小説『OLやぐたん 其の弐?』

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461L.O.D
『銀河鉄道の夜』

学校の授業は4時間目。
夏が終わって、秋が近付いてきたせいか
窓から差し込む光は少し弱まり
風も冷たくなった気がした。
先生がしゃべっている。
黒板には大きな磁石で貼られた星の写真。
星を見るのは好きだった。
仕事で夜遅くなった時なんて
晴れた日は東京から家に帰る間
少しずつ増えていく空の星を数える。
オーストラリアで見た星は
日本と同じ物のはずなのに
空いっぱいに広がっていて
本当に綺麗だったのをよく覚えている。
もし、外国に行くなら
ブラジルで柔術を覚えるか
オーストラリアで星を見ようと思う。
あぁ、ハワイもいいかも知れない。
462L.O.D:02/02/23 21:58 ID:Oak0yTG+
「で、ですね。この河のようなものが何で出来てるかわかりますか?」
先生が問いかけるが、誰も答えようとしない。
ある者はメールをしてるし
ある者は寝てる。
窓際の席に座る吉澤ひとみは、その答えが分かっていたが
あまりの眠さにそれすらもおっくうだった。
最近、仕事が辛すぎる。
ハロプロの夏公演が近付いていて
練習が終わるのが2時、3時なんて日もある。
かといって、明日授業があるからなんて早く帰るわけにもいかない。
ただでさえ、土曜日だけ通えるようにしてもらってるのだから。
石川のように高校へ行かないことも出来たし
安倍、飯田のように通信制にすることも出来た。
普通校に通っていた矢口にはこの両立は辛いと聞かされてたが
せめて、大学とはいかないまでも学校に行ける間は
行っておこうと決心して受けたのである。
「吉澤さん、分かりませんか?」
「分かりません・・・・・・」
本当は知っていたけど、答えるのが恥ずかしかった。
ただでなくても芸能人だって目立ってるのに
なんでわざわざ当てるのだろう。
463L.O.D:02/02/23 21:58 ID:Oak0yTG+
みんな勉強なんてする気ないのに
ここで答えたら、なんか嫌味ったらしく見える。
どうせなら、このまま誰も答えないで
ダラダラとした授業が続いてほしいとまで
思ってしまった。
先生はその後も何人かの人間に当てるも
誰も答えてくれず、諦めたような表情で話し始めた。
「これは、銀河というもので、
 この白い点は1つ1つ星なのです。
 しかも、これは太陽のように自分で光る星であり
 私達が住んでいる地球はもっと小さいものなんですね。」
チャイムが鳴った。
先生はほぅと溜息を1つつく。
時間内に銀河の説明を終える事が出来なかったからであろう。
そんな溜息をつくぐらいなら、当てないで勝手に進めればいい。
中途半端にやる気を出して
理科のおもしろさをみんなに知ってもらおうなんて思うから
授業内に終える事ができないのだ。
464L.O.D:02/02/23 21:59 ID:Oak0yTG+
「はい、終わります」
「起立、礼」
教科書を仕舞う音。
席から立ち上がる音。
カラオケに行くかと誘う声。
まだ寝てる奴。
吉澤は席の横から鞄を取り出して
持ってきたものを全部入れてしまう。
「仕事?」
隣の席の女の子が聞いてくる。
「うん、1時入りだからもう出ないと」
「じゃぁ、先生に言っておいてあげる」
「ありがと」
鞄を手にすると、吉澤は駆け出した。
教室を出る時、数人の子が手を振ってくれて
笑って、振り返した。
465L.O.D:02/02/23 22:00 ID:Oak0yTG+
「1、2、3、4!」
夏まゆみのカウントを数える怒声が響く。
汗が滴る。
必死に踊る。
だけど、笑顔は崩さない。
フォーメーションは右に左に変わっていく。
「あっ!」
なにげない表紙で足がもつれて、思いっきり倒れ込んだ。
「よっすぃ!?」
「大丈夫?」
「っく・・・・・・」
呻き声をあげるのは、倒れた拍子に
押し倒してしまった石川の方だった。
吉澤の腕の下になっている足を抱え込む仕種。
夏先生や他のコーチも駆け寄ってくる。
「石川、大丈夫?」
「捻っちゃったみたいで・・・・・・」
応急処置がほどこされるも、苦しそうな様子は変わらない。
マネージャーや舞台監督が話し合っている。
466L.O.D:02/02/23 22:01 ID:Oak0yTG+
「ごめん、、、」
「大丈夫だよ。そんな顔しないでよ、よっすぃ」
そう言って、石川は手を握ってくれた。
少し嬉しくて、泣きそうだったが
石川が痛みを堪えて笑ってるのを見て
泣き出せなかった。
「とりあえず石川は病院に行ってみてもらうから
 メンバーは練習を続ける事。」
「はいっ」
「ユニットの練習行きまーーーす。7人祭ーー!」
矢口らが汗を拭いて、水分を補給し
フロアに入っていく。
吉澤はすっかり落ち込んだ様子のまま
メンバーが集まってるとこへ行く。
「吉澤」
飯田に声をかけられ、顔を上げた。
「あんたは身体大丈夫?」
「怪我とかはないです」
「いや、さっき倒れたの貧血とかじゃないの?
