「矢口、おらんの?」
くわえタバコでやってきた彼女は
ハンドバッグを振り回してる。
学生の頃の様子が思い浮かぶ。
「なんか男の子と遊びに行っちゃったよ」
「なっちも一緒なん?」
「いたところでなにも変わらないと思うんだけど」
「、、、明日香」
「ごっつビックリしたわ」
「ところで、なんで安倍さんはいつも私を見てるんだろ?」
「さぁ」
「好きなんちゃうー?」
などと言いながら、
明日香を抱き締める中澤。
逃れようと暴れる明日香。
我関せずでゲームを始めた紗耶香。
しばらくすると、2人はギャーギャー騒ぎながら
離れていったと思ったら
ガンシューティングゲームを始めてる。
対戦者がいなくて、このままじゃクリアしてしまいそうな感じ。
100円無駄になる。
「ハァ、、、」
突然、躍り出るチャレンジャーの文字。
紗耶香はそっと向かいの台を覗き込む。
「おっす」
彩がいた。
「負けないっすよ」
「こっちこそ」
ま、結果は言うまでもない。
彩は缶コーヒー片手にこちら側に回り込んでくる。
「どうした、紗耶香?」
「へ?」
「暗いぞー」
「いやぁ、元々こういう性格だし」
「悩みでもあるのかい?」
悩みが尽きた事なんてない。
だけど、紗耶香はなぜか少し
ニヤリと口元に笑みを浮かべていた。
「さっき彩っぺが乱入してこなかったら
クリアしちゃって、100円が無駄になっちゃうとこだったんだ。」
「ふーん」
「なんかさ、私の人生ってそんなもんなんかなって思った。」
「どういう事?」
「ダラダラと生かされてる感じ。
毎日、こんなとこにいても何も言われないし
いつ帰っても怒らないし、やりたい事もないし」
「じゃぁ、死んでみっか?」
彩の言葉は速球で届いてくる。
「今の自分の生活に満足出来なきゃ、
外に出てみりゃいいさ。
道端の石ころがおもしろいと思えるかも知れないじゃん」
「・・・・・・」
「飲む?」
ほんの少し残ってたコーヒー。
受け取り、飲み干す。
「紗耶香、あんたにとってここはなんだい?」
「・・・・休む場所」
「いつまでも休んでるんじゃ、ダメだよ」
手をヒラリヒラリと振り
挑戦中のキーボードマニアに向かう彩の後ろ姿に
紗耶香は問う。
「彩っぺ!」
「ん?」
「彩っぺにとって、ここはなに!?」
「・・・・・ゲームセンター」
思い知らされる。
彼女はちょっと大人だった。
中澤が携帯でしきりに誰かを誘ってる。
「なぁー、なっち、飲みにいこーやぁー」
「あの人、酔っぱらってる?」
「いや」
「裕ちゃん寂しーねぇん」
「気持ち悪いから、彩っぺどうにかしてよ」
「やだよー、絶対達悪いもん」
「頼むよ、姐悟ぉー」
市井と明日香が必死に頼むと
しょうがないという顔で動き出した途端
携帯は切れてしまった。
「やりぃー!」
「?」
「なっちが遊んでくれるってー!」
「はいはい、ようござんした。」
大学生呼び出して、一緒に遊ぶOLってどないやねん。
そんな一向のところにフラリと
矢口が帰ってきた。
「矢口っ!!」
「はぁー、、、」
いきなりの大きな溜息。
なにがあったかと心配する。
「どないしたん!?なんか変な事されたんか?」
中澤は目線を矢口のとこまで下げながら話す。
「変っていうか、キスされそうになって
飲んでもいないのに出来るかっつーの」
「で、どうやって抜け出したの?」
「顔面殴って、逃げてきた」
「・・・・・・」
「あぁーあ、なんか喉乾いちゃった」
「裕ちゃんがおごったるからなぁー」
「マジ?やったぁ」
ほんとになんでもない様子で
歩いていってしまう矢口。
なんていうタフさ。
でも、それぐらいの根性が
