小説『OLやぐたん 其の弐?』

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320L.O.D
終章 風

「お疲れ様でしたー」
石川梨華は、マックの通用口から出てくる。
携帯電話を取り出し、どこかへと電話をかける。
『はーい?』
「保田さーん、迎えに来てくださいよー」
『今、カラオケにいるから、来なさいよ』
「行っていいんですか?」
『明日香もいるわよ』
「いつものとこですよね」
『そう』
すぐ近くの打ち上げやなんやでよく使ういつものカラオケ屋。
行くと、ルームナンバーを教えられる。
部屋は少し薄暗い。
保田が気持ち良さそうにバラードを唄ってた。
「バイトないのに会ってたんだ?」
「まぁね」
明日香の横顔。
含み笑いがにくい。
「なにー?なんかあったの?」
保田に目配せするように見た後
笑いながら、石川の耳元に口を近付けた。
「バンドをね、組むんだ」
「え?保田さんと?」
「よく行くライブハウスでメンバー募集かけてね」
「へぇーっ、おめでとうございますっ!」
石川の他人事にも関わらず嬉しそうな表情を見て
保田も微笑んだ。
「石川、なんか唄いなさいよ」
「え、だめ!私、歌なんてっ!」
「いいっていいって、唄お?」
明日香が勝手にモーニング娘。を入れてしまった。
「笑わないでよー?」
「笑わないわよ」
「笑うけどね」
321L.O.D:02/02/06 00:09 ID:BXa3gVKy
眠る前、石川は明日香と保田の顔を思い出していた。
「いいなぁ・・・・・・」
寝返りを打つ。
すごく輝いていた笑顔。
やるべき事を見つけた人間の顔。
しっかりとした視線。
生き生きとした目。
「はぁ・・・・・・」
自信なさげな溜息はより大きく聞こえる。
思い悩んでみたところで
自分にはそんなものはない。
うっすらと窓からの光の中で
テニスのラケットが見えた。
もう、やりたくないのに。
「・・・・・・」
もう1度寝返りを打って、壁を向いて眠りについた。
322L.O.D:02/02/06 00:10 ID:BXa3gVKy
午前零時。
吉澤は鳴り止まない携帯電話を手にした。
液晶に映るごっちんの文字。
「は、、い?」
『よっすぃ?』
「そうだけど」
『元気?』
電話から聞こえてくる後藤の声は少しハスキーな気がする。
「んー、、、」
『よかったらさ、明日遊ぼうよ』
「え?」
『映画みたいんだけどさ、1人じゃやだから』
「映画?」
『うん、フランスのやつでー』
「ふーん」
『・・・・・・』
「ごっちん?」
『やだ?』
「えっ、や、そんな事ないよ!」
『無理して合わせなくていいからっ』
「違うっ!」
『だって、今、よっすぃ、、、』
「明日、何時?」
『10時半から、、、』
「じゃ、あのカフェで10時に待ち合わせ」
『うん・・・・・・』
電話が切れた。
きっと後藤なりに心配してくれてたんだと思う。
なんかその気持ちが嬉しくて
涙が出てきた。
323L.O.D:02/02/06 00:11 ID:BXa3gVKy
カフェ。
入って、辺りを見回すが
後藤の姿はない。
フッと見ると奥のボックスから手を振る影。
近付いていくと、ハイビスカスの帽子を目深にかぶった
色黒の少女。
健康的な小麦の肌に金髪の髪の毛がかかってる。
「ごっちん?」
特徴的なガングロメイクじゃない後藤を見る事自体はじめてかもしれない。
「座りなよー」
「あ、うん」
吉澤はバッグを脇に置いて、向側に座る。
「分からなかった?」
「全然」
「そっか」
「どうしたの?」
「なんか飽きちゃって」
飽きたなんて、嘘。
吉澤に会えない時間
ずっと考えていたのだ。
色白で綺麗な吉澤と並んで歩くには
自分のあのメイクはおかしい、と
そして、電話をかけるのさえ怖い自分はなぜか
全てはメイクで隠した心だから
吉澤と仲良くなりたかった。
分かりあいたくなった。
一歩、踏み出したかった。
だから、あのメイクはしなかったのだ。
「そろそろ行った方がいいかな?」
「そだね」
映画館へと歩いていく2人。
自然と手をつないでいた。
324L.O.D:02/02/06 00:13 ID:BXa3gVKy
彩はビールを片手に壁によりかかる。
静寂のステージ。
オ−ルスタンディング、客は満員。
ライトが全部消える。
現れたメンバー。
堂々とした調子の明日香。
圭もサックス片手に出てくる。
『どもー、まだ名前ありませーん』
客席がドッと湧く。
かぶさるようにして、ドラムのカウント。
一気に暴れるような演奏が爆発する。
ゴリゴリ唸るベースに
頭をつんざくようなギター。
バンドの演奏力は悪くはない。
「あかん、遅れてもうた」
隣に走ってきたらしい中澤が滑り込んできた。
「大丈夫、まだ始まったばっかだから」
きょとんとした中澤の表情。
「へ?」
「唄い出してもいないよ」
ステージの真中で明日香の息遣いまで聞こえる気がする。
スゥッと一呼吸吸って
マイクスタンドを掴む。
唄い出したその声は力強く
小さな彼女の身体を大きく見せた。
「飲む?」
「当たり前やん」
「そっか」
カウンター席に移る。
ステージからは遠くなるが
段差があるため、見やすくなった。
「かっこいいなぁ、明日香」
「うん、かっこいいね」
「うちも唄おうかな」
「やめときな、3曲唄って
 酸欠でブッ倒れちゃうから」
「まだまだ裕ちゃんだって若いでぇ」
そう言いながら、目を細くする中澤。
愛想のない明日香がバイトを始めて
圭と出会って、ステージに立った。
なんか、自分の娘でもないのに
成長する姿が見えたようで
嬉しかった。
「男いないかなぁー」
「いきなりなに言ってんのさ」
325L.O.D:02/02/06 00:14 ID:BXa3gVKy
道端に座り、飯田は今日もまた
絵を描いていた。
なにげなく手を止めて
手元のバッグから一つの封筒を取り出す。
市井からの手紙。
美術学校に進むために、高校に復学するとの事。
別になにをしてあげたわけでもないが嬉しかった。
「お絵書きしてるんですかぁ?」
うんこ座りで俯いてた飯田の顔を覗いてきたのは、辻希美。
「うん。描いてあげようか?」
「描いてくださーい」
ポカーンと口を開けた顔。
なんとなく愛らしい。
「中学生?」
「はい」
「ジャージだけど、部活は?」
「バレ−部ですよぉ」
「そう」
「お姉さん、笑顔だけど、なんかいい事あったんですかぁ?」
「うん、友達がね、夢を見つけて歩きだしたの
 あなたもいい笑顔だね。」
「ののはですねぇ、大好きだった先輩が練習に来てくれるようになりましたぁ」
「そかぁ、大好きだったんだ」
「はいっ」
子供らしい元気な返事。
「お名前は?」
「辻希美です。ののって呼んでくださーい」
「ののちゃんねー、よし」
飯田は描いた絵を辻に見せる。
オレンジや赤を多用した明るい絵。
「わぁー」
「あげるね」
「くれるんですかぁーー」
「うん」
「ありがとーございますぅ。
 お礼にー・・・・・・」
鞄を漁って、出てきたのはプリクラ手帳。
お悩みの様子で選んだ1枚。
「あげますー」
「ありがとっ」
筆入れにペタッと貼ってみせた。
「どう?」
「かわいいかわいいっ」
「へへっ」
「じゃぁねー、お姉さん」
「うん、じゃぁね」
辻は絵を丸めもせず掴んで歩いていく。
326L.O.D:02/02/06 00:15 ID:BXa3gVKy
今日も8段アイスを食しにお店へGo!
お金を払って、アイスを受け取り
ゆっくり座って食べれる場所はないかと探す。
溶けてしまわないように
食べながら歩いてると、ちょうどよい段差発見。
隣に同じような背格好の女の子。
とりあえず一心不乱にアイスを食べ
その子に話しかけてみた。
「プリクラ撮らない?」
「ん、えぇよ」
「関西の人?」
「奈良やねんけどな」
「鹿って食べるの?」
「そんな食べへんけど、、、」
「そっかぁ」
近くのゲームセンターで適当に空いてる台で
プリクラを取って、出てきたのを2人で分ける。
「はい。」
「あんがと」
辻が手帳に貼ってるのを横目で見てる。
「ののは携帯持ってへんの?」
「えっ!?なんで、ののだって分かったんですか?」
「いや、、、手帳に書いてあったから」
「ののは持ってるけど、あんまりかけないですねぇ」
「番号、、、教えて?」
「いいですよぉ」
不思議な感じだった。
辻の携帯番号を見て
ワンコールする。
「はーい、名前はぁ?」
「加護亜依」
「あ、いっと」
なんでだろう。
辻と話してると落ち着く。
SEXでさえ埋まらない心が満たされてくのを感じる。
「な、ののちゃん、どっか遊びに行かへん?」
「カラオケ行く?」
「うん、カラオケ行こ」
加護は辻の顔を見た。
口元についたコーンの欠片。
手を伸ばして、拭き取ってあげる。
327L.O.D:02/02/06 00:16 ID:BXa3gVKy
「・・・・・・」
矢口はWingsの奥へと足を運び
椅子に座ると、1冊のノートを取り出してみた。
みんながいたずら書きしたノート。
中澤がみんなで行った飲み会の費用を計算してたり
安倍や彩がkissとか書きまくってたり
辻、後藤、吉澤のプリクラが貼ってあったり
明日香が連載してた詩もあった。
市井からの最後のメッセージ。

