1
中澤さんが、よっすぃ〜の部屋から聞こえた銃声にドアを蹴り破ると
銃を持ってぼんやりと立ちつくすよっすぃ〜と胸を打ち抜かれて死んでいる
石川梨華の姿が眼に入った。
「・・・どーゆーことや、吉澤っ!!」
「逃亡を企てたので射殺しました」
興奮する中澤さんとは対照的なよっすぃ〜の態度。
その目は、ウサギのように赤く充血している。
中澤さんは、それに気づいたのか、一瞬、押し黙り、それから
「・・・もう、ええ、死体片づけときや」
とだけ言うと、くるっときびすを返して自分の部屋へと戻っていった。
あたしは、生気のないよっすぃ〜と死体のある部屋に取り残されてしまった。
「・・・へ、部屋、移んない?空いてるとこいっぱいあるし・・・」
死体なんて片づけたくもない。
かといって、このままこの部屋にいるのもなんとなく気分のいいもんじゃない。
だから、そう提案した。
よっすぃ〜は、聞いているのかいないのか、なにも答えてくれない。
「ホラ〜っ」
あたしは死体を避けてよっすぃ〜の元へ行き、その腕を引っ張って
部屋からムリヤリ連れ出した。
2
私と矢口は、今まさにANGELのビルを登っていた。
裏ルートは、この前、圭ちゃんが連れて帰った加護ちゃんが教えてくれたらしい。
そこを通れば、簡単に中に入れると---。
「・・・サヤカは、なんか目的あんの?」
狭いダクトで、私の前を匍匐前進で進んでいた矢口が、ふと思いたったように言う。
---目的。
なんだろう?
あの子を見つけて・・・私は、どうしたいんだろうか?
記憶が戻る保証もない
それに、あの子が私のことを知らなかったら・・・・・・
----考え出したらキリがなくなってきた。
「・・・や、矢口は?」
私は、誤魔化すように逆に問いかけてみる。
確か、矢口もいつのまにか圭ちゃんが面倒みてたんだよな。
それも私や他の子と違って、やけに圭ちゃんが優しかったような・・・
って、まあそれはいいんだけど----
「--あたし?あたしは、会いたい人がいるの」
そう答えた矢口の顔は笑っていたけど、なんだか胸中穏やかじゃなさそうな
そんな曖昧な表情をしていた。
「そういえば・・・そっか・・・じゃぁ、あれだね〜うん」
矢口は、なにかを呟きながら1人で納得したようにうなづいている。
「どしたの?」
私は、ぶつぶつと言っている矢口が不思議で聞いてみる。
「ハイ、これっ」
「へ?なに、コレ??」
矢口が、にこやかに手渡してきたのは、この入り組んだダクトの地図みたいだ。
----ってことは・・・どうゆうこと????
「あたしと、サヤカの目的は違うみたいだから、ここから別行動にしよっ」
「えーっ・・・モガモガ」
驚いて叫ぼうとした私の口を矢口の小さな掌が塞ぐ。
・・・それにしても、いつの間に体をこっちに向けたんだ、矢口??
小さいってこうゆう時は、便利だな・・・
私は、のんきにそんなことを思った。
「静かにしてよ、サヤカ。見つかっちゃうじゃん」
矢口が、小声で怒る。
「プハッ・・・ゴメン」
やっと、矢口の掌から解放された私は素直に謝る。
「・・・ってか、私、方向音痴なんだけど」
私の一番の心配はそれだった。
必ずと言っていいほど道に迷う私が、こんな入り組んだダクトを突破できるわけがない。
「・・・大丈夫だって、これだけ詳しく書いてあるんだよっ。迷うわけないジャン」
多分、情けない顔をしている私に、矢口は説得力があるようでないような言葉をかける。
そんな矢口の妙な自信に、なんとなく私も「そうかな」と思ってしまう。
「それじゃ、あたしは行くけど、もしあたしが帰って来なくても泣くなよー」
そう早口で言うと、矢口はT字に分かれたダクトを右に曲がる。
「えっ!?」
まさか、矢口・・・死ぬ気っ?
