それから数日、高橋と小川は何も言ってこなかった。
多分あの日安倍さんに叱られた事が予想外にきいていたのだろう。
何時も通りの日々。
一つ違うのはあの日以来安倍さんが更に優しく接してくれていること・・。
そう思ってしまうのは自惚れだろうか?
安倍さんに見つめられるとどきどきしてしまうのは恋なのだろうか?
それともあの日の自分の痴態を思い出して?
考えれば考えるほど判らなくなる・・自分の気持ちなのに・・
「紺野!」
人気の無い楽屋前の廊下で呼び止められて我に返った。
私また思い出してたんだ・・。
「なぁに?またぼーっとしてたの?」
目の前でクスクスと笑うのは、飯田さん。
お人形さんみたいな、美しい笑顔に思わず見とれてしまう・・。
「紺野ー??」
応えない私の私の顔を覗き込みながら飯田さんは再び問い掛けた。
「あ!はい!すみません・・」
「何謝ってんのー?可愛いな紺野は」
飯田さんは何時もの様にふわふわな笑顔を浮かべて私のホッペを触った。
どきん・・
心臓が、鳴った。
あの日以来おかしい私。
誰かが体に触れると、どうしようもない感情になる・・・。
「紺野・・・」
飯田さんの顔が近づいて来た。
ちゅっ・・。
短い音を立てて離れた唇。
びっくりして飯田さんの顔を見上げると
飯田さんはすまなそうな顔をして言った。
「紺野ダメだよ。そんな顔しちゃ・・。我慢、出来なく成るじゃん」