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「・・・なんで、矢口がここにおんねん」
裕ちゃんの目が大きく見開かれる。
数秒間の沈黙。
あたしは、裕ちゃんを見据える。
裕ちゃんは、口を少しだけ開けて息を吐いた。
彼女が急いで精神をコントロールしていることが分かる。
昔、あたしにも教えてくれたことがあった。
突発的な事故に遭遇しても、動揺を続けてはダメだと・・・
裕ちゃんにとって、今、あたしがここにいることは予測不可能な
突発的な出来事なんだろう。
「・・・なにしにきたんや?」
うってかわった冷静な口調。
さすがだね、その精神力。
「裕ちゃんに会いに来たんだよ」
「そうか」
裕ちゃんは、呟く。
そうかって・・・それだけ?
・・・そうだよね、裕ちゃんは、あの時、あたしを捨てたんだもん。
そんなもんだよね。
あたしは、記憶の底の彼女の背中を思い出す。
当時、彼女はフォース01の隊長として活躍していた。
あたしは、その頃よくいた戦災孤児ってヤツで、いろいろひどいめにも
あいながら、それでも必死で生き延びてたんだ。
そして、彼女があたしを拾った。
それが気まぐれや同情だったのかなんてあたしには分からない。
でも、その日から、全てが変わったんだ。
あたしの考え方も生活も全て
彼女は、あたしに笑顔を教えてくれた。
彼女は、あたしに涙を教えてくれた。
彼女は、あたしに温もりを教えてくれた。
それまで、そんなこと考えるヒマのなかったあたしに
――――愛を、教えてくれた。
なのに・・・なのに・・・・・・
あたしは、裕ちゃんを睨み付ける。
裕ちゃんは――
あたしを裏切った――――