小説『OLやぐたん 其の弐?』

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427L.O.D
第三章 声

気分転換に街に出た。
どうせなら気の合う子と一緒にいたい。
世間的には驚きかも知れないが
安倍はよく相談に乗ってくれる。
まったりしたい時は2人でカフェに行って
1時間以上何もしゃべらないでボーッとする事もあるし
買い物に行ってはワイワイとはしゃぐ事も出来る。
3コール。
『ごっちん?』
「新宿行かない?」
『OK』
「んーじゃ、カラオケで待ってる」
よく行くカラオケ屋で先に入って待っている。
メンバーがみんな使うため
奥のパーティールームは指定室みたいなものだ。
パラパラと本をめくっていると
メールが来た。
高橋からだ。
最近、すごく甘えてくれるようになった。
曲のダンスの途中などでも
笑うと、笑い返してくれたりする。
428L.O.D:02/02/21 00:07 ID:fHH9VuVk
『怖いです・・・』
たった一言だけ。
不安になって、電話をかけた。
「高橋?」
『あ、後藤さん・・・・』
「大丈夫?」
『いえ、すみません。あんなメール送っちゃって
 目が覚めたら、すごく怖くなっちゃって・・・・』
「いいよ、あんな事があったばっかだもん。
 それよりさ、今、新宿のカラオケにいんだけど
 来る?なっちも今から来るんだけどさ」
『いいんですか?』
「おいで、おいで」
『分かりました。準備していきます』
電話が切れると、後藤の顔は少し寂しげだった。
部屋で音楽を聞きながら寝転んでいても
近くの店に買い物に行っても
落ち着かなくて
まるで飛び出すように家を出た。
家族以上に一緒にいるメンバーに会いたくなった。
喧嘩もするし、嫌いな奴もいるけど大事な人達だった。
数分もしないうちに安倍がやってくる。
「ごっちーん」
「なっちーー」
ギュッと抱き合う。
429L.O.D:02/02/21 00:08 ID:fHH9VuVk
「よっすぃは大丈夫かい?」
「うん、落ち着いて、家に帰ったよ。
 やぐっつぁんは?」
「ん、大丈夫」
「よかった」
2人で何曲か歌ったところで高橋もやってくる。
「高橋じゃんかー」
「お邪魔しますっ」
「ほら、入れな」
「はい」
高橋が入れたのはZONEの新曲で
安倍はそれに聞き入っていた。
後藤は次の曲を探す。
何気ない光景。
だけど、彼女達にとっては特別な時間で
唄が好きな女の子に戻れる時間。
高橋が歌い終わったところで
お酒飲んじゃおうかという話になり
3人それぞれに頼む。
30分もすれば酔っぱらった安倍がいた。
430L.O.D:02/02/21 00:09 ID:fHH9VuVk
「たかはしぃ」
「あ、はい」
ちびちびと口にしていた高橋も
特徴的な耳まで赤い。
後藤はけろっとしていた。
「娘。入れてよかったかい?」
「それは、、もうっ」
「そっかぁ、よかったなぁ。
 なっちはそれが嬉しいよ」
今日はからみ酒らしい。
高橋が助けを求めるべく
後藤を見ると
何を求めてるのか分からなかったらしく
数秒、悩んだ後、キスされた。
「いやぁ〜、ごっちんは大胆だねぇ〜」
「んぅ!んぐっ!!」
「・・・・・・」
押し倒して、舌をねじ込む。
しかし、なにかを思い出したようにはね起き
口をぬぐった。
「どうしたの?」
安倍も高橋も驚きの表情で見ている。
431L.O.D:02/02/21 00:10 ID:fHH9VuVk
「や、、なんでもない」
「なんでもないわけないべさ〜」
「そうですよ、言ってくださいよ」
「なんでもないよ〜、ほら、次入れないと」
「ごっちん」
抑揚のない安倍の声が妙に心の内側をえぐる。
リモコンを取ろうと伸ばした手が
ビクッと震え、止まった。
「言いなさい」
「・・・・・・いいの?」
「聞かせてくださいよ」
「梨華ちゃんの事を思い出した、それだけ」
記憶の中のいつか。
同じようにこの部屋で
少し酔って
石川の唇を奪った。
女から見ても、女らしくて
なんかそれが憎くて、キスしてた。
汚してしまいたくて。
その時、石川は強がって逆に舌を入れてきたけど
目には涙を浮かべてた。
帰る時、小さな声でごめんと謝って
握った指は細かった。
「ごめんね・・・・・・」
安倍は後藤の頭を抱き寄せる。
温かな胸。
「そんな事だったなんて、、、」
高橋が手を重ねてくる。
「いや、うん、いいんだ。
 歌おうよ、なんか!」
そう言う後藤の目にはしっかりと
あの日の石川が映っていたのだった・・・・・・

