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外では、兵士がバタバタとせわしなく走りまわる足音が響く中、
市井ちゃんは、のんきにコーヒーなんかを入れていた。
「はい、後藤」
あたしの前にマグカップが置かれる。
「ありがと〜」
あたしも素直にそれを受け取る。
っていうか、本当に夢じゃないよね?
さっきギュッてしたらあたたかかったし・・・
「・・・なに?」
市井ちゃんが、あたしの視線に気づく。
「市井ちゃん」
名前を呼んでみる。
「ん?」
市井ちゃんが、あたしを見つめる。
「市井ちゃん・・・」
もう一度、呼んでみる。
「・・・はい」
市井ちゃんは、微笑む。
懐かしい笑顔。
やっぱり本物だ・・・
「・・・バカッ!
なんで、迎えに来るのがこんなに遅かったの?」
「・・・・・・ゴメン」
ふわっと市井ちゃんの手が、あたしの髪に優しく触れる。
それから市井ちゃんは、今までのことをゆっくり話してくれた。
記憶喪失・・・・・・
じゃぁ、仕方ないよね〜迎えに来るの遅くなっても・・・
んっ?
ってゆーか、つまり、市井ちゃん、あたしのこと忘れてたのっ!?
それは、許せないっ
あたしが、こんなにこんなにこんなに思ってたのにから
「な、なに?怖いって、後藤」
あたしは、無意識に市井ちゃんをにらみつけていたらしい。
市井ちゃんは、ちょっと困ったように言う。
「だってさ、市井ちゃん、あたしのこと忘れてたんでしょ?」
つい、いじけた口調になる。
「忘れてないよっ」
「だって、忘れてたじゃんっ!」
あたしは、ムキになる。
「忘れてないって」
「ウソばっかりー」
「ウソじゃないよっ!!」
市井ちゃんも、ムキになる。
すぐムキになるとこはお互い変わってないね〜
・・・ってケンカしてる場合じゃないのにな〜
「あたしの中には、いつも後藤がいたよ」
何回かおんなじことを言い合った後、いつのまにか市井ちゃんが、
あたしをふわっと抱き締めてくれた。
怒りが、急速にさめていく。
こ、これは、反則ですぞーっ
こんなことされたら、怒れないじゃん、も〜
「・・・一緒に帰ろ」
耳元で市井ちゃんが低く囁く。
「・・・・・・うん」
あたしは、うなづく。
あたしは、市井ちゃんを待っていた。
ANGELにいたら、他の部隊と違って、イヤでも報道機関にさらされるから
市井ちゃんが、どこにいてもあたしのこと迎えに来てくれると思ってた。
そして、市井ちゃんはあたしを迎えに来てくれた。
だから、もうココにいる意味はない。
あたしの前には、市井ちゃんの背中。
あたしは、それをずっと追いかけるからね