたし達は大きな間違いをしてるかもしれない」
安倍は何かを感じたようである。だが、あとひとつなのだ。あとひとつ何かが
判れば、安倍の推理が走り出すのである。
「間違い?」
稲葉が怪訝そうに安倍を見た。一本気な稲葉にしてみれば、藤井が主犯で紺野
が実行犯である図式が成り立っている。ただし、平家と松浦殺害については、
その動機といった部分で行き詰まっていた。
「木村アヤカ殺害については、藤井が絡んでいるのは確実だべさ。問題は平家と
松浦の殺害。これはきっと後藤姉弟が鍵を握っているっしょ」
「後藤姉弟が犯人?」
飯田が安倍を覗き込んだ。全員が安倍に注目する。安倍は首を振りながら否定
した。後藤姉弟には、それこそ動機が無いのである。
「それじゃ、矢口の努力は報われないって事?」
矢口は安倍を睨む。恥ずかしい思いもした。傷ついて逃げ出したくもなった。
そんな努力が無意味だったとしたら、矢口は立ち直れないだろう。
「そうじゃないべさ。これはあくまで仮定だけど、他に真犯人がいたとすれば、
矢口が動き出したのを知って、かなり動揺してるはずっしょ?なぜなら、向こ
うは、こっちがどれだけ調べているかは、全く知らないんだべさ」
安倍の考えには説得力があった。稲葉は証拠が揃わない内に絞込み過ぎたのか
と、自分の捜査方針を反省する。
「まあ、何にしてもやな」中澤は全員を見ながら「明日以降やな」と締め括った。
428女の子だよ!:02/03/22 16:50 ID:WPC2wCx7
ファイル12 矢口を探せ!

 翌日、矢口は全身に決意を漲らせながら、引き締まった表情で登校した。そ
の迫力に、きつい性格の亜衣でさえ、言葉をかけられないくらいである。下手
に話し掛けようものなら、殴られそうな雰囲気だったからだ。
 矢口達が校門から校内に入ると、昨日の藤原がサッカーボールを片手に走っ
て来る。その爽やかな動きに、希美はときめいてしまう。昨年まではユウキが
モテモテだったが、今は藤原が道玄坂中学校女子生徒の憧れの的であった。
「矢口君、昨日は怒らせてしまったようだね。僕が悪かったのなら謝るよ」
「別にどうだっていいわ。あたしには関係の無い事だから」
「僕、考えたんだ。本当に加護君が好きだったのかな?って。それでようやく判
った。どうして君が気になっていたのかって。それは僕が好きなのは・・・・・・」
藤原が振り返ると、そこには誰もいなかった。矢口達はすでに昇降口に入りか
けている。
「僕ってマヌケ?」
藤原は固まったまま動かなくなってしまった。
429女の子だよ!:02/03/22 16:51 ID:WPC2wCx7
 矢口は昼休みになると、職員室の藤井を監視すべく、渡り廊下に移動した。
ここからだと双眼鏡を使わなくても良いが、こっちも丸見えなので、カモフラ
ージュが必要である。矢口はカモフラージュに、大きなダンボールを使った。
そこから藤井を監視するのだが、何かの用事で廊下を通る生徒達は、不思議そ
うに矢口とダンボールを見る。
「見世物じゃねえんだよ!早く通れ。このガキ!」
矢口が凄むと、一年生の男子生徒などは、べそをかきながら走って行く。矢口
は相手が強かろうが、平気でケンカを売る。しかし、弱い者には徹底して、き
つく当たっていた。簡単に言えば、矢口の頭の中には、弱者救済の論理が無い
のである。『弱い者は強くなるか、工夫をする』これが矢口のポリシーだった
。実際に矢口はこの方法で、現在の自分を築いて来たのである。
「何だ?すげー空ろな眼だなー」
矢口は藤井が妙な目つきになっているのに気付いた。薬物中毒なのだろうか。
やがて藤井は席を立ち、フラフラと職員室を出て行く。矢口はダンボールを置
き、慌てて後を追う。すると藤井は、ゆっくりと階段を昇って行った。その魂
の抜けたような歩き方は、誰かに操られているようにも見える。
(麻薬をやると、こんな風になっちゃうのかなー)
矢口は藤井の後を追いながら、薬物には手を出さないと決心した。やがて藤井
は階段を昇りきり、ドアを開けて屋上へ出て行く。矢口はドアまで一気に移動
すると、そこから藤井の様子を観察した。
(校庭を見てるな。誰かいるのかな?)
矢口が首を伸ばすと、藤井は何を思ったか、フェンスを乗り越えてしまう。矢
口は慌てて屋上に飛び出した。
「何をする気なの?ねえ!」
矢口が声をかけると、藤井は空ろな眼で振り向き、満面の笑みを浮かべた。
「私は飛ばなければいけない。アハハハハ・・・・・・」
「ちょちょちょちょ・・・・・・ちょっとー!ここは屋上だよ。飛んだら死んじゃう」
矢口は蒼くなって藤井を止めた。しかし、藤井は狂ったように笑い出す。
「アハハハハ・・・・・・明日香ちゃん」
藤井は人生最後の跳躍をする。人間が死ぬ瞬間を見ていた矢口は、眼を剥いて
震えていた。鈍い衝突音に混じって、骨の砕ける音がする。矢口は震える足を
引き摺って、とにかく屋上から出ようとした。矢口にしてみれば、藤井が最後
に言葉を交わした人間である。そのショックは大きかった。
「ふじふじふじ・・・・・・藤井先生が・・・・・・」
矢口がドアにたどり着くと、そこには紺野が立っていた。紺野は無表情のまま
矢口を見つめる。矢口は藤井の自殺を知らせようと、眼前の紺野に訴えた。
「ここここ・・・・・・紺野・・・・・・ふじ」
矢口の言葉はここで途切れた。紺野が矢口の腹を蹴ったからである。
「バカな子」
紺野は無表情のまま、冷たく言い放つと、矢口を大きなスポーツバッグに押し
込み、それを担いで階段を駆け降りて行った。
430女の子だよ!:02/03/22 16:53 ID:WaxBaZWQ
 中澤と飯田は裏門近くに停めたクルマの中で待機していたが、藤井が自殺し
た事を知らなかった。すると中澤のケイタイに電話がかかって来る。
「おう、安倍。どないした?」
<そっちの様子はどうだべさ!矢口が電話に出ないの!>
中澤には安倍が言っている意味が判らない。安倍は藤井の自殺を、稲葉から教
えて貰ったのである。矢口に電話をしても出ないため、慌てて中澤に連絡した
のだ。
「何かあったんか?」
<何言ってるべさァァァァァァァー!藤井が屋上から飛び降りたのー!>
「ほんまか!すぐ急行する!飯田!藤井が飛び降りたらしいで!」
「ええっ?矢口は?」
二人は走って中学校の中に入って行った。
 現場に到着すると、飯田が藤井の死体に駆け寄り、中澤が取り巻きを遠ざけ
た。飯田が藤井の死体を調べると、すでに心肺停止の状態である。頭蓋骨が変
形し、血や脳漿が飛び散っていた。恐らく即死だったのだろう。
「ええか?全校生徒を体育館に集めるんや!」
中澤が教師に指示すると、抱きついて来た少女がいた。亜衣である。
「亜衣、矢口はどした?」
「いないの。さっきから探してんやけど」
そこへ夏・稲葉・石黒の三人が到着した。生徒達は続々と体育館に集結してお
り、その光景は砂糖に群がる蟻のようである。
「飯田、状況は?」
「屋上からでしょうね。ほとんど即死だったみたい」
中澤は夏に矢口が行方不明になっている事を告げた。いきなり夏の表情が曇る
。それは夏が矢口の身に、危険が迫っている事を感じたからだ。
「矢口はどうしたべさァァァァァァァー!」
到着したばかりのパトカーから、安倍が血相を変えて飛び出して来た。妹のよ
うに可愛がっている矢口が失踪したのだ。落ち着いてはいられない。
「なっち、矢口がいないの」
飯田が困ったように言うと、安倍は中澤の胸倉を掴んだ。石黒が慌てて止めに
入るが、安倍は泣きながら中澤に噛み付く。
「裕ちゃんがついてて、何やってんだべさァァァァァァー!」
「すまん・・・・・・」
中澤は俯いた。夏は中澤から引き離すと、厳しい表情で安倍を叱る。
「中澤を責めるんじゃない!そんな事を言ってる場合じゃないだろう!しっかり
しろ!安倍!」
「そ・・・・・・そうだべさ。なっちがしっかりしなきゃ」
安倍がようやく冷静になった時、稲葉が体育館から走って来た。かなり焦って
おり、深刻な事態である事が覗える。
「全校生徒でいなくなったんは、矢口と紺野の二人だけやで!」
「よし、安倍と飯田は紺野の自宅へ急行しろ。中澤と石黒は『焼銀杏』、稲葉と
大谷は警官四人を連れて校舎の中だ」
夏が素早く指示を出すと、すぐに全員が走った。こういった時に冷静な指示が
出せる夏はさすがだ。
 飯田は相変わらず凄まじい運転をし、二分足らずで二キロ離れている紺野の
自宅に到着した。二人が踏み込むと、母親が悲鳴を上げる。
「あさ美はどこだべさァァァァァァァァー!」
安倍が凄まじい表情で睨むと、紺野の母親は腰を抜かしてしまう。飯田が警察
手帳と身分証を提示し、状況を説明した。
「あさ美は帰ってませんが」
「本当だべな?嘘つくと絞め殺すべよ。アアン!」
安倍が胸倉を掴むと、母親は確認しても構わない旨を言った。飯田は紺野がい
ないと確信し、安倍を引き寄せる。
「ここにはいないよ」
「それじゃ『焼銀杏』だべさァァァァァァァー!」
安倍は母親を突き飛ばすと、飯田を引き摺ってクルマに戻った。
431女の子だよ!:02/03/22 16:54 ID:WaxBaZWQ
ファイル13 矢口危うし!

