☆☆業務連絡☆☆

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87第2章 言葉で心は伝わらない



「2人とも何してるんれすか?」

不意に辻の声が背後から聞こえる。
「ののっ!どうしたんや?」
その声に、加護が辻の元に駆け寄る。
「コレが、鳴ってたのれす・・・」
辻は、加護に何かを手渡す。

『カオリ?ねぇ、大丈夫??・・・カオ・・リ・・・』

雑音に混じってナッチの声が聞こえる。
「・・・通信機」
そういえば、それを探していたんだった。
「加護、ちょっとそれ貸して」
私は、加護から通信機をうけとると、周波数をあわせるようにダイヤルを回す。

「ナッチ、聞こえる?」
『・・・カオリっ!?よかった、何があったべさ?今、どこ??
 みんな心配してるんだべ・・・』
ナッチは、本当に心配していたのだろう。そう、一気にまくしたてる。
「実は、がけから落っこちちゃって・・・」
『ハァ??』
ナッチの呆れた声が聞こえる。
無理もない。
「で、山に住んでる人にお世話になってる」
『・・・・』
ナッチの呆れきった顔が目に浮かぶ。
「ねぇ、ナッチ?」
『あっ、ゴメン。つい・・・崖から落ちたカオリ想像しちゃって・・・』
ナッチは、笑いをこらえているみたいだ。
全く、ナッチは失礼な子だ。
『それで、カオリ、現在地は分かってるの??』
「あっ、現在地・・・ちょっと交信してみる」
っていうのは、カオリとナッチにしか通じない冗談で・・・
ちゃんと、小型の電子レーダーで現在地をチェックする。
それにしても、いつもならこんなことはすぐ気づくのに
何から何まで忘れてた自分が不思議だ。

(居心地がよかったからかな〜)

「現在地は、N−04−016みたい」
『了解っ!!明日の朝、迎えに行くから』
「うん、よろしくね」
『じゃ・・・』

ブツッと通信が切れる。
私は、ふーっと一息ついた。
安心した・・・やっぱり助けが来てくれる
88第2章 言葉で心は伝わらない:02/01/06 01:58 ID:YPLYucHU

「・・・いいらさん」
「ん?」
辻がカオリの服の袖を引っ張る。
ナッチとの通信に夢中になって2人の存在をすっかり忘れていた。
「出ていっちゃうんれすか?」
私と、ナッチの会話が聞こえていたらしい。
辻は泣きそうな顔で私を見上げている。
加護は、そんな辻の背中をしっかり支えるように立っている。
「・・・うん、明日の朝、迎えが来てくれるって」
「・・・そう・・・れすか」
カオリの言葉に、辻が本当に沈んだ声を出す。
「しゃーないやん、のの。飯田さんには飯田さんの仕事があるんやから」
加護が慰めるように辻の肩を叩く。

「れも・・・寂しいれす」
辻が私に泣きながら抱き付いてくる。

「いいらさんは、寂しくないれすか?」
「つ、辻・・・」


カオリだって寂しいよ・・・
そう言おうとして、口をつぐむ。


そんなわけない。だって知り合ってまだ半日だよ。
そう自分に言い聞かせる・・・でも・・・あたたかい
・・・誰からも与えられなかったぬくもり。
それが今、ココにある・・・


「ゴメンね・・・辻。ゴメン・・・」
カオリは、なんかよく分かんないけどすごく辻に対して
申し訳なさでいっぱいになっちゃって、辻を抱き締めたまま泣きながら謝っていた。
89第2章 言葉で心は伝わらない:02/01/06 01:59 ID:YPLYucHU



「・・・ホナ、もう寝ましょうか」

私たちが泣きやむと同時に加護がポツリと呟く。
その顔は、無理して笑っているようにも見える。

「加護・・・」
カオリの呼びかけを無視して、加護は家に入っていく。
辻も加護の後を追いかけるようにつづく。
カオリは、1人取り残された気分になる。

(−−行かないで・・・)

その気持ちに気づきハッとする。
どうしてあの2人にそんなこと・・・
もうやめよう。
カオリは、明日、日常に戻るんだから−−
そうだよ、ここはちょっと迷い込んでしまった異世界なんだよ
元に戻れば、すぐに忘れちゃう・・・よね?


夜は、静かに更けていった。
90第2章 言葉で心は伝わらない:02/01/06 17:12 ID:kXgTBjgy



次の日、大きな音を響かせながらヘリから縄梯子が降りてくる。
その一番上で、ナッチが手を振って待っている姿が見える。

「カオリー!!早く昇っておいでー」
私は、ナッチを見上げながら頷く。
嬉しいはずなのに気分は憂鬱・・・どうしてかな?
そう思いながらも、縄梯子に足をかける。

加護と辻は、見送ってくれない・・・
迷いを断ち切るようにどんどん足を進める。

「おかえりー」
ナッチが笑顔で迎えてくれる。
でも、カオリの気持ちは変わらない。
心にポッカリ穴が空いちゃった気分。

寂しいよ・・・

2人といたときは、そんなこと感じなかったのに
カオリ、また寂しくなっちゃうよ・・・

「じゃ、さっさと行かないとね、こんなとこで敵さんにみつかったら
 速攻やられちゃうべ」
ナッチが何かを言っているが聞こえない。
へりが動きだす。
その時、カオリの瞳に小さな2つの影が映る。

「辻・・・加護・・・!?」

小さくなっていく2人の家の玄関先に、辻と加護が立っていた。
必死に私の名前を呼んでいる。
91第2章 言葉で心は伝わらない:02/01/06 17:13 ID:kXgTBjgy

「・・・めて」
無意識に言葉が出る。
「え?」
「止めてってば!!」
私は、思わず叫ぶ。
「ちょっ、なに言ってるべ、カオリ??」
「いいから、お願い。カオリをおろしてよ」
カオリは、へりのドアのところまで動く。
「ムリだべっ」
ナッチは、おろおろしている。
「・・・もう、いいっ!!」
「えっ!?」
さっき下見たけど、この高さなら問題ない。
こんなことしてる間に、あの子たちが離れていっちゃう。

「ディアーーーーーッ!!!」

カオリは、ヘリコプターのドアから飛び降りた。
ナッチのすごい悲鳴が遠くで聞こえた気がした。