暖かい日射し。
やっぱり窓側の席はこの時期
昼寝にはもってこいである。
一見、廊下側の方がよさそうに見えるが
午後の授業ともなると
窓から差し込む温もりは
睡眠の世界へと
たやすく誘ってくれるものだ。
石川は保田と遅くまで遊んでしまい
少し眠たくて、ウトウトとしていた。
そんな中で昨夜、保田に言われた一言を思い出す
『石川はなんかあるの?、、、、夢、、、とか?』
そんなものない。
やりたい職業なんてない。
毎日、こうして学校に来て
時折ある試験はクリアして
無事に卒業する事しか考えてない。
おそらく、適当に進学するだろう。
結婚も思い付かない。
今、自分が主婦になったら
考えるだけで恐ろしい。
今日も放課後を迎える。
テニスコートの横を抜ける。
足を止め、素振りをする同級生の影を見た。
中学の時はテニス一筋だった。
高校に上がっても続ける気だった。
へただったけど楽しかった。
だけど、部活が終わって
受験勉強をして
高校に受かって
いざとなると
面倒になってた。
走り込んだり
素振りをしたり
土まみれ、汗まみれになって
頑張るのがばからしかった。
他にする事なんてないのに
もっと高校生活を楽しもうなんて思ってた。
そこで反発するように始めたバイト。
最初は近所のコンビニ。
時折、中学の友達が来て
テニスは?なんて聞いてくる。
ウザくてやめた。
その後も何度かバイトを変えて
今はマックでバイトしてる。
仕事が楽な事はないが
保田がやさしいのでいい。
こないだ後輩が出来た。
自分よりちょっと小さくてころんとしてる
福田という子で、学年は一緒。
少し先輩だから、いいところ見せようなんてすると
反対にミスして、保田さんに怒られる。
でも、前のところよりは
少し長続きしそうな気がした。
さぁ、今日もバイト。
石川は駅に向かって、歩き出した。
「いらっしゃいませー」
ジャージ姿の中学生。
髪を横で二つに束ねてるが
降ろしたら、そうとう長い気がする。
時折、店に来てる子だ。
「えっとぉ」
「・・・・・・」
部活の帰りなのだろうか
静汗剤の香りがする。
「ハンバーガー5個にぃ
ポテトLのコーラL」
「お召し上がりですか?」
「ぁい」
厨房にオーダーを入れる。
待ってる間もポーッとした顔で立っている。
次々とトレイに乗せられる物の多さに
周りにいた人、店の中に居た人が
注目してた。
(これ、この子1人で食べるの?)
(たぶん、、、そうなんですよね、、、?)
そっと寄ってきた保田がつぶやく。
石川は営業スマイルに戻って
前に立った。
「お待たせしましたぁ」
会計を済ませ、彼女は窓際の席に座ると
あっという間に食い尽くした。
「・・・・・・すごっ」
それが、辻希美との出会いだった。