 矢口が目覚めると、そこはどこかのスナックのようだった。彼女は柔らかな
椅子の上に置かれており、三人の男が矢口を見下ろしている。
「気がついたみたいだぜ」
そう言ったのは、背の高いトモヤという男だ。いかにも凶悪そうな顔をしてお
り、その筋の若い衆といった感じである。
「本当に姦っちまっていいのか?」
ちょっと人が良さそうなのがマサヒロである。この男がベンツを運転していた
らしい。
「ああ、ちゃんと許可をとってあるさ」
一番の老け顔がタイチだった。この男は三人のリーダー格であり、噂によると
最も凶暴な性格らしい。
(何となく、かなりヤバイ感じだなー)
矢口は本能的に、自分の身が危険に曝されているのを感じた。拘束されていな
いのが不幸中の幸いであり、矢口は三人の隙を覗う事にする。
「順番だぜ。最初は俺だ」
タイチが他の二人に言った。不満そうな声を漏らす二人。矢口はいきなり立ち
上がると、出口に向かって走り出した。
「バーカ」
瞬く間に矢口は三人に囲まれてしまう。絶体絶命の矢口は、カウンターの中に
入り、三人にグラスやボトルを投げつけた。
「来ないでよ!あたしに何かしたら、警視庁を敵にまわす事になるからね!」
矢口が言うのも満更嘘ではないが、三人は矢口に脅しをかける。
「テメエ!いい加減にしねえと、東京湾に浮かんで貰うぞ!」
矢口は勝気な性格だったが、こういった脅しには弱かった。恐怖と絶望感が矢
口を襲い、カウンターの隅に座り込んで泣き出してしまう。
「やめて・・・・・・くれないよね」
「変な詮索するからだ。まあ、自業自得と思って諦めるんだな」
タイチはロバートブラウンのボトルを抱き締めて、蹲っている矢口を引き起こ
した。そしてタイチは矢口を抱かかえる。
「背は低いが、ちゃんと女の身体をしてるじゃねえか。抵抗しなけりゃ、ショッ
クも少ないっていう話だぜ」
「もう・・・・・・諦めたよ・・・・・・でも・・・・・・怖いよォォォォォォー!」
矢口は号泣しながら、ロバートブラウンを一気に呷った。酔ってしまえば、少
しは気が紛れるかと思ったのである。身体に恵まれなかった矢口の、せめても
の自己防衛手段であった。
「おい、服を脱がせろ」
タイチは二人に命令した。
432女の子だよ!:02/03/22 16:55 ID:ts14DBAS
ファイル14 飯田VS紺野

 『焼銀杏』は福田家の地下にあった。玄関の前の階段を下りて行くと、ちょ
っとしたスペースがあり、この奥に入口がある。到着した石黒は、自分が着て
いた防弾ベストを中澤に渡す。
「一応、着てくれる?」
「アホ、あんたはどうすんのや」
中澤が降りようとするのを石黒が引き戻した。石黒を睨む中澤。しかし石黒は
真剣な表情で言った。
「裕ちゃんに何かあったら、亜衣ちゃんが困るでしょう?あたしはこれがあるか
ら」
石黒は簡易型のプロテクターを装着する。中澤に渡した方のベストは、44マ
グナム弾からも身を守るタイプで、安全性の高い高級品だった。一方の石黒が
装着したものは、9ミリパラベラム弾から身を守るために開発された汎用タイ
プである。石黒は一応、拳銃を握ってクルマから降りた。中澤も防弾ベストの
装着が終わると、特殊警棒を持って石黒に続く。
 二人は薄暗い階段を降りて行く。石黒は拳銃を構えながら、ゆっくりと階段
を踏みしめた。そして一番下に降り立った時、石黒の拳銃が蹴り上げられ、放
物線を描いて拳銃が飛ばされる。
「どした!」
中澤が声をかけた瞬間、石黒のこめかみに踵が入り、彼女は二回転して昏倒し
た。中澤は反射的に特殊警棒を繰り出したものの、それは空を斬ってしまう。
「ここは通さないよ。楽に殺してあげるから、抵抗はしない方がいいんだって」
そう言ったのは、行方不明になっていた紺野である。紺野がここにいれば、矢
口も近くにいるはずだ。
「じゃっかましいんじゃァァァァァァァー!」
中澤は再度警棒を振るう。しかし、今度は紺野に受け止められ、中澤は太腿に
激しいキックを受けた。
「あがっ!何て凄まじい蹴りなんや」
中澤の左太腿が麻痺してしまう威力である。こんな蹴りを急所に受けたら、良
くても大怪我は避けられそうに無い。
「アハハハハ・・・・・・楽に殺してあげるってば」
紺野は再びキックを繰り出した。顔面に迫る紺野の足を、中澤は腕でガードす
る。大きな音がして中澤が飛ばされた。中澤はタイル張りの床に倒れこむ。
「あうううう・・・・・・手首が」
この一撃で中澤の手首の骨にヒビが入っていた。いくら空手をやっているから
といっても、この強さは異常である。
「しぶといんだから。でも、これで終わりだよ」
紺野が最後の一撃を中澤に決めようとした時、唸りを上げて特殊警棒が飛んで
来た。紺野はこれを避けるのが精一杯である。
「もう、誰?こんなものを投げつけるのは」
紺野が特殊警棒を蹴っ飛ばすと、階段の上には飯田が立っていた。横では飯田
の運転でクルマ酔いした安倍が戻している。
「暴力は駄目だよ。話し合いで解決しよう」
飯田は全く緊張感の無い声で言うと、笑顔で階段を降りて来た。そして石黒と
中澤の様子をみる。
「ね?暴力は駄目だからさ。何が不満なの?圭織が話を聞くよ」
「頭の方は大丈夫?あんたもこれから殺されるんだけど」
紺野は飯田に説明する。しかし、飯田は首を傾げて困ってしまう。
「飯田、油断するんやない。こいつ、異常な強さやで」
中澤は左手の手首を庇いながら、無防備な飯田に忠告する。それでも飯田は全
く無防備のままだった。
「あんたバカだね。それじゃ、順番を変更して、あんたから殺してあげる」
頭を掻く飯田の脇腹に、紺野は渾身のキックをヒットさせた。中澤は眼を剥い
て叫ぶ。
「飯田ァァァァァァァァァァー!」
433女の子だよ!:02/03/22 16:56 ID:ts14DBAS
しかし、飯田は倒れない。二、三歩よろけただけである。普通の人間なら肝臓
破裂で、ほぼ即死だろう。
「痛いなー、何すんのよー。何、裕ちゃん。ちょっと待っててね」
飯田は肩を押されたくらいの感覚で言った。これには中澤は勿論、紺野が仰天
する。
「あんた、サイボーグだったの?」
「サイボーグ?それって失礼じゃないの?こんな可愛いサイボーグがいる?」
飯田は可笑しそうに言った。これに激昂した紺野は、再び唸るようなキックを
繰り出す。飯田はそのミドルキックを脛で受けた。骨の砕ける音が響き、飯田
は痛みに顔を顰める。
「あいたたたたた・・・・・・ここだけは鍛えようが無いもんね。失敗した」
「バカだね。本当に・・・・・・あれっ?」
