☆☆業務連絡☆☆

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35第一章 GIRL MEETS GIRLS



中は、ゴミの山とでも言いたくなるような事務所やった。
壁のいたるところに貼ってある思想家のポスター。
ここはいわゆる宗教団体の広報活動用の出版社なのだ。
男4,5人、女2人が、ちょうど本とチラシの山の中で仕事をしていたが、
うちらが入ってくると、唖然とした表情で動いていた手を止めた。

「ー何だ、アンタらは?」
責任者らしいハゲのオッサンが、
不愉快そうに顔をしかめながら立ち上がった。
「政府からの退去命令です。ココは認可されてへん宗教団体や。
 今すぐ出てってもらえまへんか」
うちは、事務的に言うた。
「何だと?」
「出ていけへんのやったら、アンタらは政府への反抗精神を
 持つもんとみなして処分します」
「おいっ!!オレらは仕事中だぞ。冗談のつもりならー」
食ってかかりそうな剣幕の男の腕を、横のデスクにいた女の子がつかんだ。
「お父さん、ANGELよ」
耳元で囁くように言う。
男をお父さんと呼んだっちゅーことはどうやら娘らしい。
まだ10代なんやろう。気弱そうな顔をしている。
36第一章 GIRL MEETS GIRLS:01/12/28 23:13 ID:k1giCVh4

「ん?そうか、貴様たちがANGELか」
男には、いっこうにひるんだ様子もない。
「ふざけた真似しやがる。オレたちはなお前らの軍国主義なんぞ
 うけいれるつもりはないっ!分かったらさっさと出ていけっ!!!」
「あのな〜、おっさんー」
「分かりました、そんなに向こうに行きたいんですね」
ウチの言葉を遮ってなっちが静かに言う。
「なんだと・・・」
男は、その様子に何か感じたようだった。
うわずった声で虚勢を張っている。
「今から十秒だけ待ちます。
 それまでに退去していただかなければ処分を開始します」
なっちは、そう微笑みながら全体を見回す。
サッと緊張の色が、全員の顔にはしる。

「10・・・9・・・8・・・」
なっちは、歌うようなリズムでカウントを始める。
ガタンという音と共に女が飛び出していく。
そして、それをかわきりに男たちも次々とペンを放り出して走っていく。

もう、逃げてもムダなんやけどな。
ウチらは、少しでも従わへんかったヤツらには容赦せんのや。
せやないとしめしがつかへんからな。
最初の忠告で逃げといたら、少しは見逃してやったのにな・・・

「お前も逃げろ」
男が隣で青ざめている娘に呟く。
「イヤ、私、お父さんと一緒に・・・」
「いいから、行けっ!!オレはオレの信念を貫く。
 お前には、お前の道があるはずだ。逃げろっ!!!」
男にそう突き飛ばされ、娘はよろめきながらウチらの横を通り抜ける。

「・・・3・・・2・・・1・・・0!!サヨナラ」

ドンッ!!!!

予告通りになっちの銃が火を吹き、男はもんどりうって倒れる。
いつもながらのことだがその冷徹さに背筋が凍る。
しかし、以前やったら・・・と、隣に立っているカオリを見る。
カオリは、なんともいえへん表情でナッチの後ろ姿を見ている。
(以前やったら、この仕事はカオリの仕事でもあったはずやのにな)

「それじゃ、はじめよっか後始末」
なっちがうちらを振り返る。
たった今、人1人を撃ち殺したようには見えない笑顔。
ウチはうなずきながらも、
この子を敵にまわさんでよかったと、心底、思うた。
37ねぇ、名乗って:01/12/28 23:53 ID:tv25GpOy
sage
38第一章 GIRL MEETS GIRLS :01/12/29 03:20 ID:nXYZghDj



その少し前、外にいる吉澤と後藤は逃げ出してきた男女を捕まえていた。

まったく性格悪いよな
助かったと思わせておいて、結局、連行するんだから
あたしは、そう思いながら地面を蹴る。

「これで終わりかな〜、よっすぃ〜」
ごっちんが捕まえた男女をジープに押し込みながら言う。
「みたいだね・・・」
そう言った瞬間、ドアからか細いシルエットが飛び出してきた。
多分、年は一緒くらいの女の子だ。
その時、微かにビルの中から銃声が聞こえたような気がした。

「よっすぃ〜、つかまえてっ!!」
ごっちんが叫ぶ。
あたしは、少女の前に両手を広げて立ちはだかった。
少女は、そんなあたしに思い切りぶつかる。
その衝撃であたしたちは後ろ向きに倒れた。

