小説『OLやぐたん 其の弐?』

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485L.O.D
「あ、あそこ空いてるやーん!な、矢口あそこ座ろ?」
「あぁ、もう、酔ってんじゃんかよー!!
 すみません、相席いいで、、、、あれ?」
「矢口さんっ、中澤さんっ!?」
弁当箱とビールを片手にたずさえた中澤に
その中澤を支えるちっちゃな矢口が現れて
2人は驚きました。
足下のおぼつかない中澤に手を貸してやると
彼女はすぐに新しいビールの缶に手をつけ始めました。
「っかぁーー、うまぁーーーー」
「裕ちゃん、うちにも一口ちょうだい?」
「ん、なんや、ごっちん、飲みたいんか?」
「うん」
「遠慮せんでもええよーーー、飲みっ!
 まだあるからねーだっ!
 どや、弁当買ってきたんやけど吉澤食わんか?」
「いや、、、いいです」
「矢口、食べる?」
「うん、、、食べるけど、もうちょっと静かにしてよっ」
「あぁ〜ん、ごめぇん」
矢口に媚びを売るように、しなを作る中澤でしたが
なんとも言えず見難い様でした。
486L.O.D:02/03/01 10:01 ID:daKmrKhB
「2人はどうして乗ってるの?」
後藤がなにげなく聞くと
中澤はニマニマァと笑って
矢口の事を抱き締めました。
「2人の事を邪魔できないどっか遠くに行くんや」
「・・・・・・うん」
恥ずかしそうにうなづく矢口の様子から
それがまんざら嘘ではない事が
見て取れます。
「もうすぐやな・・・・・・」
さきほどは、白い光の粒が波立つようにも見えたのですが
今はもう真っ白な布がフワフワと漂うなそんな
幻想的な光景が続いていました。
「もう冬の空に入ったから光が強く見えるんやな」
「へぇ」
「ほら、冬、ライブ行った時、ごっつい星綺麗やったやん。
 あれはな、空気が冷たくて、緊張しとるから
 光が屈折せんで、見えるようになってよー見えるようになんねん。」
「おぉ〜、裕ちゃんすごぉい」
「すごいですね」
「はっはっはぁー、うちかてまだまだイケるでぇ」
「なにがイケんだよ!分かんねぇよっ!」
列車は減速し、停まってしまいました。
487L.O.D:02/03/01 10:02 ID:daKmrKhB
「あ、ビール買わないと」
そう言って、中澤が立ち上がった時にはもうそこに姿はなく
ホームにいる売り子のおばちゃんと談笑していました。
吉澤はその不思議な光景に目を奪われてましたが
後藤は矢口に話しかけました。
「ラブラブだねぇ」
「へへっ」
「どこまで行くの?」
「分かんない、きっとどこまでも行くと思う」
「いいなぁ、、、私は1人だから」
「え?よっすぃは一緒じゃないの?」
「どうなんだろ?」
「へ?」
「よっすぃはどこまで行くの?」
吉澤はボーッとしていたのですが
2人が自分を見てるので
慌てて格好をつけて言いました。
「グッドプレイスまで?」
「かっこいいねぇ」
後藤はなぜか感心しているようでしたが
矢口は苦笑いしていました。
488L.O.D:02/03/01 10:03 ID:daKmrKhB
発車のベルの音がしても中澤は
おばちゃんと談笑しています。
「早く乗、、、、」
「いやぁ、おもろい人やった」
さっきまでホームにいたのに、もう
彼女は目の前にいました。
「?」
「んー、あ、仲よさそやな・・・・・・」
中澤が視線を送る先には仲むつまじそうに
並んで歩く双児の兄弟。
矢口に目を向けると、くすぐったそうに笑いながら
おでこをこづいたりしました。
「なんだよぉー」
「ペアルックとかしてみよか?」
「なに、厚底履くの?」
「履かねぇよー、なんであんな凶器はかなあかんねん」
「じゃぁさ、ミニスカ」