紺野は右足をついてみた。しかし、身体のバランスがおかしい。
「あーっ!足が!」
紺野は自分の右足を見て仰天した。何と、足首から下が完全に折れ曲がってい
たからである。飯田の足を蹴り折ったつもりが、自分の足を折ってしまった。
「足が駄目でも、こいつがあるさー!」
紺野は飯田の顔面に掌底を決める。これは一般的な瓦割りに使われる打撃方法
であり、拳とは違って骨折の心配が無い。瓦を十枚も割る紺野の一撃は、一般
人なら確実に頭蓋骨を粉砕していただろう。しかし、相手は飯田である。
「痛い!・・・・・・あーっ!鼻血が出ちゃったじゃん。アハハハハ・・・・・・怒ったよ」
飯田の髪が逆立って行く。ついに戦闘モードに突入したのである。
「あんた、やっぱり人間じゃなかったんだ!スーパーサイヤ人なんて反則だよ」
紺野は不服そうに文句を言う。中澤は初めて見る飯田の戦闘モードを、手首の
痛みを忘れて見ていた。
「誰がスーパーサイヤ人だよ!失礼な事を言うんじゃねえよ。紺野とかいったね
。キックの見本を見せてやる。まあ、ちょっと寝てろよ」
飯田はスカイダイビングのフリーフォールの時と同じような風を切る音がする
、渾身のキックを繰り出した。そのキックを胸に受けた紺野は、『焼銀杏』の
ドアに激突し、閂と蝶番を破壊してドアごと店内に飛び込んでしまう。
「アハハハハ・・・・・・愛を・・・・・・くだ・・・・・・さ・・・・・・い・・・・・・がくっ!」
ついに紺野は全身打撲で失神した。それを見た飯田は、戦闘モードを解除して
行く。飯田を見上げ、怯える中澤。
434女の子だよ!:02/03/22 16:57 ID:zTLQh5Jg
「彩さん、大丈夫だべか?」
ようやくクルマ酔いから立ち直った安倍は、白目を剥いて昏倒している石黒を
抱き上げる。石黒はその時、以前の中澤同様、最高のトリップ感の中にいた。
「わかって・・・・・・ないじゃ・・・・・・ない・・・・・・アハハハハ・・・・・・」
石黒の意識は無重力で、ゆっくり回転しながら、桜吹雪の中を漂っている。こ
んな素晴らしい感覚を味わえるのなら、全てを犠牲に出来るほどの快感だった
。酒のような嫌悪感は一切なく、高校時代にイタズラ半分で体験した咳止めの
一気飲みよりも、はるかにトリップ感がある。あの時は蛍光灯が笑って怖かっ
たが、今回は文句なしでハイになっていた。
「しっかりするべさァァァァァァァー!」
べさァ・・・・・・べさァ・・・・・・べさァ・・・・・・べさァ・・・・・・べさァ・・・・・・・・・・・・・・・
それは懐かしい故郷の方言だった。石黒の意識は札幌までルーラしてしまう。
時計台・・・・・・雪祭り・・・・・・五稜郭・・・・・・?・・・・・・五稜郭は函館か?
「もおォォォォォォォォォー!しっかりしなきゃ駄目っしょ!」
っしょ・・・・・・っしょ・・・・・・っしょ・・・・・・っしょ・・・・・・っしょ・・・・・・・・・・・・・・・
そうだ。故郷の響き・・・・・・しかし、その響きは、石黒を急速に覚醒へ向かわせ
ていた。嫌だ!このまま、もっとトリップしていたい!そんな石黒の願いも空
しく、彼女の意識は元にあった場所へ帰って来る。
「優しいあなたアアーン!」
「彩さん!しっかりするべさー!」
安倍は石黒の頬を叩いた。その行為が石黒の覚醒を加速させ、彼女はトリップ
の終了する嫌悪感から、安倍を突き飛ばす。
「痛いじゃんかよー!」
石黒は頭を押えながら立ち上がった。タイル張りの床に転がった安倍は、嬉し
そうに立ち上がり、石黒の肩を叩く。
「ようやく気がついたべね。さあ、矢口を・・・・・・」
安倍が『焼銀杏』を振り向いた時、中澤が悲鳴を上げた。中澤は破壊されたド
アから中を覗きこんでいたのである。
「や・・・・・・矢口ィィィィィィィィー!」
中澤は力が脱けたように座り込んでしまう。横にいた飯田も、口を押えて立ち
尽くしていた。
「矢口・・・・・・酷い・・・・・・酷過ぎるよ!」
安倍は最悪の状況を覚悟する。一瞬だけ気が遠くなり、石黒に支えられた。そ
れでも安倍は確認しなければならない。例え矢口が肉片になっていても、先輩
として、同僚として、親友として、そして姉として、見届けなければならなか
った。矢口の死体を見たら、恐らく正気ではいられないだろう。
 安倍はゆっくりとドアのあった場所へ歩いて行く。全てがスローモーション
のようだ。身体中のアドレナリンが沸騰するような感覚の中で、心臓の鼓動だ
けが凄まじく大きな音をたてている。
「安倍、矢口やで・・・・・・」
中澤は涙を流していた。安倍の脳裏には安らかな矢口の死顔と、誰だか判らな
いくらいに破壊された矢口の顔が、交互に浮かび上がっている。
「まさか、あそこまでやるなんて・・・・・・何考えてんのよ」
飯田は茫然としているように見えた。すでに安倍の神経は、髪の毛より細い糸
で、辛うじて繋がっている。心臓の音が更に大きくなり、安倍は耳を塞ぎたく
なるくらいだった。
 そして安倍は、意を決して薄暗い店内を覗き込んだ。そこには直視出来ない
ほどの悲惨な現実が存在していたのである。
435女の子だよ!:02/03/22 16:58 ID:zTLQh5Jg
つづきは明日です。
436名無し。:02/03/23 04:20 ID:UliTr6vb
更新乙かれです^^
作者さんはバレー詳しいんですね〜
私もバレーやってたんでおもしろく読めました。。
矢口がああなってるんだろうなぁ、と思いつつ
期待待ち。。
437女の子だよ!:02/03/23 18:19 ID:hndD00Ij
ファイル15 『焼銀杏』の惨状

 メチャメチャになった店の中には、そこだけがポツンと押し広げられたよう
な空間が存在していた。そしてその中央に、うつ伏せになった血まみれの矢口
がいる。
「矢口・・・・・・」
浜辺の波打ち際に立った時のように、安倍は自分の足元から崩れていくような
感覚に見舞われた。いつも明るい笑顔で、「おつかれさまー」と言ってコーヒー
を煎れてくれた矢口。寝ぼけて安倍の乳首を吸った甘えん坊の矢口。中澤が危
篤で取り乱した矢口。安倍の頭の中では、矢口との思い出が駆け巡っている。
しかし、安倍の眼前には、冷たい躯となった矢口が横たわっていた。
「や・・・・・・矢口・・・・・・迎えに来たよ。起きて・・・・・・ねえ、起きてよ」
安倍は矢口に話し掛けるが、何の反応も無い。それは当たり前である。そこに
横たわっているのは、紛れも無く、以前、矢口だったものだ。
「矢口、ほら桜吹雪だべさ。外はきれいだよ・・・・・・矢口・・・・・・返事するべさ。ね
