小説『OLやぐたん 其の弐?』

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260L.O.D
NHKホールはジャニヲタにとって聖地ともいえる。
週に何度か仕事があるし
ここの玄関は出待ちもしやすい事で有名である。
マキもいつものようにカメラ片手に待っていた。
「まだかなぁ、、、」
頭一つ上から聞こえる少し低い声。
普段なら同じジャニヲタだと思って
見向きもしないんだが、
その時だけは後ろを見た。
あの時、マックにいた美人だ。
「あ」
思わず声をあげてしまう。
「ん?」
恥ずかしくて真っ赤になっても
ガングロメイクじゃ分からない。
マキは少し俯いた。
その瞬間に他のファンの声援が一際大きくなる。
ゾロゾロと出てくるメンバー。
マキも一緒になって騒いでたが
チラチラとさっきの子を見てた。
細長い首を伸ばして人込みの先を覗いてるようだった。
お目当てのものを見たので帰る準備を始めるファン達。
歩いていく方向、乗る列車、降りる駅、向かう場所
なにからなにまで一緒だった。
前を歩く女の子の集団。
一際目立つ彼女はリーダー格というか
常に中心にいた。
261L.O.D:02/01/27 01:18 ID:xZB8rk9z
Wingsの前のマック。
今日の店員は地味で背のちっちゃい女の子。
最近入ったばかりの新米で
その前からこの辺をフラついてるのを見た事がある。
隣を見る。
声の高いブリっこの店員を
彼女は口説いてた。
(あんた、女だろ)
「どう?遊びに行かない?」
「や、困りますー」
「うーん、そっかぁ」
そう言って、まるで物色するように周りを見渡した彼女と
目が合ってしまった。
「1人?」
「・・・・・・うん」
「遊びに行かない?」
「え、だって、お友達、、、」
「あの子達はここでバイバイだし」
「ふーん」
「こないだもこの店にいたよね?」
「・・・・・・」
「私、最近、ここらで遊ぶようになったから
 よく分からないんだよねっ」
お願いって顔の彼女がなんだかかわいく見えた。
悩んだ末、首を縦に振った。
2人で一緒に座る。
262L.O.D:02/01/27 01:19 ID:xZB8rk9z
「私、吉澤ひとみ。某近くの女子高に通ってます」
「あー、あそこかぁ」
「うん」
「うちはねー、マキ。コギャルやってます」
「玄関でもすげぇ目立ってたよ」
「マジ?」
「あんまいないじゃん、ガングロコギャルの出待ちなんて」
話してみると、案外、趣味も合うし
話も合う。
それに話してて、楽しい。
「そろそろ出よっか」
ひとみが小声で言う。
気付けば、もう1時間近くしゃべってる。
周りの客ももう一変してた。
2人はそそくさと店を出る。
「ね、プリクラ撮らない?」
「いいねぇー」
マキの提案に彼女も賛同して
Wingsにやってくる。
「こないだね、ここでちっちゃい金髪の人形みたいな
 女子高生と会ったよ。」
「マジ?かわいかった?」
「この子」
「あーすっげぇー、超かわいいじゃん」
「ねぇ、よっすぃってそのケあるの?」
「毛?」
「レ、、、ズ?」
「あー違う違う。なんかね、別に男とか女とか
 関係なく、よく感動すると声あげちゃうの
 リアクション、デカいんだよねー」
「うん、それはさっきから話してても思ったねー」
「デカいかな?」
「デカいねぇ〜」
「そっかぁ」
そんな事を話しながら、記念の撮影。
置かれたハサミで二つに分ける。
ひとみは早速携帯の裏に張り付ける。
263L.O.D:02/01/27 01:20 ID:xZB8rk9z
「最近、変えたばっかでさ、寂しいんだよね」
「なんか貼っちゃうんだよねー」
「そうそう」
後藤は自分の携帯の裏を見る。
色が薄くなってしまってる。
そこに映ってるみんな、もう全然連絡も取ってない。
なにげなく全部剥がして
ひとみと映した一枚を貼り直した。
「て、携帯番号も聞いてなかったや」
「あ、うん、私のこう」
「OK」
確認のコール。
ワンコールで切れる。
表示される電話番号。
こうやって何人の人間と電話番号を交換しただろう。
「よっすぃって入れておくね」
「じゃ、ごっちんって入れておく」
「うん」
操作を終わって、外に出ようとした時
自然とひとみが手を握ってきた。
そんな事するのもひさしぶりだった。
別に携帯で呼べば、誰か来てくれるけど
1人の方が楽だから。
普段はあまり友達と遊ばない。
遊んでも、2、3人で。
それでも、手つないだりはしない。
「よっすぃ、歩くの速いよ」
「ごめんっ」
驚く表情。
申し訳なさそうな表情。
豊かな表情。
マキは笑いながら、ひとみの歩幅に合わせて歩き出した。
264L.O.D:02/01/27 01:25 ID:xZB8rk9z
『更新終了』
あと3章くらいで終わる予定。
やすいしつじ
あいかお
ラスト・・・・・・
ってな具合にどんどん深みに。
265トロピカ〜ル名無して〜る:02/01/27 03:44 ID:Sh9GJaSi
>>261最初読んだ時、新米店員がブリッコの店員を
口説いてたのかと思ってしまった(w