432L.O.D:02/02/21 10:41 ID:m6hY6Qoe
石川の葬儀から数日後
娘。の仕事は再開された。
といっても、雑誌の取材でもテレビ出演でもなく
スタジオでの作業である。
まだ気持ちを切り替えれないメンバーは後回しにされ
時間的な制約もなく
まるで一緒に手探りで動いていた。
中澤と石川をほぼ同時に失った事は
スタッフの気持ちにも後を引いていた。
つんくだけが仕事の事に打ち込んでいたが
それも余計な事を考えないように
むりやりやっているようにも見えた。
辻がブースの中の重圧に耐えかねて泣き出し
コントロールルームに戻ってくる。
いつもならあの緊張感がよりよい自分に向かわせてくれるのに
みんなの気持ちが声に現れていた。
前のつんくなら全員に向かって
活を入れていたが、出来なかった。
「飯でも食うか・・・・・・」
ぽつりとつぶやくように言う。
「おごりですか?」
矢口がみんなの気持ちを盛り上げようと逸早く口を開く。
「13人分おごりかっ!?
 18才以上のメンバーは自分で払えやー」
「矢口真里、14才でぇ〜す」
「いや、その化粧で14才は犯罪やで」
「ちょっと薄くしたんですよー!」
そんなやり取りで少しだけ笑いが起きる。
つんくは矢口と顔を見合わせ笑った。
中澤が死んでしまって辛いのは彼女なのに
メンバーのためにわざわざ明るく振る舞うその器量に
頭が下がる思いである。
数人のスタッフが恒例キムチ鍋の用意をしに買い出しへ行く。
その間はレコーディングもストップし、完全に休憩となる。
みんな、長丁場を乗り切るために様々な物を持ち込んでいて
別部屋にはプレステ2やらX BOXなどのゲームが並んでいる。
スタッフだったりメンバーの私物であった。
こういう一時が先輩メンバーと後輩メンバーの間の溝を
埋めたりして、大切な事だったりするのだが
飯田なんかは負けず嫌いだから
1人キャーキャー言っている。
後藤はその輪に参加せずに辻とお菓子を食べていたのだが
吉澤の姿が見えないことに気付く。
433L.O.D:02/02/21 10:42 ID:m6hY6Qoe
トイレ。
右奥の個室。
便器を抱え込み、頭を突っ込んで
胃の内容物を吐いていた。
ストレスからだろうか。
最近、食べても食べても吐いてしまう。
別に吐きたくないのに
胃液が込み上げてきて吐かざるをえなくなる。
苦しい。
喉にだって悪い。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
一段落したが、まだ胸が気持ち悪い。
ムカムカとするのが残っていた。
床にへたり込み、しばらくボーッとしていると
ドアが開く音がして、隣の個室に誰かが入る。

  ガチャンッ!

閉まる音がやけに大きく聞こえる。
まだ胃に残っていたものが逆流してきた。
水洗のノブに手をかけ、音を消す。
恥ずかしいけど、口に堪えている事も出来ず
また便器を抱えた。

  トンッ

床に軽い振動を感じる。
「?」
顔を半分あげると、そこには誰かが立っていた。
「やっ、、、、ぐぶっつ、、ぼぐぁ、、、、、ぼぐつ!!!」
頭を抑えられて、水の中に顔を沈められる。
息が出来ない。
息が・・・・・・出来ない。
暴れてた身体も突然、動かなくなる。
死んだのを確認すると、侵入者はドアを開ける事なく
また隣の個室へ戻り、トイレから出ていった・・・・・・