え、矢口・・・・・・嫌ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァー!」
安倍は眼の前が真っ暗になり、その場に崩れ落ちた。
438女の子だよ!:02/03/23 18:29 ID:m1AA2bCs
本当にもうしわけありませんが、友達の家で不幸があり、
次回の更新は、早くても明日の晩になりそうです。
実をいうと、まだパソコンに打ち込み終わっていないのです。
ですから、それまで、つづくということで・・・・・・
439女の子だよ!:02/03/24 23:58 ID:oyCojNvH
友達のお母さんが亡くなったので、手伝いに行ってました。
>>437 は下の弟が、どうしても載せろと言うので
不本意ながら載せてみました。
続きを考える身にもなってほしいものです。
ある程度できたので、更新させてください。
440女の子だよ!:02/03/25 00:00 ID:ckvXEq1i
「なっち、ねえなっち。起きてよ」
それは石黒の声だった。安倍が眼を開けると、石黒が済まなそうな顔をして覗
き込んでいるのが見える。
「彩さん・・・・・・矢口が・・・・・・」
安倍の視界は涙で歪んだ。手遅れだった。昨夜、矢口が何と言おうとも、もう
潜入させるべきでは無かった。誰が何と言おうと、矢口は自分で守るべきだっ
た。安倍は後悔で胸がいっぱいになる。
「どうしたのよー、矢口を救出しよう」
石黒は安倍を引き起こした。しかし、安倍は石黒に抱きついて号泣してしまう

「突き飛ばしてごめん、痛かった?」
「ウワァァァァァァァ・・・・・・へっ?」
安倍は石黒の顔を見る。石黒は頭を掻きながら舌を出した。安倍は自分の記憶
を辿ってみる。
「あれ?確か店の中で矢口が死んでて・・・・・・」
「何言ってんの?いいから」
石黒は安倍の手を引いて、茫然とする中澤と飯田の間から、店の中を覗き込ん
だ。安倍は俯いて眼を閉じていたが、意を決して現実と向き合う。 
441女の子だよ!:02/03/25 00:02 ID:P3kSSsPH
 そこは正に地獄だった。椅子は吹き飛び、テーブルは破壊されている。店内
の少し広くなった場所には、血まみれで全く動かない三人の男が重なり合って
倒れており、その上で泥酔した矢口が雄叫びを上げていたのだ。
「へっ?」
安倍は数秒間、心臓の鼓動も停止してしまった。ようやく鼓動が復活すると、
正気に戻った石黒に突き飛ばされ、頭を打って意識を失った事が判って来る。
つまり、安倍は矢口が死んだ夢を観ていたのだ。
「ギャーハハハハー!この矢口様をレイプしようなんざ、五十六年早いってんだ
ァァァァァァァー!」
「何で半端な数字なの?」
飯田は首を傾げた。普段は何も考えていないくせに、こういった場合に限って
考え込んでしまうのが飯田である。
「そんなに深く考え込む事じゃないと思うんだけど。だいたいさー、五十六年も
経ったら、この人達はレイプじゃなくても無理なんじゃない?ねえ、なっち」
石黒が言うと、安倍は大きく頷いて飯田の肩を叩く。看護士の娘だけあって、
大概の事は知っていた。
「うん、人間の生殖能力は・・・・・・何を言わせるんだべさァァァァァァァァー!」
安倍は真っ赤になって石黒を睨んだ。その顔を見て、中澤はようやく落ち着い
て来る。やはり、矢口が拉致された責任を感じていたのだ。
「無事な矢口を見て、一気に緊張の糸が切れたんや。ふー、堪忍な」
中澤は完全に腰が抜けてしまい、まるで立ち上がる事が出来なくなってしまっ
た。飯田は三人の男の様子をみる。
「あららら・・・・・・頭部裂傷、頭蓋骨陥没骨折、眼底出血。やり過ぎだよ」
「何じゃコラァァァァァァァァー!テメエ、この矢口様に意見するのくゎァ?」
矢口の眼は完全に据わっている。ロバートブラウンを一気飲みした矢口は、凄
まじく凶暴になっていた。この状態で三人を殺さなかったのが不思議なくらい
である。
「正当防衛だろうけどさー、限度ってものがあるの」
「何ィィィィィィィー!アメリカじゃレイプされそうになったら、撃ち殺しても
いいそうじゃねえか!どうして日本じゃいけねえんだァァァァァァー!」
アメリカの法律と日本の法律は、根本的に違っている。アメリカでは個人の利
益が最優先されるが、日本では国家の利益が最優先されるのだ。アメリカでは
個人の生命や財産を守る権利が確立しており、勝手に敷地内に侵入した者を発
見したら、撃ち殺しても構わない。ところが、日本の法律は無茶苦茶であり、
どんな状況であっても、人を殺せば殺人である。自分の命が危険であったとい
う事が証明されて、初めて正当防衛という特別な措置の扱いを受けられるのだ
。また、相手に殺意が無かった場合、例えレイプされようが何をされようが、
殺してしまうと罪になる。つまり、そういった相手には、手加減しなさいとい
うのだ。相手が子供ならまだしも、女性を襲うのは男である。か弱い女性が自
分の身を守るには、中途半端な攻撃は逆効果だ。レイプを諦めて殺害といった
ケースも多いため、それすら出来ないまで攻撃するしかない。相手が死んでし
まうかどうかなど、考えている余裕はないはずだ。過剰防衛などという言葉が
あるのは、日本くらいなものである。すでに安全神話が崩壊した日本において
は、早急に法律の整備が必要だ。元グリーンベレー大尉で作家の柘植久慶氏も
、著書の中で、こういった法律の矛盾に触れている。
「矢口ィー、逮捕はしないけど、後で出頭して貰うからね」
「何だと?ふざけるなァァァァァァァァー!」
矢口は飯田に踵落としを繰り出した。しかし、飯田は難なく矢口の足を掴む。
飯田に足を掴まれて逆さまになった矢口は、暴れながら怒鳴り散らした。
「離せ!このヴォケ!離さんかァァァァァァァァァー!」
「矢口、これ以上やると、公務執行妨害だからさー、ちょっと寝てなよ」
「ふざけるな!もうネタが無いんじゃァァァァァァァァァァー!」
飯田は暴れる矢口を放り投げた。矢口はカラオケ用のTVモニターをひっくり
返し、五メートルは離れているトイレのドアを破壊して洗面台に激突。そして
動かなくなった。
「ら・・・・・・らぶらぶ・・・・・・らぶふぁ・・・・・・くと・・・・・・りー・・・・・・がくっ!」
店内に静寂が訪れると、四人に安堵感が湧き出して来る。こういった時には、
笑いしか出て来ない。四人は互いの顔を見ながら、暫くの間、笑い続けていた
のである。
442女の子だよ!:02/03/25 00:03 ID:P3kSSsPH
ファイル16 死ぬな!石黒!