>>L.O.D
マックの店員にもちゃんとストーリーがあるわけですな
圭織も出るらしいし楽しみだな♪
266旧♪:02/01/27 04:37 ID:okTGDjea
>>261
自分もカウンターの内側でのやりとりかと思ってしまった……
「そんな店員たち、ステキやん?」(w
267名無しさん?:02/01/27 22:48 ID:nWF9Lkdr
いつ読んでもおもしろい〜。
今回なぜかリンクが青に戻ってて
見つけられなくて焦ってしまいました。

あいかおってのが気になるな〜。
頑張ってください♪
268L.O.D:02/01/27 23:15 ID:q6ssBK+l
日が暮れる。
遊び慣れたこの街の端から端まで
歩いてみせた。
おそらくはどんな街に行っても
あるものなんて同じだろうけど
ここは違う。
眠らないから。
夜が始まる。
夜の顔がある。
今日もクラブの前には
人が集まる。
酔っ払いも出てくる。
「よしこ、門限は?」
「一応、9時までかな」
「そっかぁ」
「ごっちんは?」
「うちは放任だからー」
「へぇ」
「ね、ね、遊びに行かない?」
中年親父。
別に酔ってはいなさそうだが
片手に財布を握ってる。
「2人で8万でどう?」
「ダメー」
「やです」
「分かったよぉ、じゃぁ、10万」
「えぇー」
気ありげな顔をするマキ。
ひとみは心配そうにマキを見る。
援助交際。
「いいだろ、ご飯もおごってあげるからさ」
「うーん」
「なっ」
ひとみの手首を掴む手
「くぅっ!」
顔が歪む。
振払うように親父の手を引き剥がし
横っ面を引っ叩く。
「てめぇ!」
声を荒げる親父。
「よっすぃ!?」
自分のした事に呆然としてる。
親父は今すぐにでも乱暴に触れてきそう。
「ウワァアアアア!!!」
269L.O.D:02/01/27 23:16 ID:q6ssBK+l
ハッとすると、親父は1人身悶えていた。
マキに引っ張られる手。
マキも誰かに引っ張られてる。
親父の後ろでVサインする女の人。
2人はWingsに連れ込まれる。
「あぁーーー、マリちゃんだぁーーー」
マキがこないだプリクラで見せてくれたちっちゃな子。
本当に金髪でなんか人形みたいだ。
「よかったぁ」
「サンキュ、マリちゃーん」
「あいつさぁ、さっきうちにも誘ってきて
 すっごいウザかったから、裕ちゃん呼んだら
 ちょうど2人がさ、あんなだったしょー」
「親父ウゼェー」
などとのたまいながら、タバコに火をつける中澤。
さっき親父の後ろに立ってた人だ。
「ありがとうございました」
ひとみは深々と頭を下げると
くしゃくしゃ頭を撫でられた。
「ええねんええねん。金で女を買う奴なんざ逝ってよし」
「裕ちゃん、なにやったの?」
「あぁ、タバコ、背中に入れてやってん」
「キャハハハハハ、マジ!すっごーい」
「すごいねぇー」
マキと矢口はなにがそんなにおかしいのか爆笑。
中澤は少し微笑みながらひとみを見る。
「吸う?」
「いえ・・・・・・」
「あんた、ごっつ綺麗やなぁ」
「・・・・・・」
「どや、お姉さんと1発」