434L.O.D:02/02/21 10:43 ID:m6hY6Qoe
鍋の用意が終わり、さぁ食べるかというところで
1人足りない事に気付く。
「なっちは?」
「トイレかな?」
「誰か見てきなさいよ」
『ごっちん・・・・・・』
「私が行くっ!!」
後藤の顔は見るからに青ざめている。
そう、はっきりと聞こえた。
自分の名前を呼ぶ声を。
それは確かに安倍の声だった。
他の者も後藤の勢いに
何も言えず、後藤は飛び出した。
「わ、私も行く!」
矢口もその異変が気になったのか
後藤の後を追った。
「ごっちん?」
「ここだ」
トイレの中に入ると、後藤は右奥の個室を指差す。
戸を叩いても、反応がない。
だが、閉まっている。
「私が見るから」
最悪の事態を想定した。
後藤は矢口を先に制止する。
隣の個室に入ると、便器を利用して
問題の個室を覗いた。
そこには、確かに安倍がいた。
後藤は壁を乗り越えて、個室に入る。
身体に触れる。
もう冷たい。
「やぐっつぁん」
「な、なに」
矢口の声が震えていた。
「警察の人呼んできてよ」
「・・・・・・」
扉は勢い良く開けられる。
2人とも泣いていた。
誰かを呼びに行く事も出来ないくらい
涙が零れて、歩く事もままならない。
その声を聞いて、スタッフや刑事が来たのは
数分後の事であった。

435L.O.D:02/02/21 11:08 ID:m6hY6Qoe
コントロールルームやゲームのある部屋にいた人間には
アリバイが存在する。
その中でトイレに行った者は何人もいた。
紺野もその1人である。
「トイレには加護さんと一緒に行ったんです。
 廊下で安倍さんとすれ違ったんですが笑ってくれました。
 でも、思い出してみると、ずっと具合が悪そうでしたよ。」

保田も同じくトイレに行った。
「あの、刑事さん、その前に吉澤の事なんですけどいいですか?
 あのですね、あの子、相当参ってたみたいで
 私がロビーで飲み物買いに行ったら
 1人でロビーにいたんです。
 声をかけたら、泣き出してしまって・・・・・・」

吉澤が取調室に入る。
「はい、ロビーにいました。みんなでいると、
 梨華ちゃんがいないのが余計に辛くなっちゃうんです。
 休憩に入ってすぐくらいからです。
 保田さんには会いました。
 ちょっとなぐさめてもらって・・・・・・
 30分くらい一緒にいました」

矢口が語る。
「なっちは最近、疲れてたのか具合悪そうでした。
 元々、繊細っていうか、怒られたりすると
 すごく落ち込みやすい性格で
 今回の事はそういう体調にも影響するぐらい
 ショックだったと思うんです。」

安倍の死因は窒息死。
胃の内容物が詰まった事によるものなのか
何者かによって窒息させられたものなのかは
断定するにはいたらなかった。
436L.O.D:02/02/21 12:10 ID:m6hY6Qoe
「あとちょっとだよ」
壁に張られたポスターの1枚に触れた指。
唇をなぞる。
「大好きだよ、ごっちん」
窓から差し込む月の青白い光が
狂気の世界をさらに演出している。
ニタリと笑った顔が不気味に映る。
振り返り、大きなボストンバッグの中身を漁る。
明日からは、北海道に行く。
安倍の葬儀であり
メンバーが全員参加する事は決定的である。
物音一つしない部屋でチャックを閉める音がする。
何をしようか散々迷ったあげく
ソファに寝転がるとコンポの電源を入れた。
聞こえて来るのは当然後藤の歌声
「へへぇっー、ごっちん〜」
1人で薄ら笑いを浮かべる姿は正しく異常である。
437L.O.D:02/02/21 12:11 ID:m6hY6Qoe
北海道に渡り、室蘭の安倍の実家近くであげられた葬儀には
メンバーが全員参加した。
中学、高校の頃の友達なども大勢参列する。
一通りの事が終了して、両親への挨拶を済ませ
明日の朝早く、東京に戻るため
札幌までは戻らなければ行かず
バスを1台借りた。
全員が乗り込んでも、いつもなら矢口の隣の席がポッカリと穴が開いた。
「隣、いい?」
飯田が聞くと、矢口は静かにうなづく。
その後の会話はない。
タンポポで一緒にいることによって
時には意見をぶつけ
時には互いを信頼してきた2人だから
あえて、何も言わない、何もしない。
「矢口、吸う?」
後ろの席に座ってた保田が身を乗り出して
まだ開けたてのタバコの箱を差し出す。
「変えたの?」
「ちょっとね」
その箱には見覚えがある。
安倍が娘。になって初めて買ったタバコと同じ。
その前も吸ってたのかもしれないが
デビューしたての頃は禁煙してたようで
ふるさとの頃だっただろうか
バレないかドキドキしたよーとか言いながら
一本取り出して、中澤のライターで火をつけた姿が
目に焼き付いている。
それに気付いて、矢口は保田の顔を見る。
「吸っときなさい」
「うん」
1本取り、保田に火をつけてもらう。
深く吸い込むと、肺に煙が入っていくのが分かる。
4年間の思い出も胸に渦巻く思いも全部
煙と一緒に吐き出した。
泣かなくて済みそうだ。