「・・・イタタタタ・・・大・・丈夫?」
あたしが、同じように倒れた少女の方を見ると少女の顔は涙で濡れている。
でも、すぐさま立ち上がり
「ゴメンなさい」とかすれた声で言いながら逃げようとする。

「えっ!?」

(今の声って・・・)
聞き覚えがあった。
あの甲高くてちょっと昔のアニメっぽい声。
39第一章 GIRL MEETS GIRLS:01/12/29 03:21 ID:nXYZghDj

「梨華ちゃん!?」
気づくと、あたしは少女の背中に呼びかけていた。
「・・・ひ・・とみ・・ちゃん?」
少女は、突然名前を呼ばれて驚いたみたいだった。
ビクッと反応した後に、涙を拭いゆっくりと振り向く。
その少女は、あたしがかって性別をこえて恋心を抱いていた
幼なじみの石川梨華その人だった。

「やっぱり、梨華ちゃんだ・・・」
あたしは、嬉しさのあまり梨華ちゃんに抱き付こうと近づくと
梨華ちゃんは、震えながら小型の拳銃を取り出す。
「り、梨華ちゃん!?」
「・・・近寄らないで、私、つかまりたくないの」
梨華ちゃんの声も震えている。
「・・・分かってるよ。安全なところまで連れてってあげる」
「え?」

本心だった。
初恋の人・・・それ以上に大切な人。
こんなところで捕まらせるわけにはいかない。
あたしの中に、妙な使命感が湧いてくる。

「・・・でも」
梨華ちゃんは、チラリと私の後ろにあるジープに目線を動かす。
ジープの横には、ごっちんが立っていた。
40第一章 GIRL MEETS GIRLS:01/12/29 03:23 ID:nXYZghDj

(しまったっ!!)
あたしは、ついごっちんの存在を忘れて反逆罪に問われても
仕方のないことを口走っていたことに気づく。
振り返ったあたしの顔は、多分、ものすごく情けない顔だったろう。

「あ、あのさー、ごっちん」
「いいよ」
「へ?」
予想外の言葉がごっちんから出てきた。
「その子、安全なところまで送れば。
 上の人たちには、ちゃんと誤魔化しておくから」
いともあっさりとそんなことまで言う。
「いいの?」
あたしは念のためもう一度確認する。
「ホラ〜早く連れてってあげなよ〜」
ごっちんは、いつものようにのんびりとした口調で促す。
「う、うん」

あたしは、ビルの入口を見つめる梨華ちゃんの手を
おそるおそる握って走り出した。

「全く、世話が焼ける」
残された後藤は、苦々しそうに呟いた。
41ねぇ、名乗って:01/12/29 15:03 ID:03jipmCz
長いな、一章
42ねぇ、名乗って:01/12/29 15:05 ID:03jipmCz
スマソ、ageちまった。
逝ってくる
43第一章 GIRL MEETS GIRLS :01/12/29 16:13 ID:sN0mJwFe



どれくらい走ったんだろう。
ひとみちゃんは、しっかりと私の手を握ってくれている。
私は、その背中を見つめる。

5年ぶりに会うんだっけ・・・
あの頃は、ひとみちゃんのほうが身長低かったし
私がひとみちゃんの手を引っ張ってあげてたのにな。
いつのまにか、逆になっちゃったんだね。
ねぇ、ひとみちゃん・・・
ひとみちゃんは、あの時の約束覚えてくれてるのかな
44第一章 GIRL MEETS GIRLS:01/12/29 16:14 ID:sN0mJwFe

手が離れる。

「ココ入って」
ひとみちゃんが、マンホールの蓋を手で支えながら言う。
「え?」
「大丈夫だから、早く」
私の不安そうな顔に気づいたのか、
ひとみちゃんは私を安心させるように笑顔を見せる。
私は、頷いて仄暗い地下へと続くはしごに足をかける。
マンホールの下は、思ったよりも明るかった。
私が下につくのを確認してから、ひとみちゃんが降りてくる。

「ここまで来たらひとまず大丈夫だね」
あの頃と変わらない優しい笑顔。
思えば、あの頃も肝心なところではひとみちゃんに守られていた。
いつも私を肯定してくれてた。
私は、そんなひとみちゃんのことが好きだったんだよ・・・でも

(・・・でも、今のひとみちゃんはANGELなんだ)

ANGEL−たったそれだけで今の私を彼女から遠ざけるのには十分だ。
お父さんを殺した集団。・・・・・・だから、許せないよ