この街には合ってるのかもしれない。
だって、この街は眠らない街・・・・・・
其の四 終了
其の四 ガングロギャルと天才的美少女
「やった!」
「おぉ!!」
今までクリアした事なかったステージを高得点で
パスして、思わず矢口に抱きつく安倍。
「おー、すごいやん」
見てた中澤や彩も賞賛の拍手を送る。
「見て!福ちゃん!!」
「あぁ、はいはい」
対応に困って苦笑している明日香。
安倍はしっかりと両手を握りしめて、飛び跳ねてる。
「いやぁー、これもね、まりっぺのおか・・・・・・?」
矢口は分かち合った喜びはどこに
入り口の方を凝視してる。
「どしたん、矢口?」
みんなつられて、そっちを見る。
真っ黒な顔に白いアイメイクにリップのガングロギャル。
金髪の髪、アクセサリーをいっぱいつけて
めちゃめちゃ厚底で歩いてる。
「いいなぁ、ガングロ」
「ダメ!」
「あかん!!」
同時に叫んだのは、言うまでもなく安倍と中澤である。
「なんでさぁーー」
「あんな格好、お母さん泣くべさぁ・・・・・・」
「うちのかわいい矢口があんななってもうたら
裕子生きてけない・・・・・・」
「知るかよ!」
矢口がたったか走っていってしまう。
しょぼんとする2人をあやすのは、彩の役目。
で、矢口の方はというと
「はぁーーーい!」
「はぁーーい。」
「ちょーかわいいね、メイク!」
「マジ?あんがと。ちっちゃくて、かわいーね。」
「へへっ、うち、マリね」
「私、マキ」
「マキちゃんかぁー。
プリクラ交換しないー?」
「いいよいいよー」
女子高生の名刺交換ってな具合で
見事ガングロギャルに接触を計った模様。
その様子を見ながら、福田は市井の隣に座る。
0コンマ数秒の世界で相手の攻撃を避けていく格闘技ゲーム。
「明日香もやってみたら?」
「なにが?」
「ガングロ」
「似合うわけないじゃん」
「ルーズですら履かないもんなぁ」
「そうだよ」
画面にWINNERの文字。
Wingsの近くのクラブの前には
マキのような格好の女の子と
それにピッタリのギャル男や
B-BOYの連中でごった返している。
マキも店前の石段に腰掛け
さっき矢口から貰ったプリクラを貼ったりする。
ミニスカートからは日焼けの太股が伸び
その奥のショーツもまさに見えんかの勢い。
手帳の表紙には、ジャニーズJr.の一番人気の子の写真。
タッキーが息子とまで呼ぶほど可愛がってる子で顔も似ている。
Jr.って年でもないのに、デビューできないで
少年らしさを失ってくるタッキーファンが
その子に移ってたりするから皮肉なもんだ。
「遊ぼー?」
軽そうな男達。
「あー、ごめーん。待ち合わせなんだ」
「そっかぁ。よくいるの?」
「うん」
「すげぇかわいいよ」
「あんがと」
去っていく彼等。
メインストリートだからまだいい。
1本奥に入れば、売春なんて当たり前だ。
マキはガングロギャルの格好をしてるものの
身持ちはよくて、あまりあの類いの誘いには乗らない。
遠くから友達が来てるのが見える。
立ち上がり、お尻をほろう。
その足で近くのマックへ。
「いらっしゃいませー」
今日はよりによって怖そうなベテランの人。
なにが怖いって、笑顔が怖い。
無理に作ってる感じの若々しい声もなんかヤダ。
ハンバーガー4つ頼んで夜食は十分。
鞄の中にはピスタチオやら梅こんぶやらも入ってる。
フと店の奥に目をやった。
一角がすごいにぎやかで
その真中に座る子のかざした指は
マキの目に焼き付いた。
スラッと長い指。
顔もまるで人形のように綺麗だった。
その顔でくったくのない笑顔を浮かべてた。
(いいなぁ、美人は)