438L.O.D:02/02/21 12:25 ID:m6hY6Qoe
暗い部屋。
ゆっくり歩いていく。
真っ白なベッド。
後藤と吉澤の部屋。
2人ともよく寝ている。
後藤は半分口を開けて、ますます魚っぽい。
「ごっちん・・・・・・」
白くて長い首。
指を絡める。
ぐっと力を込めた。
息苦しくなり、眉間に皺を寄せた。
さらに強く締める。
「っく、、、、っは、、、、、、」
カッと目が見開いた。
反射的に顔を背ける。
(寝顔のままでいてくれればよかったのに)
見えていなかった。
後藤の手が腕にかかる。
「!?」
ものすごい力で一気に捻り上げられる。

  ゴキィッ!!

「ギャァアアッ!!」
容赦しない。
完全に関節がはずれ、肘から下がブラリと垂れ下がる。
間髪入れず、シーツごと前蹴りで蹴り飛ばし
自分と犯人の間にスペースを作る。
後藤が叫ぶ!
「なんでなのよ、高橋!!」


第三章 終了
439L.O.D:02/02/21 12:28 ID:m6hY6Qoe
『第三章終了』

次章、最終章。謎が暴かれる。
440名無し募集中。。。:02/02/21 16:50 ID:QBVhawyp
怒られるぞ
441L.O.D:02/02/21 23:58 ID:dE3TzVst
第四章 ホントのコト


石川の事件 前日
「石川さん」
ホテルの廊下の片隅で高橋に呼び止められ、振り向く石川。
「なに?」
「あの、、、話があるんですけど」
「?」
「3時に砂浜で会いませんか」
「そんな、、勝手に出歩くのは、、、」
「誰にも言わないでくださいっ」
石川の疑問の声も聞かないで
高橋は部屋に戻っていく。
(3時って・・・・・・)
中途半端に眠る事も出来ず
石川は起きてる事となる。

一方、高橋は小川に風呂あがりのお茶を薦めていた。
「飲む?」
冷たい日本茶の深い緑が火照った身体に良さそうで
ペットボトルを受け取る。
「あんがと」
「私、もう寝るけどどうする?」
「愛ちゃん、寝ちゃうのー?
 疲れたから寝るかなぁ」
「じゃぁ、そうしよう」

  カラッ

高橋の右手にピルケース。
病院から支給されてる睡眠薬で
それを粉々に砕いて
あのお茶に混ぜた。
これで小川が3時に出ていっても
目を覚ます事はないだろう。
それは、12時を少し過ぎる時だった。
442L.O.D:02/02/21 23:59 ID:dE3TzVst
当日 AM3:04
真っ暗な海を前に、ライトアップされたホテルの灯だけが砂浜を照らしていた。
石川はマネージャーに見つかったりしないように
人目に付かない場所に座っていた。
ザッという砂を踏む音が聞こえ、振り向こうとした瞬間
背中に走る痛烈な痛みにキョトンとする。
冷たい刃は抜かれ、また刺さる。
「あぐっ」
口にタオルを噛まされ、声が出ない。
行為が繰り返される度に意識が薄れていく。
「やったぁ・・・・・・」
高橋はニンマリと笑った。
手についた血はサッと洗い流し
服はまったく同じものに着替え
部屋に戻って、鞄の中に仕舞った。
刃物も同じように小さく畳んで入れておいた。
他の所に捨てたりしたならば
そこから足がつくとも限らないからだ。
「やったぁあ」
声が震えてる。
一歩近付いた。
嫌いなあの人の泣き顔が見れる。
大好きなあの人を手に入れれる。
443L.O.D:02/02/22 00:01 ID:3wAJXBzR
安倍の事件 当日
高橋はゲームしている部屋にいた。
ゲームには参加せず後ろの方で見ていた。
飯田と小川がカーレースゲームに必死になっていて
観ている人間も画面に熱中している。
安倍がフラッと輪から離れる。
高橋はそれを横目に見る。
誰も気にしちゃいない。
数十秒過ぎてから、高橋もいなくなる。
トイレのドア。
開けると、安倍の苦しそうな声が聞こえた。
ゆっくり手袋をハメる。
壁を超える時に指紋を残さないために。
水を流す音が聞こえる。
また吐き始めた。
便器にしがみついて、顔を埋めてる。
チャンスだった。
壁を乗り越え、横に立つ。
完全に気付かれる前に一気に顔を押し込んだ。
苦しそうにもがく身体。
沈黙。
水の中に顔を入れたまま、絶命した。
高橋はその後、何もなかったように
輪の中にまた戻った。
もし、いなかった事に気付いた者がいたとしても
ただトイレに行っていたと思うであろう。