『みんなに出会えた事で私はここから卒業できるよ。
 学校行っても頑張るし、たまに遊びにくるから
                  サヤカ    』

「みんな、いなくなっちゃったよ」
その後もノートは続いてる。
違う誰かが書き込んでいくから。
「・・・・・・」
いつか処分されてしまうノート。
みんなの思い出が消えてしまう。
店員の目を盗んで、鞄にしまった。
これでいいんだ。
思いでは守られた。
いつかこれを開いたら
この数カ月の事をきっと思い出すだろう。
328L.O.D:02/02/06 00:17 ID:BXa3gVKy
鞄を手にする矢口。
やけに明るい歌なんて口ずさみながら
昼間だってのに電気をつけてるこんな
天井の低いゲームセンターなんて抜け出して
いっぱい人がいるメインストリートへ・・・・・・
「なっち・・・・・・」
「あ、まりっぺー」
UFOキャッチャーの前。
小脇にこの前取れなかったプーさんのぬいぐるみを抱えた安倍が
そこにはいた。
「バッキャロォーー!!」
「わぁ!」
「顔見せないで、なにしてたんだよ!!」
「いやぁ、そりゃもう、毎日のように・・・・・・
 それがさ聞いてよ!あいつったらさぁーー!!」
「のろけ話なんて聞かないもんね!
 矢口をずっと放ってた奴なんてしーーーらないっ!」
「あぁ、、まりっぺ、待ってよ!
 プーさんあげないぞぉーー」
「いいもん、矢口にはしげるがいるもん!」
「しげるって誰だべ!ちょっと、まりっぺーー」

fin