私は、矢口の後ろ姿を見つめる。
その時、「達者でな〜、サヤカー」と、矢口のマヌケな声が聞こえた。
矢口は、最後までアホだった・・・
・・・じゃなくてぇっ、そういえば私、あの子がどこにいるかも分かんないのに
---まぁ、ココで考えてても始まらないか。
この個室だらけのところまで行ってみるか。
私は、矢口とは反対にダクトを左に進んだ。
224 :
!:02/01/26 11:40 ID:sN+g7F5T
age
3
「あのさ〜、いい加減にしてくんない?」
新しい部屋に連れてきたはいいものの、よっすぃ〜はなにも話そうとしない。
っつーか、屍状態ってやつ
----あたしは、いい加減むかついていた。
「だいたい、こんななるならあんなことしなきゃいいじゃんっ!!
ってか、なんであんなことしたわけ??後藤、ワケ分かんないんだけどー」
「・・・・・・」
はいっ、ムシっすか・・・ふ〜ん、そ〜いうことするわけ・・・
まったく--なんであたしが気使ってあげなきゃいけないんだろ
そんなの、ガラじゃないし
なんで、よっすぃ〜があの子を殺したのかも分かんないし・・・
どうせなら、一緒に死ぬとかしてたら少しは理解できるんだけどね
・・・あーっ、段々、マジむかついてきたっ!!
「・・・そんなに死んだフリしたいんなら、あたしが殺してあげるよ」
あたしは、銃を取り出した。
4
ごっちんが、銃の安全装置をはずす音が聞こえた。
(----それもいいかもしれない)
あたしは、そう思った。
梨華ちゃんの願いとはいえ、あたしのこの手が梨華ちゃんを殺したことに変わりはない。
もう・・・動く気力がないよ。
「反応しないの?」
ごっちんのイライラした声が飛んでくる。
「・・・まあ、いいけどさ〜」
ごっちんは、銃を手に持ったまま髪を触る。
早く殺してよ・・・
梨華ちゃんと約束したから、自分では死ねないんだよ・・・・・・
「なんで、よっすぃ〜みたいなやつに命賭けたんだろうね、あの子・・・」
ごっちんが、なにかを思い出すようにポツリと呟く。
「あたしさ〜言い忘れてたけど、朝、あの子と話したんだよね」
----知ってるよ、梨華ちゃんが言ってた。
「で、なんで逃げなかったのって聞いたんだけど・・・なんて答えたと思う?」
----え?
そんな話、梨華ちゃんから聞いてないよ??
反射的にごっちんに焦点を合わせる。
「よっすぃ〜に社会を変えてほしいからだって・・・笑っちゃうよね。
でも、マジだった・・・まぁ、いまのよっすぃ〜見たらガッカリするだろうね、きっと」
ごっちんは、あたしを睨み付ける。
---あたしに社会を変えてほしい?
そんなのっ、あたし・・・あたし、梨華ちゃんの気持ち分かってなかった?
梨華ちゃん、知ってたんだ・・・気づいてたんだ・・・
あたしが、そのためにANGELにいること・・・
それなのに・・・こんなとこで立ち止まってたらダメじゃん・・・・・
「・・・フッ・・ハハっアハハ・・・」
自分の馬鹿さかげんに笑いがこみあげてくる。
分かったよ、梨華ちゃん
全て、終わらせる----------
5
・・・たっくもうっ、なんなんだよーっ!
最後の最後で行き止まりかいっ!
あたしは、ダクトの中で1人ツッコミをしていた。
床のすき間から、目的の部屋らしき扉が見える。
警備は、1人・・・2人・・・廊下の先にも2人で、4人か・・・
バッと降りて、扉に鍵かけたらいけるかもね。
『突入は、決断が肝心なんや』
あの人の言葉を思いだす。
(そうだよね、矢口もそう思うよ)
深呼吸をする。
・・1
・・・2
・・・・3っ!!
あたしは、床を蹴って飛び降りた。
ドンッ!!
銃を撃つ、撃つ、撃つ------
肩に弾けるような衝撃が走る。
あたしは、それでもドアノブに手を伸ばす。
ドンっ
足に弾が当たる。
撃ち返す。
相手が倒れるのを確認して、
あたしはドアの内側に倒れ込むように入り、内側から鍵をかけた。
あの人は、昔と変わらない金髪をしている。
軍人らしくないよって、言ったことがある。
「なんや、ノックもせんと!」
彼女は、PCの画面から目を逸らさずに言う。
懐かしい声。
まだあたしの姿を視界にとらえていないみたいで・・・
あたしは、ゆっくりと彼女の名前を呼んだ。
「・・・裕、ちゃん・・・」
彼女は、はじかれたように顔を上げる。
「矢・・・口・・・か?」
あたしを呼ぶあたたかな声。
やっと会えたね、裕ちゃん--------