小説『OLやぐたん 其の弐?』

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287L.O.D
今日もあの子はそこにいる。
今日はお金がないのか、ハンバーガー3つだけで
やけにゆったり食べてる。
時間も早いし
部活はなかったのだろうか。
「ありがとうございましたぁ!」
口を拭いながら、店から出ていく後ろ姿は
そのままゲームセンターへ向かう。
「あ」
隣でレジをやってた明日香が声をあげる。
「ん?どしたの、明日香ちゃん?」
「あそこ、よく行くんだよね」
「へぇー。ゲームうまいの?」
「や、あんましないんだけどさ」
「そっか」
そう言うと、明日香は直してたメニュー表に目を戻す。
なんか普段はあんまり自分の話をしてくれない明日香だったから
石川は嬉しかった。
「石川、交代だよ」
「あ、はいっ」
レジを保田と交代する時、
ちょうど明日香のところに客が来た。
「福ちゃぁーーーん」
「はいはい、なんにしますか?」
「えっとねー」
「矢口、シェイク!」
「うち、コーヒー。紗耶香は?」
「別にお腹空いてないし」
「あやっぺ、なにするん?」
「あたしもコーヒー」
うるさい客だ・・・・・・

288L.O.D:02/02/01 16:44 ID:XLSarZs0
バイトが終わり帰る準備
ちょうど明日香と一緒になった。
「ご飯食べていかない?」
「あー、どうしよっかな」
「なんか用事あるの?」
「用事ってわけでもないんだけどね」
「無理なら今度でもいいけど」
「や、行くよっ。別にいいし」
「いいの?」
「うん」
ドアのところから保田が顔を出す。
「保田さん、顔だけだと怖いですよ」
「うるさいわね!」
「なんか用ですか?」
「ごめん、ちょっと遅れそうだから先行ってて」
「あ、はーい」
バッグを片手に立ち上がる石川
「じゃ、行こっか」
「うん」
明日香もつられるように立ち上がり、店を後にする。
2人がやってきたのは、すぐ近くのカフェ。
2人ともオレンジジュースを頼んで
一息つく。
「さっき来てたお客さんは友達?」
「うん」
「なんかすごく年上の人とかいたけど、、、」
「あぁ。うん、あのゲーセンで知り合ったんだ」
「ふーん」
その後はたわいもない学校の話とかしてた。
明日香がいたずらっこのような顔をして
恋の話をしてきたりもした。
すごくくだらないけど
なんとなくいい感じ。
289L.O.D:02/02/01 16:44 ID:XLSarZs0
そんな時、電話が鳴って、明日香がバッグから携帯を取り出す。
「ごめんね」
「ううん」
「はい?あぁ、えー、酔っぱらってない?
 絶対酔ってるじゃん。マジだってー」
「・・・・・・」
電話の向こうの人は誰なんだろう。
自分が知らない明日香の世界。
「うん、はいはい。やだよ、やだってー。」
グラスに刺さったストローをクルリと回すと
氷も一緒に回っていく。
「おまたせ、、、、」
明日香が電話してるのに気付き
やってきた保田は声を潜める。
「うん、はいはい、じゃね」
「もう頼んだの?」
「はい、頼みました」
「そっか」
保田が手をあげて、店員を呼ぶ。
「ビール飲みたいな・・・・・・」
「ダメですよ、保田さん、車じゃないですかっ」
「帰ってから飲むの寂しいんだよなぁ」
テーブルを挟んで向うで繰り広げられる
保田と石川の漫才に少しだけ微笑む明日香。
「保田さん、何歳なんですか?」
思い切って質問してみると
意外な答えが返ってくる。
「18」
「えっ」
「嘘よ」
「よかったぁ」
「よかったってなによー」
保田も笑って返してくれた。
場が和んで、遅い夕食を食べながら
3人はバイトの事などを話題に盛り上がる・・・・・・

290L.O.D:02/02/01 16:45 ID:XLSarZs0
食事を終え、2人と別れた明日香は
交差点向こうのWingsへ。
UFOキャッチャーしてた安倍を適当にあしらい
キスしてる中澤と矢口を後目に
市井の隣にでもいようと思ったら
48連勝中でなんかキテた。
「来い!来い!こーーーーーーーーーい!」
「誰かcamiを倒せーーーーー」
別にイベント日でもないのに
大会みたいになってしまってる。
「明日香」
名を呼ばれて振り返ると
彩がいた。
「あやっぺー」
「さっきはごめんねー。みんなで行っちゃって」
「いや、いいよいいよ。売り上げにはなるし」
「そっか」
「明日香だぁーーー」
矢口が抱きついてくる。
背中から腕を回してきて
持ってたプリクラ手帳を見せてくれる。
「今日ねー、すっごいかわいい子来たんだよー」
「へぇ」
「近くの中学生でプリクラすっごい好きなんだってーーー
 いっぱい交換したよーーー」
「あー、この子・・・・・・」
マックに来ては大食いしていくあの子である。
「この子、マック来て、いっつもハンバーガー5個とか食うんだけど」
「えっ!?」
「多くない!?」
「いや、多いでしょー」
「ふーん、そんな風に見えなかったけどなー」
「なになに、裕ちゃんも仲間に入れてー?」
「ほら、この子。マックでハンバーガー5個とか食べるんだってー」
「あー、辻ちゃんやん。なー、この子めっちゃ抱きここちええで」
・・・・・・初対面の子になにしてんのさ。