 お仕事遅いけど、ちゃんと寝れてる?」
中澤がいなくなって、やっとリーダーらしさが出てきた。
すごく細やかな気を使ってくれる。
467L.O.D:02/02/23 22:02 ID:Oak0yTG+
「すいません、今日早かったんで・・・・・・」
「そっか、よっすぃ、学校だもんね」
隣に座ってた安倍が感慨深そうに言う。
「あんまり身体強くないんだから、無茶するんじゃないわよ?
 もし、具合悪いんだったら今のうちに言いなさい」
保田は厳しい口調。
自分も体調を悪くして、ハロプロを休んだ経験があるから
その損失がどれだけあるのか身を持って知っているからだろう。
「辻も加護は大丈夫?」
2人ともどこか眠そうである。
「あんなに遅くまでやって、早起きじゃ疲れも取れないよね。
 マネージャーに行って、学校休ませてもらえばよかったしょや?」
「ほんとだよね」
「次、10人祭!!」
吉澤は手にしていたドリンクを加護に渡して、
フロアへと入っていった。
468L.O.D:02/02/23 22:03 ID:Oak0yTG+
仕事が終わった午前1時。
石川の事もあり、今日は早めに切り上げられた。
軽度の捻挫で済んだらしく、1、2日休めば
痛みはだいぶ引くという。
振り自体はもう覚えているため
そんなに支障が出る事は無さそうだった。
ただ吉澤は帰りのタクシーの中で
様々な事を考えてしまう。
ダンスがうまいわけでもない
歌がうまいわけでもない。
最初の合宿の時、生まれて始めて
『ダンス』と呼べるものを踊った。
カウントの取り方が分からなくて必死だった。
今はプッチモニがあるおかげで
身体を大きく使ってダンスを魅せる
という事を覚えた。
469L.O.D:02/02/23 22:04 ID:Oak0yTG+
歌なんてちょこっとラブを歌い直したものなんて
自分で聞いて倒れるかと思うぐらい
歌えてなかった。
あの時は本当に落ち込んだ。
まだまだ唄えない。
安倍や保田、飯田、矢口・・・・・・
先輩メンバーは唄うという事を
身体で分かっているようだった。
自分はバレーばっかりやってて
プロの歌手として唄うことなんて一回も考えた事がなかったから
呼吸法だとか声の出し方なんて
ましてや、歌で自分を
表現するなんて出来なかった。
時折、仕事中やレコーディング中に
胸が苦しくなる。
自分がここにいていいのかと不安になって
怖くなったりもする。
そんな事を思いながら、窓の外を見てた。
470L.O.D:02/02/23 22:04 ID:Oak0yTG+
都会の曇った空。
星は見えない。
ラジオから流れるブルースがやけに悲しくて
運転手さんに声をかけようとした瞬間
「あれ?」
そこがタクシーではない事に気付く。
古臭い列車の座席が並んでいる。
新幹線のゆったりとした布張りのものではなく
木製の四角くて固い座席だ。
なぜか、それが懐かしく感じた。
ほっぺたをつねると、痛かった。
疲れすぎて、夢でも見てるのだろうと諦めて
どうせなら、この列車の旅を楽しんでみようかと思う。
窓の外を見ると、漆黒の闇に浮かび
キラキラと輝くダイヤモンドの波のような世界の中だった。