「お前、この年でミニスカはないやろぉ」
「うん、犯罪だと思う」
「危ないですよ、中澤さん」
「お前等は一言よけいやっ」
と、笑いながら、またおいしそうにビールを飲みました。
489L.O.D:02/03/01 10:09 ID:daKmrKhB
「あの、、中澤さん」
「なに?」
「幸せってなんですか?」
すると、彼女は考えるまでもなく答えました。
「決まってるがな」
「?」
「矢口が幸せな事さー」
「やだぁ、マジで言ってんのーー?」
言われた矢口は照れてしまい
中澤の肩をポカポカと叩きますが
それすらも嬉しいようで
中澤は止めようともしません。
「いきなり、どないしてん?」
「いえ、、、この列車に乗ってからずっと考えてたんです。
 私達にとって幸せな事ってなんなんだろうって」
「ふーん、そかぁ
 あんま考えたら、ハゲるで」
「・・・・・・」
その時、車室のドアが開き、金色の丸ボタンがいくつもついた
いかにもえらそうな制服なのですが、どうもダボダボしてる
不思議な格好の車掌さんらしき人が入ってきました。
「切符点検するべさーー。出しておいてよーー。」
「・・・・・・安倍さん」
その人はまぎれもなく安倍なつみ。
「あら、みんなしてどこ行くのさー。
 なっちの仕事がない時にしてよーー」
「あぁ、すまんなぁ。
 矢口と愛の逃避行やねん」
「そっかそっか。さ、切符見せて?」
490L.O.D:02/03/01 10:11 ID:daKmrKhB
後藤は造作もない様子でポケットから小さな鼠色のキップを取り出してみせました。
中澤と矢口も同じような切符を見せたのですが
吉澤は困ってしまいました。
ポケットを見ても、そんなような物はどこにも見当たらず
どうやって切り抜けようか一瞬で考えました。
「オーゥ、ソーリー!アイムハリアーップ!
 キプ、カエーマセンデシタ」
「よっすぃ、切符持ってないの?」
「イエェース!イエス!」
「ん、、、」
安倍はおっこちそうな帽子をかぶり直すと
吉澤のポケットから4つ折りになった1枚の紙を
取り出して、拡げてみせました。
「あ、これでいいべさ」
真っ黒な紙にいくつも、十字が重なりあってて
少々、不気味な感じでしたが
安倍はそれを畳んで、吉澤に返した。
「裕ちゃんと矢口は、もうまもなくつくね
 ごっちんは、まだしばらくあるべさ」
「あれ、私は?」
「よっすぃのは、それすっごいよー」
矢口がうらやましそうにつぶやき
代わりに安倍が答えてくれました。
491L.O.D:02/03/01 10:12 ID:daKmrKhB
「それは、どこへでも行ける切符だべ。
 この幻想第四次元世界の
 このどこまでも続く銀河鉄道に
 いつまでも乗っていられる券でしょや」
「・・・・・・」
その刹那、手の中のその紙が熱く燃えたぎるような感じがして
吉澤は胸がギュッとしめつけられました。
その後は、なんだか気恥ずかしくて4人とも会話がないまま
じっと外を見てました。
でも、時折、中澤と矢口は視線を合わせ
小声で何かをつぶやきました。
それを見ていた吉澤は幾度も
今、幸せですか?と聞こうとしたのだが
それはついに喉から出ませんでした。
あぁ、この2人のように寄り添う事も幸せなんだと思いながら
隣に座る後藤を見ました。
無二の親友です。
この人のためなら、どこまでも行けるような気がしました。
などと考えてるうちに、ハッとすると
もう中澤達の姿はなく、食い散らかしたビールと駅弁が残ってました。
「片付けてよねぇー」
「あぁーあ、聞いておけばよかったなぁ」
「なにを?」
「中澤さんに、今、幸せですか?って」
「そだねぇー、後藤も思ってた」
2人はどちらからともなく手を握りあい
窓の外を見るでなく
ずっと恥ずかしげに顔を伏せていました。