 安倍は三人の男と矢口の状態を診た。全員、命に別状は無いが、軽傷なのは
矢口だけである。三人の男は重傷であり、傷が完治するまで数ヶ月はかかるだ
ろう。
「派手にやったもんやな・・・・・・痛!」
中澤は左手首を押えた。そこは紺野のキックを受け、骨にヒビが入っている。
青黒く腫れ上がり、破壊的な紺野のキックの凄まじさが感じられた。
「裕ちゃん、大丈夫ー?」
飯田が中澤の手首を診る。指が動くので、飯田は大袈裟な骨折ではないと判断
出来た。メチャメチャになった店内を見て、思わず溜息をついてしまったのが
石黒だった。
「裕ちゃん、殺害の実行犯は紺野で間違いないね。後は麻薬だけか」
「いや、違うべさ。紺野は誰も殺してないっしょ。恐らく、平家を殴ったのは紺
野、殺したのは真犯人でないかい?」
安倍が言うと中澤が嬉しそうに立ち上がった。石黒と飯田は怪訝そうに安倍を
見つめる。安倍の頬に、風に乗って流れて来た桜の花びらが貼り付いた。安倍
はその花びらに気付かなかったが、それは色白の彼女の肌にしがみつく、アク
セサリーにも見える。
「安倍、判ったんか?」
「うん、だいたいね」
「まあいいや。とりあえず救急車を手配して、警部に連絡するよ」
石黒はケイタイを出したが、生憎、圏外の表示が出ていた。地下であるため、
電波が遮断されているのだろう。
443名無し募集中。。。:02/03/25 00:03 ID:scFxlXUH
ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
444女の子だよ!:02/03/25 00:04 ID:P3kSSsPH
「圏外だってさ。しょうがないね」
石黒は苦笑しながら階段に向かった。その時、一発の銃声が轟き、石黒が胸を
押えて倒れこむ。その銃声は妙に軽い音だった。まるで竹を燃やした時の破裂
音のような音で、危険を感じさせる音では無い。しかし、現実に石黒が胸から
血を流して倒れているのだから、それは紛れも無い銃声である。
「彩さん!」
石黒に駆け寄ろうとする安倍に、中澤が飛びついて阻止した。単発銃でない限
り、二発目、三発目の銃撃が予測出来るからだ。人が撃たれたからといって、
むやみに近付いてはいけない。なぜなら、撃った奴は助けに来た人間を、次の
標的にしている可能性があるからだ。そういった点では、訓練を受けている飯
田の行動が正解である。飯田は掩蔽された部分に身を置いてから、持っていた
拳銃を取り出し、冷静に状況を見守っていた。
「何するべさ!彩さんが・・・・・・」
「アホ!死にたいんか!飯田、頼むで!」
中澤が合図すると、飯田は拳銃を構えて階段に近付く。そして一気に踊り出る
と、拳銃を二発発射した。こういったケースの場合、敵の人数も武器も判らな
い。本来ならば状況を判断しながら徐々に前進するのだが、今は撃たれた石黒
を助けるのが先決だ。
「あ、いない」
飯田が飛び出した時には、すでに犯人は逃げた後だった。飯田は犯人が隠れて
いる場合を想定し、警戒態勢に入る。
「石黒ー!」
中澤と安倍が石黒に駆け寄る。石黒は右の胸を撃たれていた。防弾プレートを
貫通した銃弾は、石黒の体内に入っている。いわゆる盲貫銃創だ。石黒が身に
つけていたのは、九ミリパラベラム弾用のプロテクターであるから、それより
も強力な銃で撃たれた事になる。
「飯田!救急車!」
「はい!」
中澤と安倍は素早く石黒の防弾プレートを外し、着ている洋服を捲った。石黒
は右の肺に穴が開いているようだ。かなりの重傷せあり、一刻も早い手術が必
要である。
「大丈夫や。石黒、安心せえ。それで犯人は見たんか?」
中澤はハンカチで石黒の傷を押え、彼女の手を握った。しかし、事態は深刻で
ある。石黒が咳き込むと、大量の血が吐き出された。肺の中で大出血が起きて
いる証拠だ。胸に穴が開くと、どんどん中の空気が抜け出し、肺は風船のよう
に萎んでしまう。そして、その空洞のスペースに、血が溜まって行くのだ。
「犯人は見えなかった。裕ちゃん・・・・・・トカレフだね」
石黒は血で喉を鳴らしながら言った。そこへ連絡を終えた飯田が帰って来る。
飯田は銃を離さない。何かあったら即応出来るように備えているのだ。
「彩っぺ、大丈夫?」
飯田が覗き込むと、石黒は笑みを浮かべるが、かなりの衰弱が見られた。石黒
の片肺は機能しておらず、かなりの息苦しさを感じているに違いない。その証
拠に、石黒の呼吸数は、普段の倍近くにまで上昇していた。
「裕ちゃん、出血が多いべさ。とりあえず上に運ぼう」
安倍の提案で、石黒を階段の上まで運ぶ。するとサイレンの音が聞こえて来た
。恐らく夏達であろう。すぐに夏と稲葉が到着し、その直後に救急車も到着す
る。続々と警察車両が集結し、『焼銀杏』前の道路は、大事件の様相を呈して
きた。
「石黒!しっかりせえ、大丈夫。大丈夫やで」
稲葉は石黒の手を握り、必死になって声をかける。中澤が刺された時は腹だっ
たため、自分で傷口を塞いで止血が出来た。しかし、石黒は胸を撃たれていた
ので、出血を止める事は不可能だった。最高責任者である夏は、状況を素早く
判断し、その場の全員に的確な指示を出す。
「飯田、救急車を運転しろ。安倍と稲葉は付き添い。中澤、すまんが居残りだ」
「早く乗せろー!」
飯田が怒鳴る。すると救急隊員が文句を言い出した。いきなり救急車に乗せた
ところで、搬送先が判らないから仕方が無いのだと言う。
445女の子だよ!:02/03/25 00:05 ID:P3kSSsPH
「だから病院を確認しないと・・・・・・」
「そんな暇あるかい!」
確かに石黒は、一分、一秒でも早く病院に搬送されるべきだった。あまりにも
石黒の出血が激しかったからである。稲葉と安倍で石黒をストレッチャーに乗
せる。すると救急隊員が眼を剥いた。
「ああ、血で汚れちゃうよ」
この一言でブチキレた飯田は、その救急隊員を蹴り飛ばした。救急隊員は五メ
ートルも離れた隣家の壁に激突し、そのまま動かなくなってしまう。びびりま
くる二人の救急隊員を救急車に放り込むと、飯田はホイルスピンをさせて救急
車を発進させた。
「びょびょびょ・・・・・・病院の確認を・・・・・・」
救急車の助手席に座った救急隊員が言うと、安倍が眼を剥いて怒鳴った。
「救命救急センターに決まってるべさァァァァァァァー!」
「は・・・・・・はい!」
救急隊員は消防本部に連絡する。その間、飯田は凄まじい速度で一般道を疾走
した。マイクを握り締め、先ほどから怒鳴りっ放しである。飯田は運転をさせ
ると、他の誰よりも性格が変わってしまう。特に今は、一刻も早く石黒を病院
に運ばなければならないため、いつもより凄い言葉づかいになっていた。
「道を空けろ!早くどけ!タラタラ走ってんじゃねえんだよ!信号突っ切るぞ!
バカ野郎!サイレンが聞こえねえのかァァァァァァァァー!テメエ等、撃ち殺
すぞ!救急車が通るって言ってんだろうがァァァァァァァー!」
交差点をタイヤを鳴らしながらドリフトして左折すると、条件反射の白バイが
追って来た。緊急車なので飛ばすのは仕方ないが、その制限速度にも限度があ
る。
「走行中の救急車、左に寄って停まりなさい。救急車の制限速度は八十キロだ」
しかし、飯田が停まるわけがない。白バイは救急車の横につけ、「停車しろ」と
マイクで怒鳴っている。普通の神経であれば急いでいる理由を考えるのだが、
一部の警官には、こういった非常識な連中も存在した。それは権力志向そのも
のであり、警察至上主義に傾倒した危険思想でもあったのだ。
「もう!うるせえんだよ!」
飯田は救急車で白バイに体当たりした。白バイは転倒し、乗っていた交通機動
隊員が道路を滑る。一般人なら一大事だが、訓練を受けた白バイ隊員なら、大
した怪我にはならないだろう。
 救急車の中では石黒の意識が混濁して来た。稲葉と安倍は必死に声をかける
。二人が声をかけると石黒は我に戻るが、またすぐに眼を瞑ってしまう。すで
に石黒は出血多量で、意識低下を起こしていたのだ。
「石黒!しっかりせえ!娘がおるんやろォォォォォォォー!」
すると石黒は眼を開け、稲葉の手を力強く握った。思わず稲葉に笑みが零れる
と石黒も笑みを浮かべる。やはり子供の事を言うと、母親は嫌でも元気になる
ものだ。
446女の子だよ!:02/03/25 00:07 ID:BJFEcwyO
「あっちゃん、ケンカばかりしてたね。仲良くなれて・・・・・・良かった」
「アホ!これからも友達やで」
頷く安倍の頬に手を伸ばした石黒は、貼り付いていた桜の花びらを取る。石黒
はその花びらを見ながら、嬉しそうに呟いた。
「桜だよ・・・・・・なっちも桜が好きだったよね」
「彩さん、喋らない方がいいべさ」
「飯田ァァァァァァー!まだかァァァァァァァァー!」
「ウルセー!こっちだって必死なんだバカ野郎!」
石黒は胸の痛みに顔を顰める。稲葉と安倍は石黒を励ます事しか出来ない。こ
ういった時の数分は、何時間にも感じてしまうものだ。その間にも、石黒は確