「1発とかいうなよ!」
矢口に蹴りを入れられて、うっと呻く。
270L.O.D:02/01/27 23:19 ID:q6ssBK+l
「ね、マキちゃん。」
「あー、ごっちんでいい」
矢口が遊んでほしそうに腕をからめると
マキは真顔でそう言った。
「ごっちん?」
「うち、後藤って言うのね。
 だから、普段はごっちんって呼ばれてるから」
「O.Kー、ごっちん、パラパラしない?」
矢口が指差したのは、パラパラパラダイス。
お立ち台状になったセンサータイプのコントローラーに
モニターが何個もついていて
パラパラの教則ビデオが流れてる。
「すごーーーー、パラパラだぁーーーーー」
厚底でパタパタと走ってく。
矢口も一緒にいってしまう。
店の奥から女の子が1人やってくる。
「裕ちゃん、福ちゃんはどこ?」
黒髪のやぼったそうなヘアスタイル。
服装のセンスは悪くないんだが
どこかしら田舎くささを感じる。
「明日香ならもうバイト行ったで」
「嘘!」
「そこのマック」
「なっち、なんも知らないっしょや」
「やーい、遅れてる」
なっちと呼ばれた彼女はマックに向かうべく、走っていく。
「みなさん、お知り合いなんですか?」
「まぁ、ここの常連みたいなもんやしな。
 なんか飲むか?」
「いいです」
271L.O.D:02/01/27 23:24 ID:q6ssBK+l
店の一番奥にある自販機の前のテーブルと椅子。
別なテーブルではショートカットの子が絵を描いてた。
「なんかスポーツやってたん?」
「バレーやってました」
「そかそか。いやぁ、背高いし、綺麗やなぁ」
「そんな事ないですよ」
「まーた、そんな事言っちゃってー」
「いえいえ」
「名前は?」
「吉澤ひとみです」
「ふーん」
中澤の吐き出したタバコの煙は
ゆらりと天井に吸い込まれていく。
「あの・・・・・・」
「ん?」
「あの金髪の子は、、、」
「矢口か?」
「はい」
「かわいいやろぉ」
「かわいいですね」
「なんや、あんたもそっちの口かいな」
「中澤さん、そうなんですか?」
「いやぁ、うちは綺麗なもん、かわいいもんが好きなだけよ」
「やっぱいいですよねっ」
(お前等、なんつー会話してんだよ)
市井は突っ込む気力もなく黙々と絵を描いていた・・・・・・

272L.O.D:02/01/27 23:24 ID:q6ssBK+l
道ばたに座り、大きな木の板を膝に乗せ
手には1本の筆。
大きな目はどこか遠くを見てる。
赤から紫へ、そして紺へと移り変わる空の向こう。
道の向うで男が2人喧嘩している。
周りを取り囲むように
人の壁が出来ているが
誰も止めようとはしない。
細く開けられた道を通る人は
まるでそんな光景は
日常の当たり前のような顔をして
通り過ぎていく。
「・・・・・・」
筆を置く手。
彼女のサラリとしたロングヘアが肩口を撫でる。
「つまんない」
ぽつりとつぶやいて
道具を片付けると
颯爽と人込みの中へと消えていってしまった。
彼女の存在がWingsの面々にとって
一つの問いかけとなる事は
まだ誰も知らない。

其の五 終わり