444L.O.D:02/02/22 00:02 ID:3wAJXBzR
取調室。
「安倍なつみさんの頭部から検出されたこの繊維は
 間違いなく貴方の手袋だと認めますね」
手錠をつながれた高橋の前に出される2枚の用紙。
1枚は安倍の頭部に付着していた繊維を解析したもの。
もう1枚は高橋が犯行時にハメていた手袋のもの。
間違いなくデータはそのどちらも同一の物であることを示している。
付着してたのは本当に小さなゴミ屑のようなもので
それだけでは、物的証拠とは言えなかったであろうが
高橋の物である事が分かれば、データは嘘をつかなかった。
「はい」
高橋の目は完全に死んでいる。
しかし、口元の笑みが消える事はなかった。

後藤の事件 当日深夜
ベッドの中の高橋は眠る事が出来ずに
悶々としていた。
頭の中から後藤が離れない。
狂いそうだった。
いや、狂っていた。
そして、彼女の手には後藤の部屋の鍵。
眠る前の時間。
後藤の部屋に遊びに行った。
寝起きの悪いこの2人はいつも鍵を目のつくところに置いておく。
もう鍵を使う事もないだろうと
案の定、テーブルの一番目立つところに置いてあった。
高橋は鍵を摺り替える。
誰も気付いてはいない。
気にもしないだろう。
吉澤をモーニング娘。から排除するためには
決定的な何かが必要だった。

壊れていた。
後藤への愛が吉澤への憎しみに擦り変わっている事に
本人も気付いていなかった。
吉澤への憎しみだけが頭を占領していく。
吉澤を娘。から排除するためには
(あぁ、そうだ)
吉澤の隣に眠るのは、モ−ニング娘。のセンター ゴトウマキ。
ヨシザワヒトミがゴトウマキを殺せば
ムスメ。に居れるわけがない。
そして・・・・・・

445L.O.D:02/02/22 00:03 ID:3wAJXBzR
「はぁ〜い?」
とある日。
後藤真希はドアの魚眼レンズを覗く。
ヘルメットを抱えた市井紗耶香が立っていた。
「ヒマなんだろ?」
「うん・・・・・・」
後藤の表立っての芸能生活は凍結された。
つんくに言われ、スタジオには行っていて
今度、インディーズレーベルだが
CDは出す予定があった。
きっとネットを通じて、うわさは広まって
それなりのセールスが出るだろう。
生活にはゆとりがあった。
市井からヘルメットを受け取って
彼女のベスパの後ろにまたがる。
「どこ行きたい?」
「どこでもいい」
市井はゴーグルを降ろす。
彼女の腰に腕を回すと
ゆっくりと発進する。
都会の喧騒を抜け
海沿いの道路へ入る。
風が肌で分かる。
人は誰もいない砂浜。
バイクは道路脇に止めて
2人はコンクリートの階段を降りていく。
靴の裏で感じる砂の音。
後藤は手に砂を握る。
開くと、風に舞い、消えていった。
446L.O.D:02/02/22 00:04 ID:3wAJXBzR
「・・・・・・」
「・・・・・・」
会話はなく、ただ歩く。
「よっと・・・・・・」
市井がテトラポッドに昇る。
不思議な形をしたその先をポンポンと飛んでいく。
市井に手をさし延べられ
後藤もその上に乗った。
「私ってさぁー」
「あぁ?」
「モーニング娘。にいらなかったのかなぁ?」
「なんでよ?」
「だってさぁー、裕ちゃんがやめたのも
 ぜーーーんぶ私のせいじゃん」
「そんなんじゃないよ。市井がやめたのだって
 後藤が入ってきて、挑戦するって事を
 お前から教えてもらったからだし」
後藤は、海側に並ぶテトラポッドの列に飛び乗った。
「ありがと」
海を背にして、両手を広げる。
「ねぇ、市井ちゃん」
「ん?」
「写真撮って」
市井が肩からかけてるカメラに気付いたらしい。
「お前なぁ、圭ちゃんが後藤はヘン顔しか撮らせてくれないって泣いてたぞ」
「だって、なんか恥ずかしいんだもん」
シャッターを切る音。
仕事場でよく聞いていたのに
なんか新鮮な感じがした。
撮り終わっても、まだ同じポーズで
空を見上げている。
447L.O.D:02/02/22 00:05 ID:3wAJXBzR
「もういいぞ?」
「このままさぁ」
「あぁ」
「海に落ちちゃったら、楽になれるかなぁ?」
「ばーか」
うっとりと目を閉じた後藤。
市井の目には体重が少しずつ後ろにかかってるように見えた。
「!?」