実に衰弱している。大量の出血で、救急車の床に血溜まりが形成されつつあっ
た。いくら止血を試みても、出血が止まらないのである。
「あっちゃん、なっち・・・・・・娘と真矢を・・・・・・お願い」
「何言ってるべさ!」
「弱気になるんやない!しっかりせえ!」
稲葉はついに泣き出した。安倍は石黒の身体を触る。マッサージすると血行が
促進して出血が増えてしまうが、触るだけなら問題は無い。こうして触る事で
、少しでも石黒を刺激しようとしたのだ。
 しかし、ここまで出血してしまうと、石黒が生きている方が不思議である。
すでに身体にあった血液の、半分が流れ出てしまっていた。いくら女性であっ
ても、失血死は目前にまで迫っている。
「桜餅・・・・・・美味しかったよね・・・・・・あはっ、真矢さん、動いたよ」
石黒は自分の腹に手を当てた。意識が朦朧となり、以前の楽しかった記憶が蘇
っているらしい。石黒にはもう苦悶の表情は無かった。限りなく『無』に近付
いた意識の中で、自分の分身である娘の事を思い出している。娘が生まれた時
、石黒は最高に幸せだった。両親は勿論、最愛の真矢が一番喜んでくれた。女
としての喜びを感じ、感涙が止まらなかった。生まれたばかりの娘を抱き上げ
て石黒は・・・・・・
「石黒ー!」
「彩さん!」
「・・・・・・ママだよ・・・・・・」
石黒は最高の笑みを浮かべたまま、ついに力尽きてしまった。
「死ぬんじゃない!死んじゃいけないべさァァァァァァァァァー!」
安倍は反射的に石黒に跨り、心臓マッサージを始める。あの素晴らしい家庭を
潰してはいけない。あの可愛い娘を泣かしてはいけない。安倍はそれだけを思
い、懸命に石黒を蘇生させようとした。
「これだけ出血してるんだよ!酸素を送らないと脳が死ぬべさァァァァァー!」
安倍は救急隊員を睨んだ。一刻も早く気道確保をし、高圧酸素を送り込むべき
である。石黒の脳は酸素を要求しているのだ。
「送管せえ!気道確保するんや!」
稲葉は救急隊員に怒鳴った。しかし、彼等は躊躇してしまう。送管の技術こそ
あるが、救急隊員が勝手にやる事は出来ないのだ。
「出来るんですが、医師の指示が無いと・・・・・・」
「やらなければ撃つで!」
稲葉は拳銃を向けた。これには救急隊員も仰天する。勝手に気道確保をした場
合、救急隊員は処分される可能性もあった。運が悪ければ救命救急士の資格を
剥奪され、懲戒免職もありうる。
「早くやるべさ!脳が酸欠になってる!」
石黒の顔色が変わって行く。いわゆるチアノーゼ状態であり、心臓停止に伴っ
て首から上に血液が循環しないために起こる症状だ。それは人体で最大の酸素
消費臓器である脳の悲鳴なのである。
「判りました!」
一人の救急隊員が意を決して送管を施す。安倍は全身汗だくになりながら、石
黒の生還を信じて心臓マッサージを続けた。石黒を乗せた救急車は、車道に落
ちた桜の花を舞い上がらせながら、救命救急センターに向かって疾走して行っ
た。
447女の子だよ!:02/03/25 00:07 ID:BJFEcwyO
 広尾病院の救命救急センターに到着すると、すぐに処置室へ運ばれ、石黒の
蘇生処置が始まる。石黒への心臓マッサージで全身汗だくの安倍は、飯田に抱
えられながらロビーの椅子に腰を降ろした。その横では稲葉が合掌しながら石
黒の生還を祈っている。この三人に出来る事は、石黒の生還を祈る事だけだっ
た。
 三十分ほどで担当医師が姿を現した。三人は医師を見ると、反射的に駆け寄
って石黒の容態を訊く。しかし、医師は質問には答えず、「どうぞ」と言って処
置室の脇にある部屋へ三人を案内した。そこには寝台の上に、眼を閉じた石黒
が静かに横たわっている。その顔は透き通るような白さで、とてもきれいだっ
た。喜びや怒り、哀しみや楽しみといった世俗的なものから開放された石黒の
顔は、僅かに微笑んでいる。
「彩っぺ」
思わず飯田が駆け寄った。飯田は石黒が眠っていると思ったのだろう。しかし
、安倍には判っていた。あれだけ重傷ならば、生還した場合はチューブだらけ
である。だが、石黒の身体からは、全てが取り外されていた。何も繋がってい
ないという事は、疑う余地もなく石黒の死を意味していた。
「嫌ァァァァァァァー!」
安倍が泣き崩れると、稲葉は首を振って石黒の死を拒否する。お互いに気が強
く、何度もケンカしたが、心のどこかで稲葉は石黒を気に入っていた。中澤が
刑事を辞めると、稲葉にも徐々に変化が現れ、石黒も彼女の能力を評価してい
た。石黒が想像以上に優しい女だと感じた時、稲葉の彼女に対する蟠りが消え
た。そんな矢先に死んでしまうなんて、現実とは何と無情なのだろう。
「全ての力を注いだのですが、出血が多すぎました。専門的な話で恐縮ですが、
開胸心マ(開胸心臓マッサージ=胸を切開し、直接心臓をマッサージする方法。
ほとんど最終手段)をしても、蘇生してくれませんでした。残念です」
「え?・・・・・・嫌だよ・・・・・・そんなの・・・・・・ねえ、何とかしてよ・・・・・・ねえ!」
飯田は医師の胸倉を掴む。しかし、医師は残念そうに、そして済まなそうに首
を振った。もう何をどうしても、石黒は息を吹き返さないのである。飯田の眼
から大粒の涙が零れた。
「石黒・・・・・・アホ!あんな可愛い娘を残して・・・・・・アホがァァァァァァァー!」
稲葉は石黒に縋って号泣する。稲葉にとって石黒の早すぎる死は残酷過ぎた。
中澤が退職してから、渋谷署では一番仲が良かった飯田も、石黒の死は身を切
るほど辛い。
「なっち、彩っぺさー、死んじゃった・・・・・・どうすればいい?・・・・・・ねえ、なっ
ち・・・・・・圭織、どうすれば・・・・・・どうすればいいの?」
飯田は安倍に抱きついて号泣する。暫くの間、三人の泣き声だけが救命救急セ
ンターに響いていた。
 結局、二人はいつまでも石黒から離れようとせず、安倍が外に出て中澤に連
絡した。石黒の遺体は大学病院に搬送され、司法解剖を受ける事になる。石黒
は病院で死亡確認を受けたが、法律によって、医療機関で処置を受けても、二
十四時間以内に死亡した場合は、充分な治療が行われていないという理由で、
行政解剖を受けなくてはならない。行政解剖は死因を特定するだけだが、石黒
は事件に巻き込まれて死亡したので、より詳しく司法解剖が行われるのだ。石
黒の遺体が遺族に渡されるのは、早くても明日の夜だろう。安倍は石黒の幼い
娘の事を考えると、胸が締め付けられる思いがした。
448女の子だよ!:02/03/25 00:10 ID:BJFEcwyO
つづきは明後日になると思います。
449女の子だよ!:02/03/26 13:15 ID:RlAl9Bkk
ファイル17 現場検証

 稲葉と飯田、安倍の三人は、憔悴しきった顔で現場に戻って来た。稲葉は夏
に抱き付いて号泣する。飯田も中澤に抱き付いた。唯一、安倍だけが冷静であ
る。確かに悲しいし残念だ。だが、それ以上に激しい怒りが、心の中から湧き
出しているのだ。
「絶対に許さない・・・・・・許さないべさァァァァァァァァァー!」
安倍は絶対に犯人を捕まえ、死刑台に送ってやろうと誓ったのだった。
 現場では夏の指揮のもと、詳しい検証が行われた。この時の夏は、正に鬼の
夏である。測量で「約」を数字の前に付けようものなら、本気で殴られそうな雰
囲気だった。現場にいた三人への尋問では、何度も同じ質問する警官を、夏は
本気で蹴飛ばした。眼を剥いた警官だったが、今度は稲葉に胸倉を掴まれる。
「テメエ!この安倍はな、石黒に跨って汗だくになりながら心臓マッサージをし
たんや!何じゃあ!その口の利き方はァァァァァァァー!」
夏と稲葉の形相に、びびりまくる警官達。
「警部!射撃位置が出ました!」
鑑識課員が石黒のレントゲン写真や硝煙反応、足跡等で割り出したのである。
夏がその位置から石黒が撃たれた位置を見下ろす。
「六〜七メートルか?」
「直線で五・七三メートルです!」
拳銃は十メートルも離れると、命中させる事が難しい。毎日のように訓練を積
んでも、人間の胸に命中させるには、二十メートル程度が限界であった。犯人
が使ったトカレフは、反動が少ない割に貫通力の高い拳銃だったが、あまり命
中精度の高いものではない。素人ならば、せいぜい五〜六メートルが射程と考
えて良いだろう。
「どう考えても不自然な位置だな」
夏は自分で銃を構えるようにして、犯人がしていた体勢を考えてみる。それを
見上げていた安倍は、何気なく左手を突き出してみた。それでピンと来て、夏
に提言してみる。
「夏警部、犯人は左利きじゃないべか?」
安倍が言うと、夏は左手で構えてみる。それが正解だった。犯人は左利きなの
で、右利きの夏が構えると、不自然な位置になっていたのである。
「左利きとは気付かなかった。ありがとう」
鬼の顔に一瞬だけ笑顔が戻った。
450女の子だよ!:02/03/26 13:16 ID:RlAl9Bkk
ファイル18 あたしのせいだ!