291L.O.D:02/02/01 16:46 ID:XLSarZs0
バイト先の近くの駅から出た途端
石川はため息をついた。
テストの点数が悪かった。
こんな日はバイトをさぼってどこかに行きたい。
しばらく歩いて、もうマックは目の前。
まだ入るには時間があって、Wingsの入り口の階段に腰掛けた。
「はぁー、、、」
「あのぉー」
「?」
顔をあげると、見なれたジャージ。
あどけない顔に整った目鼻。
大食い少女だ。
「あー、やっぱりそうだぁ」
「いっつも来る子だよね?」
「ぁいっ」
「いっぱい食べるよねー」
「部活した後はぁ、お腹が空いちゃうんですよぉ」
「そっか」
「これからバイトですか?」
「うん」
「辻はこれから練習試合なんですー」
「がんばってね」
「そだ!プリクラ撮りませんか?」
「いいよっ」
292L.O.D:02/02/01 16:47 ID:XLSarZs0
なんでだろう、この子と話してると
すごくリラックスする。
「名前、聞いていい?」
「辻希美ですっ。ののって呼んでくださーい」
「うんっ。私はー」
「石川さんですよねっ?」
「覚えてるの?」
「えへへぇ」
「石川梨華。梨華ちゃんでいいよ」
笑顔がかわいい。
石川も自然と笑顔が出てしまった。
2人でプリクラが出てくるのを待ってると
明日香のともだちの『なっち』が
辻を見つけて、走ってきた
「ののーー」
「安倍さぁーん」
「ギュー」
石川は時計を見た。
遅刻寸前の時間。
「あーっと、ごめん、辻ちゃん、私、バイト行かなきゃ!」
「じゃねー、梨華ちゃん。プリクラ、今度持っていくねー」
手を振って別れ、マックの裏口へと一直線に走っていく。
早番で入れ変わりの保田に出会う。
「お、どうした。嬉しそうな顔して」
「あの大食いの子とな仲良くなったんですよ」
「そう」
「いい子ですよー」
人との出会いなんて些細な事なのに
なんでこんなに嬉しいんだろう。
石川はテストの不安なんてもうどこかに飛んでいた。

293L.O.D:02/02/01 16:48 ID:XLSarZs0
あくる日
「こんにちはぁ」
レジにニコニコしながらやってきた辻。
今日は保田の前に来る。
「いらっしゃいませぇ」
なぜか保田は他の客には見せない優しい笑みを浮かべた。
「怖いですよぉ、保田さぁん」
「分かってるわよ」
「えっと、ハンバーガー6個にシェイクストロベリー」
辻は瞬く間にそれを平らげ、
店を出る時に振り返って
手を振ると、石川や保田が手を振ってくれた。
その足で、Wingsに行く。
部活→マック→Wingsが最近の流れだ。
ここにいけばプリクラを撮ってくれる人がいっぱいいる。
中澤に至ってはおごってくれるし。
だから、遊びに行く。
でも・・・・・・本当は。
辻の目にはある人が映っていた。
「よっすぃ!」
店の入り口から、奥まで聞こえたのではないかと
思うくらいの大きな声。
UFOキャッチャーで安倍に新作プーさんを取ってもらった矢口などが
辻を見た。
手に持っていた鞄を放り投げて
真直ぐにその人の元へと走っていく。
「・・・・・・?」
後藤とつないでた手がはずれる。
後藤は隣に立ってた彼女を見る。
「ののっ!!」
「よっすぃ!ダメだよぉ、いなくなっちゃぁ!」
「・・・・・・」
ワンワン泣きわめく辻。
吉澤はただジッと抱き締め続けてた。
夜がまた来る。
294L.O.D:02/02/01 16:49 ID:XLSarZs0
かすかに赤味を帯びた空が消えて行く。
紫紺の闇に掻き消される。
街にはオレンジ色の光がポツリポツリ。
市井はフと立ち止まった。
そこには、1人、女の人が座ってた。
大事そうに板を抱え、筆を手にしていた。
「絵、描くんですか?」
「うん、、」
「私も描くんすよ」
人工的な灯が彼女の黒髪に映り込む。
この街の中で彼女は異質な何かを発していた。
市井は惹かれた。
「あなた、、、、猫みたい」
「猫?」
「うん、黒猫」
「黒猫かぁ」
「なんか風にまぎれて、消えてしまいそう」
「・・・・・・」
つぶやきながら、彼女は瞬く間に
黒猫を描いてくれた。
しなやかな背中。
まさしく、自らの姿にかぶって見えた。
「なんかいいっすね、この絵」
「ありがと」
「もらって、、、、いいですか?」
「うん、あなたに描いた絵だから」
市井は絵を大事に丸めると
左手にしっかりと持った。
「じゃぁ、、、」
「ねぇ」
「?」
「どこに行けば、会える?」
「え?」
「私、もっと貴方の絵描いてみたいな」
肩にかかるロングヘアから覗いた目は
すごく澄んでいて
市井の心へ入ってきた。
一瞬・・・・・・全ての音が聞こえなくなった。
そんな瞬間だった。

其の六 終了