  ダッ!!

「ふっ・・・・・・は・・・・・・」
市井は後藤を強く抱き締めた。
息が上がってた。
腕の中にいる後藤の姿を確認する。
一瞬の恐怖で市井の顔は真っ青になってた。
「ばか言うなよぉ」
「ごめんね・・・・・・」
「死ぬなよっ、死んだら、裕ちゃんにずっと説教されんぞ」
「あーやだかも」
後藤の呑気な顔が不安を取り除いてくれる。
市井にはそれが後藤の痩せ我慢だって分かっているけど
あえて何も言わなかった。
へたり込むようにテトラポッドの間に座る市井。
後藤はコンクリートで固められた防波堤の縁に腰掛けた。
「そういやさ」
「なに?」
「裕ちゃんがあの時、なにしてたか知ってる?」
「ううん」
448L.O.D:02/02/22 00:06 ID:3wAJXBzR
「はっきりとは分からないんだけどさ
 矢口の誕生日プレゼントがバッグに入ってたしょ。
 あれを人知れず入れるために自分で鍵かけたらしいよ」
「用心深いねぇ」
「でも、なんで死んだのか分からないんだって」
「とりあえず成仏してください・・・・・・」
「枕元にだけは出ないでください」
2人で空に向かって、手を合わせる。
「出たら、いちーちゃんトイレに行けなくなります」
「なっ・・・!?」
「へへぇ」
「いや、ごめん、マジで行けないかも・・・・・・」
「いちーちゃん、怖がりだもんねー」
「言ったなぁーーー」
防波堤を走っていく2人・・・・・・
449L.O.D:02/02/22 00:07 ID:3wAJXBzR
中澤の事件 当日 PM3:58
(よーし、誰もおらへんな)
娘。の楽屋へ忍び込む中澤。
テーブルの上には似たようなバックが13個以上並んでいる。
(娘。にいた時なら一緒におったから
 一発で分かったけど、週一しか会わんかったら
 どんなん持ってるかも全然分からへんわ!)
とりあえず手当たり次第に開けてみる。
まず、1個目。
(なんや、重いな・・・・・・)
持ち上げると、やけに重たかった。
その理由は開けたところで分かる。
(カメラ、、、圭坊のやん)

小さな革のナップザック。
矢口が欲しいとか言っていた気がする。
(アフロ犬のキーホルダー、、石川やな)

LOVEBOATの袋。
いかにも矢口らしいが・・・・・・
開けただけでは分からない。
化粧道具を覗いてみる。
マスカラが6本入っていた。
(これは愛しの矢口のやないのーー)
と思った瞬間、ドアの向うに人気を感じる。
袋の中に持っていたプレゼントと手紙を押し込んだ。
(見つかったら、マズい!!)
中澤は一瞬の判断でロッカーの中に隠れる。
といっても、ミニモニ。のようにはいかないので
コートかけに飛び込む。

  ガタァン!!