 翌日、安倍は中澤、飯田と共に矢口が搬送された病院に行った。矢口は全身
打撲と急性アルコール中毒で病院に担ぎ込まれたが、幸いにも軽傷で済み、明
日にでも退院が出来そうである。十五時間も昏睡状態が続いたものの、眼が覚
めると元気そのものだ。それでも安倍の顔を見ると、矢口は抱きついて泣き出
した。
「怖かった・・・・・・怖かったよー」
安倍や中澤、飯田にしてみれば、矢口の無事だけが救いだった。特に矢口を実
妹のように可愛がる安倍は、涙が出るほど嬉しかったのである。ここが四人部
屋でなくて個室だったら、恐らく安倍も泣き出していただろう。
「矢口、あのな・・・・・・石黒おったやろ?」
「石黒さん?」
矢口は安倍に抱き付いたまま、中澤に顔を向けた。中澤は辛そうな顔で矢口を
見つめる。中澤の横では、飯田が俯きながら手で顔を覆った。
「石黒・・・・・・殉職したんや」
「ええっ!石黒さんが・・・・・・そんな・・・・・・そんな・・・・・・」
安倍は矢口を抱き締める。すると矢口が震え出した。その震え方は尋常ではな
い。矢口を抱いている安倍までも震えるくらいだった。
「あたしが・・・・・・あたしが潜入を続けるなんて言わなければ・・・・・・」
「何を言うんだべさー」
安倍は矢口のせいじゃないと言うように、矢口を抱き締めて揺さぶった。しか
し、矢口は自分のせいだと思い込んでいる。
「あたしの・・・・・・あたしのせいだ・・・・・・どうしよう・・・・・・」
「違うよ、矢口。潜入続行を言い出したのは、彩さんだもん。まあ、裕ちゃんも
そうだけどさー」
飯田は矢口に責任は無いと言った。しかし、結果的に紺野に拉致され、救出に
向かった石黒が殺されたのは事実である。矢口はそれで苦しんでいたのだ。
「矢口のせいやない。あえて誰かのせいにするんやったら、うちのせいや」
「あたしのせいだよ」
全員が振り向くと、そこには夏と稲葉が立っていた。夏は歩み寄ると、中澤を
睨みつける。その表情には、取り違えるな。全ての責任は私にある。という気
持ちが溢れていた。
「お見舞いだべか?」
安倍は矢口の頭を撫でながら、布団を掛け直している。稲葉は石黒が娘の頭を
撫でながら寝かしつけていた事を思い出し、思わず涙を溢した。
「それもあるけど、事情聴取がメインかな?」
夏は矢口だけには優しい笑顔を向けた。未遂とはいえ、レイプ被害者であるか
らだ。もっとも、矢口に半殺しにされた三人は、全治二ヶ月から三ヶ月という
診断が出ているのだが。
「それじゃ、始めるよ。拉致された時の事を覚えてる?」
「ええ、あたしは藤井がフラフラと屋上に向かって行ったんで、その後を追った
んです。そうしたら、藤井がフェンスを乗り越えたんで、止めようと思ったんです」
矢口の話に、その場の全員が驚いた。矢口が藤井自殺の目撃者だったからであ
る。
「それで、藤井は何か言ったの?」
「確か、『飛ばなくちゃいけない』とか『アスカちゃん』って言ってましたね」
「気になるな。稲葉、メモ・・・・・・」
夏が振り返ると、稲葉は中澤に抱きついて号泣していた。夏は仕方なく、自分
のポケットから手帳を出してメモを取る。
「警部ー、圭織がメモしましょうか?」
「お前はいい。いつもメモする事が違ってるから」
「えー?そうだったんだー」
飯田は自分のメモが完璧だと思っていたので、夏に言われてショックを受けて
いた。確かに飯田のメモは、接続詞ばかりが書いてあり、肝腎な部分は全部記
憶に頼っている。考えてみれば凄い事なのだが、それでは他の人間が見ても、
全く意味不明なメモになってしまう。
「それからどうしたの?」
「あたしは怖くて、這うように階段へ向かったんです。そうしたら紺野がいて、
藤井の自殺を知らせたら、いきなり蹴られて・・・・・・気が付いたらどこかのスナ
ックでした」
「そうしたら、あの三人がいたのね?」
「はい。抵抗したんだけど、東京湾に浮かべるって言われて、怖くなっちゃって
・・・・・・酔っ払ったら少しは楽になれると思って、ウイスキーを一気に・・・・・・」
矢口が震えながら涙を溜めると、夏は笑顔で頷いた。そして、とても優しく矢
口を労わるように話を進める。
451女の子だよ!:02/03/26 13:17 ID:RlAl9Bkk
「あの三人は渋谷のチンピラなの。麻薬の売買にも関わってるんだって。でもさ
あ、あなた覚えてないかもしれないけど、半殺しにしちゃったのよ。だから、
あいつらが、あなたをレイプしようとした証拠が欲しいの」
「そう言われても・・・・・・あたしは服を脱がされそうになったところまでは、何と
か憶えてるんだけど・・・・・・」
矢口がそう言った途端、夏はドアに向かって叫んだ。
「指紋採取!」
夏が言うと、いきなり三人の女性鑑識課員が飛び込んで来て、矢口を下着だけ
に剥くと、腕や太腿に付いている指紋を採取した。
「おわっ!何?何なの?」
矢口は驚いて暴れるが、指紋採取が終わると、女性鑑識課員達は急いで退室し
て行った。
「な・・・・・・何だったんだべか?」
「人間の皮膚にも指紋が残るの。だから、あれは重要な証拠になるのよ」
夏は唖然とする矢口に説明した。すると、飯田が首を傾げながら質問する。
「警部ー、不法監禁で充分じゃないですか?紺野は送検出来なくても、未成年者
略取の共犯でも送検出来るし」
「いや、あいつらは口もきけないだろう?恐らく病院での取調べになっちゃう。
病院では時間がかかるからね。一つでも多くの逮捕状が必要なんだ」
こうして矢口から事情聴取が終わると、夏は新しい情報を提供した。ここまで
来たら、警察だけの力では真犯人を逮捕出来ないと踏んだのである。
「紺野が催眠術?」
飯田が眉を顰める。確かに紺野の強さは異常だった。あのキックは、神取忍か
アジャ=コング並みの破壊力である。しかも、自分の足が砕けても、全く痛み
を感じていなかった。
「そういえば聞いた事があるべさ。人間の身体は無理すると壊れてしまうから、
いつもはリミッターがついているんだって。でも、催眠術によって、そのリミ
ッターを排除出来るんだべさ」
俗に言う火事場のクソ力がそうである。普段は骨折の恐れがあるため、筋肉は
実力の半分以下でしか運動していない。しかし、人間は生命のピンチやパニッ
クによって箍が外れてしまうと、凄まじい力を出す事が出来るのだ。
「そうなんだ。催眠術によっては、痛みまでコントロール出来るらしい」
「そんなの、向こうが反則じゃんねー。人の事をサイボーグだのスーパーサイヤ
人だの言ってさ!」
飯田は紺野に言われた事を根に持っているらしい。飯田の戦闘モードが自己催
眠だとしても、紺野の足を砕く身体は尋常ではないだろう。
「そうか!藤井の眼が空ろだったのは、麻薬じゃなくて、催眠術をかけられてい
たんだ!」
矢口が思い出すと、夏が慌ててメモする。安倍は、ほぼ真犯人を確定していた
が、どうしてもその動機が掴めない。やはり、事件の鍵は後藤姉弟にあったの
である。
452女の子だよ!:02/03/26 13:17 ID:RlAl9Bkk
ファイル19 真犯人の確証?

