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砂上の城は崩れ落ち
諸々の咎は消え失せる―――
その時、人は其処になにを見るのだろうか・・・
1
――あの爆発・・・
あたし以外に、保田博士の手術を受けた人がいたんだろうか
そして――――
あたしは、すさまじい爆発音を響かせたビルを見上げる。
と、同時にビルの上部から、もうもうと立ち上がる煙と焦げ付く匂いが
空気中に広まっていく。あちこちから軍部の人間が這い出ている。
それは、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
けが人も大勢いる。
助けたい衝動に駆られるが、それよりも今は、自分の目指す場所へ
行かなければならない。
あたしは、その人ごみをかき分けて官邸へと走る。
もう総会は終わっているはずだ。
そして、つんくはそのまま官邸にひとまず体を落ち着かせる。
だから、チャンスは今しかないだろう。
これを逃すと、またつんくの姿をとらえるのに何ヶ月も費やさねばならない。
あたしは、走る足を早める。
官邸の警備はANGELの本部ビルの爆破に混乱しているのか、
その中は、1人の警備兵も見あたらない手薄な状態になっていた。
官邸はすごく単純な作りになっている。
だから、少しも迷うことなくココまで来れた。
目前にあるつんくの部屋。
ここに来るために、一体、あたしは、なにを捨ててきたんだろう・・・
意外にもシンプルな扉にあたしは手をかける。
これで・・・全て終わらせる。
あたしは、固い決意と共にその扉をあけた。
2
「よう、来たなー」
あたしの耳にまずそんな場違いな台詞が入ってきた。
視界にはたくさんのものものしい銃口。
その全ては、侵入者であるあたしに向けられている。
官邸内の警備員は、ここに集結させられていたようだ。
そして、大きなガラス窓と、簡易的な作りのシステムデスクとPCだけの閑散とした部屋。
国のトップの部屋だから、すごく豪華なものを想像していたが・・・
あまりに殺風景なその部屋に、つんくはゆったりと座っていた。
入隊式の時に一度見た限りの姿――
その傷んだ金髪も色つきのグラサンも同じだった。
「・・・・・・」
あたしが一歩を踏み出そうとすると、兵士たちが一斉に引き金に手をかける。
やはり、近づかせるつもりはないのか・・・
まぁ、それでもいいんだけどね、こっちは――
「まぁ、待ちや」
つんくの言葉に兵士たちは、一糸乱れることなく銃を下ろす。
「見たとこ丸腰や・・・なんか変な動きするまでなんもせんでええ」
あたしは、兵士たちを見回してからつんくに近づいた。
「なんか話があるんやろ?」
つんくは、あたしを見て薄く笑った。