(痛ぁ・・・・・・肘打ったわぁ)
450L.O.D:02/02/22 00:08 ID:3wAJXBzR
通気用のスリットから見えるのは吉澤の姿。
(あぁー、薬飲みに来たんやろなぁ)
メンバーだった時も具合悪そうにしてるのを見た。
嫌われてるのを知ってたからあまり声をかけなかったが
石川をとっ捕まえて、あんまりひどいようだったら
ちょっと休んでるように言うように言ってみたり
遠回しに気遣ってやったが
嫌われてるから気付いてないであろう。
水を飲んで、椅子で少し休むと部屋を出ていく。
(はぁ・・・・・・ビックリしたぁ
 ちょっと鍵かけとこっと)
ロッカーから出て、ドアノブを見る。
辻、加護がお菓子を食べた手で握ったらしく
砂糖の跡がベッタリついている。
(うげぇ・・・・・・)
ティッシュペーパーを取って、カギをかけて
使った物は丸めて、ゴミ箱へ。
(って、さっき適当に入れたけどそんなんあかんわぁ
 ちゃんと入れ直しておかんとなぁ〜)
無意識だった。
LOVEBOATの袋を開ける。
451L.O.D:02/02/22 00:09 ID:3wAJXBzR
「!?」
そこには、憎き黄色い物体『バナナ』がっ!!
「いやぁーーー!誰やの、バナナなんて持ってきぃっ!!うわぁあ!!」

  ガンッ!!!!

視界が歪む。
(なんやろ・・・・)
痛いとかいう感覚はない。
顔になにかがついた。
手で拭うと真っ赤な血だった。
(なんで転んだんやろ、、バナナだったらいややな
 あー、なんかボーッとしてきたわぁ)
身体が動かない。
別に痛くはなかったんだけど。
(はぁ、、矢口の顔見たいなぁ、このまま寝てたら
 ビックリしてくれるかなぁ・・・・・・
 どうせメイク直しに来るやろし
 このままでいてみるかな・・・・・・)
452L.O.D:02/02/22 00:10 ID:3wAJXBzR
30分前。
「あさ美ちゃぁーーん、バナナ食べてもいいですかぁ?」
「いいよぉー」
辻が紺野のLOVEBOATの袋を覗きながら言う。
メイク中の保田が振り返る。
「あんたバナナ食べた口で裕ちゃんとしゃべったら殺されるわよー」
「おばちゃんこわぁ〜い」
「どこが怖いのよ!!」
「メイク」
確かに保田ケメ子のメイクは怖い。
「こらぁーー!!」
「きゃぁーーー」
机の上に置いたはずのバナナの皮がゆったりと
下に落ちた。
中澤裕子はこのバナナの皮で転んで
頭部を机の角に強打。
外傷自体は大した事がなかったのだが
出血があまりに酷かった。
また、打った事により脳がダメージを受けて
身体を動かす事がままならなくなったのである。
そう、中澤裕子はバナナの皮で死んだのである・・・・・・
うわぁ。
453L.O.D:02/02/22 00:11 ID:3wAJXBzR
『ちょっと石川、お茶煎れなさいよ』
『あー、なっち、コーヒー』
『自分で煎れてくださいよぉ』
『つべこべ言うな!』
ここはどこだろう。
3人は1つのテーブルに座っている。
石川がぶつくさ言いながら立ち上がり
やかんを火にかける。
『スパゲティ食べたいな』
『こないだ美味しい店見つけたんよ、行こか?』
『石川も行きたいです!』
『裕ちゃんおごってよぉー』
『おごってくださいよー』
『しゃぁーないなぁ』
中澤は安倍と石川を右と左に並べ
肩に手をかけ、連れていく。
両脇の2人だけがスゥッと消える。
振り返る中澤。
柔らかな笑みを浮かべている。
『生きなあかんよ、一生懸命』

454L.O.D:02/02/22 00:12 ID:3wAJXBzR
ダンスレッスン場。
プッチモニの面々がフロアの端で座ってた。
保田の呼び掛けでなんとなく身体が鈍っていたから
踊りに来ていた。
まるで確認するように
自分達のユニットの曲やミニモニ。とか
娘。の曲も変わる変わる歌ってしまう。
タオルで頭を拭いていると
3人は同時に顔を見合わせる。
「ねぇ・・・・・・」
「今・・・・さぁ」
「聞こえたよねぇ?」
「きゃぁーーーーーーーーー」
吉澤が叫ぶ。
その顔は嬉しそうだ。
「ちょっとぉ、なんなのよぉ」
保田は怯えてるみたいで
天井なんか見ちゃって。
「見てくれてんだよね、あんがと」
後藤は笑って、手を振る。
きっと側にいるから。

Trick end.