 安倍と中澤は、矢口の見舞いに行くと、夕方から亜衣を連れて後藤家に向か
った。安倍は中澤が運転するクルマの中で、先ほどから亜衣と話をしている。
「ユウキ君は凄くモテたんっしょ?」
「そうやな。うちが知ってるだけで、ののちゃんにまこっちゃん、紺野ちゃんに
A組が武田さん、上杉さん、伊達さん、朝倉さん、北条さん、佐竹さん、最上
さん。C組が竜造寺さん、島津さん、長宗我部さん、毛利さん、陶さん。年上
は松浦さん、まあ松浦さんは彼女やけどな。高橋さん、吉澤さん、加藤さん、
上戸さん、鈴木さん。下級生やと柴田、明智、丹羽、羽柴、滝川、佐々、前田
、池田、村井、木下、岩室、林、内藤、青山、平手、波多野、簗田、川尻、九
鬼、安藤、氏家、稲葉、中川、蒲生、森、坂井、不破、筒井、佐久間、飯尾、
水野、安食、太田、武井、道家、魚住、細川、長谷川、金森、祝、高山、津田
、堀、宮部、中川がそうやな」
「げげっ!六十六人もいるんだべか?」
安倍は仰天した。この世の中には、こういった不公平というものが存在する。
男前や美人がモテるというのは、種の保存という本能的な部分が影響している
という。つまり、モテる人には選択権があるわけだから、より良い遺伝子を持
つ異性を選ぶ事が出来るわけだ。こうしてより良い血統を残して行くのが、生
物の持つ最も原始的な『種の保存』という本能である。
「最近やと矢口さんに手紙を書いた藤原君やな」
「女の子じゃ誰がモテるんだべか?」
安倍が訊くと、亜衣は胸を張って自慢する。良きにつけ悪しきにつけ、一番に
なる事は良い事だが、中澤の心配が増えるだけだ。
「うち、ののちゃん、ずっと落ちて矢口さんやろな」
「矢口は中学生じゃないべさ」
「でも、ここに来て人気急上昇やで。たぶん、退院して学校に行ったら、下駄箱
ん中は手紙でいっぱいや。うちも二年生の男の子に呼び出されてな。コクられ
る思うたら、『矢口さんに渡して下さい』やて。うん、ちこっと危ない感じ。
『もっと鞭で打って〜』みたいな」
亜衣が言うところによると、矢口の事が好きな子は、マゾヒスト嗜好的なタイ
プだそうだ。安倍は矢口が中学生の男の子に、ハイヒールを舐めさせている情
景を想像し、思わず身震いをする。あの、順応性の高い矢口であれば、そうい
った世界でも無難にこなして行きそうだ。話を聞いていた中澤は、クルマを道
路の左に寄せて停車し、腹を抱えて笑い出す。やはり、安倍同様に想像してし
まったのだろう。
 安倍が亜衣にこんな話をしたのは、ちゃんとした理由があった。安倍は平家
と松浦殺害については、麻薬絡みではなく、男女の問題であろうと考えていた
のである。恐らく、松浦殺害の犯人は、ユウキに想いを寄せている人物で、ほ
ぼ間違いはない。問題は平家を殺した動機である。安倍は平家とユウキの関係
を疑ったが、警察の調べによると、二人に面識は無かった。
453女の子だよ!
 後藤家に到着した安倍と中澤は、真希とユウキを見て仰天してしまう。二人
は双子かと思うくらいに、そっくりだったからである。姉弟とはいえ、ここま
で酷似しているのは稀であろう。
「ユウキ君は何でバレー部を辞めたの?」
安倍は無難な話から入る事にする。いきなり本題に入ると、相手が固くなって
しまい、大切な事を言い忘れてしまうかもしれないからだ。
「僕は中学の三年間、亜弥と一緒にバレーをやって来たんです。部活が楽しかっ
たのは、やっぱり亜弥がいたから・・・・・・」
ユウキは言葉を詰まらせ、悲しそうに俯いてしまった。安倍は何とか話を切り
替えようとするが、バレーの話を持ち出してしまう。
「なっちはオレンジアタッカーズの吉原さんのファンだったべさ。ユウキ君も誰
かのファン?」
「いや、僕は特に・・・・・・あえて言うなら、鮎原こずえかな?」
「アハハハハ・・・・・・アタックNO.1だべさ!」
『アタックNO.1』は、昭和四十年代に大ヒットしたアニメである。『巨人
の星』や『明日のジョー』とともに、スポコンアニメの頂点に君臨する作品で
あり、昭和三十年代生まれの女性に、圧倒的な支持を受けていた。その主人公
の名前が『鮎原こずえ』である。この作品は何度も再放送され、バレー少女な
ら誰もが夢中になり、涙するものであった。
「うちも知っとるで。 苦しくたって 悲しくたって コートの中では平気なの
♪やろ?」
亜衣が嬉しそうに歌ってみる。中澤に叱られて俯いた亜衣を見て、真希が思わ
ず微笑んだ。
「原宿高校のバレー部なんだけど、女子の方は知ってるべか?」
「ええ、小柄だけどトス回しや、ゲームの組み立てが上手い、福田さんを中心と
したクラブです。福田さんは本当に上手いですよ。往年の中西千枝子みたいで
すからね」
ユウキは淡々と答えて行く。安倍はユウキの話を聞きながら、核心に触れてみ
た。
「ユウキ君はモテモテだったんっしょ?バレンタインデーは、いくつチョコを貰
ったんだべか?」
「そんなに多くはないですよ。真希姐、亜弥、希美ちゃん、福田さんと紺野あさ
美って子くらいですよ」
「福田!」
中澤は思わず声に出してしまう。確かに福田を真犯人だと仮定すると、全てつ
じつまが合うのだ。
「ええ、意外でしたね」
ユウキは真希そっくりな顔で、驚いたような顔をしてみせた。すでに高校生で
あり、バレーの選手だったユウキは、決して華奢な身体つきではない。顔つき
も女性的ではないが、真希と並ぶと全く同じような顔をしていた。
「へえ、他の子は乙女の恥じらいなんだべね」
「違いますよ。僕を恋愛の対象にしてないんじゃないですか?」
安倍はメモを取りながら、なぜか違和感を感じた。まあ何にしろ、ポケットに
ヴォイスレコーダーを入れてあるので、帰ってから聞いてみればいい。
「もう一杯、お茶を煎れましょう」
ユウキは三人に気を遣っているようだ。中学を卒業したばかりにしては、気が
付く方である。
「ユウキ君、福田さんから貰ったチョコなんやけど、食べてしまったか?」
中澤がユウキに訊く。ユウキはぎこちない手付きでお茶を煎れながら、「いいえ
」と首を振った。その時、ユウキの左隣に座っていた真希の腕に急須が当たり、
彼女は「熱いなあ」と声を上げる。慌てて真希の腕を心配するユウキ。
「ユウキ君、悪いんやけど、そのチョコを預からせてくれへんか?」
「ええ構いませんよ」
ユウキは母屋にある自分の部屋へ、福田から貰ったチョコを取りに行く。安倍
は中澤の様子を覗う。どうやら中澤も、福田明日香を疑っているようだ。
「あの・・・・・・真希ちゃんはユウキさんと似てるやろ?間違われたりはしない?」
亜衣が恥ずかしそうに真希に訊いた。真希は笑顔で頷く。亜衣は真希に憧れて
おり、真希も亜衣を気に入っている。
「小学生の頃は、よく間違えられたかな?あたしも髪を短くしてたし」
中澤は自分の考えを確信したように、薄笑いを浮かべて大きく頷いた。